第一話 仕舞える謎
新章の始まりです
お袋からのビデオレターに、仕舞う様子が映し出された。
どうやら角度が重要とのことで、俺も出来るからやってみろという。
――そんなことを言われたら、挑戦せざるを得ない。
だって俺はいまだに、ボっとなる技能を身につけるために練習するほど諦めの悪い男だからね!
「というわけで、ハナちゃん先生に教わろうと思います」
「あい~! まかせるです~!」
仕舞う講師として、ハナちゃんを先生としてよいしょする。
そうすれば、指導も力が入るという物だ。
「ここは一つ、可愛いハナちゃん先生の、華麗な仕舞う技をお見せ下さい!」
「ぐっふ~!」
しかしよいしょ慣れしていないハナちゃん、即座にぐにゃる。
力が入るどころか、抜けてしまった。作戦失敗だ。
俺は、何を間違えたのだろうか? ああ、空が青いなあ。
「いきなり講義続行不可能になりましたが」
「そういうことも、たまにはあるよね」
「ですかね?」
いきなりダメな展開に、ユキちゃんからつっこみが入った。
でもしょうがないよね。話の流れという物があるわけでして。
まあハナちゃんが復活するのを待ってから、講義を再開しよう!
「おれらもてつだうじゃん?」
「しまうことなら、おまかせ」
「おれのじまんのしまっちゃうかんじ、みせるときがきたのだ」
ぐんにゃりハナちゃんを介抱していると、呼んでもいない方々がえっほえっほと仕舞う取り出すを繰り返す。
好意で見せてくれているので、せっかくだから観察しよう。
「角度が重要とお聞きしましたが」
「ぐふ~」
「そうそう、このへんからこう! がだいじじゃん?」
「ぐふぐふ」
問いかけると、マイスターが微妙な角度で空間をぐいっとする。
その解説に、ハナちゃんもぐふぐふしながら頷いているね。
ただ、俺にはその微妙さがいまいち分からない。
だって不器用ですから。
「こうですかね?」
「もうちょっとかな?」
「ぐふ」
真似てみせると、マッチョさんからも角度についてご指摘が。
ハナちゃんもぐにゃりながら首を傾げたので、違うらしい。
「じゃあこんな感じですか?」
「あ~もうちょっと」
「ぐふ~」
……なかなか難しい。かすりもしない。
おっちゃんエルフも、俺のぶきっちょさに渋い顔。
というか、こんなんで何かが分かるのだろうか?
「端から見ていると、変な踊りですね」
「言わないで」
色んなポーズで角度を探る俺を見て、ユキちゃんからそんなご指摘が。
実はちょっと、自覚あります。
こうなんというか……ついつい体に力が入っちゃうね。
「ぐふ~、ぐふ?」
「こうなの?」
「ぐふ」
ハナちゃんもぐんにゃりしながら、一生懸命教えてくれる。
でもぐんにゃりしているから、角度が分からない。
「まあ、こどものころは、おれらもがんばった」
「コツをつかめば、すぐじゃん?」
「のんびりいこう!」
「ぐふぐふ」
ぶきっちょな俺の特訓に、みなさん一生懸命付き合ってくれる。
ぐふぐふハナちゃんも、ぐんにゃりしながら手本を見せてくれて。
みんなの頑張りに応えるためにも、角度を見つけないとね!
