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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十七章 王の力
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第十八話 姿は変われど、おんなじ存在


 しっぽドワーフちゃんたちが村人となって、ドワーフィンとの行き来が出来なくなった。

 もうあの子たちは、ひとときの避難民では無い。

 ちたまで暮らす、お客さんとなったのだ。


 そしてお客さんが来たあとで、いつも起きていた事と言えば――。


「彼らの住んでいた環境を、再現してあげないとね」


 わさわさちゃんによる、異世界環境の移植だ。

 捕まえてから今まで、そのまんま遊んで貰っていたけど……そろそろ根を張って、ちたまに定住してもらわないといけない。


「~! ~!」

「あや! わさわさちゃん、ノリノリです~」

「やっぱり、根を張ってこその生きものなんですかね」


 わさわさちゃんもノリノリのようで、ハナちゃんユキちゃんと一緒にキャッキャしている。

 この姿も可愛らしいのだけど、やっぱり「種」だからね。

 土に植えて根を張って、思いっきり成長してこそ、なんだろう。


 となると問題は、どこに根を張って貰うか、なんだけど……。

 この辺、親父に任せっきりで俺はノータッチだった。

 どの当たりが候補地か、教えて貰おう。


「それで親父、わさわさちゃんにょきにょき候補地って、あったりする?」

「にょきにょきです~!」


 ハナちゃんがにょきにょきというワードに反応して、のびーとしている。

 植物が育つのを見るのは、大好きだからね。


「ひとまず、候補はいくつか見繕った。俺としては、ここが良いと思う」


 にょきにょきハナちゃんはさておき、親父が地図を広げて一つの候補地を指さした。

 あらかじめ赤いシールが貼ってあって、分かり易い。

 どれどれ……。


「なるほど、村からちょっと離れているけど、ここなら……」

「でけえ湖が出来ても、村より下だ。おまけに、この辺火山性ガスが溜まっちまって、生きものが殆どいない」


 親父が見つけた候補地は、ガスが溜まる大きな窪地。

 このせいで、植物はあまり生えずに動物も近寄らない。

 やっかいな窪地で、出来れば埋めて平地にしたかったところだ。

 十二億円ほどかかるので、断念したのだけど……。


「そこに湖が出来れば……」

「ああ、このやっかいな窪地を、有効活用出来るぞ。ガスも溜まらなくなる」

「さらに、周辺地域へのアクセスが良くなるね。船を使う前提だけど」

「――おれのじまんのフネ、かしますよ」

「おれもおれも」


 ……話を聞いていたエルフたち、カヌーを取り出し磨き始める。

 エルフ自慢の装備だからね。活用したいよね。

 でもまあ、確かにエルフカヌー大活躍になるかもだ。


「そしてここに湖が出来ると、この過去の沢筋まで用水路を繋げれば……」

「あ! こっちの平地に水が引ける!」

「そうだ、ここにも田んぼや畑が作れる」


 水が無くて活用できなかった場所の平地にも、農業用水が引ける。

 これは……。


「悪くないね」

「ああ。村よりも下の位置にあるから、ここが原因で水害になることも無い」


 親父、なかなか良い候補地を見つけてくれていたようだ。

 だけど、これは俺たちにとっては都合が良いだけで。

 問題は……わさわさちゃんが、ここを良いと思うかだ。

 実際に色々見て貰って、判断してもらおう。


「ねえ、君がにょきにょきできそうな場所、見て判断できる?」

「~!」


 コクコクと頷くような仕草をする、わさわさちゃんだ。

 それじゃあ早速、見に行ってみよう!


 ――というわけで。


 わさわさちゃんを連れて、候補地が眺められる場所へと赴いた。

 下に見えるは、大きな窪地。

 ガスが溜まるので、風のない日は行かない方が良い場所だ。


「~! ~!」


 その場所を見たわさわさちゃんは、もう大はしゃぎだ。

 ぴょんぴょん跳ねて、うずうずした感じが伝わってくる。

 気に入ったようだけど、念のため聞いてみよう。


「あの場所で、良いの?」

「~!」


 訪ねてみると、ひときわ高く「ぴょ~ん」と跳ねた。

 かなり興奮しているようだ。


(ここがいい~!)

「あえ? ここがいいです?」


 そして何故か、謎の声も「ここが良い」と言う。

 ……わさわさちゃんの心とかいっていることが、分かるのかな?


