表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二章  活動開始
26/448

第十話 郷土料理

 村に戻り、早速調理の準備を始める。とりあえず車から小麦粉の袋を炊事場に持っていき、残りは炊事場にある倉庫に置いておこう。


「タイシさん、それはなんですか?」


 小麦粉の袋を見たヤナさん、興味深そうに聞いてくる。


「小麦粉ですよ。ほら、天ぷらの時に使った」

「あれですか」

「今回は、一日三食で七日分から十日分かな? それくらい持ってきました」

「ありがたいことです……あ、はこぶのおてつだいしますよ」


 そう言ってヤナさんは袋を運ぼうとしたが、ビクともしない。顔を真っ赤にさせたヤナさんは「ぐぬおおおおお!」と声を出して持ち上げようとするが、一ミリも動かない。

 エルフだから非力なのかな? そんなヤナさんを見ていた他のエルフ達、小麦粉運びに参戦してくる。


「おれがはこんでみよう」


 ムキムキマッチョエルフが名乗り出る。マッチョさんは、気合十分。闘気をみなぎらせながら小麦粉の袋に掴みかかった。


「ほああああああ!」


 珍妙な掛け声と共に、小麦粉二十五キロを持ち上げたマッチョさん。ひょいと持ち上がった。……普通だ。別にエルフだから非力ってわけでもないのかな。


 あと、その掛け声いらなかったよね?


「おもいといえばおもいけど、もてるよな?」

「だよねえ」


 他のエルフ達も「ちょりゃああああ!」とか不要な掛け声で気合を入れながら、普通に二十五キロの小麦粉を持ち上げていく。本当に掛け声は全く必要ないほど、普通だ。

 しかしヤナさんだけが、いまだにぷるぷるしながら小麦粉の袋と格闘している。

 ビクともしない小麦粉の袋と格闘するヤナさんに、見かねて声をかける。


「ヤナさん、無理されなくて大丈夫ですよ。私が運びますから」

「もうしわけない……」


 申し訳なさそうに言うヤナさん。まあヤナさん、族長という大切な仕事をきちんと全うしている。小麦粉の袋を持てなくても、そんなに委縮する必要はないよね。励ましておこう。


「ヤナさんは皆を取りまとめるという、大事な仕事をやってます。これくらい問題ないですよ」

「そういっていただけると……」


 俺はヤナさんが格闘していた小麦粉の袋を、片手で掴んで持ち上げる。すると、マッチョさん達が愕然としていた。


「かたて、だと……?!」

「かるがるいってる……」

「おれのじまんのきんにくは、ぴくぴくさせてたのしむだけのもの、だったのだ……」


 いや、中学生でもこれくらい持てるから。……片手では無理かな?

 愕然とするマッチョさん達と一緒に、小麦粉を運んでいった。


 炊事場に着くと、早速調理の準備を始める。山菜の灰汁抜きなどはもうエルフ達がやっていたので、楽で良い。何故かはわからないが、大量に山菜が集められていたのが気になる。まあ、がんばったんだろう、そう思うことにする。

