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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十八章 エルフ技能
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第十四話 がんばれば、出来るかも


 お酒造りの成功を祝って、飲み会をしている。

 ハナちゃんから美味しいエビ料理が振る舞われ、ほくほくしていたのだけど……。

 ユキちゃんが自信満々に、毒のあるお魚をアレしているわけで。


「あ、大志さんいらっしゃいましたか。とっておきのお魚をお出ししますので、楽しみにしていて下さい」

「え、ええまあ……」


 不安そうに見つめる俺に気づいたのか、ユキちゃんがニッコニコで話しかけてきた。

 とっておきのお魚か。……とっておきの猛毒?


「というか見て下さいよ。絶対大志さん、喜びますから」

「俺が喜ぶ? どう言うこと?」

「このお魚を見れば、わかります」


 ユキちゃんが、ちょいちょいと下に置いてある桶を指さした。

 今捌いているのとは別に、桶の中に捌く前のがいるみたいだね。

 さてさて、毒のあるお魚ちゃん、どんなお姿かな――て、これ!


 ――ウナギだ!


「ユキちゃんこれ! ウナギだよね!」

「そうです。ウナギですよ!」

「なるほどこれは、確かに喜ぶよ」

「ですよね!」


 俺の反応に気をよくしたユキちゃん、耳しっぽをぽふんと顕現だ。

 ことあるごとに正体をばらす、うかつな娘さんだね。

 とまあそれはいつもの事として、そりゃウナギなら喜ぶね。

 というか毒があるのも、ウナギなら普通だし。


「ちたまのウナギと同じで、加熱すると問題無いようです」

「いったんむすと、ふわっふわになるさ~」

「あぶらをおとすと、おいしいさ~」


 なるほど、恐らくこれもドワーフちゃんの湖で漁れるんだろうな。

 話を聞く分には、ゼリー寄せとかの無残な調理方法もしないようだ。

 この辺、ドワーフちゃんはお魚のスペシャリストだけある。


「あとですね、ドワーフさんたち、ウナギ専用の調味料を持っていました」

「専用の調味料?」

「これです」


 ユキちゃんが見せてくれたのは、粉っぽいやつ。

 塩に色々なハーブが混ぜられているようだ。


「もちろんちたまのつけダレも用意してありますが、こちらの調味料もかなり美味しいですよ」

「そりゃあ楽しみだ」

「焼き上がったら持って行きますので、しばしお待ちを」


 ユキちゃんは味を知っているようなので、お任せしよう。

 どんなウナギ料理になるのか、今から楽しみだ。


「あや~、ハナもたべたいです~」

「それじゃあ一緒に食べようね。ユキちゃんのお料理だから、きっと美味しいよ」

「あい~! たのしみです~」


 ウナギとの思わぬ邂逅に、気分はウキウキだ。

 ハナちゃんも七輪でエビちゃんの塩焼きを準備したりしていて、今日は豪勢なおつまみが楽しめそうだね。

 まずは、ハナちゃんの作るエビの塩焼きを楽しんで待つことにしよう。


「さいしょに、したごしらえです~」


 縦に半分こした伊勢エビちゃんに、醸造したお酒と塩胡椒をかける。

 そうして下ごしらえしたエビちゃんを、七輪の網に乗っけて蓋をして。

 じりじりと焼き上がるのを待つ。


「もうすぐ、やけるです~」

「すっごい良い匂いがするね。美味しそうだね」

「あい~」


 エビの焼けるかぐわしい香りを楽しみながら、ハナちゃんと二人でじゅるりと七輪を見守る。

 じりじり、じりじり。完成に近づくにつれ、美味しそうな香りはどんどん強まっていき……。


「できたです~!」


 ハナちゃんぱかっと蓋を取る。

 そこには――じっくりグリルされた、伊勢エビっぽいやつの塩焼きが出来上がっていた。


「しあげです~」


 そこにぱらぱらっと、パセリのようなハーブの粉を振りかけて、出来上がり。

 上手に焼けました~!


