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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十章 未来へと繋がる、色
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第二十九話 すてきなニライカナイ観光

「わきゃ~、ぽっかぽかさ~」


 キジムナー火酒を三杯ほど堪能した偉い人ちゃん、お腹ぽかぽかでご機嫌だ。

 この謎食材にドワーフちゃん的な実用性があるのか、聞いてみよう。


「それで、この火を食べてみた感じ……熱は何とかなりそうですか?」

「まだなんともいえないさ~」

「何とも言えませんか」

「もうちょっと、じかんをおいてみるさ~」


 どうやら、まだ何とも言えない状態らしい。

 じわじわと発熱するやつだから、確かに時間をおいて確認した方が良いかも。

 この辺、偉い人ちゃんはなかなか慎重だね。


「まじまじ、これいけるって。ためしにたべてみるじゃん?」

「ほんとかしら~?」

「おまえがいけるとおもうってことは、ぎゃくにだめじゃねっておもうわけだよ」

「ほんとそれね」


 一部全く慎重さに欠けるお方がいらっさるけど、マイスターだからね。

 しょうがないよね。


「これあっついね! おいしいね!」

「もえてるやつだね! なぞだね!」

「ぽっかぽか~」


 そして妖精さんたちも、一口大のキジムナー火を食べ始めた。

 どうやら手づかみでも大丈夫なようで、両手に抱えてちまちまとかじっている。

 君たちもチャレンジャーだね……。

 思いっきり燃えているのに、手で掴もうとか度胸あるよ。


 とまあ、それはそれとして。


「いままでずっとこうだったから、きながにやっていくさ~」

「そうですか……」


 ……偉い人ちゃんはいつも通り笑顔なのだけど、微妙に申し訳なさそうな表情が混ざっている。

 いままでどうしようも無かった自分の体質について、諦めが入っているのかもしれない。

 そんな自分に対して、色々して貰うのが申し訳ないって感じなのかな?


 ただまあ、知ってしまったからには見て見ぬふりは出来ない。

 あれだ、さりげなくそれとなく、気遣っていこう。


「体質改善への道は、毎日ちょっとずつですよ。焦らず取り組むのが吉です」

「確かに、そうですね」


 ヌシさんがそんな俺たちの様子を見て、気遣いの言葉をかけてくれる。

 何事もコツコツと。それが良いね。

 というか、いきなり劇的な効果が出たら逆に怖いか。


「それはそれとして、これをいれると、おさけがおいしくなるさ~」


 ヌシさんの言葉に励まされたのか、偉い人ちゃんもいつもの感じでお酒をくぴくぴ飲んでいく。

 なんだかんだで前向き、そして朗らかな偉い人ちゃんだね。

 よい子だなあ。


 と、ほのぼのしていた時のこと。


「あや~、これかけたら、もっとおいしくなるかもです?」

「あら? ハナちゃんそれなあに?」


 キジムナー火をつまんでいたハナちゃん、ぴょいっと何かを取り出した。


「ワサビちゃんのアレです~」

「マジックワサビちゃんソルトね。確かに美味しくなるかも」

「です~」


 どうやらハナちゃん、独自の味付けを試みるようだ。

 ユキちゃんの言うとおり、マジックワサビちゃんソルトは何にかけても美味しくしてくれる。

 それを振りかけたら、どんな味になるのだろう?

 ちょっと興味あるな。俺も混ぜて貰おう。


「ハナちゃん、それ面白そうだね」

「あい~。ためしてみるです~」


 俺が声をかけると、ハナちゃんにぱっと笑顔で答えた。

 どんな味になるか楽しみなようで、エルフ耳もぴっこぴこだ。


「はいハナちゃん、これに振りかけてみて」


 そしてユキちゃんが、一つのキジムナー火を取り皿にとりわけてくれた。

 早速お試ししましょう!


「ではハナちゃん、どうぞ」

「あい~。ぱらぱらっとやるです~」


 早速ハナちゃん、マジックワサビちゃんソルトを振りかけた。


 その瞬間――キジムナー火が突如燃え上がり、火柱となった!

 青白い炎が五十センチくらいの高さで燃え上がる!

 大事件だー!!!!!


「あややややー! なんかすっごくもえたです~!」

「うっわ! 増幅したのこれ!?」

「わかんないです~!」

「消火! 消火しましょう!」


 あまりの炎の勢いに、俺とハナちゃん、そしてユキちゃん大慌て!

 これどうしたらいいの!?


