第一話 エルフ工芸品、じわじわと……。
お客さんを助けると、謎の力が還ってくる。
しかし使い道はあまりないので、貯めこむしかない。
結果、カタカタ言う黒い円柱がたくさんできちゃった。
あのやばい感じの地蔵たちが出来たのは、そう言うことらしい。
親父も爺さんも、その感覚は知っている。
力が還ってきた感覚を、経験している。
……だけど俺に、そんな力は――還ってきていない。
じゃあ、どこに行ったのか……。
(おそなえもの~!)
――ふと、感謝ぱわーを有効活用できる、あの方が脳裏をよぎる。
よぎるというか、今目の前をすっ飛んでいった。
まさかね。まさか……?
……今度、神輿と二人で遺跡デートでもしてみるか。
◇
神輿をカタカタ爆弾展示場へのおデートに誘いたいけど、なかなか機会が見つからない。
うちの極秘にかかわる場所だから、慎重に取り組まないと……。
ひとまず機会を伺うことにして、日々のお仕事を片付けていくことに。
「はいみなさん、今日は田植えの大詰めですよ!」
「あとちょっとです~!」
「うえまくるぜ~!」
「こしがいたいわ~」
今日はそんな努力のかいあって、最後の仕上げとなる。
「かっこいい~」
あっちの方ではメカ好きさんが、器用に田植え機を操ってガンガン作業を進めている。
こっちの手作業組も、負けてはいられない。
「タイシさん、このキラキラしたやつ、けっこう沢山作るのですね」
「ええ。みなさんが育てたお米は、良い出来でしたからね」
「そう言って頂けると、嬉しいですね」
これから植える苗の束を見て、ヤナさんはほくほく顔だ。
前回は作付面積が小さかったエルフ田んぼだけど、今回はおっきくしたからね。
エルフキンキラ米の苗もたくさん育てたから、今年は大量に収穫出来るはずだ。
あとは、ちたま人が世話するキンキラ苗田んぼと、エルフたちが担当するエルフ田んぼで違いがでるかも検証する。
実験も出来て食料も生産できちゃう、一石二鳥の試みだ。
上手く行くと良いな。
「おっし、ころがすぜ~!」
「まがってるわよ」
「まじで」
となりの田んぼでは、田植定規である「六角」を転がすエルフたちも見える。
やっぱり曲がってしまうようで、ワーキャーと騒いでいるね。
こっちの田植えが終わる頃、あっちの泥も落ち着く。
午後にとなりの田んぼを仕上げれば、田植えは完了だ。
連携しながら、作業していこう。
「じゃあみなさん、腰痛と闘いながら――植えまくりましょう!」
「あい~!」
「うえるぜ~!」
「まかせて!」
気合いを入れて、みなぎる闘志で田植えを開始だ。
……ただ作業は、ちまちまやるのだけど。
(おてつだい~)
あと何故か神輿も苗束をもっていて、やる気十分。
神様が、田植えのお手伝い……。
こ、光栄です。
とまあ、一部意外なゲストが参加しつつも、田植え終盤戦の始まりだ。
「うおっと! ……」
「あやややや!」
「あら~」
さっそく、泥に足を取られてしりもちエルフが量産された。
マイスターとかは、開始五分でスケキヨになっている。
何をどうしたら、そうなるのかは分からない。
(それ~)
その横では、神輿が華麗に苗を植えていく。
水鳥が水中の魚を捕るがごとく、しゅぴっと降下してちゃぷっと苗が植えられて……。
なんという鮮やかさ。
「か、神様凄いですね……」
「じょうずです~!」
(それほどでも~)
田植え技術を褒められて、てれってれ神輿の出来上がり。
謎の声も、嬉しそうだ。
さてさて、こっちはいつも通り? な感じで安心だ。
他の人たちはどうだろう?
