第八話 ここは南国。おっきっなっわー!
「どこまでも、うみです~」
「わきゃ~! おみずがたくさんさ~!」
お弁当を食べ終えて、ハナちゃんも偉い人ちゃんも窓の外を見てキャッキャ中。
現在は九州を通り過ぎ、右手に広がるは東シナ海かな。
この辺は陸地が少なく、海の広さを実感できる。
「今は奄美大島のあたりですので、もうすぐ沖縄ですね」
「もうそこまで来ちゃったか」
「来ちゃいましたね」
ユキちゃんがスマホナビを見ながら、現在地を教えてくれた。
奄美大島のあたりにいるなら、ホントもうすぐ沖縄だ。
「あや! いちめん、くもになっちゃったです~」
「どこまでも、つづいてるさ~」
そしてこの近辺は雲があるようで、下は一面雲海だった。
どこまでも、どこまでも続く雲。これはこれで、絶景かな。
……でも、沖縄は曇りかな?
「これ、沖縄は曇りかもしれないね」
「ちょっと調べてみますね」
ぽつりとつぶやくと、ユキちゃんがすぐさま調べてくれる。
さてさて、どうなってるかな?
「今は曇りですけど、予報だと昼前には晴れるそうです」
「あ、じゃあちょうど良いね」
「ええ」
どうやらお天気も、ビーチに付く頃には晴れているようだ。
よかったよかった。
せっかくの沖縄だからね。晴れて貰うに越したことは無い。
まあ、雨が降っても大丈夫なプランはあるのだけど。
とまあ、現在位置を気にしたりお天気を気にしたりしながら、飛行機は順調に飛んでいく。
もうすぐ到着って事を、教えておこう。
「みなさん、もうすぐ沖縄に到着しますので、お忘れ物にお気を付け下さい」
「「「はーい!」」」
みんなに声をかけると、元気なお返事が帰ってきた。
お目々キラッキラで、彼の地への到着を心待ちにしているね。
そして、もうすぐ到着と言うことは――。
「……あえ? なんだか、どんどんおちてきてるです?」
「く、くもが、ちかくなってきたさ~……」
そう、着陸という絶叫イベントが待ち構えているわけで。
「あややや、あや~?」
「わわわきゃ~」
飛行機は着陸に向けて、どんどん高度を落としていく。
遙か下に見えていたはずの雲海が、ずんどこ迫ってきておりますな。
『はい、客室乗務員は安全確認を行って下さい』
機長さんからの業務連絡アナウンスも入り、ホントにもうすぐ着陸だ。
これから、客室乗務員さんのチェックが始まる。
『ポーン』
『みなさまにご案内致します。この飛行機は、およそ十五分で着陸致します。シートベルトをしっかりとお締め下さい――』
続けてアナウンスが入り、シートベルト着用のランプが点灯する。
さあ、いよいよだ!
「あやややや~。しっかりしめるです~」
「うちも、ちゃんとするさ~」
「おれもおれも」
「しっかりするよ! しっかり!」
他のみなさんも、シートベルトの確認を始めた。
そうしている間にも、飛行機はどんどん高度を落としていく。
やがて、もうすぐ下まで雲が迫ってくる。
「うきゃ~! くもに、くもにつっこむです~!」
「わきゃ~!」
「こええええええ!」
「ふるえる~!」
「すごいね! かっこいいね!」
(さいこう~)
ぷるぷるする地上組と、大はしゃぎの未確認飛翔体グループ。
はっきりと反応が分かれた。
でもなんだかんだで、食い入るように窓の外を見つめるみなさんだ。
「あや! あや! ゆれるです~!」
「うちら、どうなっちゃうさ~!」
「あばばばばば」
とうとう雲に突入すると、機体が結構揺れ始める。
空気抵抗が増えてきたね。
おまけに揺れながら機体は右旋回。
下には一面の海が見えるわけで。こりゃあ怖いだろう。
「たのしいね! おもしろいね!」
「クワクワ~!」
「ギニャン」
「ぎゃう」
(とつにゅう~)
……この状況にもビクともしない方々も、いらっさるけど。
なんというか、たくましい。
「タイシタイシ~! またてをにぎってほしいです~!」
とうとうハナちゃんがまん出来なくなったのか、手を握って欲しいとのお願いだ。
頼りにして貰えて、光栄だね。
「もちろんですよ。ハナハお嬢様」
「うっふ~!」
ちょっとかしこまって了承したら、ハナちゃん超ご機嫌になった。
紳士ごっこ、意外とウケたね。
「……」
紳士ごっこがウケてキャッキャしていたら、左から無言の圧力。
……何か言わなければ。
これは決して祟りが怖いわけでは無い。紳士の嗜みなんだ。多分そう。
「……ゆ、ユキエお嬢様もどうぞ」
「フフフフ、お嬢様……」
なんちゃってバリトンボイスで語りながら手を差し出すと、耳しっぽがぽふんと顕現。
無言の圧力権現様から、ご機嫌キツネのお姉さんになった。
この素晴らしい毛並み、守りたい。具体的にはブラッシングを。
「うっふ~」
「ふふふふ」
こうしてご機嫌二人組に挟まれながら、ミッションコンプリート。
両手に深刻な血行不順を抱えながらも、飛行機は着陸態勢に入る。
――沖縄本島が、見えてきた!
