第七話 やっぱり大志の隙を突く
「かわは、いつもどおりさ~」
お母さんドワーフちゃんが指さす先には、わさわさちゃんリバーがある。
そこは、台風などものともせず平穏そのものだった。
「……なんだか、ここだけ普通ですね」
「ふね、つかえるかんじさ~」
ヤナさんも川を覗き込み、ぽかんとする。
大荒れになっているかと思いきや、水面は至って普通。
お母さんドワーフちゃんの言うとおり、船で移動できそうな感じがした。
「とりあえず、船で移動してみますか」
「タイシさんのいうとおり、そうしましょう」
「じゅんびするさ~」
万が一転覆しても、ライフジャケットがあるから浮きはする。
お母さんドワーフちゃんは泳ぎが得意だし、ヤナさんは俺が抱えれば良い。
ひとまず船を使ってみることにした。
「じゅんび、できたさ~」
やがてゴムボートの準備が出来たので、みんなで乗り込む。
豪雨が降り注いでいるけど、まあ移動はできる。
落っこちないよう、気をつけて進もう。
「それでは、行きますか」
「はい」
「いくさ~」
意気揚々とボートを出発させ、川の流れに身を任せるまま進む。
たたきつける雨は降っているものの、物凄い強風ではない。時たま突風が吹くくらい。
一瞬風が和らいだのかと錯覚するが、周辺の木々を見るとばっさばさと揺れている。
これは……川の上だけ、風がそれなりに弱くなっているのかな?
「なんだか、不思議ですね」
「私たちの森でも、こういうことはありましたね」
「うちらのところも、みずうみのしゅうへんは、わりとあんていしてるさ~」
風が比較的穏やかになっていることを不思議に思ったけど、ヤナさんとお母さんドワーフちゃんいわく、彼らの居住区では良くあることらしい。
……やっぱり、わさわさちゃんはスフィアというか、結界みたいなのを作るぽいな。
この川も領域だから、わさわさ結界が効いているってことなのかも。
じゃあ、領域外ではどうなんだろうか。
「森から離れたところや、湖から離れるとどうなっちゃいますか?」
「住み着くのは、難しいですね。水がありませんので」
「あまりはなれすぎると、さむくてだめさ~」
どうやら領域外では、定住は厳しい感じだね。
わさわさちゃんは、生きものたちのゆりかごって感じか。
彼らのおかげで、大勢の生きものが生きてゆけるんだ。
……でもなぜ、わさわさちゃんはそんな事をしているのだろうか。
彼らにメリットがあるのか、それとも違う理由があるのか。
安定した環境を提供している目的は、何なのだろう?
あと、なんで俺をびっくりさせようとするのだろうか。
ほんと謎だ。
「わきゃ。そろそろみずうみさ~」
色々考え込んでいると、目的地が見えてきた。
大嵐の深夜、湖に佇む大きな大樹。
さて、わさわさちゃんはどうしているだろう――。
「わきゃ~! みずうみが、おはなだらけさ~!」
「……心なしか、湖も大きくなってませんかね」
「なってますね……」
まだ到着していないけど、もうなんか起きているのが分かる。
湖には蓮のような花がずんどこ咲いていて、記憶にあるより湖もでかくなっていて。
これもう、明らかに成長している……。
「ほくほくねっこ、たくさんたべられるさ~!」
「あ、これがあの根っこのやつなんだ」
「そうさ~! おさけ、たくさんつくれるさ~!」
お母さんドワーフちゃんが言うには、ほくほく根っこがあるやつのお花らしい。
食料というかお酒の材料がたくさん採れるとあって、大喜びしている。
なんだかんだで、この人もたくましいな。
「……今のところは、被害は出てない感じですかね」
喜ぶドワーフちゃんを見て、ヤナさんが話しかけてきた。
今のところは、被害は見当たらないね。
「ええ、むしろ食料が増えたっぽいです」
「あらしがすぎたら、ほくほくおやつ、つくるさ~!」
俺に続けて、ドワーフちゃんもわきゃわきゃと応える。
まあ、今の所は良い影響があった感じだ。しかしまだ全部は確認できていない。
住宅や浴槽とかも確認しないといけないね。
「では、次にお家を見ましょうか」
「ちょっと、しんぱいさ~」
「行きましょう」
家を確認しようと提案し、二人の同意を得た。
では、向かおう。
オールを漕いでツリーハウス群のある場所へ向かう。
すると――。
「……わきゃ? おうちがみえないさ~!?」
家があった場所を確認すると……見当たらない。
まさか!
