第一話 羽田を目指して
お待たせいたしました。新章開始です!
離陸後しばらくして、飛行機は安定飛行に入る。
窓からは大海原が見え、景観抜群。
「タイシとおべんとたべるです~」
「それな」
「おなかペコペコさ~」
(おそなえもの~)
すると待ってましたかのごとく、みなさんお弁当を広げる。
あらかじめバスで移動中に配っておいた、お弁当だ。
これは空弁じゃなくて、ツアー会社にお願いしておいたやつ。那覇空港はお取り置きサービスないからね。
ちなみに配った瞬間神輿は案の定早弁したので、神様だけ二個目である。
「はい、ユキちゃんもどうぞ。親父と高橋さんも」
「ありがとうございます」
「おう」
「でけえ」
仕舞っちゃう空間が無い方々の分は俺が保管してあるので、手渡してあげる。
お弁当抱えて飛行機に乗るのは、ちょっと大変だろうからね。
「た、大志さん……。これ、私では完食はちょっと……」
「このお弁当、キロ弁て言うらしい。ほんとに一キログラムあるんだって」
「ずっしりしてますよ……」
そしてお弁当を受け取ったユキちゃん、若干引いている。
確かに、うら若き女子にこの量はキツいだろう。
というかほかの女子たちは、大丈夫かな?
「あら~、たくさんあっていいわ~」
「ずっしりおべんとうとか、すてき」
「ちょうどいい、りょうなの」
「わきゃ~ん、たっぷりさ~」
(はらはちぶんめ~)
ユキちゃん以外は、キロ弁でも全然問題ない感じ。
そりゃ、ぷにりますよ。大の男並に分量食べるとか、ふるえる。
神様とか、これで二キロのお弁当食べることになるんだよ?
……まあ、ほかの女子たちは問題なさそうだ。
ユキちゃんは全部食べられないけど、そこはお任せあれ。
「それじゃあ、食べきれない分は自分が食べるよ」
「お、お願いします」
「ハナもおてつだいするです~」
そうして仲良くお弁当をつつき始める。
さてさて、おいしくいただきましょう!
と、その前に。
「おべんとう、ウチらがあっためるさ~」
「ほかほかにするさ~」
ドワーフちゃん軍団に、お弁当をほかほかにしてもらって、と。
わきゃわきゃと巡回してくれるドワーフちゃんにお弁当を渡して、チンしてもらう。
「わきゃ~ん、タイシさんのやつ、あっためるさ~」
偉い人ちゃんとかは、自分の分だけではなく俺の分もあっためてくれた。
それでもしっぽは緑のままなので、蓄熱量はまだ安全圏内か。
緑に変わるだけでも、かなり余裕が生まれるってことなんだろうな。
「はい、あったまったさ~」
「ありがとうございます。やっぱり温めると、すっごく美味しそうですね」
「わきゃ~ん、ほんとさ~」
俺の分を温めてくれた偉い人ちゃんにお礼を言うと、緑しっぽをぱたぱた振って笑顔で返してくれた。
大事な熱を使ってくれて、ありがとう。
「あったまったさ~」
「ありがとうです~」
「こっちもできたさ~」
「良い匂いですね!」
そうしている間に、ハナちゃんとユキちゃんのお弁当も無事あったまった。
一緒に食べるとしましょうか。
「それじゃあ、一緒に食べよう。頂きます」
「あい~! いただきますです~」
「いただきます」
ほかほかになったお弁当を前にして、みんなで頂きますだ。
さて、今回発注をかけたのは、キロ弁デミハンバーグ弁当。見た目からして重戦車だ。
コンビニ弁当より二回りほど大きい容器の半分は、巨大などっしりハンバーグが陣地を占領している。
その上にデミグラスソースが、たっぷりかけられているね。
最上段には目玉焼きがトッピングされていて、おまけにチーズがどっさり。
暖めてもらったおかげで、とろりとろけるチーズの見た目が食欲をそそる。
ちなみに目玉焼きトッピングはサービスしてもらった。
もう半分はお惣菜が入っていて、マッシュポテトにコロッケ半分。
あとは野菜炒めにきんぴらゴボウだね。やだ、ヘルシー!
