第十五話 飛び入り参加、それは必然
「おなかいっぱいさ~」
「たくさん、たべたです~」
楽しい朝食も終わり、偉い人ちゃんはほくほく笑顔だ。
ハナちゃんもお腹をさすって、幸せそうな顔。
ほんわかとした、食後のひとときを過ごす。
ただ、これからの話はまだ煮詰めていない。
申し訳ないけど、会議を再開しよう。
「では、お腹も膨れたところでお話の続きをしますか」
「そうするさ~」
ご機嫌偉い人ちゃん、すちゃっと俺の正面に座ってお話しましょう体勢だね。
ではでは、細かい調整に入りましょう!
――そして、色々話し合った。
ひとまずドワーフちゃんたちの湖にある適当な樹木に、仮設住宅を設置すること。
本格的な家も建設するけど、そちらはまた詳細に計画を立てる予定。
また食料は村で援助することと、村の施設は自由に使って構わないこと。
お金も援助はするけど、お仕事のお手伝いで日当を得る事も可能なこと。
その他様々な生活必需品も提供するので、不足したり必要な物があったら遠慮無く申し出て欲しいこと。
等々、生活していく上で必要なことを色々決めた。
「これでひとまず、暮らしていけるかと思います」
「いろいろよくしてくれて、ありがとうさ~」
生活していくのは何とかなりそうなので、偉い人ちゃんもほっと一安心だね。
でもまあ、きっと遠慮してしまう事も多いだろう。
小まめに様子をうかがって、不自由していないか気を遣ってあげる必要はある。
「こちらも、計算のお仕事を手伝って頂けるのは助かります」
そしてヤナさんも、仕事を手伝ってもらえるとあって喜んでいる。
村の運営にあたって、あれこれ計算する仕事が毎日あるからね。
その労力が減るのは、とっても助かるだろう。
「うち、けいさんはとくいさ~。あっちでも、まいにちしてたさ~」
「これは、心強いですね」
偉い人ちゃんもトップだっただけに、計算の仕事は毎日あったようで。
これはお任せしても大丈夫そうだね。
……まあ、こちらの数字と計算記号を覚えて貰う必要はあるけど。
それと電卓の使い方とかね。
「タイシタイシ~、おうちつくるのは、いつごろです?」
「タイシさん。私たちもお手伝いしますので、予定を決めましょう」
「あ、そうですね。予定を決める必要がありますね」
湖畔リゾートに設置してある仮設住宅の一棟を持ってくるつもりだけど、手伝いは必要で。
ハナちゃんやヤナさんの言うとおり、いつ作るかは予定を立てないと。
いつ頃が良いかな……。
こういう作業には高橋さんが欠かせないけど、予定が空いていない。
沖縄に行く前に、いくつか片付ける仕事があるそうで。
旅行から帰ってきた後なら、都合がつくと思うけど……。
「高橋さんの予定がつかないので、旅行から帰ってきた後になりますね。みなさんも、旅行の準備で手が回らないと思います」
「確かに、今は旅行の準備とかがありましたね。村のみんなも、そっちで忙しいかもです」
「ハナも、いろいろじゅんびちゅうです~」
今すぐにってのは、ちょっと難しいかもだ。
俺もまだ旅行の準備が終わっていないので、大きな作業を差し込むのはやや厳しめ。
いやはや、すぐに何とかしてあげられたら良かったのだけど……。
まあとりあえずは、空き家で過ごして貰おう。
二棟のログハウスが今は空いているから、ひとまずはそこで。
――と、頭の中で色々考えていたときのこと。
「わきゃ? りょこう、いくのさ~?」
旅行という言葉を聞いて、偉い人ちゃんが訪ねてきた。
そうなんです。もうすぐみんなで、沖縄旅行なんですよ。
楽しみだなあ。
「タイシ、タイシ。ハナ、ちょっと……きづいたことがあるです?」
沖縄旅行に思いを馳せていると、ハナちゃんがいつの間にか俺のとなりにちょこんと座っていた。
そして、肘の辺りをちょいちょいとつつく。
気づいたこととは、なんでございましょう?
「何か気づいたの?」
「あい」
「どんなことかな?」
ハナちゃんに問いかけると、なぜかエルフ耳がへにょっと垂れた。
そしてお困り顔に。……なにか、問題ごとなのかな?
