第三十五話 赤いグラスに、涙を添えて
「わっきゃっきゃ~ん」
「わっきゃわきゃ~」
「わきゃきゃ~」
ということで、珍しい石造りの門を見てご機嫌なしっぽドワーフちゃんたちと、うっきうきで首里城見物を進める。
「わきゃ~ん、こっちもいしづくりさ~」
「すごいさ~」
守礼門をからしばらく歩くと、歓会門がお出迎え。
さっきのところより大規模な石造りで、ドワーフちゃんたちもっと大はしゃぎだ。
元気に門の前まで歩いて行くと――。
「ギニャ?」
「あえ? タイシこのどうぶつ、なんです?」
門の両脇にある石像に、フクロイヌとハナちゃんがかぶりつきになった。
それはシーサーちゃんだね。元々はライオンちゃんだ。
「これはシーサーといって、守り神なんだよ」
(よんだ?)
――神輿が! 神輿がいつの間にか後ろに!?
「これが大本になった動物なの。たてがみが立派でしょ?」
「あや~、つよそうです~」
「この島にもいるのよ。野生じゃないけど」
「あや! こんなのいるです!?」
神輿が俺の周りをくるくる飛んでいる間に、ユキちゃんがスマホでライオンちゃんを見せてあげているね。
確かに動物園に行けば、だいたいライオンちゃんはおりますな。
「わきゃ~ん、いしをせいみつかこう、してあるさ~」
「しゃしんとるさ~」
「かっこいいさ~」
ドワーフちゃんたちもシーサー像の前にあつまって、わっきゃわきゃと石像鑑賞だ。
お目々キラキッキラで、首里城のそこかしこにある石材加工技術と、その建築物を楽しんでいるね。
「まじすげえ」
「これはさんこうになるな~」
「いいしごとしてる」
「かえったらまねしよ」
エルフたちも、その精巧さに興味津々。
おっちゃんエルフは、村に帰ったら真似するみたいだ。一生懸命写真を撮って資料を集めているね。
そうして見事な石造りの建造物を見物しながら、みんなで歩いて行く。
途中には龍樋とか冊封七碑などもあった。
もちろんみなさん、大はしゃぎ。そのままキャッキャと進んで、今度は瑞泉門がお出迎えだ。
「いしづくり、すごいです~」
「確かに見事だね」
「あい~」
「このへんって全部世界遺産なんですよね。遺構がそうだって書いてあります」
ハナちゃん、またもや大きな門を見てキャッキャと大はしゃぎ。
エルフ耳をぴこぴこさせながら、んしょんしょと石段を登っていく。
あとに続くユキちゃんは、パンフレットをペラペラめくって、軽くだけど観光ガイドをしてくれているね。
そして石段を上がり漏刻門をくぐる。
ここから先は有料区間なので、券売所で団体チケットを購入だ。
その間、みんなはちょいと休憩。
「はいみなさん、入場券ですよ。どうぞ、はいどうぞ」
「ありがとです~」
「ありがと! ありがと!」
「こっからさきも、たのしみさ~」
大半が子供料金の入場料を払って、いざ有料区間へ。
広福門と奉神門をくぐって、とうとう正殿の前へ!
「あや~! なんかすっごい、ごうかです~!」
「大志さん、あれが正殿ですね!」
「しゃしん! しゃしんとります!」
ハナちゃん真っ赤っかな建物を見てテンションアゲアゲ。
元気に両手を広げて、ぽててっと走って行った。
カナさんは一眼レフを構えて、こちらも資料集めに余念が無いね。
「ドハデだね! まっかっかだね!」
「でっかいね! たのしいね!」
「きゃい~」
そして妖精さんたちも、このハデさに大喜び。
キラキラハデハデ大好きな妖精さんだからかな?
