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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十章 未来へと繋がる、色
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第三十五話 赤いグラスに、涙を添えて


「わっきゃっきゃ~ん」

「わっきゃわきゃ~」

「わきゃきゃ~」


 ということで、珍しい石造りの門を見てご機嫌なしっぽドワーフちゃんたちと、うっきうきで首里城見物を進める。


「わきゃ~ん、こっちもいしづくりさ~」

「すごいさ~」


 守礼門をからしばらく歩くと、歓会門かんかいもんがお出迎え。

 さっきのところより大規模な石造りで、ドワーフちゃんたちもっと大はしゃぎだ。

 元気に門の前まで歩いて行くと――。


「ギニャ?」

「あえ? タイシこのどうぶつ、なんです?」


 門の両脇にある石像に、フクロイヌとハナちゃんがかぶりつきになった。

 それはシーサーちゃんだね。元々はライオンちゃんだ。


「これはシーサーといって、守り神なんだよ」

(よんだ?)


 ――神輿が! 神輿がいつの間にか後ろに!?


「これが大本になった動物なの。たてがみが立派でしょ?」

「あや~、つよそうです~」

「この島にもいるのよ。野生じゃないけど」

「あや! こんなのいるです!?」


 神輿が俺の周りをくるくる飛んでいる間に、ユキちゃんがスマホでライオンちゃんを見せてあげているね。

 確かに動物園に行けば、だいたいライオンちゃんはおりますな。


「わきゃ~ん、いしをせいみつかこう、してあるさ~」

「しゃしんとるさ~」

「かっこいいさ~」


 ドワーフちゃんたちもシーサー像の前にあつまって、わっきゃわきゃと石像鑑賞だ。

 お目々キラキッキラで、首里城のそこかしこにある石材加工技術と、その建築物を楽しんでいるね。


「まじすげえ」

「これはさんこうになるな~」

「いいしごとしてる」

「かえったらまねしよ」


 エルフたちも、その精巧さに興味津々。

 おっちゃんエルフは、村に帰ったら真似するみたいだ。一生懸命写真を撮って資料を集めているね。


 そうして見事な石造りの建造物を見物しながら、みんなで歩いて行く。

 途中には龍樋りゅうひとか冊封七碑さっぽうしちひなどもあった。

 もちろんみなさん、大はしゃぎ。そのままキャッキャと進んで、今度は瑞泉門ずいせんもんがお出迎えだ。


「いしづくり、すごいです~」

「確かに見事だね」

「あい~」

「このへんって全部世界遺産なんですよね。遺構がそうだって書いてあります」


 ハナちゃん、またもや大きな門を見てキャッキャと大はしゃぎ。

 エルフ耳をぴこぴこさせながら、んしょんしょと石段を登っていく。

 あとに続くユキちゃんは、パンフレットをペラペラめくって、軽くだけど観光ガイドをしてくれているね。


 そして石段を上がり漏刻門ろうこくもんをくぐる。

 ここから先は有料区間なので、券売所で団体チケットを購入だ。

 その間、みんなはちょいと休憩。


「はいみなさん、入場券ですよ。どうぞ、はいどうぞ」

「ありがとです~」

「ありがと! ありがと!」

「こっからさきも、たのしみさ~」


 大半が子供料金の入場料を払って、いざ有料区間へ。

 広福門こうふくもん奉神門ほうしんもんをくぐって、とうとう正殿の前へ!


「あや~! なんかすっごい、ごうかです~!」

「大志さん、あれが正殿ですね!」

「しゃしん! しゃしんとります!」


 ハナちゃん真っ赤っかな建物を見てテンションアゲアゲ。

 元気に両手を広げて、ぽててっと走って行った。

 カナさんは一眼レフを構えて、こちらも資料集めに余念が無いね。


「ドハデだね! まっかっかだね!」

「でっかいね! たのしいね!」

「きゃい~」


 そして妖精さんたちも、このハデさに大喜び。

 キラキラハデハデ大好きな妖精さんだからかな?

