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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十八章 エルフ技能
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第六話 冷え冷え祭り


 ちっちゃドワーフちゃんが何かをした。

 その結果、ぬるかった麦茶が……キンキンに冷えてしまう。

 これ、気のせいじゃないよね。


「ね、ねえハナちゃん。ちょっとこの麦茶、持ってみて」

「あえ? これです……あややや! すごいです~!」

「ユキちゃんも、どうぞ」

「うわっ! 冷えてますよこれ!」


 ハナちゃんビックリして、お耳がぴこんと立った。

 ユキちゃんも同じく、耳がぴんとなっている。

 二人とも、驚いた様子だ。


「ちべたくて、おいしいです~」

「よく冷えてますね!」


 そして早速、冷やされた麦茶を、ハナちゃんとユキちゃんが回し飲みしている。

 ……そうだね、ぬるくなる前に飲むのは正義だよね。


 しかしこの不可思議な現象、一体何だろう?

 ちょっくら、話を聞いてみるか。


「ねえ、これって冷やしてくれたの?」

「そうさ~。がんばって、ひやしたさ~」


 やっぱり、冷やしてくれたみたいだ。

 まずは、お礼を言っておこう。


「冷やしてくれて、ありがとうね」

「どういたしましてさ~! もっとひやすさ~?」


 お礼を言うと、赤いしっぽをぱたぱた振って嬉しそうな顔をした。

 さらに、追加で冷却を申し出てくれる。

 ここは一つ、お願いしておこうかな。


「お願いしても良いかな? お礼に、後でおやつをあげるね」

「わきゃ! おやつさ~!」


 おやつが貰えると聞いて、ちっちゃドワーフちゃんのしっぽがさらに振られた。

 ニッコニコ笑顔だね。


「さっそくひやすさ~!」


 気合いが入ったのか、俺が持っている麦茶の入った魔法瓶を、ちょうだいって仕草をした。

 両手のちっちゃなお手々を掲げて、わきゃわきゃしているね。

 それじゃ、冷やして貰いましょう!


「はい、これの中身を冷やして欲しいな」

「まかせるさ~!」


 魔法瓶を受け取ったちっちゃドワーフちゃん、腕に抱えて――。


「いくさ~! わわわきゃ~!」


 赤いしっぽをピン! と立てて、気合いを入れた。

 ……見た感じ、何かオーラが出るとかは無いな。

 わきゃ~っと気合いが入っただけだ。

 でも、今何かが起きているんだろうな。


「……わきゃ? ぜんぜん、ねつがこないさ~?」

「ん? どうしたの?」


 と思っていたら。ちっちゃドワーフちゃんが首を傾げた。

 熱が来ない、とか言っているけど……。


「おかしいさ~? ひやせないさ~?」


 魔法瓶を抱えて、困った顔になるちっちゃドワーフちゃん。

 どうやら、冷やせなくて困っているようだ。

 ……さっきはあっという間に冷やせたのに、何故?


 ……。


 ――あ! 魔法瓶!


 真空断熱されているから、魔法瓶の外側から何をしても意味ない!


