第九話 変な遺跡
「うねうねちゃん、今日も元気だね」
「しゃ~」
あれから三日、醸造は順調だ。
今日はハナちゃんちに来て、うねうね触手酒ちゃんの様子を確認だ。
「はい、お砂糖だよ」
「しゃ!」
確認がてらに角砂糖をあげると、触手が「しゃっ」と出てきて持って行く。
そのあと土器がゴトゴトと揺れるので、土器の中でお砂糖を食べているんだろう。
「すくすく、そだってるです~」
「これはこれは、美味しいお酒になるのが間違いなしですね!」
ハナちゃんとヤナさんも、元気なうねうねちゃんの様子を見て嬉しそうだ。
みんなでコツコツとお世話しているから、愛着もわくというもの。
うねうねちゃんも人に懐いているので、なかなか可愛らしい。
でもこれ、「醸造」じゃなくて「飼育」ではないかな?
「……大志さん。私思ったのですけど、これは醸造とは違うのではないでしょうか?」
「その点については、自分も今考えていたところ。定義が難しいところだね」
「ですかね?」
ユキちゃんも同じ事を考えたようだけど、ほんと難しいところだよね。
これは醸造なのか、それとも飼育なのか。
俺には判断がつかない。
「……大本は苔なのですよね? これ」
「エルフたちが言うには、そうらしいけど」
みんな苔って言ってたから、そうだろうとは思う。
念のため確認してみるか。
「ねえハナちゃん、これって苔なんだよね」
「そうです~。うごくコケです~」
「……動くんだ」
「あい~」
エルフの森には、動く植物が結構あるな……。
ワサビちゃんにクラゲちゃんに、このうねうねちゃん。
彼らはほんとに植物なのか怪しいところだけど、分類は難しい。
ちたまにはいない生きものだから、判断基準がないんだよね。
というか……そもそも大本の環境である、わさわさちゃんが動き回ってたな。
……気にしないことにしよう。
「なんにせよ、お酒造りは順調ですね」
「おりょうりにつかうの、たのしみです~」
葛藤する俺をよそに、ヤナさんが元気なうねうねちゃんを見て、ニコニコとそう言った。
ハナちゃんも、お酒の完成を楽しみにしているようで。
……まあエルフたちにとってはなじみ深い技法らしいので、それで良いか。
あんまり考え込んだところで、なんも分からないからね。
細かいことは考えず、うねうねちゃんを育てていこう。
「元気いっぱい、すくすく育ってね」
「しゃ~」
声をかけると、うねねっとお返事をしてくれる。
不思議な生きもの、うねうねちゃん。
お酒造り、頑張って。
「しゃしゃ~」
「あや~、おどってるです~」
……元気があるのは、良いことだね。
◇
ハナちゃんちにある触手酒のお世話も大事だけど、遺跡のお酒もお世話しないといけない。
まめなお手入れが、お酒の出来具合を大きく左右する。
「ばうばう」
「オオカミさん、ありがとです~」
「ばう~」
というわけで、フクロオオカミ便に乗って遺跡へとやってきた。
まだ三日目だから、醸造は道半ばだ。
コツコツやっていこう。
「ギニ~」
「ニア~」
そして移動途中に、フクロイヌもついて来ちゃった。
人が大勢移動するのを見て、遊んで貰えると思ったらしい。
……まあ、暇を見て構ってあげよう。
上目遣いで遊んで光線を出すもんだから、抗えない。
「ほら、くすぐっちゃうぞ~」
「ギニ~」
「ニア~」
誘惑に負けてこちょこちょすると、二匹とも大喜びだ。
かわいいなあ。
「おれはこっちをみるじゃん」
「じゃあおれあっち」
「そっちは、おれにまかせるのだ」
と遊んでいるうちに、マイスターとマッチョさん、おっちゃんエルフはお酒を確認し始めた。
フクロイヌと遊ぶのはこの辺にして、俺も仕事をしよう。
「また遊んであげるから、ちょっと待っててね」
「ギニギニ」
「ニア」
フクロイヌたちにそう伝えると、おとなしく隅っこに行ってお昼寝を始めた。
良い子たちだね。
さて、他の方々も移動中なので、もうちょっとしたら到着する。
俺たちは俺たちで、先に作業を始めよう。
「それじゃ自分は、こっちを攪拌するね」
「私もお手伝いします」
「ハナも、てつだうです~」
そうしてみんなで、仕込み中のお酒を混ぜたり蓋を緩めたりする。
見た感じは、カビも生えてこず順調な感じだ。
(おさけ~、どうかな~)
「さ~て、おしごとするわよ~」
「いま、どんなかんじなのかしら」
「うちらも、きょうみあるさ~」
やがて他の方々もやってきて、遺跡は一気に賑やかになった。
こっちのお仕事は終わったから、どぶろくのほうを手伝おう。
「みなさん、私もお手伝いしますよ」
(ありがと~)
「たすかるわ~」
「なんたって、たくさんあるものね~」
今度は女性陣に混じって、どぶろくを混ぜる作業を始める。
麹が一生懸命お仕事をしているので、お米はドロドロに溶けているね。
「わ~、こんなんなるのね~」
「おもしろいわ~」
(ふしぎ~)
他のみなさんもキャッキャと攪拌して、お酒になる過程を楽しんでいる。
これも立派な、日本文化学習ってことになるのかな?