「ハナちゃん、沖縄が見えてきたよ」
「ほんとです~! おっきなしまです~!」
「佐渡より二回り大きな島なんだ」
「しましまです~!」
上空から見える沖縄は、なかなかの発展ぶり。
建物が建ち並び、畑も広がっていて。
離島とは言え、開発は進んでいる感がある。
「わ、わっきゃ~! ものすっごいはやさで、つっこんでいくさ~!」
「ひえええええ!」
「はやいね! かっこいいね!」
(すてき~)
沖縄の発展ぶりを見ている間にも、飛行機は高度を落とし続けて。
とうとう滑走路へとさしかかる。
あまりの速度に、地上組は大騒ぎ。飛翔組も大騒ぎ。
いよいよ、ROAH――那覇空港へと着陸!
「みなさん、着陸しますよ!」
「うっきゃ~!」
「ひえええええ!」
「ふる、ふるえる~!」
下がっていた高度が、ついに――ゼロとなり。
一気に重力は下方向へ。
結構凄い着地の音と衝撃が、俺たちを襲う。
「あや~!」
「――! ……」
「……」
「――」
「だいはくりょくだね! ガッタガタだね!」
(いいかんじ~)
羽根を見ると、フラップは完全に下へと下がり。
おまけにターボファンエンジンの逆噴射音が轟く。
機体はもう地面のデコボコにより上下に揺さぶられ、ホントにジェットコースター。
この、ほんの数十秒の出来事にて――。
「大志さん、エルフさんとドワーフさんたち、ほぼ全員気絶しました」
「やむなし」
――地上組、ほぼ全滅。
目を開けたまま……夢の世界へと旅立っていった。
「ハナはだいじょぶだったですよ~」
「えらいねハナちゃん。よく頑張ったよ」
「うふ~。タイシのおかげです~」
ちなみに無事なのはハナちゃんだけだった。良く我慢できました!
「うふふ~、おきなわです~」
「今日は思いっきり泳ごうね」
「あい~!」
というわけで、ようやく沖縄へ到着だ。
移動だけでもう色々ありすぎたけど、これからが本番なわけですな。
ようやく沖縄旅行、始まり始まり。
「それで大志さん、気絶したみなさんはどうしましょう……」
「起こして回らないと」
「ですよね」
始まりはしたけれど、まずは気絶祭りからみんなを起こすお仕事だ。
さ~て、みんなをウェイクアップさせまくらないとね!
――というわけで。
どこかで気絶祭りになることは予想されていたので、手は打ってある。
「はい、バニラエッセンスー! そしてスピリタスー!」
エルフたちにはバニラエッセンスの香りをお届け。
ドワーフちゃんたちには、お酒の匂いで起きて貰うよ!
「あや~、あまいかおりです~……」
バニラエッセンスの香りに、ハナちゃんも思わずうっとり。
たれ耳ハナちゃんになった。
それじゃ、他の方々にもこのステキな香りをお届けしよう。
「はい、起きて下さい。沖縄に到着しましたよ」
「おかし? おかしのにおい!」
「あまいかおりとか、すてき」
「おかしはどこ?」
「あまいやつ!」
案の定、エルフたちは飛び起きてきょろきょろとあたりを見回す。
こうかはばつぐんだ!
続けて、ドワーフちゃんたちもウェイクアップだ。
スピリタスだよ~。
「わっきゃ! おさけのにおいさ~!」
「たくさんのむさ~!」
「おさけ、おさけはどこさ~?」
こちらもすぐさま覚醒して、しっぽをぱたぱた。
お酒はビーチに着いてからですよ。
「はい、みなさん起きたので飛行機から降りましょう」
「おかし~」
「おさけさ~」
この人たち、さっき食べたばかりなのにもうハラペコだ。
燃費悪すぎない?