「あ~ごめんごめん、この容器って断熱しちゃうやつだった」

「わきゃ? 『だんねつ』って、なにさ~?」

「熱をほとんど通さない、不思議な容器って感じだね」


 ステンレス製の真空断熱容器だから、かなり高性能のやつだ。

 そりゃあ、冷えないわけだよ。


「わきゃ~、ねつをとおさないなんて、ふしぎさ~」

「そういうわけだから、コップに注いだお茶を冷やしてね」

「わかったさ~。わわわきゃ~!」


 ちょっとしたトラブルはあったけど、無事麦茶は冷やされて。


「うちも、てつだうさ~」

「これもひやすさ~」

「ねえちゃたち、ありがとさ~」


 いつの間にか他の姉妹二人も参加して、飲み物を全部冷却してくれた。

 みんな赤しっぽをぴんと立てて、わきゃきゃっと冷却してくれる。


「やっぱりむぎちゃは、つめたいやつがいちばんです~」

「たまによそのお家に行くと、砂糖が入っていてびっくりしますよね」

「子供が飲みやすいようにって、甘くするみたいだよ」


 俺たちはそうして冷やして貰った冷え冷えの飲み物を、美味しく飲んで。

 賑やかで、楽しい休憩となったのだった。


 さてさて、この冷やせちゃう能力について。


 姉妹が全員出来ていたことから、しっぽドワーフちゃんの基本的能力らしいことはわかった。

 一体何故、こんなことが出来るのか。

 詳しく話を聞いて、役立てたら良いなと思う。



 ◇



 翌日、やっぱり朝から暑い。

 気温三十℃の中、お母さんドワーフちゃんとそのお子さんたちに、集会場まで来て貰った。

 ちっちゃドワーフちゃんがみせた、謎の冷却能力についてお話を聞くのだ。


「わきゃ~! おやつがたくさんさ~」

「昨日のお礼だよ。遠慮しないで食べてね」

「どれからたべるか、まようさ~!」

「どれもおいしいよ! おいしいよ!」

「あめざいくもあるよ! あるよ!」


 飲物を冷やしてくれたお礼に、三人姉妹におやつを振る舞う。

 サクラちゃんとイトカワちゃんがせっせと量産してくれるので、油断すると食べる量より作る量の方が上回るけど。

 妖精さんプレゼンツの無限おやつ、食べ過ぎに気をつけて美味しく食べてね。


「ここは、たべものにこまらなくて、いいところさ~」

「ふとっちゃうさ~」


 お母さんドワーフたちも、美味しそうにおやつをほおばる。

 赤いしっぽをぱたぱた振って、ご機嫌のお二人だ。

 ……おふと――を気にするのは、やっぱりどこも一緒か。


 ……食べ物が不足することもあるけど、あんまりおふと――のも良くは無い。

 その辺のせめぎ合いを、垣間見た感じだ。


「そういえば、おななしをするんだったさ~」

「ひやすやつの、おはなしさ~?」


 しばらく夢中でおやつを食べていた、お母さんドワーフちゃんたち。

 ふと我に返って、今日の本題を切り出してきた。

 そうそう、そういう話をするんだった。

 おやつを食べる姿があまりに微笑ましいから、一瞬忘れてたよ。


「そうそう。昨日この子たちが見せてくれた、お茶を冷やす力について話を聞きたくて」

「ちからってほど、たいしたものでもないさ~?」

「みんな、ふつうにできるさ~」


 ……どうやら、ドワーフちゃんたちにとっては当たり前のことらしい。

 みんな普通に出来るということだから、ドワーフちゃんの普通の能力なんだろうな。

 この辺、冷却能力は発汗による気化熱しかない俺たちとは、認識が違うようだ。

 この辺のギャップは、伝えておかないとね。


「えっと……自分たちはそんなに冷却する力がなくて。お茶をキンキンに冷やすってのは、道具に頼らないとできないんだ」

「わきゃ? そうなのさ~?」

「その冷やす道具も、作るまでには結構苦労があったりしました」


 なにせ気化熱に頼る以外での冷却なんて、産業革命以降に出来たくらいだ。

 エアコンや冷蔵庫は、もの凄い革命的製品だ。

 この発明のおかげでどれほどの人が助かったか、想像もできない。


