第八話 天使の取り分
ひとまずお酒造りを開始したけど、仕込みの段階なのでとても地味だ。
「ハナ、まず果物を潰そうね」
「あい~」
ハナちゃんとヤナさんが、仲良く果物を潰し始めている。
結構根気のいる作業のようで、額に汗しながらんしょんしょとお仕事だ。
「おれもはじめよ」
「おいしいおさけ、つくるじゃん」
「おれのじまんのおさけ、こまかいしごとが、じゅうようなのだ」
他のエルフたちも、えいやっと果物を色々しはじめた。
同じく、時間がかかりそうだね。
他の人たちはどうかな?
「うちらも、すりおろすさ~」
「じみな、さぎょうさ~」
しっぽドワーフちゃんのほうに目をやると、すり鉢みたいなのでなんかの塊を、ごりごりとすり下ろしている。
……見たこと無い植物だな。
「ねえ、それは何をすり下ろしているの?」
「これは、ほくほくねっこさ~」
「みずうみで、とれるやつさ~」
ほくほく根っこ、湖で採れるやつ。
これはドワーフちゃんたちが、主食にしていた植物ってやつだな。
「それが例のやつなんだ」
「そうさ~」
「すりおろしたあと、これをいれてにこむと、あまいやつになるさ~」
さらに続けて見せてくれたのは、芽がちょっとだけでた何かのちいさな種。
麦みたいなやつだな。
この酵素を使って、デンプンを糖化するってことか。
なるほど、いわゆるじゃがいも酒みたいなものだな。
「こっちのお酒の造り方と、そんなに違わないね」
「そうなのさ~?」
「そうなんだよ。だから、みんなの技法を応用して、こっちの素材で新しいお酒とかも出来るかもね」
「わきゃ~、それはそのうち、ためしたいさ~」
しっぽドワーフちゃんたちが、麦芽っぽいやつで糖化する技法があるのならば。
この村で、ビールとか作れちゃうかもしれないな。
ドワーフビールとか、面白そうだ。
「そのうちになるけど、温泉上がりでみんなが飲んだ、あの苦いやつとかを作るのも良いかもだよ」
「それはぜひとも、ためしたいさ~」
しっぽドワーフちゃんたちも、温泉上がりの冷えたビールは大好きになっている。
機会を見て、ビール醸造を試してみよう。
「わきゃ~、わきゃ~」
「おさけのしゅるい、ふやせそうさ~」
ビール醸造が出来るかもと聞いて、しっぽドワーフちゃんたちはわっきゃわきゃだ。
今やっているほくほく根っこ酒の仕込みも、心なしかペースが上がっている。
この子たちは問題なくお仕事出来ているようだから、他の人たちも見てみよう。
妖精さんの作業場所に、ちょっとお邪魔してみるかな。
「あま~いおさけ! あまいやつ!」
「たくさんつくりましょ~」
妖精さんたちの仕込みは、なんだか簡単そうだ。
木の実の容器に花の蜜を入れて、花びらを一枚入れる。
そしたら蓋をしておしまい、みたいな感じだ。
ああしてほっとけば、どっかにいる酵母が色々してくれるんだろう。
「君たちのは、それでおしまいなの?」
「そうだよ! そうだよ!」
「ろっかいくらいねむると、おさけになってるよ! おさけ!」
めっちゃ簡単に出来ちゃう、妖精酒だね。
もともと糖分を使うから、糖化という前段階の仕込みが無い。
そりゃあ、簡単にできるという物か。
「たくさんつくるからね! おすそわけするよ! おすそわけ!」
「それは楽しみだね。出来たら、教えてね」
「おしえるよ! おしえるよ!」
そう言いながら、おびただしい量の木の実容器が出てくる。
……これ全部に仕込んだら、かなりの量になりそうだ。
「おてつだいするよ! おてつだい!」
「きゃい~」
さらには村の妖精きんぐだむから、お手伝い妖精さんも集まってくる。
……あっという間に、目算で千人くらいが作業を始めたわけだが。
これ、とんでもない量のお酒が、出来てしまうのでは……。
「きゃい?」
「おうさま! どしたの? どしたの?」
「おだんごあげる! おだんご!」
……お団子貰っちゃった。
妖精さんマスプロダクションを見てふるえていたら、心配をかけてしまったようだ。
もうこの辺は、成り行きに任せよう。