とまあ大はしゃぎの一行と一緒に、北殿入り口から館内展示を見物だ。
「おお! 模型がありますね!」
「よくできてるな~」
(おうち~)
中には沖縄の歴史や文化、それと首里城のあれこれ、あと模型も展示してあった。
これには模型好きのエルフたちかぶりつきだね。
そうして大盛り上がりのまま、二階へと向かう。
「あやややや! まっかっかでキンキラしてるです~!」
「わきゃ~ん、かっこいいさ~!」
「ごうかだね! キラッキラだね!」
「ごうかでキラキラとか、すてき」
二階は御差床があり、ここは……玉座だね。
「あの椅子に、王様が座ってたそうですね」
「おうさま! おうさま!」
「きゃい~!」
ユキちゃんがまたパンフレットをめくってガイドしてくれたけど、「王様」というワードに妖精さんたちきゃいっきゃい。
なんかよくわからないけど、俺の周りをくるくる飛び始めたね。
「タイシさん、おうさま! おうさま!」
「そこにすわらないの? すわらないの?」
「おうさま~」
あ、そういうこと。でもそこは別の王様の玉座だからね。
俺が座る場所じゃないのだ。
「えっとね、そこは別の王様の場所だから、自分は座れないんだよ」
「そうなの? そうなの?」
そうなのだ。君主以外座っちゃだめなところだね。
あと、俺にはああいう玉座は向いていない。
「それに、自分にはああいうのは向いていないよ」
「きゃい? むいてない? むいてない?」
つぶやくと、妖精さんが首を傾げてこちらを見つめる。
そうだね、どっちかというと……。
「自分はみんなに囲まれながら、お花畑で座っているのが好きなんだ」
「きゃい~!」
俺にはそれくらいがちょうど良い。
妖精さんやハナちゃんユキちゃんや、村人たちに囲まれてあの村でのんびり過ごすのが向いているよ。
「そうだよね! そうだよね!」
「いっしょだね! いっしょ!」
「おうさま! おうさま!」
あれ? なんか妖精さんたちがきゃいっきゃいで集まってきた。
キラッキラがまぶしい。
「あや~、タイシみえなくなったです?」
「大志さんなら、あの光の中心あたりにいるよ。多分だけど、今目がくらんでると思うかな」
「ですか~」
ユキちゃん正解! めっちゃまぶしい!
「タイシさん、懐かれてますね」
「おんなのこたちだもの」
「まぶしいさ~」
「すがたがみえなくなるとか、ふるえる」
まぶしくてよくわからないけど、みなさんが遠巻きにしている気配が。
このようせいシャイニングトルネード、いつまで続くのだろうか……。
◇
妖精さんキラキラで目がくらんだ後も、楽しく首里城観光をして。
一通り回って首里城を後にし、今度こそ空港へと向かう。
「わきゃ~ん、ふしぎなたてものだったさ~」
「なんだか、えらいひとがすんでそうだったさ~」
「たのしかったです~」
珍しいものを見れてほくほくのみなさん、バスの中でもキャッキャしているね。
あとはこのままバスに乗って那覇空港、そしておヒコーキに乗って帰還だ。
「あ~、とうとう旅行も終わりか」
「あっというまだったです~」
(あそんだ~)
バスの車窓を流れる沖縄の風景を見て、感慨にふける。
楽しかった沖縄旅行、もうすぐ終わっちゃうのだと。
「……そう言えば、もしもは一度も無かった」
「あえ? ユキどうしたです?」
そんな中、耳しっぽさんが何かに気づいたようだ。
もしもって、何のことなのだろうか。
「ま、まあもしもが無くても、大丈夫よね。そう、大丈夫なの」
「タイシ~、ユキがかえってこないです~」
「そっとしておこう」
自分に何かを言い聞かせ始めた黒耳しっぽさんだけど、若い娘さんだからね。
そっとしておくのが一番だ。
俺は危機管理に定評があるからね。
「わきゃ~ん、りょこう、さいこうだったさ~」
耳しっぽさんをそっとしておいたところで、偉い人ちゃんはご機嫌で窓の外を眺めている。
緑しっぽをぱたぱた振って、にっこにこだ。
……この旅行が、彼女に緑しっぽという幸をもたらした。
俺としても、本当に(無理矢理)誘って良かったと思う。
彼女のこれからにも、幸あれ。
そうしてみんなで盛り上がりながらも、とうとうバスは那覇空港へと到着。
手続きを済ませて飛行機に乗れば、沖縄とはお別れとなるのだ。
「それじゃみなさん、空港へ入って手続きをしましょう」
「「「はーい!」」」
バスから降りて、空港へと入る。
すると――。
「あ、大志さんたち来たよー!」
「お待ちしておりました!」
「はいさい~」
「ば~ぶ~」
――キジムナーさんたちや、果物農家さん一家が……待っていた。
みなさん俺たちを見つけて手を振っている。
どうしたんだろう?