「みはらしがいいですね! しゃしんとっちゃいます!」


 あと、何故かカナさんが大はしゃぎだ。

 新しい絵のモチーフが見つかったからか、資料撮影に余念が無い感じ。

 ……とりあえず、カナさんはほっとこう。

 しかし、わさわさちゃんには好評な感触だね。


「……どうやら、良いみたいだな」

「そうだね」


 親父もわさわさちゃんの様子を見て、同じ事を感じたようだ。

 俺も同意見なので、良いんだろう。

 あとは……しっぽドワーフちゃんたちだね。


 もしこの場所に湖が出来たら、そこで暮らしたいと思うかもしれない。

 第二の故郷となるかもしれない、場所なのだ。


「ねえ、君たちはここに……みんなが暮らしていた湖、みたいなものが出来たら……嬉しい?」

「わきゃ? そんなの、できるさ~?」

「あったら、うれしいさ~?」

「ゆめみたいな、はなしさ~?」


 あれば嬉しいけど、そんなことが可能かという話では……疑いの眼差し。

 知らなければ、当然の反応かもだ。

 でも、俺たちは知っている。経験している。


 ――油断すると、その辺にあっさり、異世界環境が出来てしまうことを。


 可能かどうかというレベルでは無く、気を抜くとどんどんデカくなるのだ。

 実は作ることが簡単で、逆に野放図に広がらないようにする方が難しいのである。


「すぐに、できちゃうですよ?」

「あっさりできるよ! あっさり!」

「ひとばんで、できちゃうわ~」

「むしろ、ここまでひっぱれたのが、ぎゃくにふしぎじゃん?」


 唐突に自分たちの故郷が再現された、みなさまがた。

 きょとんとした顔で、「あっさり出来る」と断言だね。

 そんなわけで、異世界環境の移植については問題ないのだ。


「わきゃ~? いまいち、そうぞうできないさ~?」

「どうなるさ~?」

「やばいことには、ならないさ~?」


 でもやっぱり、しっぽドワーフちゃんたちは……想像が難しいようで。

 上手に伝えるのは、けっこう難しいものだ。

 どうしようかな……。


「う~ん、どう伝えれば良いか……」

「あえ? タイシおこまりです?」


 いまいち伝わらないことに悩んでいると、ハナちゃんがこてっと首を傾げた。

 わさわさちゃんがにょきにょきしたら、どうなるかを伝えたいのだけど、上手い方法が思いつかない。


「えっとね、ドワーフちゃんたちに、湖が出来たときどうなるかを伝えたいんだけどね。良い方法が、思いつかなくて」

「あや~……それはなかなか、むつかしいです~。むむむ」


 ハナちゃんも一緒に、悩んでくれるようだ。

 むむむむハナちゃんになったので、むふむふ変換しておこう。

 頭をなでなでだ。


「むふ~?」

「わきゃ~?」


 そのまましばらく、ハナちゃんと考えてみる。

 しっぽドワーフちゃんたちも、結果がどうなるか分からず、赤いしっぽをゆらゆらだ。

 膠着状態である。


「あ! このかくど! いいえになりそう!」


 その横では、カナさんがまだ写真撮影していた。

 けっこうマイペースエルフのカナさんだね。

 しかし、ハナちゃんはそれを見て、ぽつり。


「……あえ? しゃしんと……おえかき、です?」


 つぶやきと同時に、ハナちゃんのエルフ耳が……ぴこっと立った。


「おうちにかえったら、えをかくわよ!」


 そんなハナちゃんのつぶやきを拾ったカナさん、鼻息荒くお絵かき構想を話す。

 すると――。


「――あや、それです~!」

「え? え? ハナ、どうしたの?」


 何かを思いついたのか、ハナちゃんがお母さんを引っ張って来た。

 ……あ、もしかして。


「ハナちゃん、もしかして……」

「そうです~! おかあさんに、そうぞうずをかいてもらうです~!」


 やっぱりだ。ハナちゃんが思いついたのは――カナさんの得意技。

 あの地に湖が出来たことを想定した、完成予想図を描いて貰うのだ。


「え? おえかきのおしごと?」

「そうです~! おかあさんなら、できるです~!」


 完成予想図を書くという、初めての仕事。

 でも、確かにカナさんなら出来る。

 なぜならカナさんは、ドワーフィンの世界を――その目で見ている。

 あの挨拶旅行、思わぬ所で役に立つかもだ。


「そんなわけで、いっちょ絵を描いて頂けますか? あの場所に、密林と大きな湖があるような……そんな予想図を」

「やります! すっごいそうぞうずを、かきますよ!」


 幸い資料は、カナさんがたくさん撮影していた。

 すぐにでも取りかかれるよね。


 ――さて、どんな絵が出来上がるか。

 完成が楽しみだ!


