第二十話 子供ドワーフちゃんはミタ
地元民の方々と色々交流し、可愛いキジムナー出現という噂の真相も自白した。
話すことはこれで終わったのだけど、この後どうしようか。
ひとまず聞いてみよう。
「お話は以上なのですが、この後どうしましょうかね」
「とくに考えてはいなかったですね。ご挨拶するのが目的でしたので」
「うちの目的は~、もう済んでますから~」
「ばぶばぶ」
果物農家さんも、特に何も考えていないようだ。
さて、どうしよう?
「なあ大志、せっかくだから夕食を一緒してもらったらどうだ?」
と考えていたところ、親父から提案が来た。
たしかに、これでお別れはさみしい。もうちょっと交流を深めたいところだ。
良いかもしれない。
「このホテルの夕食ビュッフェ、宿泊客でなくとも参加可能だよね。良いかも」
「接待交際費で落とすから、予算は気にしなくて良いぞ」
「わかった。ちょっとお誘いしてみるよ」
ということで、キジムナーさんたちを夕食にお誘いだ。
「あの、せっかくですのでみなさんご一緒に、このホテルの夕食ビュッフェにご参加頂けたらと思います。経費はこちらで持ちますので」
「え? よろしいのですか?」
「せっかく交流を持てたのですから、このままさよならでは寂しいですよ」
ここはどんと押していく。出会いは大切に。
横のつながりが重要な神秘業界では、鉄則だからね。
国家にあまり頼れない俺たちは、横のつながりで助け合わないとやっていけない。
ここで知り合ったのも何かの縁、思いっきり交流を深めましょう!
「ふぉふぉふぉ。大志さんも、良くわかっておられるようで」
「まだまだ、若輩者です」
「腰の低いカミですな」
お爺ちゃんもこの辺は分かっているようで、夕食会には乗り気な感じだね。
「長老が言うなら、俺も参加するよー」
「せっかくだものなー」
「だからよー」
他のキジムナーさんたちも、お爺ちゃんが乗り気な様子を見て参加を決めてくれた。
これは、楽しい夕食会になりそうだね!
「ハナちゃん、今日の夕食は昨日より賑やかになりそうだよ」
「たのしそうです~」
「ば~ぶ~」
いつの間にか、赤ちゃんを抱っこさせてもらっているハナちゃん。
夕食が賑やかになると伝えると、赤ちゃんと一緒にキャッキャとはしゃぐ。
「なんだか、楽しくなりそうですね」
「きょうは、よろしくおねがいします」
ヤナさんもカナさんも、キジムナーさんたちにペコリとあたまを下げて。
こっちの方も、参加者が増えることに賛成のようだ。
「たのしそうさ~」
「よろしくさ~」
「おだんごたべようね! おだんご!」
ドワーフちゃんたちも、妖精さんたちもオーケーだね。
「では、手続きしてきます」
「ユキちゃんありがとう」
色々代表者たちの同意も取れて、あとは手続きだけ。
さっそくユキちゃんが動き出し、フロントへ向かっていった。
こういうお仕事を真っ先にやってくれるので、ほんとありがたい。
いずれ、ちゃんとお礼はしておかないとね。
「ふふふふ……欠かせない存在に」
……まあ、オーラが黒いのは気にしないことにして。
若い娘さんだからね。いろいろあると思うんだよ。
「ちなみにここの夕食ビュッフェ、日帰り入浴とセットだからホテルの温泉も入れるぞ」
「え? それホント」
「ホテルの入り口にある立て看板に、そう書いてあったぞ」
そして高橋さんから新情報。
宿泊客以外でも、お金を払えばビュッフェを食べられて温泉にも入れるんだ。
……これ、地元の人を対象にしたサービスなんだろうな。
あの支配人さん、やるじゃないか。良いサービスだよ。
さっそくキジムナーさんたちにも、情報提供しよう。
「というわけですので、みなさんお風呂も入れますよ。夕食前にひとっ風呂、どうですか?」
「わあ! おっきなお風呂、入りたかったんだよー」
「こんなサービスあるの、知らなかったー」
「良いこと聞いたなー」
お風呂にも入れると聞いて、キジムナーさんたち大はしゃぎだ。
ではでは、夕食前のお風呂に入ろうじゃないか。
「それでは、各自お風呂に向かいましょう」
「おふろです~」
「楽しみだなー」
「おふろだね! あったまろ!」
そうしてみんなで喫茶店を出て、果物農家さんやキジムナーさんたちはそのままお風呂へ向かい。
俺たちはいったん部屋に戻って、着替えを取ってくることにする。
「うちらも、さうなにはいるさ~」
「たのしみさ~」
偉い人ちゃんたちも、うずうずした様子で先に部屋に戻っていった。
俺たちもさくっと着替えを取りに行こう。
