第六話 冷え冷え祭り
ちっちゃドワーフちゃんが何かをした。
その結果、ぬるかった麦茶が……キンキンに冷えてしまう。
これ、気のせいじゃないよね。
「ね、ねえハナちゃん。ちょっとこの麦茶、持ってみて」
「あえ? これです……あややや! すごいです~!」
「ユキちゃんも、どうぞ」
「うわっ! 冷えてますよこれ!」
ハナちゃんビックリして、お耳がぴこんと立った。
ユキちゃんも同じく、耳がぴんとなっている。
二人とも、驚いた様子だ。
「ちべたくて、おいしいです~」
「よく冷えてますね!」
そして早速、冷やされた麦茶を、ハナちゃんとユキちゃんが回し飲みしている。
……そうだね、ぬるくなる前に飲むのは正義だよね。
しかしこの不可思議な現象、一体何だろう?
ちょっくら、話を聞いてみるか。
「ねえ、これって冷やしてくれたの?」
「そうさ~。がんばって、ひやしたさ~」
やっぱり、冷やしてくれたみたいだ。
まずは、お礼を言っておこう。
「冷やしてくれて、ありがとうね」
「どういたしましてさ~! もっとひやすさ~?」
お礼を言うと、赤いしっぽをぱたぱた振って嬉しそうな顔をした。
さらに、追加で冷却を申し出てくれる。
ここは一つ、お願いしておこうかな。
「お願いしても良いかな? お礼に、後でおやつをあげるね」
「わきゃ! おやつさ~!」
おやつが貰えると聞いて、ちっちゃドワーフちゃんのしっぽがさらに振られた。
ニッコニコ笑顔だね。
「さっそくひやすさ~!」
気合いが入ったのか、俺が持っている麦茶の入った魔法瓶を、ちょうだいって仕草をした。
両手のちっちゃなお手々を掲げて、わきゃわきゃしているね。
それじゃ、冷やして貰いましょう!
「はい、これの中身を冷やして欲しいな」
「まかせるさ~!」
魔法瓶を受け取ったちっちゃドワーフちゃん、腕に抱えて――。
「いくさ~! わわわきゃ~!」
赤いしっぽをピン! と立てて、気合いを入れた。
……見た感じ、何かオーラが出るとかは無いな。
わきゃ~っと気合いが入っただけだ。
でも、今何かが起きているんだろうな。
「……わきゃ? ぜんぜん、ねつがこないさ~?」
「ん? どうしたの?」
と思っていたら。ちっちゃドワーフちゃんが首を傾げた。
熱が来ない、とか言っているけど……。
「おかしいさ~? ひやせないさ~?」
魔法瓶を抱えて、困った顔になるちっちゃドワーフちゃん。
どうやら、冷やせなくて困っているようだ。
……さっきはあっという間に冷やせたのに、何故?
……。
――あ! 魔法瓶!
真空断熱されているから、魔法瓶の外側から何をしても意味ない!
「あ~ごめんごめん、この容器って断熱しちゃうやつだった」
「わきゃ? 『だんねつ』って、なにさ~?」
「熱をほとんど通さない、不思議な容器って感じだね」
ステンレス製の真空断熱容器だから、かなり高性能のやつだ。
そりゃあ、冷えないわけだよ。
「わきゃ~、ねつをとおさないなんて、ふしぎさ~」
「そういうわけだから、コップに注いだお茶を冷やしてね」
「わかったさ~。わわわきゃ~!」
ちょっとしたトラブルはあったけど、無事麦茶は冷やされて。
「うちも、てつだうさ~」
「これもひやすさ~」
「ねえちゃたち、ありがとさ~」
いつの間にか他の姉妹二人も参加して、飲み物を全部冷却してくれた。
みんな赤しっぽをぴんと立てて、わきゃきゃっと冷却してくれる。
「やっぱりむぎちゃは、つめたいやつがいちばんです~」
「たまによそのお家に行くと、砂糖が入っていてびっくりしますよね」
「子供が飲みやすいようにって、甘くするみたいだよ」
俺たちはそうして冷やして貰った冷え冷えの飲み物を、美味しく飲んで。
賑やかで、楽しい休憩となったのだった。
さてさて、この冷やせちゃう能力について。
姉妹が全員出来ていたことから、しっぽドワーフちゃんの基本的能力らしいことはわかった。
一体何故、こんなことが出来るのか。
詳しく話を聞いて、役立てたら良いなと思う。
◇
翌日、やっぱり朝から暑い。
気温三十℃の中、お母さんドワーフちゃんとそのお子さんたちに、集会場まで来て貰った。
ちっちゃドワーフちゃんがみせた、謎の冷却能力についてお話を聞くのだ。
