第五話 保安しちゃうよ
いよいよ空港での保安検査となり、これを乗り越えれば後は乗るだけ。
もうちょっとですよみなさん。
ということで、保安検査をパスしましょう!
「ではみなさん、事前にお教えした手順の通りお願いします」
「「「はーい」」」
みんなは荷物を「仕舞って」いるので、手ぶら。
金属類も無いので、まあ問題は出ないと思う。
出ないと良いな。出ないはず。……出ないよね?
「何事もなかったですね」
「ハナも、とおれたです~」
「きんちょうしたけど、あっさりだったわ」
「ふがふが」
思った通りで、ハナちゃん一家は何事も無くパスした。
続いて腕グキさん一家も、他の家の方々も。
「わきゃ~。きんちょうしたさ~」
「うまく、できたさ~」
「あっさりさ~」
しっぽドワーフちゃん組も、特に問題なし。
金属類に気をつけてさえいれば、あっさり通過出来るよね。
とまあここまでは予想通りなんだけど……。
ちょっと妖精さんたちが、大丈夫かどうか心配ではある。
妖精さんたちは、羽根に緋緋色金という謎金属を使った、脆化病パイパス手術が施されている。
念のため村で金属探知機に反応しないことは確認してあるけど、空港の金属探知機で反応しないかはわからない。
まあ、緋緋色金は超伝導物質で、マイスナー効果のため磁力を通さない。
金属探知機は電磁誘導の効果で金属に過電流を起こさせ、そこで発生した交流磁場から磁場の変化を探知して警報を鳴らす。
この理論からすれば、磁力を通さない緋緋色金は、探知機に反応しないはずではあるけど……。
はたして、どうなるか。
「こうかな? こうかな?」
「はい、検査証です」
「きゃい~」
どうやら心配しすぎていたようで、妖精さんたちも問題なくゲートを突破。
あっさり検査をパスした。
よかったよかった……。
緋緋色金が探知機に反応しないと分かって、安心して手続きは進んでいく。
大体の子が手続きを終え、あとはサクラちゃん、イトカワちゃん、アゲハちゃんだね。
まずはサクラちゃんが、んしょんしょと手続きを進める。
「小さいのに、一人で手続きが出来て偉いわね」
「きゃい~! ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
その愛らしい姿に、検査員のお姉さんも思わずにっこり。
褒められたサクラちゃん、白い粒子をキラッキラだ。
しかしその瞬間――。
「ピー」
「あ、あれ?」
「きゃい?」
サクラちゃんが引っかかった! なぜ!?
「ち、ちょっと検査させてもらうね」
「どうぞ! どうぞ!」
慌ててボディチェックを始める保安員さんだけど、何も出てこない。
問題ないので、再度ゲートをくぐろうとすると――。
「ピー」
「ま、また?」
「きゃい?」
なぜか、サクラちゃんが引っかかる。
保安員のおねえさんも動揺だ。怪奇現象である。
「おしごとたいへんだね! たいへん!」
「う、うん。そうだね」
しかしサクラちゃんは特に慌てもせず、白い粒子をキラキラさせてお姉さんを励ます。
良い子だなあ。
「ピー」
「ま、またなの?」
だが何度やってもサクラちゃんが引っかかる。
なぜだ……なぜだ……。
「わたしたちは、とおれたね! とおれたね!」
「あっさり~」
つっかかるサクラちゃんとは違い、イトカワちゃんとアゲハちゃんはパスしていた。
どうしてサクラちゃんだけ、引っかかってしまうのか。
「もういっかいだね! もういっかい!」
「ごめんね」
おねえさんには、サクラちゃんは小さな子供に見えている。
子供を何度も検査するのは、心苦しい物があるのだろう。
わりと焦りながら、やさしく慎重に検査をするが……。
「ピー」
「なぜなの?」
やっぱり引っかかる。
他の子と違いは無いはずなのに、サクラちゃんだけどうしても。
一体、何が原因なんだ? よく観察してみよう。
「きゃい~」
じっとサクラちゃんの様子を見ると、おねえさんに構って貰えるのが嬉しいのか粒子がキラッキラ。
周囲の慌てぶりとは対照的に、本人は至ってマイペースだ。
そしてゲートをくぐる瞬間――粒子の軌道が乱れた。
まるで何かに引き寄せられるかのように、強制的に動きがかき乱されている。
これは、もしかして――。
さっそく、試してみよう。
「ねえ、ちょっとキラキラを止めることは出来るかな?」
「きゃい? できるよ! できるよ!」
サクラちゃんに聞いてみると、出来るらしい。
それじゃあ、キラキラを止めてゲートをくぐって貰おう。
「おねえさんから紙を貰うまで、キラキラを我慢してね」
「わかった! わかった!」
ということで、キラキラストップ中のサクラちゃん、保安検査に再挑戦。
すると……。
「あ、大丈夫ですね。では、これが検査証ね。なくさないよう気をつけてね」
「おねえさん、ありがと! ありがと!」
無事、保安検査をパスした。
思った通りだ。
「大志さん、あの子はどうして引っかかったのですか?」
検査をようやくパスしたサクラちゃんを見て、ユキちゃんが原因を聞いてきた。
まあ、簡単な話だ。
「えっとね、妖精さんのキラキラ粒子は……磁力がある、もしくは磁力に引き寄せられるっぽいんだ」
「え? 磁力ですか?」
「そう、磁力だよ。これが原因で、金属探知機に引っかかったぽい」
金属探知機は磁界の変化を捉えるだけに、大量のキラキラ粒子で誤動作したんだろう。
おそるべし、妖精さんキラキラ粒子って感じだね。
妖精さんの羽根は、ようせいぱわーという高エネルギーを放出するラジエータの役目もある。
同時に、放出された粒子もエネルギーはある程度残っているって感じか。
「なんにせよ、原因は分かったから対処は出来るね」
「次からは、すんなり行けそうですね」
ユキちゃんと二人で、ほっと胸をなで下ろす。
さてさて、これで大体の人はパスしたかな?
