第十三話 フクロイヌと、再会と
「それでは、あめがあがったられんらくおねがいします」
「またね~!」
「ひさびさに、もりにかえるわ~」
あっちの森エルフたちや、平原の人たち。
エルフィンの大雨期間を前にして、続々と里帰りが始まる。
「ああ~、どうぶつちゃんたちが~」
「はいはい、いっしょにかえりましょうね」
いつの間にか住み着いていた動物好きお姉さんも、平原の焼き物五人衆に引きずられて帰って行く。
また、雨が上がったら遊びに来て下さいね。
「あにめのよやくろくが、おねがいします!」
そして予約録画という心強い味方を手に入れたアニメさんも、コスプレしたまま帰還だ。
明らかに旅に向いていない格好だけど、大丈夫かな?
ちょっと確認してみよう。
「その装備で、移動は大丈夫ですか?」
「もんだいありません! いどうちゅうも、あにめがみられますから!」
「ええ……?」
問いかけると、あにめさんがポータブルBDプレイヤーを取り出した。
いつの間にそんな装備を!
あと、俺が聞いているのはそこではなく、コスプレ姿で長旅が出来るかって話でして……。
「もりにかえったら、みんなにもあにめをみてもらうの!」
「び、BDボックスまで……」
あにめさんがシャキンと取り出したるは、キュア的なやつのBDボックス。
しかも限定版。一体それを、どこで……。
「あにめ~」
ニッコニコのあにめさん、BDプレイヤーにほおずりだ。
でもそれ、電気がないと動かないわけでして。
「電源とかは、大丈夫ですか?」
「だいじょうぶですよ。ほら」
電源について聞いてみると、あにめさんがおもむろにACアダプタを取り出した。
そしてプラグを手に持ったかと思ったら――。
「でんき、これでたまりますから」
プレイヤーの充電中ランプが――点灯した。
この人……この人……。
「たくさん、れんしゅうしたんですよ! あにめのために!」
「さ、さようで……」
アニメ見たさに、充電スキルをマスターするエルフ。
何というか、もう本当にアレだ。
でもまあ、楽しい里帰りになりそうだね。
「ではでは、いってきますね~!」
「またくるです~!」
「あめがあがったら、またよろしく!」
こうして色々あったものの、たくさんのお土産を抱えてエルフたちが里帰りしていった。
村はちょっとさびしくなったけど、雨が上がればまた賑やかになる。
その時を楽しみにして、こちらも旅行に向けて進もう。
「ハナちゃん、もうすぐ旅行だよ」
「たのしみです~!」
ハナちゃんに話しかけると、すっごい楽しみそうな顔をしている。
ぴょいっと沖縄ガイドの本を取り出し、ペラペラとページをめくってご機嫌だ。
「うふ~、おきなわ~。みんなやタイシと、おきなわです~」
「思いっきり遊ぼうね」
「あい~!」
あとは、出発の日を待つのみ。
数日後が、待ち遠しいね!
◇
そして旅行へ行くに当たって、女子エルフ限定で乗り越えるべき壁がある。
「ギリギリ、はいったわ~」
「わきばらのおにくが、ふるえる」
「やせなきゃ!」
じわじわと減量してきた女子エルフたちだけど、ちょっと間に合わなそうな気配なのだ。
なんとか水着は着れているけど、若干あふれ出している感。
「ユキちゃん、どうしよう」
「う~ん……」
俺ではどうしようもないので、ユキ大先生へと丸投げ。
しかし大先生も、お悩み顔だ。
「何とかする方法は、あるにはありますが……」
「あるんだ」
「ええまあ」
どうやら方法はあるらしいけど、なんだか歯切れが悪い。
言おうか言うまいか、迷いがあるような様子だ。
「――そのはなし、くわしく」
「なんとかなるの?」
「おにく、おにくがあああ~」
「え? え?」
しかし耳の良いエルフである。
ユキちゃんのつぶやきは速攻拾われ、集会場へと連れられていった。
様式美である。
「……背中とか脇のお肉を、こうするとですね」
「「「キャー!」」」
「さらにここからここまで、移動させると……盛れます」
「「「キャー! キャー!」」」
集会場から会話が漏れ聞こえるけど、盛り上がっているぽい。
何を「盛り上げて」いるかは、追求しない方が身のためだ。
これも危機管理である。
さて、あんまり聞き耳を立てるのもアレだから、離れていよう。
この集会場は今、デンジャーゾーンと化しているからね!