「タイシタイシ。はい、あ~んするです~」

「頂きます」


 ハナちゃんが身を取ってくれて、食べさせてくれる。

 さっそく一口食べると――とっても香ばしい!

 ぷりぷりと歯ごたえのある身は、ほのかな塩味のおかげで旨さが引き立って。

 そこに自家醸造のどぶろくの香りと、最後に振りかけたハーブの爽やかさが合わさる。

 旨味ギッシリ、しかし爽やかなエビの塩焼きを楽しんだ。


「いや~これは最高だね! お酒が進むよ!」

「うきゃ~」

「焼き加減も最適で、ハナちゃんさすがお料理上手だね」

「ぐふ~」


 とうとうぐにゃったハナちゃんだけど、これ位は良いよね。

 一生懸命お料理してくれたのだから、褒め倒しちゃうのだ。


「それも美味しそうですね。ハナちゃん、私も頂いちゃって良いかな?」

「どうぞです~」


 ユキちゃんも匂いに釣られたのか、こっちにやってきて一口味見だ。

 今はウナギちゃんを蒸している最中だから、手が空いたんだね。


「あ! これは美味しいですね! ハナちゃんお上手!」

「ぐふふ~」


 ユキちゃんにも褒められて、ハナちゃんさらに軟体化。

 もはや自立は不可能だ。抱えてあげよう。


「ぐふ~、ぐふ~」


 ぐふぐふハナちゃんを抱え上げたら、ふわふわの髪の毛が頬をくすぐった。

 お手入ればっちり、美しい髪の毛だ。本体はぐんにゃりしているけどね。

 とまあそんな和やかな雰囲気を楽しみながら、お酒とお料理も楽しむ。

 今日ものんびりしていて、良い日だね。


「うなぎ、むしあがったさ~」

「そろそろ、やくさ~」

「今行きます。大志さん、もうすぐ出来ますから、楽しみにしていて下さいね」


 やがて、ウナギが蒸し上がったようだ。

 しっぽドワーフちゃんに呼ばれて、ユキちゃんが炊事場に戻っていった。

 さてさて、ドワーフィンのウナギは、どんな味がするのかな?



 ◇



 それは、口の中でとろけるような、広がるような。

 ふわっふわの食感だった。

 身と皮には香ばしい焦げ目がついていて、表面はパリっとしていて。

 でも中はふんわりふわふわ。極上の焼き加減。

 ちたまのウナギによく似た風味を感じると同時に、ドワーフィン特製調味料が彩りを添える。


 この調味料は蒸した後に振りかけられたらしく、身と同じで香ばしい焦げ目がついていて。

 焦げ目のほのかな苦みに、塩味と――ハーブの香り高い味わい。

 ウナギの香草焼きという、今まで経験したことの無い美味がそこにあった。


「おいしいです~!」

「なにこれ、めっちゃうめえ!」

「また、ふとっちゃうわ~!」

「おれのじまんのはっぱのせやきは、ただのはっぱのせだったのだ……」


 ユキちゃん調理の、ドワーフィン特製ウナギの香草焼き。

 ハーブを主体とした味付けをするエルフたちには、特にウケていた。

 香草焼きプロフェッショナルのおっちゃんエルフも、降参する美味しさ。

 正直、ウナギを香草焼きにする発想はなかった。

 ウナギ大好きちたまにっぽんじんは、タレが主体だからね。


「いや~ユキちゃん、これは美味しいよ。正直びっくりだよ」

「ですよね! 私もこのお料理を教わったとき、びっくりしました」

「香草を振りかけるから、焼き加減とか凄く繊細にしないと焦げるよね。そこが凄く上手だよ」

「焼き加減がキモらしくて、みっちり練習しましたよ」

「さすがだ」


 褒められてご機嫌のユキちゃん、またもや耳しっぽを顕現させる。

 なかなか忙しい娘さんだけど、俺としては眼福だ。

 素晴らしいもふもふ、しばらく堪能していよう。


「この調子で胃袋を掴んでいけば、ほぼ完璧……! フフフフフ」


 ……素敵な白い耳しっぽだけど、たまに黒いオーラが出るのは気のせいかな。

 あと、その進捗ノートに描かれる文様も危険な気がするのは気のせいか。

 恐らく気のせいだ。というか気にしたら逆に危ない。

 俺は危機管理に自信があるのだ。

 神秘とは、一定の距離を保ちましょうだね。


(おそなえもの~)


