第二十二話 しっぽ調査隊
ここはとある世界の、沖縄らしきところ。
とあるリゾートホテルの大浴場では、のんびりとお風呂を楽しむ方々がおりました。
「わきゃ~、これはクセになるさ~」
「村に帰ったら、絶対に作るさ~」
ドワーフちゃんたちはみんなで仲良く、寝る前のサウナを堪能中ですね。
もうすっかりハマってしまったようで、しっぽをぱたぱた振ってご機嫌です。
「私たちは、こっちがいいね! こっち!」
「のんびりだね! のんびり!」
「じぶんだけのおふろ~」
妖精さんたちは、洗面器にお湯を入れてのんびりしております。
自慢のかわいい羽根もゆるく光って、リラックスしている感じがしますね。
洗面器は檜造りなので、ある意味檜風呂。
体が小さいと、洗面器でも豪華な浴槽に早変わりしちゃうのです。
「お肌ぷるぷる……お肌ぷるぷる……」
「お肉もぷるぷる……」
「それは言ってはダメなの」
飲み放題で酔いつぶれなかった女子エルフも、何名かおります。
腕グキさんとステキさん、ナノさんですね。
お酒控えめにしたので、夜サウナで抜け駆けお肌ぷるぷる作戦中のようです。
ただ、お腹のあたりも若干ぷるぷる……ま、まあ見なかったことにしましょう。
村に帰れば、ある程度電気に変換できます。あと一日か二日ごまかせば乗り越えられるかも。
それまでは、気にしないのが一番ですね。
「……わきゃ、そろそろ剥がれそうさ~」
そんな中楽しい夜お風呂の光景ですが、やっぱり偉い人ちゃんは挙動不審。
しっぽの先を常に気にしております。
「ち、ちょっとお水飲んでくるさ~」
おや、こそこそとサウナ室から脱衣所へ移動しましたね。
そして誰もいないことを確認して、ドワーフコスメセットを展開。
「お手入れするさ~」
筆を手に取り、作業を開始しようとしたところ――。
「――何をお手入れするさ~?」
「クワ~?」
「わっきゃああああああ!」
またもや、子供ドワーフちゃんとペンギンちゃんにロックオンされてしまいました。
二人ともんぐんぐと水を飲んでおりますね。
どうやら最初から脱衣所にいたようですが、ちっちゃくて見えなかったみたいです。
「わわ、わきゃ……な、何でもないさ~」
「そうなのさ~?」
「そうなのさ~」
「クワワ~?」
冷や汗ダラダラでごまかしにかかる偉い人ちゃん、ドッキドキ状態ですね。
とりあえず何でも無いで押し通す気です。
「そ、それより、お水を飲んだら一緒にサウナ入るさ~」
「わきゃ~、一緒に入るさ~!」
「クワ~」
一緒にサウナに入ろうと誘って、なんとかごまかし完了ですね。
「お姉さん、またサウナで色んなお話、聞かせて欲しいさ~」
「わきゃ~! お姉さんなんて、良い子さ~!」
子供ドワーフちゃん、偉い人ちゃんにお話のおねだりですね。
どうやら彼女がしてくれるお話が、大好きみたい。
さっきの出来事はすっかり忘れて、わっきゃわきゃと喜んでおります。
……偉い人ちゃんも、お姉さんと呼ばれて大はしゃぎ。
仲良しさんですね。
「今日は、運河ってやつの話を聞かせて欲しいさ~」
「まだ構想段階だけど、それで良いなら話すさ~」
「クワ~クワ~」
やがて、二人はトークのネタを決めつつ、仲良く浴室へ戻っていきました。
ペンギンちゃんも、その後をご機嫌で歩いていきます。
みんなで、楽しくサウナを堪能しましょう!
ただ……偉い人ちゃんひとつ忘れておりますね。
――しっぽのお手入れ、しなくて良いのかな?
