第十二話 仕舞って出すだけの簡単なお仕事
現在、巫女ちゃんちの町に来ている。
そしてあの、めっちゃ美味しいラーメン屋さんの駐車場をお借りしております。
ここで何をしているかと言えば――。
「ギニャ」
「クワ~」
「はい! どうぶつたくさんでましたです~!」
「ペンギン! ペンギンが出てきた!」
「キャー!」
広い駐車場の一角を借りて、マジックショーを開催中である。
ちょうどお盆で家族連れが帰省しており、集客が容易。
うってつけの時期に、うってつけのイベントを催すことが出来た。
「おつぎはこれです~! いくですよ~!」
「果物が沢山出てきた!」
「凄え~!」
「ちっちゃな子供なのに、手品が上手ね!」
ハナちゃんもステージに登って、ハナちゃん空間から果物を面白おかしく取り出す。
その鮮やかな手品に見える様子と、ハナちゃんの可愛さに会場は大盛り上がり。
「まだまだ、あるです~!」
「ちょっと多過ぎね?」
「一体どこから……」
「タネが全然分からない!」
「あ! ペンギンちゃんが果物をフクロに仕舞い始めたわ! かわいいい~!」
……ちょっとおしゃれをして、音楽に合わせて物を取り出す。
フクロイヌをくすぐって、動物を出す。ただこれだけで、めっちゃウケちゃう。
タネも仕掛けも無い、ただの神秘だけどね!
「大志さん、席が全部埋まってますよ」
「良い感じにお客さんが集まってるね。これは儲かるぞ」
座席は満員御礼。家族連れや恋人同士、それに学生さんと幅広い客層だ。
実家に帰省した家族連れや、夏休みの学生さんたちって感じ。
みんなイベントに飢えていたんだろうね。
そう言う意味でも、ちょうど良い時期に開催できた。
「大志、次で俺たちは休憩に入るけど、大丈夫か?」
「問題ないよ。親父もお袋も、ゆっくり休んで」
俺たち入守家は裏方で、音楽を鳴らしたり効果音を入れたり。運営全般を担う。
親父とお袋が朝から働いてくれたから、次は俺の番だな。
「じゃあ、これが終わったらラーメン食べてくるわ」
「爺ちゃんと婆ちゃんはあっちで観賞しているから、一緒に食べると良いかも」
「そうするわね」
爺ちゃん婆ちゃんは純粋な招待客なので、のんびり観賞だけど。
そろそろあっちの世界に戻るから、その前に祖父母孝行ってやつだ。
村のお年寄りエルフたちと一緒に、のんびり観客として楽しんでくれている。
敬老も兼ねたイベントになっていて、運営にも力が入るという物だ。
「大志さん、ハナちゃんの番が終わったら、十五分休憩ですよね?」
「そうだね。ユキちゃんはその次に出番があるから、ゆっくり休んでね」
「わかりました」
ちなみにユキちゃんも運営管理側だけど、マジックの合間に進行役としてマイクをもってアナウンス役もしている。
おまけにアナウンス役だけでは無く、一つのショーも受け持つ。
かなり忙しい役割なので、この催しが終わったら接待しないといけないな。
明らかに、一番働いている偉い娘さんだ。若いって良いなあ。
『こちらヤナ。釣り銭が切れました。補充お願いします』
そうして慌ただしく催しの進行を管理していると、無線が入った。ヤナさんからだ。
ヤナさんとカナさんは、入場チケットを販売するお仕事をしている。
どうやら釣り銭切れを起こしたようだから、急いでもっていってあげよう。
「こちら大志、釣り銭持って直ぐに向かいます」
『こちらヤナ、了解しました。お願いします』
急いで各種硬貨の束を持ち、チケット売り場へ向かう。
売り場では、ずらっと行列が出来ていた。
並んでいるお客さんたちは、わくわくした表情でキャッキャしている。
早いところ入場してもらって、ショーを堪能してもらおう。
「ヤナさん、釣り銭を持ってきました」
「お呼び立てして申し訳ないです。助かりました」
すぐさま釣り銭を渡して、事なきを得た。
