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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十七章 王の力
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第十五話 とっておきの、レシピを抱えて


 バームクーヘン作りが上手く行ったので、調子に乗ってガンガンお菓子作りをする。

 材料をたくさん運んで、湖畔リゾートにみんなで集まり大騒ぎだ。

 そして、色々なことがあった。


「こうやって、おさけのシロップをつくるの」

「むずかしいね! むずかしいね!」

「しっぱいしたやつ~……」

「おさけがつよくなっちゃった! なっちゃった!」


 ウィスキーボンボン作りでは、お酒シロップ作りでみんな苦戦していた。

 繊細な調合方法をナノさんに伝授してもらい、なんとかって感じだ。

 しかし液体のお酒を扱うのも結構難しいので、秘策も用意した。


 その秘策とは――粉末酒。


 ちたまにっぽんの会社が、半世紀前に世界で初めて実用化したやつだ。

 実はこれ、神様用の高級入浴剤にも、日本酒粉末として調合されていたりする。

 一般にはあまり知られていないけど、業務用ではわりとメジャーな加工食品だ。

 これを使うと、アルコール度数の調整が自由自在。

 お菓子作りにはもってこいかなと思って、調達してみたわけだ。


「調合が難しい場合は、裏ワザとしてこの『粉末酒』を使うと、結構楽だよ。お酒を粉に加工したやつなんだ」

「おさけのこな!? なにそれ! なにそれ!」

「ふしぎだね! ふしぎ!」

「なぞのぎじゅつ~」

(ふしぎなおさけ~)


 保存性や取扱の容易さを考えて用意した粉末酒に、みなさんびっくり仰天。

 さすがにこの技術は、異世界には無かったようだ。

 謎の声も見るのは初めてのようで、ほよほよと粉末酒の上で滞空している。


「おさけのこなを、こねましょ~」

「あま~いみつで、こねこねするよ!」

「おいしくな~れっ!」


 そして早速、本来の目的を脱線して……別のお菓子が出来上がる。

 粉末酒と花の蜜、そして花粉をこねた、お酒お団子。

 妖精さんたち用の、大人のお菓子だね。


(よっぱらっちった~)


 あと、神輿が酔っぱらって墜落した。

 神様、こっそり粉末酒をあぶだくしょんしましたね……。

 それを粉のまま食べると、めっちゃアルコール度数高いですよ。


「神様、お水を飲んでゆっくりしてください」

(おせわかけます~)