「みなさん、どうされました?」
「お見送りしにきました」
「見送りですか! それは嬉しいですね!」
「あれほど世話に~なりましたから~。当然ですよ~」
「ありがとです~」
「こちらこそだよー」
話を聞くと、俺たちを見送るためにわざわざ那覇まで来てくれたらしい。
ほんとに嬉しいね。感動ものだ。
「おみおくりだって」
「みおくってくれるとか、すてき」
「なける」
「ありがとね! ありがとね!」
「ありがたいさ~」
村人たちも、見送ってもらえると聞いてじーんとしている。
俺たちがやってきたこと、ちゃんと認めてもらえたんだって実感できるからね。
奇妙な偶然と成り行きが重なった結果だけど、やってよかった。
「それに報告もあるよー」
みなさんの登場にじーんとしていると、二人のキジムナーさんがこっちにやってきた。
報告? なんだろう。
「報告といいますと?」
「えっとねー。俺、あのホテルに就職決まったんだー」
「おお! そうなのですか!」
「本物のキジムナーが働く、ホテルになるよー」
話を聞くと、あの素敵なホテルに就職したという。
キジムナーさんたちに好意的だし、職場環境もよさげだった。
なによりあの支配人さんが、とっても面白い。
良いところに就職できたのでは、と思う。
「俺らはニライカナイに帰るけど、ちょくちょくディナー食べに行くよー」
「あそこの食事、おいしいからねー」
ほかのみなさんは故郷で過ごすようだけど、ちょくちょく顔は出すみたいだね。
神秘が働き、神秘が顔を出す面白いホテルになりそうだ。
「めでたいですね。お仕事がうまくいくよう、私も願いますので」
「ありがとねー」
「カミが願ってくれるなら、安心だよー」
そうして見送りに来てくれたみなさんと、グっと握手する。
お互いのこれからについて、幸あれだ。
「キジムナー火の出荷については、またメールするねー」
「品質保証付きだよー」
「はい、こちらからもメールをお送りしますので、よろしくお願い致します」
ニライカナイへと帰る組も、健康食品キジムナーファイアの出荷というお仕事がある。
これからも、よろしくだね。
「うちからは、果物を送ります」
「今新しい作物を試す計画がありますので、その際はご感想をお願いしたいですね」
「ええ、楽しみにしていますよ。もちろん感想も送りますので」
「ば~ぶ~」
果物農家さんも、今後の付き合いは続きそうだ。
末永くお願いします。
そんな見送りメンバーとひとときの交流をし、別れを惜しむ。
でも、そろそろ時間だ。
「大志、チケットは準備完了だぜ」
「もうチェックインできるから、後は保安検査を受ければ飛ぶだけだ」
「二人ともありがとう。それじゃ……手続きするか」
親父と高橋さんが準備をしてくれて、いよいよお別れ。
名残惜しいけど、手続きに入ろう。
「それでは、名残惜しいですが……長野に帰ります」
「お気をつけて」
「また~来てください~」
「歓迎するよー」
チェックインカウンターの前で、最後の挨拶をする。
「みんな、ありがとです~」
「たのしかったわ~」
「ありがとね! ありがとね!」
「さようならさ~」
お見送り組に手を振って、チケットをかざしチェックイン。
カウンター越しに、お互い手を振り合う。
「ほんと、来て良かったね」
「あい~」
「最高の思い出、できましたね!」
そうして両者手を振り合い、俺たちは帰途につく。
見送ってくれたみんなは、やっぱりいつまでも、いつまでも手を振っていてくれたのだった。
そんな嬉しくもあり、さみしくもある見送りの後は。
帰還に際しての最初の難関、保安検査だ。
「わきゃ~ん、ぶじとおれたさ~」
「あっさりだね! らくしょうだね!」
「このへんは、もうなれたわ~」
「ぎゃうぎゃう~」
まあ来るときに一度やっているので、余裕で通過だね。
妖精さんたちもキラキラを抑えているので、もう金属探知機に引っかかることもない。
(ども~)
「ピー」
だがしかし、神輿はどうしてもひっかかるわけで。
ここはあれですよ。フォローしないとだね。
「あの~、この方は……」
「神輿ですよね。どうぞお通りください」
(あっさり~)
――こっちがいう前に! なんか神輿だからって通された!?
「ははは、あっさりとおれたよ」
――きれいなマイスターも! なんかあっさり通ってる!
毒が抜けたら、磁石体質も改善されたの!?
◇
……腑に落ちないところは多々あれど、まあみんな無事保安検査をパスした。
俺がフォローするまでもなく、あっさり。
特に神輿とマイスターはなんかおかしい気がするけど、通れてしまったのだからしょうがない。
まあ、気にしないことにしよう。
「あとは、搭乗を待つだけですね」
「のんびりするです~」
保安検査を通った後は、搭乗待ち。
時間が来るまで、ハナちゃんのいうとおりのんびりだね。
お土産屋さんでも覗いて、お買い物をしようかな?
「あっちにお土産屋さんがあるから、覗いてみる」
「おみやげ! いくです~!」
「みんなで行ってみましょうか」
ということで、みんなでお土産屋さんを物色だ。
空港のお店だけあって、品揃えが超豊富!