◇
偉い人ちゃんの色が、黄色のまま変化していない。
この不可思議な出来事に対し、数々の謎を見事に放置してきた実績のある我々が、どどんと調査に当たることとした。
「というわけで、偉い人ちゃんを調べようと思う」
「どうやってしらべるです?」
「相手は女性ですから、お手柔らかに……」
ハナちゃんから手法について尋ねられ、ユキちゃんからは方法について手加減を求められる。
この辺は大丈夫だ。緻密に練られた完璧な作戦があるんだよ。
「お嬢様方、ご安心下さい。作戦はちゃんとございます」
「作戦ですか?」
「どんなさくせんです?」
その作戦とは――。
「とりあえず飲みに誘う感じで」
「それはさくせんではないです? とりあえずとかいってるです?」
「行き当たりばったりと言いませんか?」
作戦を告げると、二人から即座につっこみを受ける。
なぜだ、三秒くらいかけて考えた、完璧な作戦だというのに。
「ひとまず、ロビーの売店でお酒を買ってくるよ」
「じゅんびからして、いきあたりばったりです~」
「ま、まあ出来ることはしましょうか」
つっこみの嵐だけど、ゴリ押しで実行だ。
というか、酒の力を借りて話の流れで聞いちゃう戦略なんだよこれ。
盛り上がってきたところで「そういえば、しっぽの色おかしくないですか?」ってさりげなく聞けばなんとかなると思うんだ。
「それでは。作戦に必要なブツを購入するから、ロビーのお土産屋さんに行こう!」
「それはそれで、たのしそうです~」
「ついでにお土産買っちゃいますか」
ということで、三人でキャッキャとお土産屋さんに足を運ぶ。
リゾートホテルだけあって、品揃えがけっこうステキ。
お菓子やぬいぐるみや、水着やマリングッズ、それにお酒もたくさん置いてある。
(すてき~)
なぜか神輿もついてきたけど、まあしっぽ黄色のままだよ発見をしたのは神様だ。
お礼の意味も込めて、この謎の飛翔体様に何か贈り物をしよう。
「神様、何か気に入ったものがありましたら、贈りますよ」
(ほんと!)
「あや! みこしぴっかぴかです~」
神様に提案すると、ぴかぴか光って喜んだ。
それでは、じっくり選んで下さいな。
(どれにしようかな~)
ご機嫌神輿がお供え物を物色する横で、俺もお酒を物色する。
十年ものの古酒とか、良い値段がするけど美味しそう。
ひとまずこれを買っておこう。
「うきゃ~、かわいいぬいぐるみです~」
「こっちにある貝の小物も可愛いわよ」
「きれいなこうげいひんです~」
……ハナちゃんとユキちゃんは、お土産探し作戦に入ってしまった。
ああいや、本題は偉い人ちゃん接待用のお酒調達でして。
シーサーのぬいぐるみとか、確かに可愛いけど目的はそれじゃなくてですね。
「これとか、かわいいです~」
(きゃ~)
あれですね、ぬいぐるみで大盛り上がりですね。
シーサーのふわもこぬいぐるみを、ハナちゃんと神輿がキラッキラお目々で見つめている。
「た、大志さん。このアクセサリーとか、い、良いと思いません?」
さらにユキちゃんが、しきりに宝飾品をプッシュしてくるわけで。
本来の目的はいずこへ……。
「ま、まあ普段のお礼もあるから、みんなに買ってあげるよ」
「タイシ! ほんとです!?」
(やたー!)
「キター!」
せっかくだからお土産買ってあげると提案すると、三人ともキャッキャと大はしゃぎだ。
普段から色々手伝って貰っているからね。どどんと買っちゃうよ。
というわけで、それぞれご希望の品をお会計だ。
「はい、ハナちゃんと神様にはぬいぐるみだね。シーサーさんだよ」
「タイシありがとです~!」
(ありがと~!)
ふわもこシーサーさんを二人に贈ると、ひしっと抱えて大喜び。
「ユキちゃんには……このネックレスだね」
「ありがとうございます!」
ユキ先生には、シンプルな細い銀色チェーンのネックレスを。
結構なお値段がしたやつだよ。
「で、ではどうぞ」
そして先生、なぜか襟をぐいっと引っ張って首を見せるわけだ。
……俺につけろと?
「どうぞ、どうぞどうぞ!」
「……では、参る」
どうやらそうらしいので、ネックレスを付けてあげる。
おお……! この体勢、キツネ耳ががふぁっふぁ顔に当たりますな!
さすがの毛並みですな! あと、なんかリンスの香りがふあっとする。
この耳しっぽ、守りたい。
「お、おお……見事なツヤ」
「ふ、ふふふ……効いてる効いてる」
ふって沸いたふわふわ毛並みイベント、ごちそうさまでござった。
ユキちゃんもネックレスを装着してご機嫌なので、お互いニッコニコだよ。
「かわいいぬいぐるみです~」
(ふわふわ~)
「ふふふ……アクセサリーの贈り物は、特別よね……」
三者三様に喜んでいるけど、楽しい買い物が出来た。
ホテルの売店、侮りがたし。
でもですね、本来の目的は偉い人ちゃん接待用のお酒を買いに来たわけでして。
脱線しまくりですよ。
――とまあいろいろあったけど、なんとかお酒は買った。
クースやらウィスキーとかブランデーやらを調達して、準備完了だ。
これから偉い人ちゃんたちのお部屋に訪問して、ざっくばらんに飲み会を始める!
