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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十八章 エルフ技能
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第八話 天使の取り分


 ひとまずお酒造りを開始したけど、仕込みの段階なのでとても地味だ。


「ハナ、まず果物を潰そうね」

「あい~」


 ハナちゃんとヤナさんが、仲良く果物を潰し始めている。

 結構根気のいる作業のようで、額に汗しながらんしょんしょとお仕事だ。


「おれもはじめよ」

「おいしいおさけ、つくるじゃん」

「おれのじまんのおさけ、こまかいしごとが、じゅうようなのだ」


 他のエルフたちも、えいやっと果物を色々しはじめた。

 同じく、時間がかかりそうだね。

 他の人たちはどうかな?


「うちらも、すりおろすさ~」

「じみな、さぎょうさ~」


 しっぽドワーフちゃんのほうに目をやると、すり鉢みたいなのでなんかの塊を、ごりごりとすり下ろしている。

 ……見たこと無い植物だな。


「ねえ、それは何をすり下ろしているの?」

「これは、ほくほくねっこさ~」

「みずうみで、とれるやつさ~」


 ほくほく根っこ、湖で採れるやつ。

 これはドワーフちゃんたちが、主食にしていた植物ってやつだな。


「それが例のやつなんだ」

「そうさ~」

「すりおろしたあと、これをいれてにこむと、あまいやつになるさ~」


 さらに続けて見せてくれたのは、芽がちょっとだけでた何かのちいさな種。

 麦みたいなやつだな。

 この酵素を使って、デンプンを糖化するってことか。

 なるほど、いわゆるじゃがいも酒みたいなものだな。


「こっちのお酒の造り方と、そんなに違わないね」

「そうなのさ~?」

「そうなんだよ。だから、みんなの技法を応用して、こっちの素材で新しいお酒とかも出来るかもね」

「わきゃ~、それはそのうち、ためしたいさ~」


 しっぽドワーフちゃんたちが、麦芽っぽいやつで糖化する技法があるのならば。

 この村で、ビールとか作れちゃうかもしれないな。

 ドワーフビールとか、面白そうだ。


「そのうちになるけど、温泉上がりでみんなが飲んだ、あの苦いやつとかを作るのも良いかもだよ」

「それはぜひとも、ためしたいさ~」


 しっぽドワーフちゃんたちも、温泉上がりの冷えたビールは大好きになっている。

 機会を見て、ビール醸造を試してみよう。


「わきゃ~、わきゃ~」

「おさけのしゅるい、ふやせそうさ~」


 ビール醸造が出来るかもと聞いて、しっぽドワーフちゃんたちはわっきゃわきゃだ。

 今やっているほくほく根っこ酒の仕込みも、心なしかペースが上がっている。

 この子たちは問題なくお仕事出来ているようだから、他の人たちも見てみよう。

 妖精さんの作業場所に、ちょっとお邪魔してみるかな。