「たうえって、むずかしいのな」
「あきらかに、ずれてる」
「あしが、ぬけない! どろにはまってぬけない!」
「こしがあああああ!」
「がんばりましょ!」
ちらりと後ろを見ると、平原の焼き物五人衆も、平原の人田んぼで仲良く作業をしている。
今日ははあにめさん、農作業着でお仕事だ。
コスプレ姿では無いので、逆に新鮮。
「やっぱ、こしがいたくなるな」
「こういうしごと、ふだんはしないからなあ」
さらにとなりにある、あっちの森田んぼはぼちぼち作業が終わりそうだ。
元族長さんと団長さんが、最後の仕上げをしている。
なんだかんだで、全体を見ると順調だね。
「がんばってね! がんばって!」
「おやつ、よういしておくからね! おやつ!」
「ギニ~」
「ニア~」
そんな俺たちを、妖精さんたちやフクロイヌたちが応援してくれる。
きゃいきゃいギニャギニャと、賑やかだ。
まあ妖精さんたちはちいさいので田植えが出来ず、フクロイヌは言わずもがなだからね。
無言で黙々と作業するよりはずっと良いので、その調子で盛り上げて頂きたい。
「わきゃ~! じょうずにできたさ~」
「まっすぐさ~」
「いいかんじさ~」
そして意外だったのが、お手伝いのしっぽドワーフちゃんたち。
ひょいひょいと田植えをこなしていて、綺麗に出来ている。
よくよく観察してみると、しっぽを泥に突き立てて、バランスを取ったり支えにしたり、まっすぐ後退するためのガイドにしている。
なるほど、しっぽを上手に使えるから、正確な田植えができるんだな。
「こ、腰が痛い……」
しかし同じくしっぽがあるユキちゃんは、いまだにつたない感じ。
あのしっぽは、もふもふ専用なのかもしれない。
というか、最近はっきり視えるようになってきた。
あのハネっ毛が気になってしょうが無い。
「……」
「? 大志さんどうされました?」
「ああいや、猫背だと余計疲れるから、背筋を伸ばすと良いかなと思って」
「なるほど、背筋を伸ばすですね」
ユキちゃんしゃきっと背筋を伸ばし、耳しっぽもしゃきっとなった。
なるほどなるほど、もっふもふ……。
「……」
「た、大志さん?」
このしっぽハネっ毛を、いずれなんとかしなくては……。
「タイシ、タイシ。どしたです~?」
「おっと、ちょっと考え事をね」
しっぽの毛並み改善計画を考えていると、ハナちゃんが心配して声をかけてきた。
そうそう、今は田植えに集中しないとね。
「よーし! この調子で、今日には田植えを終わらせよう!」
「あい~!」
「あと少しですね!」
そうして気合いを入れて、良い感じに田植えを再開。
みんなで黙々と作業し、夕方――。
「はい! 田植えはこれで、無事終了です!」
「やったです~!」
「またまたおれら、やりとげた!」
「たっせいかん、あるわ~!」
「わきゃ~!」
(みんな、おつかれ~!)
――ようやく田植えが終了だ!
あとは細かく水田を管理していき、収穫の秋を待つ。
昨年と同様、きっちり管理していこう。
今年は去年より、ずっと多くの作付面積を取った。
たくさんの食べ物、実ったら良いな。
◇
しっぽドワーフちゃん救助アンドお引っ越し。さらにはちたま移住。
わさわさちゃんにょきにょきによる、ドワーフィンの湖形成。
そして残された田植えを終えて……大きな仕事は一通り終わった。
ようやく、ぼちぼちと過ごせる日々が――やってきたのだ!
――そして今、俺は佐渡にいる。
ジェットフォイルでかっとんで、あっという間に港へ到着した。
「また、やきものをべんきょうするぞおおお!」
「いいかんじに、できるようになってきた!」
「まだまだ、われちゃうのあるけどねええええ!」
「ああああああ! やきものあああああ!」
「あにめ! あにめみなきゃ!」
今日は、平原の焼き物五人衆を……佐渡に放流するお仕事だ。
やっぱり俺、お仕事してる……。
「大志さん、あの人たち……異様にテンション高くないですか?」
「本来は、焼き物をしに来た人たちだからね。みなぎっちゃってるんだよ」
お手伝いできてくれたユキちゃんも、五人衆の熱気に引いている。
ちなみに、免許の卒検は後回しで来てくれた。
すまぬ……すまぬ……。
「ひさしぶりの、さどです~!」
「海の香り、たまりませんね!」
「うみ! うみだわ!」
あとはハナちゃんと、ヤナさんカナさんも連れてきた。
お仕事の話に関係があるので、打ち合わせに参加して貰うためだ。
この大人数で、陶芸おじさんの家へと向かう。
「それじゃあみんな、あの乗り物に乗って、おじさんの家に行こう!」
「いくです~!」
というわけで、みんなで路線バスに乗ってのんびり移動だ。
涼しい車内で、ゆらゆらと揺られながら目的地を目指す。
「あ、おりまーす!」
……目的のバス停近くでは、あにめさんがためらいも無く降車ボタンを押す。
まさか――乗り慣れている!?