「それって、問題ごとかな?」
「あい。……ハナたちがりょこうしてるあいだ、このひとはどうするです?」
そう言いながら、ハナちゃんが偉い人ちゃんの方を見た。
俺たちが旅行している間、この人はどうするか。
そういえば、そうだ……。
「わきゃ?」
俺とハナちゃんに見つめられた偉い人ちゃん、どうしたの? って感じで見つめ返してきた。
……俺たちが旅行に行ってしまうと、置いてけぼりになってしまう。
せっかく村になじもうと努力しようとしているのに、しばらく放置になるわけだ。
それは……あり得ないよね。無責任だ。
「一人置いていくわけには、いかないよね……」
「あや~……もしかして、りょこうはちゅうしになっちゃうです?」
置いていくわけにはいかないと応えると、ハナちゃんうるうるお目々に。
旅行が中止になるかもと思って、切なそうだ。
だがしかし、お金はもう振り込んでいるわけで。
今中止してしまうと……キャンセル料を取られてしまう。
旅行に行けないのに二百万円ほどお金だけ取られるという、何の益にもならない結果となる。
つまり、旅行の中止は不可能。
「ハナちゃん心配しなくて良いよ。中止はしないから」
「よかったです~!」
中止はないと分かって、ハナちゃんキャッキャとはしゃいだ。
でもまあ、そうするとお話は振り出しに戻るわけで。
偉い人ちゃんを置いてけぼりにせず、かつ旅行もする。
これを両立する方法は、ただひとつ。
――偉い人ちゃんも、連れてっちゃえばいいのだ!
「というわけで、一緒に沖縄に来て下さい」
「……わきゃ?」
強制参加である。偉い人ちゃんに――選択肢はない。
「ユキちゃん、今から一人ツアーに追加って出来るかな?」
決めたからには、すぐさま行動だ。
ツアー参加者の追加が可能か問い合わせ、その間に予算編成を見直す。
「ちょっと旅行会社に問い合わせてみますね」
「急な話で、ごめんね」
「いえいえ。では、電話をかけてきます」
「わきゃ?」
ユキちゃんが別室に行き、電話して旅行会社と調整だ。
それがオーケーとなったら、空弁の追加発注をしよう。
さてさて、ちゃっちゃと進めないとね!
「……みんなして、なんのおはなし、しているさ~?」
「いっしょに、おきなわいくです~!」
「ギニャ~」
当の偉い人ちゃんを置いてけぼりにして、話はどんどん進む。
フクロイヌに異世界へと連れてこられて、落ち着く間もなくさらに遠くの地へと連れて行かれる。
もうほんと、すいません……。
でも、沖縄旅行は楽しいよ!
せっかくだから、共に旅をして楽しく過ごしましょう!
「大志さん、今日中に支払いが可能ならオーケーだそうです」
――よし! これで問題オールクリアだ!
「ユキちゃんありがとう! ネットバンクで支払うから、口座と金額を教えて」
「こちらです」
「…………はい、振込完了。空弁の追加発注も、今しちゃうね」
「それが終われば、仕込みは完了ですね!」
「だね!」
ぱぱぱっと振り込みを済ませて、お弁当の発注もしてしまう。
ふははは、情報化社会の勝利よ。
「わわわきゃ~……。うちのしらないところで、なにかがきまってるさ~……」
偉い人ちゃん、自分のあずかり知らぬ所で色々決められている事に、気づいたようだ。
でももう手続き終えちゃったからね。お金も払っちゃった。
……逃がさないよ。
「わきゃ~! タイシさんが、わるいおとなのかおしてるさ~!」
「あきらめるです~」
「そうですよ。諦めが肝心です」
「たのしいりょこうに、しましょうね!」
俺の表情を見て、偉い人ちゃんがぷるぷる震える。
そしてハナちゃんもヤナさんも、カナさんだって悪い顔。
みんな思いは、同じなのだ。
――決して、逃がさぬと。
「わわわわわきゃ~! みかたが、だれもいないさ~!」
偉い人ちゃん、自分の黄色しっぽを抱えてわきゃきゃ~と震える。
ふふふふ、楽しい旅行に……しましょうねえ。
「これこれみなさん、あまり怖がらせたらいけませんよ」
そんなホラーな雰囲気の中、ユキちゃんが待ったをかける。
いや、怖がらせているつもりは……それほど無いです。たぶん。
「とりあえず、どんな旅行をするか説明しないと」
「それは確かに、そうだね」
「旅行の内容さえ分かれば、きっと大丈夫ですよ」
ユキちゃんの言うとおり、沖縄旅行の説明は必要だね。
まあ、事後承諾なんだけど。
ひとまず沖縄ガイドの本を見て貰い、どこに行くのか知って貰おう。
たしか、ハナちゃんが本を持っているはずだよね。
「ハナちゃん、あの本ってあるかな?」
「あい~! みてもらうです~」
ハナちゃんに聞いてみると、ぴょいっと沖縄ガイドが出てきた。
それじゃあ、今回の旅行プランも交えて説明しましょうかね!
