第六話 村へ向けて、まっすぐ帰ろう?
「わきゃ~ん、うえからみると、かわがたくさんあるさ~」
「ですです~」
「なんというか、でかすぎてくらくらするさ~」
「おもしろいさ~」
気絶状態から回復したドワーフちゃんたち、いろいろあきらめた表情で景色を楽しむことに集中だ。
そうそう、細かいこと気にしててもしょうがないからね。
ここらでひとつ、みんなが眺めている町のことを説明しておこう。
「あの川は、運河として使ってたくさん物を運んだりしてたんだよ。船にのせて」
「あえ? フネでものをはこんじゃうです?」
「重いものも、へっちゃらだからね」
「ハナたちのところだと、しずんだらこまるから、あんまやってないです~」
「そうなんだ」
「あい~」
ハナちゃんによれば、エルフィンでは水運はやってないか、主流ではない感じだ。
まあ、大きな海もなければ大河もないからかな?
輸送は主に陸路っぽいね。あと、船が沈んだら困るってのも確かにあるか。
フクロオオカミはとても優秀なキャリアであるだけに、ハイリスクな水運に手を出さずとも良いのかもね。
陸送より高効率な水運や海運だけど、常に沈没による財産消失のリスクがある。
事故に対するリスクが青天井なのがネックで、だからこそ初期投資が膨大だ。
コモンキャリアがまだ確立していないエルフィンでは、ちょっと荷が重い。
そもそも、森同士は川でつながっていないのだから、どのみちフクロオオカミにお手伝いしてもらうのが一番かな。
「……わきゃ? あれはうんがなのさ~?」
そして俺とハナちゃんの話に、偉い人ちゃんが興味を持った。
ドワーフちゃんたちは、大河が縦横無尽に走る星の住人だから、興味が沸いたのかな?
「そうです、運河ですよ。あの川活用しまくって物資をたくさん運び、街をどんどん大きくしていったそうです」
「それは、フネもたくさんあったってことさ~?」
「船なら今でもすさまじい数がありますよ。ここは島なので、船がなければよそから大量の物資を持ってこれないのです」
「フネがたくさんあるのは、うらやましいさ~」
偉い人ちゃん的には、船を活用しているって話が気になるらしい。
たくさんあるという部分に、しっぽをくねくねさせて羨ましがっている。
「おみずがすくないのはこわいけど、へいちがたくさんあるのはすごいさ~」
「うちらのとこ、おみずがあふれないりくち、あんまないさ~」
「ちじょうでは、ゆっくりできないさ~」
ほかの子たちは、陸地が多いって部分に興味を持っているようだ。
そういえばドワーフィンって、いい感じの陸地をあんまりみたことないな。
ドワーフちゃんたちだって、川の中州に住んでいた。
彼女たちの会話でも「流される」とかいうフレーズはたまに出てくる。
……大河の世界だけに、頻繁に冠水が起こるのかな?
「……あえ?」
そうして色々ドワーフィンの環境について考えていると、ハナちゃんこてっと首を傾げた。
どうしたのかな?
