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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十九章 エルフ旅行
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第十話 ハナちゃんのターン。おねだりカード!


 とりあえず俺の空間が勝手に折りたたまれる現象について、原理はそれっぽいのが見つかった。

 理屈が分かれば単純な話で、特に慌てることもなく。

 そのまま育つに任せておけば、良いじゃないと思うことにした。

 とりあえずだけど、これで今日のお仕事終了ってことにしよう。


「ひとまず自分の目的は達成したから、あとはのんびり過ごそうかな」

「じゃあじゃあ、ハナといっしょにほんをよむです~」

「そうしようかな。ハナちゃんよろしくね」

「わーい!」


 やることがなくなったので、ハナちゃんと一緒に読書だ。

 絵本が何冊かあるので、何を読むかはお任せしよう。


「じゃあハナちゃん、好きなの選んで良いよ」

「これにするです~。まちがいさがしです~」


 ハナちゃんが手元にあった絵本を掴み、表紙を見せくれた。

 間違い探しね。面白そうだ。


 ……ん? 本のタイトルには……「超高難度まちがいさがし」とある。


「たくさんまちがい、みつけるですよ~」


 ハナちゃん漢字がまだそれほど読めないから、「超高難度」って部分を飛ばして「まちがいさがし」とだけ認識しているぽい。

 でもその読めていない部分が、超重要ワード。

 そこはかとない、危険な香りがするわけだよ。


 ……嫌な予感がするね。

 止めておいた方が、良いのでは――。


「さっそくよむです~」


 だけど止める間もなく、ハナちゃんが本を開いてしまった。

 そこには――。


「あえ?」

「こ、これはまた……」


 とっても可愛い動物や人々が描かれた、ポップなイラストがあった。

 そこだけみれば、全然問題はない。

 ただ、見た瞬間に分かる、かなりアレな部分が。


 ――書き込みが、ウォーリ○を探せレベル。

 たくさんのオブジェクトがこれでもかと描かれた、悪夢がそこにあった。


「あや~? このなかに、みっつまちがいがあるです?」

「そうらしい……」


 見た瞬間に、汗が噴き出す。

 ……ここから、間違いを探せと申されるか。

 やたらエントロピーの高い、この中から。


「……タイシ、タイシ。ハナには、ちがいがまったくわからないです?」

「ハナちゃん、安心していいよ。自分も全然分からないから」


 一ページ目で即撃沈。我ら間違い探し艦隊は、仲良く十秒で壊滅した。

 めっちゃくちゃ書き込んであるのに、間違いはたったの三つだよ。

 どんだけ高難度なのさ。


 しかし、見れば見るほど不可能だ。間違いを見つけられる自信はゼロ。

 この悪魔の本を前に、二人で顔を見合わせる。


「あや~……いきなりこれですか~」

「残りのページを見るのが怖い……」


 俺とハナちゃん、あまりの難易度に打ちのめされ、二人して机に突っ伏した。

 一ページ目でこんな仕打ちだと、後半はどうなっているのか。

 ……考えるだけで、ふるえる。

 というかこの絵本を作った人、あたまおかしい。


「そんなに難しいのですか?」


 撃沈する俺たちを見て、ユキちゃんも興味を持ったようだ。

 耳しっぽが、好奇心に揺れていた。


「まあ、見た方が早いよ」

「はやいです~」


 俺とハナちゃんで、見ることをお勧めする。百聞は一見にしかずだ。


「そうですね。では失礼して」


 にっこり笑顔で、ユキちゃんが悪魔の本を覗き込む。

 ふふふふ、とくとご覧あれだ。


「……」


 そしてユキちゃん、笑顔のまま固まる。まあ、そうなるよね。

 超高難度という触れ込みは、伊達ではない。

 一目で不可能と分かる難題が、そこにはあるのだ。


「大志さん、これ……児童向けの絵本とか嘘ですよね?」

「可愛いイラストにだまされると、痛い目を見る。と言うか見た」