 とまあ大はしゃぎの一行と一緒に、北殿入り口から館内展示を見物だ。


「おお! 模型がありますね!」

「よくできてるな~」

(おうち~)


 中には沖縄の歴史や文化、それと首里城のあれこれ、あと模型も展示してあった。

 これには模型好きのエルフたちかぶりつきだね。

 そうして大盛り上がりのまま、二階へと向かう。


「あやややや! まっかっかでキンキラしてるです~!」

「わきゃ~ん、かっこいいさ~!」

「ごうかだね! キラッキラだね!」

「ごうかでキラキラとか、すてき」


 二階は御差床うさすかがあり、ここは……玉座だね。


「あの椅子に、王様が座ってたそうですね」

「おうさま! おうさま!」

「きゃい~!」


 ユキちゃんがまたパンフレットをめくってガイドしてくれたけど、「王様」というワードに妖精さんたちきゃいっきゃい。

 なんかよくわからないけど、俺の周りをくるくる飛び始めたね。


「タイシさん、おうさま! おうさま!」

「そこにすわらないの? すわらないの?」

「おうさま~」


 あ、そういうこと。でもそこは別の王様の玉座だからね。

 俺が座る場所じゃないのだ。


「えっとね、そこは別の王様の場所だから、自分は座れないんだよ」

「そうなの? そうなの?」


 そうなのだ。君主以外座っちゃだめなところだね。

 あと、俺にはああいう玉座は向いていない。


「それに、自分にはああいうのは向いていないよ」

「きゃい? むいてない? むいてない?」


 つぶやくと、妖精さんが首を傾げてこちらを見つめる。

 そうだね、どっちかというと……。


「自分はみんなに囲まれながら、お花畑で座っているのが好きなんだ」

「きゃい~!」


 俺にはそれくらいがちょうど良い。

 妖精さんやハナちゃんユキちゃんや、村人たちに囲まれてあの村でのんびり過ごすのが向いているよ。


「そうだよね! そうだよね!」

「いっしょだね! いっしょ!」

「おうさま! おうさま!」


 あれ? なんか妖精さんたちがきゃいっきゃいで集まってきた。

 キラッキラがまぶしい。 


「あや~、タイシみえなくなったです?」

「大志さんなら、あの光の中心あたりにいるよ。多分だけど、今目がくらんでると思うかな」

「ですか~」


 ユキちゃん正解! めっちゃまぶしい!


「タイシさん、懐かれてますね」

「おんなのこたちだもの」

「まぶしいさ~」

「すがたがみえなくなるとか、ふるえる」


 まぶしくてよくわからないけど、みなさんが遠巻きにしている気配が。

 このようせいシャイニングトルネード、いつまで続くのだろうか……。



 ◇



 妖精さんキラキラで目がくらんだ後も、楽しく首里城観光をして。

 一通り回って首里城を後にし、今度こそ空港へと向かう。


「わきゃ~ん、ふしぎなたてものだったさ~」

「なんだか、えらいひとがすんでそうだったさ~」

「たのしかったです~」


 珍しいものを見れてほくほくのみなさん、バスの中でもキャッキャしているね。

 あとはこのままバスに乗って那覇空港、そしておヒコーキに乗って帰還だ。


「あ~、とうとう旅行も終わりか」

「あっというまだったです~」

(あそんだ~)