「あま~いおさけ! あまいやつ!」

「たくさんつくりましょ~」


 妖精さんたちの仕込みは、なんだか簡単そうだ。

 木の実の容器に花の蜜を入れて、花びらを一枚入れる。

 そしたら蓋をしておしまい、みたいな感じだ。

 ああしてほっとけば、どっかにいる酵母が色々してくれるんだろう。


「君たちのは、それでおしまいなの?」

「そうだよ! そうだよ!」

「ろっかいくらいねむると、おさけになってるよ! おさけ!」


 めっちゃ簡単に出来ちゃう、妖精酒だね。

 もともと糖分を使うから、糖化という前段階の仕込みが無い。

 そりゃあ、簡単にできるという物か。


「たくさんつくるからね! おすそわけするよ! おすそわけ!」

「それは楽しみだね。出来たら、教えてね」

「おしえるよ! おしえるよ!」


 そう言いながら、おびただしい量の木の実容器が出てくる。

 ……これ全部に仕込んだら、かなりの量になりそうだ。


「おてつだいするよ! おてつだい!」

「きゃい~」


 さらには村の妖精きんぐだむから、お手伝い妖精さんも集まってくる。

 ……あっという間に、目算で千人くらいが作業を始めたわけだが。

 これ、とんでもない量のお酒が、出来てしまうのでは……。


「きゃい?」

「おうさま! どしたの? どしたの?」

「おだんごあげる! おだんご!」


 ……お団子貰っちゃった。

 妖精さんマスプロダクションを見てふるえていたら、心配をかけてしまったようだ。

 もうこの辺は、成り行きに任せよう。

 というか、もはや俺では制御不可能だ。なるようにな~れ。


「みんなありがとね、お団子美味しくできてるよ」

「ほめれられちゃった! ほめられちゃった!」

「きゃい~きゃい~」


 心配してくれた妖精さんたちにお礼を言い、その場を離れる。

 まあ見た感じ、お酒造りは独自にやっていたからか、みんな手慣れているね。

 そんなに難しいお酒を造るわけでもないようだ。

 手堅い醸造法を選択して、確実に作ろうって意識が見えるね。


「あ、大志さん。見回り終わりました?」


 そうして他のみんなの様子を見終わったのを見計らってか、ユキちゃんが声をかけてきた。


「終わったかな。みんな手堅い技法を選択しているみたいだ」

「私はお酒造りは良くわからないのですけど、手順は簡単そうですね」

「量を造る方を優先しているみたいだね」


 ワーキャーと仕込みをしているみんなを見て、ユキちゃんも同じ感想を持ったようだ。

 今回は量産が目的だから、みなさん趣旨に沿ってくれている感じだね。

 意外と、俺の方針をちゃんと聞いてくれている。


 さてさて、みんなは問題ないから、俺もお酒を仕込もうかな。


「それじゃ、俺も負けじとお酒を仕込もう」

「ちなみに大志さん、ワインとかラム酒ってどう造るのですか?」


 準備を始めると、ユキちゃんが俺の造るお酒について聞いてきた。

 ふふふ……よくぞ聞いてくれました。

 それでは、ワインとラム酒の作り方をお教えしましょう!


