第十八話 姿は変われど、おんなじ存在
しっぽドワーフちゃんたちが村人となって、ドワーフィンとの行き来が出来なくなった。
もうあの子たちは、ひとときの避難民では無い。
ちたまで暮らす、お客さんとなったのだ。
そしてお客さんが来たあとで、いつも起きていた事と言えば――。
「彼らの住んでいた環境を、再現してあげないとね」
わさわさちゃんによる、異世界環境の移植だ。
捕まえてから今まで、そのまんま遊んで貰っていたけど……そろそろ根を張って、ちたまに定住してもらわないといけない。
「~! ~!」
「あや! わさわさちゃん、ノリノリです~」
「やっぱり、根を張ってこその生きものなんですかね」
わさわさちゃんもノリノリのようで、ハナちゃんユキちゃんと一緒にキャッキャしている。
この姿も可愛らしいのだけど、やっぱり「種」だからね。
土に植えて根を張って、思いっきり成長してこそ、なんだろう。
となると問題は、どこに根を張って貰うか、なんだけど……。
この辺、親父に任せっきりで俺はノータッチだった。
どの当たりが候補地か、教えて貰おう。
「それで親父、わさわさちゃんにょきにょき候補地って、あったりする?」
「にょきにょきです~!」
ハナちゃんがにょきにょきというワードに反応して、のびーとしている。
植物が育つのを見るのは、大好きだからね。
「ひとまず、候補はいくつか見繕った。俺としては、ここが良いと思う」
にょきにょきハナちゃんはさておき、親父が地図を広げて一つの候補地を指さした。
あらかじめ赤いシールが貼ってあって、分かり易い。
どれどれ……。
「なるほど、村からちょっと離れているけど、ここなら……」
「でけえ湖が出来ても、村より下だ。おまけに、この辺火山性ガスが溜まっちまって、生きものが殆どいない」
親父が見つけた候補地は、ガスが溜まる大きな窪地。
このせいで、植物はあまり生えずに動物も近寄らない。
やっかいな窪地で、出来れば埋めて平地にしたかったところだ。
十二億円ほどかかるので、断念したのだけど……。
「そこに湖が出来れば……」
「ああ、このやっかいな窪地を、有効活用出来るぞ。ガスも溜まらなくなる」
「さらに、周辺地域へのアクセスが良くなるね。船を使う前提だけど」
「――おれのじまんのフネ、かしますよ」
「おれもおれも」
……話を聞いていたエルフたち、カヌーを取り出し磨き始める。
エルフ自慢の装備だからね。活用したいよね。
でもまあ、確かにエルフカヌー大活躍になるかもだ。
「そしてここに湖が出来ると、この過去の沢筋まで用水路を繋げれば……」
「あ! こっちの平地に水が引ける!」
「そうだ、ここにも田んぼや畑が作れる」
水が無くて活用できなかった場所の平地にも、農業用水が引ける。
これは……。
「悪くないね」
「ああ。村よりも下の位置にあるから、ここが原因で水害になることも無い」
親父、なかなか良い候補地を見つけてくれていたようだ。
だけど、これは俺たちにとっては都合が良いだけで。
問題は……わさわさちゃんが、ここを良いと思うかだ。
実際に色々見て貰って、判断してもらおう。
「ねえ、君がにょきにょきできそうな場所、見て判断できる?」
「~!」
コクコクと頷くような仕草をする、わさわさちゃんだ。
それじゃあ早速、見に行ってみよう!
――というわけで。
わさわさちゃんを連れて、候補地が眺められる場所へと赴いた。
下に見えるは、大きな窪地。
ガスが溜まるので、風のない日は行かない方が良い場所だ。
「~! ~!」
その場所を見たわさわさちゃんは、もう大はしゃぎだ。
ぴょんぴょん跳ねて、うずうずした感じが伝わってくる。
気に入ったようだけど、念のため聞いてみよう。
「あの場所で、良いの?」
「~!」
訪ねてみると、ひときわ高く「ぴょ~ん」と跳ねた。
かなり興奮しているようだ。
(ここがいい~!)
「あえ? ここがいいです?」
そして何故か、謎の声も「ここが良い」と言う。
……わさわさちゃんの心とかいっていることが、分かるのかな?
