第三十四話 観光ラッシュだよ
「わ、わわわきゃ~ん……」
「すっごいさ~……」
「しょうげきてき、だったさ~……」
気絶したドワーフちゃんたち、しばらくして復活!
今はジンベエちゃんたちが泳ぐ水槽のすぐ横にあるカフェで、あま~いジュースを飲みながらのんびり休憩中だ。
ただ、すぐ横をでっかいのが泳いでいくわけで、彼女たちにとって休憩になっているかは定かではない。
「こ、こんなでっかいおさかな、みたことないさ~……」
偉い人ちゃんも緑しっぽをぷるぷる状態だけど、ほんとにびっくりしたみたいだね。
もっと巨大な海竜夫婦を見ていたとはいえ、ジンベエちゃんはまた別腹なようで。
「ぎゃう?」
ちなみに海竜ちゃんは「そお?」的な顔をしているけど、リザードマン世界の海と比べちゃいけない。
あっちは恐竜ワンダーランドであり、ロマンあふれるデンジャーワールドなのだから。
「わ、わわわきゃ~ん……」
とまあぷるぷるドワーフちゃんたちだけど、怖いもの見たさもあるのかお目々は水槽に釘付けである。
こっちに近づいてくると尻尾がピン! と立って、離れていくと安心するのかへにょっと垂れ下がる。
見ていてなかなか、可愛らしい。
「タイシタイシ~! あっちにへんなおさかなが、いるです?」
「変なお魚?」
「あい~、なんかすごそうなの、いたです~」
ドワーフちゃんたちを微笑ましく見守っていたら、ハナちゃんがキャッキャとこちらにやってきた。
変なお魚か。なんだろう?
「わきゃ? へんなおさかなさ~?」
「きになるさ~」
「うちらも、いってみるさ~」
俺たちの会話を聞いていたのか、ドワーフちゃんたちも興味を持ったようだ。
ハナちゃんが指さしていた方向へ、みんなぞろぞろと移動していく。
俺も行ってみるかな。
「じゃあハナちゃん、変なお魚のところまで行こうか」
「あい~」
ということで、ドワーフちゃんに続き俺とハナちゃんものんびりと移動。
ぽてぽてと歩くハナちゃんに先導されながら、いざ目的地へと。
「ここです~」
そしてハナちゃんがキャッキャと指さす先には――。
「あ、大志さんもいらっしゃいましたか」
ユキちゃんが一つの水槽を見ていた。これは、サメの水槽だね。
いろんなサメが泳いでいて、確かに面白い形をしたのもいる。
「おもしろいかたち、してるです~」
ハナちゃんサメをみてキャッキャだね。エルフ耳もぴっこぴこだ。
こういうサメみたいなのは、エルフィンではお目にかかれない不思議なお魚ってことかな。
「わきゃ~、たしかにおもしろいおさかなさ~」
「みたことないかたち、しているさ~」
「さっきのでっかいやつと、ちょっとにてるさ~」
ドワーフちゃんたちも、わきゃわきゃとサメを眺める。
こちらはジンベエちゃんよりは大きくないから、まだ大丈夫なようだね。
そうしてみんなで楽しくサメを眺めていた時のこと。
「……わきゃん?」
偉い人ちゃんが、サメコーナーにある……とある一角で足を止めた。
「なにかの、ホネがあるさ~?」
「わきゃ、たしかにホネっぽいさ~」
「とげとげしているさ~」
偉い人ちゃんに釣られて、他の子たちもそのコーナーに集まる。
そこは、サメの歯というか顎というか、まあその辺のホネを展示してあるところだね。
「タイシタイシ、これなんです?」
ハナちゃんも興味を持ったのか、これが何かを聞いてきた。
教えてあげよう。
「えっとね、これはあっちで泳いでいるお魚の、口のところのホネだよ」
「あや! こんなにキバついてるです?」
「そうなんだよ。このキバで、マルカジリするんだ」
「あ、あや~……。おもってたより、ヤバいおさかなだったです~……」
