第十二話 たのしいホテル
ここはとある世界の、とあるホテル。
沖縄旅行に来た村人たちが、大はしゃぎしておりました。
ひとまず、ハナちゃんのお部屋を覗いてみましょう!
「うきゃ~、うきゃ~」
バルコニーから眺める、夕日が照らす南国の海。
ハナちゃんはもう大感激で、その景色を見つめていますね。
「ちなみに、おふろからも、うみがみえるんだって」
そんなバルコニーでキャッキャしているハナちゃんに、大志が耳寄りな情報をご提供。
ハナちゃんのエルフ耳が、ぴぴこっと動きました。
「タイシ、それホントです!?」
「そうらしいよ」
スマホを取り出して、大志はお風呂の写真をハナちゃんに見せてあげます。
たしかに、海が見える大浴場みたいですね。
「今からお風呂に入れば、夕日を眺めながらあったまれるです?」
「できるとおもうよ」
「あや~、それは良いかもです~!」
大好きなお風呂に浸かりながら、素敵な景色が見られちゃう。
ハナちゃん、いても立ってもいられないみたいですね。
いそいそと、お風呂セットを準備し始めました。
「夕食前にひとっ風呂というのも、良さそうですね」
ヤナさんもお風呂大好きですので、ワクワクしています。
スマホの画像を見て、お目々キラキラですね。
「ですね。みんなでいきましょうか」
「そうしましょう!」
「お風呂、行くです~」
大志も特に異論はないようで、みんなでお風呂を提案しました。
ヤナさんとハナちゃん、キャッキャと大はしゃぎです。
「ちなみにサウナもありますので、おはだにいいかもです」
「お肌ぷるぷる!」
お肌に良いかもと言われたら、カナさんだって気合いが入りますね。
のんびりお風呂と言うより、なんとしてもお肌をぷるぷるさせたい感がみなぎっております。
そんなわけで、みんなでお風呂へ向かいました。
「お風呂~お風呂~、楽しみです~」
神輿を抱えたハナちゃん、ご機嫌でぽてぽて歩いていきますね。
抱えられた神輿も、キャッキャとはしゃいでいます。
神様も一緒にお風呂へ入るみたいですね。
「はい、こちらがおふろですよ」
やがて目的の施設へと到着。
どうやら天然温泉のようですね。のれんが良い雰囲気出してます。
「ゆうしょくのじかんがありますので、ろくじはんにはあがってロビーにあつまってください」
「「「はーい」」」
入浴時間を決めて、集合を約束したところで。
男性陣は男湯へ、女性陣は女湯へ。それぞれ入っていきました。
ひとまず、女湯の方を見てみましょう。
「わきゃ? みんなも来たさ~?」
「お風呂に入るよ! 綺麗にするよ!」
「眺めがステキって聞いたわ~」
脱衣所に入ると、そこにはしっぽドワーフちゃんや妖精さんたちがおりました。
あとは、女子エルフたちも。
みんな考えることは一緒みたいですね。
そうしてみんなでワイワイと入浴の準備を終え、いざ浴室へ!
ガララと扉を開けて、中に入ってみれば――。
「うっきゃ~! ステキな眺めです~!」
「きれいだね! きれいだね!」
「これは良いさ~」
大きな浴槽は、半露天。
そこから見えるは、美しい海と夕日。オレンジ色に染まった光が、降り注いでいました。
とってもすてきな眺めで、女子たち大はしゃぎです。
神輿もほよっほよと飛び回り、なんだか嬉しそう。
「ハナ、体を洗ってから、一緒に入りましょうね」
「あい~」
「そうね~、早く洗いましょう」
「そうしよ! そうしよ!」
あまりに見事な景観だったのか、早くお風呂につかりたいようですね。
みなさんいそいそと体を洗い始めました。
神輿も混ざって、んしょんしょと泡まみれ。
みんな仲良く体を洗った後は――。
「お風呂、入るです~!」
「行きましょう!」
「入るさ~」
「いよいよさ~」
お待ちかね、素敵な景観のお風呂にざぶん。
ほどよい温度の温泉に、肩まで入ってほんわかな一時。
「あや~。このお風呂、まるで海に繋がってるみたいです~」
「海に入っているみたいとか、素敵!」
「うっとりするわ~」
浴槽の位置や深さが計算されていて、お風呂に入ると海に繋がって見えるようです。
夕焼けに染まる海と一体化したような錯覚、これにはみなさんうっとりですね。
神輿もほわほわ光ながら、ぷかぷかとお風呂に浮かんで楽しそう。
「うふふ~、タイシにお願いして良かったです~」
「旅行って素敵!」
「心が洗われるわ~」
「わきゃ~、ぬくぬく暖まるさ~」
大好きなお風呂と、目の前に広がる素敵な景色。
しばしの間、女子たちはみんなほっくほく笑顔でお風呂に浸かるのでした。
「湯冷まししましょ! 湯冷まし!」
「のぼせかけ~」
「冷やしましょ! 冷やしましょ!」
やがて、ちいさなちいさな存在である妖精さんがお風呂から上がって、のんびり湯冷ましを始めました。
体がちっちゃいから、すぐにあったまっちゃうようですね。
「わきゃ~、温泉最高さ~」
「ゆっくりするさ~」
妖精さんとは違い、しっぽドワーフちゃんたちは長湯してもへっちゃら。
外の風景を眺めながら、わっきゃわきゃとお風呂を堪能中。
「そういえば……サウナがあるのよね」
「サウナと言えば――」
「お肌ぷるっぷる!」
それと女子エルフたちは、お肌ぷるぷるを試みるようです。
いそいそと、サウナに向かっていきました。
あ、神輿も一緒に入っていきましたね。
木造ですけど、お肌が気になるのかな?