「みはらしがいいですね! しゃしんとっちゃいます!」
あと、何故かカナさんが大はしゃぎだ。
新しい絵のモチーフが見つかったからか、資料撮影に余念が無い感じ。
……とりあえず、カナさんはほっとこう。
しかし、わさわさちゃんには好評な感触だね。
「……どうやら、良いみたいだな」
「そうだね」
親父もわさわさちゃんの様子を見て、同じ事を感じたようだ。
俺も同意見なので、良いんだろう。
あとは……しっぽドワーフちゃんたちだね。
もしこの場所に湖が出来たら、そこで暮らしたいと思うかもしれない。
第二の故郷となるかもしれない、場所なのだ。
「ねえ、君たちはここに……みんなが暮らしていた湖、みたいなものが出来たら……嬉しい?」
「わきゃ? そんなの、できるさ~?」
「あったら、うれしいさ~?」
「ゆめみたいな、はなしさ~?」
あれば嬉しいけど、そんなことが可能かという話では……疑いの眼差し。
知らなければ、当然の反応かもだ。
でも、俺たちは知っている。経験している。
――油断すると、その辺にあっさり、異世界環境が出来てしまうことを。
可能かどうかというレベルでは無く、気を抜くとどんどんデカくなるのだ。
実は作ることが簡単で、逆に野放図に広がらないようにする方が難しいのである。
「すぐに、できちゃうですよ?」
「あっさりできるよ! あっさり!」
「ひとばんで、できちゃうわ~」
「むしろ、ここまでひっぱれたのが、ぎゃくにふしぎじゃん?」
唐突に自分たちの故郷が再現された、みなさまがた。
きょとんとした顔で、「あっさり出来る」と断言だね。
そんなわけで、異世界環境の移植については問題ないのだ。
「わきゃ~? いまいち、そうぞうできないさ~?」
「どうなるさ~?」
「やばいことには、ならないさ~?」
でもやっぱり、しっぽドワーフちゃんたちは……想像が難しいようで。
上手に伝えるのは、けっこう難しいものだ。
どうしようかな……。
「う~ん、どう伝えれば良いか……」
「あえ? タイシおこまりです?」
いまいち伝わらないことに悩んでいると、ハナちゃんがこてっと首を傾げた。
わさわさちゃんがにょきにょきしたら、どうなるかを伝えたいのだけど、上手い方法が思いつかない。
「えっとね、ドワーフちゃんたちに、湖が出来たときどうなるかを伝えたいんだけどね。良い方法が、思いつかなくて」
「あや~……それはなかなか、むつかしいです~。むむむ」
ハナちゃんも一緒に、悩んでくれるようだ。
むむむむハナちゃんになったので、むふむふ変換しておこう。
頭をなでなでだ。
「むふ~?」
「わきゃ~?」
そのまましばらく、ハナちゃんと考えてみる。
しっぽドワーフちゃんたちも、結果がどうなるか分からず、赤いしっぽをゆらゆらだ。
膠着状態である。
「あ! このかくど! いいえになりそう!」
その横では、カナさんがまだ写真撮影していた。
けっこうマイペースエルフのカナさんだね。
しかし、ハナちゃんはそれを見て、ぽつり。
「……あえ? しゃしんと……おえかき、です?」
つぶやきと同時に、ハナちゃんのエルフ耳が……ぴこっと立った。
「おうちにかえったら、えをかくわよ!」
そんなハナちゃんのつぶやきを拾ったカナさん、鼻息荒くお絵かき構想を話す。
すると――。
「――あや、それです~!」
「え? え? ハナ、どうしたの?」
何かを思いついたのか、ハナちゃんがお母さんを引っ張って来た。
……あ、もしかして。
「ハナちゃん、もしかして……」
「そうです~! おかあさんに、そうぞうずをかいてもらうです~!」
やっぱりだ。ハナちゃんが思いついたのは――カナさんの得意技。
あの地に湖が出来たことを想定した、完成予想図を描いて貰うのだ。
「え? おえかきのおしごと?」
「そうです~! おかあさんなら、できるです~!」
完成予想図を書くという、初めての仕事。
でも、確かにカナさんなら出来る。
なぜならカナさんは、ドワーフィンの世界を――その目で見ている。
あの挨拶旅行、思わぬ所で役に立つかもだ。
「そんなわけで、いっちょ絵を描いて頂けますか? あの場所に、密林と大きな湖があるような……そんな予想図を」
「やります! すっごいそうぞうずを、かきますよ!」
幸い資料は、カナさんがたくさん撮影していた。
すぐにでも取りかかれるよね。
――さて、どんな絵が出来上がるか。
完成が楽しみだ!