「わきゃ~! おやつがたくさんさ~」
「昨日のお礼だよ。遠慮しないで食べてね」
「どれからたべるか、まようさ~!」
「どれもおいしいよ! おいしいよ!」
「あめざいくもあるよ! あるよ!」
飲物を冷やしてくれたお礼に、三人姉妹におやつを振る舞う。
サクラちゃんとイトカワちゃんがせっせと量産してくれるので、油断すると食べる量より作る量の方が上回るけど。
妖精さんプレゼンツの無限おやつ、食べ過ぎに気をつけて美味しく食べてね。
「ここは、たべものにこまらなくて、いいところさ~」
「ふとっちゃうさ~」
お母さんドワーフたちも、美味しそうにおやつをほおばる。
赤いしっぽをぱたぱた振って、ご機嫌のお二人だ。
……おふと――を気にするのは、やっぱりどこも一緒か。
……食べ物が不足することもあるけど、あんまりおふと――のも良くは無い。
その辺のせめぎ合いを、垣間見た感じだ。
「そういえば、おななしをするんだったさ~」
「ひやすやつの、おはなしさ~?」
しばらく夢中でおやつを食べていた、お母さんドワーフちゃんたち。
ふと我に返って、今日の本題を切り出してきた。
そうそう、そういう話をするんだった。
おやつを食べる姿があまりに微笑ましいから、一瞬忘れてたよ。
「そうそう。昨日この子たちが見せてくれた、お茶を冷やす力について話を聞きたくて」
「ちからってほど、たいしたものでもないさ~?」
「みんな、ふつうにできるさ~」
……どうやら、ドワーフちゃんたちにとっては当たり前のことらしい。
みんな普通に出来るということだから、ドワーフちゃんの普通の能力なんだろうな。
この辺、冷却能力は発汗による気化熱しかない俺たちとは、認識が違うようだ。
この辺のギャップは、伝えておかないとね。
「えっと……自分たちはそんなに冷却する力がなくて。お茶をキンキンに冷やすってのは、道具に頼らないとできないんだ」
「わきゃ? そうなのさ~?」
「その冷やす道具も、作るまでには結構苦労があったりしました」
なにせ気化熱に頼る以外での冷却なんて、産業革命以降に出来たくらいだ。
エアコンや冷蔵庫は、もの凄い革命的製品だ。
この発明のおかげでどれほどの人が助かったか、想像もできない。
そんな夢の能力を、しっぽドワーフちゃんは「わきゃっ」とするだけで実現する。
心底羨ましい力である。
「正直、自在に冷やすことが出来るのは、羨ましいよ」
「うちらにとっては、おんせんのほうが、うらやましいさ~」
「いつでもあったまれるのは、すごいさ~」
……俺たち人類が、冷却に腐心するのと同様。
しっぽドワーフちゃんたちは、加熱もしくは保温に腐心しているらしい。
まあ、世界や生態ごとに必要となる物は違う。
ドワーフちゃんたちにとっては、熱する方が得がたいものなんだろうな。
「なんにせよ、こちらだと冷やす力は大いに役立つかな」
「やくだてるなら、うれしいさ~」
「がんばって、ひやしちゃうさ~」
お母さんドワーフちゃんたち、両手を前に出して冷やしちゃうアピールだ。
これは頼もしいね。
しかし冷やしまくって貰う前に、どうして冷えるのかは興味が沸くところだ。
どうやっているのか、聞いてみるか。
「ちなみに、どうやって物を冷やすの?」
「ねつを、すいとるさ~」
「すいとって、たくわえるさ~」
冷やしちゃうポーズのまま、二人は答えた。
熱を吸い取って――蓄える?
「今、蓄えるって聞こえたけど……」
「そうさ~? ねつを、からだにためこむさ~」
「そうしないと、よるのじきに、さむくてアレしちゃうさ~」
熱を体に貯めこむ。
そうしないと、夜の時期にまずいことになるらしい。
つまり本来の目的は、冷却ではなく――蓄熱なのかな?
「もしかして、本当は熱を貯めるための力ってこと?」
「それさ~!」
「よくわかったさ~!」
わっきゃわきゃと拍手をする、お母さんドワーフちゃんたち。
どうやら正解のようで、冷却はおまけっぽいね。
……あれ? でもそれだと、ちょっと変だな。
みんなが避難してくるとき、寒くて困ったという話を聞いた。
村に来たときだって、寒いって言っていた。
この吸熱能力を使えば、そんなのへっちゃらなのではないだろうか?
