第二話 想定外の爆弾
――現在地、北信運転免許センター。
「――大志さん! 合格! 合格しました!」
「ユキちゃん、やったね!」
「やりましたー!」
ユキちゃん、学科試験を無事クリア!
これでようやく――普通自動車免許、合格だ!
やったねユキちゃん!
……ちなみに、魔女さんはとっくの昔に取得済みらしい。
ほんと、すまぬ……すまぬ……。
「やったー! 嬉しー!」
それだけ引っ張ってしまったせいか、ユキちゃんすごく大喜びだ。
嬉しさのあまり、ぴょんぴょんと跳ねている。
耳しっぽがもふっと顕現するほど、浮かれていらっしゃいますなあ。
ふさふさもっふもふですなあ。
「よく頑張ったね。偉いよ」
「ありがとうございます!」
「あとは、発行手続きだけだね」
「ええ!」
そんな大喜びのユキちゃんと、キャッキャしていると――。
「――ねえ、あの子」
「コスプレ?」
……ん? 周囲の視線が、痛い。
一体何が――。
「耳としっぽ……?」
「すごい、本物みたい!」
……あ。
――ああああ!
完全に顕現してる! 見えちゃってるんだ! 耳しっぽが!!!
浮かれすぎだよユキちゃん!
「ち、ちょっとこっちに行こう」
「はえ? どうしました?」
「はい深呼吸、すって~、はいて~」
もふもふ耳を手で押さえ、後ろに回ってしっぽを隠し。
なんとか、ごまかした。
「それでは、手続きをしてきますね!」
「……行ってらっしゃい」
耳しっぽ全開だったのに気づかなかったユキちゃん、そのまま免許発行の手続きに行った。
浮かれて正体をばらすとか、修行が足りませんなあ……。
……しかし、あの耳のもふもふ。
――予想通り、素晴らしい毛並みでござった。
たまには、こういうトラブルも良いかもね。
そんな出来事がありつつも、無事手続きが終了。
「じゃじゃ~ん! 免許ですよ~!」
発行したて、ぴっかぴかの緑免許を携え、ユキちゃんご機嫌だ。
写真写りも良いし、見せたくなるのも気持ちは分かる。
「綺麗に撮れてるね。免許センターでの撮影って、無残な写真になるのが普通なのに」
流れ作業で撮影していくから、撮る方も撮られる方も余裕が無い。
ここで綺麗に撮って貰うのは、至難の業なのだ……。
でも、ユキちゃんの免許にある写真は、ピシっとしている。
耳しっぽが写ってしまう、ある意味心霊写真にはなっていなくて一安心だ。
「運が良かったかもですね! 数年この写真だから、ほっとしました……」
にっこにこで免許を眺めるユキちゃん、多少落ち着いたのか、耳しっぽは実体化していない。
よかったよかった。
ほんと、よかった……。
でもこれで、ようやく免許取得のお祝いが出来るね。
実は準備してあるから、お誘いしてみよう。
「ユキちゃん、前に言ってた……免許取得のお祝い、うちでしようか」
「え? 良いのですか!?」
「もちろん。実は準備してあるから、盛大にお祝いしちゃうよ」
「――それは嬉しいです! ありがとうございます!」
ユキちゃん、こぼれんばかりの笑顔だ。
普段のお礼も兼ねて、思いっきり祝っちゃおう!
――ちなみに。
俺の家でお祝いをしていたとき、ユキちゃんは耳しっぽを顕現させっぱなしだった。
爺ちゃん婆ちゃん、そして親父とお袋も、見て見ぬふりをしていた。
ユキちゃん……俺の家族全員に、正体がバレましたよ……。
◇
実家で豪快にお祝いした翌日、車で村に向かう。
親父と爺ちゃんは一足先に村に行ったので、俺とお袋とユキちゃんが、後を追う形だ。
「き、緊張しますね……」
「ゆっくり行けば大丈夫、はい深呼吸」
「すーはー」
そして、今日はなんと――ユキちゃんの運転で村まで行くのだ。
保険にも入ってあるから、準備はできている。
「最初はだれも、そんな物よ。落ち着いて運転すれば、何とかなるわ」
「わかりました」
後部座席のお袋も、ガッチガチのユキちゃんを励ます。
そんなことを言うお袋も、マニュアル車での坂道発進がいまだに苦手である。
なのでお袋からは、具体的なアドバイスは何も出てこないと思って間違いない。
道中、俺がユキちゃんのサポートをして行こう。
「では、出発しよう!」
「はい!」
そうして、そろそろ~っと車を発進させるユキちゃんだ。
オートマ車だから、まあエンストとかは無い。
ゆっくり安全運転で、村まで目指しましょう!
