第四話 乗りますよ
飛行機見物のため、第二ターミナルへ行くことになった。
村人たちを引き連れて、ぞろぞろと移動することになる。
「俺たちは空弁の受け取りしておくよ」
「帰ってきたら配るぜ」
「助かる」
親父と高橋さんは空弁の受け取りをしてくれるようで、二人で歩いていった。
それじゃあ、俺たちは第二ターミナルへ向かおう。
「案内しますので、後に着いてきて下さい」
「「「はーい!」」」
第一ターミナルから第二ターミナルへ移動するには、地下の連絡通路を利用する。
ちょっと歩くのだけど、空港探検イベントとして考えるとわりと楽しい。
「わわわきゃ! かいだんが、うごいているさ~!」
途中、偉い人ちゃんがエスカレーターに驚いたり。
「わっきゃ~! みちもうごいているさ~!」
やっぱり、偉い人ちゃんが連絡通路の動く歩道に驚いたり。
「わわわわわきゃ~! このはこ、うえにのぼっているさ~!」
案の定、偉い人ちゃんがエレベーターに驚いたり。
主に偉い人ちゃんがわっきゃわきゃと驚く中、無事第二ターミナル五階へ到着。
ここに、朝五時からやっている屋内展望フロアがある。
フロアはとても広く、滑走路が一望出来るなかなか良いポジション。
空もかなり明るくなってきて、早朝の滑走路や飛行機が朝日に映える。
「大志さん、ちょうど離陸直前の機が居ますよ」
「ほんとだ、早速見物しよう」
フロアに到着すると、滑走路へと今まさに入る飛行機が見えた。良いタイミングだね。
それじゃ、あの飛行機が離陸する瞬間を見物しましょう!
「はいみなさん、あちらの飛行機をご覧下さい」
「みるです~」
「あれが、本物のヒコーキ……」
タキシングする飛行機を指さすと、ハナちゃんぽててっと窓に近寄る。
その後に続いて、ヤナさんもふらふらと窓際へ。
「おもってたより、でけえ」
「というか、なんかたくさんならんでる」
「まじで、ほんとにあるんだな……」
他の方々も、続々と窓際へ移動。
固唾を飲んで、飛行機を見守る。
「わきゃ~、あれがそうさ~」
「うちらも、けんぶつするさ~」
「でっかいね! かっこいいね!」
(すごそう~)
ちっちゃドワーフちゃんたちも、ぴょんぴょんと窓際デッキの上に乗る。
飛翔体グループも、同じくデッキの上へ。これで、見物体勢は整った。
あとは――待つだけ。
「わきゃ~! なんだかでっかいやつが、うごいているさ~!」
偉い人ドワーフちゃんは、ジリジリとタキシングする飛行機を見て凄い驚いている。
黄色いしっぽがピン! と立って、お目々真ん丸。
アレに乗るということを、教えておかないとね。
「アレと同じやつに、次は乗りますよ」
「あれ、のりものなのさ~?」
「そうです。アレがヒコーキってやつですね」
「なるほどさ~」
次に乗るやつがわかって、偉い人ちゃんも一安心だね。
わっきゃわきゃと黄色しっぽを振っている。
しかし、その振られていたしっぽが――はた、と止まった。
どうしたのかな?
「……タイシさん、なんだかあれ、うごきがおそくないさ~?」
タキシング中のジェット機を見た偉い人ちゃん、動きの遅さを指摘する。
まあ、地上ではそんなに小回り効かないからね。
そもそも、地上を移動するのがメインの乗り物じゃあない。
今まで乗ってきたものとは、根本が違うのですな。
「あのおそさで、もくてきちにつくさ~?」
「大丈夫ですよ。もう少しで、その意味が分かりますから」
「わきゃ?」
色々聞きたいことはあるようだけど、特に細かく説明はしないことにした。
離陸シーンを見てしまえば、一発で理解できる。
百聞は一見にしかず、というやつだね!
……決して、今の今まで言い出せなかったと言うわけでは無い。
というか正直に話して、「村に残るさ~!」とか言われたら困るからね!