サメの鋭い歯を知ってしまったハナちゃん、エルフ耳をぺたんと下げてぷるぷる状態に。
ぷるぷるハナちゃんだね。
「……わきゃん? このやばそうなやつ、あのおさかなのやつなのさ~?」
「こ、こわいさ~……」
「おめめはつぶらなのに、じつはヤバいやつだったさ~……」
そして真相を知ってしまったドワーフちゃんたちも、しっぽぷるぷる状態に。
まあ確かに、油断するとあぶないお魚筆頭ではあるね。
「わ、わわわきゃ~ん……」
「ここ、こんなのもうみにいるのさ~?」
「うちら、おもきしおよいでたさ~……」
そうなんですよお。みんなが泳いでいた海は、サメもいたんですよお。
まあ、近寄ってきても俺や高橋さん、なんなら海竜ちゃんでも追い払える。
かまれても俺たちなら無傷だからね。
「大志さん、こっちに凄いのがありますよ」
とぷるぷるハナちゃんやぷるぷるドワーフちゃんを見ていたら、ユキちゃんが大はしゃぎでこちらにやってきた。
その指さす先には――。
「メガロドンの化石、でっかいですね!」
――巨大な口を開けた、キバキバしいメガロドンの化石が展示してあった。
「わきゃん? ――……」
「――……」
「……」
そして俺につられて化石を見たドワーフちゃんたち、ふっと気絶する。
ああいや、そのでかいやつは、もう絶滅しておりますので。
ちたまの海には、もういないはずですよ。
その後、ジンベエちゃんが泳ぐ姿をしたから見られるアクアルームで、あまりの迫力に気絶し。
深海の海コーナーではダイオウグソクムシを見てぷるぷるしたり。
でかいカニを見てじゅるりとしたりで、楽しく水族館見学をしたのだった。
そして一通り見学したあとは、お楽しみのお土産屋さんへと赴く。
「あや! かわいいぬいぐるみが、あるです~!」
「結構種類がありますね」
(きゃ~!)
お土産屋さんに到着するや否や、ハナちゃんと神輿はぬいぐるみコーナーへ直行。
リアルジンベエザメぬいぐるみをみて、お目々キラッキラだね。
ユキちゃんも興味があるのか、二人の後に続いた。
「ハナ、そのぬいぐるみが欲しいのかい?」
「あい~」
「じゃあ、僕が買ってあげるよ」
「ほんとです!? おとうさん、ありがとです~」
「ぬっふっふ」
ハナちゃんには、ヤナさんがぬいぐるみを買ってあげるようだね。
うれしかったのか、お父さんの足にひしっとしがみついて大はしゃぎだ。
じゃあ俺は、神様とユキちゃんにプレゼントしよう。
「神様とユキちゃんには、自分がぬいぐるみをプレゼントするよ」
「わあ! 大志さんありがとうございます!」
(ありがと~!)
ということでユキちゃんと神様にプレゼントをした。
ユキちゃんはマナティーのぬいぐるみを希望し、神輿はでっかいジンベエザメだ。
二人とも、ぬいぐるみを抱えてキャッキャだね。
「これ、かってあげるよ」
「あら~、これはかわいいわ~」
「おじょうさま、これとかどうかな?」
「かわいいこものとか、すてき」
マッチョさんときれいなマイスターも、腕グキさんとステキさんにプレゼントをしているね。
仲良きことは美しい。
と、楽しくお買い物をしていたときのこと。
「これとかおいしいね! たべほうだいだね!」
「あまいやつたくさんだね! たくさん!」
「きゃい~」
妖精さんたちが、きゃいっきゃいでお菓子を食べていた。
あれ? それって……。
「こっちもたべよ! たべよ!」
「きゃい~」
……試食のやつを、恐ろしい速度で消費しておりますな。
それは、食べ放題じゃなくてですね。味見のやつなわけでして。
根こそぎ食べたら、あかんやつですな。
…………。
――――大変だー!!!!
