表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十九章 エルフ旅行
277/448

第九話 きっかけは、思わぬところから


 細かいことは気にしないことにした。


「というわけで、なんか小枝が成長してるみたい」

「あや~……それだいじょぶです?」


 異空間で木が育つとか聞いたことないので、ハナちゃんめっちゃ心配そう。

 でもまあ、恐らく大丈夫?


「だいじょぶだと良いな」

「そこはかとなく漂う、この他人事感……」


 ユキちゃんからつっこみを頂いたが、まあ俺個人でもどうしようもない。

 このまま、ほっとくしかないわけで。


「まあ、なるようになるかなと」

「ですかね?」

「なるですか~?」


 俺のあまりの適当さに、ハナちゃんユキちゃん首を傾げる。

 いちおう個人的には、勝手に空間が構築されていくのは楽な物でね。

 これで良いんじゃないかと思っちゃうわけですよ。

 それに、こうでもしないと……折り畳めないと思うのだ。


 何をどうしても、実用的な畳み方が出来なかった俺の空間。

 それが、いまや……まあそこそこ使えるようになった。

 今のところ、メリットしかない。

 なら、それで良いやと思うことにしたわけで。


「いちおう、今日はバケツ一杯半くらい入るようになったんだ」

「じみに、ふえてるです~!」

「本当に地味な増加量ですね……」


 二人は声を揃えて地味というけど、俺が自力で畳んでいたら……無理な増加量だ。

 ほんと、勝手に育つのはありがたいって感じだね。


「そんなわけだから、一応成長は見守るけど……細かいことは気にしないことにしたよ」

「私、ガテン系の神髄を見た気がします」

「タイシはやっぱり、タイシです~」


 あっはっはと笑って、この謎現象を受け入れる。

 なっちゃった物はしょうが無いからね。


「……」


 そして俺の後ろでは、ヤナさんが小枝を仕舞おうとして――。


「――ダメですね」


 案の定弾かれる。


「おれも、しまえないじゃん?」

「どうしてこれ、タイシさんしまえたの?」

「むりだわ~」


 他のエルフたちも仕舞おうとするが、やっぱり弾かれる。


「おれらも、かってにたたまれたら、らくなんだけどな~」

「タイシさん、いいな~」

「ぜんじどうとか、すてき」


 どうやらみんな、勝手に空間が出来るのが羨ましいらしい。

 そりゃそうだ、めっちゃ楽だからね!


「ハナは、まねしないの?」

「あや~、やめとくです~」


 カナさんも弾かれる小枝と苦戦しながら、ハナちゃんにも試すか聞いている。

 でも、ハナちゃんはやめとくようだ。

 なかなかに慎重な子だね。


「ハナはコツコツ、おりたたんでくです~」

「あら~、ハナえらいわね~。なでちゃうから!」

「えへへ」


 全自動にょきにょき空間ではなく、自力で折りたたむと。

 そんな職人気質なハナちゃん、カナさんに撫でられてえへえへと喜んでいる。

 俺も撫でておこう。


「自分も便乗しますよ」

「じゃあ私も」


 ユキちゃんも参加して、みんなでハナちゃんの頭をなでくりだ。


「うふ~」


 頭を撫でられたハナちゃん、まんざらでもないご様子。

 エルフ耳がでろんと垂れて、ご機嫌だね。


 ……でもまあ、どうして折りたためているのかという原理は気になるところだ。

 なぜツリー構図が可能なのか、そこは調べておきたい。

 整数でしか折りたためないあの空間を、いとも簡単に構築している。

 それが何故なのか理解できれば――個人的に空間をいじくれるよね!


 さすがに今現状は、勝手に成長していて制御不能であって。

 ちょっとでも、自分に便利なようにいじくれたら……良いかもしれない。



 ◇



「いちおう原理を解明するために、本で調べるよ」

「おべんきょうです~」

「お手伝いしますね」


 ネットで検索しても分からなかったので、図書館からたくさん本を借りてきた。

 どれも専門書なので、理解するのが結構難しい。

 主にフラクタルと数学、あとは自然科学の専門書だ。

 借り物なので大事に扱わないとね。


「へえ……大志さんの市の図書館って、結構専門書が揃っているのですね」


 ユキちゃんが本を開いて、図書館名を確認している。

 そうそう、うちの市は結構図書館の蔵書が充実しているんだよね。


「自分も学生の頃はお世話になったかな」

「図書館って、行ってみると意外と楽しいですよね」

「そうそう。書店だと買うか迷う本でも、気軽に借りられるのが良いよね」


 どうやらユキちゃんも図書館は好きなようで、二人で話が盛り上がる。

 図書館にフーリエの冒険が置いてあったときは、そらもう嬉しかったね。

 ネット上にも存在しない、普段出会えない知識に出会える場所、それが図書館かなと思う。


「その話、詳しく」


 そうしてユキちゃんとキャッキャしていたら、エステさんがすすすっとこちらにやってきた。

 その話というと……図書館の話かな?