「とう!」
「おしいじゃん!」
「えいやっ!」
「ぐふふ~」
「そぉい!」
「いいかんじ!」
こうして、平和な村に俺の変なかけ声が響いて。
長い長い特訓が、始まったのだった。
◇
『あんたぶきっちょね~。まあ、分かってたけど』
特訓の様子を、ビデオレターとして送った。
お袋からの返答が、これである。
『この辺からここにかけて、ぐいっ! とするのよ、ぐいっと!』
「あや~、ミサキはちょっと、じょうずになったです?」
「そうなの?」
「あい~」
ハナちゃんには、お袋の仕舞う技術向上が感じ取れるようだ。
しかし俺にはさっぱりわからない。
というか、お袋も感覚的な言葉ばかりで、具体的な数字とか言わないわけで。
そんなのわからんですよ。
「ほんとに、大志さんが使えるのですかね?」
「お袋が言うからには、根拠はあるんだろうって思ってる」
ほんとに出来るようになるのかとジト目のユキちゃんだけど、まあお袋が言ってるからね。
その「理由って何?」とも聞いてあるのだけど、お袋はその返答をいつも忘れる。
俺がぶきっちょなのは、お袋の適当遺伝子を受け継いだからという気がしなくも無い。
「まあ、コツコツやっていくよ」
「あい~! コツコツやるですよ~」
練習すれば、出来るようになるはず。
そう信じて、今日も俺は変な踊りとかけ声を披露するのだ。
正直ちょっと、恥ずかしい。
「それじゃあ、今日も元気に練習しようね。ハナちゃん先生、よろしくお願いします!」
「まかせるです~!」
科学的な裏付けもトレーニング法も無い、昭和のスポ魂展開。
とにかく練習して、何かを掴むしか方法がないわけだ。
「じゃあ始めるよ。えぅりぁ!」
「おしいです~」
「もうちょっとかな。とぉう!」
「いいかんじです~!」
手刀を何も無い空間にたたき込むこの虚しさ、分かって頂けるだろうか。
しかし俺はめげずに、空間を探り続ける。
――そんな特訓を始めて、三日後のこと。
「タイシ~、このへん、このへんです~」
「こうかな?」
「そうです~。ハナがおさえるです。ゆっくりやってみるです~」
朝から、ハナちゃんと一緒に特訓をしていた。
今度はハナちゃんが俺の手を持って、角度を微調整してくれる。
小さくて可愛い、ハナちゃんの手。しかし角度は厳守した職人のおてて。
そのサポートを受けながら、ゆっくりと手を差し出してみると――。
――捉えた。
自分の前方に、何も存在しない何かが、存在した。
それはまるで――磁力の抵抗のよう。ごくわずかに、手の軌道を逸らす。
そんな何かを……ついに捉えた!
「ハナちゃん先生! 今何か捉えたよ!」
「それです! それ~! そこがいりぐちです~!」
手に感じた抵抗を逃さず、空間を押し込んでいく。
感覚で分かる。
今俺の手が触れているのは――空間の狭間。
たくさんの境界が、そこには存在していた。まるで編み目のような、磁力線の束のような。
そんな不思議な感触。
「……あ、隙間みたいなのをみつけた」
「やったです~! しまえるところです~!」
やがて空間の狭間に、隙間のような部分を見つけて。
ハナちゃんが言うには、そこが「仕舞える」空間らしい。
では、試しに仕舞ってみよう。なくしちゃっても困らないやつが良いな。
その辺の石で良いか。
「じゃあ、この石を仕舞ってみるね」
「あい~」
石を掴んで、「隙間」へすっと差し入れる。
すると――石がその隙間へ入り込み、そして……消えた。
――やったぞ! ついに「仕舞え」た!
「ハナちゃん先生やったよ! 仕舞えた!」
「タイシ、できたです~!」
ハナちゃんを肩車して、一緒にうっきゃっきゃと大喜びする。
俺もハナちゃんも、テンションMAXだね!
