第四話 ホワイト化
「わきゃきゃきゃ~ん! わきゃ~!」
偉い人ちゃんが、なんか黄緑色になった。
ご本人は、あまりの嬉しさにレッツダンス。
ただ運動が苦手な彼女なわけで、案の定足を絡ませ、ぺしょっと転ぶ。
最後の「わきゃ~!」は転んだ瞬間だ。
……ともあれ、偉い人ちゃんの蓄熱能力がまた少し向上した。
いったい何があったのか、そこで転がっているご本人に聞いてみよう。
「あ、あの……一体何が起きたのですか?」
「それがそれが! おしおをすりこんだら、なんかこうなったさ~!」
尋ねると、わきゃっと起き上がって答えてくれた。
一生懸命に身振り手振りを交えて、元気いっぱいだね。
めっちゃ興奮しておられる。
「おや、なにかにぎやかだね」
「どしたの?」
「たのしそう」
大興奮ちゃんがわきゃわきゃしているさなか、長湯していた男性陣エルフたちもやってきた。
お風呂上がりでほかほかエルフだ。
「大志さん、お風呂上りに一杯やりませんか」
「お、良いですね」
「わきゃん! おさけさ~!」
(おそなえもの~!)
そして一緒にやってきたヤナさん、お風呂上がりのビールを提案してきた。
とても魅力的なプランに、神輿もぴかぴか、偉い人ちゃんもわきゃんと反応するわけで。
……続きは、お食事しながら聞こうかな。
それじゃあ、夕食にしよう!
「それではこれから、お食事できるところに移動して夕食と行きましょう」
「いろんなお店がありますので、各自お好きなところでお好きな物を選んでください」
「「「わーい!」」」
ユキちゃんが補足して、ひとまず各自お好きなところでとなった。
ではでは、夕食がてら何があったか話を聞こう!
◇
「ラーメンたべよ」
「おれもおれも」
「いろんなラーメンがあるな~」
食事処フロアに移動すると、みなさんそれぞれお好きな店に入っていく。
俺たちは居酒屋に入り、まずは一杯。ぐいっと良く冷えたビールを呷る。
ホップの苦みと炭酸の刺激、それらがアルコールとともに喉を潤す。
どれも単体ではキツい味なのに、組み合わさるとえも言われぬ爽快感をもたらしてくれる。
このラガー特有のコクとキレ、たまりませんなあ。
「っかー! お風呂上りはやっぱりこれですね!」
「わきゃ~ん、おいしいさ~!」
(おいし~)
ヤナさんと偉い人ちゃんもんぐんぐとビールを呷って、たまらん顔になっている。
神輿はメガジョッキを一気飲みして、ぐんにゃりだ。いきなり飛ばしますね……。
まあ、お風呂上がりの儀式を終えたところで。
さっそくお話しましょうかね。
「して、何が起きたのですか?」
「わきゃ! わきゃ! ウロコにすりこんだおしおが、なんかくろくなったさ~!」
偉い人ちゃんに問いかけると、またまた大興奮で起きたことを話し始めた。
どうやら、スチームサウナで塩を擦り込んだ結果のようだ。
食塩が黒く変色したっぽい。
「なんか、わるいものがしみだしたかんじ、するさ~!」
「ウロコにも残ってたってことですかね?」
「そうかもさ~」
山盛りポテトをおいしそうにつまみながら、偉い人ちゃんが続ける。
キジムナー火で体内のよくないやつは、燃焼して排出できた。
しかし、ウロコそれ自体にもなんかよくないやつが蓄積してたってことなのかな?
「ウロコはウロコで、なんとかする必要がある感じですか」
「よくわからないけど、あるかもっておもうさ~」
ご本人も確証はないものの、すっきりした感じからそう思っているようだ。
なんにしても、スチーム塩サウナは効くってことなんだろう。
これは村に帰ったら、試すべしだね。
「わきゃ~ん、こっちにきて、いいことばっかりさ~」
少しずつ体質が改善してきているので、偉い人ちゃんもうニッコニコ。
こっちに来て良いことばかりと、喜んでいる。
……でもですね、村に帰ったらまずはお医者さんですよお。
チクっとするやつとか、しますからねえ。
いいことばかりじゃ、ないですよお。
「あや~、タイシわるいおとなのかおです~」
「大志さんが何かを隠しているときは、こんな顔をするよね」
「です~」
そんな俺を見て、付き合いの長いハナちゃんとユキちゃんは不穏な何かを察する。
「わきゃきゃ~ん」
しかし偉い人ちゃんは、興奮しすぎて気づいていない。
ふふふ、お医者さん、予約しておきますからねえ。
とまあ、偉い人ちゃんに待ち受けるそれなりの試練は置いといて。
だいたい何が起きたのかは把握できたので、黄緑現象のお話はここまでにしよう。
「なるほど、いろいろ参考になりました」
「わきゃ~ん」
お話をしている間に、偉い人ちゃんは山盛りポテトを食べつくす。
食欲満点だね!
