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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十七章 王の力
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第十六話 バグった


 妖精さんたちとの別れに続けて、避難民しっぽドワーフちゃんたちとの別れも訪れた。

 とうとう、残っていた最後の子たちを……送り出す日がやってきたのだ。


「わきゃ~、おせわになったさ~」

「たすかったさ~」


 現在避難民として救助し、隣の湖に送り届ける子は……二百人ほど。

 海竜とリザードマンたちは、粛々と仕事をこなしてくれていた。

 とうとうここまで、やってきたのだ。


「あとちょっとで、終わるね」

「ああ、そうだな」


 高橋さんと二人で、隣の湖へと旅立つ子たちを見つめる。

 これで妖精さん救助隊が発見した人たちは、全員送り届けた。

 あとは隣の湖へまた顔を出して、物資を届けたり偉い人ドワーフちゃんに挨拶して……この計画は終了する。


 ――ただその前に、ひとつやることがある。


「高橋さん、『あれ』はどうなってる?」

「明日くらいに、全部揃うぜ」

「手間かけちゃって悪いね」

「良いって事よ」


 どうやら、そっちもきちんとやってくれているようだ。

 救助の本来業務ではない、ちょっとしたお仕事。

 ドワーフィンの日の出というタイムリミットがある中、良く頑張ってくれた。

 本当に、助かった。


「それじゃあ、全部揃ったらビックリさせてあげよう」

「それが良いな。きっと喜んでくれるさ」

「たぶんね」


 俺と高橋さんは、湖畔のそばにある――仮設住宅を見る。


「かあちゃ、おさかなとってきたさ~」

「それじゃ、さっそくおりょうりするさ~」

「わきゃ~」


 そこには、一番最初に来た子たちが……わきゃわきゃしていた。

 みんな、もうちょっと待っててね。

 あとちょっとで――全部揃うから。



 ◇



 そして、運命の日。

 高橋さんにお願いしたものが――全て揃った。

 これからしっぽドワーフちゃんたちを集めて、わっきゃわきゃしてもらおうじゃないか。


「ねえみんな、ちょっと見せたいものがあるから、集まってくれないかな」

「わきゃ? みせたいものさ~?」

「どんなものさ~?」


 リーダーとなっているお母さんドワーフと、その子供ちゃん。

 首を傾げて聞いてきた。

 これは、見てもらえば分かるだろう。


「まあ、見て貰わないと、自分が分からないからね」

「ハナたちだと、わからないです~」

「でも、みんななら分かるから」


 用意したものは、俺たちじゃ分からない。

 これは本人たちにしか、分からない物だ。

 とにかく集めた物を見てもらって、判断してもらおう。


「それは見てのお楽しみってことで」

「きっと、みんなよろこぶです~」

「みなさん、ビックリしますよ」


 お手伝いのハナちゃんとユキちゃんが、洞窟を指さす。

 あの洞窟をくぐって、ドワーフィンに行けばすぐわかるからね。

 二人とも、早く見せてあげたくてしょうがないみたいだ。

 俺も、みんなに早く見てほしい。


「それじゃ、洞窟をくぐって見に行こう。ささ、みんなおいでませ」

「わかったさ~」

「なにがあるか、たのしみさ~」

「わきゃ~」


 すっかり仲良くなったみんなと、のんびり洞窟をくぐる。

 わきゃわきゃと賑やかに声が反響する中、「門」をくぐり抜け。

 ちょっと歩いて、水辺へと向かうと……。

 高橋さんが待ち構えていて、準備していた。


「おう、みんな待ってたぜ。ちっとこいつを見てくれ」


 衛星ドワーフィンは、まだまだ夜の時期。

 そんな世界を、エルフィンとフェアリンの明かりが照らす。

 一つの惑星、一つの衛星。

 それらの光に映し出されたそれは――ずらっと並んでいた。


「わきゃ~! これは! ――おうちさ~!」

「うちらのおうちが、あるさ~!」

「しんじられないさ~!」


 ずらっと並んだそれは――ちいさなちいさな、不思議な家。

 本来なら、樹上に設置されているはずの住居。

 そう、しっぽドワーフちゃんたちが残してきた――我が家だ。