なんにせよ、楽しんで貰えているならそれに越したことは無い。
引き続き手間をかけて、美味しいお酒に仕上げていこう。
……あ、そうそう。どぶろくは今の状態でも飲めるんだよね。
子供の頃、親父が良く飲ませてくれた。
この状態だと飲むヨーグルトっぽくて、けっこう美味しいのだ。
みんなに教えてあげよう。
「みなさん、どぶろくはこの状態でも飲めますよ。まだお酒にはなっていないので、お子さんでも飲めます」
(ほんと!)
「え? のめちゃうの?」
「ほんとかしら」
飲めると聞いて、神輿はぴっかぴかに光った。
他の奥様方も、半信半疑ながら興味はあるようだ。
どぶろくの瓶を覗き込んだりしている。
「あえ? ハナでものめるです?」
「ちょっと癖はあるけど、慣れると美味しいよ」
「あや~、きょうみあるです~」
ハナちゃんも興味が出たようで、エルフ耳をぴこっとさせた。
ちょっとだけ、味見してみようかな?
「それじゃちょっと、味見してみよう」
「あい~」
ハナちゃんがどこからか木のコップを取り出したので、ちょいっと注いであげる。
言い出したのは俺だから、まず俺自身が飲んで実証してあげよう。
「では、頂きます」
「どうぞです~」
ひとくち含むと、ちょっとの酸味とまろやかな甘みが舌の上で踊る。
結構さっぱりしていて、どろっとはしているのだけどするっと飲めてしまう。
ほんとこれ、飲むヨーグルトによく似ている。
酸っぱすぎないので、子供でも全然大丈夫だね。
「うん、美味しく出来てる。ハナちゃんも飲んでみて」
「あい~」
ハナちゃんにコップを渡すと、うきゃって感じで一口飲んだ。
さてさて、お口に合ったかな?
「あや! おもってたより、ずっとのみやすいです~」
どうやらお口に合ったようで、キャッキャと喜んでいる。
良かった良かった。
「ほんとなの? どれどれ……あ! おいしいわ!」
「わたしも、ためしてみよ。あら、いけるわ」
「うちも、ためすさ~」
他のみなさんもハナちゃんの様子を見て、次々に試飲していく。
反応は上々だね。
どぶろく作りはこう言った製造途中も楽しめるから面白い、と親父は言っていた。
その気持ち、今なら分かるよ。
(いける~)
神様も試したようで、神輿がくるくると回ってはしゃいでいた。
ぞんぶんに、お酒造りを楽しんでいるね。
これ、神様の良い趣味になるかもだ。
「へ~、おこめのおさけって、おもしろいな~」
「おれらもこんど、しこんでみようぜ」
「それはいいかもなのだ」
エルフワイン担当者たちも、興味が出たようだ。
次に仕込むことがあったら、やってみるのも良いかもしれないね。
「私はお酒をあまり飲みませんが、これは美味しいですね」
「でしょ? これはこれでお勧めだよ」
ユキちゃんも味見したようで、ちょっとビックリしているね。
まさか製造途中のものが美味しいとは、思っていなかったようだ。
「大志さん、これってこの状態のままには出来ないのですか?」
そして気に入ったのか、ここで発酵を止められないか聞いてきた。
まあ、出来なくは無い。
「この状態で火入れすれば、発酵はそこで止まるよ」
「あ、出来るんですね」
「うちの親父は、ここで発酵を止めたやつも作ってたからね」
具体的に何℃で何分かは知らないけど、親父はそれをやっていた。
あとで聞いておくのも良いかもだな。
でもまあ、ここにあるのはお酒にしてしまおう。
どぶろくヨーグルトは、また造れば良い。
「今仕込んでいるのはお酒にしちゃって、発酵三日目のやつはまた作ろう」