「タイシ、とりだしてみるです~」
「そうだね。取り出す方法も習得しないとね」
さっき仕舞った隙間を探して、また狭間に手を差し入れる。
その間にも、いくつかの隙間を発見して――どこに仕舞ったか分からなくなった。
「あれ? どっか行っちゃったよ」
「あや~、しまってあるところは、ちょっとちがうかんじするです?」
「そうなんだ。探してみるよ」
「あい~」
ハナちゃんを肩車したまま、隙間を探す。
やがて、ちょっと重い感じのするやつを発見した。
この重さは……さっき仕舞った石と、同じ感じだね。
おそらくここに、仕舞ってある。
タネが分かれば話は早い、早速隙間に手を差し込んで。
そこに存在する何かを――つかみ取る。
手を引いて、空間から出してみると……。
「……取り出せた」
「タイシやったです~! これでもう、だいじょぶです~!」
俺の頭上で、ハナちゃんが大はしゃぎだ。
足をぱたぱたさせて、一緒に喜んでくれているね。
いやはや、ハナちゃん先生にはお世話になった。
ほんとうに、ありがとうだ。
「ハナちゃん先生、ありがとう。お礼に、何でも言ってね」
「ぐふ~」
ハナちゃんにお礼を言うと、なぜかぐんにゃりした。
なるほど、軟体化する瞬間って、ほんとに一瞬なんだな。
膝の上に乗ってきたネコが寝転がって一瞬にしてやわらかくなるのと、よく似ている。
「ぐふふふ~。なんでもです~」
すっごい喜ぶハナちゃんだけど、何をお願いされるんだろう?
ま、まあハナちゃんのお願いだから、そんなにとんでもないことにはならないだろう。
そうだと良いな。
◇
「と言うわけで、俺も仕舞えるようになった」
その日のうちに、自宅で高橋さんと親父、そしてユキちゃんに報告した。
「意味が分かんねえよ」
「ようやく、大志の変なかけ声特訓から解放されるのか」
「まさか、大志さんが本当に出来るようになるとは……」
高橋さんは、意味が分からないと言い。
親父は、自宅で特訓する俺の奇行が終わるのを喜び。
そしてユキちゃんは、ぶきっちょな俺がマスターしたのを信じられないような目で見ている。
ふふふふ、実際に見せてあげようじゃあないか。
「ほら、こんな感じ。この辺に、異空間の狭間があるんだ」
「うっわマジだ」
「本当なんだな」
「確かに、仕舞えてますね……」
異空間に湯呑みを放り込むと、みなさん驚きのまなこだ。
はっはっは。特訓の成果、ちゃんと出ましたなあ!
「ちなみに進入角と速度は数値化してあるので、これがあれば数時間でマスター出来るよ」
「そういうとこマメだよな、大志は」
「美咲はその辺、けっこういい加減なんだよな」
俺が用意した資料を見て、高橋さんと親父はふむふむと覗き込む。
「最初からそれがあったら、苦労しなかったですね」
「言わないで」
そうなのだ。お袋が最初からこういった資料を作っていれば、俺はこんなに苦労せずに済んだわけで。
でもまあ、力業とハナちゃんのおかげで、なんとかなった。
良かった良かった。
「試しに、親父もやってみたら?」
「あ~、そこなんだがな。多分大志と美咲しか、出来ないと思うぞ」
「え?」
血縁である親父なら、出来ると思ったのだけど……。
なぜ俺とお袋しか出来ないと、親父は思ったのだろうか。
「美咲が仕舞えると聞いてな、ちっと思い出したことがあるんだよ」
そう言いながら、親父が古文書を持ち出してきた。
これは……うちのご先祖様の、適当日記?
だいたい食事の事しか書いてない、B級グルメレポートだよね。
「美咲と出会ったときに、この資料を読み取ってルーツを解明したわけだが」
「そう言ってたね」
「私も聞きました」
たしか、黒姫にまつわるお話だったな。
謎だった黒姫のお母さんが、野尻あたりの縄文人がルーツとか何とか。
でも、それが仕舞えるのと何の関係あるのだろうか?
「……ほら、ここを見てみろ。黒姫のお袋さんがどういう人か、書いてある」
「えっと……髪の長い美人だったっけ?」
「そう話したな」
「うん、そう聞いたよ」
達筆な上に滲んでいて読みづらいけど、髪が長いと言われたら、そう書いてあるように思える。
どうやらここが、重要な部分らしい。
「実はこの文字、『髪』じゃなくて――『耳』じゃないのかと思うんだよ」
「……耳?」
「達筆な上に文字が滲んでいる。そこに『長いと言ったら髪かな?』という先入観が入って――解釈を間違えたっぽい」
解釈を間違えた? まあ、確かに文字は読みづらい。
何が書いてあるかを前後の文章で、推測するしかないのは確かだ。
「おまけに当時は、エルフの存在を知らなかったわけだからさ。知ったのは、一年と数ヶ月前だ」
「その当時は耳の長い人種がいる事も知らないので、『長いと言ったら髪』と思ってしまうのも無理はないですね」
「黒姫さんは、長くて美しい黒髪が自慢だった、という伝承も勘違いの元だな。お袋さんも同じだと、無意識に繋げてしまった」
親父が解釈ミスの理由を説明して、ユキちゃんが補足した。
でもユキちゃんの耳も結構長いですよ? ふっさふさですよ?
