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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十章 未来へと繋がる、色
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第二十五話 領域への向い方


 台風によってガジュマルに被害を受け、被災したキジムナーさんたち。

 旅行三日目は、彼らの家をにょきにょきする運びとなった。


「そう言うわけですので、本日は予定を変更して彼らの領域に遊びに行きます」

「みんなを招待するよー」


 キジムナーお爺ちゃんと一緒に、朝食バイキングに夢中の村人たちへと予定を伝える。


「もぐもぐ……タイシタイシ、その『りょういき』って、どんなとこです?」

「それきになる」

「おれもおれも」


 そして朝食つめこみ中のハナちゃんや他のエルフたちから、当然の如くご質問が来た。

 具体的には俺も知らないんだなこれが。


「親父、『ニライカナイ』ってどんなところか知ってる?」

「俺は知らんなあ。爺さんが行ったことあるらしいが」


 親父に聞いてみたけど、俺と同じで分からないらしい。

 うちの爺ちゃんは知ってるようだけど、連絡取れないからね。

 ここはジモティーに聞いてみることにしよう。


「えっと……みなさんの領域は、具体的にどんな感じの地ですか?」

「ぶっちゃけ、屋久島っぽいところだよー。そういう島が、いくつかあるんだー」

「精霊とかもいるけど、害はないかな」

「食べ物はおいしいよー」


 ジモティーキジムナーさんたちに聞いたところ、こんなお答えが。

 屋久島っぽいところか……なんか凄そう。

 でも、自然あふれる良いところっぽいね。

 南国ネイチャーを満喫できそうだ。


「あそうそう、かろうじて携帯の電波が入りますよ」

「何処モ限定だけどねー。スマホ使えるよー」


 ……神秘もスマホは必須なのかな?

 まあ、GPSでも座標が出せない地域だ。

 そこから逆探知されるってことがないんだろうな。


「俺、最新機種買っちゃったよー」

「いいはずー」


 とまあどっぷり現代文明の利器に依存しているキジムナーさんだけど、便利な道具が使えるならそれに超したことはないよね。

 なんだかんだで、出稼ぎ生活を満喫している感じがするよ。


「はいみなさん、屋久島っぽいというお話がありましたが、これっぽい場所みたいです」


 そしてユキちゃんが、すかさず屋久島の画像を検索してタブレットに表示。

 みんなに見せてあげる。


「あや~、なんだかおちつくです~」

「よさげな場所っぽいですね」

「んだんだ」

「いいかんじだね! おはなもさいてるね!」

「ひなたぼっこできそうさ~」


 屋久島の写真を見たみなさん、自然あふれる様子にほっこり。

 やっぱり、みんなはこういうのが好きなんだね。

 自然と共存して生きていた人たちだから、まあ当然か。


「おー、なんか良さそうじゃねえか」

「ぎゃうぎゃう~」


 高橋さんと海竜ちゃんも、写真を見てニッコリだね。

 まあどっちかというと、リザードマン世界の島がこんな感じだ。

 故郷と近い環境なら、過ごしやすいかもね。


「昼食も出すよー」

「話は通したんで、たくさん美味しいもの出てくるよー」

(おそなえもの~!)


 美味しいもので、神輿が反応。

 今だって朝食ビュッフェをもぐもぐ食べているのに、なんという食いしん坊さんだ。

 でもまあ、みんなわくわく顔だから、予定変更は問題なさそうだ。

 どのみち今日も海遊びだったので、場所が変わっただけとも言う。


「大志、昼食をご馳走して頂けるなら、出費が二十万くらい浮くぞ」

「あ、そうか。今日はその辺にある好きな店で、各自食べる予定だったものね」


 人数が人数なので、一食浮くだけでかなりの節約になる。

 これは助かるな。浮いたお金をどうするかは、あとで相談しよう。


「ではみなさん、問題無いですか?」

「ないです~」

「たのしみ~」

「たくさんあそぶよ! あそぼうね!」

「うちらもだいじょうぶさ~」


 ということで、全員から了承を貰った。

 ではでは、朝食を食べ終えたら向かいましょう!