「えっとね、まずワインは……果汁百パーセントのぶどうジュースを用意します」

「はい」

「そこに、この裏ルートから手に入れた酵母を入れて、おしまい」

「はい?」


 実はイースト菌でも出来るけど、出来上がったお酒はパンの匂いがしてしまう。

 なので酵母はちゃんとしたやつを、ちょっとしたツテから手に入れた。

 醸造免許がないと手に入らないやつだから、けっこうガチな物が出来る予感。


「裏ルートというのは気になりますが……それで終わりですか?」

「終わりだね。後はほっとけば、一週間くらいで勝手にスパークリングワインができるよ」

「ええ……?」


 あまりに簡単過ぎて、ユキちゃんあっけにとられている。

 でもお酒造りって、こんなんだよ。酵母はちょっと特別だけどね。

 親父が「酒造りするならまかせろ」とかいってどっかから調達してきた。

 普通無理なはずだけど、どうやったんだろうね。


 まあ、それはそれとして。

 お次はラム酒に取りかかろう。


「ちなみにラム酒も、この砂糖水に酵母を入れておしまい」

「もう終わり……」


 あとは保管に気をつけて、酢酸菌とかが増殖しないようにすれば良いだけ。

 事前の消毒と、保管が重要だね。


「糖分と酵母があれば、お酒って簡単にできちゃうんだよ」

「そう言う物ですか」

「コツはあるけどね」


 まあ、密造酒は造ったら税務署の人に怒られるからね。

 普通は酒造の経験なんてないわけで、ユキちゃんがその簡単さに驚くのも無理は無い。

 でも、ちょっと分量や消毒にコツがあって、その当たりを知らないと上手に出来ない。

 この辺は、どぶろく造りに一家言ある親父のアドバイスあってこそだ。


「ちなみにイチゴ大福だってメロンだって、ほっときゃアルコールができちゃうよ。ピリっとするやつ、たまにあるでしょ?」

「――あのピリピリって、アルコールだったんですか!?」

「そうそう、あれはアルコールが出来た結果なんだよ」


 こんな具合に、実は簡単にできちゃうのがアルコールだ。

 まあ実際、アルコールを造ってくれるのは、ちっちゃな酵母ちゃんだけど。

 俺たちは、切っ掛けを与えているに過ぎない。


「ほら、他のみんなも、実は同じ手順だよ。自分は素材加工をサボっただけで」

「そういえば、そうですね」


 果物もほくほく根っこも、花の蜜だって一緒。

 酵母が分解しやすいよう、下準備をしているわけだ。


「それじゃ、お酒にしてくれるやつを入れるよ」

「あい~」


 ほら、ハナちゃんたちが造っているお酒だって、今から酵母みたいなのを入れる。

 基本はどこも、一緒だ……ね?


「……大志さん、あれ、光ってません?」

「奇遇だね、俺も光ってるように見える」


 ヤナさんが取り出した「何か」は、すっごく光ってる。

 ……なんだ、あれ?


「ヤナさん。それって一体……」

「ああこれですか? 果物とかの汁にこれを入れると、『ゴゴゴガッ』って感じでお酒になるこけですよ」

「ゴゴゴガッ?」


 嫌な予感がして、たまらない。

 というか擬音が変だ。なにその「ゴゴゴガッ」て。

 苔を使って醸造するってのも、俺は知らない。


「いれるです~」


 ――あ、ハナちゃんまって! 凄い嫌な予感するから!

 まって――!


「――えい」


 その瞬間、閃光と共に――土器が「ゴゴゴガッ」と、揺れた。

 動いた! 動いたぞ土器が!


「あとは、五日ほど置いておけば良いですね」

「きょうのは、いいかんじにゆれたです~」

「……さようで」


 なんてこと無い風なヤナさんとハナちゃんだけど、土器はまだ「ゴガッ」とか言って、たまに揺れている。

 お酒を造っているんだよね?

 違う物造ってないよね?


「しゃっ!」


 ――うっわ! 今なんか土器から触手っぽいやつが出た!

 うっわ!


「あや~、げんきがいいです~」

「これは、美味しいお酒が出来そうだ」


 ええ……。

 土器からたまに「しゃっ!」と出てくる触手を見て、ハナちゃんとヤナさんにっこにこだぞ?

 明らかに危険な感じがするけど、ほんと大丈夫なのそれ?


「あっちのは、やばそうなかんじがするさ~」

「ちがうもの、そだててないさ~?」

「きけんだね! たちいりきんしだね!」

「いやなよかんがするやつ~」


 俺の感覚は正しいようで、しっぽドワーフちゃんも妖精さんも、けっこう引いている。

 だよね、そうなるよね。


「あえ? みんなどうしたです?」

「この揺れ具合だと、美味しいお酒になりますよ。楽しみにしていて下さい」

「え、ええまあ……」


 引いているみんなをよそに、ハナちゃんとヤナさんはうっきうきだ。

 現時点で、もう完成品の品質がある程度推測出来るらしい。

 その基準が、揺れ具合ってのがいまいち理解できないけど……。


 しかし他のエルフたちも、同じ苔? 触手? を使った技法なのかな?


「あ、そのコケ、めったにみつからないやつじゃん!」

「いいな~」

「あれがあれば、しっぱいしないのだ……」


 マイスターたちは「しゃっ!」と土器から出てくる触手を見て、羨ましそうにしている。

 やっぱりあれは、普通じゃ無いんだな。


「ふっふっふ、ハナと一緒に、苔を探して森を歩き回ったんですよ」

「がんばったです~」


 みんなからの羨望の眼差しを受けて、ヤナさんぐっふぐふだ。

 どうやら、調達するのは大変なブツらしい。

 でも、俺が思うにあれは苔ではなく、何か別の生物なんじゃない?