「わきゃ? サウナって、何さ~?」
「あっちのお部屋が、それなのさ~?」
「聞いたことないさ~」
そんなお肌ぷるぷる部隊を見て、ドワーフちゃんたちが首を傾げました。
どうやらドワーフちゃんたち、サウナという施設が分からないようです。
女子エルフたちが入っていったお部屋に、興味津々なご様子ですね。
「サウナってのは、とっても暑いお部屋です~」
「暑いお部屋なのさ~?」
「あい~、汗だっくだくになるです~」
首を傾げるドワーフちゃんたちに、ハナちゃんが説明してあげました。
ハナちゃんサウナ経験者ですからね。
去年は、わりと渋い入り方をしていたような気がしますが。
とまあ、それはそれとして。
「わきゃ? お風呂があるのに、なんで暑いお部屋に入って、汗だくになるさ~?」
ハナちゃんの説明に、偉い人ちゃんが不思議そうな顔をしました。
お風呂というぽかぽか設備があるのに、なぜわざわざ暑い部屋を用意するのか。
ドワーフちゃんたちにとって、お風呂は体を温めるための物。
我慢して汗をダラダラ流すまで、体を熱すると言うことはしないのです。
だって、沸かす方も大変ですからね。無駄な熱は使わない文化なのでした。
「あや~。なんでも、サウナで汗をかくと、お肌がぷるっぷるになるです?」
偉い人ちゃんの疑問に対して、ハナちゃん良くわからないなりに、知っていることを話しました。
他にも効能は色々ありますが、ハナちゃんが聞いた話はそれくらいですからね。
でもまあ、他の村人たちも詳しいことは聞いていないので、この辺が説明の限界です。
そんな説明を受けた、偉い人ちゃんは――。
「――お肌ぷるっぷる、さ~?」
「あい~」
キランと、目の色が変わりました。
偉い人ちゃんだって、うら若――くはないかもしれませんが、女子なわけです。
お肌ぷるぷると聞いて、黙っていられるわけがありません。
「ち、ちょっと行ってみるさ~」
そして、黄色しっぽを期待でピクピクさせながら、サウナへ向かっていきました。
お肌ぷるぷる部隊に、一名隊員が加わりましたね。
「うちも、興味があるさ~」
「行ってみるさ~」
「なんだか、良さそうな気がするさ~」
他の子たちも、わきゃわきゃとサウナへ向かいました。
みんな、お肌ぷるぷるという言葉が心に響いたようですね。
偉い人ちゃんと同じように、しっぽを期待でピクピクさせながら入っていきました。
「あや~、そんなに大勢入れるですかね~」
お肌のお手入れに取り憑かれた女子たちを見送り、ハナちゃんまた温泉にちゃぷん。
のんびり海を眺めて過ごすようです。
「一緒にはいろ! はいろ!」
「のんびり~」
「もちろんです~」
そんなハナちゃんの周りに、湯冷ましを終えた妖精さんたちもやってきて。
一緒にのんびりお風呂に入ることにしました。
「あや~、極楽です~」
「ほんわかだね! のんびりだね!」
「いいかんじ~」
タオルが巻かれたハナちゃんの頭の上には、サクラちゃんが乗っかって。
右肩にはイトカワちゃんが座り、アゲハちゃんは周りをちゃぷちゃぷ泳いで。
エルフと妖精さんの、ほんわかお風呂の時間が過ぎていくのでした。
――それから三十分後。
「お肌……ぷるぷる……」
「美しく……なるのよ……」
「すべっすべ……」
女子エルフたちは、もう汗だく。
ついでに神輿も蒸されてぐんにゃり。
二セット目に入っているようですね。
「わきゃ~、これは良いかもさ~」
「汗をかくって、新鮮さ~」
「熱を贅沢に使っていて、すごいさ~」
ドワーフちゃんたちも汗をかきながら、わっきゃわきゃと大はしゃぎ。
さすがに外気温百℃で、かつ低湿度の世界は体験したことがないようで。
この環境では、さすがのドワーフちゃんたちも、かなり汗が出るみたい。
暑くて汗だくという、彼女たちにとって新鮮な体験を楽しんでいました。
「お肌……ぷるっぷるさ~……」
……約一名だけ、女子エルフ並に真剣な方もおられるようですが。
偉い人ちゃん、黄色しっぽをぐでんと垂らしながら、汗だっくだくです。