 耳しっぽがげんなりしたユキちゃんだけど、気持ちは良くわかる。

 ページを開いた瞬間、諦めが支配するのだ。

 それも一ページ目で。


「ハナ、おそろしいえほん、みつけちゃったです~……」

「確かにこれは恐ろしい。人間の無力さを、嫌というほど思い知らされる」

「私たち、ちっぽけな存在だったのですね……」


 たった一ページ開いただけで、これほどの無力感。

 そんな本を、児童向けとして出版する意義とは……。

 子供にトラウマを植え付ける気がしてならない。


「……ちょっとだけ、つぎをみてみるです~」


 しかし打ちのめされる俺とユキちゃんをよそに、ハナちゃんが好奇心に負けた。

 いけない、止めないと!


「あ! ハナちゃん止めよう! 恐ろしい結果に――」

「――えい!」


 ぎゃあああああああ!

 書き込み量が――倍になってるじゃないか!



 ◇



 絵本でいらぬトラウマを植え付けられた、翌日。

 心の傷を癒やすため、のんびり過ごすことにした。


「来月くらいに、お米の収穫が出来そうだよ」

「たのしみです~」

「今年は、豊作になりそうですね!」


 のんびりついでに田んぼの様子を見て、収穫の計画を立てたりもする。

 田んぼに設置してある積算温度計は、良い感じの数字。


「ここの数字が一千になったら、収穫なんだよ」

「あや~。これって、そういうどうぐだったですか~」

「この道具のお蔭で、収穫の予定がわりと正確に立てられるんだ」

「べんりです~」


 ハナちゃんも温度計を覗き込み、キャッキャとはしゃぐ。

 植物ごとに最適な積算温度があるから、実はこの温度を測るのは超重要だ。

 農作物の栽培適地も、この温度が基準となっていることが多い。


 特に昨今は温暖化がささやかれており、実際平均気温の変動がある。

 そのため、農作物の南限と北限もいずれ変わるだろう。

 今のうちに、その兆候をつかんでおくことに損は無い。

 ちなみにこの重要な数字について、各地域では県が測定して教えてくれる。

 けど、ここでは自前でやらないといけない。なんたって、行政サービスが及ばない地域だからね。


 まあその辺は良いとして、この村にある稲の収穫はというと……。

 来月辺りに出穂しゅっすい後の積算温度が一千℃を超えるから、収穫の時期になるはず。

 九月もそろそろ終わりだけど、例年通りって感じかな?


「あっちでたんぼをみてる、ふたりにもおしえてあげるです~」

「そうだね。教えてあげないと」


 ハナちゃんが指さす先には、元族長さんと団長さんがいた。

 二人も、田んぼの様子を確認しているね。

 積算温度とかは教えていないから、いつ収穫とかは判断出来ないはず。

 ちゃんと教えておかないとね。


 というわけで、元族長さんと団長さんの元へと赴く。


「あ、タイシさんこんにちは」

「さいきん、すずしくなってきましたな~」

「お二人ともこんにちは。確かに、涼しくなってきましたね」


 軽く挨拶を交わした後は、本題だね。


「えっとですね、あと二十日から三十日くらいで、お米の収穫時期が来ますよ」

「え! ほんとですか!」

「たのしみですね!」


 収穫時期をざっくり教えると、二人とも笑顔になった。

 自分たちで育てた農作物の収穫だ。そりゃあ嬉しいよね。


「そんなわけですので、収穫のために予定を立てて人を集めた方が良いかと」

「そうですね。なんにんか、てつだってもらいます」

「よていをきめて、あつまりましょう」


 まだ収穫日は確定じゃないけど、もう少し様子を見れば決められる。

 時期を決めたら、ネコちゃん便で連絡を取り合おう。


「あと十日くらいしたら決まりますので、時期を連絡しますよ」

「あ~、とおかごというと……」

「ちょっと、れんらくをとりあうのは、むずかしいのでは?」


 おや? なんだか二人とも、微妙な感じだ。

 連絡を取り合うのが難しいというけど、なぜだろう?


「何かご予定でもあります?」

「よていというか、じきてきにというか」

「そろそろですよ?」


 時期的にまずそうだけど、そろそろって何だろう?