「~」


 そうそう、予想図を監修してくれる存在もいる。

 これは、かなり確度の高い物が出来るんじゃ無いかな?



 ◇



「――できました~!」

「おかあさん、やったです~!」

「カナ、良い出来じゃあないか!」


 そして三日後、カナさんは予想図を書き上げる。

 わさわさちゃんと一緒に、あーでもないこーでもないと絵を描いてようやくだ。

 そしてその出来はと言うと――。


「わきゃ~! うちらのこきょうと、よくにてるさ~!」

「こんなのが、ほんとにできるさ~?」

「ほんとにできたら、ぜひともすみたいさ~!」


 完成予想図、オオウケ。

 写真を元にした写実的な絵に、想像で描かれた湖が描かれる。

 周りに密林が生い茂る湖の中央には――巨大な樹木。

 ドワーフィンで見た、おとなりの湖によく似た……美しい絵だ。

 湖の大きさは、野尻湖よりも大きいくらいかな?

 こんな湖ができたら、素晴らしい。


「~! ~!」


 協力者のわさわさちゃんも、この出来には大喜び。

 絵の前でぴょんぴょん跳ねて、大満足だね。

 というか本人が喜んでいるのだから、ほぼこの通りの結果になるかと思う。


「こんなんが、あのばしょにできるのか~」

「きれいなみずうみとか、すてき」

「こりゃすげえ」


 絵を見たエルフたちも、キャッキャと大はしゃぎ。

 平地に存在するエルフィン湖畔リゾートとはまた違った、山々に囲まれた湖だ。

 こんなのが身近に出来るとなれば、はしゃぐのも無理は無い。

 というか、俺もワクワクしている。


 それじゃあ、みんなに同意を求めよう。


「あの地域に、この湖と密林が出来ますが……よろしいですか?」

「もちろんです~!」

「たのしみだわ~!」

「あそびにいこうね! あそびに!」

「うちらも、たのしみさ~!」


 みなさん、キャッキャと同意してくれた。

 それじゃあ、風が吹いてガスが飛んだ日に、実行しよう。

 しっぽドワーフちゃんたちの、無くしてしまった故郷――ちたまに作るぞ!



 ◇



 ――そして運命の日。

 良い感じの風が、窪地のガスを吹き飛ばす。

 今日のこの日に――わさわさちゃんを、植える。


 これはすなわち、わさわさちゃんとの……お別れとなる。

 あの、かわいく動き回る植物とは、もう会えなくなってしまうのだ。


 しかし同時に、異世界の「種」が――生まれ変わる、という事でもある。


 わさわさちゃんが根を張り、「環境」となって新生する。

 ――異世界の存在がこの地に安住する、記念すべき日となるのだ。


 というわけで、みんなで窪地に移動し、その瞬間を見守る事になった。


「ハナちゃん、準備は良いかな?」

「あい~!」

「~!」


 種を植える役目は、やっぱりハナちゃんしかいない。

 わさわさちゃんを抱えて、やる気十分の様子だ。

 抱えられたわさわさちゃんも、ご機嫌でその瞬間を待っている。


「いよいよですね。大志さん、カメラは回してありますよ」

「いったい、何が起きるのか……」

「その瞬間が見られるのは、幸運よね!」


 ユキちゃんがカメラを回し、親父とお袋はワクワクした様子だ。


「なんにせよ、おもしれえ事するよな、大志は」

「大志ちゃんは、そういうの大好きだもんね」


 そして爺ちゃん婆ちゃんも、興味深そうな目で見守る。

 ……だいたいが俺の行動への評価だけど、俺はこれでも大まじめなんです……。

 発想自体がネタまみれ、というわけでは……ちょっと自覚はあるけど。


 ……考えないようにしよう。

 もういまさらだからね。


 ――さて、それじゃあ始めよう!


「ハナちゃん、始めよう」

「あい~!」


 わさわさちゃんを片手に抱いたまま、さっくさくと土を掘るハナちゃん。

 手慣れた物で、すぐさま良い感じの穴が掘られる。


「えいようまんてん、はいもまくです~!」


 良い感じの穴には、たっぷりの灰を撒く。

 エルフの灰化樹木を燃やした、効果はお墨付きのやつだ。


「~! ~!」


 灰を撒くと、わさわさちゃんはもう大喜び。

 このたっぷりの栄養を使って、大きく育って貰いたい。

 それじゃあ、準備は完了。

 あとはこの穴にわさわさちゃんを植えれば、終了だ。


「わさわさちゃん、今までありがとうね。そしてこれからも、よろしく」

「よろしくです~!」

「~!」

(がんばるよ~!)


 ……謎の声が頑張るといっているけど、何をだろう?

