第三話 やっぱりサウナ
ここはとある浦安方面のとある温泉らしき物語。
水着露天では、村人たちがのんびりお風呂を楽しんでおりました。
「のんびりだねえ」
「のんびりです~」
「フフフ……」
大きな浴槽では、大志やハナちゃんがのんびりしておりますね。
黒キツネさんからは、よこしまなオーラを感じますが。
これきっと、「愛しのあの人と混浴したのよ」とか魔女さんに自慢する気ですよ。
水着露天なので、温水プールで遊んだのと似たような話なのですが。
「フ、フフフフ。いっしょにおふろとか、これもう、しんこんよね……」
ま、まあ幸せそうなので、ユキちゃん的には大満足の催しなのかも。
新婚気分でご機嫌です。たんなる水着露天なのに……。
なんだかんだで、奥手な娘さんですね。そっとしておきましょう。
「温まるね! ぽっかぽかだね!」
「泳いじゃうよ! 思いっきり泳いじゃう!」
「のぼせる~」
そんな大志たちの周りでは、わかっててお邪魔している妖精さんたちがきゃいっきゃい。
妖精さんたちだって、大志が大好きなんです。
みんなキラキラ粒子をお湯の中にバラまきながら、はしゃいでいますね。
多分それ、お湯の成分変わってるかもですよ?
「のぼせた~」
「はい、ゆざまししようね」
「きゃい~」
あ、ちょっとのぼせて沈みかけたイトカワちゃん、大志に救助されておりますね。
頭にのせてもらい、きゃっきゃいて白い粒子を出しています。……大志はまぶしそうですが。
そうしてのんびりするみなさんですが、ふと……カナさんが一つの施設を発見しました。
「ねえねえ、あれって何かしら」
「サウナっぽくない?」
「もしかして?」
そう、ここには……水着で男女一緒に入れる、サウナがあるのです!
「そのまんま、サウナですよ。みんなではいれます」
「「「キヤー!」」」
ユキちゃんから回答を頂き、女子エルフがキャーキャーしました。
そう、お肌ぷるぷる祭りの始まりですよ!
「さっそく行くわ~」
「私も」
「わきゃ~ん、ウチも行くさ~」
ぷるぷるに執着する女子のかたがた、ふらふらとサウナに向かいます。
「あ、じゃあじぶんたちもいこうか」
「あい~! タイシとさうな入るです~」
「お、おお……。これもなかなか、しんみつイベント」
さうなぞんび女子をみて、大志たちも行くようですね。
神輿も一緒にほよほよ飛んでいきました。
みんなで滝汗流しましょう!
◇
水着で入れるサウナがあるので、せっかくだからハナちゃんたちと来てみた。
家族で入ることを想定しているのか、温度は抑え目だね。
サウナ戦士たちが愛するような、ストロングな環境ではない。
でもまあ、これはこれでゆったりできる。
「ここであったまろっか」
「あい~。あせかくですよ~」
「混雑しているので、必然的に密着……フフフ」
お誘いすると、ハナちゃんぽててっと歩いてお隣へ。
ダークさんも、ぴとっとすぐそばに座った。距離がなんか近い。
ともあれ、他の女子たちと一緒にじりじりとグリルを開始する。
「おはだ……ぷるぷる……」
「美しくなるのよ……」
「すてきになるの……」
(つやつや……つやつや……)
しかし……女子たちの雰囲気が、またこれおかしい。
神輿も蒸されてぐんにゃりだし、謎の声とかすっごくつやつやになりたい意思が伝わってくる。
いつもこんな感じなの?
「ユ、ユキちゃん。女子たちっていつもこんななの?」
「フフフ……。流れる汗、大きな背中……」
黒耳しっぽさん、どこかに旅立っておられる。
……そっとしておこう。
ということで、ハナちゃんに聞いてみるかな。
「ハナちゃん、いつもこんな感じなの?」
「あい。いつも、こんなんです~」
「そうなんだ」
「あい~」
どうやらいつも、こんな感じのようで。
女子たちのお肌ぷるぷる願望、すごい。
「わきゃ~ん、あせをたくさん、かくさ~」
「こういうおへや、いいさ~」
「ぬっくぬくさ~」
女子エルフの雰囲気にタジタジなのは置いといて、ドワーフちゃんたちはご機嫌だ。
熱いところが好きな種族だからかな?
