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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十九章 エルフ旅行
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第七話 やっぱり大志の隙を突く


「かわは、いつもどおりさ~」


 お母さんドワーフちゃんが指さす先には、わさわさちゃんリバーがある。

 そこは、台風などものともせず平穏そのものだった。


「……なんだか、ここだけ普通ですね」

「ふね、つかえるかんじさ~」


 ヤナさんも川を覗き込み、ぽかんとする。

 大荒れになっているかと思いきや、水面は至って普通。

 お母さんドワーフちゃんの言うとおり、船で移動できそうな感じがした。


「とりあえず、船で移動してみますか」

「タイシさんのいうとおり、そうしましょう」

「じゅんびするさ~」


 万が一転覆しても、ライフジャケットがあるから浮きはする。

 お母さんドワーフちゃんは泳ぎが得意だし、ヤナさんは俺が抱えれば良い。

 ひとまず船を使ってみることにした。


「じゅんび、できたさ~」


 やがてゴムボートの準備が出来たので、みんなで乗り込む。

 豪雨が降り注いでいるけど、まあ移動はできる。

 落っこちないよう、気をつけて進もう。


「それでは、行きますか」

「はい」

「いくさ~」


 意気揚々とボートを出発させ、川の流れに身を任せるまま進む。

 たたきつける雨は降っているものの、物凄い強風ではない。時たま突風が吹くくらい。

 一瞬風が和らいだのかと錯覚するが、周辺の木々を見るとばっさばさと揺れている。

 これは……川の上だけ、風がそれなりに弱くなっているのかな?


「なんだか、不思議ですね」

「私たちの森でも、こういうことはありましたね」

「うちらのところも、みずうみのしゅうへんは、わりとあんていしてるさ~」


 風が比較的穏やかになっていることを不思議に思ったけど、ヤナさんとお母さんドワーフちゃんいわく、彼らの居住区では良くあることらしい。

 ……やっぱり、わさわさちゃんはスフィアというか、結界みたいなのを作るぽいな。

 この川も領域だから、わさわさ結界が効いているってことなのかも。


 じゃあ、領域外ではどうなんだろうか。


「森から離れたところや、湖から離れるとどうなっちゃいますか?」

「住み着くのは、難しいですね。水がありませんので」

「あまりはなれすぎると、さむくてだめさ~」


 どうやら領域外では、定住は厳しい感じだね。

 わさわさちゃんは、生きものたちのゆりかごって感じか。

 彼らのおかげで、大勢の生きものが生きてゆけるんだ。


 ……でもなぜ、わさわさちゃんはそんな事をしているのだろうか。

 彼らにメリットがあるのか、それとも違う理由があるのか。

 安定した環境を提供している目的は、何なのだろう?