 俺たちの上空でくるくると神輿が回っているけど、神様ぱわーでも分けてあげるのかな?


 ……良くわからないけど、儀式を続けよう。


「ハナちゃん、植えてあげて」

「あい~! うえるです~!」


 分からないことは置いといて、とうとうわさわさちゃんを土に植える。

 ハナちゃんが、良い感じの穴へと「種」をそっと置くと……。


「~! ~!」


 わさわさちゃんが、嬉しそうにわっさわさし始めた。

 とうとう念願の、にょきにょきができるからね。

 今までお待たせしてすいません。ちと、放置しすぎました。


「つちをかけるです~」

「~――……」


 やがてわさわさちゃんに土がかけられ、段々と見えなくなっていく。

 その間も、元気にわさわさ、わさわさ。

 わさわさちゃんの嬉しさが――伝わってくる。


「さいごに、おみずをかけるです~」

「――」


 全ての土をかけ終えて、わさわさちゃんが見えなくなって。

 さらにその上に灰を撒いてから、ハナちゃんは締めの儀式に取りかかる。

 じょうろをぴこっと取り出して、水をかけ始めた。


「わさわさちゃん~、おっきくなるですよ~。げんきに、そだつです~」


 謎の歌を歌いながら、笑顔で水をかけるハナちゃん。

 体がぽわぽわ~っと光って、やさしい、そして暖かな力が土に浸透していく。


「――……」


 この儀式に合わせて、わさわさちゃんが植えられた部分が……もこもこ、もこもこ。

 土の下では、何かが起きている。

 ……きっと一生懸命、根を伸ばしているんだろうな。


「これで、おわりです~!」

「――……」


 ハナちゃんが儀式を終えても、土の中ではもこもこ、もこもこ。

 元気いっぱい、嬉しさいっぱいで、根を伸ばす現象が伝わってきた。


「おっきくなるのよ~」

「がんばって!」

「たくましく、そだってくれよ~」

「うちらのこきょう、そだってほしいさ~!」


 地面の下でわさわさちゃんが頑張る様子を、みんなで見守り、応援する。


 ――さようなら、わさわさちゃん。

 今まで、楽しい時間をありがとう。


 そして生まれ変わったら――遊びに来るよ。

 しっぽドワーフちゃんも引っ越してくるから、楽しみにしていてね。

 それと……この言葉を、贈ろう。


「地球へようこそ、わさわさちゃん。ここで、共に暮らそう」

「……――」


 もここっと、ひときわ大きく土が動いた。

 俺やみんなの気持ち、伝わっていたら……良いな。



 ◇



 ――想定外の事態、発生。


「あや~……こんなかわ、いままでなかったです~」

「これぜったい、わさわさちゃんの仕業だよね……」

「一晩で、こんな川出来ませんよね」


 わさわさちゃんを植えた翌日。

 村の近くに……なんか、川が出来ていた。

 しかも、なんかおかしい。


「おい大志……この川、下から上に流れてんぞ……」

「重力、完全に無視してねえかな」


 親父と高橋さんも確認してくれたけど、川の流れが……なんか変。

 普通、上から下に流れるよね。

 でもこの川、重力を無視して流れてるわけだ。

 おかしくない? ちたま物理、無視してない?


「……村と繋がれるように、ここまで足というか根っこを、伸ばしたのかな?」

「それっぽいです?」

「仲良く過ごしてましたからね……」


 みんなで、わさわさちゃんを可愛がった。

 その思い出があったからか、村まで根っこを伸ばしたのかもね。

 村のみんなが、自分の環境を利用しやすいように。

 そんな気遣いが、伝わってくる。


「でもおかげで、移動はしやすいかもね。川を伝っていけば、多分あの場所に繋がっているはず」

「さっそく、いってみるです~!」

「おれのじまんのフネ、じつはたくさんつくってましたあああ!」


 おっちゃん、いつの間にこんなに……。

 ずらずらっと自慢のフネを並べて、使って下さいオーラを出している。


「このひと、よていちがきまってから、てつやしてたんだぜ。おれ、てつだったよ」

「俺も実は、手伝った」

「おれもじゃん?」

「あ、私もです」

「おれもおれも」


 どうやら、予定地の下見をしたその日から……みんなでエルフカヌーを量産したようだ。

 高橋さんやらマイスター、ヤナさんもマッチョさんが手伝ったようで。

 みなさん気が早いにも程がある。でもまあ……正解だったね!