「じゃあ、部屋に行こうか」
「あい~」
「行きましょう」
(あそびにいくよ~)
女性陣三人を引き連れ、ロビーから移動だ。
すると――。
「わきゃ? タイシさんなにしてるさ~?」
「おかいものさ~?」
「クワワ~?」
ちょうど良いことに、お風呂上がりの偉い人ちゃんと遭遇した。
子供ドワーフちゃんとペンギンちゃんもいっしょだね。
「タイシさんこんばんわ! こんばんわ!」
「おふろはいってきたよ! おふろ!」
「ほかほかだよ! ほかほか!」
妖精さんたちもお風呂上がりのようで、三人娘ちゃんたちがほかほかアピールだ。
「こんばんは。みんな湯上がり美人だね」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
「きゃい~」
「びじんだって! びじん!」
妖精さんたちに挨拶すると、きゃいっきゃいで粒子を散布だ。
ロビーが物理的に明るくなった。夜なのにみんな元気だな。
さすが妖精さんだ。
ひとまず、みんな元気いっぱいな様子。
これだけ元気なら、飲み会作戦しても明日には引きずらないよね。
早速、状況を開始しよう。
「あ~、これからお姉さんとの接待飲み会をしようと思いまして、お酒を買っていたのですよ」
「わきゃ~! おねえさんなんて、いいひとさ~!」
飲み会よりもお姉さんというワードに反応したけど、まあいつものことで。
さてさて、お酒のお誘いの方はどうかな?
「というわけで、みんなでこれから一杯やりませんかね」
「もちろんさ~。おふろあがりのいっぱい、たまらんさ~」
飲み会のお誘いも快く受けてもらえたので、いよいよミッション開始だ。
偉い人ちゃんの謎――解き明かしますよ!
◇
「わきゃ~、このくーすーってやつ、かおりだかいさ~」
「確かにこれ、美味しいですね。十年寝かせたやつらしいですよ」
「てまかかってるさ~」
現在、偉い人ちゃんたちのお部屋で酒盛り中だ。
ヤナさんたちは明日早いのとお年寄りがいるので、もうおねむしてもらっている。
その関係上、こっちの部屋で騒ぐしかないのだよね。
「このこーらってやつ、くちのなかがチクチクするです~」
「わきゃ~! ふしぎなあじさ~!」
(しげきてき~!)
ハナちゃんと子供ドワーフちゃん、そして神輿も参加していて、いまはコーラで目を白黒させている。
炭酸飲料は刺激が強すぎたかな?
謎の声的には、刺激的で良い感触っぽいけど。
「ひやしたくだもの、おいしいね! おいしいね!」
「おふろあがりだから、さいこうだね! さいこう!」
「ひんやり~」
妖精さんたちは、ドワーフちゃんに冷やしてもらった果物で喉を潤している。
凍らせたマンゴーとかを、しゃりしゃり食べたりだね。
結構美味しそうだから、俺も後で頼んでみよう。
「そう、そうなのよ……夜のバーに誘えば良かったのよ……」
そして耳しっぽ全開キツネさんは、なにかを呟いている。
飲んでいるのは紅茶なので、シラフなはずなのだけど……目が据わっているわけで。
「なぜこれを思いつかなかったの……、明日こそは……!」
ま、まあしばらくそっとしておこう。
若い娘さんには、色々あると思うんだ。
そんな黒いオーラゆらめくキツネさんはさておき。
「やっぱり、おさけはねかせたのがいいさ~」
「つくるのは、てまかかるさ~」
「うちらは、すぐにのんじゃうさ~」
「ギニャン」
リーダー格お母さんとその娘さんたちも、んぐんぐとウィスキーを飲んでいる。
お酒を飲みがらフクロイヌをなでなでしてあげたりと、ゆったりした雰囲気だ。
なんだか普通の楽しい交流会になっているけど、本来の目的は違っていてですね。
あれなんですよ、そこの黄色から変わんない人のあれこれを探らないと。
「なれてきたら、けっこうのめるです~」
「おふろあがりにのむと、おいしいかもさ~」
(それそれ~)
「明日はバーに誘って……ふふふ」
ハナちゃんとユキちゃんは、戦力にならない感じ。
ひとまず作戦参謀である俺が対処しよう。
さてさて、しっぽをそれとなく観察して……おや?
