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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十八章 エルフ技能
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第一話 エルフ工芸品、じわじわと……。


 お客さんを助けると、謎の力が還ってくる。

 しかし使い道はあまりないので、貯めこむしかない。

 結果、カタカタ言う黒い円柱がたくさんできちゃった。

 あのやばい感じの地蔵たちが出来たのは、そう言うことらしい。


 親父も爺さんも、その感覚は知っている。

 力が還ってきた感覚を、経験している。

 ……だけど俺に、そんな力は――還ってきていない。


 じゃあ、どこに行ったのか……。


(おそなえもの~!)


 ――ふと、感謝ぱわーを有効活用できる、あの方が脳裏をよぎる。

 よぎるというか、今目の前をすっ飛んでいった。


 まさかね。まさか……?


 ……今度、神輿と二人で遺跡デートでもしてみるか。



 ◇



 神輿をカタカタ爆弾展示場へのおデートに誘いたいけど、なかなか機会が見つからない。

 うちの極秘にかかわる場所だから、慎重に取り組まないと……。

 ひとまず機会を伺うことにして、日々のお仕事を片付けていくことに。


「はいみなさん、今日は田植えの大詰めですよ!」

「あとちょっとです~!」

「うえまくるぜ~!」

「こしがいたいわ~」


 今日はそんな努力のかいあって、最後の仕上げとなる。


「かっこいい~」


 あっちの方ではメカ好きさんが、器用に田植え機を操ってガンガン作業を進めている。

 こっちの手作業組も、負けてはいられない。


「タイシさん、このキラキラしたやつ、けっこう沢山作るのですね」

「ええ。みなさんが育てたお米は、良い出来でしたからね」

「そう言って頂けると、嬉しいですね」


 これから植える苗の束を見て、ヤナさんはほくほく顔だ。

 前回は作付面積が小さかったエルフ田んぼだけど、今回はおっきくしたからね。

 エルフキンキラ米の苗もたくさん育てたから、今年は大量に収穫出来るはずだ。


 あとは、ちたま人が世話するキンキラ苗田んぼと、エルフたちが担当するエルフ田んぼで違いがでるかも検証する。

 実験も出来て食料も生産できちゃう、一石二鳥の試みだ。

 上手く行くと良いな。


「おっし、ころがすぜ~!」

「まがってるわよ」

「まじで」


 となりの田んぼでは、田植定規である「六角」を転がすエルフたちも見える。

 やっぱり曲がってしまうようで、ワーキャーと騒いでいるね。

 こっちの田植えが終わる頃、あっちの泥も落ち着く。

 午後にとなりの田んぼを仕上げれば、田植えは完了だ。

 連携しながら、作業していこう。


「じゃあみなさん、腰痛と闘いながら――植えまくりましょう!」

「あい~!」

「うえるぜ~!」

「まかせて!」


 気合いを入れて、みなぎる闘志で田植えを開始だ。

 ……ただ作業は、ちまちまやるのだけど。


(おてつだい~)


 あと何故か神輿も苗束をもっていて、やる気十分。

 神様が、田植えのお手伝い……。

 こ、光栄です。


 とまあ、一部意外なゲストが参加しつつも、田植え終盤戦の始まりだ。


「うおっと! ……」

「あやややや!」

「あら~」


 さっそく、泥に足を取られてしりもちエルフが量産された。

 マイスターとかは、開始五分でスケキヨになっている。

 何をどうしたら、そうなるのかは分からない。


(それ~)


 その横では、神輿が華麗に苗を植えていく。

 水鳥が水中の魚を捕るがごとく、しゅぴっと降下してちゃぷっと苗が植えられて……。

 なんという鮮やかさ。


「か、神様凄いですね……」

「じょうずです~!」

(それほどでも~)


 田植え技術を褒められて、てれってれ神輿の出来上がり。

 謎の声も、嬉しそうだ。


 さてさて、こっちはいつも通り? な感じで安心だ。

 他の人たちはどうだろう?