そしてご飯は別容器。スーパーのお惣菜コーナーでよく見るあの透明のフードパックに、ぎっしり詰められている。
このライスだけで、四百グラムあるんだって。
とにもかくにも重厚で、何もかもがズシリとくるステキお弁当である。
「これ、一つ五百円くらいなんだよ」
「あや! これだけはいって、ごひゃくえんくらいです!?」
「普段はそのお値段で売ってるんだって」
「利益出るんでしょうか、これ」
一キログラムの総重量があり、でっかいハンバーグが入っている。
それでもお値段五百五十五円。プライシングがなんかおかしい。
でもまあ節約したいこちらとしては、大変助かるね。
というわけで、量は満点。では、お味はどうかな?
「ひとまず食べてみよう」
「あい~」
「そうですね」
あまりに見事な量なのでついつい眺めてしまうけど、食べてこそのお弁当だ。
暖かいうちに食べよう。
まずは、メインのハンバーグを一口。
とろりとろけるチェダーチーズが絡み、濃厚かつまろやか。
その後にデミグラスソースとハンバーグの、よく知っているいつもの味が訪れる。
ハンバーグ自体もパサパサした印象はなく、暖めてもらったおかげかとってもジューシーだ。
チーズとデミグラスソース、そしてメインのハンバーグとその肉汁が口の中で踊る。
このお弁当、量もさることながら、味も良いじゃないか。
おもわず重厚なハンバーグとともに、ご飯をかき込む。
淡泊なお米の味がハンバーグのうまみを引き出し、相性抜群!
箸休めに優しい味のマッシュポテトをつまみ、野菜炒めでお口をリセット。
こちらも結構な分量があるので、バランスよく食べられるね。
そんなローテーションでハンバーグを食べて行くと、やがて下に敷いてあったケチャップで味付けされたパスタがこんにちは。
主張の強い味なんだけど、これ一口でチーズとデミグラスソースの味がかき消される。
いったん趣向を変えて、チーズとデミグラス一色になった頭を切り替えられるね。
さらにはトッピングされた目玉焼きも、いい仕事をする。
淡泊な白身やとろりとした黄身と一緒にハンバーグを食べると、また一味違ったまろやかさだ。
おかげで、飽きずに全部を食べきることができちゃう。
「うふふ~、うふふ~。これはおいしいです~」
「意外とするする食べられちゃいますね」
ハナちゃんとユキちゃんも、美味しく食べているようだ。
確かに濃厚なんだけど、ご飯も多いから意外と食べられちゃうんだよね。
というかご飯が多いので、これくらい濃厚じゃないとおかずが先になくなる。
結構考えられた分量と味付けのようだ。
「うめえ」
「ははは、これはいいね。いくらでもたべられそうだよ」
「あじがこくて、すてき」
「いままさに、ふとってるわ~」
周りを見た渡すと、エルフたちもほくほく顔で食べているね。
マッチョさんはガツガツ食べていて、きれいなマイスターはお上品な食べ方。
ステキさんは目をキラキラさせていて、腕グキさんは今まさに増えつつある何かを実感中だ。
「わきゃ~ん、ずっしりしてて、おさけにあうさ~」
「おなかペコペコだったから、いっそうおいしいさ~」
「たっぷりだね! おにくのおだんごだね!」
「きゃい~」
ドワーフちゃんたちは濃厚なハンバーグをおつまみに、お酒を飲み始めている……。
そして妖精さんたち、体が小さいのにもう半分くらい食べ終えていた。
食べるの早いね!