 そんな夢の能力を、しっぽドワーフちゃんは「わきゃっ」とするだけで実現する。

 心底羨ましい力である。


「正直、自在に冷やすことが出来るのは、羨ましいよ」

「うちらにとっては、おんせんのほうが、うらやましいさ~」

「いつでもあったまれるのは、すごいさ~」


 ……俺たち人類が、冷却に腐心するのと同様。

 しっぽドワーフちゃんたちは、加熱もしくは保温に腐心しているらしい。

 まあ、世界や生態ごとに必要となる物は違う。

 ドワーフちゃんたちにとっては、熱する方が得がたいものなんだろうな。


「なんにせよ、こちらだと冷やす力は大いに役立つかな」

「やくだてるなら、うれしいさ~」

「がんばって、ひやしちゃうさ~」


 お母さんドワーフちゃんたち、両手を前に出して冷やしちゃうアピールだ。

 これは頼もしいね。


 しかし冷やしまくって貰う前に、どうして冷えるのかは興味が沸くところだ。

 どうやっているのか、聞いてみるか。


「ちなみに、どうやって物を冷やすの?」

「ねつを、すいとるさ~」

「すいとって、たくわえるさ~」


 冷やしちゃうポーズのまま、二人は答えた。


 熱を吸い取って――蓄える?


「今、蓄えるって聞こえたけど……」

「そうさ~? ねつを、からだにためこむさ~」

「そうしないと、よるのじきに、さむくてアレしちゃうさ~」


 熱を体に貯めこむ。

 そうしないと、夜の時期にまずいことになるらしい。

 つまり本来の目的は、冷却ではなく――蓄熱なのかな?


「もしかして、本当は熱を貯めるための力ってこと?」

「それさ~!」

「よくわかったさ~!」


 わっきゃわきゃと拍手をする、お母さんドワーフちゃんたち。

 どうやら正解のようで、冷却はおまけっぽいね。


 ……あれ? でもそれだと、ちょっと変だな。

 みんなが避難してくるとき、寒くて困ったという話を聞いた。

 村に来たときだって、寒いって言っていた。

 この吸熱能力を使えば、そんなのへっちゃらなのではないだろうか?


「でもみんな、避難してくるとき凍えちゃってたけど。それはなんで? 周囲の熱を吸収すれば、それで良かったのでは?」

「ねつをすいとると、おなかがすいちゃうさ~」

「すいとるのは、けっこうたいへんなのさ~」


 熱を吸い取ると、カロリーを消費するっぽいな。

 吸収する熱量と、消費するエネルギーの収支が合わないって事なのかも。

 無理矢理に熱を移動するだけに、効率は良くないっぽいね。

 これは、ちたまの冷却技術も一緒か。


 ちたまの技術でも、冷やすために消費するエネルギーは莫大だ。

 しっぽドワーフちゃんたちも、吸熱するためにエネルギーを消費する。

 そういう制限があって、あんまり使えないっぽい。

 とくに食料が限られている場合は、慎重になる必要がありそうだ。

 熱は確保できたけど、カロリーを消費しすぎてやせ細ってしまったら、それまた危ない。


「うちらはきほんてきに、そとのねつをあびて、たくわえるだけさ~」

「ためこんだねつをつかって、おゆをわかしたり、きんぞくをとかすさ~」


 つづけて、わきゃきゃっと蓄熱について語る、お母さんたち。

 基本的には、アクティブに限られた熱を吸い取るのでは無く、パッシブに熱を浴びて蓄積するだけみたいだね。

 ようは、体温以上の熱源が必要である、ということなわけか。

 だからこそ、温泉やここ最近の猛暑を、とってもありがたがるんだ。

 ラクに熱を蓄えられることが、何より大事らしい。


 ……しかしこのお話で、引っかかった事がある。


 熱を浴びて、蓄えるのはまあいい。

 問題は……その後だ。


 貯めこんだ熱を使って――湯沸かしや金属の溶解につかっている、と。

 つまりは、熱を自在に放出できる、という話になる。


 もしかすると、だ。

 しっぽドワーフちゃんたちは――熱を自在に操れる、のでは?