彼女たちに、ちたまサウナ文化はどうか聞いてみよう。
「みんな、サウナ気に入った?」
「きにいったさ~」
「ウチらのとこじゃ、なかったさ~」
「これはいいものさ~」
聞いてみると、みなさんわきゃきゃっと答えてくれた。
そうとう気に入ったらしい。
というか、ドワーフちゃんのところにはないとな。
熱を生み出せるのだから、なんならすぐにでも出来そうな感じはするのだけど。
「あっちじゃやってなかったの?」
「そうさ~。ねつをここまでぜいたくにつかうこと、なかったさ~」
「あせをかくまであったまるとか、しなかったさ~。ねつがもったいないさ~」
なるほど、彼女たちにとって熱は貴重な資源だ。
せっかく蓄えた大事な資源を、浪費はできなかったんだろうな。
そこはまあ理解できる。
でも――ストーブとか使わなかったのかな?
金属加工がお手の物なら、そういった暖房器具を作ればよいと思うのだけど。
「部屋を暖めるための炉を用意して、火を焚いたりとかしないの?」
「わきゃ! それはあぶないさ~!」
「おうちのなかや、そのちかくでは、かきげんきんさ~!」
「ひがでたら、いちだいじさ~!」
火を使わないのと聞いたら、飛び上がって拒否された。
彼女たちにとっては、それほどのことなのか。火気厳禁と。
……まあ、言われてみればそうかもしれない。
よくよく考えてみると、彼女たちの家はツリーハウスだ。
高い木の上にあって、ちいさなおうち。
もしそこで火が出てしまったら……とても危ない。
自分の家だけでなく、同じ木にあるほかのおうちにも延焼する。
おうちのある木も燃えてしまうし、高い位置にあるから消火も難しい。
高性能なポンプと動力がないと、どうにもならない。
さらに密林だったから、木々もけっこう密に生えていた。
一つの木で起きた火災が、ほかの木へと次々に延焼することだって考えられる。
ようするに森林火災が起きてしまう。そうなれば、その中洲は全滅だ。
木々を間引いたりすればあるていど防げるけど、そうするとおうちをのっけるための木も減ってしまう。
居住区として使える中洲の条件もあるだろうから、単純に住める人も減るわけだ。
そういったいろいろな条件とのトレードオフを考えると、火を使わないってのが一番かもね。
「なるほど、みんなは火災を起こさないようにすっごく気を使ってるんだね」
「そうなのさ~」
「こっちはひをつかいまくりで、すごいさ~」
「しょうかたいせいも、しっかりしていてびっくりさ~」
「うちらも、しょうかようの、おみずをよういしたりしたさ~。でも、おもくてたいへんなのさ~」
火災にとことん神経質に取り組まないといけない、そんな住環境なんだ。
消火用の水も用意してあったそうだけど、重量の問題もあったようだね。
まあ色々な条件で気軽に火を使えないから、自分の熱を使う必要があるわけか。
だから無駄遣いはできないって感じだろう。
彼女たちにしてみれば、ちたま文明とは熱を贅沢に使う世界、に見えているんだろうな。
「だから、こういうさうなとか、うらやましいさ~」
「さうなであせをかくのがきもちいいって、はじめてしったさ~」
「やみつきになるさ~」
そしてこの熱的に贅沢なサウナという施設も、超ツボにはまったようで。
わっきゃわきゃとしっぽを振っているね。
……それなら、村にサウナを作るのも良いかもしれない。
「ぷるぷる……ぷるぷる……」
「すてき……」
「美しく……」
……一部切羽詰まった女子たちも、お気に入りのようだし。
ちょっと提案してみようか。
「じゃあ村に帰ったら、みんなで作ってみようか」
「わきゃん! サウナつくるさ~!?」
「うちらも、マネしようとおもってたさ~!」
「つくりかた、おしえてほしいさ~!」
サウナ作ろっかと提案したら、偉い人ちゃん含めドワーフちゃんたち、全員ズダダっと立ち上がる。
どうやら自分たちで作ろうと考えていたみたいだから、ちょうどよいね。
「サウナつくるんだって」
「おてつだいしなきゃ!」
「むらにサウナできるとか、すてき!」
(たのしみ~)
横で話を聞いていたお肌ぷるぷる(目標)ぞんびちゃんたちも、お目々キラッキラだ。
神輿も、なんだかほよっほよと光って喜んでいる。謎の声も楽しみらしい。
それじゃあ、帰ったら計画を話し合おう。
「みんなで、さうなつくるです~」
「ハナちゃんも楽しみ?」
「あい~! みんなでなにかするの、たのしいです~!」
ハナちゃんは、村人たちで何かをやるのが好きみたいだね。
一丸となって、暮らしをよくする課題に取り組む。
そこには未来への希望があるからね。俺も大好きだよ。
「では、村に帰ったら話し合いましょう」