(おそなえもの~)
「ぎゃう~」
「ギニャギニャ」
「クワクワ~」
神輿と動物ちゃんたちは、マイペースでつついているね。
みんなお箸を使えていて、すごいなあ。
教えていないのに、なぜ使えるようになっているかは謎だけど。
「空からちたまを眺めながら、たっぷりお肉のお弁当。たまりませんね」
「めだまやきもはいっているので、うっとりだわ」
「ふが~」
ハナちゃん一家も、窓から外の景色を眺めてうっとりとお弁当を食べる。
ロケーション効果も相まって、おいしさ倍増だね。
「うふふ~、さいこうです~」
「ハナちゃん、ハンバーグ食べる?」
「あい~!」
ハナちゃんもユキちゃんからハンバーグをもらいながら、うふうふ笑顔だ。
景色を眺めてお耳がぴこぴこ、お肉を食べてエルフ耳がでろんと垂れ下がり。
食べたり眺めたり忙しいけど、大はしゃぎだ。
俺もユキちゃんから、ちょっと貰おう。
「ユキちゃん、自分も頂いて良いかな?」
「はい、もちろん良いですよ」
お願いして、ユキちゃんが食べきれない部分を分けてもらう。
大体半分くらいは、俺とハナちゃんが食べちゃう感じだ。
とはいえ、普通の女子ならこれを半分食べるのも大変なはず。
ユキちゃん結構健啖家なのかもね。
「あ、同じお弁当を一緒につつくとか、これはなかなか……」
そんな中、突如お隣に座っている謎の権現さんが、耳しっぽをぽわっと顕現させた。
ふふふとご機嫌なんだけど、そのトリガーがわからない。
「ふふふ、普通では起きない親密イベント。ふふふ……」
まあ、ごきげんしっぽがふあっさと振られて、俺の横顔に当たるわけで。
シルクのような肌触りのすばらしい毛並み、ありがとうございます。ありがとうございます……。
「あえ? タイシなんでおがんでるです?」
「ありがたいからかな?」
「ありがたいです?」
「フフフ……」
とまあ、そうして楽しくおなかを満たした後は、一休みだ。
機内にゆったりとした空気が流れる。
「うふ~、おなかいっぱいです~」
「美味しかったね、お弁当」
「あい~」
足をぱたぱたさせながら、ハナちゃんご機嫌。
とろんとした顔で、また外を眺め始めた。
「ちたま、おもしろいところです~」
ハナちゃんというか、エルフィン惑星系の方々にとっては、ちたまは異世界だ。
そりゃまあ、不思議なこといっぱいだろうね。
ただ、ちたま人からすると、エルフィン惑星系も不思議だらけだ。
「自分からすると、ハナちゃんたちの世界もすっごく面白いよ」
「あえ? ハナたちのところ、ふつうです?」
ハナちゃんに語りかけると、首をかしげてしまった。
まあ、そう思うのも普通か。
ちたま人だって、この世界を普通と思っているわけで。
この辺のギャップが、また面白い。
「ハナちゃんたちにとっての普通は、自分たちからすると不思議でいっぱいなんだよ」
「ふしぎです~?」
「不思議だね。楽しくなっちゃうよ」
「たのしくなっちゃうですか~!」
不思議で楽しいと伝えると、ハナちゃんキャッキャと喜ぶ。
好意的に見られて、嬉しいのかな?
そんな雑談をしながら楽しく空の旅を続けていると、キャビンアテンダントさんがカートを押してやってきた。
お待ちかね、ドリンクサービスにおもちゃ配布の時間だね。
「コーラにするです~」
「コーラ! コーラ!」
「うちはコンソメにするさ~」
「おれもコンソメで」
「ぶなんにまとめるのだ」
ハナちゃんや妖精さんたちは、コーラを選択した。
前に飲んで経験済みだから、安心してオーダーだね。
コーラ未経験の方々は、安定のコンソメだけど。
「はい、おもちゃでございます」
「ありがとうです~」
「わきゃ~ん、めずらしいこうげいひんさ~」
おもちゃの方はと言えば、飛行機がデフォルメされた、可愛らしいイラストの入ったマグカップだった。
中に巾着も入っていて、もらったお子様たちはご機嫌だね。
……偉い人ちゃんも、実は子供料金でご搭乗頂いている。
無理があるかなとか思っていたけど、結果的には正解で一安心だ。
増幅石のごまかしちゃう効果、様々である。
「うふふ~。かえったらこれで、おちゃのむです~」
「いいもの、もらっちゃったさ~」
「クワワ~」
まあ、機内限定おもちゃをもらったお子様方は、また楽しみができたね。
帰ったら、沖縄旅行の思い出を振り返りながら、そのカップを使ってくださいだ。
そうしてエルフィン惑星系の方々ご機嫌の空の旅は、賑やかに進む。
あと一時間もすれば、羽田空港へ到着だ。
みなさん、絶叫着陸イベント――もうすぐですよお。
◇
「ふじさんです~!」
「いいながめだね! きれいだね!」
「きれいな、やまさ~」
その後も順調にフライトでき、エアポケットにドーンも無くここまで来れた。
窓の外、はるか下にはフッジさんがそびえ立ち、頂上には傘のような雲がかかっている。
これはこれで、珍しい光景だね。
「けわしい、ちけいがあるな~」
「やまが、とんがってるわね」
「みずうみも、あるさ~」
やがて伊豆半島と箱根を通り過ぎ、小田原や湘南を通り過ぎ。
首都が見えてきた!