「ええっと……図書館のお話ですか?」

「そうそう、本を借りられるって聞こえたの」


 どうやら当たりらしい。図書館について説明してみるか。


「まあそのまんま、本を読んだり借りたり出来る施設がありますね」

「それって、お金はかかるのですか?」

「無料ですよ」

「ほんと!」


 無料と聞いて、エステさんの耳がピンと立った。

 これもう、図書館で本を借りたいんだろうね。

 でもですね、一つ問題がありまして……。


「ただ、よその町の人は読むだけで借りることは出来ませんね」

「え?」

「基本はその町に住んでいる人たちへの、福祉としてやっているものですから」

「残念~」


 エルフ耳がガックシと垂れるエステさんだけど、借りられないだけで読むことは出来るわけで。

 それで良いなら、今度連れて行くことも可能だけど。


「読むだけなら問題無いので、今度図書館に行ってみますか?」

「いいの!?」

「もちろんですよ。ただ、滞在時間は半日くらいになりますが」

「それでも良いので、お願いしたいです!」


 移動時間と図書館の閉館時間もあるから、まあ半日が限界で。

 でも、エステさんはそれでも良いようだ。

 じゃあ、今度図書館に連れて行ってあげよ――。


「――タイシ、タイシ」


 と思っていたら。ハナちゃんが俺の肘をつんつんしてきた。

 何か聞きたいことがあるのかな?


「ハナちゃん、どうしたの?」

「ほんがたくさんあるなら、マンガもあるです?」


 お、ハナちゃん良いところに気づいたね。

 もちろんマンガもあるのですよ。そんなに多くはないけどね。


「いちおうマンガも置いてあるよ。好みの作品があるかは、分からないけど」

「あや~、ハナもとしょかん、いってみたいです~」


 マンガもあると聞いて、ハナちゃん俄然がぜん興味が出たようだ。

 じゃあハナちゃんも一緒に連れて行ってあげよう。


「ちなみに、ずかんとかもあるじゃん?」

「けんちくのほんとかは?」

「きかいのほんとか、あったり?」


 ……あれ? 囲まれてる?

 なぜか、さっきまでいなかったエルフたちが集まっているけど……。


「もちろんありますよ。他にも、お洋服の本とか絵の描き方とかお料理とか、色んな本が置いてあります」


 突如出現したエルフ包囲網に驚いていると、いつの間にか包囲網の外にいたユキちゃんが回答した。

 出来れば、安全地帯からではなくこの包囲網の中で共に戦って欲しかった……。


「――しゅっぱつのじゅんび、できました!」


 そして絵の描き方と聞いたら、カナさんが黙っているはずもない。

 いつの間にかよそ行きの服に着替えて、もう出発する気でいらっさる……。


「え、ええとですね……村のお仕事もあるので、予定を立ててからですね」

「おしごと、かたづけてきますね!」


 そして走り去るカナさん。ああいや、予定を立てないとですね。

 もう昼過ぎなので、今日はちょっと無理でして。


「ちなみに、美容の本とかもありますよ」

「くわしく」

「美しくなれる?」

「おはだのなやみ、なんとかなるかしら~」


 困っていると、なぜかユキちゃん自爆。女子エルフに囲まれた!