 あの子たちの話で、とっても悲しがっていた部分。

 それは、住み慣れた我が家を……捨てざるを得なかった出来事だった。

 俺はどうしても、そこをなんとかしてあげたくて……。

 結果、無理を言って高橋さんにお願いしていたのだ。

 あの子たちが残してきた家を探して――運んできてほしいと。


 妖精さんの捜索活動中この家々の探索もお願いして、どこにあるかだけは調べておいた。

 そして海竜やリザードマンたち、頼れる輸送部隊は……仕事を完遂した。

 残された家々は、全て運ばれたのだ。


 あとは、見つけて貰わないといけない。

 どれが「自分の家」なのかを。

 見て貰わないと「俺が」分からないとは、そういうことだ。

 どの家が誰の住居だったか、俺は知らないからね。


「というわけで、みんな自分のお家を見つけてね」

「わきゃ~! ありがとうさ~!」

「これ! これがうちのおうちさ~!」

「うちのも、あったさ~!」


 てててこっと自分の家に駆け寄る、しっぽドワーフちゃんたち。

 みんなしっぽをぱったぱた振って、凄く嬉しそうだ。

 失ったはずの我が家が、目の前にあるのだから……当然かもね。

 これは水運が可能な、ドワーフィンだからこそ出来たこと。

 陸よりずっと効率的に大量の物資を輸送できる、大河があればこそだ。


 陸運は逆立ちしても、輸送効率では水運に勝てない。

 そしてドワーフィンは、大河でそれを実現できる。

 だからこそ輸送に余裕があり、この贈り物が可能となったのだ。


「タイシ~! だいせいこうです~! みんな、よろこんでるです~!」

「こっそり準備していたかい、ありましたね!」

「この日のために、みんな頑張ってくれたからね。本当に、ありがとう」


 この贈り物は、探す力と運ぶ能力が無ければ……不可能だった。

 この辺は妖精さんたちと、高橋さんに感謝だね。


「捜索部隊と輸送部隊のおかげで、上手く行ったよ」

「でもよ、大志の作った水路図と水流の向き、あと輸送計画がなきゃ無理だったぜ」

「それはコンピュータがやったんだ。演算中は、ぐっすり寝てたよ俺」

「おおい! 台無しだよ!」


 高橋さんからキレの良い突っ込みを貰ったけど、まあ俺はプログラムを組んだだけ。

 実作業は自作AIちゃんに深層学習させて、パターンを作って貰った。

 人工知能ちゃんありがとうって感じだね。俺はほとんど、仕事してないのだよ。

 ……まあそのAIちゃん、実行すると妙に電気を食うんだけど。

 なんか、組み方間違ったかな?


「タイシさん、みんなじぶんのおうち、みつけたさ~!」

「ほんとに、ありがとうさ~!」

「きょうはおうちで、みんなでねるさ~!」


 ……おっと、思考がAIちゃんのほうに逸れていた。本題に戻ろう。

 どうやらしっぽドワーフちゃんたち、自分の家を見つけたようだね。

 いちおうこの子たちの家は、漏らさず輸送できたようだ。

 ひとまず、これで下地は整ったね。


「わきゃ~! わきゃ~!」

「ゆめじゃないさ~!」

「わがやが、あるさ~!」


 やがて、しっぽドワーフちゃんたちは……。

 涙を流しながら、我が家の前でしっぽを振っていた。

 この子たちにとって、家は……とても大事な財産なんだろうな。

 物としての価値だけでは無く、思い出が詰まった拠り所でもある。

 それを取り戻すことが出来て、本当に良かった。


「こんなん、おれらもなくにきまってんじゃん」

「おうちがかえってきたとか、すてき」

「めからあせが……あせがとまらないのだ……」

「よかったね! よかったね!」

(おうち~! よかったね~!)

「~」


 なぜかエルフたちや妖精さんたちがいるけど、いつの間に。

 内緒だったのに、どうして集まっているの……。

 神輿やわさわさちゃんまで、うるうるしているよ……。


「なぜここに……」

「タイシさん、なんかへんだったからな~」

「そりゃ、わかりますがな」

「きになってたよ! きになってたよ!」

(わかりやすい~)

「~」


 ……ドッキリ企画だったのに、どうもバレバレだったようで。

 みなさんドヤ顔でご指摘だ。

 いやはや、つきあい長いからだねこれ。

 俺が悪だくみしているのを、察知されちゃってた。

 顔に出てたかも?


