第十九話 それは――還ってくる、はずのもの
短いお話のため、続けて投稿です
救助と引っ越し大作戦を終え、お別れの挨拶も済ませ。
さらにわさわさちゃんが生まれ変わって。
全ての仕事が終わり、家でくつろいでいたときのこと。
「大志、ちっと時間良いか? これから『あの場所』に行くぞ」
「『あの』場所? ……またなんで」
「それは、現地に行ってから話す。爺さんも一緒に来るから」
「……わかった」
親父が、そんなことを言ってきた。
ここで説明しないと言うことは、お袋にも聞かせられない話、ということだ。
それはすなわち――入守家の直系のみ伝えている話に、関係があると言うことか。
「ほんじゃ、行くぞ」
俺と親父、そして爺ちゃんの三人で領域をくぐり――道を逸れる。
……誰にも分からないよう、こそこそと。
俺たち三人しか知らない道を進む中、車内は無言。
そうして車を走らせること、十分。
祭事を行った遺跡へと、到着した。
「おし、持ち上げるぞ」
「俺こっち持つよ」
「じゃあ俺はこっちな」
親父と爺ちゃんと、三人で……石壁を持ち上げる。
一見ただの石壁、されど――秘密の入り口。
入守家直系しか知らない、隠し扉だ。
というか、入守家の人間でないと、持ち上がらない。
めっちゃくちゃ重い、物理的な脳筋ゲートである。
そんな頭悪い門を、なんの工夫もなく頭悪い力業でこじ開け、石の通路を進む。
やがて――ずらりと円柱が並ぶ、秘密の部屋に到着した。
これが、入守家直系の秘密――身代わり地蔵の本体群だ。
地蔵とは言うものの、その実体は高さ三十センチ程度の、黒い円柱である。
さわると、ほのかにあったかいのが特徴だ。
この通称――「地蔵」は、一代に一つだけ、本体が供給される。
普段使っている、お袋や、実はユキちゃんや村の住人も登録してあるアレは――その辺の石で作ったレプリカ。
この本体から力を供給して、有事の際に身代わりをしてもらい、限界がきたら割れる。
ただ割れるのはレプリカなので、本体が元気な限り幾らでも作れる。
そんな、不思議な物体。
ただこの地蔵本体は、一つ一つに……強烈な力が籠もっている。
籠りすぎていて、なんかカタカタいってるのもある。怖い。
そんなわけで、扱いを間違えると危ない感じがするこのブツは……直系以外には秘密だ。
言うなれば、核兵器とかソレ系のヤバいブツが数百個転がっているくらいの、危なさである。
ご先祖様みんな、そして俺たちも扱いに困っている、火薬庫。
それが――ここである。まじ怖い。カタカタいってる。
……しかし、ここに来て何を話すのだろうか。
いっこうに話を始めないので、俺から聞いてみよう。
「親父、それで話って何?」
「まずはこれを見ろ、お前の身代わり地蔵だ」
「……これが何か?」
親父が指さしたのは、俺の代で生まれた身代わり地蔵。
いつの間にか出来ていたらしく、新品だからかぴっかぴかでかっこいい。
ほかのと違って、力がはち切れそうな感じもしない。
そして、さわると柔らかくてぷるぷるしている。かわいいなあ。
……でもこれが、どうしたんだろう?
「大志さ、この地蔵だけど……そろそろ、力を移せ」
「数万人から感謝されたんだから、力も相当受け取ったはずだ。もう、いっぱいいっぱいだろ?」
力を移せ? そろそろ限界?
……なにそれ?
「別に、移せるような力とか無いけど」
「……は?」
「嘘だろ? 俺たちゃ三万人で限界が……」
俺の言葉に、親父も爺ちゃんもあっけにとられている。
でも、わけ分かんないのは俺の方だよ。
「だから、力とか限界とか、何のこと?」
「おいおい大志、お前まさか……」
「――力を、受け取っていないのか?」
だから、何のこと?
「その力とかってのが、俺には分からないのだけど……」
「お客さんを手助けして、問題を解決すると……貯まるんだよ。力が」
「使い道がほとんど無いから、俺らはこうして移しているんだ。この地蔵に」
「……何それ」
そんな力が貯まった感覚は、俺には無い。
だから、何も分からない。
「大志は現時点で、数万人を動かせるくらい……異世界の人々にとって存在がでかくなっている」
「とんでもねえ力が、流れてきているはずなんだ」
「ごめん、まったく何も起きてないよ」
「まったくって……」
仕事のし過ぎで、疲労がたまったのはあったけど……それかな?
いやでも、あれはマッチョ三重奏で回復した。ただ、疲れていただけだな。
たぶん違う。
「自然に分かることだから、その時が来るまで言わなかったが……」
「こりゃ、何が起きてんのか、俺にもわかんねえぞ……」
ええ……?