 安全地帯だったそこは、一気に地雷原と化す。

 ユキちゃんはどうして、あえて地雷を踏みに行くのか……。


「としょかん、いくわよ~」

「「「おー!」」」


 結局その日は、図書館についての説明で終わった。

 借りてきた本、一冊も読めなかったよ……。



 ◇



 二日後、大型バスを一台出して図書館に向かうことに。


「たのしみだわ~」

「おもしろいほん、あるかしら」

「マンガもあったら、いいです~」


 バスの中は大盛り上がりで、エルフのみなさんキャッキャしている。

 今日はせっかくだから、長野市のでかい図書館に行っちゃうよ。

 思う存分、本を探して下さいだ。


「でもみなさん、漢字とか読めないと大変ですよ」


 盛り上がる一同に向けて、ユキちゃんが釘を刺す。

 しかし……。


「そこはきあいで」

「ふんいきだけでも」

「なんとかなるじゃん?」


 かなりふわっとした回答がもたらされた。

 ま、まあ図解とかでも、ある程度分かるからね。

 とにかく、色んな本があるのを見てみたいという、好奇心を満たしたいんだろう。

 でも、そう言った好奇心は結構重要だよね。


 とまあわりと行き当たりばったりな一同だ。

 恐らく背表紙の文字を読むのも厳しいだろうから、サポートは必要かな。

 でもお気に入りの一冊が見つかれば、得られる物もあると思う。


「あ、図書館が見えましたよ」

「ほんと!?」

「あの建物です」

「でっかいです~!」


 やがて目的の施設が見えてきて、ユキちゃんが指をさして教えてあげた。

 みんなが思ってたより大きかったようで、バスの中はキャーキャーと賑やかになる。


「はい、図書館に到着です。私はバスを停めてきますので、みなさん少々お待ちを」

「「「はーい」」」


 そしてとうとう目的地に到着し、エルフたちはぞろぞろとバスから降りていく。

 俺はバスを駐車場に停めて、すぐさまみんなと合流する。


「タイシタイシ~、こっからどうするです?」


 合流すると、ハナちゃんから次の行動について聞かれた。

 まあ、図書館に入って静かに本を読むってだけかな?


「あっちの入り口から施設内に入って、あとは静かに本を探したり読んだりするだけだよ」

「わかったです~」


 ぶっちゃけ図書館に行ってすることと言えば、一つしか無い。

 静かに本を読む、これだけだね。


「喉が渇いたら、こちらの休憩所で飲物を飲めます」

「きゅうけい、できるです?」

「休憩は出来るよ。でもここで本は読んじゃだめだよ。汚したら困るからね」

「きをつけるです~」


 移動中に施設を軽く説明し、いちおう今回の拠点となる部屋へ。

 会議室を一つ、予約してあるのだ。


「今日はこの部屋を予約してありますので、お話をしたい場合はこちらか先ほどの休憩所でお願いします」

「わかりました」

「ひろいわ~」

「ゆっくりできそう」


 拠点を確保したところで、いよいよ本番。

 図書室へ向かいましょう!


「では、本がたくさん置いてある部屋に行きますよ」

「いくです~!」

「たのしみ」

「どんなほんが、あるのかしら~」


 未知なる知を求め、みんなでぞろぞろと移動する。

 さてさて、お目当ての本は探せるかな?



