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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十八章 エルフ技能
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第四話 女子は大変なんです


「およぐのよ~!」

「やせるの!」

「うつくしくなるの~!」


 無事水着が着られるようになった女子たち、移動させたお脂肪が元の位置に戻る前に、なんとかする。

 そんなわけで、ドワーフの湖にて水泳することになった。

 今はエルフカヌーを使って、みんなで湖へと移動中だ。


「タイシ、のんびりいくですよ~」

「そうだね、のんびり行こうね」

「モーターボート並に加速しなくても、近いですからね」


 俺のカヌーには、ユキちゃんとハナちゃんが同乗している。

 前にユキちゃん、俺の膝の上はハナちゃんという構成だ。


「でも、移動は楽で良いね」


 この川は重力に逆らう特殊な流れがあるので、湖との行き来が凄い楽だ。

 これは、わさわさちゃんの好意、なんだろうな。


「中央部は普通に下へと流れていますからね」

「らくちんです~」


 わさわさちゃんが伸ばしてくれた川は、一つの川なのに流れが三つ存在していた。

 川の外側、いわゆる岸辺は重力に逆らい上へと流れる。

 しかし中央部は、下流へと流れていく。

 両側の岸辺は村へと向かう流れ、中央部は湖へと向かう流れだ。


 湖から村へ来たい場合は、外側の流れに乗る。

 村から湖へ行きたい場合は、中央の流れに乗る。

 たったこれだけ。


 湖からやってくる、重力に逆らう流れは村の近くにある川の行き止まりで向きを変え、中央の下り流へと変化する。

 まごう事なき、異世界の法則で流れている川だ。


「漕がなくても良いのは、便利ですよね」

「もっと便利にするために、あの行き止まりの所に桟橋を架ける計画立てているよ」

「おもしろそうです~」


 高橋さんがリーダーとなって、おっちゃんエルフとマッチョさんとの三人で設計中だ。

 桟橋が出来れば、カヌーへの乗り降りも楽になるだろう。

 ちょっとずつ、ドワーフの湖との交通を良くしていきたい。


「きゃう~」

「――あや! タイシ、なんかいるです~!」


 さらに、この川には面白いことが起きていた。


「大志さん、あれって……もしかして!」

「そうだよ。あれが、ニホンカワウソちゃんだよ」

「きゃう~」


 この川には、カワウソが棲み着いた。

 ちたまの生きものを、受け入れているのだ。


「あや~、おっかけてくるです~」

「お魚が欲しいんだろうね」

「わあ、可愛いですね!」


 カワウソちゃんの中でも人懐こい性格の固体が、通りがかる人に甘えてくる。

 あんまり構うのも良くは無いのだけど、彼らも人恋しいのだろう。

 恐らくだけど、川で釣りをしているエルフやドワーフちゃんたちと、仲良くなってしまったのだろうと思う。


「きゃ~う!」

「あや! けっきょくじぶんで、おさかなつかまえたです?」

「チャンスを逃さない子ですね……」


 ただ野生はちゃんと残っているようで、自分で何とか出来るときは、何とかするようだ。

 人に依存しているわけでは無く、ただ単に遊んで欲しいだけなんだろうね。

 適度に遊んであげて、節度をもって関係を保っていけたらなと思う。


「わきゃ~、きょうはいいてんきさ~」

「のんびりするさ~」

「きゃ~う」


 岸辺ではしっぽドワーフちゃんたちが、カワウソちゃんたちと日向ぼっこをしているのも見えたりする。

 水棲の生態があるから、ああやって体を温めるのが好きなんだろうね。

 なんにせよ、楽しい仲間が加わったという感じだ。