 酔っ払い神輿にお水をお供えして、安静にしてもらった。


「お、おさけをこなにできるなんて、すごいさ~!」

「しんじられないさ~!」

「なぞの、かこうぎじゅつさ~!」


 そうして神輿を介抱しているあいだに、新たなお客さんたちが。

 お酒大好きしっぽドワーフちゃんが、どしどし集まってくる。

 大好きなお酒の話だからね、そりゃ興味が湧くよね。

 こんな感じで、しばらくの間粉末酒フィーバーが起きた。


「おさけのおだんご、たべすぎた~」

「よっぱらったね! よっぱらい!」

「あじはまあまあだけど、ほかんにばしょをとらないのが、いいさ~」

「これがあれば、とうみんするときに、たべものをしまうばしょが、ふえるさ~」


 妖精さんが酔っ払ったり、しっぽドワーフちゃんたちは貯蔵性に着目したり。

 きゃいきゃいわっきゃわきゃと、粉末酒品評会が始まる。


「え? これがおさけ? まじで?」

「おさけのあじ、ほんとにする!」

「なにこれすげええええ!」


 そして当然のごとく、お祭り大好きエルフたちも集まってくる。

 結局お菓子作りどころの騒ぎではなくなり、粉末酒という珍しい加工食品を楽しむ会となった。

 かなり応用が効きそうなので、村でも販売してほしいと言う要望が出て、その日は終了。

 結局あんまり、お菓子作りはできなかった。


 とまあそんな脱線はありつつも、翌日元気にウィスキーボンボン作りを再開。

 ウィスキーシロップをチョコレートでコーティングする方法を伝授するはずだったのだけど……。

 なんと妖精さんたちは、これらの工程を――すっ飛ばす技術を持っていた。


「チョコとおさけシロップ、こねましょ~」

「おいしくな~れ! おいしくな~れっ!」

「うまくできたやつ~!」


 妖精さんたちは、直接チョコレートをこねられることが判明したのだ。

 湯煎なしで、自在に形を変えられる。

 これにより、ウィスキーシロップをチョコレートに封入する作業は、あっという間だった。


「あや~……ハナたち、いっしょうけんめい、れんしゅうしたですけど……」

「この技法、使わなくても出来ちゃいましたね」

「糖の結晶化に、一晩かける必要も無いのか……」


 ちたま技術でこれをやろうとすると、かなりの手間な部分だ。

 それをあっさりクリアしてしまい、教える側の俺たちがびっくりだ。

 結構練習して、ようやく出来るようになったハナちゃんとユキちゃん、あっけにとられている。

 ま、まあその技術は、自分たちのおやつ作りに活かそう。そうしよう。


「おさけのおかし! おさけのおかし!」

「きゃい~!」

「おいしいね! おいしいね!」


 そんな俺たちはさておき。

 やがてコツをつかんだ妖精さんたちは、ウィスキーボンボンを量産し始める。

 重量二トン、総額二百四十万円のチョコレートが、見る間に消えて行った……。


 またこの応用として、こんなことが起きた。


「おはなのみつを、つつんでみたよ! つつんでみたよ!」

「こっちは、くだもの~」


 色んな物を、チョコレートで包むお菓子が流行った。

 蜜や木の実、果物などを包んだチョコレート菓子が出来上がり、妖精さんたちは大はしゃぎだね。


「わたしはおだんご! おだんごをつつんだよ!」


 ……なおイトカワちゃんは、こないだ到着した小惑星に良く似た形状のお団子を、そのまんまチョコで包んだ。

 ふわもちお団子のチョコレート包みって感じで、意外と美味しかった。


「これ結構美味しいね。新鮮な味だよ」

「よそうがいにうけた! またまたうけちゃった!」


 ……案の定、ダメ元での出品だったようだけど。

 まさかイトカワちゃん、俺を実験台にしていないだろうか……。


「これもどうぞ! しっぱいしたやつだよ!」

「お、おう……」


 ……やっぱり、意外とイケる。というか、失敗したやつってのは隠そうね。

 モロに言っちゃってるから……。


 とまあ、それはそれとして。

 他にもクッキーや菓子パン、どら焼きやらカルメ焼きやら様々なお菓子を伝授していく。

 そのたびにトン単位の材料が消費されていくので、運ぶのは大変だった。


「ちたまのおかし! たくさんつくれるようになったね!」

「おもしろいね! たのしいね!」

「きゃい~」


 でも、救助活動を頑張ってくれた妖精さんたちは、凄く喜んでくれた。

 この楽しいお菓子作り大会を開催しなければ、見られなかった笑顔かと思う。

 材料の調達と輸送は確かに大変だったけど、そんな苦労も吹っ飛ぶね。