「たうえって、むずかしいのな」

「あきらかに、ずれてる」

「あしが、ぬけない! どろにはまってぬけない!」

「こしがあああああ!」

「がんばりましょ!」


 ちらりと後ろを見ると、平原の焼き物五人衆も、平原の人田んぼで仲良く作業をしている。

 今日ははあにめさん、農作業着でお仕事だ。

 コスプレ姿では無いので、逆に新鮮。


「やっぱ、こしがいたくなるな」

「こういうしごと、ふだんはしないからなあ」


 さらにとなりにある、あっちの森田んぼはぼちぼち作業が終わりそうだ。

 元族長さんと団長さんが、最後の仕上げをしている。

 なんだかんだで、全体を見ると順調だね。


「がんばってね! がんばって!」

「おやつ、よういしておくからね! おやつ!」

「ギニ~」

「ニア~」


 そんな俺たちを、妖精さんたちやフクロイヌたちが応援してくれる。

 きゃいきゃいギニャギニャと、賑やかだ。

 まあ妖精さんたちはちいさいので田植えが出来ず、フクロイヌは言わずもがなだからね。

 無言で黙々と作業するよりはずっと良いので、その調子で盛り上げて頂きたい。


「わきゃ~! じょうずにできたさ~」

「まっすぐさ~」

「いいかんじさ~」


 そして意外だったのが、お手伝いのしっぽドワーフちゃんたち。

 ひょいひょいと田植えをこなしていて、綺麗に出来ている。

 よくよく観察してみると、しっぽを泥に突き立てて、バランスを取ったり支えにしたり、まっすぐ後退するためのガイドにしている。

 なるほど、しっぽを上手に使えるから、正確な田植えができるんだな。


「こ、腰が痛い……」


 しかし同じくしっぽがあるユキちゃんは、いまだにつたない感じ。

 あのしっぽは、もふもふ専用なのかもしれない。

 というか、最近はっきり視えるようになってきた。

 あのハネっ毛が気になってしょうが無い。


「……」

「? 大志さんどうされました?」

「ああいや、猫背だと余計疲れるから、背筋を伸ばすと良いかなと思って」

「なるほど、背筋を伸ばすですね」


 ユキちゃんしゃきっと背筋を伸ばし、耳しっぽもしゃきっとなった。

 なるほどなるほど、もっふもふ……。


「……」

「た、大志さん?」


 このしっぽハネっ毛を、いずれなんとかしなくては……。


「タイシ、タイシ。どしたです~?」

「おっと、ちょっと考え事をね」


 しっぽの毛並み改善計画を考えていると、ハナちゃんが心配して声をかけてきた。

 そうそう、今は田植えに集中しないとね。


「よーし! この調子で、今日には田植えを終わらせよう!」

「あい~!」

「あと少しですね!」


 そうして気合いを入れて、良い感じに田植えを再開。

 みんなで黙々と作業し、夕方――。


「はい! 田植えはこれで、無事終了です!」

「やったです~!」

「またまたおれら、やりとげた!」

「たっせいかん、あるわ~!」

「わきゃ~!」

(みんな、おつかれ~!)


 ――ようやく田植えが終了だ!

 あとは細かく水田を管理していき、収穫の秋を待つ。

 昨年と同様、きっちり管理していこう。


 今年は去年より、ずっと多くの作付面積を取った。

 たくさんの食べ物、実ったら良いな。



 ◇



 しっぽドワーフちゃん救助アンドお引っ越し。さらにはちたま移住。

 わさわさちゃんにょきにょきによる、ドワーフィンの湖形成。

 そして残された田植えを終えて……大きな仕事は一通り終わった。

 ようやく、ぼちぼちと過ごせる日々が――やってきたのだ!


 ――そして今、俺は佐渡にいる。

 ジェットフォイルでかっとんで、あっという間に港へ到着した。


「また、やきものをべんきょうするぞおおお!」

「いいかんじに、できるようになってきた!」

「まだまだ、われちゃうのあるけどねええええ!」

「ああああああ! やきものあああああ!」

「あにめ! あにめみなきゃ!」


 今日は、平原の焼き物五人衆を……佐渡に放流するお仕事だ。

 やっぱり俺、お仕事してる……。


「大志さん、あの人たち……異様にテンション高くないですか?」

「本来は、焼き物をしに来た人たちだからね。みなぎっちゃってるんだよ」


 お手伝いできてくれたユキちゃんも、五人衆の熱気に引いている。

 ちなみに、免許の卒検は後回しで来てくれた。

 すまぬ……すまぬ……。


「ひさしぶりの、さどです~!」

「海の香り、たまりませんね!」

「うみ! うみだわ!」


 あとはハナちゃんと、ヤナさんカナさんも連れてきた。

 お仕事の話に関係があるので、打ち合わせに参加して貰うためだ。

 この大人数で、陶芸おじさんの家へと向かう。


「それじゃあみんな、あの乗り物に乗って、おじさんの家に行こう!」

「いくです~!」


 というわけで、みんなで路線バスに乗ってのんびり移動だ。

 涼しい車内で、ゆらゆらと揺られながら目的地を目指す。


「あ、おりまーす!」


 ……目的のバス停近くでは、あにめさんがためらいも無く降車ボタンを押す。

 まさか――乗り慣れている!?