 あと、なんで俺をびっくりさせようとするのだろうか。

 ほんと謎だ。


「わきゃ。そろそろみずうみさ~」


 色々考え込んでいると、目的地が見えてきた。

 大嵐の深夜、湖に佇む大きな大樹。

 さて、わさわさちゃんはどうしているだろう――。


「わきゃ~! みずうみが、おはなだらけさ~!」

「……心なしか、湖も大きくなってませんかね」

「なってますね……」


 まだ到着していないけど、もうなんか起きているのが分かる。

 湖には蓮のような花がずんどこ咲いていて、記憶にあるより湖もでかくなっていて。

 これもう、明らかに成長している……。


「ほくほくねっこ、たくさんたべられるさ~!」

「あ、これがあの根っこのやつなんだ」

「そうさ~! おさけ、たくさんつくれるさ~!」


 お母さんドワーフちゃんが言うには、ほくほく根っこがあるやつのお花らしい。

 食料というかお酒の材料がたくさん採れるとあって、大喜びしている。

 なんだかんだで、この人もたくましいな。


「……今のところは、被害は出てない感じですかね」


 喜ぶドワーフちゃんを見て、ヤナさんが話しかけてきた。

 今のところは、被害は見当たらないね。


「ええ、むしろ食料が増えたっぽいです」

「あらしがすぎたら、ほくほくおやつ、つくるさ~!」


 俺に続けて、ドワーフちゃんもわきゃわきゃと応える。

 まあ、今の所は良い影響があった感じだ。しかしまだ全部は確認できていない。

 住宅や浴槽とかも確認しないといけないね。


「では、次にお家を見ましょうか」

「ちょっと、しんぱいさ~」

「行きましょう」


 家を確認しようと提案し、二人の同意を得た。

 では、向かおう。


 オールを漕いでツリーハウス群のある場所へ向かう。

 すると――。


「……わきゃ? おうちがみえないさ~!?」


 家があった場所を確認すると……見当たらない。

 まさか!


「もうちょっと、近くに行ってみましょう!」

「ええ!」


 慌てて岸にゴムボートを寄せて、強力なライトで家があった場所を照らす。

 その場所には――木々の枝や葉っぱが覆い被さっていた。


「――あ! 家は無事ですよ! ほら、葉っぱの影に隠れてます!」


 いち早く家の健在を確認したのは、ヤナさんだった。

 そういやエルフって、暗いところでも良く見えるって言ってたっけ。

 さすが森暮らししているだけある。


「わきゃ! ほんとさ~! おうちにはっぱが、おおいかぶさってるさ~!」


 やがてドワーフちゃんも確認出来たのか、指をさしてわきゃわきゃしている。

 よかった、家は存在している。

 ただ、無事かどうかは良くわからない。


「木を登って、細かく確認したいところですが……」


 下から見上げただけでは、細かいところは分からない。

 出来れば、もうちょっと詳しく見たい所だ。


「さすがに危ないですよね」

「やめとくさ~」


 ヤナさんとドワーフちゃんは、止めとこうという意見だ。

 たしかに領域内は風が穏やかとは言え、雨はバンバン降っている。

 ここは安全を取って、下から見上げるだけにしよう。


「ひとまず、全部のお家を下から確認しましょう」

「わかりました」

「てわけするさ~」


 みんなで湖から岸に上がり、それぞれ家のある木の根元へと向かう。

 三人で手分けして、下からライトで照らして確認だ。

 そうして下から見るだけにして、ツリーハウスを全て確認していったけど……。

 全ての家は葉っぱと枝に囲まれ、よく見えなかった。


「……これって、良くある事なのかな?」

「わからないさ~」


 全部の家が隠れているので、不思議になって聞いてみたけど……分からないらしい。

 でも全てがそうなっているのだから、理由はある気がする。


「そもそも、こんなにつよいあらしとか、あっちではなかったさ~」


 続けてお母さんドワーフちゃんがそう言ったけど、どうやらこれほど強い嵐は起きなかったようで。

 嵐の強さとかが、関係しているのかな?


「これは……もしかして……」


 この謎現象に首を傾げていると、ヤナさんがツリーハウスを見上げて考え事をしているようだ。

 何か、気づいたことあるのかな?


「ヤナさん、どうされました?」

「えっとですね……葉っぱとかが、豪雨や強風を遮っているように見えるんです」

「遮っている……つまり、家を守っている感じですか?」

「そんな気がしただけですけどね」


 どうやらヤナさん的には、家に覆い被さった枝や葉っぱが……守りとなっていると。

 そう見えているらしい。


「わきゃ! たしかに、そうみえるさ~!」


 お母さんドワーフちゃんも、はっとした顔になった。

 確かに言われてみれば、そう見えてくる。

 頑丈な枝に大きな葉っぱ。それらが覆い被さり、家まで豪雨と強風が届いていない。

 これは、もしかするともしかする……?