 こうして、様々なお菓子作りを一緒に楽しんでいった。


 やがて……残るは、あと一つのレシピだけとなる。

 最後の最後でようやく完成した、とっておきのお菓子。

 このレシピを伝授して、ひとまず今回のお菓子作りは終了ということにした。


「次が最後のレシピになるから、気合入れて行こう」

「あい~! きあいいれるです~」

「美味しいお菓子、作りましょうね!」

「さいごのやつ! たのしみ! たのしみ!」

「おいしくつくりましょ~」


 楽しい会が終わるのはちょっとさみしいけど、こういうのは終わりがあるから楽しめる。

 最後のレシピを用いたお菓子作りを、めいっぱい楽しもうじゃないか。



 ◇



 湖畔リゾートは快晴。

 ここに二万人の妖精さんたちが集まり、最後のレシピを教えるイベントを開催した。

 そのレシピとは――。


「今回は、また――クッキーを作るよ」

「あれれ? まえにやったよ? やったよ?」

「どしたの? どしたの?」

「おさらいかな? おさらい?」


 以前に教えたレシピなので、みなさん首を傾げている。

 でもこれ、普通のクッキーとは違い……簡単には、作れない。

 それはなぜかというと――。


「このクッキーのざいりょう、みんなのせかいで、とれるです~」

「みんなの世界にある、花粉や蜜、それに木の実を材料にしたレシピよ」

「つくるの、くろうしたの」


 ハナちゃんとユキちゃん、そしてナノさんが説明してくれた。

 そう、このクッキーは、全ての材料が――フェアリンで調達できるのだ。


「きゃい!? ざいりょう、じぶんでとってこれるの! とってこれるの!」

「ちたまのおかし、いつでもつくれるね! つくれるね!」

「きゃい~!」


 子猫亭にレシピ作成をお願いしてあったけど、謎の素材だけに超難航した。

 なぜ大変だったかというと、普通に作ったのでは……妖精さんのお団子に味が負けてしまったのだ。

 慣れない材料で、慣れない調合をする。全てが手探りだった。

 しかしこの材料を用いて、素朴で簡単かつ、妖精さんのお団子に負けないお菓子を作る。

 そういう目標を立てたのだ。


 そしてこの、高い目標に対して。

 何を作るかから検討が始まり、どうやって作るか、どんな味にするかで試行錯誤を重ねた。

 最後にはユキちゃんやハナちゃん、そしてナノさんにもご助力頂いて、試作品を作りまくる毎日。

 それらのトライアンドエラーや出てきたアイディアを纏めて、子猫亭が最終的にレシピを完成させてくれた。


「このクッキーは……それぞれの世界をつなぐ、架け橋のお菓子だよ。友好の証としての、クッキーだね」

「きゃい~!」

「なかま! なかま!」

「おともだちだね! おともだち!」


 というわけで、このなんてことないクッキーは。

 ちたまの技術やエルフたちのアイディア、そしてフェアリンの素材。

 さらにはしっぽドワーフちゃんが作った器具で、調理する。

 四世界の力を合わせた――友好の証、であるお菓子なのだ。


「そんなわけなので、まず素材を加工するところからはじめるよ。三日かけて、クッキーを焼けるところまでもっていくから」

「きょうは、きのみとかを、がんばってこなにするです~」

「結構大変だけど、根気よくやりましょうね」


 こうして、初日は木の実や花粉を粉にするだけで終了。

 翌日はというと……。


「次はきめ細やかな粉にするために、ふるいにかけるよ」

「たいへんです~!」

「終わりが見えませんね……」

「がんばるよ! がんばる!」


 昨日作った粉を、延々とふるいにかける。何回も何回も。

 半日かけてようやく、きめ細やかな木の実と花粉の粉末が出来上がった。

 そして三日目、とうとうクッキー作りに突入だ。


「ようやくです~」

「素材から加工するのは、大変でしたね」

「てまがかかるね! かかるね!」

「やっとこだね! やっとこ!」


 素材にめっちゃ手間をかけるのは、ちたま流だ。

 ちたまじゃ素材を採取してそのまんまというのは殆どなく、だいたいは手間をかけて加工していく。

 下地を整えて、完成品の品質を高めるわけだね。

 この苦労して作った素材を、あとは調合して焼くだけだ。


「これくらいのぶんりょうで、まぜるの」

「びみょうです~」

「ちょっとでも間違うと、味が大きく変わるから気を付けてね」


 精密な量りを利用して、正確に計量する。これもちたま流。

 分銅をつかった量りにて、ちまちまと計量していく。


「こうだね! こう!」

「はかれたよ! はかれた!」