「でもみんな、避難してくるとき凍えちゃってたけど。それはなんで? 周囲の熱を吸収すれば、それで良かったのでは?」
「ねつをすいとると、おなかがすいちゃうさ~」
「すいとるのは、けっこうたいへんなのさ~」
熱を吸い取ると、カロリーを消費するっぽいな。
吸収する熱量と、消費するエネルギーの収支が合わないって事なのかも。
無理矢理に熱を移動するだけに、効率は良くないっぽいね。
これは、ちたまの冷却技術も一緒か。
ちたまの技術でも、冷やすために消費するエネルギーは莫大だ。
しっぽドワーフちゃんたちも、吸熱するためにエネルギーを消費する。
そういう制限があって、あんまり使えないっぽい。
とくに食料が限られている場合は、慎重になる必要がありそうだ。
熱は確保できたけど、カロリーを消費しすぎてやせ細ってしまったら、それまた危ない。
「うちらはきほんてきに、そとのねつをあびて、たくわえるだけさ~」
「ためこんだねつをつかって、おゆをわかしたり、きんぞくをとかすさ~」
つづけて、わきゃきゃっと蓄熱について語る、お母さんたち。
基本的には、アクティブに限られた熱を吸い取るのでは無く、パッシブに熱を浴びて蓄積するだけみたいだね。
ようは、体温以上の熱源が必要である、ということなわけか。
だからこそ、温泉やここ最近の猛暑を、とってもありがたがるんだ。
ラクに熱を蓄えられることが、何より大事らしい。
……しかしこのお話で、引っかかった事がある。
熱を浴びて、蓄えるのはまあいい。
問題は……その後だ。
貯めこんだ熱を使って――湯沸かしや金属の溶解につかっている、と。
つまりは、熱を自在に放出できる、という話になる。
もしかすると、だ。
しっぽドワーフちゃんたちは――熱を自在に操れる、のでは?
だから貯めこむこともできるし、放出も出来る。
そして操れるのだから、吸い取って冷却もできる。
そういうこと、なのではないだろうか。
「ねえ、君たちは……熱を操れたりする? 好きな熱さで、放出できたりとか」
「くんれんすれば、わりとじゆうさ~?」
「こどものうちは、あんまりできないさ~」
なるほど、そう言うことだったのか。
しっぽドワーフちゃんたちは、熱を操ることが出来る種族。
子供はあんまり出来ないようだけど、大人なら出来ると。
その力を使って、ドワーフィンという昼夜で極端に環境が変化する世界を、生き抜いて来たのだ。
大河で長時間泳ぐ事を可能にしたり、夜の時期を乗り越えるための、熱を利用した生存戦略。
そのための――ヒートマネージメント。
これがドワーフィンで暮らしていくために、必要だったんだな。
「あや! おゆをわかすって、もしかしておふろとかです?」
「そうさ~。おふろをわかして、あったまるさ~」
「ああ、あの湖にあったお風呂、その力で沸かしていたんですね」
そしてお湯を沸かすでピンと来たのか、ハナちゃんがお風呂について指摘した。
ユキちゃんが言うように、あの湖畔のお風呂は、その力で沸かしていたらしい。
なるほど、あのお風呂にはボイラーがなかった。
どうやって大量のお湯を沸かしたか、ちょっと気になってはいた。
ため込んだ熱を使って、お湯を作っていたんだな。
「凄い力だね。ちょっと考えただけでも応用は沢山できて、とっても役に立つよ」
「おやくにたてるなら、うれしいさ~」
「ねつをなんとかするくらいなら、いくらでも、たのんでほしいさ~」
わっきゃわきゃと、赤いしっぽを振るお母さんたちだ。
もうほんと、色々やって貰いたいことが沢山ある。
たとえば、エアコンみたいに部屋を冷やして貰ったり。
ほかにも、氷を作って貰うことも。
夢が膨らむ。……ぐふふ。
「わきゃ~……でも、たくわえたねつ、ぜんぶだすのはかんべんさ~?」
「しっぽが、あおくなっちゃうさ~」
ぐふふっと悪い顔をした俺を見て、二人はちょっと困った顔になった。
俺が人使い荒いということ、もうバレている……。
まあ、それは本当のことだからしょうがないとして。
二人が前置きした理由に、気になるところがあった。
蓄えた熱を全部出すのは勘弁、というのは、まあそうだろう。
どれほどの熱量を蓄えられるのかはわからないけど、無限では無いはずだ。
それを全部使うのは、差し障りがあるんだろう。
問題は、その後だ。
しっぽが――青くなる、と言っていた。
……そういえば。
村に来たドワーフちゃんたちの色、たしか当初は青い子が沢山いたはずだ。