とまあユキちゃんのケモミミはおいといて。
まあそう言われれば、そうかと思う。
女性の容姿で「長い」と書かれたら、俺も「髪」とか頑張っても「手足」を連想してしまう。
ほかには、「まつげ」とか。美人と書いてあるのだから、美しい方面で長いのを連想するね。
それがまさか――「耳が長い」とは、普通思わないよ。
たしかにエルフたちの長い耳は、ぴこぴこして可愛いのだけど。
ちたま人だという先入観があったら、連想は不可能だ。
しかしこの古文書に書いてある、黒姫さんのお母さんの容姿を新解釈すると。
本来の意味は――耳の長い、美人。
それって……。
「もう分かったよな」
「もしかして、黒姫さんのお母さんって……」
「そうだよ。恐らくエルフだ。もっと突っ込んで言えば、黒髪エルフだな」
この文字を「耳の長い」と読めば、確かにその可能性は高まる。
しかし、本当にそうなのだろうか?
おまけに黒髪の、にっぽんじんによく似たエルフは……見たことが無い。
本当に、存在していたのだろうか?
「俺としては疑わしいけど、たったこれだけで判断するの?」
「他にもあるんだよ。黒姫さん自体が、侍女になるのいやがってたろ?」
「日記にはそうあるね。不安がっていたとか」
「それが――耳が長いって身体的特徴のせいだとしたら?」
「――あ」
たしかに、そうも書いてある。不安があったという話が。
「あの当時は、写真なんか無い。その娘の評判だけで、俺の侍女になれと言ったろうさ」
「耳が長いって事も知らずに、呼び寄せようとした……」
「まあ、そんなところだろうな。黒姫さんにとっちゃ、さぞかし迷惑だったろう」
相手は耳が長いことを知らない。大和人に支配された京の都で、エルフが暮らせるわけも無い。
そんな場所へ、迷信深い時代に行ったらどうなるか……。
「実際に行ったら、何をされるか分からないね」
「『鬼』くらいは言われたかもな。角っぽいから」
「そりゃ、嫌がるわけだ。あんな細工をしてまで、逃げたくなるほどの」
「当時は、増幅石でごまかせることも分かっていなかった。まあ、無理だよな」
黒姫さんが嫌がり、竜と戦ってアレしたと工作するほどの事だ。
耳が長いと考えれば、そこまで拒絶した理由もなんとなく分かる。
ひどい目に遭うのが分かっていたんだろうな。だから高梨氏も、それに乗っかったんだ。
そして、大事にしてくれて守ってくれる強い人へと、お嫁さんに出した。
泣かせる話じゃあないか。
「なるほどなあ……」
「私だって、そんなの嫌ですよ。当然ですね」
ユキちゃんが当時の黒姫さんを慮って、同意した。
つまりは、そう言うことか。黒姫さんのお母さんは、エルフで。
そしてその子孫であるお袋は――ちたまエルフの……末裔。
すなわち俺も、ちたまエルフの末裔?