「いいかんじだね! いいかんじ!」


 この難しい計量は、ちいさなちいさな存在にとっては、余裕のようだ。

 俺たちだと一グラムの誤差は分からないけど、妖精さんたちはそれが分かる。

 こういう繊細な計量は、大得意だった。


 そうして繊細な配合をこなし、生地を作って、寝かせて。

 あとは普通のクッキーを焼く行程と一緒なので、特に説明することは無い。


「じゃあみんな、クッキーを焼いてね」

「わかったよ! わかったよ!」

「どんなあじかな? たのしみだね!」

「きゃい~」


 妖精さんたち、きゃいっきゃいでクッキーを焼いていく。

 もうすでにクッキーの焼き方は伝授してあるので、余裕たっぷりだ。

 焼き上がるにつれて香ばしい香りが周囲に漂い、お腹が減ってくる。

 さてさて、みんなどんな出来具合かな――。


「タイシ~、あのことおしえなくて、いいです?」

「ちゃんと教えておかないと、味が上手く出せませんよ?」


 ――おっと、一つ大事なことを伝え忘れていた。

 ハナちゃんとユキちゃんに指摘されて、思い出せた。ありがたありがたや。

 これを教えておかないと、想定した味が出ない。

 みんなに周知しておかないと。


「ねえみんな、このクッキーを焼くときは……そのフライパンでないと、味が変わっちゃうよ」

「これをつかわないと、あまさがおちるです~」

「そういうわけなので、気を付けてね」


 そう、なんでか知らないけど、アダマンフライパンでないと最高の味が出ないのだ。

 熱伝導率の違いか、謎金属の効果なのか。

 今の所原因は分かっていないけど、とにかくアダマンフライパンが最適、ということだけ分かっている。


 これに気づくのが遅れたため、フェアリンクッキーレシピの完成が最後になってしまった。

 まあ、調理器具の違いが味の違いとか実際あるけど、普段そんなの意識していないからね。

 気づかないのも、無理は無かったかと思う。そしていまだに原因も分からない。

 ……いずれ子猫亭にもアダマン調理器具を提供して、検証してもらうのも良いかもしれないな。


 そうしてレシピと注意事項を伝達し終え、あとは出来上がったものを食べるだけ。


「できたよ! できた!」

「みためはふつうだね! ふつう!」

「じょうずにやけたやつ~」


 サクラちゃんアゲハちゃん、イトカワちゃんも焼き上げて、きゃいっきゃいだ。

 ふーふーとクッキーを冷まして、さっそく食べようとしている。

 出来立て熱々だから、気を付けてね。


「たべよ! たべよ!」

「いただきます! いただきます!」

「きゃい~!」


 そんな三人妖精さんたち、やがて――ぱくっと一口、クッキーをかじった。

 さてさて、お口に合うかな?


「きゃい~! これはいいね! おいしいね!」

「なつかしいような、あたらしいような……ふしぎなあじ! ふしぎ!」


 サクラちゃんとアゲハちゃんは、サックサクと食べながらにこにこ笑顔で感想を言ってくれた。

 聞いた感じだと、好評のようだ。

 ただ……美味しいのは間違いないっぽいけど、アゲハちゃんは不思議がっている。

 懐かしいような、新しいような、不思議な味?


「こきょうと、ちたまのあじがするよ! ほんわかするよ!」


 続けてイトカワちゃんも感想を言ったけど……なるほどしっくりきた。

 故郷の味と、ちたまお菓子の味が混ざった、不思議な味のようだ。

 俺のようなちたま側からすると……ちたま風の味付けをした、だけど異郷の味がする不思議なクッキーなんだけど。

 俺たちとは、印象が逆なんだろうね。

 妖精さんたちにとっては、故郷の味に異世界の技法が取り入れられた味なわけだ。

 なんとも不思議な感覚を呼び起こされる、クッキーなのかもしれないな。


 ……果たしてこのレシピは、気に入ってもらえただろうか。

 確認はしておこう。


「みんな、このクッキーの作り方は、気に入ってもらえたかな?」

「もちろんだよ! もちろん!」

「すてきなおくりものだよ! おくりものだよ!」

「てがとどくからね! じぶんたちでできるからね!」


 問いかけると、きゃい~っと答えてくれた。

 ……良かった、気に入ってくれたようだ。


 何と言っても、ちたまにしか無い材料を使わずとも出来るのが、良いらしい。

 作るのが苦労したレシピだけに、評価してもらえて……ほっと一安心だ。


「ふしぎなあじです~」

「キャラメルみたいな甘さと一緒に、香ばしさと色々な花の香りが漂って……こっちには無い味ですよね」

(すてきなおかし~!)