「おいしそうなおかしだね! おかし!」
「おかいものしましょ! おかいもの!」
「これください~」
妖精さんたちは、さっそくお菓子を物色。
妖精スイーツ販売でためたお金を使って、きゃいっきゃいでお買い物だ。
「おさけ、かっていこうぜ」
「それな」
「どれにしようかな~」
エルフたちはお酒を買うようで、キャッキャと瓶を手に取っている。
俺も一本買おうかな?
「ハナ、このおもちゃを買ってあげるよ」
「おとうさん、ありがとです~」
ハナちゃんはヤナさんにおもちゃを買ってもらって、ご機嫌だ。
エルフ耳をぴっこぴこさせながら、キャッキャしているね。
「あら~、これはなにかしら~」
「保湿クリームですね。洗顔後にお肌につけると良いですよ」
「――おはだによいって、きこえたわ」
「くわしく」
「美しくなれるのかしら」
「え? え?」
そして美容品コーナーでは、ユキちゃんが女子エルフに包囲され美のレクチャーをしていた。
大変そうだったので、ねぎらいの意味も込めてお高い化粧品をプレゼントしたら、ユキちゃん耳しっぽをふあさっと顕現させて喜んでくれたけど。
「フフフ……化粧品を贈られるのは、何か特別な意味が……」
しかしなぜかあっちの世界に行ってしまわれたが。
若い娘さんは、難しいものである。
(おそなえもの~!)
「タイシ、ありがとです~」
もちろん神様にも、シーサーぬいぐるみをプレゼントだ。
今回の旅で、ご当地のぬいぐるみをたくさんゲットした神輿もご機嫌だね。
そしてハナちゃんにも同じぬいぐるみをあげたので、大事にしてね。
と、楽しくお買い物をしていたときのこと。
「わきゃ~ん……」
偉い人ちゃんが、琉球ガラスのコーナーでしっぽをピクピクさせていた。
色とりどりのグラスを手に取って見ているね。
「わきゃ。……わきゃ~ん」
しかし値札を見て、そっと棚に戻す。予算オーバーかな?
偉い人ちゃんにもお小遣いは渡してあるけど、心許ないのかも。
……あれだ、せっかくだから、偉い人ちゃんにもプレゼントしてあげよう。
「あの、よろしければ、その容器をお一つ贈りますよ」
「わきゃん! いいのさ~? ……でも、わるいさ~」
プレゼントを申し出たら、すっごい嬉しそうにしっぽをぱたぱた。
しかし……はた、と振るのをやめてしまう。
欲しいのだけど、申し訳ないって感じだね。遠慮しなくて良いのに。
ここはもうちょっと、押していこう。
「あの子たちのお引っ越しを手伝ってくれた、お礼もかねてです。遠慮なさらず。ささ、どうぞどうぞ、お好きなものをお一つ!」
「……わ、わきゃん。そ、それなら……」
もうグイグイ押して、欲しいものを選んでもらった。
それは――美しい模様の入った、赤いグラス。
この色を選んだのは……彼女にとって、いろいろな意味があるように思う。
「これを、おねがいするさ~」
おずおずと差し出すそれを手に取って、お会計だ。
この赤いグラスを、贈ろう。
「では、お納めください」
「わきゃ~ん! ありがとうさ~!」
袋を受け取り、中のグラスを覗いてわっきゃわきゃと喜ぶ偉い人ちゃん。
緑しっぽをパタパタ振って、にこにこ笑顔だ。
そうして、しばらく喜ぶ様子を見ていたときのこと。
「わきゃ……。ウチ、りょこうにきて、ほんとによかったさ~……」
感極まったのか、ぐしぐしと泣いてしまった。
「あっちでは、ねつもためられず、およぐこともできなくて。とおくにもいけなかったさ~……」
偉い人ちゃんは、熱があまりためられないというハンデがあった。
明るく振る舞ってはいたけど、いろいろ抱えていた思いもあるのだろう。
そのまま、ぐしぐしと涙を流す偉い人ちゃんの言葉に、耳を傾ける。
「でも、しっぽがみどりになって、たくさんおよげるようになったさ~!」
やがて、ぐしぐし涙顔だったのが、緑しっぽを抱えて嬉しそうな顔になる。
そうですね。しっぽが緑になって、みんなでお祝いしましたね。
でも、たくさん泳げるようにはなってないです。
それは誤差ですよ。気のせいかなと。
「じつはウチ、いろいろあきらめていたさ~」
心の中のつっこみはさておき、偉い人ちゃんが語る。
いろいろ諦めていた、らしい。
それはひとえに、青しっぽ体質のせいだったのだろう。