 と、首を傾げていると――。


「タイシタイシ、もうすぐ、おおあめのじきですよ?」


 ――ハナちゃんが、そう教えてくれた。


 そうだ、もうすぐエルフィンは……一年経つんだ。

 年末というか年始というか、恒例である大雨の時期が来る。

 つまりは、それが原因で連絡が取り合えなくなるってことか。


「なるほど、大雨の時期ですね」

「ええ、いっしゅう、まわりますもので」

「わたしたちも、もりにかえって、じっとしていないと」


 大雨の時期は、エルフたちみんな森に閉じこもる。

 平原の人たちも故郷の森に帰って、旅はお休みの時期だ。

 こりゃあ、しばらく寂しくなるな。


「そんなわけですので、おおあめがおわったら、ごれんらくいただくということで」

「分かりました。雨が上がったら連絡を取り合いましょう」


 去年は夏の時期に、エルフィンが一周回った。

 だいたい十三ヶ月で一年の世界だから、今年はちたまが秋の時期、というわけか。

 惑星の公転周期で決めたわけではないから、若干の振れ幅はあるみたいだけど。


「大志さん、そうすると……佐渡に居るあの方々にも、連絡が必要かと」

「あ! そうだ。あの五人にも連絡しないと」


 ユキちゃんが気づいたけど、確かにそれもある。

 佐渡で修行中の平原の焼き物五人衆、いったん里帰りして貰った方が良いよね。

 二週間から三週間くらいの、帰郷だ。


「それじゃあ、佐渡の方には自分が連絡しておくよ」

「私たちは、何かお手伝いします?」

「てつだうこと、あるです?」


 ユキちゃんとハナちゃんがお手伝いを申し出てくれたけど、特には無いかな?

 観光客が減るので、むしろお仕事は少なくなるね。

 お休みしても、良いんじゃないかな?


「今のところは大丈夫だよ。ちょうど良いから、お仕事お休みって事で」

「わかりました」

「のんびりです~」


 二人も結構働きづめだったから、良い休暇になるね。

 しばらくは、のんびり過ごして下さいだ。

 俺も、久々にお休みするかな? のんびり過ごせそうだ。


「……あえ? おしごとおやすみ……てことはです~?」

「あら? ハナちゃんどうしたの?」

「ぐふ~、ぐふふ~」


 休みに何をしようか考えていると、ハナちゃんがぐふぐふ状態に。

 どうしたんだろう?


「ハナちゃん、どうしたの?」

「タイシ~。ぐふふ~」


 どうしたのか聞いてみたけど、ハナちゃんご機嫌でぐふぐふしているだけだ。

 何か、良いことでもあったのかな?


「ユキ、ちょっとふたりで、おはなしするです~」

「え? お話し?」

「ハナのおうちで、おはなしです~」


 首を傾げていると、ハナちゃんがユキちゃんの手を掴んでお誘いをしている。

 女子会のお誘いかな?


「あ~、良くわからないですけど、ちょっとハナちゃんのお家に行ってきますね」

「行ってらっしゃい」

「いってくるです~」


 やがて、ユキちゃんはハナちゃんに引っ張られて歩いていった。

 女子会だから、邪魔しちゃ悪いよね。

 俺は大人しく、集会場で神輿と遊んでいよう。


 あとは、エルフィンが大雨の時期だからお休みの計画も立てようかな。

 ちょっとくらい休んだって、問題ない時期だからね!



