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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十章 未来へと繋がる、色
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第十五話 目撃者多数


 ぐっすり休んで、爽やかな朝。

 カーテンを開けると、朝日に照らされる南国の海が広がる。

 まさにリゾートって感じだね!


「うきゃ~! あさのうみも、きれいです~!」


 まだパジャマ姿のハナちゃんも、その景色にうっきゃうきゃだ。

 バルコニーに出て、耳をぴこぴこさせながら大はしゃぎだ。


(すてき~)


 神輿もほよほよとバルコニーにでて、ぴっかぴかミラーボール状態。

 なんだかんだで、神様も綺麗な景色を見るのは好きらしい。

 キャッキャとはしゃいでいて、なごむなあ。

 まあ今日は、今見ている海ではなくちょっと遠くまで行く。

 そこで思いっきり遊ぶ予定だ。


「今日は思いっきり海遊びをするから、楽しみにしててね」

「あい~!」

(およぐ~)


 ハナちゃんは起きたばかりだけど、もう泳ぎたくてうずうず状態。

 神輿もぴこぴこと手足? を動かしてわくわくいっぱい。

 俺もかなり楽しみなんだけど、その前に一つイベントをこなさないとね。


「思いっきり遊ぶ前に、朝ご飯を食べよう」

「それも、たのしみです~」

(おそなえもの~)


 まずは朝ご飯をたくさん食べて、英気を養わないとね。

 朝から食いしん坊な村人たちの、大はしゃぎイベント勃発だ。


「そう言えば、朝食も食べ放題なのでしたっけ?」

「ぶ……ぶっふぇとかいうやつですよね」


 朝ご飯の話をしていたら、ヤナさんから確認だ。

 そうなんです。朝食ビュッフェですよ!

 そしてカナさんは上手に発音ができていない。だよね、言いにくいよね。


「朝から食べ放題なんて、これはがんばらないと」

「ふがふが」

「あらあら」

「たくさんたべようぜ」


 気合いを入れるヤナさんと、他のご家族。

 ま、まあ程々にね。程々に。

 というか準備運動を始めているけど、気合い入れすぎですよ。


「ま、まあそろそろ着替えて、朝食会場へ行く準備をしましょう」

「そうするです~」

「みだしなみ、ちゃんとしないとね」


 という感じで、朝ご飯の会場に行くため準備をしていると、チャイムが鳴る。

 誰かがこの部屋に訪問してきたようだ。


「おはようです~」


 訪問客に対しては、ハナちゃんが応対。

 ぽてぽて歩いて入り口まで行き、ドアを開けると……ユキちゃんが立っていた。

 パリっとおめかししていて、今日も可愛らしいね。


「あらハナちゃん、おはよう。たっぷりお休み出来たかな?」

「あい~! ぐっすりねたです~」


 お出迎えのハナちゃんのあたまを、やさしくなでなでするユキちゃんだ。

 ハナちゃんもそれが嬉しいのか、にっこにこだね。


「そろそろ朝ごはんの時間ですので、お誘いに来ました」


 ユキちゃんが来た目的は、朝ごはんのお誘いか。

 色々気を遣ってくれて、とっても助かるね。


「気を遣ってくれてありがとうね。準備が出来たら、一緒に行こう」

「はい!」


 ねぎらいの言葉をかけると、ユキちゃんにっこにこだ。

 ちょっとしたことでも「ありがとう」と言うのは大事だね。

 これからも気をつけていこう。


「ちなみに、他のみなさんはもう会場前で並んでいます」

「さすが食いしん坊」


 どうやら他の村人たちは、待ちきれずに並んでいるらしい。

 昨日あれだけ食べたのに……。

 まあ、待たせたら悪いのでぱぱっと準備して、俺たちも会場へ行こう。


「それじゃあ、準備しようか」

「あい~! きがえるです~」


 ということで、さくっと着替えて朝食会場へ。


「ちょうしょく、たのしみだな~」

「たくさんたべるよ! たくさん!」

「きょうもおさかな、たくさんたべるさ~」


 会場入り口では、ユキちゃんの情報通りみなさんが並んでいた。


「あさからたべほうだいとか、すてき」

「ふとったわ~」

「あきらめは、だいじよね」


 あと、女子のみなさんは何かを諦めたようだ。開き直ったとも言う。

 というか若干電気がパチパチ漏電しているので、変換の許容量限界も迎えている模様。

 二日目にして満充電となっております。


「朝ご飯を食べたら、帰る準備しないとね」

「沖縄、楽しかったわね!」

「不思議な体験も出来たし、良い旅行になったわ!」


 ちなみに、村人たちの他には一般のお客さんも並んでいる。

 朝食ビュッフェは戦場にならないので、貸し切りにはしていない。

 でもまあ、普通の朝食ビュッフェだからね。特に問題は起きないと思う。


「でも凄いわよねこのホテル。キジムナーが出るんだから」

「座敷童みたいなもの、だよね?」

「そうそう、良いことありそう!」


 ……キジムナー?

