第二十一話 なんとか、できるかな?
キジムナーさんたち曰く、台風で大変な目に遭ったと。
それは被災したということだろうか。
「もしかして、被災されたのですか?」
「おうちのガジュマルが、ダメになっちゃったよー」
「住むところが無いので、街に出てきたのですよ」
「困っちゃったよー」
のほほんと言うけれど、やっぱり被災されたようで。
どうやら彼らが住むガジュマルの古木が、台風でダメになってしまったらしい。
「……うちの農園も、かなりやられました」
「海水が流れてきて~、果樹も元気が~ないですね~」
果物農家さんも同様で、果樹園に色々被害があったようだ。
旦那さんは困った表情、奥さんは相変わらずのほほんとした顔で説明する。
まあ、みなさん何らかの被災はされたようだね。
「お爺ちゃんのお家も~、折れちゃいまして~」
「しょうが無いので今は妻ともども、娘夫婦の家にやっかいになってますな」
「そうなんですか……」
お爺ちゃんの住処である古木も、やられてしまったようだ。
思い出のある木だろうから、さぞかし辛かったろう。
「これこれ~。この大木が、お爺ちゃんの~、家だったのよ~」
「りっぱなたいぼくです~」
話の流れで、奥さんがスマホで写真を見せてくれた。かなり立派なガジュマルの古木が写っているね。
その前に果物農家さん一族が並んでいて、素敵な家族写真だ。
「そしてこれが、台風で折れた後よ~」
「あやー! はんぶんになってるです~!」
しかし次に見せてくれた写真には、縦に半分になってしまった古木が写っていた。
災害の凄まじさが良く分かると共に、貴重な大木が失われた記録でもある。
「そういう困ったときだから、何か楽しいことあればなって思ってたよー」
「可愛いキジムナーとか、噂に飛びついちゃったなー」
「でも、もっと楽しいこと起きたー」
しかしキジムナーさんたちはめげていない様子だ。
辛いときだからこそ、楽しいことを求めたんだね。
だから面白そうな噂を聞いて、ホテルに集まってしまったのか。
前向きに生きていこうって感じがする。
「お家が育つまでは、こうして暮らすよー」
「しょうがないさ~」
「だからよー」
のんびりした感じで語るみなさんだけど、大変なのは事実だ。
ガジュマルの古木だから、一朝一夕にどうこうするのは普通は不可能。
時間がどうしてもかかっちゃうよね。
ただですね、ここで一つピンと来たわけですよ。
「……ハナハお嬢様、一つ相談がございまして」
「あえ? そうだんです?」
「あ、大志さんの考えていること分かりましたよ」
ハナちゃんはキジムナーさんたちの生態を知らないのでピンと来ていないけど、ユキちゃんはもうおわかりのご様子。
ということで、ハナハお嬢様にちょこっとご説明致しましょう。
「えっとね、キジムナーさんたちは、大木の中に住んでいるわけなんだよ」
「あい」
「それで、今はその大木が折れちゃったりしたわけだ」
「まっぷたつです~」
もいちどスマホの写真をみて、エルフ耳をへにょっとさせるハナちゃんだ。
そしてここからが本題ですな。
「じゃあ、ガジュマルの木をにょきにょきできたら、解決するわけだ」
「あや! にょきにょきしちゃうです!?」
にょきにょきというキーワードを聞いて、ハナちゃんかぶりつきになる。
お目々キラッキラの、エルフ耳がピンと立ったね。
そうなんですよ。ハナちゃんに、ガジュマルの木を育てて貰えば良いのではと!
