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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十八章 エルフ技能
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第五話 夏のひやっとするお話


「エステ~! だいぶ読めるようになってきたわ~!」

「お、おい……、きあい、はいりすぎなのだ」


 えすてさんがめっちゃ勉強している。

 まあちょっと抑えて貰って、一日五時間は上回らないようにして貰っているけど。

 おっちゃんエルフも、タジタジではあるが、それにつきあって勉強している。


「次はこの教科書の、ここを勉強すると良いわよ」

「分かりました!」


 お袋も全面サポートして、エステさんのお勉強がはかどるようにしてくれている。

 こっちはお袋にお任せするとしよう。


 そしてエルフたちがお勉強中なので、この隙を見て神様をおデートに誘いたいと思うわけで。

 ちょっと遺跡を確認しに行くという口実で、連れ出そう。


「神様、ちょっと遺跡までお付き合い頂けませんか?」

(いいとも~)

「よ、よろしければ二回転してください」

(こうかな?)


 ……どこかで聞いたフレーズで、謎の声が帰ってきた。

 くるくると二回転したから、良いみたいだけど。

 それじゃ、神様と二人っきりでおデートとしゃれこみますかね!



 ◇



 神様と二人で遺跡にやってきて、秘密のお部屋にご招待だ。


「神様、この部屋のことはどうかご内密に」

(いいとも~)


 ……そのフレーズ、気に入ったのかな?

 まあ良いらしいので、強引に扉を持ち上げて秘密の入り口を開ける。


「では、お入りください」

(はーい)


 ほよほよっと飛んで、秘密の通路を進む神輿だ。

 光っているのでライトいらず。便利である。

 そうして神輿といっしょに通路を進み、目的のカタカタ爆弾展示場へと到着だね。


(こわ!)


 そして地蔵本体を見た神輿、ぷるぷる震え出す。

 謎の声も、「怖!」とか言ってるけど……。

 これ、そんなにヤバイんですかね。

 まあ俺は謎の声を聞けないという設定なので、聞かなかったことにして。

 本題に入ろう。


「えっとですね、この物体に力を貯めすぎてしまいまして、なんとか出来たらなあって……」

(これとか、ギリギリ~)


 神輿がいくつかの地蔵の上を、あわあわと飛び回る。

 カタカタいってるやつ、なんだか空中に浮かんでブォンブォンいってるやつ、触ろうとすると逃げるやつの三種類が、やばいやつらしい。

 まあ、念のため聞いてみよう。


「これとかやばいと思っているのですが、貯まっている力とかお供えできますか?」

(いいの?)


 お! 良い感触だぞ。

 神輿はなんだか、嬉しそうにほよほよ光り始めた。

 それじゃ、もうちょっと踏み込んでみよう。


「お供えできるのであれば、お供えしたいですが」

(やたー! いいよ~!)


 くるくると二回転して、ぴっかぴか光った。

 これはオーケーだね!


「では神様! まずはこのカタカタ言ってるやつの力、お供えします!」

(おそなえもの~!)


 早速お供えすると、カタカタ地蔵の上で神輿がくるくる回る。

 その瞬間――カタカタが止まった!

 やった! 爆弾を一個処理できたぞ!


(おなかいっぱい~)


 しかし神輿は、もう限界っぽい。

 処理済み地蔵を触ってみると、まだカチカチではある。

 完全に抜き取れたわけじゃないみたいだ。

 ……神様でも吸収しきれないとか、どんだけ力が詰まってたんだろう、これ。


「神様、限界ですかね?」

(これいじょうは、ちょっとむり~)


 二回転して、無理を伝えてくる神輿。

 謎の声も無理と言っているし、今日はひとまずここまでだな。

 神様にお礼を言って、引き上げよう。


「一つは何とかなったぽいので、助かりました。ありがとうございます。神様凄いですね」

(それほどでも~)


 いっしょに褒めたら、てれてれ神輿の出来上がりだ。

 いやはや、本当に助かりました。


「またよろしければ、ご協力お願いしたいです」

(いいとも~)


 くるくるっと二回転する神輿、ご機嫌だね。

 こちらも爆弾を何とか出来るので、ありがたやありがたや~。


 そしてこれで、俺が早期に引退という事も無くなりそうだ。

 エルフの神様、最高!



 ◇



「神様、これはこの間のお礼です」

「助かりました」

(すてきなおさけ~!)