というか、もはや俺では制御不可能だ。なるようにな~れ。
「みんなありがとね、お団子美味しくできてるよ」
「ほめれられちゃった! ほめられちゃった!」
「きゃい~きゃい~」
心配してくれた妖精さんたちにお礼を言い、その場を離れる。
まあ見た感じ、お酒造りは独自にやっていたからか、みんな手慣れているね。
そんなに難しいお酒を造るわけでもないようだ。
手堅い醸造法を選択して、確実に作ろうって意識が見えるね。
「あ、大志さん。見回り終わりました?」
そうして他のみんなの様子を見終わったのを見計らってか、ユキちゃんが声をかけてきた。
「終わったかな。みんな手堅い技法を選択しているみたいだ」
「私はお酒造りは良くわからないのですけど、手順は簡単そうですね」
「量を造る方を優先しているみたいだね」
ワーキャーと仕込みをしているみんなを見て、ユキちゃんも同じ感想を持ったようだ。
今回は量産が目的だから、みなさん趣旨に沿ってくれている感じだね。
意外と、俺の方針をちゃんと聞いてくれている。
さてさて、みんなは問題ないから、俺もお酒を仕込もうかな。
「それじゃ、俺も負けじとお酒を仕込もう」
「ちなみに大志さん、ワインとかラム酒ってどう造るのですか?」
準備を始めると、ユキちゃんが俺の造るお酒について聞いてきた。
ふふふ……よくぞ聞いてくれました。
それでは、ワインとラム酒の作り方をお教えしましょう!
「えっとね、まずワインは……果汁百パーセントのぶどうジュースを用意します」
「はい」
「そこに、この裏ルートから手に入れた酵母を入れて、おしまい」
「はい?」
実はイースト菌でも出来るけど、出来上がったお酒はパンの匂いがしてしまう。
なので酵母はちゃんとしたやつを、ちょっとしたツテから手に入れた。
醸造免許がないと手に入らないやつだから、けっこうガチな物が出来る予感。
「裏ルートというのは気になりますが……それで終わりですか?」
「終わりだね。後はほっとけば、一週間くらいで勝手にスパークリングワインができるよ」
「ええ……?」
あまりに簡単過ぎて、ユキちゃんあっけにとられている。
でもお酒造りって、こんなんだよ。酵母はちょっと特別だけどね。
親父が「酒造りするならまかせろ」とかいってどっかから調達してきた。
普通無理なはずだけど、どうやったんだろうね。
まあ、それはそれとして。
お次はラム酒に取りかかろう。
「ちなみにラム酒も、この砂糖水に酵母を入れておしまい」
「もう終わり……」
あとは保管に気をつけて、酢酸菌とかが増殖しないようにすれば良いだけ。
事前の消毒と、保管が重要だね。
「糖分と酵母があれば、お酒って簡単にできちゃうんだよ」
「そう言う物ですか」
「コツはあるけどね」
まあ、密造酒は造ったら税務署の人に怒られるからね。
普通は酒造の経験なんてないわけで、ユキちゃんがその簡単さに驚くのも無理は無い。
でも、ちょっと分量や消毒にコツがあって、その当たりを知らないと上手に出来ない。
この辺は、どぶろく造りに一家言ある親父のアドバイスあってこそだ。
「ちなみにイチゴ大福だってメロンだって、ほっときゃアルコールができちゃうよ。ピリっとするやつ、たまにあるでしょ?」
「――あのピリピリって、アルコールだったんですか!?」
「そうそう、あれはアルコールが出来た結果なんだよ」
こんな具合に、実は簡単にできちゃうのがアルコールだ。
まあ実際、アルコールを造ってくれるのは、ちっちゃな酵母ちゃんだけど。
俺たちは、切っ掛けを与えているに過ぎない。
「ほら、他のみんなも、実は同じ手順だよ。自分は素材加工をサボっただけで」
「そういえば、そうですね」
果物もほくほく根っこも、花の蜜だって一緒。
酵母が分解しやすいよう、下準備をしているわけだ。
「それじゃ、お酒にしてくれるやつを入れるよ」
「あい~」
ほら、ハナちゃんたちが造っているお酒だって、今から酵母みたいなのを入れる。
基本はどこも、一緒だ……ね?