 俺はこの大量の山菜を前にして、献立をどうしようか考えた。今ある食材で、簡単に調理ができて美味しい料理、何があるかな……。


「大志、献立で悩んでるみたいだな」


 色々考えていると、親父が声をかけてきた。そうだな、親父にいい献立が無いか聞いてみよう。


「うん、何がいいかちょっと思いつかなくてさ」

「それなら、山菜のすいとん汁が良いと思うぞ」


 すいとんか。あれは作るのも楽だし、腹も膨れる。いい献立じゃないか。それで行こう。


「お、すいとん良いね。それにしよう」

「じゃあ俺が調理補助やるよ」

「わかった。頼むわ」


 親父に調理補助を頼むと、カナさん始めエルフの奥様方も名乗り出てきた。


「わたしもてつだいます」

「まかせて」

「うでがなおったわ~がんばるわよ~」

「そんなにふりまわしたら、またぐきってなるわよ」


 グキっとさせてから治るのに三日とは、割と重症だったのでは……。

 こうして、親父とカナさん始め数名の奥様方を調理補助に、山菜のすいとん汁をつくる事にした。


「まず始めに、山菜を煮ます」

「はい」

「まかせて」

「えい」


 ぐつぐつと鍋で山菜が煮えていく。その間に、すいとんの生地を作ろう。


「次に、小麦粉を水で溶きます……と、分量はどうするかな」


 この水の分量で割と触感が変わるので、地味にノウハウが居る部分だったりする。何風にするかで割合が変わるので、どれがいいか迷ってしまった。


「味噌汁に入れるなら、ほうとう風がいいと思うぞ」


 親父が助言をくれた。ほうとう風か、たしかに味噌汁に入れるからそれが一番かな。


「ほうとう風か、良いね。じゃあそれにしよう。小麦粉と水の割合は、この容器一杯の小麦粉に対して、半分よりちょっと多めの水を入れてください」


 薄力粉なら水は半分で良いのだが、今回は応用を考えて中力粉にした。なので水を若干多めにする。


「わかりました」

「まかせて」

「あっ!」


 ねりねりと言われた分量ですいとん生地を作っていく皆さん。一人は分量を間違えてドバっとやった。まあいいんじゃないかな。多少間違えても、すいとんならなんとかなる。

 程なくして、大量のすいとん生地が出来上がる。丁度山菜も煮えたころだし、頃合いだな。


「では、生地を煮ます。こうやって、一口大の分量を鍋に入れて行ってください」


 俺はスプーンですいとん生地を一つ一つ、鍋に落としていった。


「こうですか」

「まかせて」

「えい」


 奥様方が同じように生地を投入していく。たまに入れ過ぎな時もあるが、まぁそれも一興だろう。やっぱり親父が一番手慣れているな。作り慣れているから当然か。

 ぐつぐつと煮立っていくすいとん生地。


「すでにおいしそう」

「しろいたべもの、まいにちとか、すてき」

「どんなあじがするのかな」


 調理風景を見ていたエルフ達も、だんだんと出来上がっていくすいとん汁をみて笑顔だ。作っている風景を見ているだけに、期待も高まるのだろう。興味深げに鍋を覗き込んだりしていた。

 しばらく生地を煮てから、最後の仕上げに味噌を投入する。


「では、最後に味噌と出汁の元を入れます。分量はお好みで良いですよ。味見しながら入れてください」

「おこのみですね」

「まかせて」

「ああ~おいしいわ~」


 味見ですよ味見! 本気食いしないでくださいそこの人。ガッツリと行ってるよガッツリと。

 こうして、調理過程で若干目減りしたが、無事? 山菜のすいとん汁が出来上がった。

 

「これで出来上がりです。皆さんならんで下さい。配りますので」

「「「はーい!」」」


 それぞれの鍋に続々と並ぶエルフ達。皆嬉しそうだ。程なくして、全員に配り終えた。


「それでは皆さん、食べましょう」

「頂きます」

「「「わーい! いただきます!」」」


 親父が頂きますを言ったのを皆真似して、頂きますをする。すんなり取り入れるあたり、柔軟な人達だ。


「おいしー!」

「みそしるとさんさい、それにこのしろいやつ、くみあわせるとすごい」

「ふがふが」


 今までそれらすべてを組み合わせたことは無かった。何でも美味しく食べる彼らだが、味噌汁と小麦の組み合わせは初めてだ。味噌汁が気に入ったお年寄りたちも、この料理は大満足の様子。喜んでもらえて、こっちも嬉しい。


「大志、割と美味くできたな」

「うん、けっこう美味いね」


 親父が山菜のすいとん汁を啜りながら声をかけてきた。有り合わせの材料で作ったにしては、確かに美味い。実際、山菜をこれほど豊富に使って作るすいとん汁だ。店で食べれば、結構な値段になるだろう。