しかし、最近の記憶では……赤か黄色の子しか、いなかった。
青い子は、最近一人も見ていない。
――まさか。
「ね、ねえ……。もしかして、君たちは……蓄えた熱の量に従って、色が変わったりする?」
「かわるさ~?」
「というか、いままで、かわりまくってたさ~?」
あ~……。言われてみれば、確かに変わっていた気もする。
ただその変化が微妙で、いつの間にかって感じで。
「……タイシ、きづいてなかったです?」
「お風呂上がりとか、みなさんしっぽの色が赤くなってましたよ」
ハナちゃんとユキちゃんから、ご指摘が来ちゃいました。
そうなんです。今まで、気づいていなかったんです……。
「ほら、写真を見れば一目瞭然です」
ユキちゃんが、スマホを取り出し写真を見せてくれる。
初めて村にしっぽドワーフちゃんがやってきた日から、今日まで撮影してきた記念写真が。
そこには、確かに手や足、そしてしっぽの色が変化する様子が見て取れた。
ウロコの色が、変わっている。
「……ほんとだ、みんな青から赤っぽい色へと変化してる」
「三日目には、みんな赤になってますよ」
「おんせんにはいって、あったまったあとです~」
つまり、そう言うことなのか。
「赤いのが、限界まで蓄えた色なのかな?」
「むらさきまで、ためられるさ~?」
「そこまでいくとあぶないから、あかくなるくらいで、おさえるさ~」
赤より上もあるらしいけど、そこまで貯めこまないようだ。
まあ、腹八分目が良いって言うからね。
それじゃあ、熱が無い状態が青ってことかな?
……青くなったら、まずいのかも。
「ねえ、青くなったらどうなるの?」
「なんにも、できなくなっちゃうさ~」
「ねつがほとんどないから、そのままだと、アレするさ~」
やっぱり、青くなると相当にまずいらしい。
体に熱がほとんど無い状態なので、何も出来なくなるどころか、アレする危険もあると。
「……みんなが村に来たときって、実は相当危なかったんだね」
「ぎりぎりだったさ~」
「あとちょっとで、ぜんめつだったさ~」
この子たちにとって、食料が足りないのも問題ではあった。
でも、一番危なかったのは――熱の枯渇、だったんだ。
この村に、温泉があって良かった……。
「そういうわけだから、てかげんはしてほしいさ~」
「みどりいろくらいが、げんかいさ~」
「わかった。黄色しっぽ位に留められるよう、調整するね」
とまあ、しっぽドワーフちゃんたちの能力の一つがわかって。
しっぽや手足の、ウロコの色により限界も視認できることが判明した。
この辺の特性や限界に気をつけながら、この子たちの力を活用できる方法、探していこう。
決して、青色にしないように気をつけて。
しっぽドワーフちゃんにとって、青い色とは。
――終わりに近づいている、色なのだから。
◇
――というわけで。
さっそくしっぽドワーフちゃんの能力を活用だ。
「わ~! すずしいな~!」
「おべんきょう、はかどる!」
「エステのお勉強、しなきゃだわ!」
(すずしい~)
外は三十六℃、しかして集会場の室内は――二十六℃。
めっちゃ快適で、エルフのみなさんほんわかしている。
神棚もほよっほよ光って、謎の声によると、涼しい室内を満喫しているようだ。
……神様でも、やっぱり暑かったんだね。
「わきゃ~。こんなんで、よろこんでもらえるさ~?」
「これくらいなら、ひやすのは、わけないさ~」
「もっとひやすさ~。わわわきゃ~!」
この快適空間を作っているのは、数人のバイトしっぽドワーフちゃんだ。
みなさん手を広げて、わきゃきゃっと室内の熱を吸収している。
一人でも出来るそうだけど、負担を減らすために数人体制で冷却をお願いしてある。
ドワーフちゃんエアコン、大成功だね。
日当も出るから、みなさん張り切って冷却中だ。
「わきゃ、みずびたしさ~」
「これでふくさ~」
「ありがとさ~」
しかしすぐに結露するようで、頻繁に手を拭いている。
このへんは、なんともならないかなあ……。
とりあえずタライを用意して、様子を見よう。
「わきゃ~、こおりもできたさ~」
「かきごおり、つくるさ~」
あとは部屋を冷やすだけではなく、水を冷やして貰って氷も量産している。
飲物も冷やせるし、かき氷もできちゃったり。
しっぽドワーフちゃんのおかげで、灼熱の村に電気を使わずとも涼をもたらすことが出来て。
