第四話 割と順調なエルフ達
お昼を食べ終わってしばらくした頃、大志はエルフ達に言いました。
「それでは、わたしたちはこのへんでおいとまさせていただきます」
大志とお父さん、おうちに帰るようです。それを聞いたハナちゃん、寂しそうに言いました。
「タイシ、もう帰っちゃうですか~」
「うん、あんまりいえをあけていられないからね。またくるから、いいこでまっていてね」
「あい~」
なでなで。
大志は、ハナちゃんの頭を撫でながら言いました。
大志が帰ると聞いたエルフ達も集まってきて、別れを惜しみます。
「世話になっただ」
「また来てくんろ」
「よっかごくらいに、またきます。ラーメンとかもってきますので」
「「「わーい!」」」
ラーメンと聞いて喜ぶエルフ達。それまであった、しんみりしていた雰囲気は吹っ飛びました。彼らの頭の中は、もうラーメンでいっぱいです。
そんな食いしん坊な方々に別れを告げ、車に向かう大志とお父さん。ヤナさんも声をかけました。
「次に来られるまでには、皆で家庭菜園を作っておきますので、確認頂けたらと思います」
「ええ、はたけともやしのできぐあいもかくにんしますので、むりせずぼちぼちやりましょう」
「わかりました。お願いします」
こうして、大志とお父さんはおうちに帰っていきました。エルフ達は、二台の車が見えなくなるまで手を振ります。
「ラーメン楽しみ~」
「それまで、もやし作りがんばんべ」
「畑も耕さなきゃね」
大志はまた来てくれるのがわかっているので、前よりは不安もありません。エルフ達は、次の来訪を心待ちにして、大志達を見送りました。
見送りが終わったところで、ヤナさんが皆を集めて言います。
「では皆さん。これからの予定を確認しましょう」
「畑仕事ともやし作りかな?」
「後、山菜採りだな」
「お掃除とお洗濯も」
今までやってきたことに、畑仕事が加わりました。お仕事いっぱいですね。ヤナさんは作業ごとに割り振りを決めていきます。
「それでは、明日昼までは、全員で畑仕事をしましょう。出来るところまでで」
「お昼食べた後は?」
「山菜採りは男衆、掃除洗濯は女衆という分け方でどうでしょうか。もやしは各家庭ごとで」
「そうすんべ」
「それで良いわ~」
皆さんも特に異議は無いようです。大まかな予定は決まりました。
「では、これらの作業は明日からやることにして、今日はもう作業はせず明日に備えて休みましょう」
「「「はーい」」」
ヤナさんは大志に言われた通り、無理せずぼちぼちやる方針にしました。今日はもうおひらきです。それを聞いたハナちゃん。ご機嫌になって皆に言いました。
「みんな! 温泉入るです~」
今日は農作業をして汗もかいたし、ちょうどいいですね。夕食までまだまだ時間があるので、ゆっくり入れます。
「そうね、温泉入りましょう」
「良いねえ」
「お肌のお手入れしちゃいましょう~」
皆うきうき気分になってきました。お昼を食べて、お腹も一杯。そして温泉でくつろぐ。何とも贅沢な時間です。
「それでは、今日は気分を変えて、家族ごとではなく男女ごとに分かれましょう。たまには他の人と温泉に入るのも良いものですよ」
大志や他の人と一緒に温泉に入ったとき、思いのほか楽しかったのを思い出したヤナさん。皆の親睦を深めるために、こんな提案をしました。
「良いわね~」
「そうすっぺか」
「よーし、歳の近い奴同士で入ろうぜ」
ヤナさんの提案を聞いた皆さんも、盛り上がってきました。楽しい温泉、気の合う仲間と入るのも、また良い物です。
「じゃあ集会場で順番待ちをしましょう。女衆から先に入って良いですよ」
「じゃあお先に~」
「今日もお肌すべすべよ~」
「キャー! まだバスタオル乾いてないわ~!」
こうして、エルフ達の一日は過ぎていきました。さあ、明日からはまた大志のいない日々が始まります。
さてさて、無事に済むでしょうか……。
◇
一日目。
今日から農作業の始まりです。皆で朝食を食べた後、まだ家庭菜園を作っていないおうちの畑に集まりました。
これから大志に教わった通りに、畑を作るためです。
「では、畑を作りましょう!」
「作るです~」
集まった皆に、ヤナさんが言います。ハナちゃんも、ちいさなスコップ片手に、元気いっぱいです。大志が買ってきた園芸用品、早速使うのですね。
ちなみに、ショベルは足で押せるもの、スコップは足で押せないものだそうです。どうでもいいまめ知識ですね。
「ほんじゃ、畑仕事はじめるべ」
「んだんだ」
「俺この作業、割と好き」
ヤナさんの掛け声に伴い、皆は作業を始めました。昨日習った通りにやればいいので、特に問題もなく作業に取り掛かります。
まずは草むしり。ぶちぶちと草をむしるエルフ達、和やかにお仕事をしていきます。
たった五坪の家庭菜園です。大勢でやれば、あっという間にできますね。人が多いという事は、良いことも沢山あるのです。まあ、ヤナさんがまとめなければ、見事に烏合の衆になるのですけど。