そんな衝撃的場面に遭遇しつつも、全員無事降車。
ぼちぼちと歩いて、陶芸おじさんの家に到着だ。
ぴんぽーんと呼び鈴を鳴らして、俺たちの来訪を告げる。
「おうみんな! ようやく仕事が終わったか!」
予定は伝えてあったので、さっそく陶芸おじさんが出迎えてくれた。
相変わらず元気そうで、ほっと一安心だ。
再会の挨拶と、お詫びをしないとね。
「お久しぶりです。長々とみなさんをお借りしてしまって、申し訳ないです」
「良いって事よ。なんでも、あの人らが必要だったんだろ?」
「ええ、良い仕事をしてくれました」
「なら、それで良いさ」
わっはっはと笑って、焼き物研修が停滞した件は流してくれた。
おおらかで、こちらも助かる。朗らかな人だ。
「まあ立ち話もなんだから、上がってくれ」
「それでは、お邪魔します」
気を遣ってくれたようで、すぐさま家に上げてくれた。
それじゃ涼しい家の中で、ぼちぼちと商談やら雑談やらをしよう。
お土産もたくさんあるので、喜んでくれたら良いな。
「ただいまああああ!」
「やきもの! やきものしよ!」
「また、おせわになります!」
「うっわ、このおうち、すずしい!」
「あにめ~!」
俺の後に、平原の五人衆がキャッキャ続いて家に上がる。
ようやく、日常が帰ってきたって感じだね。
「俺たちは打ち合わせをするから、みんなは自由に過ごしてくれ」
「「「はーい!」」」
陶芸おじさんは俺たちと打ち合わせ、平原の五人衆は自由時間だ。
「おれは、つちをこねるぜ!」
「おれもおれも」
「わたしは、つりにいこうかしら!」
「ちょっと、さんぽしてきまああああす!」
「あにめっ! あにめっ!」
のっけから騒がしいみなさんだけど、おのおのが好きなことをしようと散らばっていく。
あにめさんはキュアなやつを録画したBD片手に、お目々キラッキラだね。
機種が違うのに、慣れた手つきでディスクをセットして鑑賞を始めた。
……この人、映像機器の使い方をマスターしている……!
「それじゃ、打ち合わせするか」
「え、ええ」
あにめさんの成長はさておき、俺は俺でお仕事だ。
まずは、あの五人衆について。
「まずご相談なのですが、研修生の五人ですけど……」
「ああ、彼らだけで研修を受けるって話だよな」
「そうです。ウチの現地サポートは、もう無くても大丈夫かなと」
親父やお袋から話を聞いたけど、現地での生活は特に問題はなかったそうで。
彼らは何でも食べるし人当たりは良いし、真面目に研修はしているうえ道交法も守る。
で、うちのサポートが無くとも、良いのではと判断したわけだ。
「大丈夫だな。あの人ら、町内会のボランティアとか普通に参加してたし」
「……え?」
「そこでテレビ見てる人とか、町のポスターにもなってるぞ」
「――え!?」
「さっき釣りに行った人も、漁港でバイトしてる」
「ええ……?」
思ったよりずっと、ダークエルフは佐渡の人になってた。
溶け込むの、早すぎでしょ……。
でもまあ、それなら大丈夫だね。これで一つの相談事は、クリアだ。
それじゃあ次の相談だ。
「例のエル――石の工芸品ですが、仕入れをもっと増やしたいと言うことですが」
「ああ、予想より売れている。でかくて装飾の多いやつとか、あったら欲しい」
今まで小物のエルフ石包丁を売っていたけど、人気が出ているとのことだ。
お値段高めの、おっきな工芸品も欲しいとの要望が来ているのだとか。
……たしかに、大きな石包丁を窓際に飾れば、キラッキラして綺麗だろう。
エルフ工芸品が、じわじわとちたま人に評価されている手応えがある。
――これは、話に乗るべきと判断した。
ひとまず、サンプルを提供して様子を見るってことで、村では意見がまとまっている。
平原の人や村のエルフたちに頼んで、力作を用意しちゃったんだなこれが。
「私共も良い話だと思いましたので……こちらを用意させて頂きました!」
じゃじゃ~ん! 五十センチの大きさがある、キラキラエルフ石器だよ!