 ◇



 ここはとある村の、とあるハナちゃんのおうち。

 ユキちゃんとハナちゃんちの家族みんなが集まって、ちゃぶ台を囲んでおりました。


「ぐふふ~。ユキ、ちょっと相談があるです~」

「そうだんって、なにかな?」

「これです~」


 ハナちゃんがぐふぐふしながら、ちゃぶ台にとあるブツを置きました。

 それを見たユキちゃんは――。


「あ! これは――」

「そうです~。覚えてるですか~?」

「もちろん! ということは……」

「そういうことです~!」


 ブツを見たユキちゃん、ピンと来たようです。

 多くを語らなくとも、通じ合う。

 今ハナちゃんとユキちゃんに、謎の共通認識が出来ました。


「えっとですね。実は前々から、計画しておりまして」

「それが可能かどうか、ユキさんに相談したかったのです」


 ヤナさんとカナさんも会話に参加して、ユキちゃんに何かを相談するようですね。


「わかりました、きょうりょくしますよ!」

「タイシに聞く前に、ある程度固めておくです~」


 ユキちゃんもノリノリのようで、気合いが入った様子で応えました。

 こうしてハナちゃんちでは、大志が知らないうちに、企みごとがはじまりはじまり。


 さてさて、ハナちゃんちでは着々と計画が練られておりますが……。

 何も知らない大志は、大丈夫かな?

 ちょっと集会場を、覗いてみましょう。


「ぐ~、ぐ~……」

「ギニャ~」


 おっと、大志は集会場でお昼寝中ですね。

 仰向けになった大志の胸の上では、神輿もお昼寝。

 その周りをフクロイヌが、何かを探すようにトテトテと歩いています。


「ギニャニャ?」

「おっふ」


 あ、フクロイヌが大志の顔の上に乗っかりました。

 そこでお昼寝するのかな?


「ギニャ~」

「う~ん、う~ん……」


 うなされ始める大志ですが、それでも起きないのですね。

 とまあだいぶのんきな感じですけど、この平和ももうすぐ……。

 がんばってね、大志。


 たぶんなにか――おっきな仕事が降ってきますよ。



 ◇



「タイシタイシ~」


 集会場でお昼寝していると、ハナちゃんの呼びかけで目が覚めた。

 背伸びをして大あくびをしながら、声がした方を見る。


「ハナちゃんどうしたの……て、何故みなさんお集まりで?」

(おまつり~?)


 ハナちゃんの方を見たら、後ろにエルフたちが集まっていた。

 どうしたんだろう?

 その様子に、謎の声も不思議そうな感じ。神輿がほよよっと飛び上がった。


「タイシ~。まえに、おねがいごとがあったら、なんでもっていってたです?」


 わけもわからず首を傾げていると、ハナちゃんが上目遣いでそんなことを聞いてきた。

 ……確かに言ったね。何でも良いよって。

 と言うことは、何かお願いがあるんだろう。


「確かにそう言ったね。何かお願い事、あるのかな?」

「あい~! タイシにおねがい、したいです~!」


 にぱっと笑顔になったハナちゃん、キャッキャとお願い事がある旨を伝えてきた。

 それだけならまあ良いのだけど、後ろにいらっさるみなさんが気になるわけで。


「ハナちゃんのおねがいけんり、ここでつかっちゃうのか」

「ここぞ! というときだからじゃん?」

「ドキドキするわ~」


 後ろに控えるエルフのみなさん、なんだか緊張気味。

 これ、みんなに関係したお願いっぽいね。

 一体何だろうか? ちょっと怖いけど、聞いてみるしか無いな。


「……それで、どんなお願いかな? 自分が出来る範囲でなら、なんとかするよ」


 ちょっとドキドキしながら、ハナちゃんに問いかける。

 すると、ハナちゃんが一冊の本をかかげて――。


「タイシ~、みんなで、またりょこうにいきたいです~!」


 ――そう言った。

 みんなで旅行に行きたい、とな。

 そういや去年は、佐渡に遊びに行ったね。

 素敵な体験や出会いがあって、実り大きなイベントだった。


 ちょうどエルフィンが雨期だからこそ、みんなで旅行に行けたんだ。

 今回もまたその時期に来たから、企画したっぽいね。


「旅行をしたいんだ」

「あい~! ……タイシ、だめです?」


 すすすっと近づいてきて、ハナちゃんの上目遣いおねだり攻撃!