「大志さん、サウナ関連ではだいたい何か起きてますね」
話が一段落ついたところで、隣に座ったユキちゃんが、わっきゃんとはしゃぐ偉い人ちゃんを見つめて話しかけてきた。
確かに彼女の言う通り、サウナでなんか起きまくっている。
というより、ドワーフちゃんたちにまつわるお話はだいたい熱がらみだ。
どれほどヒートマネジメントを神経質にやっているか、という話に帰結する。
……もしかして、ドワーフちゃんたちは熱資源不足に悩まされている?
「なんだかんだ言っても、彼女たちは熱不足、ということなのかもしれない」
「ありえますね」
「おはなしをきくと、そういうのがおおいです~」
俺がふと思った見解について、ユキちゃんとハナちゃんも特に反論は無いようだ。
これは夜の時期が問題なのか、ドワーフちゃんたちの蓄熱量限界がもたらしているのか。
それとも、もっと違う何かなのか。
彼女たちと交流して、本人たちも気づいていない課題を、共に探さないといけないと感じる。
さらに言うと、ドワーフィンがお昼になる前になんとかしないと、偉い人ちゃん帰れない。
あっちの湖の子たち、心配もするし困っちゃう。
わりと残された時間が、それほど無いな……。。
「わきゃ~ん、おさけ、おかわりしていいさ~?」
「どうぞどうぞ。この九重って日本酒とかおすすめですよ。果実の香りがするんです」
「それにするさ~!」
おすすめのお酒を紹介すると、黄緑しっぽをピンとさせて目を輝かせる偉い人ちゃんだ。
彼女本人は、お昼に間に合うように帰還しないといけないことに気づいているのかな?
なんかその辺、完全に忘れている感じがするけど。
「おさけ、ちゅうもんするさ~」
「あ、私もお飲み物を注文したいです」
「ハナも、いいです~?」
(わたしも~)
俺の懸念はさておき、各自追加注文があるみたいだ。
遠慮せずに、じゃんじゃん食べたり飲んだりしよう
「もちろん良いよ、好きな物注文してね」
「タイシ、ありがとです~」
「じゃあ店員さんを呼びますね」
(ぽちっと、おしとくよ~)
そして神輿がピポーンと呼出ボタンを押す。
教えてないのに! 神様すごい!
◇
楽しい夕食も無事終えて、時刻は夜十時過ぎ。
夜遅くのお風呂を楽しむ組と、さっさと寝ちゃう組に分かれる。
「ハナたちはあしたはやおきして、あさぶろはいるです~」
「仮眠所でひと眠りしています」
「ふがふが」
ハナちゃん一家は寝ちゃう派だね。
それぞれ、男女別の仮眠所へと向かうようだ。
「それではみなさん、おやすみなさい」
「おやすみです~」
(おねむ~)
ちっちゃなお手々をんしょんしょと振りながら、ハナちゃんたちは仮眠所へと歩いて行った。
ほろ酔い神輿も一緒に、ほよほよと飛んでいく。神様今日は早く寝るんだね。
「わたしたちもおねむだよ! おねむ!」
「おもいっきりねちゃうね! ねちゃうから!」
「ぐっすり~」
妖精さんたちも、きゃいっきゃいハイテンションでおねむ場所へ。
果たしてそのテンションで、ぐっすりお休みできるのだろうか……。
ま、まあ気にしないことにしよう。
さて、ぶじ女性陣も見送ったところで。
俺はまだまだ寝るには早い時間なので、またお風呂に行こうかな。
――と、考えていた時のこと。
「大志さん大志さん、ちょっと相談したいことがありまして……」
きわめてダークなキツネさんが、すすすっとやってきた。
その暗黒さはとっても気になるところだけど、相談したいことがあるっぽい。
なんだろ?
「相談したいこと?」
「はい。ここではあれですので……。あ、あちらのお店でお話を」
さあさあと、おしゃれな感じのバーみたいなところを指さすキツネさんだ。
ひとまず、お話を聞いてみましょう!
ということで、ユキちゃんとお店へ入る。店内はなんだかオシャンティー。
見るからにおっしゃれー! なカクテルを頼み、お話聞きましょう体制になる。
「あのあの、えっとですね……」
しかし暗黒キツネさん、もじもじしておられる。
言いにくいことなのかな?
急がせたらよくないので、切り出せるまで待つことにしよう。
「あ、そうです。そういえば、以前私の実家に挨拶をするってお話がありましたよね」
「あ、そうだ。確かにあった」
やがて話が始まったけど、ユキちゃんちにご挨拶ってお話だね。
完璧忘れてたというか、車関連での流れだったよね。
お父さんがレオーネをお披露目できて、ご機嫌だったとかいうあれだ。
どんだけ放置してんのよと。
「大変申し訳ない。いろいろあって、全然できなかったね」
「確かに、もうなんか沢山ありましたから……」
ご好意を長期間うっちゃった点については、特に怒ってはいないようだ。
大変申し訳ない。
「それで……ご予定がつけば、ぜひとも『一緒に』挨拶していただければと」
「わかったよ。その辺、村に帰った後になっちゃうけど、予定を詰めよう」
「はい!」
予定を詰めようと提案したら、さっきまで暗黒だった耳しっぽさん、ぽわわっとホワイト化した。
その切り替わりのきっかけは良くわからないけど、ダークサイドから戻ってこられたようで。
めでたしめでたしだね。
でもまあ、今のところ明確な日にちはわからないけど、顔は出さないとね。
前から約束もしていたのだから、きっちりしよう。
……しかし秘密のベールに包まれた加茂井家なわけで。
ご実家にお伺いするのは、一族で俺が初めてか。
ん? そういえば挨拶は俺がするのであって、「一緒に」ってなんだろう?