「ハナちゃんどうしたの?」
「タイシタイシ~、あっちのちけい、しかくいのはなぜです?」
そう言ってハナちゃんが指さす先は、湾岸だね。
埋め立て造成で作られた土地なので、設計しやすくて計画も立てやすい形になっているわけだ。
あの辺全部埋め立て地だよって教えておこう。
「あの四角いところは、全部人の手で海を埋め立てて造ったんだよ」
「……あえ? うめてつくったです?」
「そうだよ。もっと昔は、海だったところなんだ」
東京の街は、湿地を埋め立てたり海を埋め立てたりしてでっかくなった。
これは地名とかにも良く出ているね。八重洲、豊洲、汐留や青海などなど。
徳川さんと命令されたお殿様たち、そして働いた人たちがとってもがんばった結果だね。
「わ~きゃ? あれって、うめたてちなのさ~?」
そしてまたもや、偉い人ちゃんが興味を持ったわけだ。
なんならここも埋め立て地だよって教えておこう。
「私たちが今いるところも、もとは湿地でしたよ」
「わきゃ? それ、ほんとさ~?」
「ほんとです。埋め立てでなんとかしました。あの空港ってところもそうですよ」
「……こっちのどぼくぎじゅつ、ヤバくないさ~?」
「だいぶヤバいところまで来ている感はありますね」
なにせ、海底トンネルだってお金があれば掘れちゃうからね。
丘陵くらいなら、平らにならすことなんてよく行われている。
その気になれば、大深度地下でリニアを通すとかもやってしまう。
国家が本気になれば、よその惑星の地形を変えたりとかも可能だ。
というか、小惑星にインパクタ撃ち込む予定だからね。
まあ、そうした土木やらいろいろな技術の基礎があってこそ、地上に頑丈な建物も作れるというものだ。
それが良いことなのかは、別として。
「なんでも、やってみるものってことなのさ~?」
「まあそうですね。積み重ねた結果が今ですが、結局のところやってみないことには始まりませんから」
「なるほどさ~」
俺の説明を聞いて、偉い人ちゃんはじっと関東の街並みを見つめた。
この土木技術と建築技術の粋を凝らした街は、彼女の眼にはどう映っているだろうか。
なんにせよ、何かの刺激にはなったかもだね。
そうして、説明も交えながら楽しく天空の塔からみんなで関東を眺める。
まだできて数年のこの観光スポットにて、エルフィン惑星系の人々に楽しいひと時を堪能してもらった。
「けしきがよくて、たのしいです~」
「ハナちゃん、ちたまのおっきな街の景色、堪能できた?」
「あい~! いいおもいでになったです~」
ハナちゃんに問いかけると、キャッキャと両手をあげて楽しさを表現してくれる。
純粋に景色を楽しむ人、ここから見える街並みの成り立ちを考える人、きゃいきゃいと空を飛ぶ人。
みんなそれぞれの楽しみ方で、スカイツリー観光をしたのだった。
「大志さん、ちなみになんで、こんな高い建物を建てちゃったのですか?」
「ハナも、ぎもんにおもったです~」
「ここまでたかいやつ、なんでつくったかきになるさ~」
と思っていたら、ヤナさんからご質問が。
ここまで高い建物、どうして作ったのと。
ハナちゃんや偉い人ちゃんも、興味があるようだ。
まあ、ここまで高くしたのは世界一を狙ったのもある。
ただ、本来の目的はほかにあって――。
「みんなでたまに見るあのテレビ、そこに電波を飛ばすために作ったのですよ」
「あえ? でんぱです?」
「何ですかそれ」
おっと、電波といっても通じないか。
それなら、エルフたちにもよくわかる内容で話そう。
「ほら、前にハナちゃんたちが、ホネホネしたやつで食べてたあれだよ」
「あや! あれです!? おいしいやつです~」
「え!? 食べ物を配ってるんですか!?」
……たとえを間違えたようだ。ハナちゃんとヤナさん、じゅるりとする。
というか、食べ物を配っているわけではなくてですね。
「こんなものを作って食べ物を配るなんて、すごいですね!」
「ちたま、おもしろいです~」
「おおばんぶるまい」
「たべものがそらからふってくるとか、すてき」
あ、ああ……。もうすっかり、エルフたちにはこのタワーが食べ物関連施設に見えてしまっている。
電力はとことん食べ物扱い、そんなエルフたち。
「あややや! たしかにちょびっとだけ、あじがするです~!」
「ほんとだ!」
「のうこうかつ、ふくざつなあじ」
そして空中で口をパクパクさせ、何かを食べ始めるみなさん。
電波出力が強いから、アンテナ無しで食べられるようだ。
意味が分からない。
「でんぱ~でんぱ~、おいしいやつです~」
「おやつたくさんとか、すてき」
「たべほうだい」
ご機嫌で放送電波を食べ始めるみなさんだけど、下界で電波障害起きてないと良いな。
◇
ちたまとうきょうにあるすごい塔の見物を終え、電波も美味しく食べて。
とうとう長野へと帰るフェーズに突入だ。
ほんとなら昨日帰っていたはずだけど、まあ気にしない。
『はいみなさん。これより村へ帰ります』
「「「はーい!」」」
アナウンスをすると、元気にお返事するみなさんだ。
そしてその手には――朝ごはんが携えられている。
スカイツリー観光しているあいだに、業者さんに用意してもらった。
まあハンバーガーやら牛丼やらの、ファーストフードなんだけど。
大勢の食事をさくっと用意できるお店、そこくらいしかないからね。
というわけで楽しくお食事をしながら、一路長野へと向かって走り出す。
今度はC2を走り、五号線を抜けて関越ルートだ。
引き続き、食事をしながら恐怖の首都高をご堪能下さいだね!