「おー、よく燃えてるねー」

「ハデだよー」

「というか、これ食材が増えたかもー」


 しかしキジムナーさんたちは、慌てる様子も無くキャッキャしていた。

 食材が増えたかもって……。


「あ、まじだ。これくえるじゃん?」

「てづかみとか、ふるえる」


 そして慎重さゼロのマイスターが、燃え上がるキジムナー火の一部をむしって食べ始める。

 ……その状態でも食べられるんだ。


「これ、使えるかもー」

「うまくいけば、量産できそうだねー」

「味は問題無いかなー」


 マイスターがもぐもぐする様子を確認した後、キジムナーさんたちも火をむしって味見をした。

 なんだか良い感じぽいぞ?


「お、おお……私の大好物が、たくさん作れるかもとは……」


 そしてぷるぷるとふるえながら、嬉しそうな顔をするヌシさんが。

 キジムナー火、大好物だったのね。だから研究開発してたのか……。



 ◇



「わっはっは! これならお値段を下げられますね!」

「その危ない粉、すごいよー」

「え、ええまあ。ウチの村の特産品でして……」


 その後良く分かんないうちに、ワサビちゃんパウダーの取引が決まった。危ない粉カテゴリらしい。

 まあ代わりに、キジムナー火も格安で手に入る事となる。

 まあ長野の冬を乗り越えるのに良いかもと思っていたので、こちらとしても助かる。

 ハナちゃんお手柄だね! 褒めてあげないと。


「ハナちゃんすごいね! キジムナー火を膨らますとか、大発見みたいだよ? なでちゃうから」

「ぐふふ~」


 キジムナー火量産法を発見したハナちゃん先生、褒められてぐんにゃり。

 狙ったわけではないけど、かなりの成果だよね。


「僕もなでておこうかな。ハナ、えらいね~」

「ぐふ~」

「わたしも」

「ぐふぐふ~」


 ヤナさんカナさんにも褒められて、ハナちゃん完全に軟体化した。

 エルフ耳もぐんにゃりで大変可愛らしい。


「何から何まで、お力添えを頂き感謝しております」

「午後の観光案内、張り切っちゃうよー!」

「精一杯、ニライカナイ観光を盛り上げるねー」


 そして大好物が量産できるとあって、ヌシさん大感謝。

 キジムナーさんたちも、観光案内に気合いが入っている。

 こりゃあ、楽しいニライカナイ観光が出来そうだね!


 ということで、食休みした後はお待ちかねの観光が始まる。

 数名のキジムナーさんと、ヌシさんも直々に案内役を買って出てくれた。


「まずは、砂浜が綺麗なあの島に行きましょう。せっかくなので海を渡って」


 ヌシさんが体長二十メートルくらいの龍に変化し、ちゃぷちゃぷと泳ぎ始める。

 俺たちもカヌーでついていこう。


「それじゃ行こうか」

「いくです~」

「楽しみですね!」


 みんなでカヌーを漕ぎ出し、道中の風景も楽しみながら移動する。


「ぎゃう~ぎゃう~」

「クワワ~」


 その横を、海竜ちゃんとペンギンちゃんが楽しそうに泳いで。


「わきゃ~、らくちんさ~」

「ギニャ~」


 偉い人ちゃんは、やっぱり牽引して貰ってご機嫌で。


「も、もうげんかいじゃん……」

「きゃー」


 マイスター船は、ステキさんの重量増加により転覆し。

 色々みんなでキャッキャしながら、目的の砂浜に到着!