「……大志さん、ニホンカワウソって、こんなに沢山いたんですね」

「この領域が、最後の楽園だからね」

「のんびり、くらすです~」


 ちたまでは、いなくなってしまったはずの種。

 だけど、ここには存在する。


「きゃう~」


 ……こんなにいたとは、俺も思っていなかったけど。

 まあ、ニホンカワウソちゃんが歓迎してくれる川が、ここに出来た。

 この現代ではあり得ないはずの光景を、しばし楽しもう。



 ◇



 カワウソちゃんのお出迎えでほんわかした後は、ガチ水泳大会の始まりだ。


「あのおおきな、きのところまでおよぐわよ~!」

「いくべし」

「がんばるの!」


 ライフジャケットを着けた女子たち、早速湖中央の大樹まで泳ぐようだ。

 さすがみなさん、やる気十分だね。


「うちらは、みはりをしているさ~」

「あの人たちを、よろしくね」

「まかせるさ~」


 もちろん、ライフセーバー役でしっぽドワーフちゃんたちをお雇いしている。

 日当はエルフたちが管理している村の予算から出るので、俺はノータッチだ。

 ヤナさんがまとめていたので、おかしな事にはならないだろう。

 あの人、良い感じの予算案を作ってくれる。

 PCが使えるようになったら、もっと予算管理は楽になるだろうね。


「わきゃ~、そっちはふかいから、いっしょにいくさ~」

「ありがとうね~」

「どうしたしましてさ~」


 日当が出るので、しっぽドワーフちゃんたちも張り切っている。

 あっちはお任せして、俺たちは調査と行こうか。


「それじゃあ、自分たちは調べ物をしようね」

「あい~!」

「お手伝いしますね」


 ハナちゃんとユキちゃんを引き連れて、ドワーフちゃんと打ち合わせを始める。

 ちたまに移住してきて間もないから、色々と足りないものはあるだろうと思う。

 しっかり調査して、暮らしやすく整えてあげたい。


 そういうわけで、代表者のお母さんドワーフちゃんと打ち合わせだ。

 湖畔でおやつでも食べながら、のんびりヒアリングをする。


「現状で何か困っていること、足りない物とかあるかな? 食べ物とか」

「いまのところは、だいじょうぶさ~」


 ――会議、終了。

 開始三十秒だ。


 まあそりゃそうだよね。元々暮らしていた所と同じ環境があり、家もある。

 お花畑で過ごせば良い妖精さんたちと同じで、生活の基盤がすでにあるわけだから。

 でもこれで話が終わるとアレなので、こっちから突っ込んでお話をしよう。

 たとえば、いずれ不足するであろう物資について。


「みんなが使っていたアダマン、あれはいずれ足りなくなるんじゃ無い?」

「わきゃ! そうかもさ~」

「だよね。今あるのは、洞窟の『門』が閉じる前に集めた物だけだから」


 いちおう、救助のお礼に貰った精錬済みのアダマンと、「門」が閉じる前に急いで集めた未精錬の原石は沢山ある。

 ただし「門」は閉じているので新たに調達はできないため、今ある物しか無いとも言える。

 いつ帰還出来るか分からないのだから、計画的に使う必要はあるわけだ。


「現在保有しているアダマンは計画的に使うとして、代替物資を活用する必要があるかなって思うんだよ」

「たしかに、そうさ~」

「と言うわけで、ちたまに沢山ある『鉄』やその他の金属を使うことも、考えておいてね」

「てつ! てつがつかえるなら、うちらもうれしいさ~!」


 鉄と聞いた途端、お母さんドワーフちゃんは、わっきゃわきゃになった。

 ドワーフィンでは貴重品の鉄を使えるかもしれないのが、なんだか嬉しいみたいだ。

 後日になるけど、サンプルとして金属素材をいくつか渡してみよう。


「色んな金属や、鉄やそれらの合金を持ってくるから、確認してみてね」

「ありがたいさ~」


 これでひとまず、俺が懸念していた部分は前に進んだ。

 後は何かあるだろうか?