「おにく、おいしいです~」
(ちょうとくもり~)
ちらりとミラーに目をやると、ハナちゃんほくほく笑顔で牛丼を食べている。
神輿も超特盛を二つ並べて、キャッキャしているね。
「わきゃ~ん、はんばーがーってやつ、ほくほくのやつがたくさんついてて、うれしいさ~」
「このまるいやつも、おいしいさ~」
「わきゃ~」
偉い人ちゃんを含め、ドワーフちゃんたちはハンバーガーを所望した。
プラス数十円で、ポテトが大増量のやつだね。
彼女たちにとってはポテトがメインぽいけど、それ主役はまるいやつですから。
「ふわふわおだんごだね! なかみがあまいやつだね!」
「ふしぎだね! おいしいね!」
「おもしろおかし~」
妖精さんたちは、菓子パンをもきゅもきゅと食べている。
これはスーパーに行って買ってきたやつ。
妖精さんにとって菓子パンは珍しいお菓子の部類らしく、ご機嫌で大量消費しているね
ちなみにチョココロネとメロンパンが、あとアンパンが大人気だ。
「ギニャ~」
「ぎゃう~」
「クワクワ~」
ちなみに動物ちゃんたちは牛丼屋さんのカレーである。
みんなスプーンを器用につかっていて、すごいなあ。
とまあそんなにぎやかな面々とともに、C2を安全運転で突破だ。
江北ジャンクションを抜け、荒川を渡って足立区に突入。
「また、しかくいたてものだらけです~」
「だいはくりょくさ~」
「すっげえくるまのかず」
「ひともたくさんとか、ふるえる」
車窓に流れるビルや眺めて、来た時と同じようにみなさんはしゃいだりぷるぷるしたりと盛り上がる。
そんな面々を乗せつつ、バスは板橋ジャンクションを通過して首都高五号池袋線へ。
あとは来た時と同じ道のりだ。C3経由で関越へと向かう。
「あや~!」
「わきゃ~ん!」
「こわわわ」
来た時と同じ道に入ったけど、相変わらずのみなさまがた。
そのままバスは突き進み、とうとう埼玉へ突入する。
ありがとう東京、とっても楽しかったよ!
そしてこんにちは、さいたま!