「これで鶏肉でもあれば、完璧だったなぁ」

「そうだね。狩りはもうちょっと機会を見ないとできないけど、いずれ鶏肉入りのすいとん汁、作りたいな」


 この山菜のすいとん汁は、肉が無い。出汁の元でうま味は加えているとはいえ、鶏肉があればもっと美味しくなるだろう。狩りを始められれば、より一層豊かな晩餐を作れる。


「まあ俺らは家で作れるから良いとして、エルフ達には早めに狩り、教えてやれよ?」

「わかった。簡単な農業教えたら、次にやるよ」


 のんびりとすいとん汁を啜りながら、親父と今後の予定を話し合う。エルフ達もすいとん汁をお代わりしたり、子供に食べさせてあげたりと、のんびり和やかに夕食は進んでいった。

 一杯目を食べ終わったので、二杯目をお代わりに行くと、ハナちゃんもお代わりに来ていた。


「タイシタイシ~。これすっごくおいしいです~」


 ハナちゃんが、おおはしゃぎで話しかけてくる。確かそれ、三杯目のお代わりだよね。凄く食べてるな。それだけ、気に入ってくれたという事か。


「それは良かった。ハナちゃんも沢山食べてね」

「あい~」


 既に沢山食べてはいるが、食べ盛りの子供だ。じゃんじゃん食べて頂きたい。子供がお腹を空かせている風景を無くすことが出来て、俺も嬉しい。これからもそうならないよう、気を付けて行かなくては。

 ハナちゃんも加わって仲良くすいとん汁を啜っていると、お代わりをしてきたヤナさんとカナさんも加わってきた。


「タイシさん、このすいとんじる、ほんとうにおいしいです」

「わたし、このおりょうり、きにいりました」

「皆さんのお口にあって良かったです」


 すいとんは、簡単に作れて割と美味しい。本気で作ればかなりの料理にもできるので、奥が深い料理ともいえる。


「つくるのもかんたんですし、いっきににこむやりかた、こきょうのりょうりをおもいだします」


 カナさんが続けた。故郷の料理か……。エルフ達は、煮込む料理を基本としていたのかな。興味がわいてきたので、聞いてみることにする。


「煮込み料理が、皆さんの郷土料理ですか?」

「ええ、もりでとれたたべものを、だいたいはにてたべていました」


 そういえば、土器がなんとかってエルフ達が言っていたな。お手製の土器で、煮込み料理をしていたのだろうか。


「土器で?」

「ええ、どきで。あじつけはしおだけでしたけど」


 調理器具についても聞いてみると、やはり縄文時代のようなやり方をしていたらしい。でも、それも良い。家族で土器を囲んで、ぐつぐつと煮えた森の恵みを食べる。味付けは塩だけだけど、素朴で、だけど力強そうだ。

 そして、家族皆で食べる食事は、味付け以上に料理をおいしくする。

 俺は、エルフ達が森で和やかに食事をしている、そんな風景を思い浮かべた。俺もその料理、一緒に食べたいな。そんな風に思った。


「それはそれで良いものですよ。森の恵みで家族と食事、良いじゃないですか」


 俺がそういうと、ハナちゃん一家は、なつかしそうな顔をして口々に言った。


「ええ、いいものです」

「たのしいですよ」

「よいものです~」


 親父もそんなハナちゃん一家を見て、その光景を想像したのか、すいとん汁を啜りながら呟いた。


「そうだな。それも良いな」


 ヤナさんカナさんとハナちゃん、そして親父。にこやかに食事をする皆を見ながら、山菜のほうとう汁を啜る。

 家族やエルフ達の笑顔を見ながら食べる、素朴な味。それはとっても、美味しかった。


 そしてハナちゃんは四杯目のお代わりに行った。凄い、俺の倍食べてる!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