 まあ神輿が俺の頭の上でキャッキャしているけど、一定の距離は保てていますん?

 多分そのはず。そうに違いない。


「まさか、こんなにたくさんのウナギが、村で食べられるとはな」

「村の川にも生息しているけど、とらないようにしているのよね」


 親父とお袋も、まさかのウナギ登場に驚いている。

 たしかに村の川にもそれなりにウナギはいるけど、保護という観点からそっとしている。

 年々数が減っているので、ちょっと心配。

 美味しそうだけど、まあそこは我慢していたわけで……。


「うちらのところだと、よくたべるさ~」

「おせわになってるさ~」


 しかしドワーフィンの湖では、しこたま生息していて。

 ドワーフちゃんたちの、主食の一つらしい。ここは遠慮無く、頂こう。


「お次は、ちたまが磨き上げたウナギの蒲焼きです。どうぞ召し上がれ」

「うっわ! こっちもうめえ!」

「あじがこくて、すごいです~!」

「このタレ、さいこうさ~!」

「おいしいさ~!」


 さらにちたまにっぽん謹製の、蒲焼きも出てきた。

 他のエルフたちもハナちゃんも、その香ばしさと味の濃厚さに夢中。

 大豆加工食品の調味料が大好きなドワーフちゃんとかは、うっとりした顔で蒲焼きをほおばる。

 そして自分たちで作ったお酒をグビグビ飲んでいて、心底楽しそうだ。


「こっちでくらすのも、いいものさ~」

「なかまがたくさんで、たのしいさ~」

「おいしいものたくさん、すばらしいさ~」


 もぐもぐと蒲焼きを食べながら、しっぽドワーフちゃんたちはご機嫌だ。

 ひもじくて寒いあの時期を乗り越えて、ようやくたどり着いたこの村。

 ゆっくりのんびり、溶け込んでいってね。


「あっつあつだね! あっつあつ!」

「ふしぎなたべもの~」

「いがいとおだんごにあう! おだんご!」


 あっちでは、妖精さんたちもウナギの蒲焼きを楽しんでいるけど。

 ……お団子に合うというか、それはウナギ寿司じゃない?

 まるくてちっちゃいおにぎりに、ウナギの蒲焼きを巻いている。

 密かにオリジナル料理を生み出すとは、さすがお団子マスターだ。

 侮れない。


「あ、これうめえ」

「おだんごだよ! どうぞ!」

「ごはんと、よくあうです~」

「いっぱいつくるね! いっぱい!」


 蒲焼きおにぎりは好評のようで、妖精さんたちきゃいきゃいと量産を始めた。

 お酒の試飲だったはずだけど、いつの間にかウナギ祭りになっているような……。


「もいっちょ、やけたさ~」

「ごはんとたべるの、うちらもやるさ~」

「わきゃ~」


 まあ、みんな楽しそうだから良いよね。

 というか、ドワーフの湖ではエビやらウナギやらが年中調達できるわけか。

 ……あのわさわさちゃんに、感謝だね。

 今度また、たくさんの灰を撒きに行こう。


「ただの素焼きも、淡白で美味しいですよ」

「これは日本酒に合うね」

「ふわっふわです~」


 こうしてひょんな事から、エビやらウナギ祭りやらが始まって。

 楽しくお酒造りの祝いを行ったのだった。

 村の食に、ドワーフィンの水産物が加わって。

 ますます豊かな毎日が贈れそうなのは、良いことだね。


「いや~、ここにくると、だいたいなにか、もよおしがありますな」

「たのしいかな~」

「たべすぎちゃいます」


 飛び入り参加で平原のお三方も、楽しそうにウナギをほおばっている。

 塩の交易に来てしばらく滞在していたけど、彼らもそろそろ旅立つだろう。

 その前に、良い思い出になったかな?