「こちらへどうぞ」
(ども~)
「ピー」
(およ?)
ああああ! 神輿が引っかかった!
そういや金属部品めっちゃあったよ!
フォローしとかないと!
「え、えっとですね……この方は神輿なものでして」
慌てたせいか、思わず出た言葉がこれ。
言ってから気づいたけど、雑すぎるフォローになってしまった……。
なんだよ俺、「神輿なものでして」とか。それ全くフォローになってないよ。
「大志さん、それって……フォローになっていない気がします……」
「正直、自分でもやってしまったと思っている」
「ですよね」
ユキちゃんからも、つっこみを頂く。
あれですよ。思わずだったんですよ。
とまあ、やらかしてしまって慌てたのだけど――。
「まあ、神輿ならしょうが無いですね」
(そうなの?)
――保安員さんは、「そうなんだ」的な対応で神輿を通してくれた。
え? それでいいの?
どうやら神輿はしょうがないらしい。俺の雑なフォロー、通っちゃったよ……。
「大志さん、通ってしまいましたね……」
「だね……」
ユキちゃんもそれで良いのかとびっくり顔だけど、俺も驚いたよ。
これもまあ、増幅石のお蔭なのかな?
魔女さんに感謝だね!
「はい、検査証です」
(わーい!)
と言うことで、ちょっとヒヤっとしたけど神輿は通過できた。
よかったよかった。
「ピー」
「あ、なんかおとがしたじゃん?」
マイスター! 今度はマイスターがひっかかった!
なにか金属類を身につけていたのかな?
「……何も金属はないですね」
「おう。あぶないものは、なんももってないじゃん」
「ピー」
しかし、またひっかかる。
「あれ?」
「も、もう一度お願いします」
「おう」
「ピー」
「も、もう一度……」
「まじで」
保安員さんがボディチェックを何度しても、何度ゲートをくぐっても引っかかる。
今度はマイスターが無限ループにハマった。
マイスター効果により、なぜか金属探知機に引っかかる。
「ピー」
「な、何故……」
「なんでだろ?」
「も、申し訳ございませんが……こちらの方に来て頂けますか?」
「え?」
あ、マイスターが別室に連れて行かれそうになってる!
大変だー!!!!!
――――。
「こ、この方は……磁石がくっつく特異体質なんですよ」
「よくわからないけど、くっつくじゃん? ほら、ぴったしと」
「なにそれ怖い」
あわてて保安員さんたちにマイスターの特異体質を説明して、なんとかパスした。
まあ確証はないのだけど、多分この体質が原因じゃないかと思う。
「磁石がくっつく人間て、いるんだ……」
「すげえ」
「テレビ出られるんじゃないかしら?」
そしていきなりのビックリ人間登場に、保安員さんたちも動揺していたけど。
でもまあ、分かって貰えたのでよかったよかった。
もうほんと、疲れたよ……。
「これで、全員パスしましたね」
「そうだね。あとは搭乗時間まで待つだけかな」
とまあ色々あったけど、全員これで飛行機に乗れる。
ここまで来てしまえば、もう心配することは無い。
ふふふふ、もうホントに……逃げられないよお。
そうして一安心していると、ハナちゃんが俺の所にぽてぽてとやってきた。
どうしたのかな?
