第十話 ハナちゃんのターン。おねだりカード!
とりあえず俺の空間が勝手に折りたたまれる現象について、原理はそれっぽいのが見つかった。
理屈が分かれば単純な話で、特に慌てることもなく。
そのまま育つに任せておけば、良いじゃないと思うことにした。
とりあえずだけど、これで今日のお仕事終了ってことにしよう。
「ひとまず自分の目的は達成したから、あとはのんびり過ごそうかな」
「じゃあじゃあ、ハナといっしょにほんをよむです~」
「そうしようかな。ハナちゃんよろしくね」
「わーい!」
やることがなくなったので、ハナちゃんと一緒に読書だ。
絵本が何冊かあるので、何を読むかはお任せしよう。
「じゃあハナちゃん、好きなの選んで良いよ」
「これにするです~。まちがいさがしです~」
ハナちゃんが手元にあった絵本を掴み、表紙を見せくれた。
間違い探しね。面白そうだ。
……ん? 本のタイトルには……「超高難度まちがいさがし」とある。
「たくさんまちがい、みつけるですよ~」
ハナちゃん漢字がまだそれほど読めないから、「超高難度」って部分を飛ばして「まちがいさがし」とだけ認識しているぽい。
でもその読めていない部分が、超重要ワード。
そこはかとない、危険な香りがするわけだよ。
……嫌な予感がするね。
止めておいた方が、良いのでは――。
「さっそくよむです~」
だけど止める間もなく、ハナちゃんが本を開いてしまった。
そこには――。
「あえ?」
「こ、これはまた……」
とっても可愛い動物や人々が描かれた、ポップなイラストがあった。
そこだけみれば、全然問題はない。
ただ、見た瞬間に分かる、かなりアレな部分が。
――書き込みが、ウォーリ○を探せレベル。
たくさんのオブジェクトがこれでもかと描かれた、悪夢がそこにあった。
「あや~? このなかに、みっつまちがいがあるです?」
「そうらしい……」
見た瞬間に、汗が噴き出す。
……ここから、間違いを探せと申されるか。
やたらエントロピーの高い、この中から。
「……タイシ、タイシ。ハナには、ちがいがまったくわからないです?」
「ハナちゃん、安心していいよ。自分も全然分からないから」
一ページ目で即撃沈。我ら間違い探し艦隊は、仲良く十秒で壊滅した。
めっちゃくちゃ書き込んであるのに、間違いはたったの三つだよ。
どんだけ高難度なのさ。
しかし、見れば見るほど不可能だ。間違いを見つけられる自信はゼロ。
この悪魔の本を前に、二人で顔を見合わせる。
「あや~……いきなりこれですか~」
「残りのページを見るのが怖い……」
俺とハナちゃん、あまりの難易度に打ちのめされ、二人して机に突っ伏した。
一ページ目でこんな仕打ちだと、後半はどうなっているのか。
……考えるだけで、ふるえる。
というかこの絵本を作った人、あたまおかしい。
「そんなに難しいのですか?」
撃沈する俺たちを見て、ユキちゃんも興味を持ったようだ。
耳しっぽが、好奇心に揺れていた。
「まあ、見た方が早いよ」
「はやいです~」
俺とハナちゃんで、見ることをお勧めする。百聞は一見にしかずだ。
「そうですね。では失礼して」
にっこり笑顔で、ユキちゃんが悪魔の本を覗き込む。
ふふふふ、とくとご覧あれだ。
「……」
そしてユキちゃん、笑顔のまま固まる。まあ、そうなるよね。
超高難度という触れ込みは、伊達ではない。
一目で不可能と分かる難題が、そこにはあるのだ。
「大志さん、これ……児童向けの絵本とか嘘ですよね?」
「可愛いイラストにだまされると、痛い目を見る。と言うか見た」
耳しっぽがげんなりしたユキちゃんだけど、気持ちは良くわかる。
ページを開いた瞬間、諦めが支配するのだ。
それも一ページ目で。
「ハナ、おそろしいえほん、みつけちゃったです~……」
「確かにこれは恐ろしい。人間の無力さを、嫌というほど思い知らされる」
「私たち、ちっぽけな存在だったのですね……」
たった一ページ開いただけで、これほどの無力感。
そんな本を、児童向けとして出版する意義とは……。
子供にトラウマを植え付ける気がしてならない。
「……ちょっとだけ、つぎをみてみるです~」
しかし打ちのめされる俺とユキちゃんをよそに、ハナちゃんが好奇心に負けた。
いけない、止めないと!