「くわばらくわばら……」
そうしてユキちゃんを生け贄に捧げ、ぼちぼちとその辺を歩いて時間を潰す。
村の中は沖縄旅行一色に染まっており、どこもかしこも旅行の話や準備で大はしゃぎだ。
「おれのしんさく、みてほしいのだ!」
「うっわすっげえフネ」
「またつくったんか」
おっちゃんエルフは新作の四人乗りカヌーをみんなに見せていて、盛り上がっている。
「おれのフネもみてくれよ」
「おれのも」
「おれもおれも」
そのままエルフカヌー品評会に突入。
広場に大量のカヌーが並べられたけど、いつの間にそんなたくさん作っていたのか……。
まあ、湖畔リゾートやドワーフの湖で活用出来るから、物量があるのは良いことかもしれない。
その調子で、カヌー製造を続けて下さいだね。
とまあエルフカヌー品評会を横目に、妖精さんのお花畑へと顔を出す。
みんなは旅行の準備、出来ているかな?
ちょっと聞いてみよう。
「みんなこんにちは。旅行の準備はどんな感じかな?」
「よそいきのふく! つくったよ! つくったよ!」
「みずぎも、つくったんだよ! つくったんだよ!」
妖精さんたちは、旅行のために服や水着を新調したようだ。
きゃいっきゃいで服を見せてくる。
なかなか可愛らしいデザインで、良い感じだね。
「可愛い服だね。よく似合っているよ」
「かわいいって! かわいいって!」
「きゃい~!」
褒めてあげると、みなさん白い粒子をキラッキラ。
物理的にまぶしい。
「ほかにもあるよ! あるよ!」
「どうかな! どうかな!」
そしてなぜか始まる妖精ふぁっしょんショー。
キラキラ妖精さんたちが、きゃいきゃいとモデル歩きをする。
なんというかわいらしさ。
「ほかにも、おようふくあるよ! あるよ!」
「これとかどうかな! どうかな!」
「おお、それも可愛いね」
「きゃい~!」
その後、二時間という長きにわたり妖精ふぁっしょんショーが続きました。
彼女たちの物量を、忘れていた……。
「タイシタイシ~。……なにやってるです?」
「ああいや、ちょっと目がくらんでね」
「だいじょぶです?」
「なんとか」
二時間妖精さんキラキラフラッシュを見続けていたため、目がちょっとくらんだ。
ちょうど良いので、目の休憩がてらハナちゃんと少し休もう。
「ハナちゃん、集会場でおやつでも食べようか」
「あや~、そこはまだ、おかあさんたちがなんかやってるです~」
「……まだ終わってないんだ」
「あい~」
集会場でのんびりしようと思ったけど、まだ女子エルフお肉なんとかしよう会議が行われているらしい。
ユキちゃん、すまぬ……すまぬ……。
しかし、集会場が使えないとなると……どうしよう?