「それがいいですね!」
「ハナも、それつくりたいです~」
どぶろくヨーグルトはまた作ろうと言うと、ユキちゃんとハナちゃんが盛り上がった。
ぶっちゃけ、今日家に帰った後に作っても良い。
麹はまだあるし、簡単にできるからね。
とまあ、お酒造りは今のところ順調だ。
これは完成が楽しみだね。
(これはこれで、おいし~)
謎の声もどぶろくヨーグルトは気に入ったようで、うきうきしている。
……でも、あんまり飲み過ぎたら、完成品のお酒が減りますよ。
となりの部屋に置いてあるやつも、たまにピカッと光って仕込み中のどぶろくが減っているわけで。
ほどほどにね、ほどほどに。
◇
仕込み中のお酒を世話するお仕事は、問題なく終了。
さてこれから村に帰って、ハナちゃんやフクロイヌと遊んだりしようかと思ったときのこと。
「大志さん、せっかく遺跡に来たのですから、古代文字とか解読するのも良いかもですよ?」
荷物をまとめていたら、ユキちゃんからそんな提案があった。
……確かにそうだ。遺跡まで足を運んでいるのに、そのまま帰るのはもったいない。
ちょうど神様もいることだし、古代文字をちまちま解読しようかな。
「それは良い考えだね。ちょっと神様にお願いしてみるよ」
「せっかくですからね」
物のついでだから、そんなにガチで解読するわけじゃない。
かる~くやってみて、感触を掴もう。
さてさて、神様は……と、いたいた。元気に飛んでらっしゃる。
早速お願いしてみよう。
「神様、これからちょっと遺跡の文字を読みますので、翻訳をお願いしてもよろしいでしょうか」
(いいとも~)
「いいらしいです~」
「助かります。ハナちゃんも、通訳ありがとう」
「うふ~」
謎の声は、元気に承諾だ。神輿もぴこぴこ光って、やる気十分だね。
ハナちゃんも元気に通訳してくれて、二人ともキャッキャしている。
それじゃあ、ユキちゃんに読み上げて貰おう。
「じゃあユキちゃん、始めようか」
「はい」
そうして、とりあえずお酒が置いてある部屋の文字を読み始める。
何が書いてあるかはまだわからないから、目についたものを適当にだ。
すると――。
“倉庫は綺麗に掃除しましょう”
“指差し確認、安全第一”
“物を積むときは、しっかり固定が原則です”
“つり上げた荷物の下には、絶対入らないように”
“水は限りある資源です。大事につかいましょう”
等々、訓示っぽい文言が書いてあった。
これって……。
「ここは、倉庫って事かな?」
「書いてある文字からすると、そうですね」
「あや~、おさけをおいておくのに、ぴったりです~」
この部屋に書いてある文言は、まさにそれを示していた。
ここは――倉庫。
思いっきりそう書いてあるから、間違い無いのだろう。
「結構安全に気を配っていたっぽいね」
「でもこの遺跡、数千年前の物ですよね? 当時、こんな安全意識ってあったのですか?」
「正直分からない。ただ、普通じゃ無い感じはする」
ユキちゃんが感じた疑問は、確かに気になるところではある。
数千年前にこんなにシステム化された安全確認手順が、あっただろうかと。
そこも疑問だけど、もっとおかしいところもある。
俺が一番引っかかったのは――。
「なんで、『水は限りある資源』ってフレーズが沢山書いてあるんだろう」
「いくつもありますよね」
そう、水を大事にしろってフレーズが、いくつも書いてある。
しかも、水質を守れって意味じゃあ無い。
限りある資源に続いて「節約」とか「回収」とかいう文言がよく見られた。
これって――おかしいのでは?