 ハナちゃんやユキちゃんにも、意見を出して貰おう。


「二人とも、何かこれが必要かもって意見、ある?」

「みんなのおようふく、どうするです?」

「他にも、女の子の身だしなみに必要な用品とか、色々あるかと思います」


 ハナちゃんからは着る物、ユキちゃんからは身だしなみ関連の指摘が来た。

 その辺の細かいところも、色々あるね。


 そうして二人の提案から、布と裁縫道具の提供や、ブラシや鏡などの身だしなみ用品を提供する話をしていく。


「わきゃ~、そんなによくしてもらったら、もうしわけないさ~」

「その分は村のお仕事をしてくれれば、こちらとしてはトントンだよ」

「わかったさ~、むらのおしごと、がんばるさ~!」


 お願いしたい仕事は、結構沢山ある。

 例えば村にある宿泊施設では、洗濯しないといけないシーツが沢山でてくる。

 そのお手伝いや、今もやって貰っている温泉掃除。

 他にも、今はエルフたちが担当している単純作業を変わって貰うのも良いかもだ。

 それが可能になったら、エルフたちは農作業や勉強、各自の専門分野を活かした仕事に専念できる。


 人手が増えた分だけ、分業も出来る。

 その結果、より高度な仕事へと移ることも出来る。

 しっぽドワーフちゃんたちが村の維持管理に加わるのは、とっても助かるわけだ。


 特に現在試運転中の電源施設は、充電するときに電源となるエルフを、それなりの時間拘束してしまうことが判明している。

 その分今までやっていた村の維持管理に割ける時間も減るので、どうしてもその穴を埋める人材が必要となってくるわけで。

 しっぽドワーフちゃんの活躍に、期待したいところだ。


「それでは、ひとまずこんな所で」

「みんなにも、はなしておくさ~」

「お願いするね。村への通勤や移動には、ゴムボートを使って良いから」

「たすかるさ~」


 お母さんドワーフちゃんと話をまとめて、今日の会議は終了だ。

 さてさて、この後は特に予定が無い。

 何して過ごすか、ハナちゃんやユキちゃんと相談してみるかな。


「これで今日のお仕事は終わったのだけど、この後どうする?」

「フネで、みずうみをいっしゅうするです~!」

「それは面白そうね!」


 今日は水着を持ってきていないので、泳ぎは無しだ。

 でも、カヌーで湖をのんびりクルーズするのは良いね。


「じゃ、のんびり湖を一周しよう。自分が漕ぐから、二人はのんびり過ごしてね」

「わーい! タイシありがとです~」

「それでは、お言葉に甘えます」


 ニコニコ笑顔の二人をカヌーにのっけて、のんびりと漕ぎ出す。

 爽やかな青空が湖に映り込んで、なかなか気分が良い。

 岸辺を沿うように、ゆっくりと進んでいく。

 すると、だいえっと中の方々と遭遇した。


「あらタイシさん、こんにちは」

「いま、きゅうけいちゅうなの」

「けっこう、つかれました」

(ども~)


 女子エルフたちはのんびりと、岸辺の所でくつろいでいた。

 何故か神輿もいっしょに、長方形のちいさなプール? みたいな構造物の所で休んでいる。

 ……あんな構造物、この間は無かったよな?

 これって、浴槽なのかな? ちょっと聞いてみるか。


「みなさん、その浴槽みたいなのは何ですか?」

「これはそのまま、よくそうらしいです」

「ここで、からだをあっためるそうなの」


 カナさんとナノさんが返答してくれたけど、そのまんま浴槽らしい。

 体をあっためるという事だから、お風呂によく似た物だね。


「あや! これって、おふろです?」

「そうよ、おふろみたい」


 ハナちゃんも興味深そうに、浴槽を見つめている。

 まさかこの場所にお風呂があるとは、俺も思わなかった。


(おふろ、きもちい~)


 神輿もご機嫌でお風呂に浮かんでいるけど、湯気が出ているところをみるとお湯が入っているんだろうな。

 水着を着たまま入れる、温水プールってところか。

 これはこれで、便利だね。


 ……しかし一体誰がこの構造物をつくって、お湯を入れたのだろうか?


「これを作ってお湯を入れたのって、どなたですか?」

「あのこたちが、じゅんびしてくれてていたわ~」

「あえ? むこうで、おしごとしているひとたちです?」


 腕グキさんが指をさした先には、黄色しっぽのドワーフちゃんたちがいた。

 木のへらや板を持って、なにやらどろんこで作業をしている。

 興味がわいたので、ちょっと話を聞いてみよう。


「ちょっとお話を聞いてみたいから、あっちに移動するね」

「あい」

「何をしているのでしょうね?」


 ハナちゃんもユキちゃんも興味があるようなので、早速行ってみよう。

 あの子たちのそばに、カヌーを横付けしてっと。


「わきゃ? タイシさんさ~」

「こんにちはさ~」


 カヌーを横付けすると、みんな挨拶してくれた。

 こっちも挨拶して、何をしているか聞いてみよう。


「みんなこんにちは。それって、何をしているの?」

「よくそうを、みんなでつくっているさ~」

「からだをあっためるばしょ、いえのちかくにも、ひつようさ~」

「おんせんとここで、どっちでもおふろにはいれるさ~」


 どうやら、現在浴増設槽工事中らしい。

 泳いで食料採取を毎日するだけに、近間にもお風呂が欲しいってとか。

 すぐに体を温めたいってときも、あるんだろうな。


「なるほど、家の近くにもお風呂は欲しいよね」

「あればあったで、べんりさ~」

「つくるのはむずかしくないから、よういしとくのさ~」


 そう返答しながらも、スコップみたいな道具で土を掘ったり、粘土を塗って底面や側面を平らにならしている。

 大勢で作業しているからか、結構な速度で出来上がっていくね。


 ……でも粘土を乾燥させただけじゃ、お湯を入れたら溶け出さないかな?