「もうちょっと、近くに行ってみましょう!」
「ええ!」
慌てて岸にゴムボートを寄せて、強力なライトで家があった場所を照らす。
その場所には――木々の枝や葉っぱが覆い被さっていた。
「――あ! 家は無事ですよ! ほら、葉っぱの影に隠れてます!」
いち早く家の健在を確認したのは、ヤナさんだった。
そういやエルフって、暗いところでも良く見えるって言ってたっけ。
さすが森暮らししているだけある。
「わきゃ! ほんとさ~! おうちにはっぱが、おおいかぶさってるさ~!」
やがてドワーフちゃんも確認出来たのか、指をさしてわきゃわきゃしている。
よかった、家は存在している。
ただ、無事かどうかは良くわからない。
「木を登って、細かく確認したいところですが……」
下から見上げただけでは、細かいところは分からない。
出来れば、もうちょっと詳しく見たい所だ。
「さすがに危ないですよね」
「やめとくさ~」
ヤナさんとドワーフちゃんは、止めとこうという意見だ。
たしかに領域内は風が穏やかとは言え、雨はバンバン降っている。
ここは安全を取って、下から見上げるだけにしよう。
「ひとまず、全部のお家を下から確認しましょう」
「わかりました」
「てわけするさ~」
みんなで湖から岸に上がり、それぞれ家のある木の根元へと向かう。
三人で手分けして、下からライトで照らして確認だ。
そうして下から見るだけにして、ツリーハウスを全て確認していったけど……。
全ての家は葉っぱと枝に囲まれ、よく見えなかった。
「……これって、良くある事なのかな?」
「わからないさ~」
全部の家が隠れているので、不思議になって聞いてみたけど……分からないらしい。
でも全てがそうなっているのだから、理由はある気がする。
「そもそも、こんなにつよいあらしとか、あっちではなかったさ~」
続けてお母さんドワーフちゃんがそう言ったけど、どうやらこれほど強い嵐は起きなかったようで。
嵐の強さとかが、関係しているのかな?
「これは……もしかして……」
この謎現象に首を傾げていると、ヤナさんがツリーハウスを見上げて考え事をしているようだ。
何か、気づいたことあるのかな?
「ヤナさん、どうされました?」
「えっとですね……葉っぱとかが、豪雨や強風を遮っているように見えるんです」
「遮っている……つまり、家を守っている感じですか?」
「そんな気がしただけですけどね」
どうやらヤナさん的には、家に覆い被さった枝や葉っぱが……守りとなっていると。
そう見えているらしい。
「わきゃ! たしかに、そうみえるさ~!」
お母さんドワーフちゃんも、はっとした顔になった。
確かに言われてみれば、そう見えてくる。
頑丈な枝に大きな葉っぱ。それらが覆い被さり、家まで豪雨と強風が届いていない。
これは、もしかするともしかする……?