 めっちゃ強力な、ハナちゃんきたいのまなざし光線だ。


「それで、みんなが行きたい場所って……この本の所かな?」

「そうです~!」


 ハナちゃんが持っている本は、見覚えがあった。

 去年ユキちゃんが忘れていって、海が見たい騒動が起きた原因の本だ。

 本の内容は――沖縄ガイド。


 つまり、みんなは沖縄に行きたいってことか。


「う、う~ん。沖縄か……」


 目的地までの距離を考えて、ちょっと困ってしまう。

 さすがに、バスに乗って行こう! というほど近くはない。


「……びみょうなかんじ?」

「まえに、とおいっていってたものね」

「むずかしそう」


 俺の反応を見て、みなさん不安そうな顔。

 何とかしてあげたいけど、遠いと言うことはそれだけお金が……。


「そこで、ユキのとうじょうです~!」

「はい大志さん、お金の心配なら……まあちょっとは考えておきました!」


 ばばーん! という感じでキツネさんが登場だ。

 テンションが妙に高いけど、そのせいで耳しっぽを隠すの完全に忘れている。

 もっふもふだね! うかつだね!


「実はですね、今の時期だとオフシーズンで安いのですよ」

「まあ、もう夏が終わっちゃったからね」

「しかーし! 沖縄はまだ――海で泳げるのです!」


 ずずいと前のめりになり、顔を寄せてくる耳しっぽさんだ。

 耳のふわふわ毛が顔をくすぐって、良きかな良きかな。


「夏休みシーズンが終わって閑散期かんさんき、でもまだ沖縄自体はシーズン中なんですよ!」


 この集まりの誰より、気合いが入っているユキちゃん。

 今こそ沖縄旅行のチャンスとアピールする。


「ちょっと調べたのですけど、ツアーでもこんなお値段ですよ」

「……安いね」

「ですよね!」


 ホテルと往復航空券付きツアーで、四万円台。こりゃ安いな。

 お値段だけ見れば、わりと行けそうではある。


 ただ……それでも四万円台。エルフたちにとっては――大金だ。

 果たしてこの金額を、捻出できるのだろうか。


「そしてお金の心配なら、なんとかなります」


 今度はヤナさんが出てきた。

 鼻息荒い様子で、ノートPCを見せてくる。


「実は去年から、コツコツ積み立てしてまして」

「……確かに、村の予算に項目がありましたね」


 この辺は村の帳簿を見ているから、俺も把握している。

 一人頭三千円を、毎月コツコツ積み立てていた。

 それを……解き放つのか!