 だから貯めこむこともできるし、放出も出来る。

 そして操れるのだから、吸い取って冷却もできる。

 そういうこと、なのではないだろうか。


「ねえ、君たちは……熱を操れたりする? 好きな熱さで、放出できたりとか」

「くんれんすれば、わりとじゆうさ~?」

「こどものうちは、あんまりできないさ~」


 なるほど、そう言うことだったのか。

 しっぽドワーフちゃんたちは、熱を操ることが出来る種族。

 子供はあんまり出来ないようだけど、大人なら出来ると。

 その力を使って、ドワーフィンという昼夜で極端に環境が変化する世界を、生き抜いて来たのだ。


 大河で長時間泳ぐ事を可能にしたり、夜の時期を乗り越えるための、熱を利用した生存戦略。

 そのための――ヒートマネージメント。

 これがドワーフィンで暮らしていくために、必要だったんだな。


「あや! おゆをわかすって、もしかしておふろとかです?」

「そうさ~。おふろをわかして、あったまるさ~」

「ああ、あの湖にあったお風呂、その力で沸かしていたんですね」


 そしてお湯を沸かすでピンと来たのか、ハナちゃんがお風呂について指摘した。

 ユキちゃんが言うように、あの湖畔のお風呂は、その力で沸かしていたらしい。

 なるほど、あのお風呂にはボイラーがなかった。

 どうやって大量のお湯を沸かしたか、ちょっと気になってはいた。

 ため込んだ熱を使って、お湯を作っていたんだな。


「凄い力だね。ちょっと考えただけでも応用は沢山できて、とっても役に立つよ」

「おやくにたてるなら、うれしいさ~」

「ねつをなんとかするくらいなら、いくらでも、たのんでほしいさ~」


 わっきゃわきゃと、赤いしっぽを振るお母さんたちだ。

 もうほんと、色々やって貰いたいことが沢山ある。

 たとえば、エアコンみたいに部屋を冷やして貰ったり。

 ほかにも、氷を作って貰うことも。

 夢が膨らむ。……ぐふふ。


「わきゃ~……でも、たくわえたねつ、ぜんぶだすのはかんべんさ~?」

「しっぽが、あおくなっちゃうさ~」


 ぐふふっと悪い顔をした俺を見て、二人はちょっと困った顔になった。

 俺が人使い荒いということ、もうバレている……。

 まあ、それは本当のことだからしょうがないとして。


 二人が前置きした理由に、気になるところがあった。

 蓄えた熱を全部出すのは勘弁、というのは、まあそうだろう。

 どれほどの熱量を蓄えられるのかはわからないけど、無限では無いはずだ。

 それを全部使うのは、差し障りがあるんだろう。


 問題は、その後だ。

 しっぽが――青くなる、と言っていた。


 ……そういえば。

 村に来たドワーフちゃんたちの色、たしか当初は青い子が沢山いたはずだ。

 しかし、最近の記憶では……赤か黄色の子しか、いなかった。

 青い子は、最近一人も見ていない。


 ――まさか。


「ね、ねえ……。もしかして、君たちは……蓄えた熱の量に従って、色が変わったりする?」

「かわるさ~?」

「というか、いままで、かわりまくってたさ~?」


 あ~……。言われてみれば、確かに変わっていた気もする。

 ただその変化が微妙で、いつの間にかって感じで。


「……タイシ、きづいてなかったです?」

「お風呂上がりとか、みなさんしっぽの色が赤くなってましたよ」


 ハナちゃんとユキちゃんから、ご指摘が来ちゃいました。

 そうなんです。今まで、気づいていなかったんです……。


「ほら、写真を見れば一目瞭然です」


 ユキちゃんが、スマホを取り出し写真を見せてくれる。

 初めて村にしっぽドワーフちゃんがやってきた日から、今日まで撮影してきた記念写真が。

 そこには、確かに手や足、そしてしっぽの色が変化する様子が見て取れた。

 ウロコの色が、変わっている。


「……ほんとだ、みんな青から赤っぽい色へと変化してる」

「三日目には、みんな赤になってますよ」

「おんせんにはいって、あったまったあとです~」


 つまり、そう言うことなのか。


「赤いのが、限界まで蓄えた色なのかな?」

「むらさきまで、ためられるさ~?」

「そこまでいくとあぶないから、あかくなるくらいで、おさえるさ~」


 赤より上もあるらしいけど、そこまで貯めこまないようだ。

 まあ、腹八分目が良いって言うからね。

 それじゃあ、熱が無い状態が青ってことかな?