 今も元気に、土器からしゃっしゃと触手が出ているし。


「これをつかわないと、たまにすっぱくなるじゃん?」

「おまえのは、だいたいすっぱくなってねえ?」

「むしろ、せいこうしたやつのほうが、すくないのだ」


 マイスターが触手をつんつんしながら話を盛ったけど、みんな即座に否定した。

 その話を聞いた感じでは、苔? を使わないなら普通の醸造をするっぽいね。

 そして、失敗すると酸っぱくなるというお話だ。


 酸っぱくなるか……。

 それはたぶん……酵母菌ではなく乳酸菌ちゃんが増殖しちゃうからだ。

 ようするに、殺菌がアレなわけだね。


 お酒が酸っぱくなるのを防ぐのは、ある程度は可能ではある。

 出来るかどうかは分からないけど、方法は教えてみるか。


「あのですね、酸っぱくならないようにする方法は、あったりしますよ」

「まじで?」

「そんなの、あるの?」

「おしえてほしいのだ」


 酵母で醸造するグループのみなさん、ずずいと迫ってくる。

 誰だって失敗したくは無いからね。成功する方法があるなら、知りたいと思うのは当然だ。

 試しに教えてみるか。


「とある温度でとある時間熱を加えると、酸っぱくなることを防げます」

「それって……低温殺菌ですよね」

「そうそう、低温殺菌」


 ユキちゃんがすぐに気づいたけど、ようするに低温殺菌法だ。

 これで、乳酸菌とかはなんとかなる。


「温度計とかの扱いは、みなさんご存じですよね」

「おう、あれはべんりじゃん」

「おんどがわかるのは、すごいのだ」

「ほんとそれ」


 雑貨屋に売っているからね。結構みんな、温度計を活用しているようだ。

 それじゃ、低温殺菌法を教えておこう。


「六十℃から七十℃の温度で、三十分間熱を加えると、酸っぱくなるのはだいたい防げます」

「そんなかんたんなの!」

「さっそくためすじゃん!」

「おれもやるのだ」


 教えると、早速みなさんどこからか温度計を取り出した。

 ……温度計を持ち歩いている、へんなエルフたちである。

 まあそれはそれとして、一つ問題がある。


「ただ一定の温度を保つというのが、これまた難しいのですよ」

「あ~たしかに」

「たきぎとかだと、きついじゃん?」

「ガスコンロでも、むずいのだ……」


 低温殺菌法は、そこがむずい。

 温度管理が雑だと、殺菌が上手く行かない上に素材が変質する。

 さてさて、どうしたものか……ん?


「わきゃ~?」


 あっちで仕込みをしていたドワーフちゃんたちが、俺のズボンの裾をクイクイしている。

 どうしたのかな?


「みんなどうしたの?」

「わきゃ~、いま、おんどをたもつって、きいたさ~」

「それ、うちらのとくいわざさ~」


 あ! そうか!

 しっぽドワーフちゃんたちは、おふろを適温で沸かせる能力がある。

 それを使えば、一定温度で一定時間なんて余裕だよね!


「そうか、君たちにお願いすれば良いんだ」

「すっぱくならないほうほう、おしえてほしいさ~」

「うちらも、それをまねするさ~」

「それじゃあ、一緒にやってみよう!」


 そんなわけで、しっぽドワーフちゃんと一緒にエルフワインを低温殺菌処理する。


「わきゃ~、こんなかんじさ~?」

「そうそう、良い感じだよ」

「コツが、つかめてきたさ~」

「うちらも、てつだうさ~」

「こっちのは、まかせるさ~」


 一度教えたらすぐに温度と時間感覚は覚えたようで、他の土器ワインもドワーフちゃん総出で処理してくれた。


「いや~、さすがは熱を操る種族だね」

「おやくにたてて、なによりさ~」

「これで、すっぱくならないはずさ~」

「マジ、たすかるじゃん」

「さすがなのだ」


 みんなにお礼を言われて、黄色しっぽをぴくぴくさせて照れるドワーフちゃんたちだ。

 いやはや、応用範囲の広い特技をもっていて、ほんと凄いね。


 そうして計らずしも種族間交流や協力が出来た、お酒造りだった。

 めでたしめでたし。


 ――と、締めくくろうとしたら。


(まだかな~、まだかな~)


 神輿が、ほよほよと浮かんでいた。

 謎の声によると、何かを待っているようだけど……。


 そういや、神様もなんだかなし崩し的に、酒造に参加してた。

 でも、今までなんの行動もしていない。

 さっきからずっと、ほよほよ飛んでいただけだ。


 一体、何を待っているんだろう?