ここまで来たら、もう逃げられない。
逃がしませんよお。
「大志さん、そろそろです」
「あ、ほんとだ。もうすぐ離陸だね」
偉い人ちゃんが首を傾げている間にも、なんかの飛行機は離陸準備を整える。
滑走路上で停止しているので、スタンディングテイクオフだね。
一番迫力のある離陸方法だ。
「タイシタイシ、あれがもうすぐ、とぶです?」
ハナちゃんが飛行機を指差しながら、キャッキャと話しかけてくる。
そうそう、もうすぐ離陸だよ。
「そうだよハナちゃん。もうすぐだから、よ~く見ていてね」
「あい~!」
ハナちゃんはもうすっかり飛行機は怖くないようで、ワクワクしながら窓に張り付く。
エルフ耳もぴこぴこしていて、はしゃぎようが伝わってくるね。
「……わきゃ? いま、『とぶ』ってきこえたさ~?」
そして偉い人ちゃん、ハナちゃんが言った「飛ぶ」という単語を拾ったようだ。
そうなんです。飛ぶんですよあれ。
「まさか、そんなことはないさ~? あるわけないさ~」
ハハハと笑い飛ばしながらも、冷や汗ダラダラの偉い人ちゃん。
これまで巨大な建築物を見たり、高速で移動する自動車を見てきた。
ドワーフィンでは「ありえない」人工物を沢山見てきたので、否定する声も力が無い。
「あるわけないさ~。あるわけないさ~……」
あるわけないさと思いつつ、「まさか?」という……嫌な予感を感じているらしい。
次第に、ピン! と立てられていたはずの黄色しっぽが……下がっていく。
そうそう、嫌な予感は当たるんですよ。
直感に耳を傾けるのは、良いことなんですよお。
「あるわけ――」
やがて、みんなが見守る中――エンジンの轟音が聞こえてきた。
――いよいよだ!
「うっわ! ここからでもおっきなおとがきこえる!」
「もうすぐです~!」
「ふるえる~!」
離陸シーンをあらかじめ動画で学習してある方々は、その瞬間が分かる。
みなさん前のめりになって、飛行機を見つめ。
とうとう飛行機が、滑走し――離陸した!
「あや~! とんだです~!」
「すげえええええ!」
「かっこいいいい!」
「――……」
生で離陸を見られて大はしゃぎする人、目を開けたまま気絶する人、様々な反応を見せる。
気絶率は思ったより低いね。事前学習が効いている感じだ。
それじゃあ、無事離陸シーンも見られたわけで。
本当に飛ぶのだと、はっきり理解出来たよね。
ここまで来たのだから、もう逃げられないよお。
「……タイシさん、タイシさん」
村人たちが盛り上がったり気絶したりする中、偉い人ドワーフちゃんが俺の服をクイクイと引っ張る。
その顔は、真顔。黄色しっぽは、ぷるぷる震えている。
何か言いたいことがあるようだ。お聞きしましょう。
「アレにのるって、いってたさ~?」
「乗りますよ」
「ほんとに、ほんとさ~」
「乗りますよ」
「うちも、あれにのるさ~?」
「乗りますよ」
「――アレがおっこちたら、どうなるさ~?」
「――アレしますよ」
「――……」
気絶した。
「……」
真顔のまま目を開けて気絶するそのお姿。
大変申し訳ないとは思うのだけど、沖縄へは飛行機じゃないと厳しくてですね。
なんとか乗り越えて頂きたいわけです。
「あや~……うごかなくなっちゃったです~」
「椅子に座らせて、介抱しよう」
「お手伝いします」
カチコチになった偉い人ちゃんを抱え上げ、そっと椅子に座らせる。
ま、まあ乗ってみれば意外となんてこと無いですよ。
大丈夫。多分大丈夫。
◇
ぷるっぷるの離陸シーン見学を終え、一休み。
展望ラウンジで離陸したり着陸したりするのを眺めながら、コーヒーブレイクだ。
「ち、ちたまはおそろしいところさ~……」
気絶から回復した偉い人ちゃんは、まだぷるっぷる。
あったかくて甘~い缶コーヒーを両手で抱えて、ちびちび飲みながら怖がっている。
しかしその目は、滑走路に釘付け。なんだかんだで、興味はあるっぽいね。
「まじで、あれにのるんだな~」
「そらをとぶとか、ふるえる」
「おれのじまんのやせがまん、みせるときなのだ……」
「わきゃ~……じっさいにみると、すごかったさ~」
気絶組の方々も、怖い物見たさで窓に張り付く。
だんだん慣れてきた感はある。
この調子で離陸シーンに慣れてもらって、実際の飛行に耐性を付けて貰おう。
「しゃしん! しゃしんとります!」
「あんな大きな物が飛ぶって、不思議ですね……」
カナさんは恐怖心とかどこかにすっ飛んで、珍しい光景を写真に撮りまくり。