「みなさん、ちょっとお話があって……」

「おや、どうしましたかな?」


 そのお三方の所にお袋が歩いていって、なにやら話をしている。

 考えていることがあるって行ってたけど、平原の人絡みの話なのかな?



 ◇



 ――そして翌日。


「私もちょっと、旅に出るわね」

「旅?」

「ええ、調べたいことがあるのよ」


 お袋が、俺と親父にそんなことを話してきた。

 調べたいことがあるから、旅に出る。

 お袋のいつもの癖が出たようだ。


「まあそろそろかと思っていたが、今度はどこに行くんだ?」


 お袋のことを良くわかっている親父、すんなり受け入れる。

 この辺は夫婦だね。まずどこに行くのかを聞いた。

 引き留める気は全くないのが、良くわかる。


 そして、親父の問いかけを聞いたお袋は――。


「私は――エルフィンを旅しようと思っているの」


 そう、答えた。

 エルフィンを旅する、すなわちエルフたちの世界を調べるって事か。


「彼らの文化には、縄文時代の痕跡がたくさんあるわ。そこを調べて、私たちとの共通点を見いだせたらなって思うの」

「そりゃ大変そうだ」

「まあね」


 お袋の考えに、親父は「大変そうだ」と答える。

 俺もそう思うけど、こうなったお袋は止まらない。

 笑顔で、送り出してあげるのが一番だね。

 ただ、どうやって旅するのかは聞いておかないと。


「俺も反対はしないけど、準備とかは大丈夫なの?」

「そこはもうバッチリよ。平原の人たちに話を通してあって、一緒に旅する予定なの」

「なるほど、旅人に付いていけば確実だね」

「でしょ?」


 昨日平原の人たちに話しかけていたのは、その相談だったのか。

 彼らも旅の仲間が増えるのは歓迎だろうから、良いアイディアだ。


「道具も物資も調達してあるし、いざというときはネコちゃん便で連絡も取れるわ。これはもう、旅するしかないわよね!」

「まあ、そうかもな」

「少なくとも、お袋が音信不通になることは避けられるね」


 今までコツコツと積み上げてきた絆は、確かに旅にとっても役立つ。

 あとはもう、お袋のがんばり次第だ。

 元気に旅をして、元気に帰ってきて欲しい。


「いつ頃帰るかは決めていないけど、多分ちょくちょく顔は出すわね」

「平原の人たち、交易でしょっちゅう来るからね」

「そう言う意味でも、うってつけよね」


 年単位で行方不明になると言うことは、この旅では起きないだろう。

 そういう意味でも、安心だ。

 それじゃあ平原の人たちにお袋を託して、送り出してあげよう!