「このあたりは、太古の昔から水は豊富だったんだ。水量も水質も、どちらも優れているのはうちの記録にも残っている」
雨量は少ない地域だけど、渇水は一度も無い。
地下水が豊富なので、その辺に井戸を掘ればそれで間に合う。
おまけに川もあるし池だってある。源流だって沢山だ。
なのに、この遺跡では水が貴重品だった形跡がある。
「この辺の水が使えない問題でも、あったのかな?」
「そもそも、太古の昔に水のリサイクルっぽいことをしているのが、まずおかしいですよね」
ユキちゃんが指摘した、リサイクルってのも確かにおかしい。
ここでそんなことをする必要は無いはずだ。
というか、どうやってリサイクルしていたのかって話もある。
一体何だろう、この遺跡は……。なんか変な感じだ。
「良くわからないな……。もうちょっと、解読を進めてみるかな」
「そうですね」
「あや~、むつかしいおなはし、してるです~」
なやむ俺とユキちゃんはさておき、ハナちゃんは話題について来れない。
その辺は申し訳ないけど、俺たちも分かっていないから説明のしようがない。
どうしたもんかな……。
「ギニギニ」
「ニア~」
となやんでいたら、お昼寝していたフクロイヌ夫婦が、遊んで欲しそうな目でやってきた。
ちょうど良いので、ハナちゃんと遊んでいて貰おう。
「ハナちゃん、フクロイヌと遊んできたら? 自分たちはもうちょっと作業をするから」
「わかったです~。タイシ、おしごとがんばってです~」
「相手出来なくてごめんね。村に帰ったら、また一緒に遊ぼうよ」
「あい~! おうちでいっしょに、あそぶです~」
帰ったら遊ぶ約束をすると、ハナちゃんご機嫌だ。
バンザイするような仕草で、ご機嫌だよって全身で表現している。
エルフ耳もぴこぴこしていて、可愛らしいね。
「それじゃあそぶです~。くすぐっちゃうですよ~!」
「ギニ~」
「ニア~」
フクロイヌと遊び始めたハナちゃんを横目に、ペンライトで壁を照らしながら文字を探す。
何か他に、手がかりになるフレーズ無いかなあ……。
「だいたいは、安全確認とか清掃とかの訓示だね」
「それが大事だったみたいですね」
しかし、それ以外にこれといったフレーズは見つからない。
最初に見つけた、環境を安全に保つ訓示がほとんどだった。
まあここは倉庫だったらしいから、気をつけるのは当然だよね。
わりと現代だと当たり前のことが書いてあるけど、太古の昔に実現していたのは凄いかも。
「壁に書いてある訓示、結構見習うところがあるな」
「そういえば、大志さん倉庫業務とかもしてましたね」
「あれは大変だった……」
ユキちゃんの言うとおり、この間まで倉庫業務をやっていた。
でも俺は倉庫業務素人なので、結構苦労したわけで。
その経験からすると、これらの訓示は大変参考になるね。
時代が変わっても、気をつけなきゃいけないことは変わらないって事か。
「あそうそう、倉庫業務と言えば、アルバイトさんってどうなりました? 子猫亭に紹介するって言ってましたよね」
倉庫の話題が出たからか、ユキちゃんがバイトちゃんについて聞いてきた。
子猫亭に紹介するってお話、覚えていたんだね。
今どうなっているか教えておこう。
「もう働いてもらってるよ。週に二日くらいのシフトで様子を見ているっぽいけど」
「週二でなんとかなるのですか?」
「まったくなってない」
バイトちゃんが本格参戦していないので、子猫亭は相変わらずオーバーワークになっている。
なんで子猫亭に全力投入していないかといえば……。
「最近水害で道路工事が多いから、助っ人頼まれちゃったんだって」
「あ~確かに」
「工事関係者と物流関係者、もうてんてこ舞いだって」
「大変そうですね……」
バイトちゃん、道路工事経験あるからひっぱりだこって話だ。
……うら若き女子だけど、けっこうガテン系だね。
親しみ沸くな~。
ちなみに高橋さんもてんてこ舞だ。建築のお仕事がドバっと来てヒーヒー言ってる。
こないだ増幅石をうちから沢山借りて、建築リザードマンを動員してたね。
今頃どこかで、橋の補修工事でもしているんじゃないかと思う。
「でも、私たちも気をつけないといけませんね」
「台風も来そうだから、また消防団を招集しないといけないかな」
そしてうちの村だって、他人事では無い。
エルフの森が大雨を吸収しちゃうので、水害は抑えられているけど……。
「村に来る途中の県道がやられたら、結構困っちゃうよね」
「そうですね……」
村が無事でも、領域外の町や道が無事だとは限らない。
台風が来たらまた村に泊まりがけで、ヤナさんたちと待機したほうが良いな。
これはまた、計画を立てないと。
「またその辺、計画しよう」
「わかりました」
そんな雑談をしつつも、二人で壁に刻まれた文字を調べていく。
しかし、もう大体この部屋の文字は調べてしまった。
安全確認の訓示や清掃の注意がほとんどで、特に新しい情報は見つからない。
……これで打ち止めかな?