「~」
そうそう、予想図を監修してくれる存在もいる。
これは、かなり確度の高い物が出来るんじゃ無いかな?
◇
「――できました~!」
「おかあさん、やったです~!」
「カナ、良い出来じゃあないか!」
そして三日後、カナさんは予想図を書き上げる。
わさわさちゃんと一緒に、あーでもないこーでもないと絵を描いてようやくだ。
そしてその出来はと言うと――。
「わきゃ~! うちらのこきょうと、よくにてるさ~!」
「こんなのが、ほんとにできるさ~?」
「ほんとにできたら、ぜひともすみたいさ~!」
完成予想図、オオウケ。
写真を元にした写実的な絵に、想像で描かれた湖が描かれる。
周りに密林が生い茂る湖の中央には――巨大な樹木。
ドワーフィンで見た、おとなりの湖によく似た……美しい絵だ。
湖の大きさは、野尻湖よりも大きいくらいかな?
こんな湖ができたら、素晴らしい。
「~! ~!」
協力者のわさわさちゃんも、この出来には大喜び。
絵の前でぴょんぴょん跳ねて、大満足だね。
というか本人が喜んでいるのだから、ほぼこの通りの結果になるかと思う。
「こんなんが、あのばしょにできるのか~」
「きれいなみずうみとか、すてき」
「こりゃすげえ」
絵を見たエルフたちも、キャッキャと大はしゃぎ。
平地に存在するエルフィン湖畔リゾートとはまた違った、山々に囲まれた湖だ。
こんなのが身近に出来るとなれば、はしゃぐのも無理は無い。
というか、俺もワクワクしている。
それじゃあ、みんなに同意を求めよう。
「あの地域に、この湖と密林が出来ますが……よろしいですか?」
「もちろんです~!」
「たのしみだわ~!」
「あそびにいこうね! あそびに!」
「うちらも、たのしみさ~!」
みなさん、キャッキャと同意してくれた。
それじゃあ、風が吹いてガスが飛んだ日に、実行しよう。
しっぽドワーフちゃんたちの、無くしてしまった故郷――ちたまに作るぞ!
◇
――そして運命の日。
良い感じの風が、窪地のガスを吹き飛ばす。
今日のこの日に――わさわさちゃんを、植える。
これはすなわち、わさわさちゃんとの……お別れとなる。
あの、かわいく動き回る植物とは、もう会えなくなってしまうのだ。
しかし同時に、異世界の「種」が――生まれ変わる、という事でもある。
わさわさちゃんが根を張り、「環境」となって新生する。
――異世界の存在がこの地に安住する、記念すべき日となるのだ。
というわけで、みんなで窪地に移動し、その瞬間を見守る事になった。
「ハナちゃん、準備は良いかな?」
「あい~!」
「~!」
種を植える役目は、やっぱりハナちゃんしかいない。
わさわさちゃんを抱えて、やる気十分の様子だ。
抱えられたわさわさちゃんも、ご機嫌でその瞬間を待っている。
「いよいよですね。大志さん、カメラは回してありますよ」
「いったい、何が起きるのか……」
「その瞬間が見られるのは、幸運よね!」
ユキちゃんがカメラを回し、親父とお袋はワクワクした様子だ。
「なんにせよ、おもしれえ事するよな、大志は」
「大志ちゃんは、そういうの大好きだもんね」
そして爺ちゃん婆ちゃんも、興味深そうな目で見守る。
……だいたいが俺の行動への評価だけど、俺はこれでも大まじめなんです……。
発想自体がネタまみれ、というわけでは……ちょっと自覚はあるけど。
……考えないようにしよう。
もういまさらだからね。
――さて、それじゃあ始めよう!
「ハナちゃん、始めよう」
「あい~!」
わさわさちゃんを片手に抱いたまま、さっくさくと土を掘るハナちゃん。
手慣れた物で、すぐさま良い感じの穴が掘られる。
「えいようまんてん、はいもまくです~!」
良い感じの穴には、たっぷりの灰を撒く。
エルフの灰化樹木を燃やした、効果はお墨付きのやつだ。
「~! ~!」
灰を撒くと、わさわさちゃんはもう大喜び。
このたっぷりの栄養を使って、大きく育って貰いたい。
それじゃあ、準備は完了。
あとはこの穴にわさわさちゃんを植えれば、終了だ。
「わさわさちゃん、今までありがとうね。そしてこれからも、よろしく」
「よろしくです~!」
「~!」
(がんばるよ~!)
……謎の声が頑張るといっているけど、何をだろう?