というわけで、でかすぎていつまで走ってもさいたまが終わらないルートに突入。
このへん、長野も人のことを言えたものではないけどね。
よその県の人からすると、なが~のも大概いつまでも終わらないそうだ。
とまあ、それはそれとして。
「みちがひろくなったです~」
「わきゃ~ん、ひとあんしんさ~」
関越に入ると、道が一気に広くなる。
首都高の圧迫感から抜け出したので、乗客のみなさんもほっとした様子だ。
ただ、昼間だけあってかなりの交通量。たまに渋滞したりしながら、じりじりと進んでいく。
「なんだか、くるまたくさんです~」
「こんざつしているさ~?」
「どんだけくるまがあるの……」
「おおすぎてすすめないとか、ふるえる」
渋滞初体験のみなさま、あまりの物量にお目々まんまる。
でもこれ、まだ全然混雑してないほうなのですよ。
ゴールデンウィークとかになったら、ピクリとも進まなくなる。
登りは上里から、下りは上里までだいたい渋滞につかまっちゃうね。
花園インターチェンジから鶴ヶ島ジャンクションまでは、渋滞のメッカだ。
このへんはもう仕方がないね。
アナウンスしておこう。
『みなさま、混雑しておりますが、もうしばらく進んだら休憩となります』
あと三十分もすれば、上里サービスエリア下りに入れる。もうちょい我慢くださいだね。
俺も集中を崩さず、慎重に行こう。
渋滞中が最も神経使うからね。こういう時、適応型オートクルーズがあれば楽ちんなんだけど。
残念ながら旧型中古バスを直したやつなので、搭載されていない。
おまけにマニュアル車なので、クラッチ操作を頻繁にしつつじりじりと進むしかないから結構きつい。
そりゃ、みんなオートマ買うよね。
とまあじりじりと進むこと、三十分ちょっと。
とうとう上里サービスエリアへ到着だ! 長かった~。
『休憩施設に到着いたしました。車に気を付けて、ごゆっくりお過ごしください』
「「「はーい!」」」
渋滞でぐったりの俺とは違い、みなさん元気いっぱい。
わいわいとバスを降りていく。
さてさて、俺もバスから降りて、凝り固まった体をほぐそうか――。
「おつかれ」
「もみます」
「あしつぼ」
ああああああ!
◇
――復活!
強制的に体力ゲージ満タンになったけど、回復したことに変わりはない。
細かいことは気にしないことにしよう。
というわけで、軽やかな足取りで建物へと足を踏み入れる。
みんなは何してるかなっと。
(おそなえもの~)
「ラーメン、おいしいです~」。
「沢山お食べ」
「あい~」
「ハナがラーメンかわいくたべてるところ、しゃしんとっちゃうから!」
「うふ~」
まあ、案の定ラーメン祭りになっていた。
渋滞していたわりには、フードコートはそれほど混雑していない。
昼時から外れた時間だからかな?
「あ、大志さん来られましたか」
「おみやげみてるよ! おみやげ!」
「おかしたくさんだね! たくさん!」
「かったそばから、たべてるけどね! たべちゃう!」
あたりを見回していると、ユキちゃんがこっちにやってきた。
妖精さんたちと一緒に、お土産を見ていたみたいだね。
……まあ、妖精さんたちはお土産を買ったそばから食べているみたいだけど。
それはお土産ではなく、自分用のおやつと言う。
「ははは、このむげんにおちゃがでてくるやつ、かならずあるね」
「とりあえずのんどこう」
「のみほうだいとか、すてき」
「おいしいわ~」
あとホワイトマイスターやマッチョさん、そしてステキさんと腕グキさんは緑茶機で相変わらずガブガブ飲んでいる。
それは無限に出てくるわけじゃなくて、係りの人が補充してるんですよ。
ほどほどにね、ほどほどに。
「わきゃ~ん、みそらーめん、さいこうさ~」
「あじがこくて、いいさ~」
「ぜいたくさ~」
偉い人ちゃんも、ドワーフちゃんたちと一緒に味噌ラーメンを堪能している。
黄緑しっぽをぱたぱた振って、ちゅるりんとおいしそうに食べているね。
まあ、みなさん各々楽しんでいるようだ。
よきかなよきかな。
そうして上里でおもいっきり楽しんだ後は、またバスの旅である。
空いていて快適な上信越道を、ひた走る。
「あや~、もりがふえてきたです~」
「あんしんするわ~」
「帰ってきたって感じ、しますね」
森に慣れ親しんだエルフたち、緑が増えてほっとしたご様子。
ハナちゃんもエルフ耳をぴこぴこさせて、窓から見える自然を見つめているね。
そしてここから先はアップダウン激しい道となる。
下りが長く続く道は、大型車にとって鬼門。道路状況の先を見て計画的な速度管理が求められる。
うかつにフットブレーキ使いまくると、圧縮空気も切れるしフルードが沸騰して効かなくなったりもする。
エンジンブレーキを勾配にあわせ、常に先読みしながら使い慎重に行こう。
空気の残量、シフトダウンできる速度を把握して超えないようにする計画性。
これを管理できないと、大型車を長距離転がせない。
そうして慎重に運転しつつ、走行車線を快調に進んでいく。
しかし甘楽を過ぎたあたりで、無線が入った。
『こちら高橋。突然釜飯が食いたくなった。どうぞ』
高橋さんから、そんな食欲にまみれた通信が。
釜飯と言えば、横川だよね。ちょっくら寄り道するか。
「こちら大志、それじゃあ横川に寄り道しよう。どうぞ」
『こちら志郎、了解した。どうぞ』
『こちら高橋、わがままいってすまん。どうぞ』
ということで、横川サービスエリアで釜飯を食べるイベント勃発。
一時間ほど前に食べたばかりだけど、また食べちゃうよ!