 ただ、次のドッキリは分からないだろうね。

 実はもう一つ、隠していたことがある。

 これはちょっと、微妙な話なんだけどね。

 とりあえず、教えちゃおう。

 

「あとね、君たちは今なら、隣の湖に――お引越しできるよ」

「……あえ?」

「え? 大志さん……それは、どう言うことですか?」


 唐突に言った俺の内容に、ハナちゃんとユキちゃんがぽかんとした。

 これは教えていなかったから、ビックリするよね。

 でも、実際今なら出来るんだ。


「今の状況、良く見て。ほら……洞窟の『門』は、開いたままだよね」

「あや! そういえばそうです~!」

「門が閉じていないですね、言われてみれば……」


 ――そう、洞窟の「門」は開いているのだ。

 これはなぜかというと……。


「平原の人たちが全員戻ってきていないから、『門』はまだ閉じていないんだ」


 実は今、平原の人たちがドワーフィンでキャンプしていて、まだ全員戻ってきていない。

 だから、いまだに開いたままなのだ。

 ……なんでも、「もうちょっとここで、旅を満喫したい」らしい。

 たくましすぎて、若干引いた。


 まさか、まだこの世界で旅するとか思わなかったよ……。

 どんだけ旅が好きなのって感じだ。


 ……ともあれ、これはひとつの――チャンスだ。

 異世界という未知の環境で暮らすことを、今なら回避できる。


 ほんのちょっとだけ出来た、猶予なんだな。


「君たちが当初目的にしていた、お隣の湖へのお引っ越し。今なら実現できるんだ」

「わ、わきゃ~……」

「そういえば、うちらはおひっこしがもくてきだったさ~」

「かんぜんに、わすれてたさ~」


 ……忘れてたのね。

 なんだかんだで、ゆる~い人たちだな……。


「まあ考える時間はしばらくあるから、じっくり相談してみて」

「わきゃ~……」


 平原の人たち、バーベキューセット持って行ったからね。

 今頃どっかの陸地で、釣り大会でもしてるんじゃ無いかな?

 俺の想像以上に、神経の太い方々だったのだ……。

 とまあ、そんなわけなのだよ。


「あの村に残るのも、お引っ越しするのも……どっちでも好きな方が選べるよ」

「あや~……こんなこと、いままでなかったです~」

「タイミングのズレが生んだ、奇跡の瞬間ですね」


 どちらかというと……。

 平原の人たちが予想外の行動をしたので、洞窟のシステムがバグった感。

 きっと、「門」を閉じるに閉じられなくて……困っているのでは?


 みんな予定通り帰ってきて、「門」が閉じられめでたしめでたし……とか考えていたら、これよ。

 そんな感じだと思う。うかつだったね。

 エルフたちの行動は、たまに予想の範囲を超えるのだよ。

 ……どちらかというと、あさっての方向に。


「わきゃ~……」

「……」


 そしていきなり選択肢が出来てしまった、しっぽドワーフちゃんたち。

 すっごいお困りの表情だ。

 そりゃ悩むよね。俺だって悩むよ。


「タイシ~、みんなは、どうしたらいいとおもうです?」

「大志さんは、どんなお考えですか?」


 悩むしっぽドワーフちゃんたちを見て、ハナちゃんとユキちゃんが意見を求めてきた。

 そうだな、俺の考えだと……。


「俺としては、みんなに残って貰いたいかな。だって、帰っちゃったらさみしいよ」

「わきゃ!」


 どストレートに、胸の内を話しちゃう。

 今は洞窟システムがバグっているから、バグ技が可能なだけで。

 本来ならこの子たちは……あの村で、独立するための力をつけるはずだからね。

 それがすぐに「さよなら~」じゃ、そりゃさみしいに決まっている。


 正直に意見を述べると――。


「――タイシ~! やっぱりタイシは、タイシです~!」

「それでこそですね!」


 ……俺の意見を聞いてハナちゃんとユキちゃんが、なんでか知らないけど喜んでいる。

 なんで?


