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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第三章  エルフ農業(初級編)
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第二話 にょきにょきするです

 畑から炊事場に移動し、次はもやし栽培の説明をしよう。

 もやし栽培用の大豆を用意してきたので、まずそれの説明からかな?

 一粒の大豆をてのひらに載せて、皆に見せてっと。


「これが大豆と言いまして、豆の一種です」

「これとにたようなもの、もりでもたくさんはえていました。まめっていうんですね」

「そっちにも有りましたか」

「ええ、どきでにこんでたべてましたね」


 粉にはしてなかったんだな。

 まあ、豆を粉にするのすごい大変だし、煮たほうが手っ取り早くて良い。


「今回の方法だと柔らかくなって、土器で煮込まなくても軽く茹でれば食べられるようになります」


 豆もやしは足が早く雑菌も多いので、限られた条件以外は加熱するのが良い。


「ほほう」

「やわらかくなるんだ」

「うまいのかな?」


 味がいまいち想像できないようで、エルフ達は首を傾げている。

 まあ、森で勝手に生えてくるものだから、わざわざ芽を栽培して食べるということは普通しないか。面倒だしな。

 生えている物をむしってくればそれでいいから、当然と言えば当然。

 芽を摘んでしまったら、採れる実が減るし。

 しかし、美味しいのかと言われるとどうだろうな……。

 もやしだけ食べても、美味しい! とはならないな……。

 多少調理したり、他の料理と組み合わせたら美味しく食べられるけど。


 ……とりあえず思いついたものを言ってみるか。


「塩胡椒で炒めたりが定番ですね。それとラーメンの具として入れると、ラーメンがもっと美味しくなりますよ」

「「「ラーメンがもっとおいしく!」」」


 ラーメンがもっと美味しくなると聞いて、やる気十分になったエルフの皆さんだ。

 あれだけ毎日毎食ラーメンを食べてきたのに、まだ飽きてはいない様子だな……。

 気に入ってくれたのかな?


 それなら、いずれはおやつ感覚でラーメンを食べられるようにしてあげたいものだ。

 何かエルフ達ならではの特産品でも作ることができれば、もしかしたら現金収入が得られるかもしれない。

 お金があれば、自分たちで買うこともできる。

 そうなったらいいな。頑張ろう。


「それでですね、豆のままでも良いのですが、あえて水をやって芽を出すことで、野菜として食べられるようにしちゃうんですね。それが豆もやし栽培です」

「しちゃうんですね」

「しちゃうです~」

「ラーメン~」


 わざわざ豆から発芽させる理由を説明したところで、具体的な栽培方法の説明に移ろう。


「まず豆をよく洗って、一晩水に漬けておきます」

「わたしたちも、かたくなったものをにるときは、そうしてましたね」

「でないと、いつまでたってもにえないのよね~」


 水に漬けてふやかすということはやってたみたいだ。まあ当然そうするよね。

 ただ、そこまでやっても、豆を煮こむと一時間位平気でかかったりする。

 そこからもやし栽培まで行ってなかったのは、ふやかしたら直ぐに煮て食べちゃうからかな?


 とりあえず、水に漬けてまた明日、では時間がかかってしょうがないから、あらかじめ水に漬けておいたものを取り出す。


「というわけで、一晩漬けた奴を持ってきました」


 水と大豆が入ったガラス瓶を、エルフ達に見せる。

 大豆は、元の大きさの倍くらいに膨れている。


 それを見たエルフ達は、大豆ではなくガラス瓶の方に首ったけになった。


「そのとうめいなやつ、どきなの?」

「とうめいなどきとか、すてき」

「おれにもできるかな?」


 ガラス窓を見たときより、エルフ達の反応が大きい。

 彼らにとって身近な土器に似ているから、窓よりずっと興味が沸いたのかな?