「タイシタイシ、ハナたち、あとはどうすればいいです?」
やってきたハナちゃんより、これからの行動についてお問い合わせが来たね。
……まあ、その辺でのんびり待つことにしようか。
登場のアナウンスがあるまで、出発ロビーで一休みってことにしよう。
「飛行機への搭乗はもう少し待つから、この辺でゆっくり一休みかな?」
「あい~。タイシとゆっくりするです~」
他のみなさんにも、休憩の旨お伝えしよう。
「みなさんも、この辺からあまり離れずに休憩していて下さい。飛行機に乗る時間になりましたら、お伝え致します」
「わかったさ~」
「あっちに、なんかおみせあるじゃん?」
「いってみましょ」
「おれもおれも」
「ひこうきみてるよ! ひこうき!」
そう伝えると、村人たちは各々過ごし始めた。
のんびりベンチに座るドワーフちゃんたち。
キャッキャとお店を物色するエルフたち。
窓際に集まって、飛行機を見物する妖精さんたち。
みんな楽しそうだね。
(どれにしようかな~)
……おおう、神輿が売店で食べ物を物色し始めた。
さっき食べたでしょ!?
◇
神様に自腹を切らせるのもあれなので、ハナちゃん通訳の元食べ物を購入。
神輿はサンドイッチが食べたかったようなので、三人分お買い上げだ。
(おそなえもの~)
「さんどいっち、おいしいです~」
神輿とハナちゃん、サンドイッチをもきゅもきゅと頬ばる。
ハナちゃんにこにこ笑顔、神輿ぴっかぴかでほんわかするね。
「たまごさんど、ごちそうです~」
(おいし~)
特にたまごサンドが気に入ったようで、ハナちゃんお耳がぴっこぴこだ。
神輿はポテサラサンドがお好きな模様。
俺も二人に混じって、もぐもぐとサンドイッチを食べる。
「平和だねえ」
「あい~」
(のんびり~)
三人でベンチに座り、飛行機を眺めながら楽しく間食。
まあこういうのも、良いよね。
「が、我慢ですよみなさん。今日は水着を着るのですから」
「おいしそうだわ~」
「でも、たべたらおにくが」
「ふるえる」
そしてあっちのほうでは、ユキちゃんが女子エルフたちを止めていた。
誘惑に負けそうな女子エルフたちだけど、なんとか踏みとどまっている。
でも、せっかくの旅行なのに食べたいものを我慢するのは、ちょっとあれかなあ……。
こんな機会はあまりないのだから、食べちゃえば良いのではと思う。
どのみち、深夜のラーメン暴食で手遅れなわけだし。
ちょこっと、背中を押してみようか。
「そこな女子のみなさま。耳寄りなお話がありますよ」
「みみよりな、おはなし?」
「なにかしら?」
「きいてみましょう」
女子エルフたちに声をかけると、みなさんすすすっとこっちにやってきた。
まず艦隊を一か所に集める。悪魔の囁き戦術の基本だね。
では、そそのかしミサイル――発射!
「沖縄についたら思いっきり泳ぐので、食べた分は――チャラになるのでは」
「「「――!」」」
ぽつりと、まさに悪魔の囁きをしてみる。
すると――。
「――ゆうきもらった!」
「これください!」
「わたしはこっちを!」
「そうよね~。およぐんだものね~」
女子エルフたちの防壁があっさり決壊。
みなさん五百円玉を握りしめて、サンドイッチの売店に群がる。
あんまりに薄い防壁だったというか、ほぼ紙のようなだいえっとしなきゃ装甲。
無いも同然だったでござるよ。
「おいしいわ~」
「たまごがふわふわとか、すてき」
「ごちそうよね!」
やがて幸せそうな顔で、サンドイッチを大事そうに両手で抱え、もくもくと食べる女子エルフのみなさん。
こうして、だいえっと艦隊は……はかなく散ったのだった。
「あ、ああああ……最悪の事態に」
そしてなすすべも無く、堕ちていく女子エルフたちを眺めるユキ先生。
すまぬ……すまぬ……。
でもまあ、せっかくの旅行だからね。だいえっとは後でやればいいのですよ。多分。
とまあだいえっと艦隊を壊滅させたり、ハナちゃんや神輿とのんびりすごしたり。
そうしているうちに、良い時間になった。
そろそろ搭乗時間かな?
『ご登場の案内を致します。にほん航空――』
ちょうどいいタイミングで、搭乗アナウンスが始まった。
それじゃあみんなで集まって、飛行機に乗りましょう!
「はいみなさん、いよいよ飛行機に搭乗します。後について来て下さい」
「「「はーい!」」」
村人たちに声をかけて、集まって貰う。
さてさて、全員そろっているね。
では、搭乗口に並びましょう!
「こちらに並んで、チケットをかざしてから順番に乗り込みます。フェリーと同じですね」
「俺たちが先導して案内するから、大志たちは後詰めを頼む」
「わかった」
親父たちがまず乗り込み、後続の村人たちを誘導する。
俺たちは全員乗ったのを確かめてから、最後に搭乗だね。
役割分担を決めて、いざ搭乗開始!