「……うちら、ここにのこっても、いいさ~?」


 しっぽドワーフちゃんたちは、俺の意見を聞いて……上目使いで見上げながら聞いてきた。

 ちょっと不安そうな表情だね。

 思ったことをそのまんま、話そう。


「自分としては、好きなだけあの村で過ごしてほしいと思っているよ」

「うちら、あしでまといさ~?」

「そんな事は絶対ないよ。みんなは、すごい力を持っている」

「あったとしても、いまは……なにもできないさ~?」

「何が出来る出来ないじゃなくて、一緒に過ごしてくれるのが、一番大事だよ」

「わきゃ~!」


 別に、役に立つから居て欲しいとか、役に立たないから出て行って欲しいとか。

 そんな事は考えていない。

 役に立つ立たないで物事を選択するなんて、もったいないことだ。

 隣で寄り添ってくれる、それだけで十分。

 そういう存在は、手に入れようとして得られる事じゃ無い。

 見つかっただけで、奇跡なんだから。


「みんなと出会えたのは、奇跡のたまものなんだ。出来れば、一緒に暮らしていきたい」

「わきゃ~!」


 正直に話していくうちに、しっぽドワーフちゃんたちが……わきゃわきゃとし始めた。

 赤いしっぽをピンと立てて、しっぽの先はピクピクしている。

 ……なんだかみんな、てれってれな感じだね。


「そう言うわけで、自分としては是非とも残って欲しいかな」

「――うちら、あのむらですごすさ~!」

「それがいいさ~!」

「あのばしょで、くらすさ~!」


 よし! 残ってくれるようだ。

 せっかく出会えた奇跡、失わずに済んだかな。俺としても、嬉しい選択だ。

 ……めっちゃ引き留めた感があるけど、良いよね。

 もともとこれが、本来の流れなわけだし。


「じゃあみんな、これからもよろしくね!」

「よろしくです~!」

「一緒に、のんびりやっていきましょうね!」

「わきゃ~! もちろんさ~!」


 こうして、平原の人たちがもたらしたバグ技は……無かったことになった。

 でもそのおかげで、みんなの絆が深まったような。

 そんな気がした。



 ◇



 しっぽドワーフちゃんたちが、ちたま残留を決めた。

 村に仲間が増えて、いっそう賑やかになって。

 めでたしめでたしと思いきや、仕事はまだまだ残っております。


「がうがう~」

「あいさつ、いくです~!」

「この挨拶が終わったら、しばらくは会えないのですよね」

「そうだね、おそらく俺たちが帰ったら……『門』は閉じると思う」

(たぶんね~)


 今向かっているのは、お隣の湖。

 全ての工程を終えたと、偉い人ドワーフちゃんへ報告に行くのだ。

 そしてこれを終えたら、洞窟の「門」は閉じるだろう。

 平原の人たちも全員戻ってきたので、ようやく「洞窟のシステム」も、お困り状態を解消出来る。

 これでようやく、洞窟にまつわる一つの出来事が終わるのだ。


 ……いや、もしかしたら「始まる」のかもな。

 隠し村に避難してきて、「門」が閉じる。

 それが――始まり、であるのかも。


 要するに、今までは……始まってすら、いなかったのかも知れない。

 これからようやく、しっぽドワーフちゃんたちの問題解決が――始まるのかもだ。

 バグ技でこの辺がぐっちゃぐちゃになるのを、防げたかもだ。

 ……危ない危ない。引き留めて良かった。


 しかし、考えてみれば……とんでもない事が連続したな。


「……正直、こんなに大事になるとは、思ってなかったよ」

「さいしょ、やばかったです~」

「まさかこんなに、大規模な事をするとは思いませんでした」

(おおごと~)


 しみじみと、今までの出来事を振り返る。

 数万人を動員した大救助計画が必要になるなんて、最初は思ってもみなかった。

 灰化現象を起点とした、惑星エルフィンと衛星フェアリン、そしてドワーフィンとの関係。

 色々謎が多いけど……事態はどんどん、連鎖している気がする。

 この不思議な惑星系は……いったい何なのだろうか?