『はいみなさん、これから休憩施設に寄り道して、おいしいご飯を食べますよ』
「あや! おいしいごはんです!?」
「おいしいもの、たべられるんだ!」
「もうふとってるから、こわいものはないわ~」
「ひらきなおったとか、ふるえる」
(おそなえもの~!)
車内にアナウンスすると、食いしん坊のみなさん大喜び。
一部、あきらめの結果開き直った方々も。
そんな面々を引き連れ、横川サービスエリアへ到着だ。
「大志さん、人数分あるそうですよ」
「大勢人が来るところだから、さすがに余裕あるのか」
「おまけに本店がすぐ近くで、持ってこれるそうですよ」
「なるほど」
到着してからユキちゃんが確認してくれたけど、数に余裕はあるようだ。
まあ、一日に数千、数万の人が利用する場所だ。百五十食くらい平気なのだろう。
ということで、釜飯を大人買いしてみんなに配布だ。
「おいしいです~」
「山を眺めながら食べるのも、良いですね」
「ごはんってやつも、いいものさ~」
受け取ると、さっそく食べ始めるみなさん。
釜飯の容器をかかえて、にっこにこだね。
(おいし~)
神輿も釜飯をもぐもぐ食べて元気いっぱい! 三個目だね。
「あ~、うめえ。たまに食いたくなるんだよなこれ」
「お袋もこれが好きで、うちには容器がたくさんあるよ」
「美咲のやつ、全部とっておくんだよなあ」
言いだしっぺの高橋さんも、念願の釜飯が食べられてご満悦だ。
確かに、たまに無性に食べたくなるね。
お袋もそうなのかたまに家族全員分買ってくるので、自宅には釜飯容器がすっごいたまっている。
「あえ? タイシ~、このようきって、おうちにもってかえってもいいやつです?」
そしてハナちゃん、俺たちの話を聞いてお耳がぴここっとなった。
そういえば、容器も料金のうちだって教えてなかったな。
これは持ち帰ってよいと、伝えておこう。
「みなさん、この容器はそのまま持ち帰っていただいて、かまいませんよ」
「まじで」
「もらっていいとか、すてき」
「しょっきがふえるわ~」
「わきゃ~ん、たからものにするさ~!」
(おみやげ~)
持ち帰ってよいと伝えたら、みなさんめっちゃ嬉しそうな顔になった。
まあこれも一つのお土産になるのは確かだからね。
楽しい旅の思い出とともに、これでご飯を炊いてくださいだ。
「わーい! ハナもたからものにするです~」
ハナちゃんも釜飯容器をもらえると聞いて、キャッキャと大喜びだ。
ほっぺにご飯粒を付けた状態で、ぴょんぴょんしている。かわいいなあ。
「おふろにできそうだね! おふろ!」
「おんせんでつかおうね! おんせん!」
「きゃい~」
妖精さんたちは、釜飯容器をお風呂として使うらしい。
彼女たちのようにちいさなちいさな存在は、別の利用法ができるようだ。
ま、まあご利用法はそれぞれかな。
というわけで、楽しく寄り道したあとは。
こんどこそ本当に、村へとまっすぐ帰るよ!