 バスの車窓を流れる沖縄の風景を見て、感慨にふける。

 楽しかった沖縄旅行、もうすぐ終わっちゃうのだと。


「……そう言えば、もしもは一度も無かった」

「あえ? ユキどうしたです?」


 そんな中、耳しっぽさんが何かに気づいたようだ。

 もしもって、何のことなのだろうか。


「ま、まあもしもが無くても、大丈夫よね。そう、大丈夫なの」

「タイシ~、ユキがかえってこないです~」

「そっとしておこう」


 自分に何かを言い聞かせ始めた黒耳しっぽさんだけど、若い娘さんだからね。

 そっとしておくのが一番だ。

 俺は危機管理に定評があるからね。


「わきゃ~ん、りょこう、さいこうだったさ~」


 耳しっぽさんをそっとしておいたところで、偉い人ちゃんはご機嫌で窓の外を眺めている。

 緑しっぽをぱたぱた振って、にっこにこだ。

 ……この旅行が、彼女に緑しっぽという幸をもたらした。

 俺としても、本当に(無理矢理)誘って良かったと思う。

 彼女のこれからにも、幸あれ。


 そうしてみんなで盛り上がりながらも、とうとうバスは那覇空港へと到着。

 手続きを済ませて飛行機に乗れば、沖縄とはお別れとなるのだ。


「それじゃみなさん、空港へ入って手続きをしましょう」

「「「はーい!」」」


 バスから降りて、空港へと入る。

 すると――。


「あ、大志さんたち来たよー!」

「お待ちしておりました!」

「はいさい~」

「ば~ぶ~」


 ――キジムナーさんたちや、果物農家さん一家が……待っていた。

 みなさん俺たちを見つけて手を振っている。

 どうしたんだろう?