 ……青くなったら、まずいのかも。


「ねえ、青くなったらどうなるの?」

「なんにも、できなくなっちゃうさ~」

「ねつがほとんどないから、そのままだと、アレするさ~」


 やっぱり、青くなると相当にまずいらしい。

 体に熱がほとんど無い状態なので、何も出来なくなるどころか、アレする危険もあると。


「……みんなが村に来たときって、実は相当危なかったんだね」

「ぎりぎりだったさ~」

「あとちょっとで、ぜんめつだったさ~」


 この子たちにとって、食料が足りないのも問題ではあった。

 でも、一番危なかったのは――熱の枯渇、だったんだ。

 この村に、温泉があって良かった……。


「そういうわけだから、てかげんはしてほしいさ~」

「みどりいろくらいが、げんかいさ~」

「わかった。黄色しっぽ位に留められるよう、調整するね」


 とまあ、しっぽドワーフちゃんたちの能力の一つがわかって。

 しっぽや手足の、ウロコの色により限界も視認できることが判明した。

 この辺の特性や限界に気をつけながら、この子たちの力を活用できる方法、探していこう。


 決して、青色にしないように気をつけて。

 しっぽドワーフちゃんにとって、青い色とは。


 ――終わりに近づいている、色なのだから。



 ◇



 ――というわけで。

 さっそくしっぽドワーフちゃんの能力を活用だ。


「わ~! すずしいな~!」

「おべんきょう、はかどる!」

「エステのお勉強、しなきゃだわ!」

(すずしい~)