「あ! ハナちゃん止めよう! 恐ろしい結果に――」
「――えい!」
ぎゃあああああああ!
書き込み量が――倍になってるじゃないか!
◇
絵本でいらぬトラウマを植え付けられた、翌日。
心の傷を癒やすため、のんびり過ごすことにした。
「来月くらいに、お米の収穫が出来そうだよ」
「たのしみです~」
「今年は、豊作になりそうですね!」
のんびりついでに田んぼの様子を見て、収穫の計画を立てたりもする。
田んぼに設置してある積算温度計は、良い感じの数字。
「ここの数字が一千になったら、収穫なんだよ」
「あや~。これって、そういうどうぐだったですか~」
「この道具のお蔭で、収穫の予定がわりと正確に立てられるんだ」
「べんりです~」
ハナちゃんも温度計を覗き込み、キャッキャとはしゃぐ。
植物ごとに最適な積算温度があるから、実はこの温度を測るのは超重要だ。
農作物の栽培適地も、この温度が基準となっていることが多い。
特に昨今は温暖化がささやかれており、実際平均気温の変動がある。
そのため、農作物の南限と北限もいずれ変わるだろう。
今のうちに、その兆候をつかんでおくことに損は無い。
ちなみにこの重要な数字について、各地域では県が測定して教えてくれる。
けど、ここでは自前でやらないといけない。なんたって、行政サービスが及ばない地域だからね。
まあその辺は良いとして、この村にある稲の収穫はというと……。
来月辺りに出穂後の積算温度が一千℃を超えるから、収穫の時期になるはず。
九月もそろそろ終わりだけど、例年通りって感じかな?
「あっちでたんぼをみてる、ふたりにもおしえてあげるです~」
「そうだね。教えてあげないと」
ハナちゃんが指さす先には、元族長さんと団長さんがいた。
二人も、田んぼの様子を確認しているね。
積算温度とかは教えていないから、いつ収穫とかは判断出来ないはず。
ちゃんと教えておかないとね。
というわけで、元族長さんと団長さんの元へと赴く。
「あ、タイシさんこんにちは」
「さいきん、すずしくなってきましたな~」
「お二人ともこんにちは。確かに、涼しくなってきましたね」
軽く挨拶を交わした後は、本題だね。
「えっとですね、あと二十日から三十日くらいで、お米の収穫時期が来ますよ」
「え! ほんとですか!」
「たのしみですね!」
収穫時期をざっくり教えると、二人とも笑顔になった。
自分たちで育てた農作物の収穫だ。そりゃあ嬉しいよね。
「そんなわけですので、収穫のために予定を立てて人を集めた方が良いかと」
「そうですね。なんにんか、てつだってもらいます」
「よていをきめて、あつまりましょう」
まだ収穫日は確定じゃないけど、もう少し様子を見れば決められる。
時期を決めたら、ネコちゃん便で連絡を取り合おう。
「あと十日くらいしたら決まりますので、時期を連絡しますよ」
「あ~、とおかごというと……」
「ちょっと、れんらくをとりあうのは、むずかしいのでは?」
おや? なんだか二人とも、微妙な感じだ。
連絡を取り合うのが難しいというけど、なぜだろう?
「何かご予定でもあります?」
「よていというか、じきてきにというか」
「そろそろですよ?」
時期的にまずそうだけど、そろそろって何だろう?