「みなさん、どうされました?」

「お見送りしにきました」

「見送りですか! それは嬉しいですね!」

「あれほど世話に~なりましたから~。当然ですよ~」

「ありがとです~」

「こちらこそだよー」


 話を聞くと、俺たちを見送るためにわざわざ那覇まで来てくれたらしい。

 ほんとに嬉しいね。感動ものだ。


「おみおくりだって」

「みおくってくれるとか、すてき」

「なける」

「ありがとね! ありがとね!」

「ありがたいさ~」


 村人たちも、見送ってもらえると聞いてじーんとしている。

 俺たちがやってきたこと、ちゃんと認めてもらえたんだって実感できるからね。

 奇妙な偶然と成り行きが重なった結果だけど、やってよかった。


「それに報告もあるよー」


 みなさんの登場にじーんとしていると、二人のキジムナーさんがこっちにやってきた。

 報告? なんだろう。


「報告といいますと?」

「えっとねー。俺、あのホテルに就職決まったんだー」

「おお! そうなのですか!」

「本物のキジムナーが働く、ホテルになるよー」


 話を聞くと、あの素敵なホテルに就職したという。

 キジムナーさんたちに好意的だし、職場環境もよさげだった。

 なによりあの支配人さんが、とっても面白い。

 良いところに就職できたのでは、と思う。


「俺らはニライカナイに帰るけど、ちょくちょくディナー食べに行くよー」

「あそこの食事、おいしいからねー」


 ほかのみなさんは故郷で過ごすようだけど、ちょくちょく顔は出すみたいだね。

 神秘が働き、神秘が顔を出す面白いホテルになりそうだ。


「めでたいですね。お仕事がうまくいくよう、私も願いますので」

「ありがとねー」

「カミが願ってくれるなら、安心だよー」


 そうして見送りに来てくれたみなさんと、グっと握手する。

 お互いのこれからについて、幸あれだ。


「キジムナー火の出荷については、またメールするねー」

「品質保証付きだよー」

「はい、こちらからもメールをお送りしますので、よろしくお願い致します」


 ニライカナイへと帰る組も、健康食品キジムナーファイアの出荷というお仕事がある。

 これからも、よろしくだね。


「うちからは、果物を送ります」

「今新しい作物を試す計画がありますので、その際はご感想をお願いしたいですね」

「ええ、楽しみにしていますよ。もちろん感想も送りますので」

「ば~ぶ~」


 果物農家さんも、今後の付き合いは続きそうだ。

 末永くお願いします。


 そんな見送りメンバーとひとときの交流をし、別れを惜しむ。

 でも、そろそろ時間だ。


「大志、チケットは準備完了だぜ」

「もうチェックインできるから、後は保安検査を受ければ飛ぶだけだ」

「二人ともありがとう。それじゃ……手続きするか」


 親父と高橋さんが準備をしてくれて、いよいよお別れ。

 名残惜しいけど、手続きに入ろう。


「それでは、名残惜しいですが……長野に帰ります」

「お気をつけて」

「また~来てください~」

「歓迎するよー」


 チェックインカウンターの前で、最後の挨拶をする。


「みんな、ありがとです~」

「たのしかったわ~」

「ありがとね! ありがとね!」

「さようならさ~」


 お見送り組に手を振って、チケットをかざしチェックイン。

 カウンター越しに、お互い手を振り合う。


「ほんと、来て良かったね」

「あい~」

「最高の思い出、できましたね!」


 そうして両者手を振り合い、俺たちは帰途につく。

 見送ってくれたみんなは、やっぱりいつまでも、いつまでも手を振っていてくれたのだった。


 そんな嬉しくもあり、さみしくもある見送りの後は。

 帰還に際しての最初の難関、保安検査だ。


「わきゃ~ん、ぶじとおれたさ~」

「あっさりだね! らくしょうだね!」

「このへんは、もうなれたわ~」

「ぎゃうぎゃう~」


 まあ来るときに一度やっているので、余裕で通過だね。

 妖精さんたちもキラキラを抑えているので、もう金属探知機に引っかかることもない。


(ども~)

「ピー」


 だがしかし、神輿はどうしてもひっかかるわけで。

 ここはあれですよ。フォローしないとだね。


「あの~、この方は……」

「神輿ですよね。どうぞお通りください」

(あっさり~)


 ――こっちがいう前に! なんか神輿だからって通された!?


「ははは、あっさりとおれたよ」


 ――きれいなマイスターも! なんかあっさり通ってる!

 毒が抜けたら、磁石体質も改善されたの!?



 ◇



 ……腑に落ちないところは多々あれど、まあみんな無事保安検査をパスした。

 俺がフォローするまでもなく、あっさり。

 特に神輿とマイスターはなんかおかしい気がするけど、通れてしまったのだからしょうがない。

 まあ、気にしないことにしよう。


「あとは、搭乗を待つだけですね」

「のんびりするです~」


 保安検査を通った後は、搭乗待ち。

 時間が来るまで、ハナちゃんのいうとおりのんびりだね。

 お土産屋さんでも覗いて、お買い物をしようかな?


「あっちにお土産屋さんがあるから、覗いてみる」

「おみやげ! いくです~!」

「みんなで行ってみましょうか」


 ということで、みんなでお土産屋さんを物色だ。

 空港のお店だけあって、品揃えが超豊富!


「おいしそうなおかしだね! おかし!」

「おかいものしましょ! おかいもの!」

「これください~」


 妖精さんたちは、さっそくお菓子を物色。

 妖精スイーツ販売でためたお金を使って、きゃいっきゃいでお買い物だ。


「おさけ、かっていこうぜ」

「それな」

「どれにしようかな~」


 エルフたちはお酒を買うようで、キャッキャと瓶を手に取っている。

 俺も一本買おうかな?


「ハナ、このおもちゃを買ってあげるよ」

「おとうさん、ありがとです~」


 ハナちゃんはヤナさんにおもちゃを買ってもらって、ご機嫌だ。

 エルフ耳をぴっこぴこさせながら、キャッキャしているね。


「あら~、これはなにかしら~」

「保湿クリームですね。洗顔後にお肌につけると良いですよ」

「――おはだによいって、きこえたわ」

「くわしく」

「美しくなれるのかしら」

「え? え?」


 そして美容品コーナーでは、ユキちゃんが女子エルフに包囲され美のレクチャーをしていた。

 大変そうだったので、ねぎらいの意味も込めてお高い化粧品をプレゼントしたら、ユキちゃん耳しっぽをふあさっと顕現させて喜んでくれたけど。


「フフフ……化粧品を贈られるのは、何か特別な意味が……」


 しかしなぜかあっちの世界に行ってしまわれたが。

 若い娘さんは、難しいものである。


(おそなえもの~!)