「どこに行こうかな?」
「ドワーフさんたちの湖で、のんびりするです~」
どこに行こうか考えていると、ハナちゃんから提案が出た。
なるほど、ドワーフの湖でのんびりか。良いかもね。
「それじゃあ、船を出して湖に行こうか」
「あい~」
というわけで、ゴムボートに乗ってドワーフの湖へと赴く。
すると――。
「クワワ~」
「ぎゃう~」
「タイシさん、こんにちわさ~」
海竜ちゃんの背中に乗って、子供ドワーフちゃんとペンギンちゃんがお出迎えしてくれた。
沖縄旅行にあたって、交流を深める意味で海竜ちゃんにはドワーフちゃんたちと過ごして貰っている。
もうすっかり仲良くなったようで、ほんわかするね。
「みんなこんにちは。沖縄旅行の準備は、大丈夫かな?」
「じゅんび、できたさ~」
「それはなにより」
旅行の準備について聞くと、もう出来ているっぽい。
妖精さんもドワーフちゃんたちも、あとは出発するのみって感じだね。
あとは、女子エルフたちの「オプショナル質量」問題を残すのみ、か。
そこだけなんとかなれば、もう心配することもないね。
でも、念のため困っていることがないか聞いてみよう。
「準備が出来たみたいで良かったけど、何か困っていることとか足りない物はあるかな?」
「わきゃ~、フクロイヌさんが、みあたらないさ~」
「……え? フクロイヌが見当たらない?」
「さがしたけど、みつからないさ~」
どうやら、フクロイヌが見当たらないらしい。
そう言えば、ここ数日その姿を見ていない。
フクロイヌと仲良しのハナちゃんは、居場所を知っているだろうか?
「ハナちゃん、フクロイヌのこと、心当たりある?」
「あや~、ハナもわからないです~」
「そうなんだ」
「みっかまえから、みてないです?」
ハナちゃんの話によると、三日前から見ていないと。
どうしたんだろう? 心配だな……。
「困ったな……。というか、それ以前に心配だよ」
「しんぱいです~」
「わきゃ~……」
いつもギニャギニャと懐いてくる、不思議な有袋類。
姿が見えないとなれば、心配するのも当然で。
……ちょっと、探してみよう。
「それじゃあ、自分たちも探してみるね」
「おねがいするさ~。うちらも、さがしてみるさ~」
「さがすです~」
というわけで、フクロイヌ捜索が始まる。
みんなで手分けして、湖や森や湖畔、お花畑などを見回ったけど……。
「みつからないです~」
「どこにも、いないさ~」
「しんぱいだな~」
色々捜索してみたけど、どこにもいない。
ほんとうに、どこに行ってしまったのだろうか。
「どこにいっちゃったか、わからないです?」
「ニャ~」
「ギニギニ」
「ギヌ~」
他のフクロイヌたちにも聞いてみたけど、首を横に振るだけ。
誰も知らないようだ。
――結局その日は、フクロイヌが見つかることはなかった。
◇
フクロイヌが見つからぬまま、夜。
集会場で一人寝ていた時のこと。
「ギニャ~、ギニャニャ」
――ふと、胸に重さを感じた。
「ギニャ」
あと、なんだかもっさもさする。
「ギニャ~」
おまけに、なんか顔をぺろぺろされている。
そして、特徴的な鳴き声。
頭がぼんやりしているけど、なんとか目を開けてみると――。
「ギニャ」
――フクロイヌが、俺の上でしっぽを振っていた。
行方不明だった、あの子だ。
「……やあ、こんばんは」
「ギニャニャ」
頭を撫でてあげながら挨拶すると、フクロイヌも挨拶を返してくる。
どうやら、元気いっぱいな感じだ。
毛並みもふさふさで問題はないようで、ほっと一安心。
「みんなで、君を探していたんだよ」
「ギニャ」
「姿が見えないから、心配してたんだ」
「ギニャ~」
フクロイヌに語りかけると「ごめんね」みたいなお返事が来た。
ちょっとしっぽもへにょっとしていて、申し訳なさそうな感じ。
まあ、怒っているわけじゃない。心配だっただけで。
「なんにせよ、無事で良かった。怪我とかはしてないよね?」
「ギニャ」
怪我がないか確認すると、元気いっぱいしっぽをふりふりして返答だ。
大丈夫みたいだね。ほんとう、良かった。