猛暑で困っていただけに、大助かりだ。
「あや~、かいてきです~」
「お勉強がはかどるね。カナ、いっしょにパソコンの勉強をしようよ」
「いいわね! おえかきするわ!」
ハナちゃん一家も、集会場でひんやり涼んでいる。
エルフの森も快適とは言え、向こうにはインフラが無い。
どっかりと腰を落ち着けて勉強するなら、やっぱり涼しい集会場が一番だね。
「みんな、涼しくしてくれてありがとうね」
「おやすいごようさ~」
「おやつもでるし、いいしごとさ~」
「……ちょっとさむくなってきたから、おんせんはいってくるさ~」
みんなの役に立って、しっぽドワーフちゃんたちも嬉しそうだ。
ただ、この子たちにとってはちょっと寒いようで、交代で温泉に行ったりしている。
無理をしないで、ぼちぼちお仕事してね。
「エステのお勉強、はかどるわ~」
「――え? もうこんな所まで進んでるの!?」
「美しくなるためですので、これ位はへっちゃらです」
……お勉強の方もはかどっているようだし、めでたしめでたし。
快適な空間なので、凄い進んでいるようだ。
お袋がその進行度合いに、心底びっくりしている。
「なあ、あっちのべんきょうりょう、すごくね?」
「おれらがはたけにいくまえは、あのはんぶんくらいだったよな?」
「おまえのよめさん、すげえ」
えすてさんの猛勉強を眺めていると、畑仕事エルフたちがやってきた。
この暑さでも、畑仕事をする。
それを実現する方法とは――。
「わきゃ~、これでおしごと、おわりさ~?」
「おう、たすかったじゃん」
「せおっていると、すずしくていいのだ」
――しっぽドワーフちゃんを、おんぶすること。
この状態で、熱を吸い取って貰うと……外でもとっても涼しい。
おかげで、猛暑の中でも平気で畑仕事が出来てしまう。
しっぽドワーフちゃんによる、おんぶ冷却法だ。
体がちっちゃいので、こんな荒技も可能になる。
外でも室内でも大活躍の、ドワーフちゃん冷却。
ありがたやありがたや。
「ね、みんなの冷やす能力、使いようによっては凄いでしょ」
「ちょっと、じしんがついたさ~」
「おやくにたてて、うれしいさ~」
褒められたドワーフちゃんたち、嬉しそうに赤いしっぽをぴくぴくとさせる。
こうして、しっぽドワーフちゃんたちの秘められた力を、ありがたく享受した一日であった。
◇
――同日、夜。
「まだだ、まだ終わらんよ」
「大志さん、また変なことを……」
今俺とユキちゃんは、待ち伏せしている。
獲物を逃さぬよう、村の入り口で待ち構えているのだ。
「おんせん、あったまったじゃん」
「やっぱり、はたけしごとのあとは、おんせんだよな~」
「つかれがとれたのだ」
そして何も知らずに、獲物ちゃんたちがやってくる。
みなさん温泉あがりで、ほっこほこだ。
では、このバンビちゃんたちを――捕まえましょう!
「――はいそこのみなさん、ちょっとおいでませ」
「いざかやだ! おさけがのめるぞ~!」
「まってました!」
「ひさしぶりじゃん!」
獲物ちゃんエルフを呼び止めると、みなさんすすすっと席に座った。
そう、今俺は――居酒屋をオープンしている。
別名、ダメルフ量産施設だ。
なぜ今回、急遽このネタ施設をやろうと思ったか。
それは――。
「はい、今日のビールは、前よりずっと――キンキンに冷えてます!」
「わきゃ~、ものすっごく、ひやしたさ~」
「めっちゃくちゃ、つめたくなってるさ~」
昨日までは不可能だった、夏なのに五℃程度にまで冷やしたラガービール。
しっぽドワーフちゃんたちの登場によって、これが実現できるのだ。
村のわき水では、夏だと十二℃が限界であり、ドワーフちゃんなくしては無理であった。
そしてラガービールは、十℃以下に冷やすと――のどごしが抜群になる。
是非とも、このキンキンに冷やしたビールを、お風呂上がりに味わって貰いたかったのだ。
無垢なるエルフたちに、また一つ悪いことを教えちゃうのである。
「うっわ、このいれもの、ひえてるじゃん?」
「すげえ!」
「あきらかに、ひえまくっているのだ」
さらには、ジョッキも適温に冷やしてある。
この冷え冷えジョッキにビールを注いで、みんなの前にドンと置く。
ダメ祭りの――始まりだ!
「さあみなさん、温泉上がりにこのキンキンに冷えたビール――ぐいっとどうぞ! どうぞどうぞ!」
「「「いただきまーす!」」」
――その後の展開は、言うまでも無い。