 しかし腕グキさんたちが入浴していた浴槽は、お湯が透明だった。

 これは何でだろう? ちょっと聞いてみよう。


「粘土を乾燥させただけだと、浴槽には使えないよね?」

「かんそうさせたあと、たきぎをつめこんで、ねんどをやくのさ~」

「なるほど、この浴槽は……大きな焼き物になるんだね」

「そうさ~」


 聞いてみれば簡単な話だった。

 ようするに、しっぽドワーフちゃん制作のお風呂は、でっかい土器みたいなものか。


「やくときは、このアダマンのいたで、ふたをするさ~」

「うえにつちをかぶせて、じっくりやくのさ~」


 けっこうコツが必要な感じはするけど、そうして浴槽を短期間で作っちゃうのか。

 これはなかなか、面白い技法だな。

 お風呂好きな種族だからこそ、生み出せた方法なのかもね。


「みんなは、お風呂が大好きなんだね」

「からだをあっためるのは、いいものさ~」

「おふろがあれば、ぬっくぬくさ~」

「まいにち、はいるさ~」


 川や湖で泳ぐのが必須な生活様式だから、体を温めたり清潔にしたりするのは重要なんだろうね。

 また一つ、しっぽドワーフちゃんたちの生態を知ることができた。

 これからも、この子たちの生活や文化を理解していこう。


「それじゃあ、お仕事頑張ってね」

「まかせるさ~」


 好奇心を満たせたところで、本来の湖クルージングに戻る。

 ハナちゃんとユキちゃんを乗せて、のんびり湖を流していく。


「わきゃ~、こんにちはさ~」

「おさかなたくさんとれたから、おすそわけするさ~」

「ありがとです~」


 途中で食料採取中のドワーフちゃんと遭遇し、お魚を貰ったり。


「あえ? タイシあれなんです?」

「あれは……ゴムボートの上に……テント?」

「大志さん、行ってみましょうよ」


 ゴムボート上で小型のワンタッチテントを幕営している、変な物をみたり。

 試しに近づいて確認してみると……。


「……子供が三人、お昼寝しているね」

「ぐっすりねているです~」

「可愛いですね」


 テントの中では、リーダードワーフちゃんのお子さん三人が、すやすや寝ていた。

 水上キャンプ、みたいな事をしている……。

 体の小さいこの子たちにとっては、ゴムボートでも大型船だ。

 小型のワンタッチテントだって、大きなドームとなる。

 それらを組み合わせて、水上拠点を作り出したんだな。


「この発想はなかった……」

「小さな体だからこそ、出来ることですかね」

「たのしそうです~」


 ちたまの道具を応用し始めているのを見て、ドワーフちゃんたちの柔軟さを実感だ。

 ハナちゃんは水上キャンプに興味を持ったようで、お目々キラッキラだ。

 今度機会があったら、この水上拠点に遊びに来るのも良いかもね。


「今日はみんなお昼寝中だから、そっとしておこうか」

「そうするです~」

「起こしたら、かわいそうですものね」


 今日はひとまずお昼寝の邪魔をしないよう、そっとゴムボートから離れる。

 こうして、泳ぎ回るドワーフちゃんやボートでのんびりする子たちと交流しながら、のんびりクルージングを続けた。


「タイシタイシ~、つぎはあっちにいきたいです~」

「大樹だね。それじゃあ行くよ」

「あい~!」


 クルージングの最後は、ハナちゃんのリクエストで大樹に立ち寄りだ。

 わさわさちゃん本体から、一番近い場所だね。


「いつ見ても、大きいですね」

「日本国内でも、これほどの大樹はないよね」

「でっかいです~」


 三人で大樹を見上げ、木の幹を撫でてあげて。

 遊びに来たよと挨拶だ。


「タイシ~、せっかくだから、はいをまいてくです~」


 ハナちゃんが何かの袋を取り出して、キャッキャしている。

 灰を撒くらしいけど、準備していたのかな?