「お嬢様、大木をにょきにょきし放題な案件ですが、いかがなさいましょうか?」
「やるです~! にょきにょきしまくるです~!」
にぱっと笑顔で、にょきにょきしまくる宣言のハナちゃんだ。
大木生やし放題とか、そうそう実行する機会がないからね。
もうワクワクしちゃっておりますな。
「うふふ~、うふふ~。たくさんそだてるですよ~」
ぴょいっとじょうろとスコップを取り出し、もうやる気満々。
とにかくにょきにょきしたくてたまらない感じだね。
「そうですね、ハナなら何とか出来るかも」
「おつきあいしましょう」
ヤナさんとカナさんの同意も得られて、問題はないね。
この思いつきに付き合ってくれるみたいだから、ご一緒して貰おう。
「大志さん、私もお手伝いしますよ」
「ありがたい。ユキちゃん助かるよ」
「ふふふ」
ユキ先生もお手伝いしてくれると言うことで、心強い。
何とかなりそうな気がする。
「では、みんなの同意も得られました。と言うわけで、ガジュマル何とかする作戦を考えたいと思います」
「あい~! にょきるです~」
とりあえず作戦会議だね。
まあ、ハナちゃんににょきにょきして貰う、というだけの話なんだけど。
特に難しい事はしない。
「はい?」
「にょきにょきとは、一体……」
そして勝手に話が進んでいることに、果物農家の奥さんと旦那さんきょとんとする。
まあ、ハナちゃんのにょきにょきスキルを知らないと、わけ分からないよね。
軽く説明しておこう。
「えっとですね、もしかしたら……ガジュマルの木は一晩で育つかもですよ」
「一晩で?」
「またまた~ご冗談を~」
「ば~ぶ~」
極めて雑な説明をすると、やっぱり冗談と受け取られてしまった。
果物農家さんご夫婦と、赤ちゃんみんなからつっこみを受ける。
でもまあ、俺たちは自信満々なわけで。実績あるからね。
と言うわけで、ハナちゃんの特技とかを色々説明した。
もやしどっさり事件、農作物すぐ出来た事件、森が出来た事件、キャベツに埋もれた事件等々。
我々にょきにょき特捜部が辿った事件の歴史を、色々写真付きで解説する。
「……良くわかりませんが、試してみる価値はありそうですね」
「上手くいったら~、めっけもんということで~」
「ばぶ~」
いまいち信じて貰えてはいないけど、無理もない。
でも作戦の承認は下りたので、やれるだけやってみよう。
「ひとまず、明日の朝お伺いします」
「あ、家が車を出しますので、時間を決めましょう」
こちらが向かうつもりだったけど、旦那さんが迎えに来てくれるようだ。
ここはお言葉に甘えよう。
「ハナちゃん、早朝のお仕事になるけど大丈夫かな?」
「だいじょうぶです~。ハナ、はやおきするです~」
元々ハナちゃんは早起きする子なので、問題はないようだ。
とっても偉い子だ。褒めちゃうから!
「ハナちゃんえらいね~。なでなでしちゃうよ」
「うふ~」
あたまをなでなでしてあげると、エルフ耳をぴこぴこさせてご機嫌ハナちゃんだ。
あとは、ヤナさんたちやユキちゃんも大丈夫かな?
「みなさんも、大丈夫でしょうか」
「問題ないですね」
「いつも、あさはやいですから」
「私も大丈夫ですよ」
みんなも大丈夫なようなので、俺たちはオーケーだね。
それじゃあ、予定を詰めよう。
「では、明日のこの時間に――」
そうして明日の予定を伝えたり、お仕事内容の確認を行う。
結構早朝だけど、しゅぱっとお仕事して朝食までにはホテルに戻りたい所だ。
「――では、明日はよろしくお願い致します」
予定をすり合わせ、時間も決めて。
あとは明日を待つばかり。
お仕事の話はこの辺にして、あとは食べ放題飲み放題を楽しもう。
「あなた~、代行頼んだから、たくさん飲んでね~」
「俺たちもタクシーで農家さんちに行って、泊めてもらうよー」
「せっかくだものなー」
奥さんは代行を頼んだようで、帰りも安心だね。
他のキジムナーさんたちは果物農家さんちにお泊まりするようで、こちらもタクシーを手配したようだ。
それなら、明日みんなにハナちゃんの特技を披露できるね。
「うふふ~、あしたがたのしみです~」
「今日は早く寝ないとね」
「あい~」
ハナちゃんは明日のにょきにょき祭りが楽しみなようで、うふうふしながらお料理を食べている。
俺もたくさん食べて、明日に備えよう!
◇
食べ放題もそろそろ終わりの時間。佳境に突入。
(お、おそなえもの~)
神輿も食べ過ぎでピクピクする中、詰め込みラストスパート!
そろそろ甘いもので締めようかと思っていたときのこと。
「しょくごにあまいものだよ! おかしつくったよ!」
「おすそわけ~」
妖精さん謹製の、妖精ぱふぇがデリバリーされてきた。
甘いものが欲しくなるタイミング、きっちり読んでいるね。
さすがスィーツエキスパートの種族だけある。
「あまくておいしいです~」
「おお! 家の果物がこんなに豪華なパフェに」
果物農家さんご一家も、自分たちが作った果物が豪華な妖精ぱふぇに生まれ変わり、かなり喜んでいる。
「上手に組み合わせて~あるわ~」
「甘さと酸っぱさの加減が、絶妙だねえ。緻密なお菓子だよー」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
「きゃい~」
感想を聞くと、果物を上手に組み合わせた緻密な作品らしい。
なんだか凄そうだ。俺も食べたい。
「タイシさんには、これだよ! これだよ!」
と思っていたら、イトカワちゃんがすすいっとパフェを差し出してくるわけだ。
そのお品、見た目は――土石流。
「すっごくしっぱいしたけど、おいしいかもね! じしんはあるかもね!」
「すっごく失敗したんだ」
「まれにみる、しっぱいだよ! まれにみる!」
そのまれに見る失敗作、土石流パフェを食べて欲しいんだね。
わかった。腹をくくるよ。
「では、頂きます」
「タイシがんばるです~」
「見守っています!」
ハナちゃんとユキちゃんが見守る中、稀に見る失敗作を――実食!