忙しくチケット販売の仕事を再開するヤナさんとカナさんを横目に、俺は持ち場へ戻る。
その道すがら、他にも働いている村人たちをチラ見だ。
「はい、こちらにならんでください」
「チケットは、あちらではんばいしてます」
「ちゅうしゃじょう、こっちがあいてますよ」
会場警備員はマイスターやマッチョさんで、メカ好きさんは駐車誘導員を担当だ。
隠し村住人連合で、この興業を運営しているわけだね。
みんなの力を合わせて、イベントはつつがなく進行出来ている。
「わたしたちも、てじなできるとか、すてき」
「かっこいいところ、みせるわ~」
道すがら、ステキさんと腕グキさんが目に入る。
どうやら、人目のつかないところで出し物の練習をしているようだ。
「わたしらも、おもしろいものみせなきゃね」
「がんばるの」
ちなみに村の女性陣はほとんどステージに上がるので、人材は豊富。
上手いことローテーションを回して、頻繁にショーを開催だ。
そしてそのステージと言えば……。
「ここ、ちっと補強しとくか」
「てつだいます」
「まかせるのだ」
ステージは、高橋さんとマッチョさん、そしておっちゃんエルフの三人が主体となって設営してくれた。
開催中も小まめに見回り、微調整を加えている。
このステージ自体は、それほどきらびやかなものでは無い。
準備期間がそれほど無かったので、簡易的な物に留めてある。
でも間近で不思議な手品を見られるとあって、意外とこれが好評だった。
「おつぎは、くだものをけすですよ~。――えい!」
「マジで消えた!」
「タネが全く分からないぞ!」
その証拠に、ステージで華麗に芸を見せるハナちゃんを、観客のみなさん驚きのまなこで見てくれている。
間近で繰り広げられる、物が瞬間的に出たり消えたりする現象。
本当に異空間に仕舞っていることを知らなければ、驚きのマジックに大変身だ。
「あい~! これでさいごです~!」
やがて、ハナちゃんが四つの果物をお手玉しながら仕舞うという芸を見せてくれた。
四つあったのが、三つになり、二つになり、一つになり……全て消えて。
ジャグリングと手品を合わせたような、素敵な芸だ。
裏方の俺も、見ていて楽しい。
「みなさま、どうもありがとうございましたです~」
「楽しかったよ! ありがとう!」
「子供マジシャン、可愛い~!」
「キャー!」
大技を決めたハナちゃん、うふうふ笑顔でステージを降りて控え室へ入っていった。
観客のみなさんも、拍手喝采だ。
町のみんなに喜んで貰えて、今のところは好感触だね。
「は~い、ラーメン一丁!」
「餃子お待たせしました!」
そしてこのマジックショー、ラーメンやらお料理を食べながら鑑賞できる。
食べ物を注文しなくても、飲物やアイスはだいたい注文されるので、けっこう良い売り上げになっている感触だ。
稼ぎ時ということで、ラーメン屋さんの若夫婦も額に汗しながら一生懸命働いている。
お互い、この機会に沢山稼いでしまいましょうだ。
「タイシ~! ハナ、じょうずにできたです~!」
そうしているうちに、控え室からハナちゃんがぽててっと出てきた。
観客が喜んでくれたのが嬉しかったのか、すっごいキャッキャしている。
ほめてほめて光線が出ているので、もちろん褒めちゃおう。
「ハナちゃんお疲れ。素敵な出し物だったよ!」
「ぐふ~」
一瞬でぐにゃった。
……まあ次の番までには二時間ほどあるので、大丈夫だよね。
それまでに復活してもらおう。
「は~いみなさん、次の出し物の準備をしていますので、しばらくお待ち下さい」
ぐにゃったハナちゃんを抱え上げていると、ユキちゃんのアナウンスが入った。
催しもちょっとの間休憩だね。十五分ほどお休みしてから、次のステージを開始だ。
この間に、飲物でも飲んでおくかな?