◇
「おかしたくさんだね! たべるのたのしみだね!」
「おみやげにしようね! おみやげ!」
「きゃい~」
試食品を食べまくった件に関しては、お菓子をたくさん買ってごまかした。
ま、まあ味見をしてから買うのは大事だからね。
とまあ、みんなでお土産を買ってほくほくイベントは無事? 終了だ。
お次は、水族館周辺の施設を見学となる。
イルカちゃんを見られたり、マナティちゃんを見られる施設があるので、まだまだ遊べちゃうのだ。
ということで、まずはイルカラグーンへとみんなで移動。
「ぴゅい~」
「イルカさんです~」
「かわいいですね!」
(すてき~)
ここではイルカを間近で観察することができるようで、元気に泳ぎ回るイルカちゃんをみんなでキャッキャと眺める。
神輿もイルカちゃんは大好きなようで、桃色イルカちゃんのぬいぐるみを抱きしめながらぴっかぴか光っているね。
「わきゃ~ん、なんだか、かわいいおさかながいるさ~」
「ニライカナイでみた、スナメリってやつににているさ~」
「わきゃ~」
ドワーフちゃんたちもイルカちゃんは怖くないようで、わっきゃわきゃと楽しく観察しているね。
しっぽもピン! としていて元気いっぱいだ。
「――! ――!」
「わきゃん?」
「――! ――! ――!」
ん? なんだかドワーフちゃんたちの方に、イルカちゃんが集まってきたね。
どうしたんだろう?
「わきゃ~、あいさつしてくれたさ~」
「うちらも、あいさつかえすさ~。 ――!」
「いいこたちさ~。――! ――!」
あ、イルカちゃんと超音波でコミュニケーションとってるみたい。
ドワーフちゃんたち、キャッキャと挨拶を返しているようだ。
そんなこともできるんだね。なかなか凄い。
そうしてイルカをみて盛り上がったり。
「……」
「あや~、めっちゃたべてるです?」
「マナティーって、のんびりしてますね」
マナティー館でマナティーちゃんをのんびり眺めたり。
なんだか、ずっともぐもぐと海藻を食べていた。食いしん坊さんだね。
とまあ無料で回れる施設を一通り巡り、楽しく海の生き物を眺めた。
「おもしろかったです~」
「さすが有名なだけあって、見所ありました」
(あそんだ~)
そして水族館観光を終え、みんなでバスに乗り込む。
ハナちゃんとユキちゃんはにっこにこ笑顔だね。
神輿もジンベエちゃんぬいぐるみを抱えて、ご機嫌で光っている。
「わきゃ~ん、たのしかったさ~」
「おっきなおさかな、びっくりさ~」
「いいおもいでに、なったさ~」
ドワーフちゃんたちもご機嫌で、しっぽをふりふりしているね。
巨大なお魚を怖がったりもしたけれど、慣れてからは楽しく鑑賞していたりした。
満足してもらえたようで、よかったよかった。
「やっぱすいぞくかん、おもしろいよな~」
「あんなの、どうやってつくるんだろ」
「ふしぎ」
エルフたちは二度目の水族館だったけど、エルフィンには無い施設なので結構楽しめたようだ。
写真を見たりパンフレットを見たりと、こちらも水族館の余韻に浸っているね。
「おかしたべよ! おかし!」
「あまいやつだね! あまいやつ!」
「さっそく~」
そして妖精さんたちは、お土産をもう食べ始めている。
フリーダムさ全開、きゃいっきゃいでお菓子パーリィ開始だね。
たくましい。
とまあ賑やかいっぱいなバスの中だけど、そろそろ帰途につかないとね。
名残惜しいけど、帰還フェーズに突入だ。
ラストスパート、いきましょう!
◇
ゆらゆらとバスに揺られて、空港を目指す。
ただ最後の最後に、一つイベントを仕込んでおいた。
「あえ? ここどこです?」
「クーコーってところとは、違いますよね」
「なんだか、あかいたてものが、みえるさ~?」
そう、そのイベントとは――首里城観光!