ファンタジーロールプレイングゲームに出てくるような、凝った装飾付きの逸品だ。
「うおっ! なにこれ凄え!」
「かっこいいでしょう! ……想定しているお値段は、二百五十万円ですけど」
「いやこれ、売れるって! 売れる売れる!」
エルフ力作石包丁を見たおじさん、大喜びだ。
本体の原案ユキちゃん、デザインとスケッチはカナさん、加工は村人たち。
さらに革製の鞘も付属していて、これはヤナさんがデザインと制作を担当した。
制作にかかった手間を考えると、二百五十万円はギリギリのプライスである。
正直、やりすぎた感は否めない。
でも、かっこいいのは正義だよね!
「これはかっけえ! 俺も欲しいぜ! ……高いけど」
「まあこれは、特別品として……お手頃な物も用意しました」
かっけーかっけーと盛り上がる中、ヤナさんがすすっと別作品も差し出す。
これは十センチくらいの長さがある、ちょっとだけ凝った石包丁だ。
むろん切れないように加工してあるので、安全な品である。
「これは一つ……五千円から一万円ですかね」
「むしろ安めだな、すぐにハケると思う」
並べられた品々を見て、おじさんは嬉しそうだ。
商材が増えたと言うより、美しい工芸品が見られて喜んでいる感じだね。
――でも、まだまだあるんですよこれが。
「ハナちゃん、見せてあげて」
「あい!」
今度はハナちゃんに、工芸品を並べて貰う。
これも石材加工品なのだけど――。
「……これ、石の中に――押し花があるのか?」
「ええ、ネックレス用に良いかもと思いまして」
ハナちゃんが並べた工芸品は、エルフ石包丁加工の応用品。
二枚の丸くて薄い石を合わせた中に、押し花が封入されている三センチほどの装飾品だ。
光にかざすと、石がキラキラ透き通り、花もキラキラ透き通る。
封入されているちいさな花は、ちたまのお花。
巫女ちゃんちから、良い感じのやつをお任せで調達したやつ。
石の接着は妖精さん接着剤なので、酵素を使わない限りはがれない。
「こりゃあ……見事だな。たいしたもんだ」
「うふ~、うふふ~」
原案ハナちゃん、制作ハナちゃんの素敵な工芸品。
おじさんに褒められて、ハナちゃんご機嫌だね。
これらの工芸品は、お花以外はちたまの素材ではない。
加工技術も、異世界独特の技術が入っている。
まごう事なき、異世界のアーティファクトってやつだ。
ウチの村以外じゃ、どこもマネは出来ない。
「……凄え事になりそうだな」
「まあ、ぼちぼち売り出しましょう」
「そうしよう」
思わぬ商材の増加に、陶芸おじさんごくりと喉を鳴らす。
おじさんには好評なこの工芸品たちだけど、市場に評価されるかは分からない。
じっくりじわじわ、ブランドを作っていこう。
「みんなの工芸品、買った人が喜んでくれると良いね」
「あい~!」
売れると良いな、とは思う。
ただ一番大事なのは、買ってくれた人が喜んでくれるか、だね。
この素敵なエルフ工芸品を手にして、幸せな気持ちになってくれれば……こちらも嬉しい。
そういう気持ちを込めて、地道に進めよう。
こうして、商談は順調に進み――。
「――では、よろしくお願い致します」
「定期的に報告するから、色々戦略を考えよう」
「はい、そうしましょう」
無事、商談は終了。
これにて、佐渡でのお仕事は全部終えた。
あとはゆっくり過ごすとするか。
……さて、この後どうしよう?
海でも見に行こうかな?
「お仕事は終わったので、これから海でも見に行く?」
「いいかもです~!」
「そうですね! 行きましょうか!」
「せっかく来たのですから、そうしますか」
「しゃしん! しゃしんとるわ!」
みんなもそれで良いみたいだから、ちょこっと海まで遊びに行こう。
前に遊んだ、あの海岸が良いかな――。
「キャ-! まじょっこふたり、おちてきたわ!」
――あれ? 録画したやつを見ていたあにめさん、なんだか騒ぎ始めた。
どうしたのかな?
「どうされました?」
「このふたり! どこかでみたまじょっこ!」
キャーキャーと、テレビを指さすあにめさん。
そこに映っているのは……白キュアさんと黒キュアさんか。
この二人……たしか、初代だよね。
「この二人は、初代キュア的なやつの主人公ですよ」
「――え? しょだい?」
「ええ、初代です」
「……どゆこと?」
あにめさん、首を傾げた。初代って意味が、良くわかっていないのかな?