せっかくだからハナちゃんとユキちゃんの分も用意して、一緒に休もう。
「ハナちゃんユキちゃん、一緒にジュースでも飲みながら休憩しよう」
「あい~!」
「ありがとうございます」
ステージ裏に降りてきたユキちゃんに、飲物を渡す。
ハナちゃんにもジュースを渡して、みんなで休憩だ。
「わきゃ、すずしいかぜを、おくるさ~」
「おつかれさ~」
汗を拭きながら飲物を飲んでいると、しっぽドワーフちゃんがスポットクーラー的に冷風を送ってくれた。
扇風機の後ろで、冷たい空気を作ってくれている。
この子たちのおかげで、野外での催しも涼しく過ごせちゃう。
密かに観客席やステージ、それに控え室を冷却してもらっているので、真夏の日中でもひんやり爽やかだ。
「すずしいです~」
「みんな、ありがとうね」
「とっても助かってます」
ひんやりドワーフちゃんたちのおかげで、暑さに参ること無く俺たちもお客さんも過ごせている。
縁の下の力持ち、重要な役割だね。
「わきゃ~、ほめられちゃったさ~」
「これくらいなら、なんてことないさ~」
ハナちゃんや俺、そしてユキちゃんにお礼を言われてまんざらでもない感じ。
しっぽをピクピクさせて、照れっ照れドワーフちゃんだね。
引き続き、冷却のお仕事お願いしますだ。
「ドワーフさんたちが冷やしてくれるおかげで、ステージ上でも暑くないのが助かります」
「おめかししているから、ほんとうならあついです~」
なにより冷却の恩恵に預かっているのは、ステージ上の人たちだね。
ユキちゃんもハナちゃんも、目一杯おしゃれな服を着ているだけに、本当ならかなり暑いだろう。
……というか、これもミッションだよな。褒めておかないといけない。
「ユキちゃんの衣装、よく似合っていて可愛いね。大人っぽいよ」
ユキちゃんの衣装は、青を主体としたフィッシュテールドレスだ。
裾にはレースがあしらってあり、シックにまとめている。
そのドレスがお化粧をした童顔と合わさって、すごくミステリアスな雰囲気。
ちなみに貸衣装である。
「フ、フフフフ……。大人っぽい」
正直に褒めたら、ユキちゃんが耳しっぽを「ぽふん」と顕現させた。
隠しておこうね。霊能力者なら見えるレベルで出ちゃってる。
ミステリアスな雰囲気じゃなくて、ほんとに神秘になってるから。
「タイシ~?」
そしてユキちゃんを褒めたら、ハナちゃんからプレッシャーが。
もちろん褒めますとも。
ハナちゃんの衣装は、布が何重にも重なったふわふわスカートの白いドレス。
これも貸衣装である。
「ハナちゃんも、似合っていて可愛いよ。ふわふわスカートが素敵だね」
「ぐふふ~」
ハナちゃんより一層ぐにゃって、自立不可能になった。
見事な軟体化ですな。
「フフフフ……」
「ぐふふ~」
これで無事ミッションコンプリート。
ご機嫌耳しっぽさんと、ぐんにゃりハナちゃんの出来上がりだ。
とまあ、一つの仕事を終えて。
メインの仕事であるマジックショーについては、思いの外上手いこと運営出来ている。
思いつきでやったのだけど、午後に入ってからかなりの客足だ。
今年は猛暑や豪雨で色んなイベントが中止になったりしている中、こんなイベントを開催したからってのもあるかもね。
「マジックショー、思った以上にウケてますね」
「だいにんきです~!」
ユキちゃんとハナちゃんも、客の入りをみてニッコニコだ。
ハナちゃんは純粋に、誰かに喜んで貰えるのが嬉しい感じ。
なんにせよ、二人ともウッキウキだ。
「これだけのお客さんが入っていると言うことは、私のアルバイト代も……フフフ」
ユキちゃんは、バイト代の入りを予想して……曇り無き澄んだまなこになっている。
お金の魔力にやられる、もふもふさんなのであった。
大人だからね。しょうがないよね。
「まあ経費をさっ引いても、かなりの利益はでるから……ふっふっふ」
「大志さん、悪い顔になってますよ」
「どんよりです?」
――おっと、俺も大人だからしょうが無いのですよ。
ここのところ出費の多い出来事が連続したので、収入が多い出来事が起きたら曇り無き澄んだまなこになるのも無理は無い。
そう、無理は無いのだ。
「でも、私はてっきり……物を運ぶ方向で活用するのかなって思ってました」
「自分も、ちらっとは考えたけどね。てっとり早いから」
「ですよね」
ユキちゃんのご指摘通り、収納空間による物資輸送はすぐに思いついた。
ただそれでお金を稼ぐのは、ちょっと厳しかったのだ。