 ハナちゃんとユキちゃん、そして神輿も自作のフェアリンクッキーを頬張る。

 そう言えば、神様も試食役で頑張ってくれたね。

 神様、ありがとうございますだ。


 そうして、フェアリンクッキーを頬張るみんなを眺めていると――。


「このおかし、あっちのみんなにもたべてほしいな! ほしいな!」

「つくってあげましょ! あげましょ!」

「まかせて~」


 妖精さんたちは、口々にそんなことを言い始めた。

 自分たちの世界で採取できる素材で作れる、不思議なお菓子。

 製法を習得した自分たちで、作って食べさせてあげるみたいだね。

 それは良い事だと思うから、賛成の意を表明しておこう。


「良い思いつきだね。ぜひとも、向こうの仲間にご馳走してあげてほしい」

「作り方も、教えちゃって良いわよ」

「どしどし、ひろめてほしいです~」


 俺の言葉に続けて、ユキちゃんとハナちゃんも同意してくれた。

 さらにレシピをどんどん広めちゃってもらうつもりだ。


「なかまにおしえるね! おしえるね!」

「みんなで、つくりましょ! つくりましょ!」

「きゃい~」


 広めちゃっていいよと許可が出たので、妖精さんたちきゃいっきゃいだ。

 みなさんクッキーとアダマンフライパンを掲げて、白い粒子をキラッキラさせている。


 このレシピ、フェアリンに暮らす妖精さんたちみんなの……財産になってくれると良いな。



 ◇



 妖精さん達にレシピを伝え終えてから、しばらくして。


「またくるね! またくるね!」

「あそびにくるよ! くるよ!」

「よくしてくれて、ありがとね! ありがとね!」


 大勢来てくれた助っ人妖精さんたちが、ぼちぼちと故郷に帰り始めた。

 二万人もいた妖精さんたちだけど、じわじわと数を減らす。

 だんだんと人口が減っていくお花畑を見て、ちょっとさみしくなってしまった。

 物量は正義だっただけに、減ると悲しいのだ。

 ああ、俺のジャスティスが……。


 と、密かに妖精さんが帰ることに……しくしくしちゃいました。

 でもまあ、みんな故郷があるからね。笑顔で送ってあげよう。


「ようせいさんたち、またくるです~」

「お菓子のレシピ、また考えて置くからね」

「たのしみ! たのしみ!」


 ちなみに故郷へ帰る妖精さんたちを見送るときは、また来てねと声をかける。

 あの楽しいお菓子作りはいったん終わったけど、もうやらないわけじゃない。

 いずれまた新しいレシピを考えて、遊びに来た子たちと一緒にお菓子を作ろう。

 たくさんの妖精さんたちとお菓子を作るのは、とても良い息抜きになったのだ。

 是非ともまた、大勢集めてお菓子祭りを開催したいね。


「おうちに、かえるね! かえるね!」

「おみやげ、ありがと! ありがと!」

「おうさま! またね! またね!」


 そうしているうちにも、どんどんと帰っていく。

 やがて、だいたい……一万七千人くらいが、帰還した。


「すてきなおうち! ありがと! ありがと!」

「いってくれれば、またつくるのだ」

「きゃい~!」


 ……それでも、村には三千人くらいの子が定住しちゃった。

 なんだかんだで、賑やかなようせいキングダムが残ったわけだね。

 だいたいこれ位の人数で、キングダムを維持していくんだろうな。


 そうしてキングダムが残ったことに安心していると……最後に、一つの別れが来た。


「みんなにおかし、おしえてくるね! おしえてくるね!」


 キラキラ妖精三人娘の一人、アゲハちゃん。

 とうとう彼女も故郷に戻る日が……やってきたのだ。

 今まで中心メンバーとして頑張ってきてくれただけに、付き合いも長い。

 これはけっこう、さみしい出来事だった。


 でも、笑顔で送り出してあげないとね!

 だってアゲハちゃんは、フェアリンの世界を飛び回る――冒険家なのだから!