と、首を傾げていると――。
「タイシタイシ、もうすぐ、おおあめのじきですよ?」
――ハナちゃんが、そう教えてくれた。
そうだ、もうすぐエルフィンは……一年経つんだ。
年末というか年始というか、恒例である大雨の時期が来る。
つまりは、それが原因で連絡が取り合えなくなるってことか。
「なるほど、大雨の時期ですね」
「ええ、いっしゅう、まわりますもので」
「わたしたちも、もりにかえって、じっとしていないと」
大雨の時期は、エルフたちみんな森に閉じこもる。
平原の人たちも故郷の森に帰って、旅はお休みの時期だ。
こりゃあ、しばらく寂しくなるな。
「そんなわけですので、おおあめがおわったら、ごれんらくいただくということで」
「分かりました。雨が上がったら連絡を取り合いましょう」
去年は夏の時期に、エルフィンが一周回った。
だいたい十三ヶ月で一年の世界だから、今年はちたまが秋の時期、というわけか。
惑星の公転周期で決めたわけではないから、若干の振れ幅はあるみたいだけど。
「大志さん、そうすると……佐渡に居るあの方々にも、連絡が必要かと」
「あ! そうだ。あの五人にも連絡しないと」
ユキちゃんが気づいたけど、確かにそれもある。
佐渡で修行中の平原の焼き物五人衆、いったん里帰りして貰った方が良いよね。
二週間から三週間くらいの、帰郷だ。
「それじゃあ、佐渡の方には自分が連絡しておくよ」
「私たちは、何かお手伝いします?」
「てつだうこと、あるです?」
ユキちゃんとハナちゃんがお手伝いを申し出てくれたけど、特には無いかな?
観光客が減るので、むしろお仕事は少なくなるね。
お休みしても、良いんじゃないかな?
「今のところは大丈夫だよ。ちょうど良いから、お仕事お休みって事で」
「わかりました」
「のんびりです~」
二人も結構働きづめだったから、良い休暇になるね。
しばらくは、のんびり過ごして下さいだ。
俺も、久々にお休みするかな? のんびり過ごせそうだ。
「……あえ? おしごとおやすみ……てことはです~?」
「あら? ハナちゃんどうしたの?」
「ぐふ~、ぐふふ~」
休みに何をしようか考えていると、ハナちゃんがぐふぐふ状態に。
どうしたんだろう?
「ハナちゃん、どうしたの?」
「タイシ~。ぐふふ~」
どうしたのか聞いてみたけど、ハナちゃんご機嫌でぐふぐふしているだけだ。
何か、良いことでもあったのかな?
「ユキ、ちょっとふたりで、おはなしするです~」
「え? お話し?」
「ハナのおうちで、おはなしです~」
首を傾げていると、ハナちゃんがユキちゃんの手を掴んでお誘いをしている。
女子会のお誘いかな?
「あ~、良くわからないですけど、ちょっとハナちゃんのお家に行ってきますね」
「行ってらっしゃい」
「いってくるです~」
やがて、ユキちゃんはハナちゃんに引っ張られて歩いていった。
女子会だから、邪魔しちゃ悪いよね。
俺は大人しく、集会場で神輿と遊んでいよう。
あとは、エルフィンが大雨の時期だからお休みの計画も立てようかな。
ちょっとくらい休んだって、問題ない時期だからね!