 女子大生くらいの三人組から、そんな単語が出てきたけど。

 このホテル、あの方々もお泊まりするのかな?


「……大志さん、今キジムナーって」


 ユキちゃんもその言葉を捉えたらしく、不思議そうな顔をしている。

 彼女も神秘側の人なわけで、まあ気になるよね。

 というか、ほぼ同類なわけだし。


「このホテルに、わざわざ現地の人が泊まりに来るのかな?」

「従業員として働いているんですかね」


 ユキちゃんと二人、首を傾げる。

 地元民がわざわざ、お高い観光ホテルに泊まりに来るのかと考えると、可能性は低いように思える。

 とすれば、アルバイトしに来ている?


「タイシタイシ~! ちょうしょくはじまるです~!」


 おっと、ユキちゃんとひそひそ話をしているうちに、時間になってしまった。

 まあ続きは、朝ご飯を食べながらでも良いか。

 みんなに声をかけて、楽しい朝食イベントを開始しよう。


「はいみなさん、時間になりましたので朝食をがっつり食べましょう!」

「「「わーい!」」」


 気になることはあれど、まずは腹ごしらえだ。

 すささっとお料理の並んだテーブルに向かう村人たちの後に、俺たちも続く。


「わきゃ! ごはんにおさかな、おにくもたくさんさ~!」

「あまいものもあるね! すてきだね!」

「なっとう、たくさんあるさ~! おみそしるもあるさ~!」

「あさからこんなにごうかなんて、やべえ」

「だめになる」


 さっそく料理を取り分けるみなさん、大はしゃぎ。

 特にドワーフちゃんたちは、納豆や味噌汁に大喜びだ。

 大豆加工食品は貴重な文化だったらしいから、そりゃ喜ぶよね。


「わきゃ~、わきゃ~」


 というか偉い人ちゃん、早速ごはん山盛りにお魚、そして納豆と味噌汁という献立を攻略しに行っている。

 黄色しっぽをぱったぱた振って、とても嬉しそうだ。


「ちょっとずつ、とるです~」

「うおおお、たまご! たまごりょうり!」

「ぜいたくだわ!」


 ハナちゃんはやっぱりアドバイスを守っているのか、まずはお試しフェーズ。

 他のエルフたちは、朝食で定番のたまご料理に群がっている。

 夕食時よりも卵料理の献立は充実しているので、大はしゃぎだね。


「あまいくだもの! たくさんたべよ!」

「かたっぱしから~」


 妖精さんたちは、まあ果物コーナーへ直行だ。

 そこだけ妙にキラキラ光るから、どこに集まっているのかすぐ分かる。

 あっちのテーブルでは、朝からクリスマスイルミネーション状態だね。


(おそなえもの~)


 神輿はお料理近くのテーブルに陣取って、次々にやってくるお供え物を攻略中。

 朝から元気に、フードファイトだね。


「俺らはマイペースで行こうな」

「ぎゃう」

「健康的に、和食でまとめようか」


 高橋さんと海竜ちゃん、そして親父は和食で攻めるようだ。

 落ち着いた雰囲気で、のんびり献立をセレクト中。

 堂々とした雰囲気である。


「大志さんは和食系なんですね」


 そして俺も和食で攻める。ユキちゃんは……洋食系だね。

 普段からそうなのかな?


「ユキちゃんって、朝はパン派なの?」

「実は大体和食です。なので、こういうときはついつい洋食に手が伸びてしまいまして」

「あ~、気持ち分かる。あるあるだね」

「ですよね!」


 うちは自分ちで米も野菜も作っている関係上、食事は和食中心で。

 でもたまにこういう機会があると、パンとか焼いて食べることは良くある。

 洋食系の朝食も、それはそれで美味しい。


「タイシ~、いっしょにたべるです~」


 そうこうしているうちに、ハナちゃんもご家族のみなさんも献立が完成したようだ。

 にっこにこ笑顔で、海が見えるテーブル席を指さしている。

 なかなか良い場所のチョイスだね!