「はい、こちらを見て頂けますか?」
「わきゃ? このきれいなやつは? なにさ~?」
「これは、海と言います」
「うみ?」
ビーチの写真を広げると、偉い人ちゃんがすすすっとやってきて珍しそうな顔で覗き込んだ。
興味があるのか、黄色しっぽがピクピクとしている。
「海と言うのは――」
すかさず海について説明し、実際にある場所だと教える。
とてつもない広さと深さがあること。太平洋だからね。
それと水はしょっぱくて、魚がもの凄いたくさんいること。
等々、海の魅力をこれでもかと教える。
「こんなところが、こっちにはあるのさ~?」
「ええ。去年は別の海に遊びに行ったのですが、そりゃもう楽しかったです」
「さど、さいこうだったです~」
ハナちゃんもキャッキャしながら、写真をたくさん取り出して机に並べた。
楽しい旅行の風景が映し出された、素敵なコレクションだね。
「わきゃ~、たのしそうさ~」
偉い人ちゃん、写真に目が釘付けになった。
海竜ちゃんと遊ぶみんなの写真や、ハナちゃんと神輿が焼きそばを食べている写真。
カニを捕まえようとしたヤナさんが逆襲されて、ハサミに挟まれている写真とかも。
海竜ちゃんダッシュに振り落とされたマイスターが、水面で大回転している決定的瞬間とかもあるね。
……何枚か爆笑フォトが混ざっているけど、良い思い出だ。
もっと積極的になって貰うため、ちょいとセールストークをしましょうか。
「さんさんと輝くお天道様に照らされて、この素敵な海辺で日向ぼっこ」
「いいかもさ~」
「すてきです~」
偉い人ちゃん、日向ぼっこと聞いてしっぽをぱたぱた振り始めた。
やっぱり、体を温めるのが好きみたいだね。
ハナちゃんもつられて、エルフ耳をぴこぴこさせている。
「海に入れば、このようなカラフルなお魚と一緒に泳げます」
「みたこともないおさかな、おいしそうさ~」
「どんなあじが、するですかね~」
――おっと、食い気を刺激してしまった。
偉い人ちゃんとハナちゃん、じゅるりとしている。
……まず真っ先に、美味しそうという感想が出てくるのはどうなんだろう?
まあ、気を取り直して説明を続けよう。
「こちらおなじみの海竜ですが、子供の海竜ちゃんの背中に乗って遊ぶこともできます」
「わきゃ~、このかわいいこと、あそべるさ~?」
「おもきし、あそべるです~!」
「すてきさ~!」
偉い人ちゃんも可愛い動物は好きなようで、海竜ちゃん写真にわっきゃわきゃだ。
ハナちゃんもフォローしてくれて、二人で写真を見ながらキャッキャしている。
動物が好きと言うことは、あの子の事も話した方が良いかも。
「おまけに、今回はこの子も参加です」
「わきゃ! みずどり、いるさ~!? めったにあそべない、めずらしいいきものさ~!?」
「いっしょにいくですよ~」
「わきゃ~!」
ペンギンちゃんの写真を見せると、偉い人ちゃんおもいっきり食いついた。
もうしっぽがぱったぱた振られている。
希少な動物と遊べるというのが、相当なバリューのようだ。
「……ちょっと湖まで行って、呼んできますね」
「ユキちゃん、ありがと」
「少々お待ち下さい」
ユキちゃんもその食いつきぶりに思うところがあったのか、ペンギンちゃんを連れてきてくれるようだ。
すたっと立ち上がって、家から出て行った。
俺はその間に、色々お話をしておこう。
「食事は、みんなでお魚とかを焼いて食べますよ」
「おさかな~! おさかなさ~!」
「おいしいおりょうり、つくるです~」
今度は食欲の方面から攻めると、偉い人ちゃんニッコニコだね。
しっぽの振りすぎで、だんだん横にずれていってらっしゃる。
定位置にもどして――と。
「当然お酒も出ますよ。熟成された、強いお酒があるんです」
「わきゃ! わきゃ! じゅくせいされたおさけ!」
今度はぴょんぴょん跳び始めた偉い人ちゃんだ。
熟成されたお酒、というのがたまらないらしい。
「ウィスキーとか、ああいうのもよかったさ~」
「たくさんお酒、飲めますよお」
「ゆめみたいさ~」
今度はくるくる回り始めた。
もうなんというか、ワクワクしてしょうが無いようだね。