「「「はーい!」」」
こうして、村にサウナ設置が決まった。
ただまあ、多少時間はかかるかもだ。
安全基準も含めて、いろいろ設計と運用を考える必要があるからね。
「多少時間はかかりますが、楽しくやりましょう」
「おはだのためなら~」
「めざせぷるぷる!」
「美しくなるためよ!」
ということで、話はまとまった。
「大志さん、スチームサウナとかならすぐ出来ませんか?」
おや? さっきまでどこかに旅立っていたダークキツネさんから提案だ。
すすすっと寄ってきて、なぜか耳元で話しかけてくる。
黒キツネ耳がふさふさ当たって、これまたすばらしい。ありがたやありがたや……。
「タイシ、またおがんでるです?」
「ありがたいんだ。とっても」
「ほどほどにするですよ~」
ハナちゃんにつっこみを頂いたけど、このツヤと毛並みはなかなか凄くてですね。
とまあダークふさふさを堪能したところで。思考を戻そう。
……あれだ、スチームサウナか。
「……確かにそれなら、お湯を沸かせばできちゃうね」
「ええ、葉っぱのおうちで出来ちゃいますよ」
「すちーむサウナってなにかしら?」
「きょうみあるわ~」
(くわしく)
そして耳の良いエルフと神輿である。ユキちゃんの提案をキャッチして集まってきた。
このサウナぞんびさんたちに、スチームサウナとはなんぞやをご説明致しましょう。
「えっとですね、お湯を沸かしたりしてお部屋に蒸気を満たすと、サウナになります」
「あ、おりょうりしてるとき、なるわ~」
「たしかに」
「なるほど」
この辺は普段の生活でもよく起きるから、さくっと分かったようだ。
というか、内湯にスチームサウナがあるわけで。
後の細かいことは、実際に試してもらったほうが早いかな。
「内湯のほうにそのスチームサウナがありますので、どんなものかはそちらでお試しをば」
「あるんだ!」
「さっそく、いってみましょう!」
「たのしみ~」
「わきゃ~ん、いくさ~!」
実際に試せると聞いて、みなさんさっそく行ってみるようだ。
あれはあれで良いから、ご堪能下さいだね。
「ちなみに、お塩があったら体に擦り込むといいですよ」
お、ユキちゃんが補足してくれたね。
確かにスチームサウナには、だいたい塩が置いてある。
「え? おしお?」
「またなんで」
「もったいないわ~」
「たべものを、すりこんじゃうさ~?」
そしてお塩を体に擦り込むと聞いて、みなさん不思議な顔をする。
まああっちじゃ塩は貴重品だった。
大事な食べ物を体に擦り込むとかは、考えられないだろう。
しかしこれ、効くんだな。
「スチームサウナに入りながら体にお塩を擦り込むと、お肌すべすべになりますよ」
「「「キャー!」」」
ユキちゃんが続けて説明すると、案の定……女子たちキャーキャーし始める。
お肌すべすべと言われたら、もう止まらない。
「いくべし」
「すっべすべよ~」
「たのしみさ~!」
(すべすべ~)
というわけで、女子たちはキャッキャと内湯のほうに向かう。
神輿も一緒に行くようで、楽しそうにほよほよ光って飛んで行った。
楽しんできてくださいね。
「あや~、みんなめがうつろだったです~」
「お肌のことだからね。危機感が違うんだよ」
「そうですか~」
まだまだお肌ぷるぷるすべすべのハナちゃんは、実感がないようだ。
いずれ、大人になったらわかるかも?
「それはそれとして、自分たちはゆっくりしようね」
「あい~」
「フフフ……肩と肩が密着」
お肌ぞんびちゃんたちはさておき、俺たちはこのままのんびりしよう。
◇
ここはとある浦安方面の、とある温浴施設。
お肌ぷるぷるに取りつかれた女子たちが、スチームサウナに入っていきました
「あら~、蒸し暑いわ~」
「なるほど、これはお肌に効きそう!」
「いい香りがするとか、素敵」
室内は蒸気が充満していて、アロマの香りがしますね。
女子たちはキャッキャと、初めてのスチームサウナで大はしゃぎです。
「これがお塩かしら」
「そう書いてあるわ。すっごいたくさんね」
「山盛りとか、ふるえる」
「贅沢だわ~」
あ、お塩が入った壺もありますね。
みなさんのぞき込んで、山盛りソルトに圧倒されています。
「貴重なお塩だから、大事に使いましょう」
「お塩を擦り込むとか、素敵」
「すべすべよー!」
エルフたちにとっては貴重なお塩です。
それを擦り込んじゃうとか、あまりの贅沢さにくらくらしておりますね。
大事に大事に、体に擦り込んでおります。
「神様にも、擦り込みますよ」
あ、神輿はカナさんに塩を擦り込んでもらっていますね。嬉しそうにほよほよ光っています。
でも、金属部品が錆びちゃわないでしょうか?