◇
ここはとある村の、とあるハナちゃんのおうち。
ユキちゃんとハナちゃんちの家族みんなが集まって、ちゃぶ台を囲んでおりました。
「ぐふふ~。ユキ、ちょっと相談があるです~」
「そうだんって、なにかな?」
「これです~」
ハナちゃんがぐふぐふしながら、ちゃぶ台にとあるブツを置きました。
それを見たユキちゃんは――。
「あ! これは――」
「そうです~。覚えてるですか~?」
「もちろん! ということは……」
「そういうことです~!」
ブツを見たユキちゃん、ピンと来たようです。
多くを語らなくとも、通じ合う。
今ハナちゃんとユキちゃんに、謎の共通認識が出来ました。
「えっとですね。実は前々から、計画しておりまして」
「それが可能かどうか、ユキさんに相談したかったのです」
ヤナさんとカナさんも会話に参加して、ユキちゃんに何かを相談するようですね。
「わかりました、きょうりょくしますよ!」
「タイシに聞く前に、ある程度固めておくです~」
ユキちゃんもノリノリのようで、気合いが入った様子で応えました。
こうしてハナちゃんちでは、大志が知らないうちに、企みごとがはじまりはじまり。
さてさて、ハナちゃんちでは着々と計画が練られておりますが……。
何も知らない大志は、大丈夫かな?
ちょっと集会場を、覗いてみましょう。
「ぐ~、ぐ~……」
「ギニャ~」
おっと、大志は集会場でお昼寝中ですね。
仰向けになった大志の胸の上では、神輿もお昼寝。
その周りをフクロイヌが、何かを探すようにトテトテと歩いています。
「ギニャニャ?」
「おっふ」
あ、フクロイヌが大志の顔の上に乗っかりました。
そこでお昼寝するのかな?
「ギニャ~」
「う~ん、う~ん……」
うなされ始める大志ですが、それでも起きないのですね。
とまあだいぶのんきな感じですけど、この平和ももうすぐ……。
がんばってね、大志。
たぶんなにか――おっきな仕事が降ってきますよ。
◇
「タイシタイシ~」
集会場でお昼寝していると、ハナちゃんの呼びかけで目が覚めた。
背伸びをして大あくびをしながら、声がした方を見る。
「ハナちゃんどうしたの……て、何故みなさんお集まりで?」
(おまつり~?)
ハナちゃんの方を見たら、後ろにエルフたちが集まっていた。
どうしたんだろう?
その様子に、謎の声も不思議そうな感じ。神輿がほよよっと飛び上がった。
「タイシ~。まえに、おねがいごとがあったら、なんでもっていってたです?」
わけもわからず首を傾げていると、ハナちゃんが上目遣いでそんなことを聞いてきた。
……確かに言ったね。何でも良いよって。
と言うことは、何かお願いがあるんだろう。
「確かにそう言ったね。何かお願い事、あるのかな?」
「あい~! タイシにおねがい、したいです~!」
にぱっと笑顔になったハナちゃん、キャッキャとお願い事がある旨を伝えてきた。
それだけならまあ良いのだけど、後ろにいらっさるみなさんが気になるわけで。
「ハナちゃんのおねがいけんり、ここでつかっちゃうのか」
「ここぞ! というときだからじゃん?」
「ドキドキするわ~」
後ろに控えるエルフのみなさん、なんだか緊張気味。
これ、みんなに関係したお願いっぽいね。
一体何だろうか? ちょっと怖いけど、聞いてみるしか無いな。
「……それで、どんなお願いかな? 自分が出来る範囲でなら、なんとかするよ」
ちょっとドキドキしながら、ハナちゃんに問いかける。
すると、ハナちゃんが一冊の本をかかげて――。
「タイシ~、みんなで、またりょこうにいきたいです~!」
――そう言った。
みんなで旅行に行きたい、とな。
そういや去年は、佐渡に遊びに行ったね。
素敵な体験や出会いがあって、実り大きなイベントだった。
ちょうどエルフィンが雨期だからこそ、みんなで旅行に行けたんだ。
今回もまたその時期に来たから、企画したっぽいね。
「旅行をしたいんだ」
「あい~! ……タイシ、だめです?」
すすすっと近づいてきて、ハナちゃんの上目遣いおねだり攻撃!