「それじゃあ、一緒に食べよう」

「あい~!」


 ぽてぽて歩くご機嫌ハナちゃんの後に続き、席に座る。

 沖縄の美しい海を眺めながら食べる朝食だから、ロケーション効果も相まって美味しくなりそうだ。


「では、頂きます」

「いただきますです~」

「頂きます」


 みんなで頂きますをして、もぐもぐと朝食を堪能する。

 俺の献立は、焼いた鮭に納豆味噌汁、そしてお総菜に卵焼き。

 ごくごく普通の、良くある組み合わせ。


 焼き鮭の濃いめの塩味とご飯の甘い風味が口の中でお互いを高め合い、体に活力が出てくる。

 その塩味を、甘辛いきんぴらごぼうでリセットし、お味噌汁を一口。

 体もあったまって、ほっとする一時だ。


「あや! このあかいおさかな、おいしいです~!」


 ハナちゃんも焼き鮭は気に入ったようで、はぐはぐ食べている。

 そうそう、朝ご飯に出てくる焼き鮭、なんか妙に美味しいんだよね。

 エルフィンにも鱒っぽいおさかなはいるから、鮭みたいに料理したら良いかもだ。


「うふふ~、あさからごうかです~」

「朝ご飯の方が、卵料理って充実してますね」

「ふわっふわの……すくらんぶるえっぐ、でしたっけ? おいしいです」


 卵料理も気に入ったようで、卵焼きやスクランブルエッグ、オムレツ等全種類取ってきたようだ。

 ハナちゃんもご家族のみなさんも、大好きな卵料理がたくさんでにこにこ笑顔。

 ほんわかした雰囲気で、朝食は進んでいく。


「あ、そう言えばキジムナーさんのことですけど」


 トーストをかじりながら、ユキちゃんがさっきの話を始めた。

 そうそう、完璧忘れていたけど、キジムナーさんが出たって話あったな。

 話の出所は……あっちのほうでパンをかじっている女子三人組からだ。


「タイシ、キジムナーさんってなんです?」


 ハナちゃんも会話に参加してきたけど、この辺説明しておいた方が良いかな。

 キジムナーの方々、エルフたちは知らないだろうし。


「えっとね、一言で言うと現地の人だよ」

「じもとみんです?」

「そうだね。地元民かな」


 あっさりと言えば、これだ。地元民である。

 というか、うちだってお付き合いがあったりするんだなこれが。

 神秘界隈は、結構狭い世界なのだ。


「細かい話をすると、こっちではキジムナーって呼ばれているけど、本土では天狗って言われているね」

「んぐ」


 さらにその正体を詳細に説明すると、ユキちゃんが何かをのどにつまらせる。

 ご安心下さい、全部バレてますので。


「元々は山に暮らしていた人たちとその眷属なんだけど、本土の天狗さんと同じで山の神様的な立ち位置なんだ」

(よんだ?)


 ――神輿が! 神輿がいつの間にか後ろに!

 ああいや、違うんですよ。別の人なんですよ。


(おそなえもの~)


