第五話 そびえたつすごいやつ
翌朝、ぐっすり寝たおかげですっきりだ。
もっとすっきりするため、朝風呂としゃれこもうかな!
「やあみんな、さわやかなあさだね」
「しろい」
「あかるいところでみると、おもってたよりしろい」
「それな」
きれいなマイスターホワイトさんも、さわやかに起床。
確かにお日様の明かりのもとで改めて見てみると、思ってたより白くなってる。
ほんとこれ、どうしようね。
「あら? このしろいひと、どなたかしら~?」
「しろくなってるとか、ふるえる」
わいわいやっているうちに、女子のみなさんも起きてきたようだ。
さっそくホワイトマイスターをみて、ステキさんぷるぷる。
「……まあ、村に帰ったらそのうち戻ると思います」
「そだな」
「へんなもんくわなすぎても、だめなんだなこいつ」
「きれいすぎたのだ」
ちたまにっぽんは、食べ物にはかなりピリピリしてるからね。
添加物や農薬とかいろいろ言われるけど、あっという間に代謝されちゃうレベルでしか使用を認められていない。
ぶっちゃけ昔に比べると、ポイズンに触れる機会とか激減しているわけでして。
それもこれも、昭和の時代にいろいろあったのが原因で規制強化されたのだけど。
先人たちのおかげだね。
最近だと、全然カビが生えないパンはおかしい!
と話題になってよくよく調べてみたら、衛生管理が超すごくて添加剤無しで実現してた。
袋を開けなければカビなぞ生える余地もないほどクリーン、とかとんでもないことになっている。
クリーンルームみたいな工場で量産するからこそ、可能なのだけど。
そんな環境にいるから、マイスターに必要なポイズンも不足してしまったのだろう。
まあ村に帰れば、彼が大好きな「うまそう」に見えるアレするやつがたくさんだ。
速攻元に戻ると思う。
「というわけで、彼が毒なさすぎで消滅しないよう気を付けながら、朝風呂と行きますか」
「そうしましょう」
「おふろ~」
「あったまるわよ~」
ということで、ホワイトニングマイスターの件は、要経過観察という実質放置にて対処となった。
めでたしめでたし。
と、マイスターホワイト問題を放置したところで。
「お、おはようございます……」
ユキちゃんも起きてきた。ふらふらしているね。
なんだか軽く二日酔いっぽいけど、昨日はちょっと、飲みすぎちゃったみたいだね。
「あ、あの……昨日はありがとうございました」
二日酔いの彼女だけど、昨日のことはちゃんと覚えているようだ。
ペコリと頭を下げてお礼を言ってきた。
「こっちも楽しくお酒飲めたから、気にすることはないよ」
「私も楽しかったです。……ついつい飲みすぎてしまいましたけど」
ユキちゃんも楽しんでいてくれたようで、ほっと一安心だ。
あんまり女子会やったことないからね。俺は女子力は低いのだ。
「タイシ~、おはようです~」
「おはようございます」
「おはようだよ! おはよう!」
「おはようさ~」
ユキちゃんとお話していたら、ハナちゃんたちも続々とやってきた。
みんな起きたみたいだね。
ぐっすり眠れたようで、元気いっぱいだ。
「タイシ~、ユキ~。いっしょにあさぶろ、はいるです~」
「良いね、水着露天行こっか」
「そうね、ハナちゃんとお風呂入っちゃうわ」
「わ~い!」
ハナちゃんから俺たち二人に、お風呂のお誘いだ。
もちろん一緒にあったまろう!
◇
「いいお湯だったです~」
「お酒が抜けました」
ということで朝風呂を楽しみ、みんなもすっきり!
ユキちゃんも無事お酒が抜けて、しゃきっとした。
さてさて、それでは一休みしたら次の行動に移ろうか。
みんなに説明しよう。
「今日の予定ですが、この後ちょびっと観光してから帰ります」
「あえ? かんこうしちゃうです?」
「せっかくだからね」
「たのしみです~」
まだまだ観光があると聞いて、ハナちゃんキャッキャとはしゃいだ。
お目々キラッキラだね。
「昨日のうちに予約しといたぞ」
「今日はよく晴れていますので、楽しめるかと思います」
高橋さんも良く寝てお風呂に入ったおかげで、しゃっきり。続けて親父と一緒に説明してくれる。
そう、昨日のうちに予約しておいた、とある観光スポット。
ちたまとうきょうで一度は行ってみたい、地方民キャッキャスポットがあるのだ。
「それはどんな所ですか?」
「行ってみてのお楽しみということで」
「なんだか、わくわくします」
ヤナさんが行き先について聞いてきたけど、まだ内緒だ。
移動中にはわかるんじゃないかと思う。
「わきゃ~ん、まだまだなにか、けんぶつするさ~」
「たのしみさ~」
「どこかな! どこかな!」
「きゃい~」
「かんこうしまくりとか、すてき」
「しゃしんとっちゃうわよ~」
ほかのみなさんも反対意見とかは無いようで、キャッキャとはしゃいでいる。
それじゃあ、行ってみましょう!