――あら不思議、とっても美味しいわ。
「味はとっても美味しい。味は。一、二を争う水準でイケるチョコパフェだね!」
「きゃい~!」
どうしてこういう見た目になるかは分からないけど、味は大丈夫。
とろりとしたチョコが、バニラアイスに良く絡んで濃厚。
しかしトッピングされた小惑星形状の岩石、もとい果物がクドさを抑えていて。
味だけ見れば、相当な完成度のチョコパフェである。
「ちなみにチョコはつかってないけどね! まったくつかってないよ!」
――え? すっごいチョコ味するんだけど。
なにこれ怖い。
「……これ、チョコ使ってないの?」
「ないよ! おしょうゆはつかったけどね! おしょうゆ!」
醤油ってチョコ味だったっけ?
わからない、イトカワちゃんの技術力がわからない……。
「ま、まあ細かいことは気にしないでおこう。美味しいのは確かだからね」
「タイシかんがえるのやめたです~」
「……本当に、チョコ味がしますねこれ」
思考停止をハナちゃんにつっこまれ、ひょいっと土石流パフェを味見したユキちゃんが首を傾げ。
色々びっくりしたデザートだけど、楽しく美味しく食べ放題は締めくくることができた。
「うわっ! 料理が全部消えたよー!」
「光ったさー!」
どうやら神様も最後に全部持っていったようで、これにて本日の食べ放題は終了。
キジムナーさんたちには刺激的な光景だったらしく、目をまんまるにして驚いている。
……そういえば、村では普通だけど世間一般では普通ではないよね。
この辺、だいぶ麻痺している感がある。
「異界のカミまで旅行をしているとは、さすがに驚きましたな……」
「入守さんの家は、不思議すぎますね」
「珍しいもの~、みれたわ~」
果物農家さんたちも、まあ驚いている。
神秘業界もドン引きの、食べ放題完食でござる。
「ま、まあこれにて本日のイベント終了ですね。後はみなさん、ぐっすりお休み下さい」
「「「はーい」」」
とまあ今日も色々あったけど、本日はこれにて全てのイベント終了だ。
明日は早いから、さっさと寝ちゃおう!
◇
果物農家さんやキジムナーさんを見送り、部屋に戻った。
あとは寝る前に、みんなから預かったカメラのデータを移したりしておく。
「おっと、二テラバイトのハードディスクがもう埋まりそう」
「みなさん、動画や写真撮りまくってますからね」
ユキちゃんも自分のデータは、自前のノートPCに移しているようで。
良い写真があったら、後で共有して貰おう。
「……あえ? ユキのしゃしん、タイシばっかりうつってるです?」
「た、たまたまなの。たまたまそうなっているだけなの!」
ハナちゃんがユキちゃんPCの画面を覗き込んで、なんだかワイワイと賑やかだ。
その間に、俺はハナちゃんカメラのデータも移しておこう。
「ハナちゃん、たくさん写真撮ったね」
「うふふ~、たのしいおもいで、いっぱいです~」
データを転送し始めると、たくさんの写真があった。
ハナちゃんカメラ、メモリはもう残量がほぼないね。
今日もいっぱいの思い出を残せたようだ。
そうしてノートPC経由でハードディスクにデータを移し終え、サムネイルがずらっと表示される。
「ほら、ハナちゃんの写真がたくさんだよ」
「タイシ、しゃしんみせてほしいです~」
(わたしも~)
データを移し終えたことを伝えると、ハナちゃんがぽててっとやってきた。
神輿もほよほよ飛んできて、PCの周りをくるくる回っているね。
大きな画面で画像を見たいようなので、画面を二人の方に向けてあげよう。
「あや~、このしゃしんは、ぶれちゃってるです?」
「それは後でくっきり処理するから、心配しなくていいよ」
「ひとあんしんです~」
(わたしがうつってる~)
そして、ハナちゃんご機嫌でPCを操作し写真をスライドさせはじめる。
神輿も自分が写っている写真を見て、キャッキャと大はしゃぎ。
何枚かの写真は撮影失敗しちゃっていたけど、それもまた思い出。
「うふふ~」
……というか、ハナちゃんもう普通にPC使えているな。
いつ覚えたんだ?
とまあ、ハナちゃんパソコン普通に使えている現象に驚いていた時のこと。
「……あえ?」
ハナちゃんの手が、とある画像の所でピタリと止まる。
そして、顔を画面にぐぐっと近づけた。
何をしているんだろう?
「ハナちゃん、どうしたの?」
「タイシ~、これ、これなんだかへんです~」
なんだか変? 何が変なんだろう?
