第三十三話 ゆうめい観光地
とうとう沖縄旅行最終日。
朝ご飯を詰め込んだ後は、ホテル前のビーチで海遊びだ。
「残り少ない海遊び、思いっきり楽しんでください!」
「あい~!」
「およぐぞ~!」
「ぎゃうぎゃ~う!」
みんな気合い十分、わっと海へと走って行く。
思う存分、泳いでくださいだね!
「タイシタイシ~、いっしょにおよぐです~」
(およぐ~)
そして早速ハナちゃんと神様からお誘いだ。
二人で浮き輪にのりながら、エルフ耳がぴっこぴこ、神輿もぴっかぴかだね。
俺も一緒にのんびり泳ごう。もちろんユキちゃんも誘ってね。
「じゃあユキちゃん、一緒に行こうか」
「は、はい!」
ユキちゃんの手を引いてハナちゃんの所まで行き、二人が乗った浮き輪を押してあげる。
ついでに耳しっぽさんを背中にのせて、のんびり遊泳だ。
「あや~、らくちんです~」
(のんびり~)
「フフフ……密着」
ハナちゃんと神輿、両手を挙げてキャッキャと嬉しそうだね。
背中の耳しっぽさんは何故か首にしがみついてきたけど、それだと疲れるような気が。
でも、ふわふわ耳がふぁさっと頬に当たるので、個人的にはほくほくだ。
良い毛並みしてますね!
「うふふ~、たのしいです~」
(かいてき~)
「フフフ……」
そうして三人で楽しく泳いでいると、波間に漂う妖精さん軍団と遭遇。
今度は正統派に平泳ぎしているね。
ちょっと挨拶しておこう。
「みんなものんびり泳いでいるかな?」
「およいでるよ! のんびりだね!」
「わりといけるね! いけちゃったね!」
「わたしはしずむ~……」
イトカワちゃんは泳ぎがあまり上手ではないのか、沈みかかっている。
ひとまず救助しておこう。ひょいっと掬って、頭の上へ。
「ありがとね! ありがと!」
そうして俺の頭にしがみつき、イトカワちゃんはきゃいっきゃい。
頭上でキラキラ粒子を大量に放出するため、めっちゃまぶしい。
「きゃい~」
そんな妖精さんたちとも一緒に、ちょっと深いところまで。
浮き輪に乗ったハナちゃんと神輿、背中に乗ったユキちゃん、頭の上にはイトカワちゃん。
周りには泳ぎの上手な妖精さんたちが、きゃいっきゃい。
結構大所帯になったけど、楽しく遊泳だ。
そうして深いところに来てみると――。
「おねえさん、こっちさ~」
「わわわきゃ~ん、みんなはやいさ~」
「クワクワ~」
「ぎゃう~」
「ギニャ」
ミタちゃんと動物たちがすいすいと泳いでいき、偉い人ちゃんがわきゃわきゃと着いていく場面に遭遇した。
お姫様状態になっても、やっぱり運動は苦手なままなのね。
でも体の調子は良いのか、元気はある感じだ。
念のため確認しておこう。
「あの、お体の調子はどうですか?」
「わきゃ~ん、ちょうしはいいさ~。いつもより、はやくおよげているきがするさ~」
思った通り、調子は良さそうだ。
でも、いつもより早く泳げてはいませんよ。誤差の範囲内です。気のせいですね。
「わきゃ~ん」
「クワクワ~」
そのまま見守っていると、ペンギンちゃんが泳いできて偉い人ちゃんと泳ぎ始める。
かわいいペンちゃんと一緒に泳げて、運動苦手ちゃんもにっこりだね。
そんな微笑ましい光景を見守り、和んだりする。
こんな感じで、みんなと楽しく遊んでいたときのこと。
「ははは、みてごらん。きれいなおさかながよってきたよ」
……あっちのほうでは、きれいなマイスターに普通のお魚が寄ってきていた。
昨日までは毒のあるやつ専門だったのに、今日はまともだよ。
逆に違和感あるね。
「あのひと、にせものじゃないかしら~?」
「だれなんだろうな」
「ふるえる」
そして偽物扱いされるきれいなマイスター。
まともになったのに、扱い酷い。
でもマイスターだからしょうがないよね!