「それが本当なのかは、明日分かるかと思います」
ヤナさんも確信は持てていないようで、最終的な判断は台風通過後に持ち越しだ。
まあ、今はちょっと無理だからね。
「あらしがおさまったら、いそいでかくにんするさ~!」
「そうしましょう」
ヤナさんの意見にみんなで同意して、ひとまず家の見回りは終了だ。
被害状況は……保留で。
では次に、浴槽を見てみよう。
一生懸命作った、しっぽドワーフちゃん憩いの場。
無事だと良いけど……。
「では次に、浴槽を見ましょう」
「いくさ~!」
とりあえずツリーハウス群のそばにある、いくつかの浴槽を見回ることに。
「あ~……泥で埋まってますね」
「タイシさん、こっちも埋まってますよ」
残念ながら、ドワーフちゃんお風呂は泥で埋まっていた。
水位が結構変動しているようで、いったん水に沈んだっぽい感じだ。
「わきゃ。いつものことさ~」
しかしお母さんドワーフちゃんは、ケロっとしている。
いつものことらしいので、予想の範囲内だったようだ。
お風呂が泥で埋まることは、良くあるのかな?
聞いてみよう。
「お風呂が埋まるのって、良くあるの?」
「しょっちゅうさ~。みんな、ほじくりだすのは、なれたものさ~」
「そうなんだ」
「あしたは、おふろそうじするさ~」
デッキブラシを掲げて、気合いを入れるお母さんドワーフちゃんだ。
でもそれは今必要ないから、しまっておこうね。
しかし、いつものことなら被害って程でもないか。
明日はお風呂掃除、頑張って下さいだね。
――さて、これで一通り見回った。
ツリーハウスは被害判定保留だけど、それ以外はおおむね問題なし。
むしろ、食料が増えて湖も広くなったという結果だ。
良かった良かった――と、思っていたときのこと。
いつの間にか風が止んでいて、周囲が不思議な程の静寂に包まれていた。
「……? 風が……」
「なんだか、静かになりましたね」
「あめも、よわまったさ~?」
突然の静寂に、背中がぞわっとなる。俺の危機管理センサーが、危険を告げていた。
それは、直感。これから――何かが起きる。
すぐに周囲を確認すべく耳を澄ますと、遠くで風が唸る……地響きのような音を捉えた。
これは――突風が来る!
「――! 突風が来ます! 伏せて!」
「はい!」
「わきゃー!」
うずくまった二人が飛ばされないよう、肩を押さえて足を踏ん張る。
――直後、猛烈な突風が俺たちを襲った!
目を開けていられないほどの風に、全員じっとして耐える!
おっと! 頭に何かぶつかった!
しかし目を開けられないので、何がぶつかったか良くわからない。
頭に当たった「それ」はひっついたままだけど、確認すらおぼつかない突風だ。
そうしてしばらくの間、風に耐えじっと動かずにやり過ごす。
……やがて突風は治まり、豪雨の音だけが周囲に響いた。
なんとか、やり過ごしたようだ。
「……すっごい風でしたね」
「びっくりしたさ~」
ヤナさんもお母さんドワーフちゃんも無事なようで、突風で雨合羽のフードが外れて頭ボサボサ以外は問題なさそう。
「タイシさんは大丈夫ですか? 枝みたいなのが、頭にくっついてますが」
「……枝ですか?」
「ちっちゃなえだが、くっついてるさ~」
ヤナさんとお母さんドワーフちゃんに指摘されて、頭に手をやる。
そこには――小枝が引っ付いていた。さっきぶつかってきたのは、これか。
「タイシさん、お怪我はありませんか?」
「だいじょうぶさ~?」
突風に飛ばされた枝がぶつかったとあって、二人とも心配そうな顔をする。
でも大丈夫! 俺は落ちてきた鉄骨が直撃しても、無傷で済んでたからね!