 そこは、美しい珊瑚礁に囲まれた、真っ白な砂浜のある島だった。

 水中を覗くと、色とりどりの熱帯魚がぴこぴこ泳いでいる。

 まるで水族館のようだ。


「うっきゃ~! ここ、すごいきれいです~」

「なみがしずかだね! のんびりだね!」

「のんびりおよぐのに、よさそうさ~」


 このビーチを見たみんなも、キャッキャと大はしゃぎだ。

 まさに南国リゾートって感じ。

 なんというか、グアムのタモン湾みたいな地形だ。


「ここは波も穏やかで、住人たちの憩いの場ですね」

「のんびりできそうです~」

「ここを拠点として、色々回るよー」


 ジモティーキジムナーさんたちの憩いの場らしく、今回はこのビーチを拠点にニライカナイ観光をするらしい。

 楽しみだなあ。


「きょてんだって! きょてん!」

「すなのおうちをつくろうね! すなのおうち!」

「ながされたけどね! いまながされた!」


 拠点と聞いて、妖精さんたちが砂の建造物を作り始めた。しかし即座に流される。

 波は穏やかなのに、ピンポイントでダメな場所に造成しちゃうのね。

 明らかに狙っている……。


「まずは、あの島に行きましょうか」

「面白い滝があるんだよー」

「たのしみです~」


 妖精びーちりぞーとが破壊と再生を繰り返すのを見ていると、ヌシさんから次の場所の提案が。

 どうやら滝があるらしい。


「あの虹を使えば近くまで行けますので、渡りましょう」

「こっちだよー」

「はい」


 ヌシさんたちの後に続いて、虹の橋を渡る。

 行き先の島は、高い岩山がそびえる大迫力の光景が広がっていた。

 標高は結構あるな。一千メートルくらい?


「こっちの崖側に、目的の滝があります」

「ちょっと歩くよー」


 山を見上げる俺たちをニコニコと見つめながら、ヌシさんたちが歩き出す。

 指さした先はそこそこ近いので、疲れるほど歩くことは無いだろう。

 そのまま俺たちも、てくてくと後に続く。


「ほら、あの滝ですよ。落差三百メートルの大滝でございます!」

「あや~! なんかすごいやつあるです~!」

「うっわ! すごいおとしてる!」

「ふるえる~!」


 果たして、目的の滝は凄かった。

 一千メートルほどもある岩山の中腹から断崖絶壁になっており、そこから水が轟々と唸りを上げて落ちている。

 なかなかの瀑布ばくふだ。

 落差三百メートルとか、国内でもほとんど無いよ。


「これは見事ですね!」

「しゃしんとりますよ! しゃしん!」

「こんな凄い滝、初めて見ました……」


 ユキちゃんもこれには感動。

 カナさんは写真撮りまくりで、ヤナさんはぷるぷるしている。

 森からあまり出ないエルフだからか、こういう光景は新鮮みたいだね。


「わきゃ~、うち、こんなたきはじめてみたさ~」

「だいはくりょくだね! とんでもないね!」

「たかすぎ~」


 偉い人ちゃんも、妖精さんたちもキャッキャと滝を見上げている。

 特に妖精さんたちはちっちゃいので、余計に凄く見えるだろう。

 みんなこの光景に大喜びだ。


「次はあっちの虹を使って、断崖の上まで行きますよ。滝よりさらに上です」

「絶景だから、期待してねー」


 お、今度は高い場所へ行くようだ。あの断崖の上からなら、ニライカナイが一望できるんじゃないかな?

 ということでまた虹を渡って、断崖の上へ。

 そこは――。


「……すごいです~」

「空の上に、いるみたいですね……」

「これは……絶景だ」


 思った通り、ニライカナイが一望出来るビューポイントだった。

 どこまでも続く海は地球の丸さを感じさせ、ニライカナイの島々が眼下に広がる。

 輝く虹の架け橋も上から見下ろせ、まるで宝石のように輝いていた。

 そして先ほど見上げていた瀑布が、百メートルほど下で流れ落ちる様子も見られる。

 これは美しい。


「なんもいえねえ」

「すてき……」

「きれいだね! きれい!」

「きらきらしているさ~」

「こんなこうけいがみられるなんて、きてよかったさ~……」


 エルフたちも妖精さんたちも、ドワーフちゃんもうっとりだ。

 特に偉い人ちゃんは、お目々キラッキラのしっぽぱったぱたで景観を楽しんでいる。


「どうですか? 気に入って頂けました?」

「そりゃもう。とっても素敵な場所ですね、ここは」

「でしょでしょ? ニライカナイ、良い所なんだよー」


 ヌシさんから感想を聞かれたけど、文句なしだね! 本当に素晴らしい。

 案内役キジムナーさんも、故郷を褒められて嬉しそうだ。


「ここでしばらく景観を楽しみましょう。その次はとっておきの海遊び場へご案内です」

「たのしみです~」

「おもうぞんぶん、およぐさ~」

「ぎゃうぎゃう~」


 こうして、楽しくニライカナイ観光は始まった。

 楽しく絶景を堪能したあとは、拠点ビーチに戻りそこからカヌーで沖へ繰り出す。


「ぴゅい~」

「あや~! なんかきたです~」

「大志さん! 野生のイルカですよイルカ!」


 目的のスポットへ向かう途中、イルカらしき生物がカヌーに近づいて「あそぼ、あそぼ」とお誘いをかけてくる。

 これにはユキちゃんとハナちゃん大興奮だ。


「ぴゅい~」

「……ん? なんかイルカと違う」

「え? そうなのですか?」


 ただ、よく見ると背びれがない。この子たちは……スナメリ?