「ちょっと足りないですけど、そこは石包丁の売り上げを充てるとですね……」

「予算的には、大丈夫ですね」


 人差し指でぽちぽちとPCを操作して、予算案を見せてくる。

 金額的には、何とかなりそうだ。


「時期と予算は……大丈夫そうですね」

「ですよね!」

「いっしょうけんめい、かんがえたじゃん!」

「だいたいは、ヤナさんがやってくれただろ」

「おれら、ほぼなんもしてねえ」


 数字上の課題については、今の条件であればクリアできそうだ。

 俺の回答を聞いて、みなさん笑顔になる。

 どうやら、ヤナさんがコツコツ計画していたようで。


 ただ、実際に行動するとなると――厳しい。

 課題がたくさん、見つかってしまったのだ。


「しかしこのままでは、ちょっと無理ですね……」

「え?」

「だめなの?」


 とたんに、みなさん不安そうな顔。

 ちょっとかわいそうだけど、俺の考える課題を伝えよう。


「個人的には、せっかくだから妖精さんやドワーフちゃんたちも参加して欲しいのです」

「そうですね……」


 エルフたちは積み立てしてお金があるけど、妖精さんやしっぽドワーフちゃんには無い。

 でも、彼らも一緒に連れて行ってあげたい。となれば、予算は家から出すのが良いかな。


「まあそのお金については、私から補助するので課題クリアですね」


 もともと妖精さんたちの予算は、彼女たちがこねこねして稼いだお金が大半だ。

 還元する意味でも、丁度いいね。

 ドワーフちゃんたちに対しては、未来への投資ってことで。

 旅行をして色々な物を見て、何かを生み出す刺激になれば僥倖ぎょうこうだ。


「タイシ~! ありがとです~!」


 旅の仲間が増えるとあって、ハナちゃん大喜びだ。

 エルフ耳をピンっと立てて、キャッキャとしている。

 それと、旅行の話はエルフたちのほうから、通してもらった方が良いな。

 この村の主役は、村人たちなのだから。


「申し訳ないのですが、妖精さんやドワーフちゃんたちに、みなさんからお話しを通しておいて頂きたいです」

「わかりました! 話をしておきますね!」

「なんとか、なりそうだな~」

「おきなわ~」


 一つの課題をクリアして、みなさんほっと一安心だ。

 話を通すことについても問題ないようで、ヤナさん大張り切りだ。この辺は、任せよう。

 ちなみに、神様ももちろん参加だ。きちんと伝えておこう。


「もちろん神様も参加して頂けるなら、歓迎しますよ」

(やたー!)


 まあ、参加者はこの村の定住者って範囲で区切るけど。

 さすがに観光に来た方々は、ちょっとご遠慮下さいって事で。

 そこまで抱え込むと、キリが無いものでして。


「人数としては、ドワーフちゃんたち六十数人と、妖精さん五十数人が加わるって感じですね」

「おおにんずうです~!」


 親父や高橋さんも加えると百五十人を超えるメンバーになるので、一気に話がでかくなる。

 中小企業の社員旅行レベルだ。まあこれは俺のわがままなので、解決策はこっちで考えよう。


「大人数での旅行について、どう実現するかの課題については自分が色々考えます」

「お願いします」

「タイシに、まかせるです~」


 ヤナさんもハナちゃんも、期待のまなざしだ。期待を裏切らないよう、いい手を考えよう。

 じゃあ次の課題だね。


「この時期台風が良く発生しますので、泳げない事もあるかもしれません」

「まあ……そうなったら、おとなしくしてます」

「おてんきだから、しょうがないです~」


 この辺は、天気の話だから覚悟は出来ているみたいだね。

 じゃあクリアってことにしよう。


 そうして、一つ一つ課題を提示していく。

 準備の話や、村を開けている間はどうするかのお話し。

 他に、旅行中のお小遣いは用意してあるのか等々。


「大体は、何とかなりそうですね」

「あい~! みんなでコツコツ、かんがえてきたです~」

「いけそうかな?」


 細かい課題はなんとかなりそうで、みなさん熱が入る。

 ただ、最後に大きな課題が残っていた。

 その課題とは――。


「最後に、みなさんには飛行機に乗るという――試練が訪れます」


 そう、飛行機だ。

 陸路で行くのは、期間内では不可能。

 ほぼ移動で旅行が終わってしまい、沖縄では全然遊べない。

 フェリーもあるといえばあるが、まずそのフェリーに乗るための港が遠い。

 となれば、飛行機に乗るのが最も現実的かつ低コストという話になる。

 実際旅行会社が提供するツアーを見ると、飛行機利用が最も安くて速い。


「あえ? ヒコーキって、なんです?」

「乗り物ですよね?」

『あたらしい、きかいのよかん!』


 ハナちゃんは飛行機という言葉に首を傾げ、ヤナさんは「乗る」という言葉からすぐに乗り物と気づく。

 メカ好きさんは新たな機械に夢を踊らせ、離脱。


「なんか、またしらないやつでてきた」

「のりものなのよね?」

「ヒコーキする、のりもの?」


 のんきなご様子の、エルフの方々。

 沖縄に行きたければ、飛行機に乗る。

 この試練を回避するのは、ちょっと難しい。


 エルフたちや妖精さん、それにしっぽドワーフちゃん。

 これら異世界の方々を……国内線に乗せる。

 この旅行最大の――恐怖ポイントだ。


「でも、なんだかいけそうじゃない?」

「うみで、およげるわ~」

「たのしみ~」


 だけど、当人たちに自覚無し。

 はてさて、のんびりゆるふわ異世界人たちは。

 ……この試練に、打ち勝つことが出来るのか。


 まあぶっつけ本番しか出来ないから、沖縄に行きたいなら乗るしかない。

 ここは一つ――覚悟を決めて貰いましょう!


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