――そして四十分後。
ユキちゃんの運転は、まあまあ大丈夫だった。
「あや~、タイシなにしてるです~?」
「いや、ちょっと脱輪してね」
「すみません……」
「これ位大丈夫よ、私も良くやるから」
村の手前で――脱輪した以外は。
「自動車も、こうなると走れないのですね」
「片側の二輪が落ちてしまうと、さすがに厳しいですね」
「あわわわ」
「これ、どうするです?」
事故現場にはエルフのみなさんが集まってきて、脱輪した車を見ている。
ヤナさんは上から下から眺めて、ユキちゃんはおろおろして、ハナちゃんは首を傾げて。
ちょっとした騒ぎになっちゃったね。
でもまあ、お袋が言うように、これ位なら大丈夫だ。
「手で持ち上げるから、すぐに復旧できるよ」
「え?」
「これ、持ち上げるのですか?」
ユキちゃんがきょとんとし、ヤナさんが信じられないような顔で俺を見た。
……まあこの車は二トンもないので、さくっと手で持ち上げられる。
脱輪なんて、たいした失敗じゃあないさ。
「それじゃ持ち上げますので、みなさん離れてください」
周囲の安全を確保して、ぐいっとお車を持ち上げる。
「……ほんとに持ち上がるんですね」
「昔この辺に道が無かったときは、良くスタックして手で持ち上げてたよ」
「おかしくないですか?」
「そうかな?」
車を持ち上げるくらい、普通の人でも出来るのでは?
ほら、ひょいっとな。簡単なお仕事だよ。
「はい、これで走れるよ」
「あっさり……」
「ちからもちです~」
「さすが我が息子、慣れた物ね!」
ユキちゃん唖然、ハナちゃんキャッキャの脱輪リカバリーだ。
お袋がたまに脱輪するので、これ位の作業ならもう慣れっこだ。
脱輪しないのが一番なんだけど、もう諦めた。
……さてさて、気を取り直して村に車を乗り入れよう。
「いま、なんかおかしいものみた」
「くるまをもちあげるとか、ふるえる」
「おれのじまんのきんにくは、やっぱりみためだけだったのだ……」
周りにいたギャラリーのみなさん、なぜかぷるぷる状態。
そんなに驚く事かな?
その辺の田んぼでも、農家の人が何人かで脱輪軽トラを持ち上げてなんとかしているのは、たまに見る。
ダートあるあるじゃないかな?
「まあこれで大丈夫だから、徐行して広場まで行こう」
「は、はい」
ユキちゃんを運転席に誘導して、車を動かして貰う。
周囲のギャラリーは、車から離れて貰わないとね。
「ではみなさん、車を動かしますので離れていてください」
「あい~!」
「はいみんな、さがってさがって~」
「みち、あけてくれ~」
ハナちゃんがぴょこっと車から離れ、マイスターとマッチョさんが周囲の安全を確保してくれた。
それじゃあ、車を広場に停めましょう!
◇
脱輪したのは無かったことにして、集会場で早速報告会をする。
「みなさんご存じの通り、ユキちゃんが車を運転する許可を貰いました」
「じゃじゃ~ん! これが自動車運転免許証というやつですよ!」
ユキちゃんウッキウキで免許証を掲げる。
この免許ちゃんは、最も実用的な国家資格ちゃんだ。
「自動車を運転するのって、なんだか難しい試験と実技を突破するのでしたっけ?」
「そうですね、結構時間がかかるうえ、お金もめっちゃかかります」
「かっこいい~!」
ヤナさんは、だいたい免許のことを理解してくれているね。
メカ好きさんも、免許証を見つめてお目々がキラッキラだ。
二人ともトラクターの講習時に色々教わっているから、大変なのも理解できるんだろうな。
「タイシ、これなしでじどうしゃをうごかすと、どうなるです?」
ハナちゃんは良くわからないようで、無免許だった場合について訪ねてきた。
そうだね……。
「見つかったら、怖い治安維持組織に捕まえられて……色々アレなことになるよ」
「こわいです~!」
(きゃ~!)
「ギニ?」
警察に掴まる的なお話をしたら、ハナちゃんと……何故か神輿が怖がってフクロイヌのフクロに逃げ込んでしまった。
フクロから足だけ出ているので、掴んでずりずりと引きずり出す。
「ほらほら、大人しくお縄につこうね」
「あや~! つかまっちゃうです~!」
(きゃ~!)