 そんな衝撃的場面に遭遇しつつも、全員無事降車。

 ぼちぼちと歩いて、陶芸おじさんの家に到着だ。

 ぴんぽーんと呼び鈴を鳴らして、俺たちの来訪を告げる。


「おうみんな! ようやく仕事が終わったか!」


 予定は伝えてあったので、さっそく陶芸おじさんが出迎えてくれた。

 相変わらず元気そうで、ほっと一安心だ。

 再会の挨拶と、お詫びをしないとね。


「お久しぶりです。長々とみなさんをお借りしてしまって、申し訳ないです」

「良いって事よ。なんでも、あの人らが必要だったんだろ?」

「ええ、良い仕事をしてくれました」

「なら、それで良いさ」


 わっはっはと笑って、焼き物研修が停滞した件は流してくれた。

 おおらかで、こちらも助かる。朗らかな人だ。


「まあ立ち話もなんだから、上がってくれ」

「それでは、お邪魔します」


 気を遣ってくれたようで、すぐさま家に上げてくれた。

 それじゃ涼しい家の中で、ぼちぼちと商談やら雑談やらをしよう。

 お土産もたくさんあるので、喜んでくれたら良いな。


「ただいまああああ!」

「やきもの! やきものしよ!」

「また、おせわになります!」

「うっわ、このおうち、すずしい!」

「あにめ~!」


 俺の後に、平原の五人衆がキャッキャ続いて家に上がる。

 ようやく、日常が帰ってきたって感じだね。


「俺たちは打ち合わせをするから、みんなは自由に過ごしてくれ」

「「「はーい!」」」


 陶芸おじさんは俺たちと打ち合わせ、平原の五人衆は自由時間だ。


「おれは、つちをこねるぜ!」

「おれもおれも」

「わたしは、つりにいこうかしら!」

「ちょっと、さんぽしてきまああああす!」

「あにめっ! あにめっ!」


 のっけから騒がしいみなさんだけど、おのおのが好きなことをしようと散らばっていく。

 あにめさんはキュアなやつを録画したBD片手に、お目々キラッキラだね。

 機種が違うのに、慣れた手つきでディスクをセットして鑑賞を始めた。

 ……この人、映像機器の使い方をマスターしている……!


「それじゃ、打ち合わせするか」

「え、ええ」


 あにめさんの成長はさておき、俺は俺でお仕事だ。

 まずは、あの五人衆について。


「まずご相談なのですが、研修生の五人ですけど……」

「ああ、彼らだけで研修を受けるって話だよな」

「そうです。ウチの現地サポートは、もう無くても大丈夫かなと」


 親父やお袋から話を聞いたけど、現地での生活は特に問題はなかったそうで。

 彼らは何でも食べるし人当たりは良いし、真面目に研修はしているうえ道交法も守る。

 で、うちのサポートが無くとも、良いのではと判断したわけだ。


「大丈夫だな。あの人ら、町内会のボランティアとか普通に参加してたし」

「……え?」

「そこでテレビ見てる人とか、町のポスターにもなってるぞ」

「――え!?」

「さっき釣りに行った人も、漁港でバイトしてる」

「ええ……?」


 思ったよりずっと、ダークエルフは佐渡の人になってた。

 溶け込むの、早すぎでしょ……。

 でもまあ、それなら大丈夫だね。これで一つの相談事は、クリアだ。

 それじゃあ次の相談だ。


「例のエル――石の工芸品ですが、仕入れをもっと増やしたいと言うことですが」

「ああ、予想より売れている。でかくて装飾の多いやつとか、あったら欲しい」


 今まで小物のエルフ石包丁を売っていたけど、人気が出ているとのことだ。

 お値段高めの、おっきな工芸品も欲しいとの要望が来ているのだとか。

 ……たしかに、大きな石包丁を窓際に飾れば、キラッキラして綺麗だろう。

 エルフ工芸品が、じわじわとちたま人に評価されている手応えがある。


 ――これは、話に乗るべきと判断した。

 ひとまず、サンプルを提供して様子を見るってことで、村では意見がまとまっている。

 平原の人や村のエルフたちに頼んで、力作を用意しちゃったんだなこれが。


わたくし共も良い話だと思いましたので……こちらを用意させて頂きました!」


 じゃじゃ~ん! 五十センチの大きさがある、キラキラエルフ石器だよ!