「おーい大志、酒造りは順調か?」


 首を傾げていたら、親父がやってきた。

 なんだか、箱を抱えているけど……。


(きたー!)


 そして神輿が、親父のほうへばびゅんって飛んでいった。

 ……神様、うちの親父を待っていた?


「ああこれは、待たせてしまって済みません」

(それほどでも~)

「そんなに、まってないです~?」


 いつの間にかハナちゃんもやってきて、通訳のお仕事だ。

 なんだか、約束してたっぽいぞ。

 親父に聞いてみるか。


「ねえ親父、神様となにか約束してたの?」

「ああ、神様が日本酒造りたいそうだから、色々調達してきたんだ」

「――え!? 日本酒!?」

(すてきな、おさけ~)

「きのう、かみさまからおねがいされたです~」


 なるほど、神様は日本酒が大好きなので、お酒造りの話が出たときに根回ししたんだ。

 しかし、事前に根回しする神様って……。


「とまあそんなわけで、どぶろく造るぞ」

「あ~、親父どぶろく好きだったよね」

「まあな。そのために酵母だって、協会七号酵母を手に入れたぞ。酒粕から培養してた趣味人に、分けて貰ったんだ」


 親父がなんか凄そうな酵母を、自慢げに取り出す。

 その協会七号とか、よく分からないんだけど。


「協会七号酵母って、いったい何?」

「これは『真澄』を醸造するときに使ってる酵母だ」

「――え!? あのお酒の!」

「そうだ。だから美味い酒になるぞ」


 親父、気合い入りすぎでしょ……。趣味全開じゃんか。

 そこまでして、美味しいどぶろくを作りたいのか……。


「あら~、じゅんびできたかしら~」

「おてつだいするね」

「がんばるの」


 そしてゾロゾロと、お料理自慢の奥様方もやってくる。

 おいおい、なんか俺の知らぬ間にでかい話になってないかな?


(おいしいおさけ~! つくる~!)

「ごはん、たいてきました」

「たくさんあるわよ~」


 その様子を見て、神輿は大はしゃぎだ。

 つぎつぎに運ばれてくる、炊かれたお米やら蒸したモチ米やら。

 どうやら、数種類のお酒を造るようだ。

 どぶろくを造ったことは無いからよく知らないけど、醸造初心者の神様でも造れるのかな?


「親父、どぶろくって簡単に造れるの?」

「そんなに難しくは無い。米炊いてこうじと混ぜて、水を加えたあと容器で保存しときゃ出来る」

「酵母は?」

「実は無くても出来るが、あると一層美味くなる。酵母も容器に入れるときに一緒に入れれば、あとは定期的に混ぜてやるだけだ」


 どうやら、お酒造り初心者の神様でもなんとかなりそうだ。

 もうこのへん、お任せでいこう。丸投げとも言う。


「それじゃあ、神様のお酒はお任せするよ」

「まかしとけ」

(まかされた~)


 気合い十分の親父と神様、いそいそと作業を始めた。

 謎の声も、気合いが入っている。


「わたしたちも、いっしょにつくるわ~」

「これを、ごはんにまぜればいいのね」


 お手伝いの奥様方も、親父から麹を受け取ったりしている。

 ……みなさん、ウッキウキでお仕事しているね。


「あや~、なんだかおおごとになってるです?」

「女性陣が静かだったのは、日本酒造りするから待機してたのですね」

「大人エルフは全員、飲んべえだっての忘れてたよ……」


 そういや、最初は女性陣が参加してなかった。

 このために準備してたわけか。


「ごはんをたくのは、わたしたちがとくいだもの」

「わたしたちも、おさけのみたいからね~」

「かみさまといっしょに、つくるの」

(ありがと~)


 そうして、いそいそと作業は進んでいく。

 大量のご飯に、麹が振りかけられ混ぜられて。


(けっこう、たいへん~)

「ハナも、おてつだいするです~」

(ありがと~)