「それが本当なのかは、明日分かるかと思います」


 ヤナさんも確信は持てていないようで、最終的な判断は台風通過後に持ち越しだ。

 まあ、今はちょっと無理だからね。


「あらしがおさまったら、いそいでかくにんするさ~!」

「そうしましょう」


 ヤナさんの意見にみんなで同意して、ひとまず家の見回りは終了だ。

 被害状況は……保留で。


 では次に、浴槽を見てみよう。

 一生懸命作った、しっぽドワーフちゃん憩いの場。

 無事だと良いけど……。


「では次に、浴槽を見ましょう」

「いくさ~!」


 とりあえずツリーハウス群のそばにある、いくつかの浴槽を見回ることに。


「あ~……泥で埋まってますね」

「タイシさん、こっちも埋まってますよ」


 残念ながら、ドワーフちゃんお風呂は泥で埋まっていた。

 水位が結構変動しているようで、いったん水に沈んだっぽい感じだ。


「わきゃ。いつものことさ~」


 しかしお母さんドワーフちゃんは、ケロっとしている。

 いつものことらしいので、予想の範囲内だったようだ。

 お風呂が泥で埋まることは、良くあるのかな?

 聞いてみよう。


「お風呂が埋まるのって、良くあるの?」

「しょっちゅうさ~。みんな、ほじくりだすのは、なれたものさ~」

「そうなんだ」

「あしたは、おふろそうじするさ~」


 デッキブラシを掲げて、気合いを入れるお母さんドワーフちゃんだ。

 でもそれは今必要ないから、しまっておこうね。

 しかし、いつものことなら被害って程でもないか。

 明日はお風呂掃除、頑張って下さいだね。


 ――さて、これで一通り見回った。

 ツリーハウスは被害判定保留だけど、それ以外はおおむね問題なし。

 むしろ、食料が増えて湖も広くなったという結果だ。

 良かった良かった――と、思っていたときのこと。


 いつの間にか風が止んでいて、周囲が不思議な程の静寂に包まれていた。


「……? 風が……」

「なんだか、静かになりましたね」

「あめも、よわまったさ~?」


 突然の静寂に、背中がぞわっとなる。俺の危機管理センサーが、危険を告げていた。

 それは、直感。これから――何かが起きる。

 すぐに周囲を確認すべく耳を澄ますと、遠くで風が唸る……地響きのような音を捉えた。

 

 これは――突風が来る!


「――! 突風が来ます! 伏せて!」

「はい!」

「わきゃー!」


 うずくまった二人が飛ばされないよう、肩を押さえて足を踏ん張る。


 ――直後、猛烈な突風が俺たちを襲った!

 目を開けていられないほどの風に、全員じっとして耐える!


 おっと! 頭に何かぶつかった!

 しかし目を開けられないので、何がぶつかったか良くわからない。

 頭に当たった「それ」はひっついたままだけど、確認すらおぼつかない突風だ。


 そうしてしばらくの間、風に耐えじっと動かずにやり過ごす。

 ……やがて突風は治まり、豪雨の音だけが周囲に響いた。

 なんとか、やり過ごしたようだ。


「……すっごい風でしたね」

「びっくりしたさ~」


 ヤナさんもお母さんドワーフちゃんも無事なようで、突風で雨合羽のフードが外れて頭ボサボサ以外は問題なさそう。


「タイシさんは大丈夫ですか? 枝みたいなのが、頭にくっついてますが」

「……枝ですか?」

「ちっちゃなえだが、くっついてるさ~」


 ヤナさんとお母さんドワーフちゃんに指摘されて、頭に手をやる。

 そこには――小枝が引っ付いていた。さっきぶつかってきたのは、これか。


「タイシさん、お怪我はありませんか?」

「だいじょうぶさ~?」


 突風に飛ばされた枝がぶつかったとあって、二人とも心配そうな顔をする。

 でも大丈夫! 俺は落ちてきた鉄骨が直撃しても、無傷で済んでたからね!