耳も長くなければ、電気を食べることも出来ない。でも、ちょっとは血を受け継いでいると。
「そもそもお前と美咲が仕舞えているんだから、ほぼ間違いないだろ」
「ま、まあそうだね。お袋は元々、うちの家系じゃないからね」
「相当血が薄くなっているのは間違いないが、それでも受け継いだ能力は、あったって事だな」
さっき実演したアレが、一番の証拠だ。言い逃れが出来ない。
お袋は入守家の血が入っていない、外部の人だ。
そのお袋が仕舞えて俺もできるのだから、お袋の家系が持つ能力、ということが分かる。
おそらくお袋の親戚筋でも、鍛えれば仕舞うことが可能になる人、いるかもだ。
「だから俺は、美咲の家系でないと仕舞えないと思っている」
「実際、志郎さん今さんざん試してましたね」
「ユキちゃんに見られてた!」
「俺も見たよ」
「忘れてくれ」
かっこよく決めた親父だけど、内心羨ましかったのね。
俺が見ていない隙に試していたらしい。
バッチリユキちゃんと高橋さんに、目撃されていたようだけど。
「とまあそう言うわけだ。大志、お前と美咲は――多分エルフの血が入っている」
やや恥ずかしそうな感じで、親父はそう言った。
俺が仕舞えるのは、そう言うこと。
お袋が仕舞えるのも、同じ。
親父が出来ないのは、エルフの血が入っていないから。
「もしかしたら、黒髪エルフは……一部こっちに残ったのかも知れないぞ」
「耳が長いことを除けば見た目は俺たちと一緒だから、過ごしやすかったのかも……だね」
「もしかしたらな」
つまり太古の昔に、エルフたちはちたまに居たということがほぼ確定になったわけだ。
それがいまだ出会ったことの無い、黒髪エルフかもしれない。
おまけに何よりの証拠が、ここで麦茶を飲んでいる。
夏はやっぱり、麦茶だね~。
と、油断していたら――。
「――大志さん、宇宙人さん確定ですね。あの子の指摘通り」
「おっふ」
のんきに構えていた俺に、ユキちゃんから宇宙人認定が来た。
いきなりだったので、ちょっと麦茶が気管にこんにちわしたよ!
……しかしこのまま、ちたま外生命体ちゃんで確定されるのは心外である。
まだワンチャンあるはずだ。
「でもでも、ほぼちたま人だよ。僕はちたま人だよ」
「ルーツはちたま外生命体ですよね」
「そう言えなくも無い……」
追い打ちをかけてくるユキちゃんだけど、耳しっぽのある娘さんに追求されると微妙な感じだ。
人のこと言えないのでは?
あれか、巫女ちゃんのつっこみ被害を受けまくっていたから、俺が同類だと確定して嬉しいのかも?
「フフフ……」
ああ、ユキちゃんめっちゃ仲間を見る目をしているよ……。
これ絶対、仲間認定されてる。俺に耳しっぽは無いけどね!
というか、そもそも黒姫さんのダンナがちたま外の人だった。
考えるまでもなく、ご先祖様はちたま外生命体でいらっさる。
いやでも、そこを譲るとネタ的に美味しくない。
とりあえず、ちたまの人と言い張る方針で行こう。
「まあ、その辺はどうでも良いか。ぼくはちたま人だからね」
「どうでも良くないのは分かりました」
「ちたま人だよ。長野県の北ら辺産だよ」
「私も長野県産ですよ。しかも北信」
「仲間だね!」
「ですね!」
若干ヤケ気味の俺とユキちゃん。
どうでも良いことで仲間認定しあってヤケっぱちキャッキャしたけど、このお話はここでおしまいにしよう。
お互いダメージがでかい。戦略的撤退が必要だ。
ここらでさくっと開き直って、仕舞える能力にキャッキャしておこう。
うふふふふ。これで俺も、晴れてマジシャンだからね!
ガテン系からトリックスターへとジョブチェンジだよ!
「……大志がその力、まともに使う気が無いのは何となく分かった」
「まあ、大志だしな」
「ですよね」
みんなして何だよう!
俺そんなに、ネタに走る人に思われているの!?