 ――ということで、お袋がエルフィンへと旅立つことになった。


「行ってくるわね!」

「ミサキさんのこと、おまかせください」

「なかまが、ふえたかな~」

「よりいっそう、たびがたのしくなりますね!」


 みんなでお見送りをして、平原のお三方とお袋を送り出す。

 平原のお三方は、旅の仲間が増えるとあって嬉しそうだ。

 あとはお袋がエルフィンの旅を通じて、色々な縁を結んできて欲しい。

 俺たちの知らない森のこと、知らない人たちのこと、知ってきてくれれば。

 もっともっと、エルフたちのことを知る事が出来る。

 土産話が、楽しみだ。


「お袋、旅を楽しんできてね」

「ちょくちょく、顔を出せよな」

「それはもちろんよ」


 親子三人で、にっこりと微笑み合う。離れていても、親子関係は変わらない。

 お袋の旅を応援しつつ、その帰りを楽しみにして。

 今は笑顔で、送り出してあげよう。


「それじゃあ、大志の事は二人に任せるわね」

「いってらっしゃいです~。タイシのことは、まかせるです~!」

「大志さんのこと、私も任されました! ……フフフ」

「お願いね。うちのガテン系息子、なんとかしておいて」

「なんとかって……」


 どうやら俺の事はハナちゃんとユキちゃんに任せたみたいだけど、なんとかするってなんでございましょうか……。

 俺の染みついたガテン系パターンは、そう簡単には治らないよ?

 不可能じゃ無い?


 まあ、それは気にしないことにして。


「それじゃあお袋、行ってらっしゃい」

「美咲、行ってらっしゃい」

「行ってくるわね!」


 俺と親父、そして村のみんなに見送られて……お袋は旅立っていった。

 平原のお三方と一緒に、ウッキウキで。

 またね、お袋。エルフィンを、元気に旅してね。



 ◇



 お酒がたくさんで、酔っ払ってしまいました……。

 ちょっと飲み過ぎたので、量の目減りを疑われましたが、バレていないので問題ないですよね。

 ふふふ、これからもお酒がたくさん。飲み放題!

 とまあ、それはそれとして。

 お酒を飲んでばかりではなく、見守るお仕事もしないといけません。


 ――というわけで。


 ここはとある世界の、とある平原。

 フクロオオカミに揺られながら、のんびりと旅する四人がおりました。


「ミサキさん、調子はどうですか?」

「いいかんじね! やっぱりたびは、たのしいわ!」

「ですよねですよね!」

「旅は、最高かな~」


 何も無い平原を、キャッキャしながら進みます。

 美咲にとっては、見たことも無い世界。知らなかった世界。

 目に入る物全てが珍しく、空に存在する天体も珍しく。

 大はしゃぎしちゃうのも、当然ですね。


「そろそろ泉に到着するので、今日はそこで一晩明かしましょう」


 そんな大はしゃぎする美咲をニコニコと振り返りながら、平原のお父さんが言いました。

 遠くに見える泉を指さして、今日のキャンプ地を決めたみたいですね。


「キャンプね! たのしみだわ!」

「サバ缶で、夕食作るかな~」

「良いわね。そうしましょう」


 それを聞いた美咲を含めた女性陣、反対意見は無いようで、楽しいキャンプを思い浮かべてはしゃぎます。

 缶詰のおかげで、旅の食事もちょっと豪勢になって。

 楽しい夕食になりそうですね。


 やがて一行は目的の泉に到着し、せっせと幕営を開始します。


「はい! できたわよ!」

「ミサキさん、天幕を張るの上手いかな~」

「たびにでたらいつもしていたから、てなれたものなの」

「さすがです!」

「正直、私より上手ですね……」


 持ち前の腕力と器用さで、ちゃっちゃと天幕を張った美咲。

 その手際の良さに、平原のお三方も拍手喝采です。

 ただ平原のお父さんは、見せ場がなくなってちょっとしょんぼり。

 お父さんのお仕事でしたからね。

 そこはまあ……他のことでお父さんの威厳を見せてあげれば良いのでは?