 でもスナメリって沿岸部に生息して、群れを作らないと聞いた。

 それになんだか、体長がわりと大きい。二・五メートルくらいあるかな?

 正直良く分かんないので、ガイドさんに聞いてみよう。


「えっと、あの子たちはイルカなのですか? スナメリなのですか?」

「スナメリですよ、生きた化石ですね。あの子たちはニライカナイ固有種ですので、ここにしか住んでいません」

「あ、固有種なのですか」

「はい。私がここに領域を作る前から、居ましたよ」

「そうなのですか」

「ぴゅい」


 どうも特殊なスナメリちゃんらしく、見られるのはニライカナイのみっぽいね。

 ヌシさんより歴史の古い存在か。挨拶しておこう。


「みんなよろしくね。いっぱい遊ぼう」

「ぴゅい~!」


 スナメリちゃんに挨拶をすると、元気にお返事をしてカヌーの周りをぐるぐる泳ぐ。

 かわいいなあ。


「それじゃこの子たちと一緒に、海遊びスポットへ行くよー」

「「「はーい」」」


 ガイドキジムナーさんが臨機応変にプランを組み立てて、楽しい仲間が加わった。

 そのまま快調にカヌーを進め、目的の海域へ。


「ここは綺麗なお魚がたくさん居るところだよー」

「素潜りやシュノーケリングに、お勧めだねー」

「私がライフセーバー役をしますので、みなさんのんびり楽しんで下さい」


 目的の場所は、水深十メートルくらいの穏やかな海域。

 龍に変化したヌシさんがライフセーバーを担当してくれるので、安心して遊べるね。

 ということで、早速みんなで海遊び開始!


「ぴゅい~」

「ぎゃうぎゃう~」

「あや~! はやいです~!」

「大志さん、ハナちゃんたちに追いつきましょう!」

「おっし、ちょっと本気出しちゃうぞ!」


 元気に泳ぐスナメリちゃんと、背中にハナちゃんを乗せた海竜ちゃんがスピード競争。

 俺はユキちゃんを背中に乗せて追いつこうとするけど、やっぱり海の専門家には勝てず。

 ただユキちゃんはとっても満足そうだった。


「クワックワ~」

「ここは、およぎやすくてたのしいさ~」

「ちょっとふかくまで、もぐってみるさ~」


 そしてしっぽドワーフちゃんたちは、ペンギンちゃんや仲間と共に元気に泳ぎまくる。

 イルカちゃんよろしく水上ジャンプしたりと、元気いっぱいだね。


「ぴゅい」

「わきゃ~、らくちんさ~」


 ちなみに偉い人ちゃんは、スナメリちゃんの背中にのって楽ちんクルージングを楽んでいた。

 とことん運動しない人である。


「なあ、なんかおよいでると、びりびりするじゃん?」

「おれもそれ、きになってた」

「そうなの?」

「きのせいじゃないかしら~?」


 あと、マイスターとマッチョさんは水泳中にビリビリするとのこと。

 それ恐らく、横に居る女子二人から漏電してるんじゃないかな。

 こっそりお脂肪を電気変換してるんだと思うよ。

 とまあ、みんななんだかんだで海遊びを楽しんでいた。


 ――その時のこと。


「タイシタイシ~、なんかうみがひかってるです?」

「……ホントだ。しかもこっちに向かってくる」

「何でしょうね?」


 ハナちゃんが、海の発光現象に気づいた。

 水中がキラキラひかっていて、こちらに向かってくる。

 この謎の現象に、ハナちゃんも俺も、ユキちゃんも首を傾げた。

 ヌシさんなら、何か知っているかな?


「これは一体、なんの現象でしょうか?」

「初めて見ます」

「え? 初めてですか?」

「はい」


 おい、ヌシさんも知らない現象が起きて居るぞ。

 なんだこれ。

 と、そうしている間にも光はこっちに近づいてくる。

 悪い感じはしないから、このまま成り行きに任せてみよう。


 そうして、じっと謎の発光現象を観察していると――。

 謎の光が、水中からたくさん飛び出した!

 キラキラしてまぶしいっ!