◇
ここはとある世界の、とある森。
旅に出た平原の人たちの、故郷の森です。
その森では、一人の女性がはしゃいでいました。
『というわけで、お袋も俺も……ちたまエルフの血を引いてるっぽいよ。でもちたま人だね』
「やっぱり! そうなのね! あと、そんなにきょうちょうしなくても、あんたはちたま人だから」
大志から送られてきたビデオレターを見て、美咲は思わずつっこみます。
「でもまあ、かせつはただしかったわね」
そんな大志の悪あがきはおいといて、美咲は自分の考えが当たっていたことで、にっこり笑顔です。
仕舞える能力を発見してから、ずっと考えていた仮説でした。
それがかなりの確度を持つ説とあれば、はしゃぐのも仕方がありません。
「あ~、それってどう言うことですかな?」
「みなさんのごせんぞさまは、わたしたちのせかいに、のこったひともいるってことですね」
「ミサキさんと私たち、遠い親戚かな~?」
「そういえる、かも」
「世の中、結構狭い物ですね」
美咲の家系とエルフは、遠い親戚かも。
そんな話を聞いて、のんびりした感想を持つ平原のお母さんです。
しかし、世の中は狭いと言っても、異世界同士、別の宇宙同士の広さです。
ちょっとスケール、でかすぎですね。
「なんにせよ、これでしらべもの、ぐっとたのしくなりそうだわ!」
「まずは、うちの神様のお話とか、聞きたいのでしたっけ?」
「そうそう! そのおはなしを、くわしくききたいの」
「それでは、族長の所に行きますか」
「おねがいします」
美咲の好奇心から始まった、大志のルーツ。
なにやら、面白いことになっているようですね。
巫女ちゃんが「宇宙人さん!」と言っていたこと、本当だったみたいです。
侮りがたし、ちたまの霊能力者。
最初からあの子は、色々見破っていたのですね。
そりゃあユキちゃんも、耳しっぽを霊視されるというもの。
入守家の繋ぐ縁とは、不思議で不思議で、とっても素敵ですね!
「おさけをてみやげに、じっくりおはなし、ききましょう」
「ばうばう」
美咲は手土産らしいお酒の壺を、フクロオオカミのフクロから取り出しました。
「それって、あの苔から作ったお酒ですよね。族長も喜ぶと思います」
「貴重品ですよ、それ」
どうやらハナちゃんちの、触手酒をお土産にするようですね。
平原のお父さんとお母さん、じゅるりとしながら壺を見ています。
「しかもそのお酒、苔入りかな~?」
「そうなの。いっしょに、おさとうをあげる?」
「そうするかな~」
「あ、私も良いですか?」
「どうぞどうぞ」
美咲が平原の娘ちゃんとお母さんに、氷砂糖を渡しました。
そしてふたを開けると――。
「しゃ!」
「しゃっしゃ~」
触手が生えたマリモみたいな、うねうねちゃんがこんにちは!
お砂糖が貰えると聞いて、嬉しそうにこちらを見ています。
「この貴重な苔を分けてくれるって、ハナちゃんち気前が良いですね」
「すっごくふえたので、つきあいのあるもりに、おすそわけするっていってました」
貴重なうねうねちゃんの元気な姿を見て、平原のお父さんもニッコリ。
ハナちゃんちの触手酒、うねうねちゃんが大増殖していますからね。
里子に出すのも、問題ないようです。
「ハナちゃんちも、ここまで増えるとは思ってなかったみたいね」
「蓋をあけて、びっくりしてたかな~」
「しゃしゃ~」
平原のお母さんと娘ちゃんが、氷砂糖をあげながら当時の様子を思い出しているようですね。
ハナちゃんちでも、予想外に数が増えていたようで。
「へえ……あれほどふえるって、めずらしいのですかね?」
「初めて聞いたかな~」
「……まあ、そのへんもおいおい、しらべていきましょう」
調査項目が増えてしまったようですね。
でもうねうねちゃん増殖法が分かれば、美味しいお酒が沢山造れます。
希少な苔の保護と増殖にもなるので、良いかもですね。
「それでは、おはなしをききに、いきましょうか」
「歓迎しますよ!」
「お祭り、するかな~!」
「盛り上げて行きましょう!」
さてさて、美咲の調査が本格的に始まります。
なにがわかるのかな?
調査結果が出るまで、楽しみに待ちましょう。