 これはガラス瓶の説明をしないと、話が進まないか……。

 とりあえず、ガラス自体の作り方で良いかな。

 そもそも透明なガラスの製法なんて、俺も知らない。


「ええと……。土器とは違って、焼くのではなくもっともっと凄まじい高温で、ある種の土というか石というか……を溶かすと、このガラスというものになります」

「なにそれこわい」

「つちがとけるとか、ふるえる」

「とうめいなどきのつくりかた、なめてた。ごめんなさい」


 いや、謝られても。


 エルフ達は凄まじい高熱で溶かすという内容に、ぷるぷるしだす。


 これどうしたらいいの……。

 おかしいな、豆もやし栽培の講習が、全く進まない。まだ豆を取り出しただけ。


「ガラス瓶の話はまた今度に。次は、この豆をこうして、笊に移して良く洗います」


 あまりの話の進まなさに、親父が手伝ってくれた。


「こうしてまんべんなく洗ってください」


 親父は強引に話を進めていく。


 時にはこういった強引さも必要か。手際よく豆を洗って、手本を見せてくれる。

 それを見たエルフ達、ようやく本題を思い出したようだ。


「まめのこと、わすれてた」

「もともと、そのはなしだったべ」


 軌道修正できた。良かった。ありがとう親父! この調子で進めよう。


「親父、ありがと。引き継ぐわ」

「あいよ。まあ珍しいものを見たら、大体ああなっちゃうさ。気長に行け」


 俺の背中をポンポンと叩いて、親父が励ましてくれた。


「わかった。のんびりやるよ」


 そうだな。元々植物相手の話だ。そもそも気長な作業なんだから、慌てることも無い。

 のんびり行こう。

 俺は親父から作業を引き継いで、説明を続けよう。


「豆は一日二回から三回ほど、水洗いしてください。でないと腐ります」

「それはたいへんだ」

「きれいにあらっちゃうわよ~」


 洗いを一回サボっただけで速攻ダメになる。

 豆もやしはここだけが面倒だけど、逆に考えるとたったそれだけの手間とも言う。

 畑を耕すのと比較すれば、とんでもなく楽だと思う。


 そして豆の洗いまで説明すれば、もう後は置いておくだけである。

 最後の行程の説明に入ろう。


「豆を洗ったら、この容器に入れてこの湿らせた布をかぶせておけば、後は勝手に芽が伸びてきます」


 プランターにふやかした豆を入れて、水で湿らせた厚手の布をかぶせる。

 これは豆を乾燥させないようにするのと、暗所を作るためだ。


 そしてこの暗所を作るというのが大切。

 暗くしておくと、豆が「ここは土の中だよね~」と思い込んで、芽をにょきにょき出す。

 簡単にだまされる可愛い奴、それが豆もやしちゃんだ。


 また、プランターは、底が網になっているタイプの物を買ってきた。

 これなら水も切れるし、何より沢山入る。

 もやしを量産したい時には意外と使えるアイテムだ。


「これだけですか?」

「ええ、これだけです。後は今やった作業を繰り返せば、二日か三日もすれば芽がにょきにょき伸びてきます」

「にょきにょきです~」


 芽がにょきにょき伸びてくると聞いて、ハナちゃんが興味深げに覗き込んできた。

 この位の歳の子供は好奇心旺盛だし、植物が成長する様子を毎日見るのはすごく楽しめるのではないだろうか。


「あえ~」


 大豆を見て、目をキラキラさせているハナちゃんは楽しそうだ。

 まあ、今はただの豆なんだけど……。

 どんな芽が出てくるか、想像しているのかな?


「毎日観察していると、とっても面白いよ。ハナちゃんも、もやし作りする?」

「するです~。にょきにょきのばすです~」

「伸ばしちゃうか~」


 万歳したような仕草で、にょきにょきを表現するハナちゃんだ。やる気十分だな。


 まあ、豆もやし栽培で気を付けるのは豆を洗う、暗所にする。

 これだけなのであまりやることがないし、子供でも何とかなるだろう。

 興味深そうなちびっこ達も何人か居るみたいだし、こういうのは好奇心を刺激されるのかな?

 なんにせよ、興味を持ってもらうのは良いことだ。

 おまけに食事も充実するので、お得である。


 にょきにょきしているハナちゃんを撫でつつ、次の説明に移ろう。

 と言っても、後はどれくらいで収穫すればいいかを教えるだけだ。


「収穫は、ちょっと芽が出た程度でもう食べられます。三日か四日位ですね」

「え? そんなものですか」

「ええ、ちょっと芽が出たらもう良いんですよこれが」


 三日か四日と聞いてヤナさんが驚いている。

 実際食べるだけならそれで十分だったり。

 店で売っているほど成長させなくても、豆もやしは食べられる。

 ちょっと芽が出た程度で良い。

 ただ、それだとあのしゃきしゃきした触感が無いので、もう一つ収穫の目安を教えとこう。


「ラーメンに入れるのであれば、大体七日から十日位が良いですね。長さは……」


 何センチと言ってもわからないだろうから、具体的な長さを手で示そうかな。

 五センチはだいたいこれくらいかな……。


「大体この位の長さです」

「わかりました」

「こんくらいね」

「わりとすぐ、たべられるんだな」


 後は大豆を配れば豆もやしは終わりだ。各家庭ごとに一キログラムほどの大豆を配ろう。


「それでは、皆さんでやってみてください。この豆をご家庭ごとに配ります。道具はここから持って行って下さい」

「「「はーい」」」


 豆を配り終わり、道具の配布も終わった。

 次は、豆苗とかいわれ大根の説明をしておこう。

 これは水耕栽培キットなので、水を入れれば終わりだ。

 ぶっちゃけ説明することは殆どないかな?