ま、まあ神様なので大丈夫ですかね。
そうしてエルフ女子が先陣を切って塩漬けになった後は、ドワーフちゃんたちです
「わきゃ~ん、ウチも擦り込むさ~」
偉い人ちゃんも、黄色のカモフラをぺりりと剥がして、お塩を擦り込み始めましたね。
やっぱり大事に大事に、手足やしっぽのウロコへざりざりとやっています。
「わきゃ~、こんなさうなもあるのさ~」
「これはこれで、良いものさ~」
ほかのドワーフちゃんたちも、お塩を擦り込んだり温まったりと楽しそうですね。
そうしてみんなで、滝汗を掻いていきます。
エルフにドワーフちゃんに、あと神輿も塩漬け状態。
おまけにみんな揃って、アロマ蒸し。なるほどこれは、お肌に良さそう。
「確かにこれは、お肌に良いわ~」
「保湿ばっちりよね!」
「えすてみたい」
「それそれ!」
エステでも、蒸気を使ってお肌をあれこれするコースはありましたよね。
女子エルフのみなさん、大好きなエステを想像してうっとりです。
「わきゃん? えすてって、何さ~?」
「前になんか、騒ぎになってたさ~」
「食べ物なのさ~?」
おや? ドワーフちゃんたちがエステという言葉を聞いて首をかしげていますね。
そういえば、彼女たちはエステとはなんぞやを知りません。
女子エルフたちがここまで心酔する理由が、わかりませんでした。
しかし世の中には、知らなくても良いことがあるとは思います。
ドワーフちゃんたちは、まだそのままで居てね。
とまあ、ご機嫌女子エルフとわきゃわきゃドワーフちゃん、ほよほよ神輿の面々で仲良く蒸されます。
じりじり、むしむし……。
「わきゃん、お塩また擦り込むさ~」
偉い人ちゃんとかは、なんどかウロコにお塩を擦り込んでますね。
ただ擦り込みすぎて、ソルティードワーフになっております。
ほどほどにね、ほどほどに。
そんな風に、みんなで楽しく蒸されていた時のこと。
「……わきゃ? お姉さん、またなんかおかしくなってるさ~?」
「わきゃん?」
「お塩を擦り込んだあたりが、おかしいさ~?」
しこたま塩を擦り込んだ偉い人ちゃん、ミタちゃんからご指摘を受けました。
あれれ? 確かに何か……。
◇
「あや~、あったまったです~」
「楽しかったね」
「あい~!」
お風呂から上がって、ハナちゃんたちと休憩場でのんびり。
冷たい飲み物で喉を潤しながら、みんなを待つ。
「たとえ水着とはいえ、混浴は混浴。フフフ……」
ただユキちゃんはずっとダークなんだよな。
若い娘さんだから、いろいろあるのだろうけど。
しかし、黒耳しっぽもこれはこれで……。
「あまいのみもの、おいしいね! おいしいね!」
「おふろあがりは、これだね! これ!」
「ひんやり~」
妖精さんたちも、テーブルの上でジュースをむきゅむきゅ飲みながらお寛ぎ中。
羽根をぱたぱたさせてそよ風を発生させ、向かいの子を涼ませてあげたりもしている。
ほんわかするなあ。
こんな感じで平和にだら~っと過ごしていると、やがてほかのみなさんもぞろぞろとやってきた。
「すっべすべよ~!」
「こんなになめらか!」
「おはだトゥルリンとか、すてき」
(なめらか~!)
スチームサウナを堪能してきたのか、すべすべお肌になってキャッキャしているね。
神輿もすべすべになってご満悦のようで、ほよほよとご機嫌に光っている。良きかな良きかな。
「わきゃ~、あれもいいものだったさ~」
「しょくじしたあと、またいくさ~」
「ウロコ、すべすべになったさ~」
後に続いてきたドワーフちゃんたちも、ウロコをさすさすして喜んでいる。
彼女たちも、がっつり塩を擦り込んだみたいだ。
そうして、ほくほく顔の女性陣を眺めていたら――。
「――わきゃきゃ~ん!」
……偉い人ちゃんが、踊りながらやってきた。なぜダンシング?
くるくるまわっていて、めっちゃご機嫌だよ……。
「わきゃきゃきゃきゃ~ん! また、いろがかわったさ~!」
――て!
確かになんか色が違うぞ!?
手足としっぽが――黄緑色になっているじゃないか!
またなんかあったの!?
お風呂回は多いのに、色気はゼロである