絵描きとして、資料収集に余念が無い。
ヤナさんも、怖さより仕組みに関する興味の方が勝ったようで。
村人たちの反応も、千差万別になってきた。
「おっきなやつがとぶって、すごいね! すごいね!」
「だいはくりょく~」
(たのしそう~)
未確認飛翔体グループは、もう大はしゃぎ。特に心配の必要が無い方々だ。
これらの方々は普段空を飛んでいるだけに、恐怖心とかゼロですな。
むしろ自分以外の力で飛べると言うところが、ツボにハマったらしい。
きっとこの子たちは、飛行機の中でも大はしゃぎだろう。
まあ、おおむね受け入れて貰えているといった感じ。
約一名を除いて、事前に説明はしてあるからね。
「大志さん、そろそろ良い時間ですので、第一ターミナルに戻りましょうか」
「あ、そうだね。空弁の配布とチェックインをしなきゃ」
みんなの反応を見ていると、ユキちゃんから移動の提案だ。
確かに良い時間なので、そろそろ第一ターミナルに戻ろう。
「はいみなさん、そろそろ戻りましょう」
「「「はーい」」」
声をかけると、村人たちは素直に集まってくる。
この辺引率が楽で良いね。勝手にどっかに行ったりしないのは助かる。
というわけで、みんなでゾロゾロと第一ターミナルに帰還。
南ウィングへ戻ると、親父と高橋さんが待っていた。
空弁は無事受け取れたようで、山積みになっている。
「お弁当の受け取り、ありがとう。助かったよ」
「おう、後で配ろう」
人数より多めに発注してあるので、なかなか壮観だね。
早いところ、配っちゃおうかな。
「ついでに全員分のチェックインと、俺らの荷物を預けておいたぜ。ほら、用紙」
「そこまでやってくれたんだ。ホント助かる」
「良いってことよ」
お弁当の配布を考えていたら、高橋さんが紙の束を手渡してきた。
チェックイン手続や預け荷物も済ませてくれたようで、ありがたい。
これなら、後は保安検査だけになる。とっても助かるな。
「……それより、見学はどうだった?」
「そうそう、離陸とか見てきたんだろ?」
二人に感謝していると、見学はどうだったかの問い合わせが。
まあ、とくに大混乱はしなかったかな?
「事前に教えてはいたから、それほど混乱は無かったと思うよ」
「そんな感じだな」
「大丈夫そうな感じはする」
村人たちの元気そうな様子を見て、親父も高橋さんも大丈夫だと判断した。
驚きのあまり魂が出ちゃう人とかは、出ていないからね。
念のため木工用ボンドを用意していたけど、必要なくてほっと一安心だ。
しかし約一名、突然飛行機という物を知らされて……ぷるぷるの方はいらっしゃる。
「わきゃ~……。うちはこれから、どうなっちゃうさ~?」
いまだ震えが治まらない偉い人ちゃん、何とかしてあげたいかな。
ここまで教えなかった俺の責任でもあるからね。
というわけで、色々そそのかそう。
「あの飛行機に乗れば、もう沖縄ですよ。青い海、白い砂浜、そして――ぽかぽかお日様。はいこれどうぞ」
「わわ、わきゃ~。みりょくてきさ~……」
あらかじめ大量印刷しておいた、沖縄の綺麗なビーチ写真を配布だ。
偉い人ちゃん、もうその写真だけで心がグラッグラに揺れている。
黄色しっぽがちょっと上向いた。
「たのしみだね! たのしみ!」
「ゆめがあるわ~」
「たくさん、ひなたぼっこするさ~」
受け取った他のみなさんも、お目々キラキラで写真を見つめる。
今日の午後には、実際にそのビーチで遊ぶわけだからね。
そりゃあ楽しみという物だ。
「宿泊場所のお部屋も、こんなにステキ」
「うきゃ~! なんだか、きれいなおへやです~」
「まじで! こんなところですごすの!?」
「きれいなおへやとか、すてき」
「いいかんじさ~」
ついでにホテルの部屋写真も配ると、もうみなさん大はしゃぎ。
観光ホテルの部屋だから、結構良いんだよね。
おふとんじゃなくてベッドだから、新鮮さもあるようだ。
「お昼ご飯は、お魚、焼きそば、お肉も焼いちゃいます!」
「おさかな~、おさかなさ~」
「はらへってきた」
「やきそば、たのしみです~」
もうなんか偉い人ちゃん以外の人が盛り上がりまくりだけど、旅行の期待を煽るだけ煽る。
美味しそうなバーベキュー写真を見て、みなさんじゅるり、うずうずし始める。
まあ、観光地が楽しいのは当たり前か。
肝心の飛行機についても、色々楽しいと言うことを伝えないとね。