 ◇



「びようのほん、みつけたわ~」

「こっちのずかんも、めっちゃおもろいじゃん」

「かっこいいきかい」

「もっこうのほん、たくさんなのだ」


 エルフたちを図書室に放流したら、謎の嗅覚で目当ての本を探し当ててしまった。

 表紙を読み取るのも難しいはずなのに、なぜなの……。


「タイシタイシ~、このほん、おもしろいです~」

「あら、ハナちゃんは絵本を持ってきたのね」

「あい~。かおをたべさせるのが、ざんしんです~」


 そしてハナちゃんは、顔がパンなやつ的な絵本を見て、とっても楽しそうだ。

 どうやら、その設定が斬新で気に入ったぽい。

 顔がパンで、それ食べさせるヒーローとか……普通思いつかないよね。

 よくよく考えれば、めっちゃ斬新だ。絵本侮れない。


「パソコンでえをかくのって、たいへんなのね」

「そもそも、パソコン自体が難しいよ」


 あっちの方では、カナさんとヤナさんが仲睦まじく教則本片手にノートPCと格闘している。

 みんな声を抑えめにして、静かに本を読んでいるね。

 どうやら大丈夫そうなので、俺は自分の調べ物を進めよう。


「大志さんは、数学の本から調べるのですか?」

「まあ得意な分野だからね。ユキちゃんは、自然科学の本かな?」

「はい。大志さんのお手伝いをします」


 そう言いながら、俺の右隣にユキちゃんが座る。

 手伝ってくれるようで、ホント助かる。

 ……やけに耳がピンとしていて、しっぽがばっさばさ振られているのは気になるけど。

 まあ、気合が入っているんだろう。


「それはありがたい。助かるよ」

「いえいえ。ここでポイントを稼がないと」

「ん? ポイント」

「ええ。稼ぎ時ですから」


 なんのポイントかは分からないけど、稼ぎ時らしい。

 若い娘さんの考えることは、良くわからないな。

 まあ、それはそれとして。


 とりあえず、ユキちゃんと手分けして資料に当たる。

 主に次元関連の計算について、その成り立ちや歴史を調べていく。

 ユキちゃんはペラペラと資料をめくって流し読みをするようだ。


「あや~、かおがぬれると、ちからがでないですか~」


 左がハナちゃん、右がユキちゃん。真ん中が俺。

 三人並んで、それぞれの時間を過ごす。


「……う~ん、この公式じゃないな」


 俺は俺で、MATLABを使って数値の検証を行う。

 ただ……ノートPCなので、計算が遅い。

 自宅のAIちゃんスパコンの速度になれちゃうと、モバイルは厳しいね。

 数式だけプログラミングして、あとは自宅で解析した方が良いかもだ。


「あえ? ロールパンのほうがあとなのに、なぜ、おねえさんになってるです?」


 計算が遅くてジリジリしている俺の横では、ハナちゃんが哲学的な問題に直面していた。

 それは多分、みんなが不思議に思っているよ。

 メロンパンの方がお姉さんだよね、どう考えても。

 なんで先に生まれたほうが妹で、後が姉なのか。永遠の謎だ。


「あや~、なぜにメロンパンがいもうとですか~……」


 やがてハナちゃんが思考の袋小路にハマり、フリーズする。

 パンのお話で、そんなに悩まなくても……。

 それ、イヌが車を運転したりするからね。

 つっこみはじめたらキリがないわけで。気にしないのが一番だよ。


「ほほう、『二人で話し合っておきたい、五つのこと』。大事ですね……」


 ん? ユキちゃんが読んでる本、自然科学のやつじゃないぞ?

 ゼ○シィとか表紙に書いてあるけど、それは雑誌では?

 あと、やけにチラチラこちらを見ているのだけど。


「やっぱり六月が良いですかね?」


 と思ったら、何か季節を聞いてきた。好きな季節かな?

 六月は梅雨なので、個人的には春くらいが好きだね。


「自分としては、春が良いな」

「分かりました、春ですね」


 何となく回答すると、ユキちゃんがキリっとした。

 ……なんで、そんなに気合い入ってるの?


「あや~、このパンの、ほんたいはどこですか~……。かおですか~? それともからだですか~?」


 となりでは、ハナちゃんが新たな哲学的問題に直面していた。

 それを気にすると、キリがないよ。


「あえ~? あえ~?」

「春……フフフ、時間はたっぷり……」


 俺の周りだけなんだかカオスだけど、どうしようもない。

 流れに身を任せて、自分に出来る調査を続けよう。


 そうして両隣のカオスは見ないふりをして、ちまちまと計算を続ける。

 しかし、やっぱりなかなか結果が出てこない。


「あや~、いったん、あたまをきりかえるです~」


 遅いCPUにジリジリしていると、ハナちゃんがパタムと顔がパンのやつ的絵本を閉じた。

 哲学的追求は、いったんお休みだね。

 精神衛生上良くないから、そのまま忘れた方が何かと楽だよ?