めっちゃ強力な、ハナちゃんきたいのまなざし光線だ。
「それで、みんなが行きたい場所って……この本の所かな?」
「そうです~!」
ハナちゃんが持っている本は、見覚えがあった。
去年ユキちゃんが忘れていって、海が見たい騒動が起きた原因の本だ。
本の内容は――沖縄ガイド。
つまり、みんなは沖縄に行きたいってことか。
「う、う~ん。沖縄か……」
目的地までの距離を考えて、ちょっと困ってしまう。
さすがに、バスに乗って行こう! というほど近くはない。
「……びみょうなかんじ?」
「まえに、とおいっていってたものね」
「むずかしそう」
俺の反応を見て、みなさん不安そうな顔。
何とかしてあげたいけど、遠いと言うことはそれだけお金が……。
「そこで、ユキのとうじょうです~!」
「はい大志さん、お金の心配なら……まあちょっとは考えておきました!」
ばばーん! という感じでキツネさんが登場だ。
テンションが妙に高いけど、そのせいで耳しっぽを隠すの完全に忘れている。
もっふもふだね! うかつだね!
「実はですね、今の時期だとオフシーズンで安いのですよ」
「まあ、もう夏が終わっちゃったからね」
「しかーし! 沖縄はまだ――海で泳げるのです!」
ずずいと前のめりになり、顔を寄せてくる耳しっぽさんだ。
耳のふわふわ毛が顔をくすぐって、良きかな良きかな。
「夏休みシーズンが終わって閑散期、でもまだ沖縄自体はシーズン中なんですよ!」
この集まりの誰より、気合いが入っているユキちゃん。
今こそ沖縄旅行のチャンスとアピールする。
「ちょっと調べたのですけど、ツアーでもこんなお値段ですよ」
「……安いね」
「ですよね!」
ホテルと往復航空券付きツアーで、四万円台。こりゃ安いな。
お値段だけ見れば、わりと行けそうではある。
ただ……それでも四万円台。エルフたちにとっては――大金だ。
果たしてこの金額を、捻出できるのだろうか。
「そしてお金の心配なら、なんとかなります」
今度はヤナさんが出てきた。
鼻息荒い様子で、ノートPCを見せてくる。
「実は去年から、コツコツ積み立てしてまして」
「……確かに、村の予算に項目がありましたね」
この辺は村の帳簿を見ているから、俺も把握している。
一人頭三千円を、毎月コツコツ積み立てていた。
それを……解き放つのか!
「ちょっと足りないですけど、そこは石包丁の売り上げを充てるとですね……」
「予算的には、大丈夫ですね」
人差し指でぽちぽちとPCを操作して、予算案を見せてくる。
金額的には、何とかなりそうだ。
「時期と予算は……大丈夫そうですね」
「ですよね!」
「いっしょうけんめい、かんがえたじゃん!」
「だいたいは、ヤナさんがやってくれただろ」
「おれら、ほぼなんもしてねえ」
数字上の課題については、今の条件であればクリアできそうだ。
俺の回答を聞いて、みなさん笑顔になる。
どうやら、ヤナさんがコツコツ計画していたようで。
ただ、実際に行動するとなると――厳しい。
課題がたくさん、見つかってしまったのだ。
「しかしこのままでは、ちょっと無理ですね……」
「え?」
「だめなの?」
とたんに、みなさん不安そうな顔。
ちょっとかわいそうだけど、俺の考える課題を伝えよう。
「個人的には、せっかくだから妖精さんやドワーフちゃんたちも参加して欲しいのです」
「そうですね……」
エルフたちは積み立てしてお金があるけど、妖精さんやしっぽドワーフちゃんには無い。
でも、彼らも一緒に連れて行ってあげたい。となれば、予算は家から出すのが良いかな。
「まあそのお金については、私から補助するので課題クリアですね」
もともと妖精さんたちの予算は、彼女たちがこねこねして稼いだお金が大半だ。
還元する意味でも、丁度いいね。
ドワーフちゃんたちに対しては、未来への投資ってことで。
旅行をして色々な物を見て、何かを生み出す刺激になれば僥倖だ。
「タイシ~! ありがとです~!」
旅の仲間が増えるとあって、ハナちゃん大喜びだ。
エルフ耳をピンっと立てて、キャッキャとしている。
それと、旅行の話はエルフたちのほうから、通してもらった方が良いな。
この村の主役は、村人たちなのだから。
「申し訳ないのですが、妖精さんやドワーフちゃんたちに、みなさんからお話しを通しておいて頂きたいです」
「わかりました! 話をしておきますね!」
「なんとか、なりそうだな~」
「おきなわ~」
一つの課題をクリアして、みなさんほっと一安心だ。
話を通すことについても問題ないようで、ヤナさん大張り切りだ。この辺は、任せよう。
ちなみに、神様ももちろん参加だ。きちんと伝えておこう。
「もちろん神様も参加して頂けるなら、歓迎しますよ」
(やたー!)