俺たちの上空でくるくると神輿が回っているけど、神様ぱわーでも分けてあげるのかな?
……良くわからないけど、儀式を続けよう。
「ハナちゃん、植えてあげて」
「あい~! うえるです~!」
分からないことは置いといて、とうとうわさわさちゃんを土に植える。
ハナちゃんが、良い感じの穴へと「種」をそっと置くと……。
「~! ~!」
わさわさちゃんが、嬉しそうにわっさわさし始めた。
とうとう念願の、にょきにょきができるからね。
今までお待たせしてすいません。ちと、放置しすぎました。
「つちをかけるです~」
「~――……」
やがてわさわさちゃんに土がかけられ、段々と見えなくなっていく。
その間も、元気にわさわさ、わさわさ。
わさわさちゃんの嬉しさが――伝わってくる。
「さいごに、おみずをかけるです~」
「――」
全ての土をかけ終えて、わさわさちゃんが見えなくなって。
さらにその上に灰を撒いてから、ハナちゃんは締めの儀式に取りかかる。
じょうろをぴこっと取り出して、水をかけ始めた。
「わさわさちゃん~、おっきくなるですよ~。げんきに、そだつです~」
謎の歌を歌いながら、笑顔で水をかけるハナちゃん。
体がぽわぽわ~っと光って、やさしい、そして暖かな力が土に浸透していく。
「――……」
この儀式に合わせて、わさわさちゃんが植えられた部分が……もこもこ、もこもこ。
土の下では、何かが起きている。
……きっと一生懸命、根を伸ばしているんだろうな。
「これで、おわりです~!」
「――……」
ハナちゃんが儀式を終えても、土の中ではもこもこ、もこもこ。
元気いっぱい、嬉しさいっぱいで、根を伸ばす現象が伝わってきた。
「おっきくなるのよ~」
「がんばって!」
「たくましく、そだってくれよ~」
「うちらのこきょう、そだってほしいさ~!」
地面の下でわさわさちゃんが頑張る様子を、みんなで見守り、応援する。
――さようなら、わさわさちゃん。
今まで、楽しい時間をありがとう。
そして生まれ変わったら――遊びに来るよ。
しっぽドワーフちゃんも引っ越してくるから、楽しみにしていてね。
それと……この言葉を、贈ろう。
「地球へようこそ、わさわさちゃん。ここで、共に暮らそう」
「……――」
もここっと、ひときわ大きく土が動いた。
俺やみんなの気持ち、伝わっていたら……良いな。
◇
――想定外の事態、発生。
「あや~……こんなかわ、いままでなかったです~」
「これぜったい、わさわさちゃんの仕業だよね……」
「一晩で、こんな川出来ませんよね」
わさわさちゃんを植えた翌日。
村の近くに……なんか、川が出来ていた。
しかも、なんかおかしい。
「おい大志……この川、下から上に流れてんぞ……」
「重力、完全に無視してねえかな」
親父と高橋さんも確認してくれたけど、川の流れが……なんか変。
普通、上から下に流れるよね。
でもこの川、重力を無視して流れてるわけだ。
おかしくない? ちたま物理、無視してない?
「……村と繋がれるように、ここまで足というか根っこを、伸ばしたのかな?」
「それっぽいです?」
「仲良く過ごしてましたからね……」
みんなで、わさわさちゃんを可愛がった。
その思い出があったからか、村まで根っこを伸ばしたのかもね。
村のみんなが、自分の環境を利用しやすいように。
そんな気遣いが、伝わってくる。
「でもおかげで、移動はしやすいかもね。川を伝っていけば、多分あの場所に繋がっているはず」
「さっそく、いってみるです~!」
「おれのじまんのフネ、じつはたくさんつくってましたあああ!」
おっちゃん、いつの間にこんなに……。
ずらずらっと自慢のフネを並べて、使って下さいオーラを出している。
「このひと、よていちがきまってから、てつやしてたんだぜ。おれ、てつだったよ」
「俺も実は、手伝った」
「おれもじゃん?」
「あ、私もです」
「おれもおれも」
どうやら、予定地の下見をしたその日から……みんなでエルフカヌーを量産したようだ。
高橋さんやらマイスター、ヤナさんもマッチョさんが手伝ったようで。
みなさん気が早いにも程がある。でもまあ……正解だったね!