 ちょっとだけ、ほんのちょっと普通より頑丈な、ちたま人なのですよ。


「これ位なら、なんてこと無いですね。無傷ですよ」

「良かったです……」

「あんしんしたさ~」


 元気そうな俺を見て、ほっとするお二人だ。

 心配かけて、すみません。


 とまあ俺の体は大丈夫だから良いとして、問題はこの枝だ。

 この小枝に付いている葉っぱは、見覚えがある。


 ――わさわさちゃんの葉っぱ、だ。


 よくなでなでしていたから、感触で分かるのだ。

 そんなわさわさちゃんの枝が、突風で折れて飛んできた。

 これは……心配だ。


「……ちょっと、わさわさちゃんの木を確認しましょう。この小枝は、あの木の物です」

「それは、心配ですね……」

「いそいで、みにいくさ~!」


 小枝がわさわさちゃんの物であると伝えると、二人ともかなり心配そうな顔になった。

 早いところ安否を確認しよう。何事もなければ、良いのだけど……。


「いくさ~!」

「急ぎましょう!」

「ええ!」


 とりあえず小枝を仕舞って、ゴムボートに飛び乗る。

 すぐさまオールを漕いで、湖中心部のわさわさちゃんツリーへと向かった。

 しかし若干距離があるので、なかなかたどり着かない。

 焦る気持ちを抑えて、安全第一で湖を進む。


「あ! タイシさんあれを見て下さい!」

「わきゃ~! あれはなにさ~!」


 目的地を背にしてオールを漕いでいると、ヤナさんとドワーフちゃんが騒ぎ出した。

 何かが――起きている?


「どうしました!」


 慌てて振り返ると、湖の周辺に生えている熱帯雨林の間に――大樹が見えた。

 そして、湖も。


 これ、これ……湖と大樹が――増えてる!


「――うっわ! 湖が増えてる! 大樹ももう一本あるぞ!」

「おまけに、お花満開ですよ!」

「いつのまに、ふえたさ~!」


 ドワーフの湖が――増えた! ちょっと離れたところに、もう一つ出来てる!

 増殖したでござるよ! いつのまに!


「まさか、増えるとは……」

「大きさはこっちより小さいみたいですが、間違いなく増えてますね」

「こんなの、はじめてみたさ~!」


 まさか大樹や湖が増えるとは思ってもおらず、全員でぽかんとする。

 そんな俺たちをよそに、わさわさちゃんツリーは二本ともお花満開だ。

 ……まあ念のため、さっきの突風被害はないか見ておこう。


 ゴムボートを一本目の大樹に寄せて、様子をうかがうことに。


「わさわさちゃん、さっきの突風は大丈夫だった?」

「――」


 問いかけると、ぽぽんぽんと花が咲く。

 ……問題ないっぽいね。なんだか、元気いっぱいだ。


 ボートをこぎ出して二つ目の湖にある、もう一本の木も確認した。

 そちらも同じように、語りかけたらぽぽんと花が咲いた。どちらも、なんともなかったようで。

 枝が少々折れたところで、へっちゃらなんだね。

 まあ、異世界の環境に根付いて、巨大化するくらいの存在だ。

 ちたまの台風くらいは、物ともしないんだろう。

 というか、増えるくらいだからね。


「なんとも無くて、良かった」

「そうですね」

「よかったさ~」


 わさわさちゃんの無事を確認して、ほっと一安心する俺たち。

 湖が増えたのは気にしない事にして、ひとまず無事を喜ぶ。

 さて、これで全ての場所は見回ったかな?


「……一応予定したところは全部見回ったので、そろそろ戻りましょう」

「そうですね。少し、休憩したいです」

「わりと、つかれたさ~」


 色んな事が起きて、ヤナさんもドワーフちゃんもちょっとお疲れだ。

 集会場に戻って、ハナちゃんの作ったみそ汁を飲んであったまろう。


「では、戻りましょうか」

「はい。そうしましょう」

「いくさ~」


 無線で現状報告をし、集会場へと戻る。

 こうして、見回り第一陣は終了した。


「これをくっつけると、かたこりとれるじゃん?」

「まじで!」

「またまた~」


 集会場へ戻ると、全身に磁石をくっつけたマグネットマイスターがいた。

 ――まだそのネタやってたの!?


「かたこりときいて」

「ほぐさずには、いられない」

「あしつぼ?」

「――え?」


 そしてマイスターはマッチョ三人組に掴まり、別室に連行されていく。

 次の見回りは君たちだから、思う存分ほぐしておくが良いさ。

 体が軽くなる事間違いなし!