「それじゃ、部屋に行こうね」
「いくです~」
ハナちゃん一家と一緒に廊下を歩き、エレベータの前まで到着。
その時のことだった。
「……あえ? なんかおっこちてるです?」
エレベータ待ちをしていたハナちゃん、ふと足下を見つめた。
何かを見つけたようだ。
「これ、なんですかね~」
足下に落ちていたらしき何かを拾い、手のひらの上に乗せて不思議そうな顔をする。
エルフ耳をぴこぴこさせながら、右に左に首を傾けるハナちゃんだ。
ちょっと見せて貰おう。
「ハナちゃん、何か見つけたのかな?」
「あい~。なんか、へんなのおっこちてたです~」
ハナちゃんに問いかけると、手のひらの上にあるブツを見せてくれる。
それは――黄色いプラスチックみたいな、何かだった。
プラキャップみたいな形をしている。
「なんだろね、これ。樹脂かな?」
「わかんないです~」
「何かのカケラですかね?」
俺とハナちゃん、そしてユキちゃんでその不思議な物体を調べるが、良くわからない。
触った感じは、プラスチックとゴムの中間みたいな固さ。
ぐにぐにと良く曲がる。
「何かのキャップかと思ったけど、そうでも無いような」
「不思議な物体ですね」
「へんてこです~」
三人でその物体Xをこねくりしてみるが、正体不明。
落とし物なのかな? それとも何かが壊れたカケラ?
考えてみるが、わからない。
「大志、エレベータ来たぞ」
「あ、乗るからちょっと待ってて」
そうしているうちに、エレベータが来てしまった。
まあ良くわからないので、ロビーに落とし物として後で届けよう。
「それじゃ、エレベータに乗って部屋に行こうか」
「あい~」
「そうしましょう」
俺の仕舞っちゃうよ空間に、その物体Xを格納して、と。
それじゃあ、いったん部屋に戻ろう。
◇
ここはとある世界の、とあるホテルのさらにとある温泉。
楽しい夕食の前に、女子たちがキャッキャとお風呂に入っておりました。
「ハナ、一緒にお肌ぷるっぷるになりましょう」
「あい~、お母さんとさうな入るです~」
カナさんとハナちゃん、露天を楽しんだ後はサウナのようですね。
「もしもにそなえて……もしもに……」
ちなみにユキちゃんはまだ体を洗っております。念入りですね。
でもその努力、恐らく無駄になるかと。
とまあ、それはさておき。
「わきゃ~、汗だっくだくさ~」
「あったまるさ~」
「これは良いさ~」
ハナちゃんたちがサウナに入ると、室内はドワーフちゃんたちで溢れかえっておりました。
ドワーフィンには無い、あえて熱い室内で汗だくになる文化。
思いっきり堪能しているみたいですね。
「わわきゃ……いつの間にか、剥がれちゃってたさ~……」
そんなサウナの中で、偉い人ちゃんなぜか挙動不審な様子です。
黄色しっぽを抱えてきょろきょろしていますね。
「――何かお探しさ~?」
「わっきゃああああああ!」
挙動不審偉い人ちゃん、突然子供ドワーフちゃんに話しかけられてビックリ!
黄色しっぽをピン! と立てて、わきゃわきゃ慌てちゃいました。
「……どうしたさ~?」
「なな、何でもないさ~」
そしてすぐさま黄色しっぽを抱えて、何でも無いと言う偉い人ちゃん。
どう見ても、何かありそうな感じですが……。
「あえ? 今、しっぽの先がなんか変だったです?」
「き、気のせいさ~」
「気のせいです?」
「そうさ~」
ハナちゃんも偉い人ちゃんに問いかけますが、慌てて否定です。
明らかに、怪しいですね……。
「う、ウチはちょっと、お水飲んでくるさ~」
ハナちゃんと子供ドワーフちゃんの視線から逃れるように、偉い人ちゃんがそそくさとサウナ部屋から出ていきました。
そして向かった先は、脱衣所。
確かに、ここにウォーターサーバーがありますね。
「わきゃ……急いで、応急処置だけしとくさ~」
しかし偉い人ちゃん、お水を飲まずに洗面台へ向かいました。
素早くドワーフコスメセットを展開したと思ったら――。
「い、急ぐさ~」
しっぽの先に、筆で何かを塗り始めました。
その何かは――黄色い液体。
偉い人ちゃんは……何をしているのでしょうか。
「ふう……これで良しさ~」
やがて、ぱぱっと処置を終えて一安心したようです。
ふーふーとしっぽの先を吹いて、液体を乾かし始めました。
「これで、夜までは持つさ~」
にぱっと笑顔の偉い人ちゃん、しっぽの先を見てご満悦です。
ほっと一安心、と思いきや――。
「――お水、飲んださ~?」
「わっきゃああああああ!」
またもや子供ドワーフちゃんの不意打ち!