そうして、くるくる回るバレリーナドワーフちゃんを眺めていると――。
「――はい、お越し頂きましたよ」
「こんにちわさ~」
「クワワ~」
子供ドワーフちゃんと、ペンギンちゃんがやってきた。
二人とも、ペコリと頭を下げてとてもお行儀が良い。
良い子たちだね。
「わわわわきゃ~! ほんとに、みずどりがいるさ~」
「クワックワ~」
ペンギンちゃんを見た偉い人ちゃんは、くるりんと回ったかと思ったら……。
「ふっかふかさ~」
「クワ~」
しゅたっとペンギンちゃんの前に移動して、頭をなでなでし始めた。
なでられたペンギンちゃんは、羽根をぱたぱたさせて大喜びだ。
これはもう、完全に堕ちているね。
そろそろ、締めくくっても良さそうだ。
「という感じで、旅行の計画を立てております」
「りょこう、うちもつれていってもらえるって、ほんとさ~?」
「ホントですよ。一緒に、沖縄へ行きましょう」
「わきゃ~! ありがとうさ~!」
「クワクワ~」
確約が取れたことで、大喜びのご様子だ。
ペンギンちゃんと手を取って、わっきゃわきゃとはしゃいでいるね。
これで、旅行参加も問題なしだ。
「旅行、楽しみですね」
「たのしみさ~!」
あんなに不安がっていたのはどこへやら。
もうすっかり、偉い人ちゃんは旅行モードに切り替わったね。
「わきゃ~! わきゃ~!」
「クワクワ~」
「あとすこしで、しゅっぱつです~!」
「いよいよですね!」
こうして、偉い人ちゃんの参加も確定し。
ハナちゃん家の中は、新たな仲間が増えてキャッキャと大騒ぎだ。
「すてきなりょこうに、するさ~」
そうですねえ。素敵な旅行にしましょうねえ。
もう、逃げられませんよお。
――飛行機に、乗って貰いますからねえ。
◇
十月某日、夜。現在地は、村の下にある平地。
バスが三台並んだその場所は、月明かりに照らされた稲穂が風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。
「ではみなさん、準備は大丈夫ですか?」
「だいじょぶです~!」
「なんかいも、もちものかくにんしました!」
「もんだいないじゃん!」
そして、村の定住者が全員並んでいる。
いよいよ、出発の時間だ。
「おっし、班分けに従ってバスに乗ってくれ」
「一号車は大志、二号車は私、三号車は高橋さんが運転します」
高橋さんと親父も、準備万端だ。
これからそれぞれバスを運転して、一路羽田を目指すことになる。
「わきゃ~! これが、うわさのバスってのりものさ~!」
ちなみに偉い人ちゃんは、バスを見るのが始めてだ。
かなり驚きながら、巨大な車体を見上げている。
「うちらはのったことあるけど、たのしかったさ~」
「りくちをはしるのりもの、すごいやつさ~」
「すわってるだけでいいのは、らくちんさ~」
他のドワーフちゃんたちは、ラーメン屋さん駐車場でのマジックショーのときに、バスに乗っているから慣れた物だね。
乗り心地はどうとか、偉い人ちゃんに説明している。
俺もちょこっと、バスについて教えておこう。
「大きな音がしますが、そういう乗り物だから怖がらなくても大丈夫ですよ」
「わかったさ~。みがまえておくさ~」
偉い人ちゃん、身構えておくとは言いつつも、バスに乗るのが楽しみでしょうがないご様子だ。
黄色しっぽをめっちゃ振っているから、見た目でわかっちゃうね。
でもこれなら、大丈夫そうだ。
それじゃあみんなバスに乗って貰って、待機してもらいましょう!
「ではみなさん、バスに乗車して下さい」
「「「はーい!」」」
声をかけると、元気な返事と共にぞろぞろとバスに乗り込んでいくみなさん。
足取り軽やかで、もうウッキウキだね。
「いよいよしゅっぱつだね! しゅっぱつ!」
「おだんごたくさん、たべようね! たべようね!」
「うみって、はじめてだよね! はじめて!」
妖精さんたちも、きゃいっきゃいで乗車だ。
バスの中が一気に明るくなったけど、車内で花火をしているみたい。
正直まぶしい。まあ、みんな元気で大変よろしいね!