 翌日、爺ちゃんと親父が神様にお礼のお酒を供えた。

 うちがずっと抱えていた、とんでもない爆弾を一つ処理してくれたからね。

 俺の引退問題もなんとかなりそうということで、二人ともほっくほく顔だ。


「なあ大志、やっぱりエルフの神様が……力を吸収してくれてたんだな」

「多分ね」


 親父がひそひそ話で聞いてきたけど、恐らくそうだろう。

 感謝すればするほど、力がみなぎっていたのも観測されているし。

 いやあ、ほんとうに助かった。


「また吸収出来るようになったら、お願いします」

(いいとも~)


 ご機嫌神輿、引き続き爆弾処理を請け負ってくれた。

 ありがたやありがたや。


 ――さて、入守家伝来の大きな問題が何とかなったところで。

 俺は、新たに発生した難事に対処しないといけない。


「あや~?」


 ハナちゃんが、俺の後ろでジト目なのだ。かなり、怪しんでおられる。

 神様と俺がこっそりおデートしていた件について、疑りまなこちゃん状態。

 いっつもハナちゃんを伴って行動していたのに、今回はこっそり。

 そりゃあ、何か変だと思うよね。


「タイシ~。きのう、かみさまとなにしてたです~?」


 ――ド直球!


 探りを入れるとかしない、まっすぐストレートハナちゃんだ。

 ……でも大丈夫、口裏合わせはしてあるからね!


(い、いせきの、みまわり~)

「今度翻訳をお願いしたくて、遺跡の見回りをしたよ。ただあそこはちょっと危ないので、二人で行ったんだ」


 嘘では無い。ついでだけど、翻訳の件もお願いしてある。

 嘘は言っていない。


「ほんとです~? かみさま、つやつやしてるです~?」

(――ぎく)

「あや~?」


 おおい! ぎくとか言わないで!

 バレちゃうから! ハナちゃんすんごいジト目になっちゃったから!


「あやしいです~。なにか、かくしごとしてるです~?」

(ぎくぎく)


 ハナちゃん、もう完全にクロ認定しているご様子。女の直感こわい!

 ……あと何故か、手をわきわきさせている。

 お手々わきわきハナちゃんだ。


「――ほんとのこと、いうですよ~!」

(きゃ~!)

「うわー!」


 お手々わきわきハナちゃん、俺と神輿の脇腹をくすぐり始める!

 絶妙なくすぐり具合! ものすごく、くすぐったい!

 こちょこちょの刑が来た!


(きゃはははは!)

「いわないと、くすぐっちゃうですよ~」


 もうすでに、かなりくすぐっております!


「和やかだね」

「おんなのこだもの」


 そこのヤナさんとカナさん、和んでないで助けて!

 俺はともかく、神輿が!

 神輿がぷるっぷるな感じで、今にも自白しそうで!


(きゃ~!)


 そして数分くすぐられたのち――。


(――お、おやつ、たべてました~!)


 謎の声が――自白した!

 神様、ないしょって言ったのに~!


「あや~! ふたりでこっそり、おやつたべたです~!」

(たんまりたべました~)

「うきゃ~! ハナもタイシと、おやつたべたいです~!」


 ……おや? この流れは、もしかすると……。

 乗っかってみよう!


「じ、実はこっそりおやつを食べたんだ」


 嘘は言っていない。あれは神様にとっては、おやつである。多分そう。


「あやや~、ハナもなかまに、いれてほしいです~」

「ごめんごめん。ただ遺跡の中はちょっと危ないから、おいそれとは行けなくて」


 これも嘘では無い。重い石の壁を持ち上げたりするので、安全確保要員は必要で。

 ちっちゃな子供と行くような場所ではないんだよね。


「じじょうはわかったです~。でもタイシ、あんまりあぶないこと、してほしくないです?」

「……ハナちゃん、心配してくれてありがとうね。これから気をつけるよ」

「あい~」


 ……どうやら、心配してくれていたようだ。

 実際、遺跡の隠し部屋に行くときは、わりと緊張するからね。

 危ない場所に行くって身構えていたのを、ハナちゃんは感じ取っていたみたい。

 だから、詳しく聞き出そうとしていたんだろう。


「危ないことはしないから、心配しないでね」

「わかったです~」

「それじゃ落ち着いたところで、みんなでいっしょにおやつを食べよう」

「あい~!」

(おそなえもの~)


 ハナちゃんも納得して、落ち着いてくれたね。

 めでたしめでたし。ごまかせて良かった……ん?