「……大志さん、あれ、光ってません?」
「奇遇だね、俺も光ってるように見える」
ヤナさんが取り出した「何か」は、すっごく光ってる。
……なんだ、あれ?
「ヤナさん。それって一体……」
「ああこれですか? 果物とかの汁にこれを入れると、『ゴゴゴガッ』って感じでお酒になる苔ですよ」
「ゴゴゴガッ?」
嫌な予感がして、たまらない。
というか擬音が変だ。なにその「ゴゴゴガッ」て。
苔を使って醸造するってのも、俺は知らない。
「いれるです~」
――あ、ハナちゃんまって! 凄い嫌な予感するから!
まって――!
「――えい」
その瞬間、閃光と共に――土器が「ゴゴゴガッ」と、揺れた。
動いた! 動いたぞ土器が!
「あとは、五日ほど置いておけば良いですね」
「きょうのは、いいかんじにゆれたです~」
「……さようで」
なんてこと無い風なヤナさんとハナちゃんだけど、土器はまだ「ゴガッ」とか言って、たまに揺れている。
お酒を造っているんだよね?
違う物造ってないよね?
「しゃっ!」
――うっわ! 今なんか土器から触手っぽいやつが出た!
うっわ!
「あや~、げんきがいいです~」
「これは、美味しいお酒が出来そうだ」
ええ……。
土器からたまに「しゃっ!」と出てくる触手を見て、ハナちゃんとヤナさんにっこにこだぞ?
明らかに危険な感じがするけど、ほんと大丈夫なのそれ?
「あっちのは、やばそうなかんじがするさ~」
「ちがうもの、そだててないさ~?」
「きけんだね! たちいりきんしだね!」
「いやなよかんがするやつ~」
俺の感覚は正しいようで、しっぽドワーフちゃんも妖精さんも、けっこう引いている。
だよね、そうなるよね。
「あえ? みんなどうしたです?」
「この揺れ具合だと、美味しいお酒になりますよ。楽しみにしていて下さい」
「え、ええまあ……」
引いているみんなをよそに、ハナちゃんとヤナさんはうっきうきだ。
現時点で、もう完成品の品質がある程度推測出来るらしい。
その基準が、揺れ具合ってのがいまいち理解できないけど……。
しかし他のエルフたちも、同じ苔? 触手? を使った技法なのかな?
「あ、そのコケ、めったにみつからないやつじゃん!」
「いいな~」
「あれがあれば、しっぱいしないのだ……」
マイスターたちは「しゃっ!」と土器から出てくる触手を見て、羨ましそうにしている。
やっぱりあれは、普通じゃ無いんだな。
「ふっふっふ、ハナと一緒に、苔を探して森を歩き回ったんですよ」
「がんばったです~」
みんなからの羨望の眼差しを受けて、ヤナさんぐっふぐふだ。
どうやら、調達するのは大変なブツらしい。
でも、俺が思うにあれは苔ではなく、何か別の生物なんじゃない?