俺だけ、なんか違うのん?
「なあ、ほんとに力が貯まった感覚、無いのか?」
「何も無いね」
いつも通りの、大志君でございますよ。
最近身長測ったら、百九十センチになってたくらいしか違いは無いよ。
ぼくはちたま人だからね! そんな感覚ないのでござるよ。
「う~ん、俺は祝詞の言葉で確信を持ったんだが……」
「祝詞って言うと、祭事のやつ?」
「そうだ。『大きな力となって、還す』的な文言があったろう」
「俺もあれを聞いて『ああ、やっぱりな』と思ったぞ。秘密に関わるから、あの場では言えなかったが」
祝詞の言葉……。たしか。
”我々は、鋭気を養います。そしてここで得た力は、いずれ大きな気持ちとなって。”
という文言に続き――。
”貴方へと、還すことが出来るでしょう。”
――と、記述してあった。
まさか、これは……比喩ではなく。
何かの神秘的な力となって――還ってくる、と言うことなのか?
入守家の直系、その時の当代へと……気持ちが力となって還ってくる?
ただ俺たちは使い道が分からないので……地蔵に、移していた?
なぜ、俺にはそれが起きないんだ。
間違いなく、少なくとも独立した妖精さんたちからは……還ってきている、はずなのに。
……たぶん。いやしかし……。
「……俺には、力が還ってこないのかな?」
「いや、絶対還ってきている。みんなは間違いなく、感謝を還しているぞ」
「大志おめえ、力を貯めねえで浪費してんじゃねえの?」
「どうやって浪費すんの? 逆に知りたいよそれ。謎パワーで豪遊したいよ」
そんな力があるのなら、無意味にかめは◯波とか撃つよ。
生身で飛び道具とか、人類の夢だもの。
でも、俺には力が還ってきていない。なんの感覚もない。
……起きているはずの現象が、俺には起きていない。
なぜなんだろう?
「ちなみに、力が限界まで貯まると……何が起きるの?」
「当主を、続けられなくなる」
「そうなったとき、次代へと引き継ぐんだ」
親父と爺ちゃんが、とても重要な話をしてくれた。
力が限界まで貯まったとき、それがーー引退の時、なのだと。
「俺は念のため、大志に早めに引き継いだ」
「志朗ならあと一組二組、耐えられたけどな」
「そうなんだ……」
結構長生きの俺たち一族が、なぜ速いペースで当主を変えていたのか、これで謎が解けた。
力が、貯まりすぎたのが原因か。
「大志はなんか、全然大丈夫そうだな」
「なにもなってないからね」
「……これなら、長く当主が出来るかもな」
親父と爺ちゃんは、ほっとした顔だ。
だよね。もし俺に限界が来ていたら……今は後継ぎがいないわけで。
そういう心配が、ひとまず無くなったのだから。
「でもまあ大志、そろそろ後継ぎのことも考えておけ」
「後継ぎかあ……」
……まったく考えていなかった。
これと言った相手もいない。
親父には申し訳ないけど、もう少し時間はかかるな。
ぼちぼち、考えていこう。
「当主ってのは、大変だね」
「まあな。爺さんから引き継いだとき、結構バタバタした」
「大志は余裕があるみたいだから、のんびりやってけそうだな」
「だと助かるんだけどね」
こうして直系だけが知る、ちょっとした秘密の真実がわかって。
俺たちのやって来たこと、ちゃんと感謝されていたんだと実感が持てた。
なにせ、その証拠がここに……たくさんあるのだから。
「…………」
……でもやっぱり、カタカタいってるのは怖い。
俺の代では、この力の使い方も見つけて行きたいな。
それが出来れば……このカタカタ爆弾たち、ぷるぷる地蔵ちゃんに戻せるかもだ。
◇
……ここはちたまの、とある遺跡の隠し部屋。
やっと、起きているはずの出来事が起きていないことに、気づいて貰えました。
大志に還って来るはずのエネルギーが、なぜか空っぽ。
もし、この原因がわかったなら……当主を長く続けられるように、仕組みが作れるかもしれません。
今まで、慌てて後継ぎに引き継いで来た入守家。
もうちょっとのんびり、村を管理出来るようになるかもですね。
ただ、あの貯蔵庫……実はもう、依代の置き場が無くてですね。
あんまり、時間はないですよ。
力がたまる理由は祝詞で明らかになっているので、対処も可能なはずです。
はやい所解決方法を見つけて、カタカタしているやつを、ぷるぷる状態に戻してくださいね。
それが出来れば、依代の使い回しが可能になるのですから。
これにて今章は終了となります。みなさま、お付き合い頂きありがとうございます。
次章も引き続き、お付き合い頂ければと思います。