ということで、すてき温泉浦安方面らしき物語を後にし、湾岸道をひた走る。
「うふふ~、かんこうたのしみです~」
「わきゃ~ん、こんどはなにが、みられるさ~」
ハナちゃんわくわくが抑えられないのか、足をぱたぱたさせてうふうふ状態だ。
偉い人ちゃんも、黄緑しっぽをぱったぱただね。
「あややや~! なんかまるくてホネホネのやつ、あるです~」
「へんなかたちのたてもの、あるさ~!」
「おもしろいな~」
「ふしぎなたてものとか、すてき」
湾岸道路を走って間もなく、左手に見える建物を見て皆みなさん目が釘付けに。
あれは……チーバにあるけど東京のディズ2海だね。
学生時代、高橋さんとバイトの合間に「男二人」で行ったことあるけど、なんか楽しめた。
そしておふくろにその話をしたら、ドン引きされたり。
いいじゃんね、ドキッ! 男しかいないメンツで遊園地! でも、いいじゃんね。
ちなみに高橋さんはメリーゴーランドに乗ってた。意外と乙女趣味。
とまあ無残な思い出はさておき、この遊園地を過ぎてすぐ、旧江戸川を渡る。
そこから葛西臨海公園を通り過ぎ、すぐに都心環状サークル2――いわゆるC2へ。
ここまでくれば、そろそろ見えてくるはず。
「あえ? なんかすっごいでかいやつ、とおくにあるです?」
「わ、わわわわわきゃ~ん……、あんなもの、ひとがつくれるのさ~?」
さっそく、ハナちゃんと偉い人ちゃんが気づいた。
二人はわいわいと、謎の巨大建造物を指差す。
「なんだあれ」
「やべえほどでけえ」
「ふるえる」
「でっかいね! すごいね!」
「あ、あれはなにさ~?」
ほかの方々もハナちゃんたちに続いて、窓の外を見た。
やはりあまりの巨大さに、ワーキャーと騒ぎながら指をさす。
そこには、ちたま人でもでっかいなー! って思うやつがあるわけで。
そう、みなさんが見つめるそれは――スカイツリー!
いまんところ電波塔としては世界一の高さを誇る、なんかすごいやつだよ!
とここでみんなを煽るため、アナウンスだ。
『はいみなさん、これからあのでっかいやつの所に行って、おまけに展望台までのぼっちゃいますよ』
「あやー! あのすごいやつにいくです!?」
「の、のぼっちゃうのさ~!?」
「まじで!」
「ふるえ、とまんない」
アナウンスをして煽ると、ハナちゃんお耳がぴっこーん状態。
偉い人ちゃんやほかのみなさん、ぷるっぷる。
まさかあのなんかすごい塔にのぼるとは、思わなかったのだろう。
(たのしみ~)
「なんだかすごそうだね! おもしろそうだね!」
「きゃい~」
飛翔体グループは、特に怖がらずはしゃいでいるけど。
あれくらいの高度なら、普通に飛んでるとかかな?
とまあなんにせよ、予約しちゃったから行くしかない。
ではでは、世界一の電波塔にのぼって、関東平野を眺めちゃいましょう!
というわけで、バスは下道におりて一路目的地へ。
どんどん、どんどん近づいていく。
「あややややや……どんどんちかづいてくです~」
「わ、わわわわきゃ~ん、おかしなたかささ~」
「やべえ」
「あのでかさ、おかしくね?」
なんかすごそうなやつに近づくにつれ、車内は静かになっていく。
これ、ほかのバスでも同じかな?
ちょっと聞いてみよう。
「こちら大志、バスの中はぷるぷる状態。どうぞ」
『こちら高橋、同じようにこっちもぷるぷる。どうぞ』
『こちら志郎、同じだ。どうぞ』
やはり、二号車と三号車も同様のようだ。
ふふふふ、もうすぐ到着しすよお。
そうしてバスは下道をひた走り、とうとう――到着!