ちょっとだけ、ほんのちょっと普通より頑丈な、ちたま人なのですよ。
「これ位なら、なんてこと無いですね。無傷ですよ」
「良かったです……」
「あんしんしたさ~」
元気そうな俺を見て、ほっとするお二人だ。
心配かけて、すみません。
とまあ俺の体は大丈夫だから良いとして、問題はこの枝だ。
この小枝に付いている葉っぱは、見覚えがある。
――わさわさちゃんの葉っぱ、だ。
よくなでなでしていたから、感触で分かるのだ。
そんなわさわさちゃんの枝が、突風で折れて飛んできた。
これは……心配だ。
「……ちょっと、わさわさちゃんの木を確認しましょう。この小枝は、あの木の物です」
「それは、心配ですね……」
「いそいで、みにいくさ~!」
小枝がわさわさちゃんの物であると伝えると、二人ともかなり心配そうな顔になった。
早いところ安否を確認しよう。何事もなければ、良いのだけど……。
「いくさ~!」
「急ぎましょう!」
「ええ!」
とりあえず小枝を仕舞って、ゴムボートに飛び乗る。
すぐさまオールを漕いで、湖中心部のわさわさちゃんツリーへと向かった。
しかし若干距離があるので、なかなかたどり着かない。
焦る気持ちを抑えて、安全第一で湖を進む。
「あ! タイシさんあれを見て下さい!」
「わきゃ~! あれはなにさ~!」
目的地を背にしてオールを漕いでいると、ヤナさんとドワーフちゃんが騒ぎ出した。
何かが――起きている?
「どうしました!」
慌てて振り返ると、湖の周辺に生えている熱帯雨林の間に――大樹が見えた。
そして、湖も。
これ、これ……湖と大樹が――増えてる!
「――うっわ! 湖が増えてる! 大樹ももう一本あるぞ!」
「おまけに、お花満開ですよ!」
「いつのまに、ふえたさ~!」
ドワーフの湖が――増えた! ちょっと離れたところに、もう一つ出来てる!
増殖したでござるよ! いつのまに!
「まさか、増えるとは……」
「大きさはこっちより小さいみたいですが、間違いなく増えてますね」
「こんなの、はじめてみたさ~!」
まさか大樹や湖が増えるとは思ってもおらず、全員でぽかんとする。
そんな俺たちをよそに、わさわさちゃんツリーは二本ともお花満開だ。
……まあ念のため、さっきの突風被害はないか見ておこう。
ゴムボートを一本目の大樹に寄せて、様子をうかがうことに。
「わさわさちゃん、さっきの突風は大丈夫だった?」
「――」
問いかけると、ぽぽんぽんと花が咲く。
……問題ないっぽいね。なんだか、元気いっぱいだ。
ボートをこぎ出して二つ目の湖にある、もう一本の木も確認した。
そちらも同じように、語りかけたらぽぽんと花が咲いた。どちらも、なんともなかったようで。
枝が少々折れたところで、へっちゃらなんだね。
まあ、異世界の環境に根付いて、巨大化するくらいの存在だ。
ちたまの台風くらいは、物ともしないんだろう。
というか、増えるくらいだからね。
「なんとも無くて、良かった」
「そうですね」
「よかったさ~」
わさわさちゃんの無事を確認して、ほっと一安心する俺たち。
湖が増えたのは気にしない事にして、ひとまず無事を喜ぶ。
さて、これで全ての場所は見回ったかな?
「……一応予定したところは全部見回ったので、そろそろ戻りましょう」
「そうですね。少し、休憩したいです」
「わりと、つかれたさ~」
色んな事が起きて、ヤナさんもドワーフちゃんもちょっとお疲れだ。
集会場に戻って、ハナちゃんの作ったみそ汁を飲んであったまろう。
「では、戻りましょうか」
「はい。そうしましょう」
「いくさ~」
無線で現状報告をし、集会場へと戻る。
こうして、見回り第一陣は終了した。
「これをくっつけると、かたこりとれるじゃん?」
「まじで!」
「またまた~」
集会場へ戻ると、全身に磁石をくっつけたマグネットマイスターがいた。
――まだそのネタやってたの!?
「かたこりときいて」
「ほぐさずには、いられない」
「あしつぼ?」
「――え?」
そしてマイスターはマッチョ三人組に掴まり、別室に連行されていく。
次の見回りは君たちだから、思う存分ほぐしておくが良いさ。
体が軽くなる事間違いなし!