「でも物資を運ぶには……結局エルフたちを移動させないといけないよね」
「それは、そうですね」
「そうすると、あっちに連れ回し、こっちに連れ回しで……疲れちゃうよね。効率も良くない」
例えばヤナさんが家一軒分の物資を収納できるのだとしても、それを運ぶにはヤナさん自体を運ばないといけない。
重い物を仕舞うときついのに、ぱんぱんに物を詰め込んで長距離を移動させる。
それはかわいそうだ。
しかもそこまでしても、大して儲からない。
物流というのは、一件あたりの単価は低いわけで。
それを大量にこなして、ようやく儲けが出る。
結局の所、トラックを使ってプロにお願いしたほうが……全体のサービスは良くなるね。
いくら収納が出来ても、いくら大量の物資があったとしても……運べなければ活用範囲は狭くなる。
今現在は、個人が自分のために活用するのが、限界というわけだ。
ちたまで物流活動できて稼げる程の力は、今の俺たちには無い。
そうして無理をするよりも、もっと良い事、あったわけだ。
「それよりも、もっと楽しくて誰かに喜んで貰えること、あったなって思い出してさ」
「妖精さんたちがバレそうになったとき、ごまかしでやった大道芸ですね」
「あれは大いにウケた。……なら、それで良いかなって」
以前このラーメン屋さんで昼食を食べようとしたとき、妖精さんが増幅石をつけ忘れていた。
おかげで通行人にバレて、ユキちゃんが大道芸のふりをしてごまかしてくれて。
あのときの、観客の笑顔と……妖精さんたちの楽しそうな様子を思い出したのだ。
「凄い力は、何か実用的な事に使わなければいけない……なんてルールは無いからね」
「大道芸に使っても、それで人が喜んでくれるなら……」
「そうそう、凄いことをやる必要は無いよ。手の届く範囲で、小さな事が出来れば良い」
収納空間という凄い能力を、簡単な手品に使う。
全くもってその能力がもつ潜在的な可能性を、掘り起こしてはいない。
だけど……たくさんの笑顔は得られた。
なら、それで良い。
「それに、こっちの方が――儲かるからね!」
「ですね!」
「あや~……わるいおとなが、ふたりいるです~」
美味しいラーメンに楽しいマジックショー。
初日にして、もうかなり儲かっております。ぐっふっふっふ。
そうしてユキちゃんと悪い顔をして、ハナちゃんにつっこまれて。
楽しく休憩をしたところで。
「ユキちゃん、そろそろ時間だよ」
「あ、もうこんな時間ですか」
「ユキ、じゅんびするです~」
あと五分で休憩時間は終わりだ。
次の出し物の準備もあるので、この辺にしておこう。
「つぎはわたしたちだね! わたしたち!」
「じゅんびはできてるよ! できてるよ!」
お次の出し物は、妖精さんマジックショーだ。
ユキちゃんが人形師の役を演じて、妖精さんたちがあれこれする。
「では、行ってきますね!」
「行ってらっしゃい。自分もそろそろ準備するよ」
「タイシとユキ、がんばるです~」
ハナちゃんに見送って貰いながら、俺はステージ脇へ移動する。
ユキちゃんは妖精さんと控え室に入っていったから、あとは出番を待つのみだね。
そして数分後――。
「はい! お次のマジックは――お人形を使ったマジックです!」
「よろしくね! よろしくね!」
「おにんぎょうさんだよ! そういうことになってるよ!」
ユキちゃんがマイクを片手に、ステージへと上がる。
サクラちゃんとイトカワちゃんも、ユキちゃんの肩に乗って登場だ。
俺はそれに合わせて、それっぽい音楽を流す。
「キャー! 妖精さんたちだ! がんばって~!」
「あれ? あの子たち……前に家に来なかったっけ?」
「お人形さん? なのよね?」
「……」
観客席には、巫女ちゃん一家と護衛君が最前列で見てくれている。
当然、彼らも招待してあるわけですな。
妖精さんが出てきたとあって、巫女ちゃんのテンション最高潮だ。
ただ、巫女ちゃんのご両親は混乱しているけど……。
加工増幅石の効果でごまかしてはいるけど、矛盾は感じるようだ。
まあその辺、あまり気にしないで頂けたらと。
(みんな、がんばって~)
そしてなぜか神輿も、巫女ちゃんと一緒のテーブルでキャッキャしている。
神様は観客として参加だけど、フリーダムに楽しんでいるようで。
お菓子を売って稼いだお金を使い、アイスとか買っているね……。
もうなんか、普通にお客さんとして過ごしてらっしゃる。
……あとで、神様にお小遣いをあげておこう。そうすれば、もっと楽しめるかな?