「うふふ~うふふ~。いいものもらっちゃったです~」
「ずっしりくるこのやきもの、いいできなのだ」
「これがもらえちゃうとか、すてき」
バスの車内では、みなさん釜飯容器を大事に大事に抱えて、にこにこ笑顔。
こっちじゃ持て余す容器でも、あっちから見れば価値ある実用品、そして珍しい工芸品だ。
旅の締めくくりに、良い思い出ができたね。
高橋さんの釜飯食べたい衝動のおかげで、素敵な体験をしてもらえた。
よかったよかった。
こうして、楽しい釜飯祭りを終えて一路村へとひた走る。
というか横川まで来ちゃえば、村に最寄のインターチェンジまではそう遠くない。
佐久平を超えしばらく走り、カーブのきつい更埴ジャンクションを突破。
ここから交通量が若干増えるけど、関越道に比べればぜんぜん空いている。
そのまま快適に道を走り、いくつものトンネルをくぐれば――信濃町インターチェンジに到着だ!
とうとう、帰ってきたぞ! とはいえ、村まではもう少し。
そのまま安全運転で行きましょう!
『みなさま、もうすぐ村に到着です。長い長い旅、お疲れさまでした!』
「あとすこしで、おうちです~!」
「たのしかった~!」
「めっちゃあそんだな~!」
「すてきなたびだった」
「ふとりまくったけどね~」
「それはいってはならないの」
もうすぐ到着のアナウンスをすると、バスの中は一気に緩んだ空気に。
そうそう、長旅を終えて家に近づくあの瞬間、すっごい安心する。
そしてまずは、靴下を脱ぐんだ。その瞬間の解放感が、たまらんのだよね。
というわけで、三台のバスは国道を進み、脇道へ入り。
不思議な不思議な領域を抜けて――村へと帰還。
田んぼのある、平地へと到達した。
これにて、長かった沖縄旅行は――終了。
ようやく旅が終わった、瞬間だった。
◇
バスを降りて、みんなで広場に集まる。
ここで終わりを宣言して、解散だ。
「みなさんとの長旅を無事終えられて、うれしく思います。個人的には、とても楽しくて意義ある旅になったと感じています」
「ハナも、とってもたのしかったです~」
「わきゃ~ん、うちもすごく、たのしかったさ~」
締めの言葉を話し始めると、ハナちゃんと偉い人ちゃんキャッキャと答えてくれる。
「めっちゃあそんだ」
「すばらしかったわ~」
「ふとったけど、すてきなたびだった」
「たしかにふとったの……」
「おにくが~」
ほかのみなさんも、にこにこ笑顔だね。
おなかのお肉は、旅の思い出の一つなのでじっくり減らしてください。
「この旅で得た思い出や経験は、きっと何かにつながると思います。みなさん、とても素敵でした」
「うふ~」
「すてきだって! すてきだって!」
「きゃい~」
「いろんなものがみられて、よいけいけんになったさ~」
「べんきょうになったさ~」
みんながいたからこそ、楽しい旅、素敵な旅になった。
かけがえのない財産だと思う。引き続き、この関係を大事にしていきたい。
あと、すっごい楽しかったから、またみんなでどこかに行きたいね。
「また機会がありましたら、一緒に旅をしましょう。それではみなさま、お疲れさまでした!」
「「「わー!」」」
あまり長くなってもアレなので、この辺で締めくくることにする。
みなさんわーわーパチパチと拍手してくれて、大盛り上がりだ。
そしてこの挨拶を持って、今回の楽しい沖縄旅行は、終わりを告げた。
今日はまだ旅行にひたって、明日から日常に戻ろう。
みんなが暮らす、この長野で。