 とりあえず神様にお供え物をして、お話の続きだ。


「でも、いつからか山から下りて、人のそばで暮らす人たちも出てきたんですよ」

「そういうキジムナーさんたちは、座敷童みたいな感じで扱われているね」


 何故かあたまに手をやったユキちゃんが、ちょこっと補足してくれた。

 そう、キジムナーさんは二種類いる。

 山の神様的なあつかいの方々と、座敷童的なグループ。

 これは沖縄や宮古、その周辺地域に伝わる伝承でも描かれている。


「森の中にある古木で暮らす方々が、山の神様系。おうちの側にある古木に暮らす方々は座敷童系だね」

「ですね」


 ただ両者に共通しているのは、人との触れ合いが多いことだ。

 わりと頻繁に顔を出して、人とお付き合いをする系の神秘さんたちなんだな。

 というか、ぶっちゃけて言えば先住民だ。

 縄文人と同じくらい長い間、先にこのちたまにっぽんで暮らしていた方々の子孫だね。


 そしてここがポイントなんだけど、本土の天狗さんと沖縄のキジムナーさん、伝承に似通った点が多々あるわけで。

 実のところ、両者は同じ系統の神秘だったりする。

 座敷童も、山の神の使いやらなんやらのつながりがあったり。


 ただ、キジムナーさんは南国出身なので、本土の天狗さんと比較するとゆるい。

 ゆるいんだけど、宗教観が変化するにつれて「キジムン」とか言われてもいる。

 この「ムン」は「暗の霊魂」とか言う意味で、沖縄の人の恐れが現れている。

 これは神秘と適度な距離を保つために、そういう事が必要だったと思っているけど。

 まあ戦前までは、わりと頻繁に出会えていた神秘ではあった。


「色々あって領域からあまり出てこなかったり、正体を隠すようにはなったね」

「科学が全盛の今では、ちょっと肩身狭いところあります」

「それはあるなあ……科学で説明できないと、信じて貰えないから」


 ユキちゃんがしみじみと言ったけど、同じ神秘業界だけに良くわかる。

 ただ、それはそれでやりやすくも。

 科学で説明できないから、存在しない。信じて貰えない。

 それはつまり、隠蔽がたやすいということで。

 いろいろ隠し事が多い神秘業界では、逆に助かっている面が多い。


「でも目の前に神秘があっても、気のせいだとして処理してもらえてこちらとしてはありがたい」

「ですかね?」


 ですよね? 耳しっぽを免許センターで一般人に見られた時、あっさり隠蔽できたんですよ?

 他ならぬそこのキツネさんが、この状況に大いに助けられているわけで。

 コスプレですとか、お人形手品だよ! そういう事になってるよ! とか言えば片付くこの現代。

 とんでもなくありがたいよ。


「よくわかんなかったですけど、とりあえず……じもとみんです?」

「そうそう、地元民なんだよ」


 色々ユキちゃんと細かい話はしたけど、結局の所それ。

 神秘業界では、天狗さんもお稲荷さんも、龍も妖怪ウォ○チも地元民だ。

 おおざっぱな感じはするけど、神秘業界がそもそも大雑把である。

 これでいいのだ。


 まあ、それでもたまに神秘と遭遇して、上手に交流する人間もいる。

 そういう人たちは、人種とか属性とか種族とかは気にしない人なんだと思う。

 機会を大事にする人というか。

 ゆるい人とも言うけど。


 そしてそういうゆるい人ほど、神秘と触れ合う可能性も高まる。

 神秘側だって、人は選ぶのだ。

 あっちのテーブルでキャッキャとはしゃいでいる女子三人も、そういうまったりした人たちなのかもね。


「キジムナーって、あんなに可愛いのね」

「さすが座敷童的」

「まさか、ペンギンもつれているなんてね」


 ……ペンギン? どう言うこと?


「クワ~」


 今ここに存在するペンギンちゃんは、あの子だけだけど。

 恐らく人違い、というかペンギン違いなんだろう。

 そのはずだ。


「さて、朝食をたくさん食べよう」

「そうですね。それが良いと思います」

「たべるです~」


 何も起きていない。そう、何も問題はない。

 大丈夫なはずなんだ。


「あ~、焼きたてのパンが美味しいですね!」

「そうだねユキちゃん!」


 何故か俺とユキちゃんは、冷や汗が止まらない。

 沖縄は暑い所だからね。汗が止まらないのは、そのせいだよね!



 ◇



 楽しい朝食を終え、部屋に帰る途中。


「ねえ、うちにキジムナーが出たんだって」

「可愛いって噂ね」

「このホテル、流行るかしら」


 ホテルの従業員さんたちが、こんなひそひそ話をしていた。


「フロントの人も見たんだって」

「身長三十センチくらいの、しっぽのあるちいさな子供だったとか」

「わきゃわきゃ言ってたって」

「ペンギンも、可愛かったって」


 そんなことより、今日の海遊びが楽しみだなあ。

 みんなでたくさん泳いで、楽しまないとなあ。


「わきゃ~、おなかいっぱいさ~」

「クワワ~」


 妙に噂と合致するペアがいるわけだけど、ただの偶然だよ。

 良くある組み合わせだから、違うはずなんだよ。

 ペンギンとしっぽのある身長三十センチの子供とか、良くいる良くいる。

 メジャーな存在だよ。


 そう言うことにしとこうよ。



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