……あ~そうか。
多分あにめさん、このキュア的なやつが――何作もあること、知らないんだ。
だから、初代って意味が理解できていないんだろうな。
「えっとですね、このキュア的なやつは……昔から、何作も作られているんです」
「え?」
「一つのお話が終わった後、続編として主役を変えて、を繰り返しているんです」
「ええ?」
どんどん、目が点になるあにめさん。
これが連綿と続くシリーズ物とは、想像していなかったようだ。
「……どれくらい、あります?」
「あ~それは……」
……正直、俺もそんなに知らない。
たまに日曜、適当につけたチャンネルでやってるのをチラ見しただけで。
今やってるのですら、二話くらいしか見ていない。
「キュア的なやつですか? 今十五作目ですよ」
悩んでいたら、ユキちゃんが教えてくれた。
じ、十五作……だと……!?
「え? そんなにキュア的なシリーズ、続いてるの?」
「ですね。子供の頃から見てました」
どうやらユキちゃん、詳しいようだ。
まあ、女の子向けの大人気アニメだからね。
見てても不思議では無いか。
「じゅうご……そのはなし、くわしく」
ユキちゃんの話を聞いて、あにめさんがすすすっと近寄ってきた。
「詳しくですね……あ、あった。こないだで、通算七百話だそうです」
「……え?」
「七百話です」
「ななひゃく?」
「七百話です」
「…………」
要望通り、スマホで調べながら……詳しくユキちゃんが説明してくれた。
あにめさん、想像以上に話が続いているのを知って、固まってしまう。
毎日一話を見ても、二年近くかかるほどだからね。
そりゃ固まるよね。俺もビックリだよ。
「あ、あにめ……すごい! それであの……」
そしてすぐに解凍したあにめさん、お目々がキラッキラになった。
何を言いたいかは、良くわかる。
「過去に放送されたお話は、この丸いのに記録された形で、お店で買えますよ」
「キャー!」
ユキちゃんが青いディスクを取り出して、あにめさんに説明している。
DVDボックスとか、BDボックスとかだよね。
そんなこと教えちゃって良いのかな……。
「あにめ~! まじょっこあにめが、たくさん~!」
キャッキャとはしゃぐ、あにめさん。
でも、数百話を全部見るのは、キツくないですかね……。
◇
あにめさん騒動をなんとかしたり、みんなと海岸で遊んだり。
夕食のカニを無言で食べたり、温泉に行ったりした。
なんだかんだで佐渡を満喫して、翌朝。
「では、私たちは長野に帰ります」
「ああ、また来てくれよな!」
「おせわに、なりましたです~」
「カニ、美味しかったです」
「いろいろ、ありがとうございました」
平原の五人衆を佐渡に残し、俺たちは帰還となった。
「やきもの、がんばります!」
「いいかんじのやつ、おくりますね!」
「やくわよおおおおお!」
「あとちょっとなのよね!」
「あにめ! あにめのやつよろしくおねがいします!!!」
……五人衆の熱気が籠もった、暑い見送に手を振りかえしながら、港へ向かう。
でも、お仕事とはいえ良い息抜きになったな。
ちょくちょく、佐渡に顔を出そう。
「大志さん、長野に帰ったら……卒検受けますので、お付き合い頂けます?」
「もちろん。その後学科試験もあるから、そっちも付き合うよ」
「ありがとうございます!」
道中のバスの中、ユキちゃんとそんな話をする。
ユキちゃんの免許取得も、いよいよ終盤。
俺も電気工事技師の結果が、そろそろ通知されるね。
「コツコツ頑張ってきた技能取得、結果が出るのは楽しみだよね」
「ええ!」
二人で資格取得について、盛り上がる。
結構長い間勉強してきたから、お互い自信があるわけで。
「あや~……タイシたち、おべんきょうでもりあがってるです?」
「二人とも、合間を見ては勉強していたからね」
「ハナもみならって、おべんきょうしましょうね」
「あい~!」
俺たちの勉強風景を見て、ヤナさんたちも刺激を受けている。
ここはひとつ、俺とユキちゃんが結果を出すところを見せて、勇気づけるのも良いかもな。
コツコツやった勉強は、無駄にはならない。
その実例を、見せてあげられるかもだ。
長野に帰ったら、色々出来なかったことをやろう。
電気設備を完成させたり、遺跡の古代語を解読したり。
あこがれのインテリ系を目指して、頭脳労働に勤しみましょうかね!