無事二人をお縄につけて、お話を再開だ。
「つかまっちゃったです~」
(にげられなかった~)
なぜかハナちゃんが左腕にひしっとしがみつき、神輿は俺の頭にしがみついた。
まあ、二人とも楽しそうだから好きにさせておくとして。
次は俺の資格の番だね。
「ちなみに、私は電気工事技師ってやつに合格しました」
「それがあると、何が出来るのですか?」
ヤナさんがしゅぴっと手を上げて質問だ。
さしあたっては、そのまんま電気工事なんだけどね。
「みなさんの大好きな電気ですけど、今設備をうちの父が作っていますよね?」
「ええ、ほとんど出来たってお話ですよね」
進捗はヤナさんにも報告してあるから、そのあたりは認識出来ているね。
親父のおかげで、ほぼ出来ている。
まあ、そこから電気を引くのに資格がいるわけだね。
「その電気を扱う設備は、資格が無いと工事出来ないやつが結構あるんですよ」
「食べ物を扱うのにも、色々大変なんですね……」
「え、ええまあ」
俺は家電を動かす目的で整備しているのだけど、ヤナさん的には食品貯蔵庫的な認識……。
電気すなわち食べ物、というエルフたちの感覚は、揺るがないようだ。
「強い電気はとっても危ないので、ちゃんとした知識を身につけた人以外は触らせないって言う仕組みなんですよ」
「確かに、勇者向けは見た目が危ないですね」
ヤナさん、とことん電気は食べ物扱いである。
この辺、我々ちたま人はその感覚を理解できない。
「おやつ、たのしみです~」
「まろやかだと、いいな~」
「でんきたくさんとか、すてき」
みなさんじゅるりとしているけど、基本はエルフたちから電気を貰って充電する予定なんだよね……。
早くも「みんなの電源計画」は、失敗しそうな雰囲気が漂う。
……ま、まあアルバイト代を出せば、充電してくれる人も出てくるだろう。
出てくるよね。出てくるかも。出てくると良いな……。
「ま、まあこうして資格が取れたので、いよいよ電気を有効活用したいと思います」
「一生懸命勉強すると、こうして色々な事が出来るようになりますよ!」
ユキちゃんがやっぱり免許を掲げて、話を軌道修正してくれた。
ありがたやありがたや……。
「今は田植えも終わって、一息ついたところです。去年のように、またコツコツと個人学習をするのも良いかと思いますよ」
「そうですね。私も、パソコンってやつに興味がありまして。お勉強したいなって思ってたのです」
「ヤナさん、パソコンに興味を持ちましたか」
「ええ」
ヤナさん、レジスターを弄ったり電卓を弄ったりと、計算機系が好きだったからね。
パソコン学習、良いかもだ。
「ハナは、おりょうりのおべんきょうがしたいです~!」
「わたしも、もっとおりょうりべんきょうしたいわ~」
「おいしいおりょうり、たくさんつくれるようになったら、すてきよね!」
ハナちゃんと腕グキさん、そしてステキさんはお料理学習か。
「ぼくは、きかいをべんきょうしたい!」
「おれは、けんちくかな」
「おれもおれも」
メカ好きさんは、案の定機械について。
おっちゃんエルフとマッチョさんは、やっぱり建築関係か。
「高度な知識を身につけるには、まず日本語学習が必要になるわよ」
「そのへん、よわいんだよな~」
「かんじってのが、めっちゃむずいじゃん?」
「ハナも、かんじはよくわからないです~」
それまで黙って見ていたお袋が、みんなの勉強について大事な点を指摘したね。
そう、日本語をある程度マスターしないと、高度なテキストは読みこなせない。
それを目標に、みんなコツコツと日本語を勉強してきたわけだけど……。
「まあ、まずは日本語学習、漢字を読めるようになるのが先ですかね」
「そうですね。日本語が読めるようになったら、勉強の進みかたが桁違いになりました」
実際に、ヤナさんがかなり日本語を習得していて、マニュアルとか読めるようになっているわけで。
「ヤナさん、かなり読めてますよね?」
「頑張りましたから」
とまあ、ヤナさんは心配ない。
でも他のみなさんは、まだまだだ。
ひとまず、日本語学習に力を入れようかな?