「つぎはタイシさんもですよ?」

「みまわり、おつかれですよね?」

「あしつぼん」


 ――ん?



 ◇



 体が軽くなった翌朝、台風一過の日本晴れである。


「被害は、こことここと……」

「まあ、あのヤバイ台風が直撃したにしては、少ない方か」


 被害は、多少は出てしまった。

 ただまあ、すぐに修理できる程度ではある。


「あややややや! すいじばがこわれてるです~!」

「わきゃ~! おみずが~!」

「たいへん! たいへん!」

(きゃ~!)


 そして炊き出しをしようと炊事場に来たハナちゃんたち、パイプが壊れているのを見て大騒ぎしている。

 神輿も何故か慌てていて、くるくる飛び回って……壁にぶつかって落っこちた。


「そんなに慌てなくても、大丈夫ですよ。すぐ直りますから」

(ほんと~?)

「タイシ、ほんとです?」

「ほんとほんと、今直すから見てて」


 落っこちた神輿を抱えて、大丈夫な旨を伝える。

 よく使う施設が壊れたのは始めてだろうから、ちょっと焦っちゃったみたいだね。

 それじゃ、すぐに直して安心をお届けしましょう!


「ここをこうして、取り替えて固定すれば……はい、完成!」

「あや~! なおっちゃったです~!」

(よかった~)


 さくっと修理して、安心させてあげる。

 これで炊事場は復旧だ。


「よかったです~」

「なおったね! なおった!」

「あっさりさ~」


 元通りになった炊事場を見て、みなさんほっと一安心。

 安心して、炊き出しして下さいだね。


「他には、露天風呂に葉っぱとか枝が吹き込んでるな」

「おそうじ、しなきゃだわ~」

「てつだうさ~」


 事前の対策が奏功そうこうしたのか、ほんと被害は軽微だ。

 田んぼも無事、畑はお野菜が多少落っこちたけど回収、家は雨どいが外れただけ。

 大事に至らなくて、ほんと良かった。


「あとは、みずうみがふえたり、ほくほくねっこがふえたさ~」

「わきゃ~! ほくほく、ふえたさ~!?」

「たくさん、たべられるさ~!」

(おそなえもの~!)


 お母さんドワーフちゃんは、仲間に昨日の出来事を報告している。

 湖がもうひとつ増えたり、ほくほく根っこが増えたり。

 神輿も便乗して、お供え物を期待しているあたりたくましい。

 あとでドワーフちゃんたちに、神様へのほくほく料理お供えをお願いしておこう。


「おうちも、だいじょうぶだったさ~」

「よかったさ~」

「さっそく、おうちかえるさ~」


 あ! そうだ!

 家は大丈夫な話をしているけど、もう確認したっぽい。

 どんな様子だったのか、話を聞いておこう。


「お家の方は、大丈夫だったの?」

「もんだいなかったさ~。はっぱも、もとにもどってたさ~」

「え? 葉っぱが元に戻ってたの?」

「そうさ~」


 お母さんドワーフちゃんに確認したところ、家は問題なかったと。

 そして覆い被さっていた葉っぱも元にもどっていた。


「タイシさん。……やっぱりあれは、家を守ってくれてたようですね」

「それっぽいですね」

「たすかったさ~」


 昨日ヤナさんが推測した、あの覆い被さる葉っぱは家を守っているみたいだという話。

 真相は分からないけど、結果からすると当たっている。

 ここは一つ、そう思っておくのが良いかもね。


「あとでお礼に、灰を撒きに行こうか」

「そうするさ~」


 良くわからないけど、なんとかして貰った。

 お礼をして気持ちを伝えておくのは、良いことだろう。


「おっし! それじゃさっさと補修終えるぞ!」

「まかせるじゃん! からだもかるいんで、たくさんはたらけるじゃん!」

「どうぐ、よういしときました」

「いそいで、なおすのだ」


 そんな俺たちをよそに、各々修復作業を進めていく。

 俺は見回り、親父は田んぼに張った縄の回収。

 ちゃっちゃと進めて、日常に戻ろう!