「もうダメ~」
「水風呂入らなきゃ……」
「お肌、引き締めるのよ……」
長時間耐えられるドワーフちゃんと違って、女子エルフは耐えても八分。
ほどよく蒸された女子たちは、水風呂に浸かってキュっと引き締め。
「ぷるぷる……すべすべ……」
しかし偉い人ちゃんは、まだまだ大丈夫そうな感じ。
なんだかんだ言っても、熱を操る種族は許容量が大きいみたいですね。
「……ハナちゃん、あのひとたちはなにをしているの?」
おや、ユキちゃんもお風呂に来たみたい。
明らかに空気が違う一角を見て、ハナちゃんに様子をうかがっています。
「サウナで、お肌をぷるぷるにしてるです~」
「あ~、なるほど」
ハナちゃんから様子を聞いて、納得のユキちゃんでした。
お肌がぷるぷるになるって教えたのは、ユキちゃんですからね。
「ま、まあむりせず、ほどほどがいちばん……おはだにききますよ」
「程々ですね!」
「わかりました!」
「ぷるっぷる~!」
ユキちゃんからアドバイスを受けて、女子たちも程々にするようで。
無理はいけませんからね。ちょうど良いところが一番です。
「わきゃ~……お、お肌……」
……偉い人ちゃん、程々が一番ですよ。程々が。
あと、神輿も。
「ちなみにユキ、やけに体を念入りに洗ってるのは、なんでです?」
「もしも、にそなえているの」
「もしもです?」
「そうなの。……ふふふ」
ユキちゃん、たぶんその「もしも」は無いと思いますよ。
大志はほとんど寝ないで、大型バスを長距離運転してきていますから。
みんなの引率でお疲れでもありますので、今日は速攻寝ちゃうのではと。
◇
ヤナさんやみんなとお風呂に入ってきたけど、男湯は結構空いてた。
露天風呂とか、眺め最高だったね!
「いや~、良いお風呂でしたね」
「あのおふろ、ながめさいこう」
「こういうおんせんも、いいもんだな~」
男性陣エルフたち、ほっかほかでご機嫌だ。
あとなんか、お肌がつやつやしている。
「あ~、ビール飲みてえ」
高橋さんもほっかほかに暖まって、ビール飲みたいとか言っている。
それには俺も同意だ。ビール飲みたい。よく冷えたやつをイッキ飲みで。
「大志、今日の夕食って、飲み放題付いてるんだよな?」
親父も同じ気持ちなのか、夕食のプランについて再確認だ。
もちろん、アルコール飲み放題を付けておりますよっと。
「ちゃんと付けたから、安心して欲しい」
「おっし、今日は飲むか!」
みんな、絶対大量に飲むからね。
今日は沢山飲んで、さっさと寝ちゃおうって感じだ。
「……飲み放題、とは?」
「くわしく」
「なんだか、すてきなかんじがすることば」
しかし俺と親父の会話を聞いていたのか、ヤナさんたちがぐるんと振り返った。
お酒大好きエルフたち、こういったワードを聞き逃さない。
でもまあ、夕食の時に説明するつもりだ。
「詳しくは、夕食の時にご説明します。その時までのお楽しみですね」
「ものすっごい、楽しみになってきました!」
「だいたいわかったけど、それはそれで!」
「うおおお~! さけがのめるぞ~!」
ほぼバレているけど、まあそういうことで。
でも、お酒飲み放題だけじゃ無いってことは内緒だ。
みなさん、夕食を楽しみにして下さいって事で。
そうしてワイワイキャッキャと部屋に戻り、ちょっと休んだところで。
「タイシタイシ~! おふろすごかったです~!」
「おはだぷるぷる~!」
「ふがふが~」
「あらあら~」
女性陣がお風呂から帰ってきた。
みなさんお肌がぷるっぷるで、ほんわかほかほかだ。
おもいっきり堪能してきたのが良くわかる。
(あったまった~)
神輿もぐんにゃりぽかぽか状態で、ハナちゃんに抱えられているね。
神様も楽しんでくれたようで、良かった良かった。
さて、全員揃ったところで、ロビーに向かおうか。
そろそろ夕食の時間だからね。
「それじゃあ、夕食の時間になるからロビーに行こう」
「あい~! ゆうしょくです~!」
「飲み放題ですね!」
(のみほうだい?)