◇
現在地、ナハ空港のロビー。
なんとかみんなを誘導して、俺たちは沖縄の地へと降り立った。
「おっきっなっわ~! に到着しましたよ!」
「わーい! とうちゃくです~!」
「わりとあついね! なつだね!」
「わきゃ~!」
長い道のりを超えて、ようやく目的地へと到達することが出来た。
感無量である。しかし、これからが始まりだ。
「朝飯食べよう」
「……俺も、腹減ったわ」
「私もよ……」
ちなみに、同じ飛行機の乗っていた一般の方々、ダッシュで売店に走っていった。
これ、俺たちが機内でほかほか焼肉弁当の匂いを振りまいたせいだな……。
ま、まあ食欲があるのは良い事ですので。ごゆっくり、朝ごはんを堪能ください。
とまあ、それはそれとして。
今回の旅の拠点にむかうには、まず空港から移動しなければならない。
みんなにその旨を伝えて、次の行動に移ろう。
「はいみなさん、これからバスに乗って――ビーチに向かいますよ!」
「たのしみです~!」
「うみ、うみさ~!」
「やっとだね! やっとこ!」
(もうすぐ~)
現地での移動は、チャーターしたバスだ。
今回の旅行はツアーなので、移動の足もコミコミプラン。
佐渡の時と違って、一日のスケジュールってやつがあるわけだね。
ここは自由度が減ってしまうのだけど、その分プロにお任せ出来るわけで。
なにせ人数が多いから、こうしたツアーの方が何かと安全安心だ。
「というわけで、建物の外で待っているバスに乗りこみましょう!」
「「「はーい!」」」
外には、チャーターしたバスが待っているのが見える。
さっそくみんなで乗りこもうじゃないか。
「では、案内します。後に着いてきて下さい」
こうして、建物から足を踏み出す。
自動ドアが開き、外の空気が流れ込んできて。
すると、なぜか――春の匂いがした。
なぜかは分からないけど、春の匂いだと感じる。
気温は春ではないのだけど、環境からもたらされる香りが、そうなのだ。
沖縄は――春の匂いがする楽園。
ふと、そんなことを思った。
「あや~、ふしぎなかんじ、するです~」
「なんだか、雰囲気が違いますね」
「おはなのにおいがするね! おはなのにおい!」
「のんびりしたかんじ、するさ~」
(すてき~)
他のみんなも不思議な感覚を持ったらしく、きょろきょろと周囲を見渡したり、深呼吸したりしている。
この何とも言えない、わくわく感。気分が高揚してくるね。
「それと、なんだかあっついです~」
「こっちはまだまだ、夏なんですね」
「もう寒くなってきた長野から来てるから、より暑く感じるね」
不思議な感覚もそうだけど、まだまだ夏という気温を肌で感じもした。
だいたい、二十八℃くらいかな?
しかし思ったより湿度は高くなく、気温のわりには快適だ。
「村は寒くなってきたのに、こっちは暑い。……不思議ですね」
「へいげんのひとたちなら、こういうのわかるのかしら」
「じっさい、おれらのもりだったところは、さむいほうだっていってたぜ」
「それな」
ヤナさんたちエルフ軍団は、長野と沖縄の気候差にも興味を持ったようで。
キラキラした目で、沖縄の地と空を見つめていた。
「やっぱ、暖けえ地域に来ると故郷を思い出すな」
機内ではほとんど寝ていた高橋さんも、ワクワクした感じだ。
リザードマン世界は熱帯だから、似たような気候の地域に来るとみなぎるっぽいね。
……でも、彼らは寒い長野でも平気なんだよな。
熱帯の世界なのに、その気候に特化した進化をしていない。
この辺、たまに不思議に思う事はある。
「何でリザードマンたちって、冬にも強いんだろ」
「わかんねえ」
そしてこの疑問は、毎回高橋さんのこの返答で終わる。
本人たちが分からないのだから、俺に分かるわけも無い。
こうして、謎は謎のまま放置されるのであった……。
「それより大志、早いところバスに乗って移動しようぜ」
「あ、そうだね。ここでのんびりしていてもしょうがない」
リザードマンの謎を放置したところで、親父から催促が。
言うとおり、さっさとバスに乗って移動しないとね。時間がもったいない。
「それでは、バスに乗って行きましょう。あちらの三台のバスですよ」
「「「はーい!」」」
みんなに声をかけると、ゾロゾロとバスに乗っていく。
もう慣れた物で、特に誘導せずとも乗車してくれる。
統率が取れていて良いね。
「タイシ~、バスのるですよ~」
「一緒のバスに乗りましょう」
やがてほとんどの人が乗車して、最後にハナちゃんとユキちゃんからお誘いだ。
せっかくなので、三人一緒のバスに乗る。一号車だね。
「わきゃ~。うみ、たのしみさ~」
乗車した一号車には、偉い人ちゃんも乗っていた。
黄色しっぽをぱたぱた振って、ワクワクが抑えきれないご様子。
ここまで来てしまえば、もう気絶ポイントは無い。
たっぷりと、沖縄を堪能して下さいだね。
「これで全員乗車されましたか?」
大はしゃぎの偉い人ちゃんに安心していると、バスガイドさんからお問い合わせが。
全員それぞれのバスに乗ったのは確認済みで、最後に乗ったのは俺たち。
問題ないね。
「大丈夫です。出発して下さい」
「かしこまりました」
ペコリとお辞儀をして、出発の準備は完了。
運転手さんにガイドさんが何かを告げて、運転手さんは無線で連絡して。
バスのドアがぷしゅーっと閉まる。
いよいよ、ホテルに向けて出発だ!