「じゃあ大志、先行くな」
「タイシ~、おさきにです~」
「機内でお待ちしてます」
「きんちょうするわ」
親父たちが乗り込み、ハナちゃん一家が乗り込み。
「こっちにいけばいいのかな?」
「そうみたい」
「いくべ~」
他のエルフたちもどしどし乗り込み。
「ギニャギニャ」
「クワワ~」
「ぎゃ~う」
動物たちも、特に止められることも無く乗り込み。
フクロイヌも海竜ちゃんも、当たり前のようにチケットをかざして乗り込んでいる。
器用な動物たちだ。
ちなみにペンギンちゃんは、フクロイヌのフクロから顔を出してキャッキャしていた。
カンガルー状態だね。
「たのしみだね! たのしみ!」
「ひこうき~」
「き、きんちょうするさ~」
それに続いて、妖精さんとドワーフちゃんたちも問題なく乗り込んでいった。
偉い人ちゃんはずいぶん緊張していたけど、もう乗ってしまったからね。
引き返せませんよお。
(のりもの~)
そして神輿は、何故か俺の頭の上でぴこぴこしている。
まあ……一緒に乗り込みましょうだね。
そうして、全員問題なく飛行機に搭乗できた。
ここで引っかかる要素は無いからね。
後は、神様と俺、そしてユキちゃんが乗り込むだけ。
さっさと乗り込んでしまおう。
「じゃあ神様とユキちゃん、一緒に搭乗しよう」
「はい」
(ひこうき~)
ウキウキ気分で、飛行機に乗り込む。
ボーディングブリッジを歩き、キャビンアテンダントさんにお辞儀されながら機内へ。
エコノミークラスの座席をめざし、てくてく歩いて行く。
「自分たちの座席は……こっちかな?」
「タイシタイシ~、こっちです~」
「あ、みなさんもう座ってますね」
座席を探しながら歩いていると、ハナちゃんが手を振ってお出迎えだ。
窓際の席に座って、キャッキャしているね。
「これが、ひこうきのなかか~」
「バスをひろくしたかんじ」
「まどはちっちゃいのね」
他のエルフたちも、やや緊張気味ながらも座席に大人しく座っている。
しっかりシートベルトをしているあたり、偉いな。
エルフたちは問題なさそうだけど、他の方々はどうだろう?
「こんなんが、ほんとうにとぶのさ~?」
「このいす、いいかんじさ~」
「なかはいがいと、ひろいさ~」
しっぽドワーフちゃんたちも、椅子に座ってわきゃわきゃしていた。
窓を覗き込んだり、椅子を倒したり戻したり。
中の様子が珍しいのか、きょろきょろしている子もいるね。
「わわ、わきゃ~……けっこうたかいさ~」
ちなみに偉い人ちゃんは、よりにもよって窓際だ。
窓の外を眺めて、けっこうな地上高にぷるぷるしている。
さらに間の悪いことに、エンジンと羽根がよく見える位置。
……飛行機の羽根は、飛行中にぐいんぐいん曲がるわけで。
めっちゃしなるので、それを見て気絶しなければいいけど……。
それとなく、偉い人ちゃんの様子をうかがうようにしよう。
気絶してたら、起こしてあげないとね!
「ひろいね! でっかいね!」
「ふわふわ~」
元気な声が聞こえた方を見ると、妖精さんたちの集団がはしゃいでいた。
妖精さんたちはちいさいので、機内がとっても広く感じているようで。
クッションとかを取り出して、ふわふわを堪能中だね。
「ギニャギニャ」
「クワックワ~」
「ぎゃう」
そのすぐ側に座る動物たちも、特におびえる様子も無くくつろいでいた。
シートベルトもちゃんとしていて、わかってらっしゃる。
……一体どうやってシートベルトを付けたのかは、わからないけど……。
とまあ、おおむね問題なく席に座れたようで。
ここまでは大丈夫だね。
あとはしばらく待っていれば、タキシングが始まる。
「タイシタイシ~、こっちすわるです~」
「真ん中の座席にどうぞ」
窓際の三列席では、ハナちゃんが手を振ってとなりの座席にお誘いだ。
真ん中が俺で、通路側がユキちゃん。
両手に花の座席だね。
(たのしみ~)
神輿も自分の席に向かっていき、ぽふっと座る。
それじゃあ、俺も座席に座って待つこととしよう。
もうすぐ、もうすぐ羽田を出発して空の旅だ。
さて、みんなは離陸する瞬間の、「ふわぁっ」に耐えられるのか。
その前の加速もなかなかの恐怖ポイントだけど、大丈夫なのか。
色々心配なところはあるものの、あとはなるようにしかならない。
みなさん、もうすぐ離陸ですよお。
空を、飛んじゃうんですよお。