「タイシ、ありがとです~」


 もちろん神様にも、シーサーぬいぐるみをプレゼントだ。

 今回の旅で、ご当地のぬいぐるみをたくさんゲットした神輿もご機嫌だね。

 そしてハナちゃんにも同じぬいぐるみをあげたので、大事にしてね。


 と、楽しくお買い物をしていたときのこと。


「わきゃ~ん……」


 偉い人ちゃんが、琉球ガラスのコーナーでしっぽをピクピクさせていた。

 色とりどりのグラスを手に取って見ているね。


「わきゃ。……わきゃ~ん」


 しかし値札を見て、そっと棚に戻す。予算オーバーかな?

 偉い人ちゃんにもお小遣いは渡してあるけど、心許ないのかも。

 ……あれだ、せっかくだから、偉い人ちゃんにもプレゼントしてあげよう。


「あの、よろしければ、その容器をお一つ贈りますよ」

「わきゃん! いいのさ~? ……でも、わるいさ~」


 プレゼントを申し出たら、すっごい嬉しそうにしっぽをぱたぱた。

 しかし……はた、と振るのをやめてしまう。

 欲しいのだけど、申し訳ないって感じだね。遠慮しなくて良いのに。

 ここはもうちょっと、押していこう。


「あの子たちのお引っ越しを手伝ってくれた、お礼もかねてです。遠慮なさらず。ささ、どうぞどうぞ、お好きなものをお一つ!」

「……わ、わきゃん。そ、それなら……」


 もうグイグイ押して、欲しいものを選んでもらった。

 それは――美しい模様の入った、赤いグラス。

 この色を選んだのは……彼女にとって、いろいろな意味があるように思う。


「これを、おねがいするさ~」


 おずおずと差し出すそれを手に取って、お会計だ。

 この赤いグラスを、贈ろう。


「では、お納めください」

「わきゃ~ん! ありがとうさ~!」


 袋を受け取り、中のグラスを覗いてわっきゃわきゃと喜ぶ偉い人ちゃん。

 緑しっぽをパタパタ振って、にこにこ笑顔だ。

 そうして、しばらく喜ぶ様子を見ていたときのこと。


「わきゃ……。ウチ、りょこうにきて、ほんとによかったさ~……」


 感極まったのか、ぐしぐしと泣いてしまった。


「あっちでは、ねつもためられず、およぐこともできなくて。とおくにもいけなかったさ~……」


 偉い人ちゃんは、熱があまりためられないというハンデがあった。

 明るく振る舞ってはいたけど、いろいろ抱えていた思いもあるのだろう。

 そのまま、ぐしぐしと涙を流す偉い人ちゃんの言葉に、耳を傾ける。


「でも、しっぽがみどりになって、たくさんおよげるようになったさ~!」


 やがて、ぐしぐし涙顔だったのが、緑しっぽを抱えて嬉しそうな顔になる。

 そうですね。しっぽが緑になって、みんなでお祝いしましたね。

 でも、たくさん泳げるようにはなってないです。

 それは誤差ですよ。気のせいかなと。


「じつはウチ、いろいろあきらめていたさ~」


 心の中のつっこみはさておき、偉い人ちゃんが語る。

 いろいろ諦めていた、らしい。

 それはひとえに、青しっぽ体質のせいだったのだろう。

 でも今は、もうそんな心配はいらない。


「もう大丈夫ですよ、諦めることなんてしなくても良いです」

「……ほんとさ~?」


 声をかけると、偉い人ちゃんがおずおずと見上げた。

 もちろん本当ですよ。


「ええ、してみたかったこと、できなかったこと……。これから――挑戦してみてください。私も、手を貸しますので」

「ウチ、ちょうせんしても、よいさ~?」

「どんどん挑戦してください。応援もしますし、助力は惜しみません」

「わきゃ~ん!」


 明るかったけど、前向きだったけど。

 それでも、どこかに「しかたがない」と諦めがあった偉い人ちゃん。

 しかしそのまなざしは――前よりずっと、まっすぐ。

 まっすぐ前を向き始めた。