偉い人ちゃん、またまたビックリ!
「し、心臓に悪いさ~……」
「わきゃ? 大丈夫さ~?」
「た、たぶん大丈夫さ~」
心臓バクバクの偉い人ちゃん、冷や汗だらだらです。
でもまあ、証拠隠滅は終わっているわけでして。
さっきよりは慌てておりませんね。
「ふう~、落ち着いたら喉が渇いたさ~」
「いっしょにお水を飲んで、またさうなに行くさ~」
落ち着きを取り戻した偉い人ちゃん、子供ドワーフちゃんと一緒にお水をグビグビ飲んで。
しっかり水分補給をしたら、またサウナですね。
そしてウキウキと浴室に戻る途中で、子供ドワーフちゃんが楽しそうに言いました。
「たくさん汗をかくと、なんだか元気になるさ~」
どうやら、ドワーフちゃんはサウナに入ると元気になるようです。
しっぽをふりふりして、ご機嫌な様子。
活力みなぎる! な感じですね。
「確かに、なんだか体が軽くなった気がするさ~」
「体に良いのかもさ~」
偉い人ドワーフちゃんも同じ事を感じ取っているのか、子供ドワーフちゃんに同意していますね。
血行が良くなるからなのかな?
とまあ二人で仲良く、サウナ談義をしながら浴室へ戻って。
またまた熱いお部屋で汗だくだくタイムですね。
「わきゃ~。こんな施設が村にもあったら良いさ~」
「帰ったら、作れないか相談してみるさ~」
「いいかもさ~」
すっかりサウナが気に入ってしまったしっぽドワーフちゃんたち、この素敵な施設が村にも欲しくなっちゃったみたいですね。
そうやって必要な施設や欲しいものを、一つずつ自分たちで作り上げるのは良いことです。
村に帰ったら、大志に相談するのも良いかもですね。
「……なんだか、違和感あるですね~」
そんな和気藹々としているサウナの中で、ハナちゃんだけ、首を傾げていました。
偉い人ちゃんのしっぽを、じっと見つめて――。
「……あえ? さっきとしっぽが違う気がするです?」
――そう、つぶやいたのでした。
◇
みんなでお風呂に入った後は、楽しい夕食ビュッフェだ。
今日はキジムナーさんたちも飛び入り参加で、昨日よりも賑やかになること間違いなし。
しこたま食べまくりましょう!
「ということで、みなさん今日も食べ放題飲み放題をお楽しみ下さい!」
「「「はーい!」」」
開始時間になり、号令と共に祭りの始まりだ。
エルフたちはお肉コーナーへ殺到し、妖精さんたちはスイーツへ一目散。
(おそなえもの~)
そしてさっきケーキフードファイトをしていた神輿は、またもやファイト開始。
今日も動けなくなるまで、食べまくるようだね。
お供えたくさんだからか、光もかなり強くなっている。
神様ぱわー、順調に充填できている感じだ。
「くだものもりあわせだよ! くだもの!」
「あまいやつ~」
妖精さんたちは、今日も相変わらず新作スイーツ制作中。
心なしか、昨日より完成度が高くなっているような……。
「おかしできたよ! たべて! たべて!」
「おすそわけ~」
そして出来上がったスイーツは、各テーブルにお裾分けだ。
どどんと豪華フルーツパフェが配られていく。
みんなにも自分の作品を、食べて欲しいんだね。良い子たちだ。
そのうちこっちにも配布されるだろうから、楽しみに待っていよう。
さてさて、エルフと妖精さんたち、あと神輿はマイペースで食べ放題を堪能中。
ドワーフちゃんたちは、どうかな?
「おさけ、おさけをのむさ~!」
「あかいみのおさかな、たべるさ~」
「おみそしる、のむさ~」
食べたいものは大体決まっているのか、もうハイペースで酒盛りをしていた。
ウィスキーとか泡盛とかを、グビグビ呷っている。
さすがドワーフだけあって、飲みっぷりが半端ではないね。
「カニ! カニさ~」
偉い人ちゃんは黄色しっぽをぱったぱた振って、昨日と同じくカニ祭り。
今日は色んなお酒を楽しむらしく、ずらっと各種のお酒を並べてもいる。
ただ、カニとウィスキーは合わない気がするよ。
この辺は、ちょっとお勧めをアドバイスしておこうかな。
「このお酒には、こちらのおつまみが合いますよ。泡盛はこちらですね」
ウィスキーにはチーズやソーセージをお勧めし、泡盛にはラフテーがあったのでそれを紹介してみる。
豆腐ようも合うらしいけど、さすがに食べ放題には置いてなかった。
「わきゃ! たしかにあうさ~」
「いろんなおつまみを試して、お気に入りをたくさん見つけて下さい」
「そうするさ~」
偉い人ちゃんのちたまにあるお酒の楽しみ方が、ちょっとだけど広がった。
黄色しっぽをぱったぱた振ってご機嫌なので、お役に立てたかな?