(ども~)

「もぐりっこしてたよ! もぐりっこ!」

「おさかなみてたよ! おさかな!」

「うみのなかすごいね! いきものたくさんだね!」


 飛び出したのは、神輿と妖精さん。みんなで潜水遊びをしていたらしい。

 未確認水中発光体の正体は、飛んで光る村の賑やかグループだったね。

 みんな元気だなあ。


「うみのなかで、こんなんひろったよ! こんなん!」

「おたからかもね! おたから!」

「なぞのつぼ~」

(みつけた~)


 そして妖精さん三人娘こと、サクラちゃんとイトカワちゃん、さらにアゲハちゃんがなんかサルベージしてきた。

 神輿と一緒に、きゃいっきゃいで謎の壷をこっちに持ってくるわけだ。

 ……危険物だったらどうしよう?


「なかみかくにんだよ! たしかめちゃうね!」

「へんなものだったら、タイシさんにまかせるね! まるなげだね!」

「なんとかしてくれるはず~」


 ……おおう、ヤバそうなものだったら俺に丸投げ宣言だよ。

 やめて! 手に負えないものを俺に任せるのやめて!


「はい! かいふうだよ! かいふう!」


 しかし止める間もなく、サクラちゃんが壷の口をあけてしまう。

 はたして、その中身は――。


「……おさけのにおいがするね! おさけだね!」

(おそなえもの~!)


 ……良かった、壷の中身はお酒らしい。

 この結果に、神輿は大喜びだ。大好きなお酒だからね。


「へえ、お酒ですか。どれどれ……」

「海に沈んでたの? 不思議だねー」

「どんなお酒かなー」


 謎の壷、その中身がお酒だったと聞いて、ヌシさんやガイドキジムナーさんたちも集まってくる。

 みんなで壷を確認して――固まった。

 どうしたのかな?


「こ、これ……この色。古酒クースですよ! しかもかなり古い!」

「五十年じゃきかない……下手すると百年以上、熟成されてるっぽいよー!」

「幻のお酒だよー!」


 お酒はかなりの古酒らしく、ヌシさんたちが大慌てを始める。

 正直俺はその辺良く分かんないのだけど、幻のお酒らしい。


「ええと、古い古酒ってそんなに価値があるのですか?」

「戦前にはそこそこありましたが、今は殆ど失われて、ちょっとしか残ってないのです」

「ニライカナイでも、貴重品過ぎて大事にしまってあるよー」

「お宝だねー」


 どうも神輿と妖精さんたちは、本当にお宝を見つけたらしい。

 やるじゃないか。


「みんな凄いね! 大発見ぽいよ」

(それほどでも~)

「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」

「きゃい~」


 みんなを褒めてあげると、神輿はてれてれ、妖精さんたちはきゃいっきゃいで喜ぶ。

 全員ぴっかぴか光ってまぶしいでござるね。


「ちなみに、たくさんあったよ! たくさん!」

「なんかしずんでたはこのなかに、つまってたね! つまってた!」

「なぞのぶったい~」


 ……たくさんある? 箱の中につまってたとか、謎の物体とかどう言うこと?


(しずんだふねだよ~)

「あえ? ふねがしずんじゃってるです?」

「――何ですと?」


 首を傾げていたら、謎の声が教えてくれた。沈没船があるみたい。

 ……と、言うことはだ。


「ヌシさん、キジムナーのみなさん。……沈没船があるらしいですよ。そこにお酒が」

「本当ですか!?」

「しんけん?」

「あっちにあるよ! あんないするよ!」

(おそなえもの~)


 この後、めっちゃ沈没船を引き揚げた。

 大体ヌシさん一人でやったので、俺たちは見ているだけだったけど。

 結構な量の古酒が沈んでいたようで、ヌシさんほっくほくだ。


「ちなみにこれ、貴重なのでお値段は……これくらいになるかと」

「ふ、ふふふふ……これで資金ができたわ」

「重機が買える……重機が……」

「美咲が帰ってきたら、驚くだろうな……」


 ちなみに市場価格を聞いて、ちたま人たちの目は澄み渡った曇り無きまなこになる。

 まさか古いお酒が一千万超えるとか、思わないよ。


「あや~、わるいおとなたちがいるです~」

「そっとしておこう。彼らは今、夢を見ているんだ」

「そうするです~」


 すかさずハナちゃんがつっこむけど、もう彼らは夢の世界に行ってしまった。

 しばらくそっとしておくしかない。


「ふふふふ……式はド派手に……」

「重機……」

「美咲、喜ぶよな……」


 金額を聞いて、古酒の壷をまるで宝石のようなキラキラまなこでみつめるちたまの人。

 欲望にまみれた大人の顔だね!


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