大型車用駐車場にバスを停めて、そこから歩いてタワーへと向かう。
「あやややややや……。おもってたより、でっかいです~」
「わわわわきゃ~ん、やばそうなけはいが、するさ~……」
「ほんとそれ」
「ふるえとまんない」
「なにかがおかしい」
道中、空を見上げてみなさんぷるぷる。
「でかすぎだね! これはやばいね!」
「なにこれ! なにこれ!」
「おもってたより~」
(すてき~)
まあ、未確認飛翔体グループは大はしゃぎだけど。
神輿とか、わくわくしすぎてミラーボール状態だ。
こっちは心配ない感じ。
そんなみなさんを引き連れて、とうとうなんかすごいやつの前にとうちゃーく!
さすが世界一高い電波塔、塔の足元から見上げると、そのすごさがよくわかる。
さきっちょのほうとか、霞んでるもん。
さてさて、これを見たみなさんはどうかなっと――。
「――……」
「……」
「――」
……案の定、でございました。
地上組のみんな、空を見上げて目を開けたまま気絶している……。
「やばいね! でかすぎるね!」
「おもってたより~」
(きゃ~)
未確認飛翔体たちは、キャッキャとはしゃいでいるけど。
ちいさなちいさな存在である妖精さんたちにとっては、俺たちが感じるよりでかく見えているはず。
でも、全然へっちゃらみたいだね。
妖精さんたちつおい!
「大志さん、入場前でこれですが、大丈夫ですかね?」
「飛行機に乗れたんだから、いけると思うんだ」
「ですかね?」
ひとまず気絶組をウェイクアップさせて、行ってみよう!
この素敵スポット、おもいっきり楽しもうじゃないか。
◇
ということで村人たちを現世に帰還させ、エレベーターへと送り出す。
全員一気には乗れないから、順番だね。
「お、おおおお……。つぎはおれのばんか」
「ははは、これはさすがのぼくでも、こしがひけるよ」
「いってくるわね~」
「これからのぼるとか、ふるえる」
「こわわわわわ」
ぷるぷる組を順調にエレベータへ乗せ、天空へとご案内。
残るは、偉い人ちゃんとハナちゃん一家、あと俺とユキちゃん。
(たのしみ~)
「どんなところかな! どんなところかな!」
「いよいよだね! いよいよ!」
「おもってたより~」
あとは、神輿と妖精三人娘ちゃんたちだね。
ではでは、いざ天空へ!
「それでは、行きましょうか」
「あやややややや」
「あわわわきゃ~ん……、とうとうウチのばんがきたさ~」
「お、おお……いよいよ私たちが……」
「し、しゃしん……せめてしゃしんをとらないと……」
「ふ、ふが~」
ハナちゃん一家や偉い人ちゃんはぷるぷるだけど、上に行ってしまえば……。
きっと、楽しめるだろう。
そうしてみんなでエレベーターに乗り込み、扉が閉まる。
「あやややや! うごきはじめたです~!」
「わわわきゃ~ん! なんかすうじが、すごいはやさできりかわってるさ~……」
エレベータはものすごい速さであがって行き、ディスプレイに表示される数字はすさまじい速さでカウントアップされていく。
この昇降機すごい性能だな。秒速十メートル位の速度で上っている。
どんだけ速いのさ。
「あやややや……」
「わきゃ~ん……」
「みみがきーんてなったわ」
「僕もなった」
「ふが」
地上組のみなさんは、ぷるぷるとしながらディスプレイを見つめる。
気圧変化で耳がキーンてなってるみたいだ。
耳抜きしてる。
「わたしたちは、へっちゃらだよ! へっちゃら!」
「おもってたより~」
妖精さんたちは気圧変化につおいみたい。
空を飛ぶ方々だから、当然か。
そんなみなさんを乗せて、エレベータはさくっと上昇。
なかなか見ごたえのあるエフェクトが画面に表示され、展望台に到着!
ガイドさんのアナウンスとともに扉が開き、光が差し込む。
「はいみなさん、到着しましたよ」
「あやややややや……」
「わけがわからないさ~……」
「なんだか、心構えをする暇もなく……」
「ついたね! ついちゃった!」
「おもってたより~」
到着しても相変わらずのみんなだけど、エレベータから降りて展望を楽しみましょう!