「つぎはタイシさんもですよ?」
「みまわり、おつかれですよね?」
「あしつぼん」
――ん?
◇
体が軽くなった翌朝、台風一過の日本晴れである。
「被害は、こことここと……」
「まあ、あのヤバイ台風が直撃したにしては、少ない方か」
被害は、多少は出てしまった。
ただまあ、すぐに修理できる程度ではある。
「あややややや! すいじばがこわれてるです~!」
「わきゃ~! おみずが~!」
「たいへん! たいへん!」
(きゃ~!)
そして炊き出しをしようと炊事場に来たハナちゃんたち、パイプが壊れているのを見て大騒ぎしている。
神輿も何故か慌てていて、くるくる飛び回って……壁にぶつかって落っこちた。
「そんなに慌てなくても、大丈夫ですよ。すぐ直りますから」
(ほんと~?)
「タイシ、ほんとです?」
「ほんとほんと、今直すから見てて」
落っこちた神輿を抱えて、大丈夫な旨を伝える。
よく使う施設が壊れたのは始めてだろうから、ちょっと焦っちゃったみたいだね。
それじゃ、すぐに直して安心をお届けしましょう!
「ここをこうして、取り替えて固定すれば……はい、完成!」
「あや~! なおっちゃったです~!」
(よかった~)
さくっと修理して、安心させてあげる。
これで炊事場は復旧だ。
「よかったです~」
「なおったね! なおった!」
「あっさりさ~」
元通りになった炊事場を見て、みなさんほっと一安心。
安心して、炊き出しして下さいだね。
「他には、露天風呂に葉っぱとか枝が吹き込んでるな」
「おそうじ、しなきゃだわ~」
「てつだうさ~」
事前の対策が奏功したのか、ほんと被害は軽微だ。
田んぼも無事、畑はお野菜が多少落っこちたけど回収、家は雨どいが外れただけ。
大事に至らなくて、ほんと良かった。
「あとは、みずうみがふえたり、ほくほくねっこがふえたさ~」
「わきゃ~! ほくほく、ふえたさ~!?」
「たくさん、たべられるさ~!」
(おそなえもの~!)
お母さんドワーフちゃんは、仲間に昨日の出来事を報告している。
湖がもうひとつ増えたり、ほくほく根っこが増えたり。
神輿も便乗して、お供え物を期待しているあたりたくましい。
あとでドワーフちゃんたちに、神様へのほくほく料理お供えをお願いしておこう。
「おうちも、だいじょうぶだったさ~」
「よかったさ~」
「さっそく、おうちかえるさ~」
あ! そうだ!
家は大丈夫な話をしているけど、もう確認したっぽい。
どんな様子だったのか、話を聞いておこう。
「お家の方は、大丈夫だったの?」
「もんだいなかったさ~。はっぱも、もとにもどってたさ~」
「え? 葉っぱが元に戻ってたの?」
「そうさ~」
お母さんドワーフちゃんに確認したところ、家は問題なかったと。
そして覆い被さっていた葉っぱも元にもどっていた。
「タイシさん。……やっぱりあれは、家を守ってくれてたようですね」
「それっぽいですね」
「たすかったさ~」
昨日ヤナさんが推測した、あの覆い被さる葉っぱは家を守っているみたいだという話。
真相は分からないけど、結果からすると当たっている。
ここは一つ、そう思っておくのが良いかもね。
「あとでお礼に、灰を撒きに行こうか」
「そうするさ~」
良くわからないけど、なんとかして貰った。
お礼をして気持ちを伝えておくのは、良いことだろう。
「おっし! それじゃさっさと補修終えるぞ!」
「まかせるじゃん! からだもかるいんで、たくさんはたらけるじゃん!」
「どうぐ、よういしときました」
「いそいで、なおすのだ」
そんな俺たちをよそに、各々修復作業を進めていく。
俺は見回り、親父は田んぼに張った縄の回収。
ちゃっちゃと進めて、日常に戻ろう!