そうして草むしりはすぐに終わり、次は土を耕す作業です。ざっくざっくと耕していきます。
「今日は何軒のおうちの畑、作れるかしら」
「四軒くらい、いけるんじゃね?」
「草むしって、土起こすだけだしな」
「いや、種撒きあるでしょ。それ忘れちゃうとか、ないわ~」
「土だけ起こして種撒かないとか、やる意味ないわ~」
肝心の種まきを忘れていた人もおりましたが、エルフ達はワーワーと畑を作っていきました。それほど面積もないので、順調に畑が出来ていきます。
種を撒くときは、溝掘り職人ことカナさんが張り切っていました。開き直ったとも言います。
しゅっと一瞬で溝を掘るカナさん、既に熟練の域です。その様子にみんなが感心してほめてくれたので、調子に乗ってしまい不要なところまで溝を掘りました。
人は調子に乗ると、たいてい余計なことをします。
後にふと、その時の痛い行動を思い出して「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と一人で悶絶することにならないよう、気を付けたいものです。
そんな感じで、畑を作って行きます。ひとつのおうちが終わったら、次のおうち。こうして、お昼前位にはもう、予定していた数の家庭菜園が出来たのでした。
「こんだけやれば、今日は良いんじゃね?」
「残りのおうち、明日やればいいわよね」
「ぼちぼちでいいって、タイシさん言ってたしな」
習ったことは、まあまあうまくできちゃうエルフ達です。畑仕事はそつなくこなせました。
今日の予定をこなせたことを確認したヤナさん、皆に声をかけます。
「では皆さん、作業も終わりましたし、お昼にしましょう」
お待ちかねの時間です。
エルフ達は昨日習った、おやきを作って食べました。調理途中に奥様方が味見をし過ぎて、二個ほど追加で焼いていたのはどうかと思いますが。
お昼の休憩が終わったら、皆はそれぞれの作業に取り掛かります。山菜取りに、お掃除お洗濯。男女に分かれてお仕事です。
山に入った男衆、こんな感じで山菜取りをしています。
「これ! これ絶対美味いって!」
「もう見た目からしてダメじゃね」
「それが美味そうに見えちゃうお前はなんなの」
マイスターがマムシグサを指さして必死にアピール。でもそれもやっぱりアレする毒草です。名前から想像する通り、まむしに似た模様をしている見た目もアレな草です。
相変わらずの山菜班ですね。
お掃除お洗濯班の女衆は、温泉に集まって作業をしていました。
「手が冷たくなくていいわね」
「お湯だと、汚れが良く落ちるわ」
「石鹸で洗うと、驚きの白さに! ……ならないわね」
元から色ついてますからねそれ。白くしたいなら、漂白しないとだめですよ。奥さん。
そんなお洗濯班のそばでは、お掃除班がお風呂掃除をしています。
「そちらを頼みますね」
「任せて」
「早く温泉はいりたいわ~」
こうして山菜取りもお掃除お洗濯も、ある意味いつも通りにこなせました。
今日はほんとに順調です。夕方前には予定していた作業も終わりましたので、エルフ達はおいしい夕食を食べ、きれいにした温泉に入ってのんびりしたのでした。
今日一日、問題なく過ごせたエルフ達。あとは寝る前に最後のお仕事、もやしの仕込みが残っています。これはおうちごとに仕込むので、みんなおうちに帰ってから始めました。
ハナちゃんのおうちでは、にょきにょきさせたいハナちゃんが、かいわれ大根と豆もやしの担当になりました。特命任務です。ハナちゃんは大はりきり。
「にょきにょきも~やし~もやしです~」
豆もやしを、奇妙な歌を歌いながらご機嫌で仕込んでいくハナちゃん。手順は問題ありませんね。
プランターにお豆を入れて布をかぶせるだけなので、そこで問題が出るようなら何をしてもダメなのですが。
ご機嫌で豆もやしを仕込む様子を見ていたヤナさん、ハナちゃんに言いました。
「上手く出来たら、ハナが一番に食べていいからね」
「あい~」
上手く出来なかった場合のことは、特に言われてはいません。ヤナさんはお茶を濁したのです。
それに気づかないハナちゃんは大喜びで、あるだけ豆もやしを仕込んでしまいました。
ほかのおうちでは、失敗したら困るからと、半分のさらに半分だけ仕込んだのですが……。ハナちゃんはいきなり全力です。後先考えません。
勢いに乗ったハナちゃんは、豆苗とかいわれ大根も適当に仕込んで、今日はおしまいにしました。
もう良い時間。子供はおねむの時間です。
ハナちゃんはにょきにょきを楽しみにしながら、おねむしたのでした。
「すぴぴ」
二日目。
「にょっきにょき~のびてるですか~?」
ぽてぽて。
朝起きてすぐ、もやしの様子を見に来たハナちゃん。ご機嫌な様子でぽてぽて歩いてきました。
にょきにょきと芽がでるらしいので、もう気になって仕方がないのです。
どきどきわくわくしながら、もやしが置いてある場所に着いたハナちゃんでした。
しかし、そこには……。
「……あえ?」