「大志さん! ここにも文字がありますよ!」
もう無いかなと思っていたら、ユキちゃんが隣の部屋に続く入口の脇で手招きした。
そういえばあっちはまだ見てなかったな。
ちょっと確認してみよう。
「ほら、ここです。ここ」
「確かに、何か書いてあるね」
ユキちゃんが指さした入口の脇には、確かに何か書いてある。
これもちょっと、読み上げてもらおう。
「これ、読んでみてくれるかな?」
「わかりました、どれどれ……」
ユキちゃんがペンライトで文字を照らし、読み上げる。
そこに書いてあった文言とは――。
“空間有袋類くすぐり部屋”
――と、書いてあった。
「……なんぞこれ」
「なんですかね」
あまりの意味不明さに、俺とユキちゃんは二人で首をかしげる。
ほんと、何これ?
「……有袋類はまだわかるとして、なんで『空間』って付いてるんだろう?」
「そもそも、昔の日本に有袋類っていましたっけ?」
「すくなくとも、縄文時代にはいなかったはず。多分だけど」
というか、「くすぐり部屋」って何だよって話で。
くすぐっちゃうの?
「こちらが倉庫で、あちらは『くすぐり部屋』っぽいですね」
「楽しそうなお部屋だ」
そんな部屋を専用で用意する必要が、あるのかどうかは分からないけど。
でもまあ、そう言う部屋なんだろう。
なんかの有袋類を、くすぐる。
ほんと、意味不明……ん? 待てよ。
――有袋類?
「もっと、くすぐっちゃうです~!」
「ギニギニ~」
「ニア~」
あっちの方では、ハナちゃんがフクロイヌ夫婦をくすぐり倒している。
……フクロイヌ。謎の有袋類だ。
これは――まさか、と思った瞬間。
「ギニ~」
「あややややー! なんかフクロから、いっぱいでてきたです~!」
フクロからなんか――丸っこいのが沢山出てきた!
ハナちゃんくすぐりすぎたんだ!
「ニア?」
ああああ! こっちのフクロイヌからも!
白い丸いやつが沢山出てきた!
「……あえ? みたことない、いきものです?」
「?」
「キキ!」
出てきた丸っこいのは、ぴろっと広がってもぞもぞ動き始めた。
……この子たち、見たことないぞ?
また新たな生き物が、出て来たっぽい。
「あえ~? なんかたくさん、でてきたです~!」
大慌てのハナちゃん、「あえ~? あえ~?」と右往左往する。
予想外の事態に、混乱しているね。
まあそれはそれで、大変なんだけど……。
「……大志さん、私思ったんですけど」
「奇遇だね、俺も多分同じ事を思った」
ユキちゃんが、「空間有袋類くすぐり部屋」と書いてある文字と、フクロイヌたちを交互に見る。
俺も釣られて交互に見る。
「大志さん、まさか『空間有袋類』って――」
「――フクロイヌ、のことじゃないかと……俺も思ってる」
「ギニ?」
「ニア~?」
新たな生き物をまろび出させた、二匹の黒いやつ。フクロイヌ。
この謎の生き物が、「空間有袋類」なのだとしたら……。
――なぜ、この遺跡に記述があるのだろう。
彼らはエルフと同じく、太古の日本に住んでいたかもしれない?
それとも、この遺跡と何か関わり合いのある生き物なのだろうか。
興味は尽きないところだ。
でもまあ、それはそれとして。
「この沢山の生き物たち……どうしよう?」
細かいことを調べる前に、まずこの子たちをなんとかしないと。
「どうするです~?」
「どうしますかね?」
ハナちゃんとユキちゃんは、出てきた生き物たちを見て、手をワキワキさせている。
……構いたいんだね。その気持ちはわかる。
「?」
「キキ~?」
だって――可愛いやつがすっごい沢山いるからね!
しかしこれで、また村が賑やかになりそうだ。
ひとまず村に連れて帰って、食べ物をあげてみよう。
さてさて、この子たちは何を食べるのかな?