ということで、どこか良さげな場所がないかと探していると――みんなが集まっている一角があった。
ひとまず合流しよう。
「お、おおおお……」
「これが……ちたまのでっかいまち……」
「まじすげえ……」
「わきゃ~……」
近くまで移動してみると、先に来ていたみなさん……うっとりと下界を眺めていた。
ほらね、この景色を見てしまえば、高さなんて忘れてしまうのだよ。
「ハナちゃんも見てきたら良いよ」
「いくです~」
「うちもいくさ~」
ハナちゃんぽててっと窓際に移動、偉い人ちゃんも、てこてこと歩いて行った。
どうぞ、天空からの景色をご堪能くださいだ。
「うっきゃ~! これはいいけしきです~」
「わわわきゃ~ん、あんなにおっきかったたてものが、ちいさくみえるさ~!」
「これは凄いですね!」
「しゃしん! しゃしんとります!」
「ふが~!」
窓際に移動した際後発組のみなさん、景色を見たとたん大興奮だ。
ノリと勢いで決めたスカイツリー観光だけど、上手くいったようだね。
「すごくたかいね! みはらしいいね!」
「おもしろいね! いいかんじだね!」
「おもってたより~!」
(すてき~)
もちろん未確認飛翔体グループも、元気に飛びながら大はしゃぎだ。
飛べるとは言え、こうして高いところから眺めるのはまた違うんだろう。
「あや~、ちたま、すごいところです~」
「こんなものつくれちゃうとか、しんじらんないさ~」
「空を飛ぶ乗り物と言い、このなんかでかいホネホネしたやつと言いびっくりすることばかりですね……」
「しゃしんとりまくってますよ!」
やがて、うっとりと景色を眺め始めるハナちゃんたちだ。
その目でじっと、関東の街並みを見つめる。
あ、フッジさんが見える。
「ハナちゃん、富士山も見えるよ。飛行機で空の上から見てた素敵な山」
「ほんとです!?」
「ほらほら、三角のやつ」
「ほんとです~!」
フッジさんが見えると教えると、ハナちゃんお耳をぴこぴこさせて大はしゃぎ。
「あれが、地上から見るふじさんですか」
「きれいなやまですね! しゃしんとります!」
「ふがふが」
「おもしろいかたちだね! めずらしいね!」
「きゃい~」
ハナちゃんにつられて、みんなもフッジさんを見た。
地上から見ると、やはり美しいそのお姿。
ちたまにっぽんの象徴、とくとご覧あれだ。
そうして、しばらくの間景色を楽しむ。
「へ~、この建物ってほとんど鋼鉄で作られているんですね」
「よくまあ、ほとんど鉄だけでここまで作ったよね」
うっとり村人が景色を眺めている中、ユキちゃんがパンプレットを見ながらガイドしてくれた。
これ、ほとんど鋼鉄で出来てるんだ。すごいな。
「……わきゃ? いま、てつってきこえたさ~?」
「てつは、きちょうひんさ~」
「まさかさ~」
そして俺たちの話が聞こえたのか、ドワーフちゃんたちが反応した。
「このでかいおうち、ぜんぶてつでできているさ~? そんなわけないさ~?」
「わきゃ~ん、そんな、まさかさ~」
「てつでこんなのつくるなんて、むりさ~」
やがて、ハハハと笑いながら「あるわけないさ」と否定し始める。
ただ、なぜか冷や汗だらだらなドワーフちゃんたちだ。
「わきゃ~ん。あるわけないさ~、あるわけないさ~……」
偉い人ちゃんも、黄緑しっぽをカチコチにさせてあるわけないさ状態。
聞いたところによると、彼女たちの世界じゃ鉄は貴重品だ。
それをこんな大量に使って、なんかやばいほど高い建物を作るとかは想像の範囲外なんだろう。
でも、事実鋼鉄で出来てるんだなこれが。
「それで、ほんとのところはどうなのさ~?」
「鉄ですよ」
「ほんとに、ほんとなのさ~?」
「鉄ですよ」
「……」
「鉄ですよ」
偉い人ちゃん動かなくなったけど、鉄でできていると強調する。
そしたらですね……。
「――……」
「……」
ドワーフちゃんたち、無表情で目を開けたまま気絶でござるよ。
彼女たちにとって、一番の驚きポイントは素材だったわけか。
「まさか、鋼鉄製ってことで気絶するとは……」
「これをみたら、むりないです~」
「素材がどうとか、そういう問題じゃない気もするけどね」
「かもです~」
静かに夢の国へ旅立つドワーフちゃんたちを見ていると、、ハナちゃんが無理もないという。
ヤナさん的には、素材がどうとかより、この建物自体が驚愕ぽいけど。
「このせかいが、いろいろおかしいのはわかったべ」
「それな」
「きにするだけ、むだなのだ」
もうこの辺慣れっこのエルフたちは、細かい話は聞き流すようだ。
だんだんたくましくなってきておられる。
でもまあ、それくらいが良いのかもね。