「……」


 ――背筋が、ぞわっとした。

 俺の腕に、今まさに、何かが噛みついて――。


「……この味は、嘘はついていないけど――本当のことを言っていない、味ですね」


 噛みついてきたのは――ユキ様でござった。

 やはりジト目で俺を見ている。

 もふもふ耳は警戒しているのか、ツンとしていて。

 それに不機嫌しっぽが、ばっさばさと振られておりますなあ。

 これはこれは、祟られそう……。肝が冷える、怖さですな。


 でもその耳しっぽは、やっぱりふさふさもっふもふ。

 可愛らしい、耳しっぽですなあ。


「味が変わりましたね……。あ、この味は――! フ、フフフ……」


 あれ? 今度はにっこり笑顔になった。

 ご機嫌しっぽがふぁっさふぁさと振られております。

 素晴らしい毛並みですなあ。


「フフフ……」

「タイシ~、おやついっしょに、たべるです~」


 なんだか分からないけど、危機は脱したみたい。

 危なかった……。

 これも日頃の行いのおかげかもね。


「あ、勘違いしている味がします」


 そんなの、味で分かるの?

 ユキちゃん、恐ろしい感覚を持っていらっしゃる……。


「今日も平和だね」

「そうね。おんなのこだものね」


 結局ヤナさんとカナさん、お茶を飲んでニコニコしているだけだった。

 ちょっとはフォローしてくださいよ……。


 ちなみに、噛みつかれた腕には歯形がくっきり残りました。



 ◇



 ハナちゃんとユキちゃんに追及されてヒヤヒヤしたが、何とか乗り越えて。

 ほっと安心したのもつかの間。


 翌日――とんでもない猛暑がやってきた。

 ヒヤヒヤしたかと思ったら、今度は灼熱だ。


「ああああ、あづいです~」

「ギニ~」

「ニア~」

(とける~)


 というか今週、ずっと猛暑が続いていた。しかし、今日は――とびきり暑い!

 この暑さには、さすがのハナちゃんやフクロイヌたちもぐんにゃり。

 神輿もつられて、ぐんにゃぐにゃ。

 朝からもう灼熱である。


「大志さん、今の気温……朝なのに三十五℃ですよ」

「そりゃ暑いわけだ」


 この高原ですら、三十五℃の気温。

 それなら盆地の市街地は、どんな暑さだっていう話だ。


「午後からは三十八℃の予想が出てます。サウジアラビアは三十六℃なのに」

「サウジより暑いって……」


 ここのところ数年、ずっと気候がおかしい気がする。

 というか、今日の日本は中東並みの暑さか……。


「……俺が子供の頃は、真夏日なんて一日二日だったんだけどな」


 真夏の青空を見上げながら、俺の隣にいた親父が、そうつぶやいた。

 親父が子供の頃って、結構昔だよな。


「それって……四十年くらい前の話?」

「ああ、それくらいだ。当時は、二十七℃で猛暑とか言ってた」

「今と基準が違いすぎる……」


 なんにせよ、この暑さはきつい。

 ……これはエルフの森に避難して涼むか、水遊びするかしたほうが良いな。

 今日はお仕事をお休みにして、避暑ってことにしよう。

 エアコンの無いこの村では、とても仕事にならない。


「みなさん、今日は暑すぎなのでお仕事は中止です。各自森や湖へ避難して、涼んでください」


 エルフたちは農機具を持って畑に行こうとしているけど、ちょっと無理だ。

 こんな暑さで野良仕事したら、アレしてしまう。


「え? よろしいのですか?」


 お休みと聞いてヤナさんがきょとんとしているけど、よろしいのです。


「ええ、問題ありません。こんな暑さの中仕事したら、健康を害します」

「たしかに、ちょっとやばいかんじ」

「んだんだ」

「ちょっとあついね! すずしいおはなばたけで、おひるねするね! おひるね!」


 みんなもやっぱりキツいと思っていたのか、すんなり同意してくれた。

 というわけで、今日はお仕事しません!