今も元気に、土器からしゃっしゃと触手が出ているし。
「これをつかわないと、たまにすっぱくなるじゃん?」
「おまえのは、だいたいすっぱくなってねえ?」
「むしろ、せいこうしたやつのほうが、すくないのだ」
マイスターが触手をつんつんしながら話を盛ったけど、みんな即座に否定した。
その話を聞いた感じでは、苔? を使わないなら普通の醸造をするっぽいね。
そして、失敗すると酸っぱくなるというお話だ。
酸っぱくなるか……。
それはたぶん……酵母菌ではなく乳酸菌ちゃんが増殖しちゃうからだ。
ようするに、殺菌がアレなわけだね。
お酒が酸っぱくなるのを防ぐのは、ある程度は可能ではある。
出来るかどうかは分からないけど、方法は教えてみるか。
「あのですね、酸っぱくならないようにする方法は、あったりしますよ」
「まじで?」
「そんなの、あるの?」
「おしえてほしいのだ」
酵母で醸造するグループのみなさん、ずずいと迫ってくる。
誰だって失敗したくは無いからね。成功する方法があるなら、知りたいと思うのは当然だ。
試しに教えてみるか。
「とある温度でとある時間熱を加えると、酸っぱくなることを防げます」
「それって……低温殺菌ですよね」
「そうそう、低温殺菌」
ユキちゃんがすぐに気づいたけど、ようするに低温殺菌法だ。
これで、乳酸菌とかはなんとかなる。
「温度計とかの扱いは、みなさんご存じですよね」
「おう、あれはべんりじゃん」
「おんどがわかるのは、すごいのだ」
「ほんとそれ」
雑貨屋に売っているからね。結構みんな、温度計を活用しているようだ。
それじゃ、低温殺菌法を教えておこう。
「六十℃から七十℃の温度で、三十分間熱を加えると、酸っぱくなるのはだいたい防げます」
「そんなかんたんなの!」
「さっそくためすじゃん!」
「おれもやるのだ」
教えると、早速みなさんどこからか温度計を取り出した。
……温度計を持ち歩いている、へんなエルフたちである。
まあそれはそれとして、一つ問題がある。
「ただ一定の温度を保つというのが、これまた難しいのですよ」
「あ~たしかに」
「たきぎとかだと、きついじゃん?」
「ガスコンロでも、むずいのだ……」
低温殺菌法は、そこがむずい。
温度管理が雑だと、殺菌が上手く行かない上に素材が変質する。
さてさて、どうしたものか……ん?
「わきゃ~?」
あっちで仕込みをしていたドワーフちゃんたちが、俺のズボンの裾をクイクイしている。
どうしたのかな?
「みんなどうしたの?」
「わきゃ~、いま、おんどをたもつって、きいたさ~」
「それ、うちらのとくいわざさ~」
あ! そうか!
しっぽドワーフちゃんたちは、おふろを適温で沸かせる能力がある。
それを使えば、一定温度で一定時間なんて余裕だよね!
「そうか、君たちにお願いすれば良いんだ」
「すっぱくならないほうほう、おしえてほしいさ~」
「うちらも、それをまねするさ~」
「それじゃあ、一緒にやってみよう!」
そんなわけで、しっぽドワーフちゃんと一緒にエルフワインを低温殺菌処理する。
「わきゃ~、こんなかんじさ~?」
「そうそう、良い感じだよ」
「コツが、つかめてきたさ~」
「うちらも、てつだうさ~」
「こっちのは、まかせるさ~」
一度教えたらすぐに温度と時間感覚は覚えたようで、他の土器ワインもドワーフちゃん総出で処理してくれた。
「いや~、さすがは熱を操る種族だね」
「おやくにたてて、なによりさ~」
「これで、すっぱくならないはずさ~」
「マジ、たすかるじゃん」
「さすがなのだ」
みんなにお礼を言われて、黄色しっぽをぴくぴくさせて照れるドワーフちゃんたちだ。
いやはや、応用範囲の広い特技をもっていて、ほんと凄いね。
そうして計らずしも種族間交流や協力が出来た、お酒造りだった。
めでたしめでたし。
――と、締めくくろうとしたら。
(まだかな~、まだかな~)
神輿が、ほよほよと浮かんでいた。
謎の声によると、何かを待っているようだけど……。
そういや、神様もなんだかなし崩し的に、酒造に参加してた。
でも、今までなんの行動もしていない。
さっきからずっと、ほよほよ飛んでいただけだ。
一体、何を待っているんだろう?