那覇空港へと向かう道中、ちょうど寄れるわけで。
そりゃ行くしかないでしょうと。
「はいみなさん、本日最後の観光です。沖縄で有名な建物見物ですよ」
「あや! ゆうめいなおうちです!?」
「すごそう」
「たのしみだな~」
というわけで、バスを降りてまずは無料区間を堪能することに。
首里杜館を抜けて、守礼門へ向かう。
「あや! まっかっかなやつ、あるです~」
「おもしろいかたち、しているさ~」
「ふしぎ~」
こういった豪華な門は見たことが無い村人たち、キャッキャと大はしゃぎだ。
のっけから珍しいものを見れたと喜んでいる。
大はしゃぎで門をくぐり、足取り軽やかに進んでいく。
「……わきゃん?」
そしてしばらく歩いたところで、偉い人ちゃんが足を止めた。
「わきゃ~ん、これすごいさ~!」
左側にある石造りの構造物の前で、しっぽをぱたぱた振り始めたね。
これは……なんだろ。パンフレットを確認して、と。
――園比屋武御嶽石門、て書いてあるね。
なんか世界遺産で、パワースポットらしい。
「おお! いいしごとしてる」
「みごとなできばえ」
「がっちりつくってあんな」
そしてエルフたちも、園比屋武御嶽石門を見てふむふむと感心し始めた。
たしかに、見事な石造りの建造物である。
石の加工が得意なエルフたちにとって、興味がわくんだろうな。
「わきゃ~ん! こんなかこうができるなんて、すごいさ~!」
「うちらじゃ、ちょっとむりさ~?」
「どうやって、こんなかこうができるのさ~?」
ただ、偉い人ちゃんやほかのドワーフちゃんの会話を聞くと、彼女たちはエルフとは違うポイントで感動しているようだ。
どうも、ドワーフィンは石材加工が苦手っぽいね。
ちょっと聞いてみよう。
「えっと……みなさんは石材加工とか、得意じゃないのですか?」
「あんまり、やってないさ~」
「いしをはこぶのも、くろうするさ~」
「おまけに、かこうするばしょも、ないのさ~」
聞いてみると、やっぱりそれっぽい回答が返ってきた。
まったくやっていないわけでもないけど、それほどの頻度でもなく。
さらに運ぶのも加工場所にも苦労しているようだ。
「あえ? みんなはいしをかこうするの、にがてです?」
「きんぞくのほうが、とくいさ~」
「すぐにかたちをかえられるから、らくなのさ~」
ハナちゃんも不思議に思ったのか、興味津々で聞いているね。
エルフたちからすると、金属を簡単に加工するドワーフちゃんたちのほうが、凄く見えるようで。
「うちらからすると、いしをじざいにかこうするのって、すごいことさ~」
「いしでつくった、はものとか、うちらじゃむりさ~」
「どうやってるか、ぜんぜんわからないさ~」
しかしドワーフちゃんからすると、エルフたちの石材加工技術が凄く感じると。
それぞれの星で、得意とする技術は結構違うようだ。
これは環境の違いなのか、種族の違いなのか。
なんにせよ、得意分野はあるっぽいね。
「おれのじまんのいしぼうちょう、みちゃう?」
「おみごとさ~」
「なぞのぎじゅつさ~」
そして始まる、おっちゃんエルフの石包丁展示会。
確かに見事だけど、また今度しましょうね。
「わきゃ~ん、こういうほうほうも、あるさ~。さんこうになるさ~」
そして偉い人ちゃん、さっきからずっとしっぽをふりふりだね。
なんかもう、すっごく石造りの門が気に入ったみたい。
ドワーフちゃんたちからすると、こういうのが珍しかったりするんだろうな。
まあ確かに、ドワーフィンでもドワーフちゃんたちの道具でも、石を加工したものは見ていない。
自分たちが持たない技術、しかも高度なやつをみたら、感激しちゃうかもだ。
そう言えば、偉い人ちゃんはコンクリート建築にとっても興味を持っていたね。
これはドワーフィン世界の住人共通の、関心事なのかも。
「わきゃ~ん、わきゃ~」
「なぞのぎじゅつさ~」
「めずらしいさ~」
そうしてしばらくの間、ドワーフちゃんたちは石造りの門を楽しそうに眺めていた。
でもまだまだ、ここは始まりですよ。
この先にもまだ、たくさん建物はあるわけで。
引き続き、楽しく首里城観光をしましょうだね!