 とっかかりすら、掴めない。


 でも、なんとかしないとね。

 ひとまず今は、出来ることを一つ一つ片付けていこう。


「よく分からないけど、みんなの力をこれからも借りるね」

「あい~! まかせるです~!」

「私も、とことんまでお付き合いしますから。……フフフ、とことんまで」


 ハナちゃんもユキちゃんも、元気に答えてくれた。心強い仲間だね。

 ……ただ、ユキちゃんのオーラが黒いのは、何でだろ?


『こちら高橋、前方水上に未確認物体多数を探知した。おそらく船団だ。どうぞ』


 おっと、そうこうしているうちに、目的地付近まで来たようだ。

 たぶんお出迎えだろうね。

 さっそくだけど、お母さんドワーフにコンタクトをお願いしよう。


「あっちに船団がいるっぽいから、お話をお願いできるかな」

「まかせるさ~。――! ――! ――!」


 すぐさま、元気にエコーを飛ばすお母さんドワーフだ。

 こういう能力、うらやましいな。


「……! ……! ……!」

「わきゃ! みんな、まっててくれているさ~」

「通信ありがとう。それじゃ、向かいますか」

「いくです~」

「お土産沢山ですから、喜んでくれますよね」


 さてさて、みんな元気にしているかな?

 偉い人ドワーフちゃんは、大変なお仕事でつかれていないかな?

 なんにせよ、会って話をしよう。


「こちら大志、出迎えの船団であることを確認。これより接触する。どうぞ」

『こちら高橋、了解した。どうぞ』


 高橋さんと連携し合いながら、船団と接触する。

 数分ほど移動して、出迎えてくれる人たちにのところへ到着。

 そこには――引っ越しで送り届けた人たちや、最初に避難した人たちが集まっていた。


「ゴムボート、べんりにつかっているさ~」

「テントってやつも、ありがたいさ~」

「そろそろ、とうみんにはいれそうさ~」


 船と泳ぎで引っ越した子たちも、冬眠の準備は順調そうだ。

 助力が無駄にならずに、ほっと一安心だ。

 そしてこの子たちに、渡す物がある。


「ねえみんな、今日は良い物持ってきたよ。ほら、後ろを見て」


 後ろには、大規模な輸送部隊がいる。

 救助作戦が終了したので、全ての輸送能力を投入できるのだ。

 今回その余裕のある状態にて、運んできたのは――。


「わ、わきゃ~! あれはもしかして、おうちさ~!?」

「うちらのおうち、あるさ~!」

「はこんできて、くれたさ~!?」


 そう、やっぱりドワーフちゃんハウスである。

 村に残る子たちの家は特定出来たので、残ったものは……お引っ越し成功組の家なわけだ。

 そりゃ当然、運んでくるよね。持ってこない選択肢が無いよ。


「自分の家を見つけたら、どこに設置したいか行ってくれ。俺たちが運ぶから」

「おうちのことなら、おまかせ」

「いままでたくさん、せっちしてきたからね」


 さらにはリザードマンたちの、家設置サービス付き。

 これでお引っ越し成功組の、住居問題も――完全解決だ。


「かんしゃするさ~!」

「ゆめみたいさ~!」

「おうち! おうちさ~!」


 大喜びのドワーフちゃんたち、わっきゃわきゃと川に飛び込む。

 ああいや、そっち持って行くから慌てなくても……。


「わきゃ~! なつかしの、わがやさ~」

「あきらめてたのに、おうちがかえってきたさ~!」

「なみだがでてきたさ~……」


 家が積載されたイカダの周りで、しっぽドワーフちゃんたちは泳ぎ回る。

 くるくると、周りを囲んで……喜んでいるね。

 みんなの心の拠り所を、取り戻してあげることが出来た。

 運んで終わりじゃない。物資を与えて終わりじゃない。

 取り戻してあげて――終えられる。


 これでようやく、ほとんど全てのお引っ越し事業は終了だ。

 あとは、お仕事終了の挨拶をするだけ。


 そして……しばしの別れになる事を、伝えなければならない。

 そのために、村に残ることを決めた子たちを……全員連れてきたのだから。

 

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