とまあ巫女ちゃん一家や護衛君、その他町の人々と神輿に見守られながら。
妖精さんたちとユキちゃんによる、マジックショーが始まる。
「お人形さんたち、木の実をひとつ、下さいな」
「どうぞ! どうぞ!」
「たくさんあるよ! た~くさん!」
「え、ええ……?」
ユキちゃんが木の実をひとつちょうだいというと、妖精さんたちは十数個手渡す。
妖精さんたち、いきなりアドリブしちゃうの?
それ、打ち合わせに無かったよ!
「ひとつじゃ無いよ!」
「すっごい出てきた!」
「いきなりネタから入るのね!」
しかし巫女ちゃんのつっこみのおかげで、ネタとして認識された。
ありがとう巫女ちゃん!
「こ、こんどは二つ、くださいな」
「そういわずに、たくさんあるよ! たくさん!」
「おきもち~」
「え、ええまあ……」
めげずにシナリオを守ろうとするユキちゃんだけど、また大量に出てきた……。
妖精さん二人とも、打ち合わせを完全に忘れてらっしゃる。
「漫才みたいに、話が通じてないな」
「本当に生きているみたい」
「マジで、本物じゃないの?」
まあ、その予測不能さがなんだかウケている。
もう完全に、シナリオを放り投げてアドリブのみだからね。
正直、俺もどうなるか……もうわからない。
「おだんごもあげるね! おだんご!」
「え?」
「おいしいよ! せいこうしたやつだよ!」
「ええ?」
ユキちゃんがお団子に埋もれ始めたけど、俺にはどうすることも出来ない。
せめて音楽をかっこいい風からコミカルな曲風に変えて、コントを演出しておこう。
ほい、てててれ~んと。
(おそなえもの?)
「かみさまもどうぞ! どうぞ!」
「おすそわけ~」
(やたー!)
ああ! 神輿がステージに乱入した!
音楽! 音楽をまた変えないと! もっとコミカルなやつ!
なんとか誤魔化すんだ!
「あら、飛び入り参加かしら」
「元気な子ね」
「光ってる子供?」
観客のみなさん、神輿の飛び入りで大盛り上がり。
見る間に消えるお団子を見て、これも出し物の一つと思ったらしい。
もう、なるようにな~れ!
……UFO関係の音楽とか、用意しとけば良かったかな?
――――。
――こうしてお盆期間中、収納空間を活用したカオスなマジックショーを行った。
タネも仕掛けもない、本物の神秘。
手品と銘打ってはいるけれど、手品では不可能な芸を繰り広げて。
そんなショーが話題にならないわけも無く、大賑わいとなった。
というか本物の神様とかも出演していたので、神秘の大盤振る舞いだったね……。
そして当然すっごい儲かったので、顔がにやけちゃいますなあ。
「大志さん、儲かりましたね!」
「そうだねユキちゃん。良い感じに儲かったね!」
曇り無きまなこで、売り上げを集計する俺とユキちゃん。
「あや~……、どんよりまなこです~」
その清らかな瞳はまるで、これから雷雨が降ろうかというような空模様と同じ色だったらしい。
いや、これはあれなんだ。
あれだよ。
◇
――そして三日後。
「ラーメン、おいしかったです~」
「たべほうだいとか、すてき」
「ふとっちゃうわ~」
マジックショーを終えて、打ち上げも終える。
働いたみんなにねぎらいの意味も込めて、ラーメン屋さんのお料理食べ放題の打ち上げを行った。
あと腕グキさん、おふと――は手遅れですよ。もう既にです。
「やべえほど、うまかった」
「めっちゃくったな」
「うごけない」
「うちらも、うごけないさ~……」
「たべすぎたね! たべすぎ!」
(ごちそうおそなえもの~)
これから減量生活が待っている人はさておき、他にも食べ過ぎた人もいるようだ。
でも、たまには良いよね。
とっても楽しい打ち上げになったので、みんな満足そうな顔。
みんな、三日間ありがとう。
喜ぶみんなの様子を見てほくほくしていると、ラーメン屋さん夫婦がやってきた。
突然の申し出をこころよく受け入れてくれた、今回のイベント開催における真の功労者だ。
「今回はありがとうございます。また、何かあったらご連絡頂ければと」