 ……ただ、休みにするとはいえ、熱中症対策はして貰おう。


「みなさん麦茶を沢山飲んで、お塩も定期的に取って下さい。もしくは、この塩羊羹ようかんをおやつするのでも良いです」

「たくさんつくっておいたよ! おやつだよ!」

「わーい! おやつです~!」


 猛暑が続く予報は出ていたので、妖精さんには熱中症対策おやつを作って貰ってある。

 これを食べて、美味しく塩分取りましょうだ。


「そういうわけなので、涼しいところでのんびり行きましょう」

「それがいいじゃん」

「だべな」

「のんびりするとか、すてき」

「エステのお勉強も、今日はお休みするわ」


 異常な猛暑におおわらわだけど、お天道様はどうにもならない。

 今日は大人しく、涼しい場所でのんびり過ごそう。

 と、話がまとまったのだけど……。


「きょうは、きおんがたかくて、いいかんじさ~」

「ぬっくぬくさ~」

「いまのうちに、ひなたぼっこしておくさ~」


 ……しっぽドワーフちゃんたちが、なんだか嬉しそうなのだ。

 こんな暑さなのに、汗もかかずにたれぱ○だみたいに日向ぼっこしている。

 大丈夫なのかな? ちょっと心配だから、確認しないと。


「ねえみんな、今日の暑さは危ないよ。涼しい場所で過ごしてね」

「わきゃ~? これくらいなら、ふつうさ~?」

「うちらがすんでたところ、おひるのじきは、これくらいあつくなるさ~?」

「むしろ、このあつさが、いいかんじさ~」


 え? これくらい普通とか、この気温が良いとかの回答が帰ってきたぞ。

 衛星ドワーフィンって、昼の時期はこれ位の気温になるの?


「あの世界って、そんなに暑いの?」

「おひるのじきは、そうさ~」

「このあいだはよるだったから、ちょっとさむかったさ~」


 そう言うことなのか。まあ、長期間昼の時期が続くわけだ。

 そりゃあ、暑くもなるってことか。


「おひるのじきに、いっぱいからだを、あっためておくさ~」

「ひなたぼっこして、よるにそなえるさ~」

「おひさまをあびておかないと、あとでこまるさ~」


 昼の時期に、いっぱいお日様を浴びておくとな。

 ……まあたしかに、日光浴をしないと骨がスッカスカになる。

 ビタミンDが出来ないからね。

 しっぽドワーフちゃんたちは、そうして日光を沢山浴びて、夜に備えるってわけか。


「あえ? みんなこのあつさ、へいきです?」

「へっちゃらさ~」

「なんともないさ~」

「これが、ふつうさ~」


 ハナちゃんの問いかけに、みなさん元気に答えた。

 赤いしっぽをぱたぱた振って、ご機嫌な様子だ。

 でもまあ、水分補給と塩分補給はしっかりやってもらおう。


「なるほどね。でもみんな、ちゃんと水を飲んで塩を取ってね」

「わかったさ~」

「あっちでも、それはやってたさ~」

「だいじなことさ~」


 ひとまず注意事項は伝えた。あとは、ちょくちょく様子を見てだね。

 それじゃ、お話はここでおしまいだ。

 おのおの暑さに気をつけながら、一日を過ごそう。


「ハナちゃん、今日は一緒に涼もうね」

「あい~! タイシといっしょに、すずしいところですごすです~」


 一緒に涼もうと提案すると、ハナちゃんご機嫌でお耳がぴっこぴこだ。

 さてさて、どこで涼もうかな?



 ◇



「およぐと、すずしいです~!」

「暑い夏と言ったら、水遊びですよね!」

「そうだね!」


 夏と言ったら水遊び!

 ということで、ハナちゃんやユキちゃんといっしょに、ドワーフの湖で泳ぐことにした。

 ドワーフの密林は結構暑いのだけど、水は適温。

 泳ぐのにもってこいなのだ。

 今は二人を背中に乗せて、のんびり泳いでいる最中だ。


「きゃう~」

「わきゃ~」


 そして俺たちといっしょに、カワウソちゃんと子供ドワーフちゃんが泳いでいる。

 どちらもしっぽがあるだけに、泳ぎはとっても上手だ。

 というか、本気出されたら勝てない。


「わきゃ~。うちらも、せなかにのっていいさ~?」

「おもしろそうさ~」

「おねがいするさ~」


 やがて子供たち三人が、俺の背中に乗りたいとお願いしてくる。

 もちろん乗せてあげちゃうよ。


「それじゃあ三人とも乗せちゃうよ。みんなおいでませ」

「わきゃ~! ありがとうさ~」

「おじゃまするさ~」

「おっきな、せなかさ~」


 わきゃきゃっとはしゃぐ三人を背中にのせて、再び泳ぎ出す。


「タイシ~、つぎはあっちにいきたいです~」

「あっちだね。それじゃあ行くよ!」

「わきゃ~! はやいさ~!」

「わわわ! 大志さん急加速ですね!」


 みんなを乗せて、ちょっと本気で加速だ。

 喜んでいるようなので、このままの速度で泳ごう!