 それじゃあ、行ってらっしゃいの挨拶だ。


「行ってらっしゃい。あっちに帰っても、元気でね。それと、また遊びに来てね」

「もちろんだよ! まっててね! まっててね!」

「またくるときは、おみやげおねがいね! おみやげ!」

「めずらしいおだんご、たのむね! たのむね!」


 俺が挨拶すると、いっしょにサクラちゃんとイトカワちゃんも、元気にお見送りだ。

 そして二人ともちゃっかり、お土産を頼んでいる。

 なかなかたくましい子たちだね……。


「それじゃ、いくね! いくね!」


 やがて出発の時となり、アゲハちゃんは空を舞う。

 白い粒子をきらめかせながら、ふわりと天空へ飛び立った。


「行ってらっしゃい」

「いってらっしゃいです~!」

「また来てね。みんな待ってるから」

「またね! またね!」

「おみやげたのむね! おみやげ!」


 天空に舞うアゲハちゃん見上げ、みんなで手を振る。

 これから彼女は、とっておきのレシピを胸に抱えて……旅立つのだ。


「おしえてもらったおかし、ひろめるね! ひろめるね!」


 見送られる側のアゲハちゃんは、そう言いながら俺たちの上を……くるくる、くるくる。

 何回も何回も旋回して、白い粒子がキラキラと降り注いで。

 やがて――。


「いってきます! いってきま~す!」


 ――旅立ちの煌めきを残し、飛んで行った。


 ……アゲハちゃん、元気に旅をしてね。

 そしてまたいつの日か、遊びに来てくれたら……嬉しいな。



 ◇



 ここはとある世界の、とある空。

 一人の妖精さんが、めっちゃ元気に飛んでおりました。


「今度はあっちに行こ! あっち!」


 ものすごい速度で飛行するのは――アゲハちゃん!

 まるで天の川のような、キラッキラ粒子の軌跡を描きながら……一直線。

 遠くに見える、大きなお花畑を目指して飛んでおりますね。


「お菓子、作ってあげよ! 作ってあげよ!」


 アゲハちゃんは、もうわくわく笑顔できゃいっきゃい。

 早くあのお花畑の子たちに、ちたまで教わったお菓子を食べさせてあげたいようです。


「きゃい~!」


 目的地を目指して……高速で飛んで、飛んで、飛んで。

 ほかのみんなよりちょっと大きな羽根が、キラキラ、キラキラ。

 大志たちに貰ったレシピを胸に、力が溢れます。


 やがて――。


「――とうちゃ~く!」


 とうとう目的地に到着しました!

 さっそく仲間を探して、ひらひらと散策です。

 お花の中を覗いたり、地面をちこちこ歩いたり。

 さてさて、このお花畑の住人は……どこにいるのかな?


 そうして仲間を探しながら、ひらひら飛んでいると……。


「あれれ? おきゃくさんかな? おきゃくさんかな?」


 アゲハちゃんに、下から声がかけられました。

 すぐさま声のしたほうを見てみると――。


「――こんにちは! こんにちは!」


 下には……一人の小さな、こども妖精ちゃんがおりますね。

 元気に挨拶するその子は……色付き粒子を、出していました。

 この世界には……まだまだ脆化病の子は、いるのです。


「きゃい~! こんにちは! 遊びに来たよ! 遊びに来たよ!」


 しかしアゲハちゃんは、色付き粒子を見ることが出来ません。

 この子が脆化病だと気づかずに、元気に挨拶です。


「ようこそ! ようこそ! 一緒にあそぼ! あそぼ!」


 脆化病の小さな妖精ちゃんは、元気に歓迎していますね。

 ぴこぴこと羽根を羽ばたかせて……ちこちこと、地上を歩いています。

 この子は恐らく――空を飛べません。

 治療が必要な、妖精さんでした。


「お近づきのしるしに、良い物あげるね! あげるね!」


 アゲハちゃんはその子の傍らに降り立ち、にっこりとほほ笑みかけます。

 良い物とは、あれですね。


「きゃい? 良い物? 良い物?」


 良い物と聞いて、すすすっと近づきました。

 警戒心ゼロの、チョロ妖精ちゃんですね。お母さん心配です。

 そんな妖精ちゃんにむかって、アゲハちゃんは――。


「これを使って、今から作るよ! 作るよ! 不思議なお菓子、作るんだよ!」


 アダマンフライパンを掲げて、言いました。


「きゃい? 不思議なお菓子? 不思議なお菓子?」

「そうだよ! そうだよ! お菓子を食べながら、色々お話しましょ~」

「きゃい~! お話する! お話~!」


 さあ、アゲハちゃん。

 この脆化病のちいさな妖精さんに、色々教えてあげましょう。


 あっちの方に――素敵な村が、あるってことを。


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