「おっと、これはおいしそうなかいそうだね。どれどれ?」
「たべたわ~」
「あらわないでたべるとか、ふるえる」
「おまえ、そこはかわんないんだな」
と思っていたら、流されてきた海藻をよく確認もせず、さらに洗わないでそのまま食べた。
よかった、根っこはなんにも変わっていない。
無駄に爽やかになっただけで、何でも適当に食べる本質はそのままだ。
やっぱりマイスターだったね!
それが良いのかどうかは、わからないのだけど。
とまあ、きれいなマイスターのいつもの芸を見たところで。
そろそろ海遊びはお終いの時間となった。
「それではみなさん、名残惜しいですが、そろそろホテルに帰りましょう」
「「「はーい」」」
たった一時間とは言え、みんな思いっきり遊んではいた。
名残惜しそうにしながらも、笑顔で海から上がる。
「あや~、たのしかったです~」
「フフフ……密着状態でのツーショット写真。フフフ……」
ハナちゃん大満足で、足取りも軽くぽててっと海から砂浜へ。
ユキちゃんも防水カメラの画像を確認しながら、黒いオーラ全開だ。
朝から耳しっぽさんダーク状態ですな。
若い娘さんは、良くわからない。
まあ黒耳しっぽさんは、そっとしておくとして。
海遊びの後は、体を綺麗にしなくちゃね。
この後の予定をお伝えしておこう。
「この後はお風呂で体を洗った後、一休みしてホテルを後にしますよ」
「きれいにするです~」
「おふろだね! おふろっ!」
「あったまるさ~」
「わきゃ~ん」
チェックアウトの時間があるので、あまり長湯は出来ない。
それでも、ホテルの素敵な温泉をあとちょっとだけ堪能しよう。
そうしてみんなでお風呂へ入り、体を綺麗にして。
「このサウナってのはすばらしいね。うまれかわったような、さわやかさだよ」
「ま~たおかしくなった」
「みがき、かかってんじゃん」
「だれなの?」
サウナから出てきたマイスターが黒くなっていたので、洗ったらもっときれいなマイスターになったり。
さっき蓄えた毒、もうデトックスしちゃったよ。
効き過ぎでしょこの人。
――ちなみに。
「わっきゃ~ん」
「また、くろくなってたです~」
「みんなで洗いました」
偉い人ちゃんも、さらにつや姫になっておったとさ。
まだキジムナー火の効果、残ってたのね……。
◇
楽しい海遊び、楽しいお風呂が終わって。
今俺たちは、ホテルのロビーに集合している。
「このホテルとも、今日でお別れか」
「良い所でしたね」
「すてきなところだったです~」
四泊五日の旅を支えてくれた、サービス満点のホテル。
部屋は快適で、お料理も美味しい。温泉だってすばらしい。
支配人さんも面白――おっと信心深い人で、大満足のホテルだった。
「またのお越しをお待ちしております!」
そして何故か見送りに来てくれた支配人さんと、ぐわっしと握手だ。
また機会があったら、お世話になりましょう!