画面に表示されているのは、食べ放題会場の写真。
そしてハナちゃんが指さす先は――偉い人ちゃんが、写っていた。
「どの辺がおかしいの? 自分には普通に見えるけど」
「しっぽです~! しっぽのさきが、いわかんあるですよ~」
しっぽの先? どうやらハナちゃん的に、違和感があるらしい。
ただ、俺が見た感じは普通に……いや、まてよ?
俺も、今日の夕食時に何か違和感を感じた事を思い出す。
結局なんだか分からないまま来たけど、確かにその感覚があったのだ。
「しっぽの先だね」
「あい~」
もう一度、偉い人ちゃんテイルをよく見てみる。
しかし、さすがにしっぽの先は今の画像サイズだと良くわからない。
拡大してみよう。
「ちょっと写真を大きくするよ……ほいっとな」
「あや! おっきくなったです~」
しっぽが写っている部分を拡大すると、ぐっと見やすくなった。
……ただ、微妙な感じだ。ぱっと見は、やっぱり普通な感じ。
「お二人とも、何をされてるのですか?」
「あ、ユキちゃん。ちょっとこれ見てよ」
ユキちゃんも覗き込んできたので、一緒に見て貰う。
「これはしっぽですか?」
「そうなんだよ。俺とハナちゃん二人とも、何かおかしいなって感じているんだ」
「私には、普通に見えますが……」
しかし、ユキちゃんも首を傾げるばかりだ。
この画像のままでは、ちょっと何とも言えない感じだね。
「……じゃあちょっと、画像処理をしてみよう」
目で見て分からない部分も、画像処理で浮かび上がってくる事がある。
ちょっくら加工しちゃいましょう!
「ここをこうして、これがこうで……」
新たに画像処理ソフトを起動し、拡大部分を切り出す。
まずはエッジ強調やノイズフィルタをかけ、体裁を整える。
それから、ガンマ値を弄くってみると――。
「……これ、くっきりと境界が出てるね」
「しっぽの先だけ、なんだか異なっています」
偉い人ちゃんのしっぽの先に、境界線が出ていた。
先っちょだけ、別の色をしているって事だ。
ガンマ補正して初めて分かるくらいの微妙な差だけど、強調するとはっきりわかる。
「あえ? そういえば……おふろにはいっているとき、しっぽのさきがへんだったです?」
「え? 変だったの?」
「あい~、なんかおかしかったです~」
そして新情報。どうやら、しっぽの先が変だったらしい。
……入浴前の写真は、どうだろうか?
「ちょっと確認してみよう」
さくっと入浴前、カヌー遊びしているときの画像を探して加工してみる。
すると――。
「この時点では、境界線がないね」
入浴前の写真では、しっぽの先に異変はなかった。
境界線が出ておらず、違和感もない。
これは……何を意味する?
「何だろうね、これは」
「わかんないです~」
「しっぽの色が変化したんですかね?」
三人そろって考えるが、良くわからない。
しっぽドワーフちゃんのウロコは蓄熱により変色するので、それが原因かな?
入浴後に変化しているから、そうなのかも。
と、みんなで首を捻る。
そのときのこと。
(およ? およよよ?)
なんだか神輿が、画像を見てぴこぴこし始めた。
モニタの前でぴこっと滞空し、謎の声もおよおよ言っている。
どうしたのかな?
「神様、どうしちゃったのかな?」
「どうしたです~?」
様子が変なので、ハナちゃん経由で間接的に問いかける。
すると、くるりんと神輿がこちらを向いて――。
(かわってない~)
――という、謎の声が聞こえた。
「あえ? かわってないです?」
(かわってないよ~。おかしいよ~)
「おかしいです?」
謎の声曰く、変わっていない。おかしいとのことだ。
一体何が、変わっていないのか。
しっぽの先は、色が変わっているよね?
(いろが、かわってないよ~)
――!!!!
「……あえ? いろがかわってない……です?」
「あ、ホントですね……大志さん、これって……」
ハナちゃんとユキちゃんも、こちらを見た。
そうだ、偉い人ちゃんのしっぽの色……初めて出会ったときから変わっていない。
ずっとずっと――黄色のまま。
慌てて、旅行初日からの写真をスライドさせる。
その写真の全てを見ても、黄色のまま。
「これも……これも!」
空港で気絶していた時も、飛行機で気絶したときも。
海岸で日向ぼっこした後も、温泉に入った後も。
ずっとずっと――黄色。
あれだけ熱を吸収する機会がありながら、色の変化がない!?
他の子たちは、みんな赤く変化しているのに!
……偉い人ちゃんには、何か秘密がある。
もしくは何か――体に、問題が起きているのでは。
これは確かめないといけない。
……しかし、どうやって確認したらいいのだろうか?