「それじゃあ、私がみんなに日本語を教えるから、大志も手伝ってね」
「わかった」
お袋が先生をやってくれるようなので、俺も手伝いながらぼちぼちやっていこう。
「ではみなさん、漢字をそれなりに読めるように――お勉強しましょう!」
「「「はーい!」」」
こうして、エルフ日本語学習が本格的に始まった。
日本語が読めさえすれば、エルフたちの世界がぐっと広がる。
みんなの出来ること、増やそうじゃないか。
◇
「これって『三』じゃね?」
「『山』でねえか?」
「よみかた、おなじじゃん」
辞書片手に、さっそくみなさん日本語学習を始めた。
ただ、漢字の音読み訓読みとかで混乱している。
その辺、慣れが必要だから、時間はかかるかもだ。
「タイシタイシ~! かんじ、かいてみたです~」
ハナちゃんは早速何かを書いてみたようで、ノートをキャッキャと見せてくる。
そのノートには――。
”大志”
――と、書いてあった。
ハナちゃん、俺の名前を真っ先に書いてくれたんだ。
「タイシのおなまえ、あってるです?」
上目遣いで、漢字が合っているかを聞いてくるハナちゃんだ。
ちょっとよれよれした字だけど、きちんと読める。
間違いなく、合っているね。
「合ってるよハナちゃん。ちゃんと読める」
「うふ~」
「いきなり名前を書いてくれるなんて、嬉しいね」
「うきゃ~」
「というか、最初からこれだけかけるのは、なかなか凄いよ」
「ぐふ~」
ギリギリの線を見誤ったけど、これはこれで良いかな。
「ぐふ~、ぐふふ~」
ぐんにゃりしたハナちゃん、ぐふぐふ良いながら俺の名前をたくさん書き始めた。
若干よれた字で、俺の名前がノートの一ページにギッシリと書き込まれる。
……ちょっと怖い出来上がりだけど、まあ気にしないことにして。
「ほほう、ここでマウスをクリック、と。ほらカナ、絵が描けたよ」
「はわー!」
そのとなりでは、ヤナさんがノートPCをこねくりして、パソコン学習だ。
どうやら絵を描いているようで、カナさんがはわっはわしている。
PCで絵を描けると知ってしまったら、もう止まらないだろう。
カナさんも、PCのお勉強に首ったけになるかもしれない。
……ノートPC、もう一台持ってきた方が良いかもだ。
「けっこう、むずかしいわ~」
「なかなか、おぼえられないものね」
「あたまこげる」
そして意外だったのが、女性陣が熱心なことだ。
これたぶん、エステ通信教育が目当てなんだろうな。
まだテキストで勉強できるほど日本語を習得していないから、引き続き頑張って貰おう。
「わりと、よめるようになってきたよ! よめるよ!」
「おもしろい、おはなし~」
あと、サクラちゃんとイトカワちゃんが、わりと読めるようになっていた。
もうすでに、妖精さんが活躍するマンガを読んできゃいっきゃいしている。
たまに読めない字があるときは、辞書をペラペラめくって調べたりとか、いつの間にか学習効果が出ちゃっている。
「君たちは、結構日本語を読めるんだね」
「かけないけどね! かけない!」
「なぜか、よめちゃうね! よめちゃう!」
言語学習あるあるだね。
ちたまにっぽん人だって、読めるけど書けない漢字だってわりとある。
しょうゆとかバラとか、覇王翔吼拳とか。
俺もわりと、紙に手書きをしたとき、漢字を思い出せなくてアレってなったりも。
手で書かないと、書き方忘れるんだよね。
「あや~、ミサキ、これってなんてよむです?」
「これはね……『しょうゆ大さじ三杯』って書いてあるの」
「なるほどです~」
そして分からないところがあると、お袋に聞いたりしているね。
ハナちゃん、お料理のレシピ本を読解しようと挑戦中のようだ。
「ミサキさん、これはなんてよむのかしら?」
「あ~『メインメニューの編集をクリックしてメニューを開き、全て選択をクリック』ですね」
「……わけがわかりません」
カナさんは、いきなりPC教則本から入っているのね。
……それ、漢字というよりPC用語を覚えるのが大変では?
「……では、これは?」
「それは……『リボンにあるブラシをクリックして、線の太さを選択します。その後カラーパレットで任意の色をクリックし、キャンバスに適当な線を描いてみましょう』ですよ」
「……――」
「あやー! おかあさんがたおれたです~!」
カナさんが、情報過多により倒れた。
……PC学習の道は、まだまだ時間がかかりそうだ。
とまあ三者三様の日本語学習が始まり、村のみんなは新たな知識獲得に向けて動き出した。
(けっこう、まちがっておぼえてた……)
あと、神輿も何故か書き取りを始めている。
謎の声によると、間違って覚えてたとか言ってるけど……。
神様、翻訳大丈夫ですよね? 変な変換、してないですよね?