 ◇



「『ニライカナイ』には、カヌーで行けるよー」

「ヌシがあれこれしてくれたから、あっという間に着くはずー」

「たぶんねー」


 朝食後、一休みした後ホテル前のビーチに集合。

 キジムナーさんたちの話によると、ここからカヌーで行けるよう取りはからって貰えたらしい。

 ……多分、というあたりが不安をかき立てるけど。


「こっちも、里帰りだよー」

「私~、ヌシに~会うのって初めて~」

「婿養子の自分は、ニライカナイに行くのすら初めてだよ……」

「一族揃って、挨拶するのもいいわー」

「ば~ぶ~」


 そして果物農家さん一族も、便乗してニライカナイへ行くようで。

 みなさん観光気分で、キャッキャしてらっしゃる。


「大志さん、大丈夫なんですかね」

「彼らを信じよう」

「なんとかなるです~」


 ユキちゃんは不安そうだけど、大丈夫。俺も不安だから。ハナちゃんは相変わらずのんびりだけど。

 でもまあ、何とかなるでしょ。

 とまあわりと適当行き当たりばったりな感じではあるけど、ひとまず海に出ることにした。


「それでは、海に出ましょうか!」

「「「はーい!」」」


 村人たちは、特に不安がる様子もなくエルフカヌーで海に漕ぎ出した。


「わきゃ~、きょうもらくちんさ~」

「ギニャニャン」


 偉い人ちゃんは運動が苦手ということで、今日も俺のカヌーで牽引だ。同乗者はフクロイヌである。

 仲良くカヌーに乗っていて、偉い人ちゃんはふさふさ毛並みを堪能中。

 そして自分で漕がなくて良いので、ご機嫌で青しっぽをふりふりしているね。

 ……正直あの色は不安をかき立てるけど、今のところどうにもならない。

 みんなで気をつけて、彼女を守っていこう。


(おそなえもの、たのしみ~)

「あや~、さっきたべたばかりです~」

(べつばら~)


 とまあ若干シリアスになっていると、前方からそんなゆるふわなやりとりが聞こえてきた。

 先頭のハナちゃんは、神輿を抱えてのんびり。真ん中が俺だ。

 そして後方がユキちゃんの構成なんだけど、これは小まめに偉い人ちゃんを確認して貰うために後ろに乗って貰っている。

 俺は俺で、ニライカナイへの移動に専念しよう。


「それじゃみんな、準備は出来たかなー?」

「だいじょぶです~」

「おれらももんだいないじゃん」

「こっちもだいじょうぶだよ! だいじょうぶ!」

「まかせるさ~」


 誘導役のキジムナーさんが確認してくれたけど、こちらはオールオッケーだ。

 みんなで手を振って答える。


「良いみたいなので、誘導を始めるよー。はぐれないように気をつけてねー」

「「「はーい」」」


 そして案内キジムナーさん、ごそごそとライフジャケットのポッケから何かを取り出した。

 あれは……方位磁石? 何に使うのだろうか。

 興味が沸いたので、すすいっと彼のカヌーに横付けする。


「えっと……その方位磁石で、方角を確認するのですか?」

「ある意味そうだけど、厳密にはそうじゃないよー」

「え? 違うのですか?」


 予想される使い方を聞いてみたら、合っているけど違うとのこと。

 正直分からないので、もうちょっとつっこんで聞いてみよう。


「正直良くわからないです」

「これは、『ニライカナイ』に行けるようになったかを、確認するために使うんだよー」

「確認ですか」

「そうだよー。まあ、針を見ていればわかるよー」


 針を見ていれば分かるとな。まあ、ここは言うとおりにしよう。


「じゃあ、みんな俺と同じ方角に船を向けてねー」


 やがて、案内キジムナーさんから指示がでた。

 彼と同じ方角へ、船首を向けてとのこと。


「こっちだよー」


 そして彼が船を向けたのは――北西。いぬいの方角だ。

 おかしいな……聞いた話だと、ニライカナイは……たつみのはずだが。

 これでは、逆の方角を向いていないかな? 南東方向を向いていないけど。


「準備できたよー。通してくださいなー」


 疑問に思っていると、案内キジムナーさんがスマホで通話し始めた。

 一体誰とお話しているのかな?