キラキラお目々のヤナさんが言った「飲み放題」に神輿が反応した。
ほよよっほよよって感じで、俺の周りを飛び回る。
まあまあ、もうすぐ分かりますから。
というわけで期待漲るご一行を引き連れ、ほよほよ光る神輿を抱えてロビーへと移動。
すると、みんなはもう集まっていた。
「あ、大志さん。全員揃っていますよ」
「ゆうしょくだね! まちどおしいね!」
「わきゃ~。なんかもう、いいにおいがするさ~」
「たのしみさ~」
ユキちゃんが点呼を取っておいてくれたようで、俺たちで最後だね。
それじゃあ、夕食会場へ移動しましょう!
「みなさん、こちらへどうぞ」
そうしてみんなを引き連れながら、夕食会場へ到着。
すでに料理がずらっと並べられていて、開始時間を待つのみだ。
「あや~! おりょうりたくさんです~!」
「これ……もしかして今日の夕食ですか?」
「まじで?」
「わ、わきゃ~……。たくさんあるさ~!」
テーブルの上に和洋中と並べられた料理を見て、みなさんお目々まん丸。
まあ俺も、実物を見て結構びっくり。
なかなか凄いじゃ無いか。
これがビュッフェのメニューとは、気合い入っているな。
あと、ビュッフェって言いにくいよね。舌噛むよ。
とまあ、それはそれとして。
みんなに、この料理は食べ放題だと伝えよう。
「えっとですね。あちらのお料理はなんと――食べ放題です」
「……たべほうだいです?」
「きたこれ」
「そんなん、ありえるの?」
食べ放題と聞いて、みなさんお目々が点になる。
でもこれ、ホントなんですよ。
「時間制限はあるのですけど、その間はどんどん補充されますよ。ホントに食べ放題です」
「――うっきゃ~! すてきです~!」
「たべほうだいとか、すてき!」
「ふとっちゃうわ~」
本当だと伝えると、ハナちゃんぴょんぴょんしながら大喜び。
ステキさんはお目々キラッキラ。
腕グキさんは手遅れです。
まあそんなわけで、ホントなわけでして。
「ちなみに、酒も飲み放題だぞ」
そして高橋さんが、とどめの一言。
アルコール飲み放題、できちゃうんです。
「のみほうだい、キター!」
「やっぱりでしたね! お酒飲み放題!」
「わきゃ? それってほんとさ~!?」
「おさけ、のみほうだいなのさ~?」
酒好き一派の目がギラつく。
ドワーフちゃんたちは、ホントにそんなことあるのかという顔だけど。
まあ、実際食べて飲んでみれば分かる。
それこそ無限に補充されていくからね。
「あちらの机にある料理やそちらの棚にあるお酒は、全部食べ放題飲み放題です。お好きにとりわけで、好きなだけ食べて下さい」
「「「わーい!」」」
さてさて、もうすぐ開始時間だ。
みなさん、存分に食べたり飲んで楽しんで下さいだ。
(おそなえもの~!)
腕に抱えた神輿も、食べ放題と聞いてうずうずしている。
フードファイターだからね。しょうがないよね。
――というわけで。
もうすぐ食べ放題飲み放題が始まる。
さてさて、沢山遊んでお腹ペコペコのみなさんだ。
おもいっきり食べて貰いましょう!
まあ、女子のみなさまに関しては……ダイエットは諦めて貰うことになるけどね。