「わきゃ~、わきゃ~」
「いっしょに、おさけのむさ~」
「もちろんさ~」
他のドワーフちゃんも加わって、偉い人ちゃんテーブルは賑やかになってきた。
ごゆっくりお楽しみ下さいだね。
そんな、ほのぼのドワーフちゃん飲み会を見ていたときのこと。
ふと、偉い人ちゃんに――違和感を感じた。
なんだろう、なにかが違う。
しかし、それがなんだか分からない。
「……」
しばしじっと見つめてみるが、これだ! という部分は見つからない。
ただ……何かが変わっている感じがするのだ。
「わきゃ? タイシさんどうしたさ~?」
じっと見つめていたら、偉い人ちゃんがきょとんとした顔で見上げる。
いかんいかん、ごまかさないとね。
「ああいえ、見事な飲みっぷりに感心していたところですよ」
「おさけなら、いくらでものめるさ~」
黄色しっぽをぱったぱた振って、ご機嫌で返答する偉い人ちゃんだ。
まあ、楽しく食事をしているところ邪魔しちゃ悪いよね。
違和感は気になるけど、ひとまずこの辺にしておこう。
「では、私も食事をしてきます」
「いってらっしゃいさ~」
ということで、違和感を抱えたままだけど戻ることに。
こっちはこっちで、キジムナーさんたちと交流もあるからね。
「どうもどうも、お待たせしました」
「タイシきたです~」
お料理をプレートに盛って、テーブルに戻る。
みんなスタンバイ完了って感じで、俺の帰りを待っていたようだ。
「それじゃ、乾杯しましょう。出会いを祝して、かんぱーい!」
「「「カンパーイ!」」」
さっそく乾杯して、泡盛をぐっと一気飲み。
喉がカアっと熱くなるこの瞬間が、たまらないね!
「大志さん、今日も差し入れがありましたよ」
「ありがたく頂こう」
そして例の如く、支配人さんからおいなりさんの差し入れが。
ユキちゃんご機嫌で食べているけど、心なしか毛並みのツヤも良くなっている。
やはり、氏子に連なる人からお供えされると力が付くのかな?
「うふふ~、おいしいおにくです~」
「ハナちゃんは、ローストビーフがお気に入りなんだね」
「あい~」
ハナちゃんはローストビーフ山盛りで、にこにこ顔。
ニンニクが効いたソースをかけて食べると、確かに絶品だ。
たくさん食べてね。
「このホテルのビュッフェ、お値段の割に豪華ですね」
「地元にあるのに、知らなかったよー」
「今度は家族を誘って、来るのも良いかもなー」
ゲストのキジムナーさんたちは、わいわいと料理を摘まみながら盛り上がる。
サービスが気に入ったようで、リピート確実だね。
「このホテルはオープンして間もないので、あまり知られていないかもですね」
「確かに~、観光客以外は~なかなか足を運ばないかも~」
果物農家さんのご夫婦が解説してくれたけど、開業して間もないならそうかもね。
これから徐々に、地元民向けサービスも知られていくかもだ。
「仲間も誘ってみるよー」
「酒が飲み放題だから、誘いやすいねー」
他のキジムナーさんたちも、口コミで広がりそうな勢い。
……となれば、本当にキジムナーが現れるホテルになるわけだ。
嘘から出たまこと……というのは、このことか。
なんだか、別の騒ぎになりそうな気がしなくもない。
その辺は……彼らが独自に対処できるだろう。
そうやって長年やってきた実績があるからね。
「でも、出稼ぎに出て大変だったけど、こういう出会いがあると外に出るのも良いなって思ったよー」
「だからよー」
ん? Gパンキジムナーさんから、出稼ぎって言葉が出てきた。
真面目系めがねキジムナーさんも、同意している。
もしかして、領域から出て出稼ぎしているの?
「えっと……みなさん出稼ぎしているのですか?」
「そうだよー」
「今、大変なんだー」
他の方々も同じようで、出稼ぎ組らしい。
そして口々に、今が大変と言う。
……何か、あったのか?
「キジムナーさん業界で、何かあったのですか?」
「おれらだけじゃなくて、日本中大変なはずかな」
「台風のせいだよー」
「酷い目にあったよー」
――台風。
……そういえば、今年の台風は尋常ではなかった。
沖縄だって、大きな被害が出たと聞く。
もしかして、彼らは……被災者?
一体、彼らに何が起きたんだ?