『みなさま、おはようございます。本日は当観光ツアーをご利用頂き――』
バスガイドさんのアナウンスと共に、バスが発車する。
これから向かう先は、本部町。那覇からかなり遠い。
沖縄自動車道を使って、だいたい一時間半の道のりだ。
なぜ那覇から遠い地を選んだかと言えば――滞在費が安かったから。
身も蓋もない理由である。
ただ、温泉もあるし自然もあるし、おまけにオーシャンビューのお部屋。
ホテルの前はビーチだったりするので、ロケーションとしてはなかなか良いかと思う。
どのみち夜の繁華街で遊んだりはしないので、十分である。
「あや~、でっかいまちです~」
「自動車が沢山走ってますね」
「こんざつしてるわ」
バスは那覇市を走っていて、確かにかなりの混雑だ。
離島とは言え、この辺は都会だね。
「うみ、うみはどこさ~?」
「みえないさ~?」
そしてドワーフちゃんたち、海を見たくてうずうずしている。
でもごめんなさい。地図からすると、高速道路を降りるまでほぼ海は見えない感じ。
名護市に入れば、海沿いを走りますので……。
とまあ一時間くらいは海が見えないけど、バスは粛々と道を走っていく。
やがて沖縄自動車道へと乗り込み、快調に目的地へと向かう。
「クワックワ~」
「うみについたら、いっしょにおよぐさ~」
「クワワ~」
「ぎゃうぎゃう」
海は見えない道のりだけど、それでもワクワクドキドキ。
窓の外から見える沖縄の風景を、しっかりとその目に焼き付けているね。
そうして自動車道でバスに揺られること、一時間ほど。
下道へと降りる。ここはもう名護市。
そろそろ海沿いルートだね。国道五十八号だったかな?
……あ、海が見えてきたぞ!
「ハナちゃん、海が見えたよ!」
「ほんとです~! きれいないろです~!」
「わきゃ! うみ、うみさ~!」
「すてきさ~!」
(きれい~)
ようやく海沿いルートに入り、綺麗なエメラルドブルーの海が見えた。
みんなは窓に張り付いて、キラッキラお目々で外を眺める。
「はやくおよぎたいさ~!」
「まちきれないさ~!」
「クワワ~」
そして海が見えたところで、ドワーフちゃんたちのテンションは最高潮。
しっぽをぱったぱた振って、となりの人にぺちぺちと当たっている。
あと三十分くらいで到着するので、楽しみにしていて下さいだね。
「うきゃ~」
「わきゃきゃ~」
「クワワ~」
こうしてバスは、国道五十八号をひた走り。
そこから国道四百四十九号へと入り。
ずっとずっと、海沿いの道を進んでいく。
空はすっかり雲が無くなり、日本晴れ。
車窓からは美しい海がどこまでも続く風景が流れていき、どんどん期待は高まっていく。
「あ、県道百十四号に入りましたね」
「じゃあそろそろだね」
もうすぐ、もうすぐ目的地だ。
あと十分くらい。
「もうすぐ到着しますよ。みなさん、今日はおもいっきり――泳ぎましょう!」
「「「はーい!」」」
いよいよ、沖縄旅行の拠点へと到着する。
そして村人たちが沖縄のビーチに降り立ったとき、何を感じるだろうか。
大自然と大海原を見て、何を思うのだろう。
でも、がんばってここまで来た事は無駄じゃなかったと、きっと思えるはず。
さあさあ、もうすぐ海だよ! 南国の楽園を、みんなで満喫しよう!
ようやく到着した……