 神輿もご飯と麹を混ぜたり、混ぜ終わったら水を加えたりと大忙し。

 ハナちゃんも手伝ってあげて、ちまちまぴこぴことお仕事だ。


 しかし今回のお酒造り、一番気合いが入っていたのは……神様だった。

 密かに酒造部隊を組織するとか、どんだけという。


(おさけ~、たのしみ~)


 ピカピカ光るご機嫌神輿は、一生懸命仕込みのお仕事をしている。

 お供え物を待つだけじゃ無くて、自ら生み出す。

 マッチポンプ――おっと行動的で、面白いね。


 でも、そんなに造ってどうするの?


 ――そして結局、村人総動員でお酒を仕込んだわけだけど。


 あまりに大量に仕込んだため、一つ問題が出た。


「保存しておく場所、無いね」

「あや~、すごいりょうです~」

(たくさん~)


 目の前には、大量の土器やら金属とか木の実容器がある。

 他にも、神様たちが仕込んだどぶろくのガラス容器とか。

 俺が適当に仕込んだお酒も、結構な分量なわけで。


「これ、どこに置いたら良いんだろうか……」

「ちょっと……心当たりありませんね」

「おきばしょ、ないかんじです?」


 後先考えずに量産したけど、置き場が無いわけだ。

 これ、どうしようかな……。


 ――と、困っていたら。


「置き場所なら考えてあるぞ」

「ばうばう」

「ばう~」

「あや、オオカミさんです~」


 親父がフクロオオカミ便と共に、こっちに歩いてきた。

 どこかに運ぼうとしているのは分かるけど、置き場所に心当たりあるんだ。

 して、その心当たりとはどこだろうか。


「親父、置き場所に心当たりあるみたいだけど……どこに置くの?」

「遺跡の空き部屋に置くつもりだ。あそこなら、温度は一定で醸造にピッタリだぞ」

「あ! そうか遺跡か!」


 なるほどね、遺跡なら置き場所はたくさんある。

 地下の部屋なら、温度も一定だ。

 それは確かに、最適の保存場所って俺も思う。


「ちっと村から遠いが、まあそこは諦めてくれ」

「といっても自転車でならすぐだから、様子を見に行く分には問題無いよね」

「多分な」


 俺としては、特に問題はないな。

 他のみんなはどうだろう?


「とりあえず遺跡にお酒を保管しようという話になりましたが、みなさんどうです?」

「良いのでは無いでしょうか」

「おれてきには、もんだいなしじゃん?」

「みずうみからはちかいから、うちらもそれでいいさ~」

「わたしたちは、ひとっとびだよ! ひとっとび!」


 ヤナさん初め、他のみなさんもそれで良いようだ。

 じゃあ、遺跡に仕込んだお酒を保管しておこう。


「それでは、運びましょうか。あとは、定期的に様子を見に行きましょう」

「「「はーい!」」」


 こうして意見がまとまり、フクロオオカミ便を活用して遺跡に運び込んだ。

 ちなみに、運搬には半日かかった。

 どんだけお酒仕込んだのって話だね。


 あと、ハナちゃんちの触手酒ちゃんは、運搬中も元気だった。

 話しかけると反応するので、面白がって構っていたらなんだか仲良くなってしまい。

 遺跡に放置するのがかわいそうになったので、今はハナちゃんちに持って帰って面倒を見ている。

 砂糖を追加すると嬉しそうにうねうねするので、ついつい甘やかしてしまう。

 すくすく育ってね。


 とまあ色々あったけど、一通りの作業は終わった。

 後はお酒ができあがるまで、こまめに見に行こう。

 さてさて、どんなお酒ができるかな?



 ◇



 ここはとあるちたまの、とある遺跡。

 空き部屋に沢山、た~くさん仕込み途中のお酒が運び込まれてきました。

 みんな、こんなに仕込んでどうするの。


 …………。


 でも、これがいずれお酒になるわけですよね。

 そしてここは、私の領域。


 ――お酒飲み放題ですね!


 早くお酒が出来ないかな。

 まだかなまだかな。


飲み放題ではない

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