でも今は、もうそんな心配はいらない。
「もう大丈夫ですよ、諦めることなんてしなくても良いです」
「……ほんとさ~?」
声をかけると、偉い人ちゃんがおずおずと見上げた。
もちろん本当ですよ。
「ええ、してみたかったこと、できなかったこと……。これから――挑戦してみてください。私も、手を貸しますので」
「ウチ、ちょうせんしても、よいさ~?」
「どんどん挑戦してください。応援もしますし、助力は惜しみません」
「わきゃ~ん!」
明るかったけど、前向きだったけど。
それでも、どこかに「しかたがない」と諦めがあった偉い人ちゃん。
しかしそのまなざしは――前よりずっと、まっすぐ。
まっすぐ前を向き始めた。
「お体の方もですよ。いずれ、そのグラスの色ように……赤く変えられる方法、見つけたいと思っています」
「わきゃん! そんなこと、できるさ~!?」
「正直確約はできません。ですが、目指す価値はあるかと思っています」
「わきゃきゃ~ん!」
この辺は要調査だけど、目指すところはそこだ。
普通のドワーフちゃん並の、蓄熱能力。
そこまで行けば、もう憂いはないだろう。
「村に帰ったら、目指しましょうよ。赤いしっぽを」
「そうするさ~! ウチ、がんばるさ~!」
ぐしぐしと泣いていた偉い人ちゃん、もうすっかり笑顔だ。
目標に向かって進もうという顔をしている。
この沖縄に来て、彼女は未来への希望を見つけた。
その未来――切り開こうじゃないか!
「わきゃきゃきゃ~ん!」
元気になった偉い人ちゃん、グラスの入った袋を抱えてしっぽをぱったぱたと振る。
緑のそれは、希望にあふれて元気いっぱい。
「めからあせが~! あせが~!」
「もらいなきだね! もらいなき!」
「ハナたちも、てつだうです~」
「ええはなしや……」
「大志さん、私も協力しますよ!」
……そして俺たちの後ろでは、みんなが号泣している。
俺と偉い人ちゃんのお話、全員に丸聞こえだったのね。
「大志、おまえそんなところで口説いてんなよ」
「公衆の面前だぞ……」
同じくもらい泣きしている親父と高橋さんからは、「ですよね」としか言いようがないつっこみをいただいた。
いや、でもこれはあれなんだよ。そう、あれだ。
それ系なんだ。
◇
公衆の面前でいろいろ晒してしまった事件はあったものの、俺たちは無事飛行機に乗り込んだ。
これが飛び立てば、もう沖縄とはお別れ。
元の生活、長野の隠し村へと戻る旅が始まる。
「あや! タイシてをにぎってほしいです~!」
「もちろんだよ。はいどうぞ」
「ありがとです~」
飛行機は加速を始め、重力が俺たちの体をシートに押し付ける。
「……」
「ユ、ユキちゃんも、もちろんどうぞ」
「フ、フフフフ……」
左右の二人から手を握られ、血流は滞り。
そんな俺の状態にも構わず、飛行機はどんどん速度をあげて行き――。
「あややや~! とんだです~!」
「わ、わわわわきゃ~ん!」
「うおおおおお! やっぱなれねえ!」
「こわわわわわ!」
――まるで、体重が一瞬ゼロになったかのような感覚を伴い、離陸した。
窓からは、小さくなっていく沖縄の地が見えて。
海で遊んで、ホテルでくつろいで、楽しい人々と交流をして。
偉い人ちゃんが涙を流したあの地から――離れて行く。
「おきなわ、たのしかったです~!」
「最高でした!」
「わきゃ~ん! おきなわ、ありがとうさ~!」
上昇を続ける飛行機は怖いけれども、それでもハナちゃんやユキちゃん、偉い人ちゃんも。
「すげえところだったぜ~!」
「ゆめみたいだったわ~」
「おきなわこれたとか、ほんとすてき!」
「たのしかったよ! ありがと! ありがと!」
「いいところだったさ~!」
他の村人たちも、みんな遠ざかっていく沖縄に、別れの言葉を告げている。
その顔は、みんなみんな、笑顔だった。
さようなら、不思議な楽園の島。
そしてありがとう。楽しい思い出を沢山与えてくれて。
またいずれ……来れたら良いな。
これにて今章は終了です。みなさま、お付き合い頂きありがとうございました。
そして長い長い沖縄の旅が終わり、とうとう帰還の旅が始まります。
そうなんです、おうちに帰るまでが遠足なのです……。