「ヌシに電話したよー。もうすぐ始まるからねー」


 ……ヌシに電話した……だと……!?

 領域の支配者も、電話を使っているとかふるえる。

 あ、俺も人のこと言えない立場でござった。

 電話一本で迎えに行くからね。同じ穴のムジナちゃんです。


 とまあ、一人であれこれ考えていたときのこと。


「きた! きたよー! もうすぐ繋がるよ-!」


 案内キジムナーさんが、方位磁石を見つめながら教えてくれた。

 どうやら、何かが起きているらしい。ちょっと聞いてみよう。


「もうすぐですか?」

「ほら、これを見るんだよー」

「方位磁石ですね」


 彼は、方位磁石をこちらに見せてくれる。

 すると――針が、ぐるぐる回っていた。


「あえ? ぐるぐるです?」

「あ、これって……」


 その様子を見て、ハナちゃんも覗き込んで首を傾げた。

 しかしユキちゃんは理解したようだ。

 どうも……からくりがあるみたいだね。


「ユキちゃん、何が起きているのか分かったの」

「はい、うちのアレと同じですよ。方角をアレしてますね」

「あ、そう言うことか」


 ユキちゃんの説明で、俺も理解した。

 要するに……ニライカナイとは、方角を霊的に細工しないと行けない地なのだ。

 そこの耳しっぽさんちと同じく、普通ではたどり着けない。そんな場所。


「よし、方角が固定されたよー。あとはまっすぐ進むだけだからー」


 そうしているウチに、細工が終わったようだ。

 案内キジムナーさんの持っている方位磁石は――針が逆転していた。

 今俺たちは直進しながら、マイナス方向へと進むことが可能となっている。

 乾に向かいながら、巽へと進むという芸当が今なら出来るのだ。


「なるほど、ニライカナイへは複素数を使わないと絶対に到達できない仕組みになっているんだ」

「それっぽいですね」


 ユキちゃんも実家が似たような事をしているだけに、理解したようだ。

 まあ彼女の家は、移動した結果として「無」を生み出す必要がある点で違うけど。

 この辺は、ヌシの趣味ってやつだね。


「なかなか、凝った事をされているようで」

「難しいことはわからないよー」


 案内キジムナーさんは、その辺特に考えていないようだ。

 別に知らなくても使うことが出来れば、それで良いからね。

 この辺考察してしまうのは、単なる俺の趣味であるわけで。


「まあ細かいことは気にせず、領域へ行くよー」

「はい、案内はお任せします」

「任されたよー」


 とまあ細かいことは置いといて、ニライカナイへと向かう道は開いた。

 それでは――行こうじゃないか!


「じゃあみなさんも、一緒に着いてきて下さい!」

「「「おー!」」」


 そして移動を始める船団は、のんびりちゃぷちゃぷと大海原を進んでいく。

 今日も良い天気で、カヌーでの移動はとても爽快だ。


「だいぶ、フネになれてきたじゃん」

「おまえのフネ、かたむいてんぞ」

「しずみそうで、ふるえる」

「がんばるのよ~」


 ……マイスター船は、トップヘビーな感じ。

 もしかして、ステキさんのおふと――が影響している?