 とまあ寝床の準備は出来たので、お次は楽しい夕食です。


「それじゃ、火を点けるね」

「ライターって、とっても便利かな~」

「これが百円で買えるのは、助かりますね」


 さっそく火起こしをする、平原のお父さん。

 村で買った百円ライターを使って、すぐさま完了です。


 そうして火を起こして、お湯を沸かして、缶詰やアルファ化米を用意して。

 即席の食品が多いですが、お手軽で良いかもですね。

 あっというまに夕食が出来上がり、配膳です。


「ほら、食器を出して」

「お父さん、たっぷり盛って欲しいかな~」

「食べ盛りね」


 お父さんが家族に配膳するようで、にこやかに食器を出す娘ちゃんです。

 食べ盛り育ち盛り、大盛りを希望ですね。


「……いつみても、ふしぎですねそれ」


 そんな様子を見た美咲、何も無い空間から出てきた食器を見つめます。

 大志がつっこんだことにより判明した、エルフたちの空間収納。

 ちたま人である美咲には、まるで手品にしか見えません。

 と言うか実際、こないだ手品として荒稼ぎしましたね。


「そう言えば、ちたまの人たちはこれ、出来ないんでしたっけ」

「そうなんですよ。しょうじき、うらやましいです」

「まあ、これが出来なかったら……旅は大変かな~?」

「歩いて旅をするのは、ちょっと無理かもですね」


 良く旅をする美咲は、エルフたちの空間収納が羨ましいみたいですね。

 確かに、単身で旅をするならこれほど便利な能力はありません。

 なんたって、個人でそれなりの荷物を仕舞っておけるのですから。


「でも、仕舞いすぎるとやっぱり重いですよ」

「フクロオオカミがいないと、長距離は無理かな~」

「油断すると、こぼれたりしますから」

「そこは、ばんのうではないのですね」


 ただ色々制限もあるようで、何でも出来るわけでは無いみたいですね。

 それでも、手荷物を減らせることは大きいようで。

 平原の人たちが旅をするには、必須の能力。

 エルフ世界の交易を、地味に支えているのでした。


「ちなみに、しまうときは……どうされていますか?」

「こうやって……こんな感じで、仕舞うかな~?」

「角度が重要なんですよ。こう……ちょっと下から、ぐいっと」


 美咲の質問に、平原の娘ちゃんとお母さんが実演してくれました。

 どうやら若干のコツはあるようで、角度とかが重要なようです。

 そうですよね。角度は重要ですよね。角度は。

 世の中の全ては、角度を何とかすればだいたい解決します。多分。


「へえ……こんなかんじですか?」

「もうちょっと、もっと浅い角度かな?」

「こうですよ。こうして……ここの下ら辺から、ぐいぐいっと!」


 二人の仕草をマネして、美咲も手をぐいっとやっています。

 ただなかなか難しいようで、娘ちゃんに角度を微調整してもらっていますね。

 しかし、そんな練習をしても無意味では?

 大志だっていまだにこっそり、自宅の庭でボっとなる訓練をしています。

 しかし、一度もボっとなったことはありません。

 親子揃って、諦めの悪い方々ですね。似たもの親子です。


「このへんから、こうですね」

「そうそう! その辺かな~」

「良い感じですよ!」


 そうして無駄な練習を積むこと、なんと一時間。

 夕食を食べながら、美咲は角度を調整して、何もない空間の下ら辺から、ぐいっと!

 空間をぐいぐいました。


 すると――。


「……あら?」


 ――何かが、起きてしまったようです。



 ◇



「ミュミュ~!」

「ネコちゃん、かえってきたです~」

「よしよし、いつもありがとうね」

「ミュ~ン」


 お袋が旅立ってから、三日。

 こちらから飛ばしたネコちゃん便が、元気に帰ってきた。

 さてさて、どんな返信が来たかな?