「それじゃあ早速、船に乗って行ってみましょう!」
「いくです~!」
「ライフジャケット、持ってきますね!」
さあ、わさわさちゃんが生まれ変わった姿――見に行こう。
きっと、凄いことになっているはず。
さてさて、元わさわさちゃんは、どんな風に生まれ変わったのか。
……あんまり変なことになっていないと、良いな。
◇
川の流れに任せて、カヌーで移動する。
前にユキちゃん、後ろに俺、そして俺の膝上にはハナちゃん。
こんな構成で川を進んで数分もすると、あっさり到着。
そこには――。
「わきゃ~! あのえと、そっくりさ~!」
「すごいのが、できてるさ~!」
「しんじられないさ~!」
――カナさんの予想図と、ほぼそっくりな湖が出来ていた。
みんなが楽しみにしていた、ドワーフィンの湖が――誕生したんだ!
「おかあさん、すごいです~!」
「カナの書いた絵、そのまんまだね!」
「でしょでしょ!」
そしてとなりのカヌーに乗っているカナさん、自分の書いた予想図が的中してご機嫌。
家族に褒められて、エルフ耳をでろんと垂らしている。
良い仕事、してますな~。
「おい! おさかながいるぞ!」
「まじで!」
「つりすんべ!」
さらにはエルフ男性陣が魚を発見して、おもむろに釣りを始める。
到着していきなり、この湖を満喫し始めるたくましさ。
「おさかな! うちらもとるさ~!」
「わきゃ~!」
あ、しっぽドワーフちゃんたちが湖に飛び込んだ。
この子たちも、けっこうたくましい。
遭難という経験をしたからか、食料があったら飛びつくクセが付いたのかも?
でも、食欲があるのは良いことだからね。
しょうがないよね。
そんなみんなはさておき、俺は……あの大樹のところへ行ってみよう。
ちょっと距離があるけど、のんびりと。
「ユキちゃん、ハナちゃん。ちょっとあの大樹へ行ってみない?」
「あの場所は確か……わさわさちゃんを、植えた場所ですよね」
「たぶんあのきが、ちゅうしんです~!」
そう、あの大樹のある場所は……わさわさちゃんを植えた場所。
にょきにょき中心地なわけだ。
もっともわさわさちゃん本体に、近い場所。
遊びに来たよって、挨拶しよう。
「――では、出発!」
「いくです~!」
「うわわわ速い! いきなりトップスピード!」
モーターボートくらいの速度でのんびりカヌーを進め、中心地に到着。
その速度にハナちゃん大喜び、前方のユキちゃんは風をもろに受けて耳しっぽがばっさばさ。
……どうして、耳しっぽを出しっ放しなのか。
ユキさんや、最近気が緩んでおるのう……。
とまあ、それは気にしないことにして。
大樹にカヌーを寄せて、観察する。
直径が三十メートル以上ある、どでかい樹木が悠々としていた。
上を見上げると、たくさんの葉が生い茂り……神秘的だ。
「こりゃ……近くで見ると凄いね……」
「とんでもない、おおきさです~!」
「これほどの大樹、こっちでは見たことがありません……」
しばらくみんなで、うっとりと大樹を眺める。
こんなのが、たった一晩で育つわけで。
とんでもない成長速度だな……。
あと、この大量の水はどこから来たのかとか、考えてもわからない。
でもこれが、わさわさちゃんが――生まれ変わった姿。
あのちいさくてぴこぴこしていた「種」の、成長した形態だ。
その思い出があるから……親しみも沸いてくる。
「わさわさちゃん、おっきくなったね。素敵な環境、ありがとう」
「~!」
ぽつりと声をかけたら――葉っぱが、わさわさっと動いた気がした。
そして――ぽぽん!
「――あや! おはながさいたです~!」
「わあ! 一気に開花しましたね!」
ぽん! ぽぽん! と、俺たちの上で花が咲いていく。
これはきっと――挨拶だ。
俺たちのこと、覚えているんだ。
「これからも、よろしくね」
「~」
また、ぽぽんと花が咲く。
あのわさわさちゃんは、ちゃんとここにいる。
生まれ変わって――ここに。
「よろしくです~!」
「お世話になりますね!」
ぽん! ぽぽん! と花が咲き、満開になる。
そんな大樹を、しばらくの間見上げたのだった。
――――。
こうして、村にドワーフィンの環境が出来て。
一連の騒動は……全て納まるところに納まった。
姿は変わってしまったけど、たしかにここに存在する。
わさわさちゃん、また――よろしくね!
今回は二話投稿しています。
引き続き、次のお話をお楽しみください。