まあ、参加者はこの村の定住者って範囲で区切るけど。
さすがに観光に来た方々は、ちょっとご遠慮下さいって事で。
そこまで抱え込むと、キリが無いものでして。
「人数としては、ドワーフちゃんたち六十数人と、妖精さん五十数人が加わるって感じですね」
「おおにんずうです~!」
親父や高橋さんも加えると百五十人を超えるメンバーになるので、一気に話がでかくなる。
中小企業の社員旅行レベルだ。まあこれは俺のわがままなので、解決策はこっちで考えよう。
「大人数での旅行について、どう実現するかの課題については自分が色々考えます」
「お願いします」
「タイシに、まかせるです~」
ヤナさんもハナちゃんも、期待のまなざしだ。期待を裏切らないよう、いい手を考えよう。
じゃあ次の課題だね。
「この時期台風が良く発生しますので、泳げない事もあるかもしれません」
「まあ……そうなったら、おとなしくしてます」
「おてんきだから、しょうがないです~」
この辺は、天気の話だから覚悟は出来ているみたいだね。
じゃあクリアってことにしよう。
そうして、一つ一つ課題を提示していく。
準備の話や、村を開けている間はどうするかのお話し。
他に、旅行中のお小遣いは用意してあるのか等々。
「大体は、何とかなりそうですね」
「あい~! みんなでコツコツ、かんがえてきたです~」
「いけそうかな?」
細かい課題はなんとかなりそうで、みなさん熱が入る。
ただ、最後に大きな課題が残っていた。
その課題とは――。
「最後に、みなさんには飛行機に乗るという――試練が訪れます」
そう、飛行機だ。
陸路で行くのは、期間内では不可能。
ほぼ移動で旅行が終わってしまい、沖縄では全然遊べない。
フェリーもあるといえばあるが、まずそのフェリーに乗るための港が遠い。
となれば、飛行機に乗るのが最も現実的かつ低コストという話になる。
実際旅行会社が提供するツアーを見ると、飛行機利用が最も安くて速い。
「あえ? ヒコーキって、なんです?」
「乗り物ですよね?」
『あたらしい、きかいのよかん!』
ハナちゃんは飛行機という言葉に首を傾げ、ヤナさんは「乗る」という言葉からすぐに乗り物と気づく。
メカ好きさんは新たな機械に夢を踊らせ、離脱。
「なんか、またしらないやつでてきた」
「のりものなのよね?」
「ヒコーキする、のりもの?」
のんきなご様子の、エルフの方々。
沖縄に行きたければ、飛行機に乗る。
この試練を回避するのは、ちょっと難しい。
エルフたちや妖精さん、それにしっぽドワーフちゃん。
これら異世界の方々を……国内線に乗せる。
この旅行最大の――恐怖ポイントだ。
「でも、なんだかいけそうじゃない?」
「うみで、およげるわ~」
「たのしみ~」
だけど、当人たちに自覚無し。
はてさて、のんびりゆるふわ異世界人たちは。
……この試練に、打ち勝つことが出来るのか。
まあぶっつけ本番しか出来ないから、沖縄に行きたいなら乗るしかない。
ここは一つ――覚悟を決めて貰いましょう!