「ハナちゃん、準備良いね」

「こういうことも、あろうかとです~」

「さすがハナちゃんだね」

「うふ~」


 褒めてあげるとご機嫌になったハナちゃん、うふうふ状態のまま灰を撒き始める。

 すると――。


「おはな、さいたです~!」

「綺麗ですね!」

「わさわさちゃん、今日も元気だね」


 いつものように、ぽぽんと花が咲く。

 今日も平和で、何よりだ。

 しっぽドワーフちゃんを優しく受け入れて、カワウソちゃんも受け入れて。

 俺たちも受け入れてくれる。


 ……エルフィン惑星系に存在する、この謎の植物。

 環境を生み出す、スフィアのような存在。

 上手に、共存していこう。



 ◇



 ドワーフの湖で一通り楽しんだ後は、村に帰ってお勉強だ。


「からだ、がっくがくだわ~」

「およぎすぎたの……」

「でも、やせるためにはこれくらいでないと……」


 減量に勤しむ女子たちは、もう既に筋肉痛ぞんびさんな感じ。

 というか、動きがそのまんまぞんびである。


「おつかれだね! これどうぞ! どうぞ!」

「つかれがとれる、おかしだよ! おかしだよ!」

「ふとらないやつ~」


 筋肉痛ぞんびさんたちには、妖精さんたちから……太らないお菓子が振る舞われる。

 新たなレシピを、提供してあるのだ。


「つめたくて、おいしいわ~」

「けっこうあまいけど、これってふとらないの?」

「どうなのかしら?」


 妖精さんたちから提供されたお菓子を、もぐもぐと食べ始めるみなさん。

 わりと甘いのだけど、まあ大量に食べなければ大丈夫なのですよ。


「タイシさんもどうぞ! どうぞ!」

「おすそわけだよ! おすそわけ!」

「たーんとおたべ~」


 俺たちにもお菓子が振る舞われたけど、良く出来ている。

 一口食べると――果物の風味に、冷たくてぷるんとした食感。

 いわゆる、ゼリーというか、寒天で作ったお菓子だ。


 寒天は百グラムで三キロカロリーしかない。

 糖質もゼロなので、減量にうってつけだ。

 加えてあるのは風味をつけるためのわずかな果汁と果肉なので、超低カロリーとなっている。

 これであれば、おやつをガマンしなくても良いわけだね。


「これなら、もの凄い大量に食べない限りは大丈夫ですよ」

「ありがたいわ~」

「おやつをがまんするの、たいへんだものね~」

(おいしい~)


 いつの間にか神輿も加わって、寒天ゼリーでおやつ会となった。

 まあそれなりに安心して食べられるだけに、みなさん笑顔だ。

 あんまり我慢しても、減量は続かない。

 これくらいゆるいのが、良いよね。


「あついときには、このつめたいおかしが、おいしいです~」

「ハナちゃん、沢山食べてね」

「あい~」


 ハナちゃんもお気に入りのおやつのようで、暑い夏には食べやすくて良いらしい。

 もぐもぐと寒天ゼリーをほおばって、ニコニコ笑顔だ。


 そうして楽しくおやつを食べながら、コツコツと勉強をするのだけど……。


「えすて……えすて……」


 ――ひとりだけ、雰囲気がちがう女子がいた。

 いつも「うつくしくなるのよ」と言っている、ひときわ美にこだわりのある奥さんだ。

 この間連れて行ったエステで、完全に目覚めてしまったようで……。


「おれのじまんのよめさん、てつやしてべんきょうしているのだ」

「あんまり無理すると良くないので、気を遣ってあげてください」

「そうするのだ」


 旦那さんのおっちゃんエルフも、ちょっと心配している。

 だって奥さん、目が血走っているのだもの……。

 なんとしても、エステの勉強がしたい、そんな気迫がみなぎっている。


「あや~、すごいはくりょくです~」

「あのエステを体験したら、無理もありません」

「すごかったです~」


 エステ体験組のハナちゃんとユキちゃんは、どうやら肯定的なんだけど。

 どうもあのサロンでの体験は、それほどのものだったらしい。

 ……やっぱあのエステサロン、なんかおかしいのでは?


「えすて……なんとしても、資かくを取るのよ……!」


 もの凄い気迫のえすてさん、ガリゴリと漢字の書き取りを進めている。

 けっこう勉強が進んでいるのは、積み上がったノートでわかる。

 あんまり、根を詰めないでやってくださいね……。


 とまあ、一部心配なところはあれど、今日も村は平和だ。

 電源設備の本稼働も間もなくだから、のんびりやっていこう。


「えすて! もっと美しく……!」


 え、えすてさん……。そのノートで、十冊目ですよ……。

 もうちょっと、のんびりやっていきましょう……。


おや? えすてさんの様子が……。

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