すぐにみんなに教えてあげたいけど、今は深夜だ。
明日の朝にしたほうが良いよね。
「明日の朝、みんなに元気な姿を見せてあげてね」
「ギニャン」
まるで「わかったよ」とお返事するかのように、フクロイヌが応える。
これでみんなの心配ごとも、払拭されるだろう。
後のことは、また明日考えれば良いね。
「それじゃあ、朝になったらよろしくね。それまで一眠りしよう」
「ギニャ~」
おねむのお誘いをすると、フクロイヌが布団に入ってきた。
ほほう、これはふっさふさで、あったかい。
肌寒い夜には、ぬくぬくして結構良いな。
メインクーンと一緒におふとんに入ったのと、近い感覚がある。
「ギニャ……」
しばらくなでなでしてあげていると、フクロイヌがおねむした。
さ~て、俺も朝まで眠ろう。
では、おやす――ZZZ。
◇
フクロイヌが発見された、翌朝。
みんなに無事をお知らせする。
「よかったです~」
「しんぱいしてたのよ~」
「げんきそうじゃん」
「ギニャ~」
「よかったさ~」
みなさん、ほっとした表情でフクロイヌをなでなでする。
ここ数日姿を見ていなかっただけに、心底安心した表情だ。
「大志さん、フクロイヌは昨日の夜中、集会場に姿を見せたのですか?」
「そうだね。寝ているときに突然だよ」
ユキちゃんから状況を聞かれたけど、俺も詳しいことは分からない。
フクロイヌがじゃれついてきて、夜中に起きた。
これだけだね。
しかし、それを聞いたユキちゃんは不思議そうな顔をした。
「集会場は閉め切っていたのに、どこから入ったのでしょうか?」
「……そう言えば、そうだ」
ユキちゃんが指摘してきたのは、フクロイヌの進入経路。
昨日は肌寒かったので、窓も入り口も全部閉めていた。
一体どこから、集会場内へと入ってきたのだろうか?
「大志さんが寝ていた別室のふすまは、どうでしたか?」
「閉まってたね」
つまり、密室だった事になる。
でもまあ、鍵はかけていなかった。
「賢い動物だから、自分で扉を開けて入ってきたんじゃないかな」
「……まあ、ネコでもイヌでもそういう子はいますね」
「でしょ?」
色々不思議な点は確かにある。
なぜ突然行方不明になったのかとか、どうして突如姿を現したのかとか。
しかし、フクロイヌの生態はほとんど明らかになっていない。
謎の動物には違いなく、まだまだ彼らのことを知っていく必要はある。
でも、今はひとまず再会を喜ぼう。細かいことを考えるのは、またいずれ。
「なんにせよ、これで旅行も大丈夫そうだね」
「ですね! ……フフフ、夕日が照らす海岸で……フフフ」
ユキちゃんがなにかの妄想に入ったところで、この話はおしまいとなった。
さてさて、これでしっぽドワーフちゃんたちの心配事もクリアした。
あとは出発日を待つのみだね!
「クワ~」
「ギニャニャ~」
旅行に連れて行って貰うペンギンちゃんも、フクロイヌが見つかって大喜びだ。
なにせ、彼がいなかったら一緒に旅行へ行けないからね。
「クワクワ~」
そしてペンギンちゃん、嬉しさのあまりフクロイヌのフクロへ潜っていった。
フクロから足だけ出ていて、嬉しそうにぱたぱたとしている。
なごむなあ。
「わきゃ~、これでひとあんしんさ~」
「いっしょにりょこう、いけるです~」
子供ドワーフちゃんもハナちゃんも、その様子を見てニッコニコだ。
一緒にフクロイヌキャリアーを考えた仲だけに、心配もひとしおだったからね。
なんとかなって、良かった良かった。
「……クワ?」
ん? ペンギンちゃんの足のぱたぱたが止まった。
と思ったら、もぞもぞとフクロから出てくる。
「クワワ?」
「わきゃ?」
「あえ?」
そのままフクロイヌのフクロを見つめて、首を右に左に傾げている。
どうしたのかな?
まさか、フクロが合わないとか? でもいまさら、そんな課題が出るはずは……。
ひとまず、聞いてみよう。
「ねえ、どうしたの? 何か変なことでもあった?」
「クワ~クワワ?」
「あえ? フクロのなかに、なんかいるです?」
「わきゃ?」
はい? フクロの中に――何かいる?