「おーい大志、酒造りは順調か?」
首を傾げていたら、親父がやってきた。
なんだか、箱を抱えているけど……。
(きたー!)
そして神輿が、親父のほうへばびゅんって飛んでいった。
……神様、うちの親父を待っていた?
「ああこれは、待たせてしまって済みません」
(それほどでも~)
「そんなに、まってないです~?」
いつの間にかハナちゃんもやってきて、通訳のお仕事だ。
なんだか、約束してたっぽいぞ。
親父に聞いてみるか。
「ねえ親父、神様となにか約束してたの?」
「ああ、神様が日本酒造りたいそうだから、色々調達してきたんだ」
「――え!? 日本酒!?」
(すてきな、おさけ~)
「きのう、かみさまからおねがいされたです~」
なるほど、神様は日本酒が大好きなので、お酒造りの話が出たときに根回ししたんだ。
しかし、事前に根回しする神様って……。
「とまあそんなわけで、どぶろく造るぞ」
「あ~、親父どぶろく好きだったよね」
「まあな。そのために酵母だって、協会七号酵母を手に入れたぞ。酒粕から培養してた趣味人に、分けて貰ったんだ」
親父がなんか凄そうな酵母を、自慢げに取り出す。
その協会七号とか、よく分からないんだけど。
「協会七号酵母って、いったい何?」
「これは『真澄』を醸造するときに使ってる酵母だ」
「――え!? あのお酒の!」
「そうだ。だから美味い酒になるぞ」
親父、気合い入りすぎでしょ……。趣味全開じゃんか。
そこまでして、美味しいどぶろくを作りたいのか……。
「あら~、じゅんびできたかしら~」
「おてつだいするね」
「がんばるの」
そしてゾロゾロと、お料理自慢の奥様方もやってくる。
おいおい、なんか俺の知らぬ間にでかい話になってないかな?
(おいしいおさけ~! つくる~!)
「ごはん、たいてきました」
「たくさんあるわよ~」
その様子を見て、神輿は大はしゃぎだ。
つぎつぎに運ばれてくる、炊かれたお米やら蒸したモチ米やら。
どうやら、数種類のお酒を造るようだ。
どぶろくを造ったことは無いからよく知らないけど、醸造初心者の神様でも造れるのかな?
「親父、どぶろくって簡単に造れるの?」
「そんなに難しくは無い。米炊いて麹と混ぜて、水を加えたあと容器で保存しときゃ出来る」
「酵母は?」
「実は無くても出来るが、あると一層美味くなる。酵母も容器に入れるときに一緒に入れれば、あとは定期的に混ぜてやるだけだ」
どうやら、お酒造り初心者の神様でもなんとかなりそうだ。
もうこのへん、お任せでいこう。丸投げとも言う。
「それじゃあ、神様のお酒はお任せするよ」
「まかしとけ」
(まかされた~)
気合い十分の親父と神様、いそいそと作業を始めた。
謎の声も、気合いが入っている。
「わたしたちも、いっしょにつくるわ~」
「これを、ごはんにまぜればいいのね」
お手伝いの奥様方も、親父から麹を受け取ったりしている。
……みなさん、ウッキウキでお仕事しているね。
「あや~、なんだかおおごとになってるです?」
「女性陣が静かだったのは、日本酒造りするから待機してたのですね」
「大人エルフは全員、飲んべえだっての忘れてたよ……」
そういや、最初は女性陣が参加してなかった。
このために準備してたわけか。
「ごはんをたくのは、わたしたちがとくいだもの」
「わたしたちも、おさけのみたいからね~」
「かみさまといっしょに、つくるの」
(ありがと~)
そうして、いそいそと作業は進んでいく。
大量のご飯に、麹が振りかけられ混ぜられて。
(けっこう、たいへん~)
「ハナも、おてつだいするです~」
(ありがと~)
神輿もご飯と麹を混ぜたり、混ぜ終わったら水を加えたりと大忙し。
ハナちゃんも手伝ってあげて、ちまちまぴこぴことお仕事だ。
しかし今回のお酒造り、一番気合いが入っていたのは……神様だった。
密かに酒造部隊を組織するとか、どんだけという。
(おさけ~、たのしみ~)
ピカピカ光るご機嫌神輿は、一生懸命仕込みのお仕事をしている。
お供え物を待つだけじゃ無くて、自ら生み出す。
マッチポンプ――おっと行動的で、面白いね。
でも、そんなに造ってどうするの?