 外は三十六℃、しかして集会場の室内は――二十六℃。

 めっちゃ快適で、エルフのみなさんほんわかしている。

 神棚もほよっほよ光って、謎の声によると、涼しい室内を満喫しているようだ。

 ……神様でも、やっぱり暑かったんだね。


「わきゃ~。こんなんで、よろこんでもらえるさ~?」

「これくらいなら、ひやすのは、わけないさ~」

「もっとひやすさ~。わわわきゃ~!」


 この快適空間を作っているのは、数人のバイトしっぽドワーフちゃんだ。

 みなさん手を広げて、わきゃきゃっと室内の熱を吸収している。

 一人でも出来るそうだけど、負担を減らすために数人体制で冷却をお願いしてある。

 ドワーフちゃんエアコン、大成功だね。

 日当も出るから、みなさん張り切って冷却中だ。


「わきゃ、みずびたしさ~」

「これでふくさ~」

「ありがとさ~」


 しかしすぐに結露するようで、頻繁に手を拭いている。

 このへんは、なんともならないかなあ……。

 とりあえずタライを用意して、様子を見よう。


「わきゃ~、こおりもできたさ~」

「かきごおり、つくるさ~」


 あとは部屋を冷やすだけではなく、水を冷やして貰って氷も量産している。

 飲物も冷やせるし、かき氷もできちゃったり。

 しっぽドワーフちゃんのおかげで、灼熱の村に電気を使わずとも涼をもたらすことが出来て。

 猛暑で困っていただけに、大助かりだ。


「あや~、かいてきです~」

「お勉強がはかどるね。カナ、いっしょにパソコンの勉強をしようよ」

「いいわね! おえかきするわ!」


 ハナちゃん一家も、集会場でひんやり涼んでいる。

 エルフの森も快適とは言え、向こうにはインフラが無い。

 どっかりと腰を落ち着けて勉強するなら、やっぱり涼しい集会場が一番だね。


「みんな、涼しくしてくれてありがとうね」

「おやすいごようさ~」

「おやつもでるし、いいしごとさ~」

「……ちょっとさむくなってきたから、おんせんはいってくるさ~」


 みんなの役に立って、しっぽドワーフちゃんたちも嬉しそうだ。

 ただ、この子たちにとってはちょっと寒いようで、交代で温泉に行ったりしている。

 無理をしないで、ぼちぼちお仕事してね。


「エステのお勉強、はかどるわ~」

「――え? もうこんな所まで進んでるの!?」

「美しくなるためですので、これ位はへっちゃらです」


 ……お勉強の方もはかどっているようだし、めでたしめでたし。

 快適な空間なので、凄い進んでいるようだ。

 お袋がその進行度合いに、心底びっくりしている。


「なあ、あっちのべんきょうりょう、すごくね?」

「おれらがはたけにいくまえは、あのはんぶんくらいだったよな?」

「おまえのよめさん、すげえ」


 えすてさんの猛勉強を眺めていると、畑仕事エルフたちがやってきた。

 この暑さでも、畑仕事をする。

 それを実現する方法とは――。


「わきゃ~、これでおしごと、おわりさ~?」

「おう、たすかったじゃん」

「せおっていると、すずしくていいのだ」


 ――しっぽドワーフちゃんを、おんぶすること。


 この状態で、熱を吸い取って貰うと……外でもとっても涼しい。

 おかげで、猛暑の中でも平気で畑仕事が出来てしまう。

 しっぽドワーフちゃんによる、おんぶ冷却法だ。

 体がちっちゃいので、こんな荒技も可能になる。


 外でも室内でも大活躍の、ドワーフちゃん冷却。

 ありがたやありがたや。


「ね、みんなの冷やす能力、使いようによっては凄いでしょ」

「ちょっと、じしんがついたさ~」

「おやくにたてて、うれしいさ~」


 褒められたドワーフちゃんたち、嬉しそうに赤いしっぽをぴくぴくとさせる。

 こうして、しっぽドワーフちゃんたちの秘められた力を、ありがたく享受した一日であった。



 ◇



 ――同日、夜。


「まだだ、まだ終わらんよ」

「大志さん、また変なことを……」


 今俺とユキちゃんは、待ち伏せしている。

 獲物を逃さぬよう、村の入り口で待ち構えているのだ。


「おんせん、あったまったじゃん」

「やっぱり、はたけしごとのあとは、おんせんだよな~」

「つかれがとれたのだ」


 そして何も知らずに、獲物ちゃんたちがやってくる。

 みなさん温泉あがりで、ほっこほこだ。


 では、このバンビちゃんたちを――捕まえましょう!


「――はいそこのみなさん、ちょっとおいでませ」

「いざかやだ! おさけがのめるぞ~!」

「まってました!」

「ひさしぶりじゃん!」


 獲物ちゃんエルフを呼び止めると、みなさんすすすっと席に座った。

 そう、今俺は――居酒屋をオープンしている。

 別名、ダメルフ量産施設だ。


 なぜ今回、急遽このネタ施設をやろうと思ったか。

 それは――。


「はい、今日のビールは、前よりずっと――キンキンに冷えてます!」

「わきゃ~、ものすっごく、ひやしたさ~」

「めっちゃくちゃ、つめたくなってるさ~」


 昨日までは不可能だった、夏なのに五℃程度にまで冷やしたラガービール。

 しっぽドワーフちゃんたちの登場によって、これが実現できるのだ。

 村のわき水では、夏だと十二℃が限界であり、ドワーフちゃんなくしては無理であった。


 そしてラガービールは、十℃以下に冷やすと――のどごしが抜群になる。

 是非とも、このキンキンに冷やしたビールを、お風呂上がりに味わって貰いたかったのだ。

 無垢なるエルフたちに、また一つ悪いことを教えちゃうのである。


「うっわ、このいれもの、ひえてるじゃん?」

「すげえ!」

「あきらかに、ひえまくっているのだ」


 さらには、ジョッキも適温に冷やしてある。

 この冷え冷えジョッキにビールを注いで、みんなの前にドンと置く。

 ダメ祭りの――始まりだ!


「さあみなさん、温泉上がりにこのキンキンに冷えたビール――ぐいっとどうぞ! どうぞどうぞ!」

「「「いただきまーす!」」」


 ――その後の展開は、言うまでも無い。


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