 ファンタジーロールプレイングゲームに出てくるような、凝った装飾付きの逸品だ。


「うおっ! なにこれ凄え!」

「かっこいいでしょう! ……想定しているお値段は、二百五十万円ですけど」

「いやこれ、売れるって! 売れる売れる!」


 エルフ力作石包丁を見たおじさん、大喜びだ。

 本体の原案ユキちゃん、デザインとスケッチはカナさん、加工は村人たち。

 さらに革製の鞘も付属していて、これはヤナさんがデザインと制作を担当した。

 制作にかかった手間を考えると、二百五十万円はギリギリのプライスである。

 正直、やりすぎた感は否めない。

 でも、かっこいいのは正義だよね!


「これはかっけえ! 俺も欲しいぜ! ……高いけど」

「まあこれは、特別品として……お手頃な物も用意しました」


 かっけーかっけーと盛り上がる中、ヤナさんがすすっと別作品も差し出す。

 これは十センチくらいの長さがある、ちょっとだけ凝った石包丁だ。

 むろん切れないように加工してあるので、安全な品である。


「これは一つ……五千円から一万円ですかね」

「むしろ安めだな、すぐにハケると思う」


 並べられた品々を見て、おじさんは嬉しそうだ。

 商材が増えたと言うより、美しい工芸品が見られて喜んでいる感じだね。


 ――でも、まだまだあるんですよこれが。


「ハナちゃん、見せてあげて」

「あい!」


 今度はハナちゃんに、工芸品を並べて貰う。

 これも石材加工品なのだけど――。


「……これ、石の中に――押し花があるのか?」

「ええ、ネックレス用に良いかもと思いまして」


 ハナちゃんが並べた工芸品は、エルフ石包丁加工の応用品。

 二枚の丸くて薄い石を合わせた中に、押し花が封入されている三センチほどの装飾品だ。

 光にかざすと、石がキラキラ透き通り、花もキラキラ透き通る。

 封入されているちいさな花は、ちたまのお花。

 巫女ちゃんちから、良い感じのやつをお任せで調達したやつ。

 石の接着は妖精さん接着剤なので、酵素を使わない限りはがれない。


「こりゃあ……見事だな。たいしたもんだ」

「うふ~、うふふ~」


 原案ハナちゃん、制作ハナちゃんの素敵な工芸品。

 おじさんに褒められて、ハナちゃんご機嫌だね。


 これらの工芸品は、お花以外はちたまの素材ではない。

 加工技術も、異世界独特の技術が入っている。

 まごう事なき、異世界のアーティファクトってやつだ。

 ウチの村以外じゃ、どこもマネは出来ない。


「……凄え事になりそうだな」

「まあ、ぼちぼち売り出しましょう」

「そうしよう」


 思わぬ商材の増加に、陶芸おじさんごくりと喉を鳴らす。

 おじさんには好評なこの工芸品たちだけど、市場に評価されるかは分からない。

 じっくりじわじわ、ブランドを作っていこう。


「みんなの工芸品、買った人が喜んでくれると良いね」

「あい~!」


 売れると良いな、とは思う。

 ただ一番大事なのは、買ってくれた人が喜んでくれるか、だね。

 この素敵なエルフ工芸品を手にして、幸せな気持ちになってくれれば……こちらも嬉しい。

 そういう気持ちを込めて、地道に進めよう。


 こうして、商談は順調に進み――。


「――では、よろしくお願い致します」

「定期的に報告するから、色々戦略を考えよう」

「はい、そうしましょう」


 無事、商談は終了。

 これにて、佐渡でのお仕事は全部終えた。

 あとはゆっくり過ごすとするか。


 ……さて、この後どうしよう?

 海でも見に行こうかな?


「お仕事は終わったので、これから海でも見に行く?」

「いいかもです~!」

「そうですね! 行きましょうか!」

「せっかく来たのですから、そうしますか」

「しゃしん! しゃしんとるわ!」


 みんなもそれで良いみたいだから、ちょこっと海まで遊びに行こう。

 前に遊んだ、あの海岸が良いかな――。


「キャ-! まじょっこふたり、おちてきたわ!」


 ――あれ? 録画したやつを見ていたあにめさん、なんだか騒ぎ始めた。

 どうしたのかな?


「どうされました?」

「このふたり! どこかでみたまじょっこ!」


 キャーキャーと、テレビを指さすあにめさん。

 そこに映っているのは……白キュアさんと黒キュアさんか。

 この二人……たしか、初代だよね。


「この二人は、初代キュア的なやつの主人公ですよ」

「――え? しょだい?」

「ええ、初代です」

「……どゆこと?」


 あにめさん、首を傾げた。初代って意味が、良くわかっていないのかな?