 そこ計算に入れてないから、ギリギリアウトかもね。


 とまあそんなギリギリカヌーもあったりしたけど、なんとか海を進んでいく。

 すると、突如として霧に包まれた。


「あや~! まっしろけです~」

(すずしい~)

「ここからは、全員密集して移動するよー。すぐに霧は晴れるから、安心してねー」


 不思議な霧に包まれ、ひんやり涼しくなる。

 ハナちゃんちょっと不安そうにしながら、でもエルフ耳はぴっこぴこ。

 なんだかんだで、冒険を楽しんでいるみたいだ。


「こここ、こわいさ~」

「ギニャ?」


 そして青しっぽの偉い人ちゃん、ぷるぷる震え出す。

 これは寒いからではなく、単純に怖がってる感じだね。

 フクロイヌが気遣って、顔をペロペロと舐めてくれているけど……足りないみたい。

 それじゃあ、俺も励ましてあげましょう!


「島に到着したら――美味しい古酒クースが待っていますよ」

「わきゃ~、おさけたのしみさ~!」


 美味しいお酒の存在を仄めかすと、偉い人ちゃん一瞬でお目々キラキラに。

 なんというチョロい子なのだ……お父さん心配だよ。


「わきゃ~、わきゃ~。おさけ~おさけさ~」

「ギニャ~ニャ~」


 とまあご機嫌で青しっぽをぱたぱた振る偉い人ちゃん、すっかり怖くなくなったようで。

 フクロイヌと一緒にわりと音痴な歌を歌い始めた。

 調子が戻ったようで、よかったよかった。


「大志、海が穏やかになったぞ」

「ぎゃうぎゃう~」

「ゆれなくなったね! しずかだね!」

「たおやか~」


 そして妖精護送船を担当している高橋さんと海竜ちゃんからも、報告が入った。

 彼ら水中組は、海の変化を敏感に感じ取ったようで。

 確かに言うとおり、海がとても穏やかになった。

 と言うことは……。


「もしかして、もうニライカナイに入っていますか?」

「そうだよー。この霧が、領域の境界なんだー」


 思った通りで、俺たちは――ニライカナイへと到達した。

 とうとう、よその領域に来たんだね!


 やがて、霧は晴れ。いくつもの島々が遠くに見え始める。

 そして――。


「あやー! タイシタイシ! きれいなにじがあるです~!」


 その島々には、いくつもの虹が橋を架けていた。

 さらにエメラルドブルーの海に七色の光が映り込み、水平線の青と空の七色、そして島の緑が美しいコントラストを描き出す。

 なんという幻想的な光景、なんという美しさ。

 遠くに見える砂浜の白でさえ、輝いて見える。


 霧に包まれた白の境界を抜けた先には――神秘の島々が存在していたのだ。


「にじがたくさんで、ふしぎなこうけいです~」

「ハナ、あの虹を背景に写真を撮ってあげるよ」

「たくさんしゃしんとるわ!」


 ハナちゃん、その光景を見てお目々キラッキラ。もうこの時点で、大満足だ。

 ヤナさんもカナさんも、その幻想的な風景をバックにハナちゃんブロマイドを撮影しまくり。

 一気に賑やかになったな。


「これはきれいだな~」

「にじがたくさんとか、すてき」

「ふしぎだね! きらきらだね!」

「うっとりしちゃうさ~」


 他の方々も同じく、ニライカナイの幻想風景を見て大はしゃぎ。

 どうやら、ここまで来た甲斐はあったみたいだね。


「こ……これは大チャンス。シチュエーションとして最高だわ……ふふふ」


 あと、ちらりと後ろを見たら耳しっぽがもうふあっさふあさだった。

 今朝入念に俺がお手入れしたから、それはもう見事なツヤ。まるでシルクのよう。

 ははは、良い仕事したなあ。写真に残せないのが残念だよ。


 そうして自分のブラッシング技術に浸りながら、カヌーを進めていく。

 美しい虹と海、そして輝く太陽。もうすっごいワクワクするね!


「ひとまず、ヌシのいる島に行くよー」

「今日は海底から、上に来てくれてるんだー」

「滅多にないことだよー」


 やがて、案内キジムナーさんは一つの島へと進路を変えた。

 どうやら、まずヌシに会わせてくれるらしい。

 さてさて……ニライカナイのヌシは、どんな存在かな?


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