 というわけで、軽く見回りを始めたのだけど……。


「ぴち~」

「ぴちぴち」

「ぴっちぴち~」

「ぴぴぴち~」

「ぴちち」


 エルフの森周辺にある、ワサビちゃん水耕栽培地が大騒ぎだった。

 池にはたくさんの芽ワサビちゃんがはちきれんばかりで、こんもりしている。

 増えすぎですん。


「タイシ~、おにぎりにぎったです――あややや!」

「池からあふれそうですね……」


 後からおにぎりを持ってきてくれたハナちゃんも、これにはビックリ。

 ユキちゃんは、池からあふれ出そうな芽ワサビちゃんに日陰を作ってあげている。

 でも数が多すぎて、焼け石に水な感じ。板切れ一枚では、どうにもならない。

 さて、これをどうしようか……。


「ぴち」

「ぴち~」


 なやんでいると、ちょっと大きめの赤芽ワサビちゃんが――池から出てきた。

 ぴちぴちと飛び跳ねて、元気いっぱいだ。

 でも、外に出てきてどうするんだろう?


「ぴっち~」

「ぴちぴち~」


 と思っていたら、ぴちぴちと葉っぱを揺らしながら――ワサビちゃん畑の方へ移動していった。

 そして――。


「ぴち!」

「あや! つちにもぐったです~!」

「これって……お引っ越しなんですかね?」

「ぴち~」


 どうやら池から卒業して、土に潜るようだ。

 この移動した子たちは、去年発芽した子供ワサビちゃん、なんだろうね。


「……他の子たちは、夜に移動するのかな?」

「ぴち!」

「ぴ~ち」

「ぴちちち」


 ぽつりとつぶやくと、池の中にいる黄、緑、青ワサビちゃんが反応した。


「それっぽいです?」

「ワサビちゃん畑、拡張した方が良いかもですね」

「あとで、小型のトラクターで耕そう」

「ぴち~」


 ちたまで生まれた、第一世代の芽ワサビちゃん。

 新たなる一歩を踏み出すようだ。


「これは、大きく育ちそうだ。LEDライトも増やしておくかな」


 畑の面積を増やしたら、ソーラー式の街灯もたくさん増やさないとね。

 でないと、ワサビちゃんが直訴に来てしまう。


「ぴ!」

「ぴっぴ~!」

「ぴぴぴぴぴぴ!」


 ……LEDライトという言葉に反応したのか、畑からワサビちゃんの手だけがにょきにょき出てきて……バンザイっぽい仕草をする。


「ぴぴ~!」


 ――そこのワサビちゃん! 頭出てるから! 頭!

 日光でぎゃあああ! ってなるから!


 ……頭が出ていたワサビちゃんには、土をかぶせておく。


「ぴっぴ~」


 無事日光防御を果たしたところで、話を元に戻そう。


「ワサビちゃん、たくさん増えそう。おっきく育って欲しいな」

「おっきくなるですよ~」

「元気に育ってね」

「ぴち~」


 みんなでニコニコと話しかけると、子ワサビちゃんもぴちぴちと返事をする。

 いつ頃収穫が出来るか分からないけど、これは楽しみだね。


「美味しく育つのが、楽しみだね」

「たべるの、たのしみです~」

「生姜焼きに加えると、すっごく美味しくなるんですよ」


 俺とハナちゃん、そしてユキちゃんはじゅるりとする。つまり全員だ。

 楽しみだなあ。ユキちゃんの言うとおり、生姜焼きとか良いかもねえ。

 ふふふふふふ。


「ぴ、ぴち~!」

「ぴぴぴち~……」

「……ぴち」


 おや? 子ワサビちゃんの葉っぱがぷるぷる震えだしたぞ。

 どうしたんだろう?

 何か怖いことでも、あったのかな?


遺跡の見回りはしていないことに、誰も気づいていない

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