ユキちゃんがご両親に挨拶する必要ないよね。
それともあれかな、謎の権現様的に儀式が必要とか?
まあ、それは行ってみればわかるか。
「そうそう、まずは手順が大事よね。手順が」
白キツネさんに戻った彼女も、手順が大事と言っている。
やっぱり、なにかしら神秘の領域に立ち入るには、儀式があるんだろう。
「魔女さん、アドバイスありがとね……と」
権現さんちへのご招待について考えていると、ユキちゃん白しっぽをふりふり、ご機嫌でスマホに何か入力している。
覗いちゃ失礼だから、気にしないでおこう。
というか魔女さんに連絡してるっぽいのは聞こえちゃったけど。
若い娘さんだから、いろいろあるよね。
「あ、すみません。お話し中に」
「いやいや、それくらい良いよ。というかユキちゃんとサシで飲むのも初めてだし、もちょっとお話しよう」
「ええ!」
ということで、俺も毛並み美しい若い娘さんとサシで飲むのはまんざらではない。
そのままユキちゃんと女子会に突入だ。
「今年の冬もの、これ系が流行りそうですよ」
「おお、これユキちゃんに似合うかも」
「ですかね!」
お仕事とかは抜きにして、二人でキャーキャー雑談だ。
名前がシャレオツすぎて味が想像できない謎カクテルとかも追加しまくり、グビグビ飲んでいく。
というか俺のガタイだと、カクテル一杯とかまるで足りないもので。
「実は私、お化粧がへたっぴでして。どうしても濃くなっちゃいます……」
「マジックショーの時は自然だったけど?」
「あれはお店でメイクしてもらいました」
「そうなんだ」
意外や意外、ユキちゃんはお化粧が上手くないというお話も聞けた。
すっぴんでも美人なのだけど、本人的には気にしているみたい。
その辺お悩みなら、身内に同じ悩みで苦労した人がおわしますので、ご紹介致しましょう!
「お袋も、若いころは化粧が苦手で苦労したって言ってたよ。今度相談してみたら?」
「そうですね! 今度『お義母さん』に相談してみます」
そうして夜も遅くまで女子会は続き、ガンガンお酒も飲みまくりだ。
ただ、カクテルはアルコール度数が意外とつおいわけでして。
「う、う~ん」
飲み過ぎたのか、ユキちゃんがダウンしてしまった。
甘いカクテルだから、ペースがつかめない時があると聞く。
ユキちゃんはお酒を飲み慣れていないので、加減を間違っちゃったかな?
「フフフ……一歩一歩確実に……」
でも、白い耳しっぽをぐでんと垂らし、赤ら顔でご機嫌のキツネさんだ。
楽しい時間を過ごしてもらえたかな?
「ユキちゃん、そろそろお開きにしようか」
「こういうのが、大事だったのね……」
「ユキちゃん?」
「ふふふ……」
完璧酔いつぶれちゃったね。
まともな応答は返ってこないので、この辺にしときましょう。
「それじゃユキちゃん、部屋まで送るね」
「……ふふふふふふ」
良いとの返事はないけど、ひとまずおんぶしてお部屋まで運ぶ。
もう耳のふさふさ、堪能しまくりですよ。素晴らしい毛並み。
ありがたやありがたや……。
とまあ酔いつぶれキツネさんを部屋まで送り、無事お布団に寝かしてあげる。
館内着だから、そのまんま眠れて便利だねこれ。
「お休み。また明日」
「ふふ……」
妙に幸せそうに眠りにつくキツネさんにお休みの挨拶をし、部屋を後にする。
オートロックだから、閉めちゃえば密室だ。
そのままぐっすり、お休みくださいだね。
「さ~てと、俺も寝ようかな」
明日は早起きして、朝風呂でも楽しむとしよう。
さてさて、では仮眠室に移動を――。
「あ、タイシさんめっけ」
「ちょっとそうだんが」
「どうしたらいいか、ごいけんを」
――と思っていたら、お風呂上りとおぼしき男子エルフたちと遭遇した。
なんだか彼らも、相談があるみたいだ。
「ご相談ですか? 何でしょう」
「それがですね」
「これをみていただきたい」
そういうと、後ろの方を指さす。
これとは一体?
よくわからないけど、見てみよう。
「ははは、なんだか、しろくなっちゃったよ」
そこには……だいぶ白くなったきれいなマイスターがいらっさった。
――色素抜けてるじゃん!?
マイスターから、毒を抜きすぎたよ!
魔女さんのおかげで、耳しっぽさんまっとうな道へ帰還。
しかし、残念な所も抜けきらない……。