 ……あ~そうか。

 多分あにめさん、このキュア的なやつが――何作もあること、知らないんだ。

 だから、初代って意味が理解できていないんだろうな。


「えっとですね、このキュア的なやつは……昔から、何作も作られているんです」

「え?」

「一つのお話が終わった後、続編として主役を変えて、を繰り返しているんです」

「ええ?」


 どんどん、目が点になるあにめさん。

 これが連綿と続くシリーズ物とは、想像していなかったようだ。


「……どれくらい、あります?」

「あ~それは……」


 ……正直、俺もそんなに知らない。

 たまに日曜、適当につけたチャンネルでやってるのをチラ見しただけで。

 今やってるのですら、二話くらいしか見ていない。


「キュア的なやつですか? 今十五作目ですよ」


 悩んでいたら、ユキちゃんが教えてくれた。

 じ、十五作……だと……!?


「え? そんなにキュア的なシリーズ、続いてるの?」

「ですね。子供の頃から見てました」


 どうやらユキちゃん、詳しいようだ。

 まあ、女の子向けの大人気アニメだからね。

 見てても不思議では無いか。


「じゅうご……そのはなし、くわしく」


 ユキちゃんの話を聞いて、あにめさんがすすすっと近寄ってきた。


「詳しくですね……あ、あった。こないだで、通算七百話だそうです」

「……え?」

「七百話です」

「ななひゃく?」

「七百話です」

「…………」


 要望通り、スマホで調べながら……詳しくユキちゃんが説明してくれた。

 あにめさん、想像以上に話が続いているのを知って、固まってしまう。

 毎日一話を見ても、二年近くかかるほどだからね。

 そりゃ固まるよね。俺もビックリだよ。


「あ、あにめ……すごい! それであの……」


 そしてすぐに解凍したあにめさん、お目々がキラッキラになった。

 何を言いたいかは、良くわかる。


「過去に放送されたお話は、この丸いのに記録された形で、お店で買えますよ」

「キャー!」


 ユキちゃんが青いディスクを取り出して、あにめさんに説明している。

 DVDボックスとか、BDボックスとかだよね。

 そんなこと教えちゃって良いのかな……。


「あにめ~! まじょっこあにめが、たくさん~!」


 キャッキャとはしゃぐ、あにめさん。

 でも、数百話を全部見るのは、キツくないですかね……。



 ◇



 あにめさん騒動をなんとかしたり、みんなと海岸で遊んだり。

 夕食のカニを無言で食べたり、温泉に行ったりした。

 なんだかんだで佐渡を満喫して、翌朝。


「では、私たちは長野に帰ります」

「ああ、また来てくれよな!」

「おせわに、なりましたです~」

「カニ、美味しかったです」

「いろいろ、ありがとうございました」


 平原の五人衆を佐渡に残し、俺たちは帰還となった。


「やきもの、がんばります!」

「いいかんじのやつ、おくりますね!」

「やくわよおおおおお!」

「あとちょっとなのよね!」

「あにめ! あにめのやつよろしくおねがいします!!!」


 ……五人衆の熱気が籠もった、暑い見送に手を振りかえしながら、港へ向かう。

 でも、お仕事とはいえ良い息抜きになったな。

 ちょくちょく、佐渡に顔を出そう。


「大志さん、長野に帰ったら……卒検受けますので、お付き合い頂けます?」

「もちろん。その後学科試験もあるから、そっちも付き合うよ」

「ありがとうございます!」


 道中のバスの中、ユキちゃんとそんな話をする。

 ユキちゃんの免許取得も、いよいよ終盤。

 俺も電気工事技師の結果が、そろそろ通知されるね。


「コツコツ頑張ってきた技能取得、結果が出るのは楽しみだよね」

「ええ!」


 二人で資格取得について、盛り上がる。

 結構長い間勉強してきたから、お互い自信があるわけで。


「あや~……タイシたち、おべんきょうでもりあがってるです?」

「二人とも、合間を見ては勉強していたからね」

「ハナもみならって、おべんきょうしましょうね」

「あい~!」


 俺たちの勉強風景を見て、ヤナさんたちも刺激を受けている。

 ここはひとつ、俺とユキちゃんが結果を出すところを見せて、勇気づけるのも良いかもな。

 コツコツやった勉強は、無駄にはならない。

 その実例を、見せてあげられるかもだ。


 長野に帰ったら、色々出来なかったことをやろう。

 電気設備を完成させたり、遺跡の古代語を解読したり。

 あこがれのインテリ系を目指して、頭脳労働に勤しみましょうかね!


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