「ほらハナちゃん、でっかい町並みが見えてきたよ」
「あや! ほんとです~!」
「やっぱ、でけえな」
「どこまでも、まちがひろがっているさ~」
「はんぱねえ」
行きも見た町並みだけど、やっぱりみなさん盛り上がった。
俺も上空から見る首都圏の町並み、結構好きなんだよね。
いろんな工場や施設、地形があるのがよくわかる。
埋め立て造成された地域とかは、直線で構成され境界がはっきりしていて興味深い。
港湾とかは大規模施設がひしめき合っていて、あの施設群が俺たちの生活を支えていてくれているんだなって思えるわけだ。
内陸の施設も大事なんだけど、海洋国家ちたまにっぽんとしては、港湾施設が生命線ともいえる。
そうして町並みを眺めていると、湾岸が見えてきた。
もうあとちょっとで、羽田空港に着陸だね。
「もう少ししたら、着陸するよ」
「あや! そういえばそうだったです~!」
「かんぺき、わすれてた」
「あばばばばばば」
ハナちゃんに着陸がもうすぐだと伝えると、周りのエルフたちがあばばばとなった。
そうなんです、もうすぐなんですよお。
「わわわきゃ~ん……。また、あのおっかないしゅんかん、あるさ~?」
「飛行機は飛んだら必ず着陸しますから、これは仕方が無いかなと」
「わきゃ~ん」
偉い人ちゃんもぷるぷるだけど、これはどうしようもない。
まあ気絶したら、スピリタスで起こしますので……。
「わわわきゃ~ん……」
「あばば」
「もうすぐだね! だいはくりょくのやつ!」
(たのしみ~)
地上組ぷるぷる、飛翔組わくわくの着陸イベントが迫る。
というか、もう降下し始めているわけで。
湾岸の工業地帯とか、はっきり見えるね。
「あや~、どんどんさがってくです~!」
「もうすぐだぞ!」
「みがまえるさ~!」
機体が高度を下げるとともに、空気抵抗が強くなり揺れ始める。
若干左右に体を揺すられながらも、空港へと一直線!
「タイシ~」
そしてハナちゃんが、そっと右手を握る。
那覇空港に着陸したときほど緊張はしていないようだけど、まだ心細いようだ。
しっかり握り返してあげましょう!
「……」
あと、案の定左側の耳しっぽ権現さんからもホールドを頂いた。
細い指先なんだけど、握力結構あるね!
ただ俺としても、若い娘さんに手を握られてまんざらでもない。
血行が滞るのは気にしないことにしよう。
そうしてぷるぷる地上組やドキワク飛翔組、血行不良約一名を乗せた機は高度を下げていき――滑走路へアプローチ開始!
「あやややや~!」
「くるぞ! くるぞ!」
「わわわきゃ~ん!」
機内に緊張が走り、その数秒後――強いGとともに着陸!
体がシートに沈み込み、若干前のめりとなり、シートベルトが体に軽く食い込む。
着陸としてはスムーズな方だけど、それなりに迫力はあったね。
さてさて、ほかのみなさんは――。
「――……」
「おおお、結構びっくりしましたね」
「なんとか、がまんしたわ」
数名気絶する方々もおられたが、ヤナさんとカナさんは無事だった。
一度経験していたから、耐えられたようだ。
「……」
「すごかったね! たのしいね!」
(おもしろい~!)
気絶する方々の横では、大はしゃぎの飛翔体グループたち。
絶叫マシン大好き組は、やっぱり強い。
「半分くらい、かな?」
「ハナはだいじょぶだったです~」
「ドワーフさんたちは、全員気絶ですね……」
体のちっちゃいドワーフちゃんは、みなさん夢の国に旅立たれた。
しかしエルフたちは、そこそこ気絶したくらいだね。
でもまあ、無事羽田空港へ到着だ。
とうとう――本土に帰ってきた。
ここまで来れば、あとちょっとだ。
それじゃあいっちょ、バスに乗って長野を目指すとしましょうかね!
……道中、何事もなければ良いのだけど。