「みなさん飛行機は不安かと思いますが、天高く下界を眺めながら食べるお弁当は――別格ですよ」
「はい、これが飛行機内で食べるお弁当です」
「みんなに配るぞ」
ちょうど良いので、空弁を配布する。
俺と親父、そして高橋さんと三人でお弁当を手渡しまくり。
空弁お取り置き対象外のお弁当なんだけど、何とか頼み込んで用意してもらったやつだ。
飛行機内で、味わって食べて下さいね。
「けっこうたくさん、つまってそう」
「ふたつもあるんだ!」
「わきゃ~、いいにおいがしてるさ~」
お弁当を受け取ったみなさん、にっこにこ笑顔だ。
さらに、おやつもあるんですよ。
「おやつとして、チョコレート詰め合わせもあります」
「チョコ! チョコがあるの! あるの!」
「あまいやつ~!」
「チョコレート、うちもだいすきさ~!」
おやつを配ると、妖精さんと子供たちが大はしゃぎになった。
子供ドワーフちゃんも、チョコを受け取ってにっこにこだ。
やっぱり、甘い物は子供ウケが良いね。
「空から広い海や大地を眺め、最高の景観を楽しみながらこれらのお弁当とおやつを食べる。――ステキではないでしょうか?」
「すてきさ~! たのしみさ~!」
「おべんと、たのしみです~!」
「わきゃ~!」
はい、堕ちた。
やっぱり食べ物の力は偉大ですな。
それに、雄大な太平洋やにっぽんの大地を、空から眺めながら食べるお弁当は最高で。
空の旅は、陸路では体験出来ない物が沢山ある。
怖がる必要は無いのですよ。
「わきゃ~! わきゃ~!」
「タイシとおべんと、たべるです~」
「まだかな! まだかな!」
飛行機怖いよ雰囲気もすっかり吹き飛び、みなさんキャッキャと大はしゃぎ。
(おいし~)
あれ? なんか、「おいし~」って謎の声が。なぜ今、そんな感想が?
嫌な予感がしたので、神輿の方を見てみると――。
(おそなえもの~)
キラッキラで光るご機嫌な神輿、空弁を開けて食べていた。
ああああああ! 神様もう食べてる!
それは今食べないで! 早弁ですから! 早弁!
◇
とりあえず神輿早弁事件は、予備のお弁当があるのでなんとかなった。
念のため多めに発注しておいて、ホント良かった……。
(ごちそうさまでした~)
そして神輿は早弁できて大満足のようで、ご機嫌でほよほよ飛び回っております。
ま、まあ神様だからね。フリーダムなのは元からで。
美味しく食べられたのなら、何よりです……。
しかし神輿にまたお弁当を渡すと、それも早弁するのが予想される。
予備のお弁当は機内で渡すことにしよう。
というか上里であれだけ食べたのに、もう早弁とかほんとフードファイター。
要注意飛翔体だ。
とまあ、早弁あくしでんとはあった物の、無事お弁当の配布も終えて。
そろそろ、搭乗の準備をしよう。
「ではみなさん、手続きをして飛行機に乗る準備をしましょう。チケットを配ります」
「「「はーい」」」
みんなにチェックイン済みのチケットを配り、搭乗手続きの始まりだ。
保安検査をパスすれば良いだけなので、まあ金属に気をつければ問題ないだろう。
それでは、行きましょうかね!
「わきゃ? てつづきってなにさ~?」
おっと、偉い人ちゃんは事前練習してなかったな。
どんな手続きがあるかも分からない。これは、俺がサポートしよう。
「危ない物を持っていないか調べられますので、私が側について補助しますよ」
「いろいろ、たいへんそうさ~」
若干不安そうな偉い人ちゃんだけど、こればっかりはしょうがない。
まあ、羽根の付いたキンキラ髪飾りを外せば大丈夫だと思う。
というわけで、みんなで保安検査場へ。
まずは、偉い人ちゃんを通してしまおう。
「ここはこうして、チケットをかざして、それから……」
みんなの復習にもなるので、手順を説明しながら実行してもらう。
チケットをリーダーにかざして。
探知機に反応しそうな金属類はカゴに入れ、コンベアーヘ。
あとは、ゲートをくぐる。
「ここをくぐるさ~?」
「はい」
保安員さんの指示に従い、偉い人ちゃんがゲートをくぐる。
……無事、通れました!
「こちらをどうぞ」
「ありがとうさ~」
そして保安県査証を受け取り、偉い人ちゃんは検査をパスした。
初めての偉い人ちゃんがパス出来たのだから、他の村人たちも大丈夫だね。
それじゃあ、どしどし保安検査をしてもらおう!
しっかり練習したのだから、みんな大丈夫なはず。大丈夫かも?
……無事、保安検査を通れば良いな。