というわけで、軽く見回りを始めたのだけど……。
「ぴち~」
「ぴちぴち」
「ぴっちぴち~」
「ぴぴぴち~」
「ぴちち」
エルフの森周辺にある、ワサビちゃん水耕栽培地が大騒ぎだった。
池にはたくさんの芽ワサビちゃんがはちきれんばかりで、こんもりしている。
増えすぎですん。
「タイシ~、おにぎりにぎったです――あややや!」
「池からあふれそうですね……」
後からおにぎりを持ってきてくれたハナちゃんも、これにはビックリ。
ユキちゃんは、池からあふれ出そうな芽ワサビちゃんに日陰を作ってあげている。
でも数が多すぎて、焼け石に水な感じ。板切れ一枚では、どうにもならない。
さて、これをどうしようか……。
「ぴち」
「ぴち~」
なやんでいると、ちょっと大きめの赤芽ワサビちゃんが――池から出てきた。
ぴちぴちと飛び跳ねて、元気いっぱいだ。
でも、外に出てきてどうするんだろう?
「ぴっち~」
「ぴちぴち~」
と思っていたら、ぴちぴちと葉っぱを揺らしながら――ワサビちゃん畑の方へ移動していった。
そして――。
「ぴち!」
「あや! つちにもぐったです~!」
「これって……お引っ越しなんですかね?」
「ぴち~」
どうやら池から卒業して、土に潜るようだ。
この移動した子たちは、去年発芽した子供ワサビちゃん、なんだろうね。
「……他の子たちは、夜に移動するのかな?」
「ぴち!」
「ぴ~ち」
「ぴちちち」
ぽつりとつぶやくと、池の中にいる黄、緑、青ワサビちゃんが反応した。
「それっぽいです?」
「ワサビちゃん畑、拡張した方が良いかもですね」
「あとで、小型のトラクターで耕そう」
「ぴち~」
ちたまで生まれた、第一世代の芽ワサビちゃん。
新たなる一歩を踏み出すようだ。
「これは、大きく育ちそうだ。LEDライトも増やしておくかな」
畑の面積を増やしたら、ソーラー式の街灯もたくさん増やさないとね。
でないと、ワサビちゃんが直訴に来てしまう。
「ぴ!」
「ぴっぴ~!」
「ぴぴぴぴぴぴ!」
……LEDライトという言葉に反応したのか、畑からワサビちゃんの手だけがにょきにょき出てきて……バンザイっぽい仕草をする。
「ぴぴ~!」
――そこのワサビちゃん! 頭出てるから! 頭!
日光でぎゃあああ! ってなるから!
……頭が出ていたワサビちゃんには、土をかぶせておく。
「ぴっぴ~」
無事日光防御を果たしたところで、話を元に戻そう。
「ワサビちゃん、たくさん増えそう。おっきく育って欲しいな」
「おっきくなるですよ~」
「元気に育ってね」
「ぴち~」
みんなでニコニコと話しかけると、子ワサビちゃんもぴちぴちと返事をする。
いつ頃収穫が出来るか分からないけど、これは楽しみだね。
「美味しく育つのが、楽しみだね」
「たべるの、たのしみです~」
「生姜焼きに加えると、すっごく美味しくなるんですよ」
俺とハナちゃん、そしてユキちゃんはじゅるりとする。つまり全員だ。
楽しみだなあ。ユキちゃんの言うとおり、生姜焼きとか良いかもねえ。
ふふふふふふ。
「ぴ、ぴち~!」
「ぴぴぴち~……」
「……ぴち」
おや? 子ワサビちゃんの葉っぱがぷるぷる震えだしたぞ。
どうしたんだろう?
何か怖いことでも、あったのかな?
遺跡の見回りはしていないことに、誰も気づいていない