◇
エルフたちがお勉強を本格的に初めて、数日。
「あまいものをたべながらだと、はかどるな~」
「お! このおかし、うめえ」
「ぜいたくな、ひととき」
勉強すると、甘い物が欲しくなる。
自然と、妖精さんが提供してくれるおやつを食べながら、のんびり言語学習をするようになっていった。
「おかしどうぞ! おかし!」
「せいこうしたやつ~!」
「たくさんあるからね! たくさんあるよ!」
妖精さんたちも、覚え立てのレシピを活用したくてしょうがないようで、どしどし作ってくれる。
お菓子作りの練習にもなるし、勉強もはかどる。
なかなか良い循環が出来ていて、これは予想外だった。
妖精さんたち、さっそくレシピという「知的財産」を、誰かのために活用してくれている。
こうして好意を受け取ったエルフたちも、やがて妖精さんたちに好意を返していくだろう。
良くして貰ったら、お返しをする。
そんな循環が起きているのを見ると、ほんわかするね。
「おちゃがはいったわよ~」
「みんなで、おやつをたべましょ!」
「あ、わたしもなかまにいれて~」
(まぜて~)
勉強の合間には、お茶会も始まる。
みんなでおやつを食べながらお茶を飲んで、休憩だ。
……勉強しながらおやつを食べて、休憩時にもおやつを食べる。
食べてばかりな、気がするけど……。
「あまいものは、いいわね~」
「おやつたくさんとか、すてき」
「たくさんあるからね! た~くさん!」
妖精さんは、美味しく食べて貰えるのが嬉しいのか、たくさんバームクーヘンをお皿に盛っている。
女子エルフのみなさん、キャッキャしながらぱくぱくと消費だ。
――そして俺は、この光景に何か違和感を感じた。
その違和感がなにかは、いまいちつかめないのだけど……。
いったい、俺は何がひっかかっているのだろうか。
「う~ん、なにかが気になる」
「あえ? タイシどうしたです?」
「何かが引っかかっているんだけど、それが何なのかが、分からなくてね」
ほんと、何だろうねこれ。のど元まで、出かかっているのだけど。
「あや~、ハナもきになるです~」
「あら、お二人ともどうしたのですか?」
「むむむ~」
ハナちゃんと一緒に悩んでいると、ユキちゃんも参加してきた。
……ユキちゃんからは、違和感を感じない。
もちろんハナちゃんも同じで、問題ない。
なぜだ。この違いは何だ。
「何だろう……」
「むむ~?」
この、謎の違和感。というか危機感。
理由が分からず、ハナちゃんとむむむ状態だ。
しかし、次の瞬間――違和感の正体が判明する。
「――ふとっちゃうかも、しれないわ~」
腕グキさんが――そう、言った。
太っちゃう「かも」しれないと。
「かもね~」
「まだ、だいじょうぶよ~」
(そうそう~)
腕グキさんのけっこう脳天気な言葉を、お茶会の女子たちは危機感なく受け入れている。
謎の声だって、危機感ゼロである。
……太っちゃう「かも」知れない?
なぜ女子たちは、将来の「可能性」として語っているのだろうか。
みなさん、現在もうすでに……ちょっとおふと――。
「あえ? タイシきづいたです?」
「大志さん、何か分かりました?」
……。
――何も無かった。
そう、俺は何も気づかなかった。
今この事実を開示してしまうと、大変な事になる。
この自体を打開する知恵は、今の俺には無いわけで……。
その方法を思いつくまで、気づかれてはならない。
「い、いや~。気のせいだったよ。単なる勘違い」
「ほんとです?」
「勘違いですか?」
ジト目で俺を見るハナちゃんとユキちゃんだけど、気づかれてはならない。
ならないのだ。
俺は危機管理に自信があるからね。
時に問題を先送りにするのも、また危機管理なのだ。
「おいしいわ~」
「すてき」
「あまいものは、べつばらよね~」
(そうそう~)
……いつまで、ごまかせるだろうか。
早急に対処するため、口の堅い男性陣を数名集めて極秘に対策会議をしよう。
この、突如として浮上してきた、おふと――爆弾。
慎重に、対処しなければならない。
――慎重にだ。
カロリーが質量となって還って……