「あえ? きれいなずけいです~」


 閉じた本を横に置いたハナちゃん、目の前にある本に目が釘付けになった。

 これは……自然科学の本だね。

 ヒートアイランドを主に取り扱っている専門書のようだ。


「タイシタイシ~、これなんです~?」


 ハナちゃんはその表紙にある、ヒートマップが気になるようだ。

 都市の表面温度を色分けしたやつだ。


「これはね、温度が高いと赤、低いと青で色分けした写真だよ」

「あえ? そんなのできるです?」

「出来るよ。色分けして、目で見て温度が分かるようにする技術なんだ」

「なんだか、すごそうです~」


 温度の違いを色で表現する。

 これにハナちゃん興味を持ったのか、本を手に取りペラペラとめくり始めた。


「なにがかいてあるか、わからないです?」

「……まあ、基本は実験データとその解説しか書いてないね」


 絵本とは違い、こいつはガチの専門書だ。

 俺でも理解が難しい数式や実験結果データがあって、専門家向けの本だからね。


「でも、きれいなずけいです~」


 やがてハナちゃん、細かいことを気にせずグラフや解説図を楽しむようになった。

 意味が分からなくとも、不思議な図形を眺めるのは楽しいよね。

 ハナちゃんの気持ち、良くわかるよ。


「じゃあ、一緒に見ようか」

「あい~」


 そうしてハナちゃんと一緒に、ペラペラとページをめくって不思議な図形を楽しむ。

 ざっと流し読みした感じでは、ヒートアイランドの原因と仕組み、対応策を検討している本っぽいね。


 実はヒートアイランドとは夜に起きる現象で、昼間はヒートアイランドにはならないとか、興味深い事が書いてある。

 なかなか、ためになるな。


「ハナちゃん、これ結構面白いね」

「おもしろいです~。ユキもみるです~」

「面白いのね。どれどれ」


 やがてユキちゃんも参加して、三人でページを眺めていく。

 いろんなヒートアイランドに関する解説が書いてあって、これが結構読める。

 内容にのめり込んで、細かく文字を読み解いていくと――ふと、「フラクタル」という文字が目に飛び込んできた。

 ヒートアイランドに、フラクタルがどう関係するんだ?


「ちょっと良いかな。この内容が気になって」


 ページをめくる手を止め、さらにじっくりと内容に目を通す。

 そこには――。


“フラクタル図形による、効率的な日よけの提案”


 ――と、書いてあった。

 なるほど、フラクタルを利用して日よけを作るって章なのか。


「大志さん、シェルピンスキーの図形って書いてありますよ」

「あ、ほんとだ」


 そしてユキちゃんが、めざとくシェルピンスキーという文字を見つけた。

 ただ、三角形ではない。シェルピンスキーの四面体、という図があった。


「……四面体?」


 そこにはシェルピンスキーの三角形を組み合わせて、四面体にした図が載っている。

 これが、効率的な日よけらしい。じゃあなぜ、これが効率的かというと……。


“シェルピンスキーの四面体は、フラクタル次元が二次元となる。”

“これにより、大きな隙間があり冷却効果が得られ、かつ日よけとして高効率”


 と、記載してあった。


「二次元のフラクタル図形……?」


 フラクタル図形は、中途半端な次元を持つことが特徴だと思っていた。

 しかし――そうではないケースもあるようだ。


 シェルピンスキーの三角形は、一.五八次元。

 しかしこの図形は、フラクタルなのに二次元。

 

「これ……まさか……」


 すぐさま、どうしてこの図形を選択したかの、理論を探す。

 次のページに、それはあった。

 そこには――。


“樹木の形状は、どのような樹種にせよ大体は二次元のフラクタルとなる”

“これは、二次元でフラクタルを構成すると、日陰になる葉っぱを最小にできるから”

“かつ、風通しを良くするための隙間を最大化できる”

“この樹形と同じフラクタル次元をもつ図形が、シェルピンスキーの四面体である”


 ――と、記載されていた。


 樹形は、二次元のフラクタルを持つ――。

 つまりは、そう言うことなのか?


 整数しか認めない俺の空間で、樹形が展開出来た理由。

 それは、ツリー構造は――二次元のフラクタルだったから。

 全ての葉に日光を当て、同時にガス交換のために大きな隙間を構築できるよう進化した、樹木の構造がそれを可能とした。


 俺はシェルピンスキーの三角形を折りたためないから、四面体も造れない。

 でもわさわさちゃんは、最初から二次元フラクタルを持つ構造で成長。

 元からキリの良い次元で成長するため、びよよんと戻らず空間が構築される。

 つまり俺の空間は――樹形こそが最適。

 そんな仮説が浮かび上がる。


 まさかまさか、ヒートアイランド研究の専門書から謎に迫れるとは……思わなかった。

 世の中、どこに宝が眠っているか分からないなあ……。


「タイシ、どうしたです?」

「この資料が何か?」


 俺の空間に構築されていく、ツリー構造次元の謎。

 予想外の方向から判明して驚く俺を、二人は見つめる。

 いやはや、この二人がいなかったら、恐らく謎は解けなかった。

 きっかけを作ってくれたのは、ハナちゃんとユキちゃんだ。

 二人とも、感謝だね。


「二人ともありがとうね。自分の空間についての謎、ちょっと分かったんだ」

「あえ? ハナたち、なにかしたです?」

「特に何か、お役に立てた記憶が無いような……?」


 お礼を言うと、二人はぽかんとする。

 まあこの辺の説明も含めて、いろいろお話ししよう。

 さてさて、どう説明したら良いかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