(おきなわ~)
続いて神輿もほよほよとバスに乗り込んでいくけど、イルカちゃんぬいぐるみを抱えている。
……それ、持っていくんだ。
まあ、お気に入りのぬいぐるみだからね。ふわふわをご堪能しながら、バスの旅をお楽しみ下さいだね。
「わきゃ~! なんかとんできたさ~!」
(ども~)
――あ、そういや偉い人ちゃんに、空飛ぶ神輿の存在を教えてなかった。
まあ、あとで説明しておこう。その可愛いぴこぴこしているのは、神様ですよって。
きっと驚くだろうな。
とまあ、それはそれとして。
「ギニャギニャ~」
「クワワ~」
「いっしょに、のるですよ~」
「かかえて、いくさ~」
フクロイヌはハナちゃんに、ペンギンちゃんは子供ドワーフちゃんに抱えられて、一号車に乗っていった。
ペンギンちゃん、まずはフクロに入らず楽しむみたいだね。
怖くなったり眠くなったら、フクロへ潜るんだろう。
お世話は子供ドワーフちゃんが責任を持って担当するとは言え、こちらでもマメに様子は見ておこう。
まあ、運転中はユキちゃんに丸投げするしかないのだけど。
「うみについたら、フネにのろうじゃん」
「てんぷくとか、やめてよね」
「それはわからない」
「おまえがフネをうごかすと、まえにすすまないよな」
「うちのむすめを、たのむわね~」
最後に、マイスターとステキさん、マッチョさんと腕グキさんも乗り込む。
エルフカヌーで遊ぶ話で盛り上がっているようだけど、そのカヌーは仕舞っておきましょうね。
必要になるのは、十二時間後くらいですから。
――――。
そうして全員がバスに乗り込んで、三人のドライバーとユキちゃんが残った。
月明かりが照らす中、それぞれ顔を見合わせる。
すぐに発車しないのは、ちょっと相談があるからだ。
その相談とは――。
「……なあ大志、あの偉い人がこの時期にやってきたのって……偶然か?」
親父が早速、その話題について聞いてくる。
そう、偉い人ちゃんについてである。
「俺は正直、偶然じゃねえと思ってる」
続けて高橋さんも、意見を述べる。
その意見については、俺も同意だ。
「自分もそう思う。それが何故かは分からないけど……無意味にこんなことをするとは、思えない」
「なにせ、さらって来るほどですからね」
「おまけに、もう旅行をキャンセルか日程変更できない時期と来た」
「まるで、狙ったかのようにな」
ユキちゃんの言うとおり、偉い人ちゃんは自分の意志とは無関係に連れてこられた。
こんなことは、今までに無かった。
親父と高橋さんは、やってきた時期に引っかかっている。
これほどピンポイントで狙われたのは、偶然とは思えないのも無理はない。
あと、もっとも大事なこともある。
偉い人ちゃんは、洞窟が閉じた状態で存在していること。
元の世界に、戻れない。戻さない。
つまりそれは――。
「――きっとなにか、見つけなければいけないことがあるはずだ。この地球で」
人が良くて、ついつい振り回されがちな、偉い人ドワーフちゃん。
彼女もきっと、村に連れてこなければならなかった……理由がある。
あっちの世界に帰してはならない、何かが。
「旅行中、それとなく気を配ってあげよう」
何かは分からないけど、気をつける必要はある。
彼女のことを、気にかけてあげよう。
「ああ。俺たち四人で、ひとまずは注意するか」
「俺らも世話になったから、恩返しの意味も込めてな」
「大志さんたちの手が回らない部分は、私が担当しますね」
親父、高橋さん、ユキちゃんも同意してくれた。
まずは俺たちが手分けして、色々観察して、そして考えよう。
「じゃあ、そう言うことで」
「はい」
「ああ」
「おう」
一通り相談事が終わったところで、この話はおしまい。
あとは、行動あるのみだ。
「タイシタイシ~! どうしたです~!」
――おっと、窓からハナちゃんが手を振って呼びかけているね。
そろそろ出発しないと、心配かけちゃうかもだ。
「もうすぐいくよ! ちょっと待っててね!」
「あい~! まってるです~!」
返答すると、ハナちゃんがキャッキャと席に戻っていった。
さて、バスに乗り込んで、出発するとしましょうか!
いよいよ、沖縄へ向けて――出発だ!
偉い人ちゃんのことも気にかけつつ、楽しい旅行にしなきゃね!
――ちなみに。
偉い人ちゃんは、飛行機に乗るということを……まだ知らない。
なんというか、ちょっと言いづらくてですね。ついつい、言いそびれてしまいましたん。
でもまあ……どのみち乗るのだから、ぶっつけ本番でも大丈夫じゃないかと思うわけで。
大丈夫だと良いな。
これにて今章は終了となります。みなさま、お付き合い頂きありがとうございました。
引き続き、次章をお楽しみください。