「うちのお店も繁盛して、助かりました」
しかし二人も打ち上げ参加者のはずなんだけど、結局働きっぱなし。
埋め合わせにまた今度、俺のおごりで飲み会でもしよう。
一泊二日の温泉旅行にお誘いして、夕食は子猫亭でパーっと打ち上げするのも良いかもだね。
あのお店の料理を食べれば、二人には良い刺激にもなると思う。
労いと勉強を兼ねた、一石二鳥の旅行に出来たら良いかもだ。
「正直、今月は売り上げを……もうちょっと増やしたかったものでして……」
「何とかなって、本当に良かったです……」
ほくほくとラーメン屋さん労い計画を考えていると、二人はホっとした様子でそう言った。
今回相当な売り上げを出したはずだけど、若夫婦の顔色は冴えない。
どうもお店を出すに当たってかなり借金をしたらしく、今回のイベントでようやく埋め合わせが出来たっぽい感じだ。
それが打ち上げでもずっと働きっぱなしで、少しでも稼ごうという行動に繋がっていると見た。
あれだけ繁盛していても、借金の返済は大変。
それは、この店の広さと設備、駐車場の広さを見てもなんとなく分かる。
かなりコストをかけて、お店を作ったようだ。
なにせ俺たちのイベントを開催しても、ぜんぜん余裕のある程の敷地なのだから。
……俺たちは助かったけど、正直お店の規模がでかすぎる感は否めない。
初期投資にお金をかけすぎたんだな。
それが借金の額となって、二人にのしかかっているわけだ。
…………。
債権者さんたちだって、永遠に待てるわけじゃ無い。
もしちょっとでもバランスが崩れれば、あまりよろしくない未来が想像出来る。
若夫婦もかなり無理している感があるので、そっち方面でもよろしくない。
このまま放置しておけば、良くない予想は現実となる可能性が高いと思われる。
働き過ぎはいずれ……体調不良として返ってくる。そうなれば、お店を休まないといけない。
そうしたきっかけ一つで、ギリギリで保っていた均衡は崩れてしまう。
余裕がないと言うことは、そういうことだ。これはよろしくない感じがする。
……このお店、うちが買い取った方が良いのかも。そうすれば、時間的余裕は確保出来る。
子猫亭と違って、こっちはあまり時間が無い。
ちょっと強引だけど、他の誰かに取られるくらいなら……うちが買いたい。
そうして二人にはもうちょっと、のんびり経営してもらいたいな。
余裕を持って、ラーメンの美味しさをもっと追求して欲しい。
それが結果的には、大きな利益となって返ってくると俺は確信している。
――よし! 親父と相談して方針を固めよう!
まだどうなるかは決まっていないけど、親父も反対はしないと思う。
だって、夢中になってラーメン食べてたからね。
あとは、村で営んでいる事業の税金対策にもなる。
大物を購入して、じわじわ減価償却していけば……上手いこと数年は赤字にできちゃう。
去年払った法人税も、戻ってくるね。メリットは多いな。
「あ~。お二人とはその……長いお付き合いをお願いするかもですね」
「はい?」
「ああいえ、そのうち分かります」
さてさて、お店の方はあとで方針を出すから、これくらいにしよう。
残るは……。
「妖精さんたち、すごかったよ! 可愛かった~」
「かわいいって! かわいいって!」
「きゃい~!」
妖精さんたちと大はしゃぎしている、巫女ちゃんだね。
この三日間、妖精さんたちと一緒に過ごせてご機嫌だ。
でも、そろそろお別れなわけで……。
「妖精さんたち、今日も一緒に寝ようね!」
「そうだね! そうだね!」
「なかよし~」
(なかまにいれて~)
あ、ああ……言い出しづらい……。
特に謎の声も参加希望なので、余計言い出しづらいわけで……。
「タイシ、どうするです?」
「どうしよう?」
「これは……難しいですね」
巫女ちゃんと妖精さんたち、そして神輿の仲良しグループ。
今日のパジャマパーティーの話で、なんだか大盛り上がりだ。
ほんと、どうしよう……。
――結局、村に帰るのは翌日にしました。
たまにしか会えないのだから、これくらいは良いよね。