「大志さん、デジカメです」

「ユキちゃんありがと」


 ネコちゃんをなでなでして果物をあげている間に、ユキちゃんが荷物を取り出してくれた。

 こちらから送ったデジカメに、メッセージを録画してもらってあるはずだ。

 まあ、旅に出て間もない状態での、近況報告だね。

 物資不足や旅先で起きた問題を、こちらで吟味検討して解決する時にも役立つ。

 その予行演習というわけだ。


「お、録画が入っているね」

「見てみましょう」

「ミサキ、げんきしてるですかね~」


 手渡されたデジカメを確認すると、録画ファイルが見つかった。

 多分、お袋からのビデオレターだ。

 早速確認してみよう。再生ボタンを、ぽちっとな。


『……大志、大変よ』


 録画を再生すると、真剣な顔をしたお袋が写っていた。

 大変って言っているけど、もう何か問題が起きたのだろうか。


「……なんだか、深刻そうですが」

「あや~……しんぱいです~」


 その様子を見たユキちゃんとハナちゃんも、表情を硬くする。

 お袋は頑丈で超つおいから、だいたいは力業でなんとかしてしまう。

 そのお袋でも深刻な顔になるほどの、大きな問題が出たっぽいぞ……。

 うわあ、凄い怖い。一体何が起きているのか。


『落ち着いて聞いてね。というか見て。私が手に持っている、缶詰を見て』


 俺たちがぷるぷる震えるのにはお構いなしに、録画は再生されていく。

 今度はお袋が、缶詰を持った右手を構えて、何かを始めた。

 一体何を――。


『――ほら、仕舞えたでしょ』


 と思っていたら、缶詰が……消えた。

 まるで手品のように、空中で。


「……今の、何?」

「缶詰が……消えた?」


 この怪現象に、俺とユキちゃんは固まる。

 今見た映像が、信じられなかった。


「あえ? しまったです?」


 しかし、ハナちゃんの言葉で我に返る。

 そうだ。お袋が見せた不可思議現象は――「仕舞う」現象とそっくりだ……。

 まさか、まさか……。


 手が震え、デジカメの画面も震える。


『もう分かったでしょ。私も――仕舞えるのよ。エルフたちみたいに……』


 そんな震える画面に写るお袋は、今度は缶詰を取り出す。

 何も無い空間から、突然。


 ――なぜ、お袋が「仕舞える」んだ?

 なぜ、お袋……なんだ?


 頭が混乱して、上手く考えられない。

 トリックかと思ったけど、お袋がそんなことをする理由が無い。

 これは――本当の事なのだと、息子としての直感で分かった。


「た、大志さん……」

「あや~、しまうの、まだまだぎこちないです?」


 ユキちゃんも衝撃を受けたようで、俺の腕にすっとしがみついた。

 でもハナちゃんは、仕舞う技術のぎこちなさをのんびりと指摘だ。

 ……エルフから見たら、まだまだ技術はつたないのね。


 しかしなんだこれ、意味が分からない。

 どうしてお袋が「仕舞える」のか、訳が分からない。

 一体これは……。


『大志、角度が重要なの。角度よ』


 画面の中のお袋が、角度が重要と説明する。

 しかし意味が分からない。


『角度が分かってしまえば――空間の存在が、分かるの。コツがあるの』


 そんなことを言われても、俺にはさっぱり分からない。

 一体何の話なんだ?


『あんたも試してみなさい。たぶん――大志も出来るはず』


 そして、お袋はそう続けた。

 俺もエルフたちの持つ技能である――「仕舞う」事が出来る?

 そんなはずは……。


 そんなはずは……無いとも言い切れない。

 だって出来たら――俺も手品出来るじゃん!


 マジックショーのステージ、立てちゃうかもだよ!


「……今、絶対しょうもないこと考えましたね」

「ネタをおもいついたときの、かおです?」


 ちょっ!

 ネタじゃ無いよ! 俺にとっては、重要な事なんだよ!

 ……よーし! お袋の言う「角度」とやらを、見つけてみせようじゃ無いか。


 目指せエルフ技能の――「仕舞う」能力。

 俺も身につけてみせるぞ! マジックしちゃうからね!


「これは確定ですね。ハナちゃん、大志さんしょうもないこと始めるよ」

「あや~、いつものことです?」


 ……二人のツッコミ、切れ味ばつぐんだ。

 その辺で許して下さい。ネタに走るのは、俺のサガなんです……。


これにて今章は終了となります。みなさま、お付き合い頂きありがとうございました。

引き続き、次章もお付き合い頂ければと。


はてさて、なぜ美咲は仕舞うことができるのか。

そしてなぜ、大志も出来ると言えるのか。

エルフ技能の謎や、美咲が出来ることの謎――追求できたら、良いな。

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