「最後に、豆苗とかいわれ大根です。これももやしの一種です」


 キットに入って居る種を見て、ヤナさんが聞いてきた。


「これも、もやしですか」

「ええ、もやしです。種から芽が出た奴は、全部もやしって言います」

「なるほど」

「これもにょきにょきするですか?」


 ハナちゃんが、にょきにょきしながら覗き込んできた。

 パッケージの写真をハナちゃんに見せてあげよう。


「ほら、こんな感じでにょきるよ」

「おおー! にょきってますです~」

「おいしそう~」

「みぞ……」


 パッケージ写真のかいわれ大根を見て、もっとにょきにょきするハナちゃんだね。

 まだまだ元気一杯だ。

 そして他のエルフ達もパッケージ写真を見て、どんな物か理解たっぽい。

 結果が写真で分かるので、理解も早いかな。

 

「こいつの栽培はすごく簡単で、水をこうして入れれば終わりです」

「もうおわった」

「なにこのあっけなさ」

「こんなのでできちゃうんだ」

「すっごくかんたんです~」


 豆苗とかいわれ大根栽培キットに、規定量の水を入れて終了を宣言だ。

 まあ、霧吹きで水をかけるとかはあるが、やらなくても育つんだよな。


「豆もやしと同じで、家の中で出来ます。簡単でしょう?」

「これだけでいいのですか?」

「ええ、これだけで育ちます」


 あまりの簡単さに、ヤナさん始めエルフ達も呆気にとられている。

 あとは……収穫時期も説明をしとこう。


「七日くらいしたら食べられます」

「ほほう」


 後は豆苗とかいわれ大根の違いを教えとこう。


「このかいわれ大根は、一回収穫したら終わりです」

「そうなんですか」

「はかない」

「まあ、ふつう」


 このあたりはまあ、普通だね。収穫したらおしまい。

 ただ、豆苗は再生栽培ができる。

 切り取る位置を脇芽より上にすれば、また生えて来ちゃう凄いやつだ。

 この位置を教えておこう。パッケージ写真があるから、説明もしやすい。


「かいわれ大根と違って、この豆苗は切り取る位置を上手くすると、また生えてきます」


 パッケージ写真を見せて、脇芽より上を指さしておく。

 ここが生長点なので、これより上を切れば良い。


「またはえてくるということは、またたべられるのですか?」

「ええ、そうです。また食べられるようになりますよ」

「なんという、むげんぞうしょく」

「たべほうだい」


 また食べられると聞いて、エルフ達も喜んでいる。だけど食べ放題じゃないよ。限度はあるよ。


「あと、かいわれ大根はちょっと辛いのですが、他の料理に少量入れると味に深みが出ます。薬味ってやつですかね」

「やくみ、ですか?」

「そうです。やっぱりラーメンに入れると美味しいですかね」

「「「もやしすごい!」」」


 ラーメンに合うと聞いて、エルフ達も大興奮だ。……ラーメンに合えば、何でもいいのではないだろうか。この人たちは。


 とりあえず、これで今日教える予定だった簡単お野菜栽培の講習は終わりにしよう。


 もうお昼過ぎだし、丁度炊事場に居る。このままお昼にしよう。

 午前中は農作業もしたしで、皆おなかが減っていると思うし。

 閉会の宣言と一緒に、お昼の宣言をしとこう。


「それではみなさん。これで簡単な野菜栽培の講習は終了です。もう良い時間ですので、このままお昼にしましょう」

「おひる、たくさんたべるです~」

「おてつだいします」

「なにつくろうかしら~」

「まかせて」


 お昼と聞いたとたんしゃきっと復活したカナさん始め、また数名の調理補助さん達が集まってきた。

 いつもの面子だ。

 また皆で、賑やかに料理をするとしよう。


 いくつかの献立候補はあるけど、どれが良いかな? 


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