なんだか……先っちょが変だな。
「わきゃ~、くーすおいしいさ~」
ご機嫌でくぴくぴと古酒を飲む偉い人ちゃん、黄色しっぽがゆ~らゆら。
その先端が……なんだか、剥がれかけてひらひらしている感。
……ウロコが剥がれそうってわけじゃないな。
なんだか、カバーがめくれそうな感じに見える。
もしかして、何かで覆っているのだろうか?
――あ! そういえば!
ハナちゃんが廊下で拾った謎の物体、あれも黄色だ。
しかも、なんかのキャップみたいな感じだった。
……ちょっと、こっそり見てみよう。
偉い人ちゃんに気づかれないよう、こっそりと仕舞っちゃうよう空間から物体Xを取り出す。
そしてよくよく観察してみると――うっすらと、ドワーフちゃん特有のウロコパターンが観察できた。
六角形で構成される、幾何学的な模様が一致するわけで。
もしかしてこれ、ビンゴなのでは?
「――タイシさん、なにしてるさ~?」
「おわあああああああ!」
子供ドワーフちゃんが、物体Xを覗き込んでいる!
ちっちゃくて気づかなかったよ……。
というか、この子はピンポイントで忍び寄ってくるな。
家政婦は見たって感じで。
「それ、なにさ~?」
おっと、ミタちゃんが物体Xに興味を持ってしまった。
どうやってごまかそうか……。
「わきゃ? それ、しっぽのさきと、かたちがよくにてるさ~」
「で、ですかね?」
「ですさ~」
そしてミタちゃん、一発でこの物体Xの特徴を捉える。
俺の見解と、専門家からのご意見が一致したね。
これはますます、あやしい。
ひとまず、ハナちゃんとユキちゃんにも意見を聞いてみよう。
「ハナちゃんユキちゃん、ちょっとおいでませ」
「あえ? タイシどうしたです?」
「何でしょう?」
二人を呼ぶと、こちらにすすすっとやってきた。
ではでは、ちょっくらご意見聞きましょう。
「ほら、ハナちゃんが廊下で拾ったやつなんだけど……」
「あい、みおぼえあるですよ~」
「謎の物体ですよね」
手のひらの物体Xを、二人が覗き込む。
「これって、もしかして――」
先ほど気づいた点と、ミタちゃんの見解も添えて説明だ。
そのお話を聞いて、ハナちゃんとユキちゃんは――。
「たしかに、それっぽいです~」
「言われてみれば、ウロコパターンと一致しますね」
二人とも、やはり同じ見解となる。
ちらちらと偉い人ちゃんを見ながら、物体Xと比較だ。
「わきゃ~、このおさけもおいしいさ~」
俺たちの悪巧みはつゆしらず、当人はほのぼのとブランデーを飲んでおります。
黄色しっぽの先がちょっと剥がれそうなのも気づかず、ご機嫌ですな。
ただ、あやしいのは確かなのだけど、これからどうしようかという問題がある。
まさか、剥がして確認するわけにもいかないわけで。
「あのしっぽを何とか確認したいけど、どうしようね」
「なんともしがたいです~」
「隠したがっているのは確かですからね……」
俺たち三人、悩んでしまう。
偉い人ちゃんが何かを細工しているのは確かだと思うけど、つまりそれは隠したい事であって。
なんとかそれを知りたいとは思うのだけど、無理矢理ってのは良くないと思う。
こう、話の流れで自然に……とは出来ないものか。
「難しい」
「むむむ~」
「私も、良い案が思いつかないです」
あと一歩の所だけど、行き詰まってしまった。
さて、どうしようか。
「あれれ? あれれ? なんかはがれたよ! はがれたよ!」
と思っていたら、妖精さんたちが騒ぎ始めた。
何だろうと思って見てみると――。
「きいろいやつ、とれたかんじだね! とれちゃったよ!」
「だいじょうぶ~?」
サクラちゃんが、黄色いキャップみたいなものを……手に持っていた。
あれは、まさか。
「――わきゃ?」
妖精さんに指摘されて、偉い人ちゃんがきょとんと自分のしっぽを見つめる。
「わわわわきゃ~! はがれちゃってるさ~!」
ようやく自分の状況に気づいたのか、大慌ての偉い人ちゃん。
俺たちも、その箇所を見つめる。
「あや! タイシ~! しっぽのいろをみるです~!」
「これは……!」
ハナちゃんとユキちゃん、ビックリまなこで「それ」を見つめる。
黄色く彩られた偉い人ちゃんのしっぽ。
しかし、先端だけ色が違っていて。
その色は――。
「……青、じゃないか」
しっぽドワーフちゃんにとっては――危険、を報せる色だった。
…………。
――大変だー!!!!!!