「きゃうきゃう!」


 ニホンカワウソちゃんも、いっしょに泳ぎだした。

 これは賑やかで良いね。


「きゃう!」


 あ、置いてかれた……。

 さすが、しっぽのある生きものは泳ぐのが上手いな。


 ――そうしてひとしきり泳いているうちに、午後になった。


 お昼休憩を兼ねて、湖畔で一服つけることにする。

 一休みしたら、またみんなで泳ごう。


 そしてここで――ミッションだ。


「ユキちゃん水着を新調したんだね。シャチさん模様が可愛くて、よく似合っているよ」


 これを忘れたら、危ないからね。

 実際、お世辞じゃなく可愛いのだけど。


「カワイイ。ふ、ふふふふ……」


 ユキちゃん、ご機嫌で耳しっぽがもっふもふだ。

 ……水に濡れても、もふもふなのね。


「ハナちゃんも、水着良く似合ってるよ。可愛いね~」

「うきゃ~」


 もちろんハナちゃんも忘れず褒めておく。ミッションだからね。

 これで、忘れると危険なミッションは全てクリアだ。

 あとはゆっくり、休憩しよう。


「みんな、冷たい飲み物でも飲んで、ゆっくりしようね」

「あい~!」

「そうですね。喉も乾いて来た所ですので」


 そうして、みんなで飲み物を飲もうとしたのだけど……。


「あえ? むぎちゃが……ぬるいです?」

「あっちゃ~、魔法瓶の口が開きっぱなしだった」

「いくら魔法瓶でも、蓋を開けておくと……やっぱり早くぬるくなっちゃうんですね」


 冷たい麦茶を入れてあった魔法瓶の蓋が、開きっぱなしであった。

 開口部が広い瓶だったので、すっかりぬるくなっている……。


 ここまで来てぬるい飲み物で我慢するのもアレなので、別に用意しよう。

 村まで戻って、冷たいわき水を汲んでくればいいかな?

 ぱぱっと行って来るか。


「わきゃ? タイシさんどこいくさ~?」


 ゴムボートに乗り込んで村に向かおうとする俺を見て、ちっちゃドワーフちゃんが声をかけてきた。

 赤いしっぽをぱたぱた振って、好奇心旺盛な目で俺を見上げる。

 冷たい水を汲みに行く事を伝えておくかな。


「冷たい水を飲みたいから、村まで行って汲んでこようと思ってね」

「わきゃ? つめたいやつを、のみたいさ~?」

「そうなんだ。このお茶、ぬるくなっちゃっててさ」


 麦茶をコップに注いで、ぬるいよアピールだ。

 さすがにこれを飲むのは、ちょっと悲しい。


「この暑さでぬるいお茶は、ちょっとね。ほら、持ってみてよ」

「わきゃ」


 しゃがんでちっちゃドワーフちゃんにコップを渡すと、わきゃっと両手で受け取った。


「なるほど、すっごくぬるくなってるさ~」


 手に持った時点で、ぬるさはすぐ分かるね。

 それじゃ、分かって貰えたところで、冷たいわき水を汲みに――。


「わきゃ~、でもこれくらいなら、だいじょうぶさ~?」


 ――ん? 今なんと?


「ちょっとまつさ~。……わわわきゃ~!」


 確認する間もなく、ちっちゃドワーフちゃんがなにやら気合いを入れた。

 両手でぬるい麦茶の入ったコップを持って、わきゃきゃっとかけ声だ。

 赤いしっぽもピンとまっすぐ立って、力が入っている。


 ……一体、何をしているのかな?


「はい! できたさ~」


 そして十秒ほどわきゃきゃっとした後、コップを手渡される。

 それを手に持つと――。


 ――冷えていた。


 ぬるかった麦茶が――キンキンに冷えている!

 なんだこれ! 何が起きたんだ!


「わきゃ?」


 この子は一体、何をしたんだ――。


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