「お体の方もですよ。いずれ、そのグラスの色ように……赤く変えられる方法、見つけたいと思っています」

「わきゃん! そんなこと、できるさ~!?」

「正直確約はできません。ですが、目指す価値はあるかと思っています」

「わきゃきゃ~ん!」


 この辺は要調査だけど、目指すところはそこだ。

 普通のドワーフちゃん並の、蓄熱能力。

 そこまで行けば、もう憂いはないだろう。


「村に帰ったら、目指しましょうよ。赤いしっぽを」

「そうするさ~! ウチ、がんばるさ~!」


 ぐしぐしと泣いていた偉い人ちゃん、もうすっかり笑顔だ。

 目標に向かって進もうという顔をしている。

 この沖縄に来て、彼女は未来への希望を見つけた。

 その未来――切り開こうじゃないか!


「わきゃきゃきゃ~ん!」


 元気になった偉い人ちゃん、グラスの入った袋を抱えてしっぽをぱったぱたと振る。

 緑のそれは、希望にあふれて元気いっぱい。


「めからあせが~! あせが~!」

「もらいなきだね! もらいなき!」

「ハナたちも、てつだうです~」

「ええはなしや……」

「大志さん、私も協力しますよ!」


 ……そして俺たちの後ろでは、みんなが号泣している。

 俺と偉い人ちゃんのお話、全員に丸聞こえだったのね。


「大志、おまえそんなところで口説いてんなよ」

「公衆の面前だぞ……」


 同じくもらい泣きしている親父と高橋さんからは、「ですよね」としか言いようがないつっこみをいただいた。

 いや、でもこれはあれなんだよ。そう、あれだ。

 それ系なんだ。



 ◇



 公衆の面前でいろいろ晒してしまった事件はあったものの、俺たちは無事飛行機に乗り込んだ。

 これが飛び立てば、もう沖縄とはお別れ。

 元の生活、長野の隠し村へと戻る旅が始まる。


「あや! タイシてをにぎってほしいです~!」

「もちろんだよ。はいどうぞ」

「ありがとです~」


 飛行機は加速を始め、重力が俺たちの体をシートに押し付ける。


「……」

「ユ、ユキちゃんも、もちろんどうぞ」

「フ、フフフフ……」


 左右の二人から手を握られ、血流は滞り。

 そんな俺の状態にも構わず、飛行機はどんどん速度をあげて行き――。


「あややや~! とんだです~!」

「わ、わわわわきゃ~ん!」

「うおおおおお! やっぱなれねえ!」

「こわわわわわ!」


 ――まるで、体重が一瞬ゼロになったかのような感覚を伴い、離陸した。

 窓からは、小さくなっていく沖縄の地が見えて。

 海で遊んで、ホテルでくつろいで、楽しい人々と交流をして。

 偉い人ちゃんが涙を流したあの地から――離れて行く。


「おきなわ、たのしかったです~!」

「最高でした!」

「わきゃ~ん! おきなわ、ありがとうさ~!」


 上昇を続ける飛行機は怖いけれども、それでもハナちゃんやユキちゃん、偉い人ちゃんも。


「すげえところだったぜ~!」

「ゆめみたいだったわ~」

「おきなわこれたとか、ほんとすてき!」

「たのしかったよ! ありがと! ありがと!」

「いいところだったさ~!」


 他の村人たちも、みんな遠ざかっていく沖縄に、別れの言葉を告げている。

 その顔は、みんなみんな、笑顔だった。


 さようなら、不思議な楽園の島。

 そしてありがとう。楽しい思い出を沢山与えてくれて。

 またいずれ……来れたら良いな。


これにて今章は終了です。みなさま、お付き合い頂きありがとうございました。

そして長い長い沖縄の旅が終わり、とうとう帰還の旅が始まります。

そうなんです、おうちに帰るまでが遠足なのです……。

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