「あ、あの……これをどうぞ」
「こ! これは――!」
あと、ユキちゃんが支配人さんへと、こそっとお札をあげていた。
あれ多分、おいな――おっと、商売繁盛的な効果のあるやつだよ。
本物から貰っているから、こうかはばつぐん! かもね。
「お、おお……本物から……」
ぷるぷる震える支配人さんだけど、よくしてくれたお礼だね。
ユキちゃんも、なんだかんだで感謝しているようだ。
信心深い人だから、これは嬉しいだろう。
とまあ、霊験あらたかなお札の贈与は見なかったことにして。
そろそろ、ホテルを後にしよう。
「それでは、お世話になりました。ありがとうございます!」
「ありがとです~」
「たのしかったね! よかったね!」
「いいところだったさ~」
「きてよかったわ~」
支配人さんに挨拶をし、歩いてホテルを出る。
涼しいロビーから出ると、ふわっと沖縄の香りと熱さが俺たちを包む。
これから道沿いを歩いて、観光イベント開始だ。
「またのお越しを~」
歩いていく俺たちを見送り、支配人さんが手を振ってくれる。
それは、姿が見えなくなるまで続いた。
ありがとう、素敵なホテルでした。また、いずれ。
◇
ホテルに別れを告げた後、道を歩いて五分ほど。
目的の施設が見えてきた。
「みなさん、目的地が見えましたよ」
「あや! なんかおさかなのでっかいやつが、あるです~!」
「カニっぽいのもあるさ~!」
「でっかいね! おもしろいね!」
施設の入り口には、カニさんやらカメさんやら――ジンベイザメのモニュメントが。
みなさん、この造形物に興味津々だね。
「目的地はもうちょっと先です」
「こっちですよ」
「あい~」
そのまま歩いて、海人門を歩いて、エスカレーターで降りる。
ここが入り口。施設名が書いてあるわけで。
「おや? 水族館と書いてありますね」
そしてヤナさん、その文字を見てここがどこだか分かったようだ。
そう、ここは――美ら海水族館!
有名な所だね!
「あや! すいぞくかんです!?」
「そうだよ、ここはすっごく有名な水族館なんだ」
「ゆうめいなところですか~。たのしみです~!」
俺とヤナさんの会話を聞いて、ハナちゃんお耳がぴっこん。
去年はマリンピアで大はしゃぎだったから、ここも気に入って貰えると思う。
思う存分、海の生きものを堪能してね。
「うふふ~、うふふ~」
「私もここに来るのは初めてなので、楽しみです」
「たくさん見て回ろうね」
「はい!」
うきうきハナちゃんの横では、ユキちゃんもうっきうきだ。
俺も初めてなので、結構楽しみ。
チケットは旅行会社さんに手配してもらったので、あとはみんなに配るだけ。
ではでは、ゲートをくぐって入館しましょう!
「はい、このチケットで入れますよ。どうぞ、はいどうぞ」
「改札のくぐり方は、私の真似をしてください」
「わかったです~」
俺がチケットを配り、ユキちゃんが実演して。
みんなすんなりと入館だ。
「あや~! ちっちゃないきものいるです~」
ゲートをくぐってすぐの所に、浜辺の生きものが展示してある。イノーの生きものたちって書いてあるね。
ハナちゃんぽててっと走って行って、うきうきと覗き込んだ。
「おや? これはなかなか、おいしそうだね」
「それはヒトデですから、毒がありますよ」
続いてきれいなマイスター、ヒトデが美味しそうとおっしゃる。
でもこの生きもの、ステロイドサポニンやら、アルカロイドやらたくさんだね。
お薬にもなるけど、分量には要注意でござる。
「ははは、そんなまさか」
「あきらかに、やばそうなみためよ~」
「トゲトゲしてるとか、ふるえる」
「やっぱ、ねっこはかわらんか」
さわやかだけど、やっぱり毒には縁がある。
そんな残念マイスター。
とまあ、それはそれとして。
そこから奥に行くと、サンゴの海や熱帯魚の海等々の展示がされていた。
シュノーケリングで見たお魚たちが、ゆらゆらと泳いでいる。
「うきゃ~、きれいです~」
「すてきだね! キラキラしてるね!」
「みずのなか~」
ハナちゃん水槽にかぶりつき、妖精さんたちもかぶりつき。
みんなでキャッキャと綺麗なお魚を見つめる。
大はしゃぎだね!
「……タイシさん、タイシさん」
――と、ハナちゃんたちを見守っていたら。
偉い人ちゃんが、つんつんと俺の肘をつついて問いかけだ。
何でございましょう?