――そして結局、村人総動員でお酒を仕込んだわけだけど。
あまりに大量に仕込んだため、一つ問題が出た。
「保存しておく場所、無いね」
「あや~、すごいりょうです~」
(たくさん~)
目の前には、大量の土器やら金属とか木の実容器がある。
他にも、神様たちが仕込んだどぶろくのガラス容器とか。
俺が適当に仕込んだお酒も、結構な分量なわけで。
「これ、どこに置いたら良いんだろうか……」
「ちょっと……心当たりありませんね」
「おきばしょ、ないかんじです?」
後先考えずに量産したけど、置き場が無いわけだ。
これ、どうしようかな……。
――と、困っていたら。
「置き場所なら考えてあるぞ」
「ばうばう」
「ばう~」
「あや、オオカミさんです~」
親父がフクロオオカミ便と共に、こっちに歩いてきた。
どこかに運ぼうとしているのは分かるけど、置き場所に心当たりあるんだ。
して、その心当たりとはどこだろうか。
「親父、置き場所に心当たりあるみたいだけど……どこに置くの?」
「遺跡の空き部屋に置くつもりだ。あそこなら、温度は一定で醸造にピッタリだぞ」
「あ! そうか遺跡か!」
なるほどね、遺跡なら置き場所はたくさんある。
地下の部屋なら、温度も一定だ。
それは確かに、最適の保存場所って俺も思う。
「ちっと村から遠いが、まあそこは諦めてくれ」
「といっても自転車でならすぐだから、様子を見に行く分には問題無いよね」
「多分な」
俺としては、特に問題はないな。
他のみんなはどうだろう?
「とりあえず遺跡にお酒を保管しようという話になりましたが、みなさんどうです?」
「良いのでは無いでしょうか」
「おれてきには、もんだいなしじゃん?」
「みずうみからはちかいから、うちらもそれでいいさ~」
「わたしたちは、ひとっとびだよ! ひとっとび!」
ヤナさん初め、他のみなさんもそれで良いようだ。
じゃあ、遺跡に仕込んだお酒を保管しておこう。
「それでは、運びましょうか。あとは、定期的に様子を見に行きましょう」
「「「はーい!」」」
こうして意見がまとまり、フクロオオカミ便を活用して遺跡に運び込んだ。
ちなみに、運搬には半日かかった。
どんだけお酒仕込んだのって話だね。
あと、ハナちゃんちの触手酒ちゃんは、運搬中も元気だった。
話しかけると反応するので、面白がって構っていたらなんだか仲良くなってしまい。
遺跡に放置するのがかわいそうになったので、今はハナちゃんちに持って帰って面倒を見ている。
砂糖を追加すると嬉しそうにうねうねするので、ついつい甘やかしてしまう。
すくすく育ってね。
とまあ色々あったけど、一通りの作業は終わった。
後はお酒ができあがるまで、こまめに見に行こう。
さてさて、どんなお酒ができるかな?
◇
ここはとあるちたまの、とある遺跡。
空き部屋に沢山、た~くさん仕込み途中のお酒が運び込まれてきました。
みんな、こんなに仕込んでどうするの。
…………。
でも、これがいずれお酒になるわけですよね。
そしてここは、私の領域。
――お酒飲み放題ですね!
早くお酒が出来ないかな。
まだかなまだかな。
飲み放題ではない