「それじゃあ早速、船に乗って行ってみましょう!」

「いくです~!」

「ライフジャケット、持ってきますね!」


 さあ、わさわさちゃんが生まれ変わった姿――見に行こう。

 きっと、凄いことになっているはず。


 さてさて、元わさわさちゃんは、どんな風に生まれ変わったのか。

 ……あんまり変なことになっていないと、良いな。



 ◇



 川の流れに任せて、カヌーで移動する。

 前にユキちゃん、後ろに俺、そして俺の膝上にはハナちゃん。

 こんな構成で川を進んで数分もすると、あっさり到着。

 そこには――。


「わきゃ~! あのえと、そっくりさ~!」

「すごいのが、できてるさ~!」

「しんじられないさ~!」


 ――カナさんの予想図と、ほぼそっくりな湖が出来ていた。

 みんなが楽しみにしていた、ドワーフィンの湖が――誕生したんだ!


「おかあさん、すごいです~!」

「カナの書いた絵、そのまんまだね!」

「でしょでしょ!」


 そしてとなりのカヌーに乗っているカナさん、自分の書いた予想図が的中してご機嫌。

 家族に褒められて、エルフ耳をでろんと垂らしている。

 良い仕事、してますな~。


「おい! おさかながいるぞ!」

「まじで!」

「つりすんべ!」


 さらにはエルフ男性陣が魚を発見して、おもむろに釣りを始める。

 到着していきなり、この湖を満喫し始めるたくましさ。


「おさかな! うちらもとるさ~!」

「わきゃ~!」


 あ、しっぽドワーフちゃんたちが湖に飛び込んだ。

 この子たちも、けっこうたくましい。

 遭難という経験をしたからか、食料があったら飛びつくクセが付いたのかも?

 でも、食欲があるのは良いことだからね。

 しょうがないよね。


 そんなみんなはさておき、俺は……あの大樹のところへ行ってみよう。

 ちょっと距離があるけど、のんびりと。


「ユキちゃん、ハナちゃん。ちょっとあの大樹へ行ってみない?」

「あの場所は確か……わさわさちゃんを、植えた場所ですよね」

「たぶんあのきが、ちゅうしんです~!」


 そう、あの大樹のある場所は……わさわさちゃんを植えた場所。

 にょきにょき中心地なわけだ。

 もっともわさわさちゃん本体に、近い場所。

 遊びに来たよって、挨拶しよう。


「――では、出発!」

「いくです~!」

「うわわわ速い! いきなりトップスピード!」


 モーターボートくらいの速度でのんびりカヌーを進め、中心地に到着。

 その速度にハナちゃん大喜び、前方のユキちゃんは風をもろに受けて耳しっぽがばっさばさ。

 ……どうして、耳しっぽを出しっ放しなのか。

 ユキさんや、最近気が緩んでおるのう……。


 とまあ、それは気にしないことにして。

 大樹にカヌーを寄せて、観察する。

 直径が三十メートル以上ある、どでかい樹木が悠々としていた。

 上を見上げると、たくさんの葉が生い茂り……神秘的だ。


「こりゃ……近くで見ると凄いね……」

「とんでもない、おおきさです~!」

「これほどの大樹、こっちでは見たことがありません……」


 しばらくみんなで、うっとりと大樹を眺める。

 こんなのが、たった一晩で育つわけで。

 とんでもない成長速度だな……。

 あと、この大量の水はどこから来たのかとか、考えてもわからない。


 でもこれが、わさわさちゃんが――生まれ変わった姿。

 あのちいさくてぴこぴこしていた「種」の、成長した形態だ。

 その思い出があるから……親しみも沸いてくる。


「わさわさちゃん、おっきくなったね。素敵な環境、ありがとう」

「~!」


 ぽつりと声をかけたら――葉っぱが、わさわさっと動いた気がした。

 そして――ぽぽん!


「――あや! おはながさいたです~!」

「わあ! 一気に開花しましたね!」


 ぽん! ぽぽん! と、俺たちの上で花が咲いていく。

 これはきっと――挨拶だ。

 俺たちのこと、覚えているんだ。


「これからも、よろしくね」

「~」


 また、ぽぽんと花が咲く。

 あのわさわさちゃんは、ちゃんとここにいる。

 生まれ変わって――ここに。


「よろしくです~!」

「お世話になりますね!」


 ぽん! ぽぽん! と花が咲き、満開になる。

 そんな大樹を、しばらくの間見上げたのだった。


 ――――。


 こうして、村にドワーフィンの環境が出来て。

 一連の騒動は……全て納まるところに納まった。


 姿は変わってしまったけど、たしかにここに存在する。

 わさわさちゃん、また――よろしくね!


今回は二話投稿しています。

引き続き、次のお話をお楽しみください。

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