「どうしました?」
「これ、これ……なにさ~?」
「おみずのなかに、いるさ~?」
「わきゃ~?」
「クワワ~?」
偉い人ちゃんの他にも、しっぽドワーフちゃんたちが唖然と水槽を見上げていた。
ペンギンちゃんもだね。
……そういえば、この子たちは水族館が初めてだったか。
「えっとですね。ここは海の生きものを透明で巨大な容器に入れて、飼育しているのです」
「わきゃん? しいく、してるのさ~?」
「そうです。海の中と似たような環境を作って、お魚を生きたまま観賞できるようにしている施設なのです」
「……」
水族館について軽く説明すると、ドワーフちゃんたち、ぽかん。
お目々まん丸、しっぽカチコチで、動かなくなってしまった。
「そんなこと、かのうなのさ~?」
やがて偉い人ちゃんが解凍して、再確認だね。
もちろん可能ですとも。
「ええ、可能ですよ。生きものを研究して、設備を作ってすごい努力の上で維持しています」
「わきゃ~ん……」
「うちらじゃ、おけのなかが、せいいっぱいさ~……」
「そもそも、とうめいなようきがないさ~」
「クワ~」
ドワーフちゃんたち、驚きすぎてしっぽがカチコチ。
そのままふらふらと水槽の前に歩いて行き、またまたぽかんと水槽を見上げる。
……飛行機の時とは、また違ったショックを受けたようだ。
水棲の文化を持っているだけに、ちたまの飼育技術は衝撃だったようだね。
「わきゃ~ん、わきゃきゃ~……」
「すごいさ~、おさかな、たくさんさ~……」
「すてきさ~……」
「クワックワ~」
そのまま、ドワーフちゃんたちとペンギンちゃんは水槽を見つめ続ける。
普段はエコーロケーションで水中を見ている彼女たち。
こうして水槽越しにお魚を見つめるのは、初めての体験だ。
しばらくの間、しっぽカチコチのまま、見つめていたのだった。
やがて――。
「わわわきゃ~ん、すごいたいけんしてるさ~!」
「りょこう、きてよかったさ~!」
「おさかな、おさかなさ~!」
やがて、しっぽドワーフちゃんたち、大はしゃぎし始めた。
水族館という施設は、かなりツボったぽいね。
お魚大好きな種族だけに、わっきゃわきゃと盛り上がる。
「あや~、すっごいもりあがってるです?」
「水辺で暮らす人たちだからね。衝撃的だったみたい」
「私たちでも、ここは凄いかなって思いますよ」
そんな盛り上がるドワーフちゃんたちだけど、ここはまだまだ序の口だね。
次は黒潮の海という、この水族館の目玉があるわけで。
そこも見て貰おう!
「ねえみんな、この先にもっと凄い水槽があるよ」
「わきゃん? ほんとさ~?」
「ほんとほんと、見に行こうよ」
「いくさ~」
「うちもみてみるさ~」
お誘いをかけたら、みなさんわきゃきゃっとこちらに集まってくる。
それじゃあ、黒潮の海を見に行きましょう!
「では、こちらへどうぞ」
「いくです~」
「一緒に行きましょう」
「わきゃ~」
ということで、この水族館目玉の展示を観賞しにいく。
黒潮の海、その展示とは――。
「うっきゃ~! でっかいおさかな、たくさんです~!」
「ジンベエザメ! あとマンタもいますね!」
そう、ここは世界最大のお魚、ジンベエザメちゃんが展示してあるのだ!
大きな体をゆったりと動かす彼らの姿は、そらもう大迫力。
他にもマグロや小魚たちが入り乱れ、幻想的な光景が目の前に広がる。
これは凄いね!
「――……」
「……」
おや? ドワーフちゃんたちがなんだか静かだ。
どうしたのかな?
「あや~、タイシ。みんなきぜつしてるです?」
「……刺激が強かったみたいですね」
後ろを振り向けば、そこには目を開けたまま気絶するドワーフちゃんたち。
「クワ~――……」
後追いで、ペンギンちゃんもシャットダウン。
どうもこの子たちにこの水槽は、強烈すぎたかもしれない。
そういや、初めて水族館に来たんだった。
もうちょっと、慣らし運転が必要だったのだ……。