「クワワ~。クワクワ」
「でっかいのが、つっかかってるです?」
「おくまで、いけないさ~?」
「クワワ~」
ハナちゃんと子供ドワーフちゃんが通訳してくれたけど……。
――大きな「何か」がフクロの中にいて、突っかかって入れない、と。
「……そんなこと、この前はあった?」
「クワ~」
「ないみたいです~」
「こないだためしたときは、そんなことなかったさ~」
過去の事例に存在したか問い合わせると、みんなして否定だ。
ペンギンちゃんは首を横に振り、ハナちゃんが通訳し、子供ドワーフちゃんも以前に試したときはなかったと。
……嫌ぁ~な、予感が、するぞ。
「大志さん、私……嫌な予感がします」
「ハナも、おんなじです~」
ユキちゃんとハナちゃんも同じ気持ちのようで、「ええ……?」て感じでフクロイヌを見つめている。
「ギニャン!」
しかし当のフクロイヌは、「くすぐってね!」的なポーズをする。
くすぐって、その「フクロの中の存在」を……出せと。
「……どうする?」
「あや~……くすぐるしか、ないです~」
「そうしてみないことには、何が潜んでいるのか……確認出来ません」
ハナちゃんもこのパターンには、なんとなく予感がしているらしい。
フクロイヌのフクロからは、何が飛び出すか分からないという経験が効いているね。
ユキちゃんも同様で、今フクロに潜んでいる存在を確認するには、確かにそれしかない。
「わきゃ? みんなして、どうしたさ~?」
「クワワ~?」
子供ドワーフちゃんとペンギンちゃんは、このフクロイヌガチャのトンデモっぷりをまだ知らない。
首を傾げて、俺たちの葛藤を見つめているだけだ。
「ギニャニャ」
「くすぐって欲しいとな」
「ギニャン」
「あや~、せかしてるです~」
「大志さん……どうします?」
躊躇う俺とハナちゃんに、フクロイヌがくすぐってアピールを続ける。
というか、なんだか急かしているようで……。
――よし! 腹をくくろう!
「何かが起こるにせよ、確認は早いほうが良い。――くすぐろう」
「わかりました。では、私はこちらから」
「ハナは、こっちをくすぐるです~」
「ギニャニャ」
腹をくくった俺を見て、ユキちゃんとハナちゃんも協力してくれるようだ。
三人でフクロイヌを包囲し、手をわきわきとさせる。
それでは――開始!
「いくよ! そーれそれ! 首筋こちょこちょだ!」
「脇腹をくすぐっちゃいますよ!」
「おなかもこちょこちょです~!」
「ギニャニャニャ!」
三人でよってたかって、フクロイヌこちょこちょの儀を開始。
くすぐられている対象Fは、もう大喜びでギニャギニャ言っている。
そのまましばらくくすぐっていると――。
「あ! なんか毛みたいのが出てきた!」
「もっとくすぐるです~!」
「けっこう大きくないですか?」
フクロから、ちらりと毛みたいなのが出てきた。
ややぼっさぼさとした感があるけど、中にいるのは生きものっぽい。
ちょっと大きな動物、かな?
「大きいだけに、なかなか出てこないね」
「引っ張ってみましょうか」
「そうするです~」
しかし大きすぎてなかなか出てこないため、引っ張り出すことに。
毛を引っ張るとかわいそうだから、ぐわっしと本体っぽいのを掴んで引っ張ってみる。
すると――。
「うっわ! でっかいのが出てきた!」
「え……これって……」
「あや~! ひとっぽいのが、でてきたです~!」
人、みたいなのが出てきた。
膝を抱えて丸まった格好の、女性っぽい何か。
これは……。
「……わきゃ?」
やがて、その「女性っぽい」生きものが目を覚まし、寝ぼけまなこで周囲を見渡す。
その格好は、キャミソールみたいなトップスをまとい、かぼちゃパンツみたいなのを履いた――。
「わきゃ? あかるいさ~? もう、おひるさ~?」
「あややややや! タイシ~! このひと! みたことあるです~!」
「……なんで、この人がフクロの中に」
「た、大志さん。この人って、あの方ですよね」
そう、フクロから出てきたのは。
寝癖でぼさぼさ頭の――偉い人ドワーフちゃん、だった。




