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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十七章 王の力
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第十三話 田んぼを耕している間に……

 お昼を楽しく食べ終えて、田んぼ作り午後の部開始だ。

 俺はトラクターを使って、一気に耕すお仕事だね。


「爺ちゃん、あのトラクター空いたんだよね」

「ああ、あとはあの田んぼを耕せば終わりだ」

「順調だね」


 それじゃあ、トラクターのカギを貰って作業を始めよう。

 親父は……あれ? いない。

 そういや、さっきも姿を見かけなかったな。

 爺ちゃんに聞いてみよう。


「ねえ爺ちゃん、親父ってどこ行っちゃったの?」

「志郎か? あいつなら今日は役所に行ってるぞ?」

「え? 親父は来ていないの?」


 あれ? おかしいな。それじゃあさっき、トラクターを動かしてたのは誰なんだ?

 いまいるメンバーは、爺ちゃんに婆ちゃん、それと……シャムちゃん。

 ……あれ?


「……爺ちゃん、トラクターのカギって、誰が持ってる?」

「ああ、カギか。おーい! トラクターのカギ持って来てくれ」

「あ~にゃ!」


 そしてなぜか、シャムちゃんがカギをもってきた。

 まさか、まさか……。


「ね、ねえ。もしかしてさ……シャムちゃんがトラクター動かしてたの?」

「そうだが。この子、速攻で操作覚えたぞ」

「大したものよねえ」

「あにゃ!」


 ネコちゃん族が、ちたま機械文明の権化である、乗り物を……。

 おまけに、上手に耕せている。

 なにこのネコちゃん、凄い!


「君、凄いね! これけっこう難しいのに!」

「あにゃあにゃ~。オテツダイ! オテツダイ!」

「お手伝いしてくれたんだ。偉い子だね~」

「あにゃ~」


 頭を撫でてあげると、シャムちゃんにゃあにゃあと喜ぶ。

 いやはや、この肉球でよくもまあ、トラクターの操作を……。

 体もちっちゃいのに、大したものだ。

 心底驚いたよ。


 しかし、ネコちゃん族がトラクターを動かしているわけで。

 この小さな子にだって出来るのなら、もしかして……。


 ――良い事考えた!



 ◇



「というわけで、突発的に企画を始めたいと思います」

「企画ですか?」

「ええ、挑戦してみよう企画ですね」


 休憩していたエルフたちに集まってもらい、思いつき企画を開催する。

 名付けて――エルフにトラクターを運転させてみよう! 企画だ。

 ちいさなシャムちゃんが運転できちゃうのだから、エルフたちだっていけるだろうと。

 トラクターが運転出来れば、畑仕事ももっと捗るだろうという目論見もある。


「ここに用意したのは、みなさんよくご存じの土を耕す乗り物です。トラクターですね」

「あっという間に耕せちゃう、凄いやつですね」

「かっこいい!」


 こういうのが好きなヤナさんとメカ好きさん、好奇心旺盛な目でトラクターを眺めている。

 爺ちゃんが使ってた、一番小さなトラクターだ。

 十馬力でのんびり耕す、わりと扱いやすい機種だね。

 今日はこの耕すマシンを、ヤナさんとメカ好きさんに動かしてもらおう!


「そこのお二方、このトラクターを――動かしてみたいと思いませんか?」

「え!? 出来るのですか!?」

『かっこいいいいい~!』


 ……ささやいただけで、メカ好きさんが完全離脱した。

 クモちゃんバングル、切れてるよ……。

 とりあえずぐるぐる巻きにしておこう。


「すいません、とりみだしました」

「ひさびさにみたな」

「すぽーん! てかんじで、でてきた」

「オバケです~!」

(みごとなりだつ~)


 ちょっと騒ぎになったけど、まあいつものことで。

 エルフのみんなは、慣れたものだね。

 それを見た謎の声も、見事と言っている。確かに見事だ。

 もはや幽体離脱芸と言って良い。


「わわ、わきゃ~――……」


 ――しかし、しっぽドワーフちゃんたちは慣れていなかった。

 一人また一人と、気絶して倒れて行く……。

 初めて見る人にとっては、衝撃的過ぎる出来事だったらしい。


 ……。


 ――――大変だー!!!!



 ◇



「わわ、わきゃ~、すごいのみちゃったさ~」

「オバケ、はじめてみたさ~」

「びっくりしたさ~」


 ぷるぷるとふるえるしっぽドワーフちゃんたちだけど、お騒がせしました。

 でもこれ、村じゃわりと普通なことなんですよ。

 そのうち慣れます。


「おさわがせしました」


 ペコリと謝るメカ好きさんだけど、もう芸だからね。

 しょうがない。

 とりあえず、クモさん糸を強化して対応するよ。

 多分強度的な問題だったからね。


 とまあちょっとした事故は起きたけど、気を取り直して企画を再開しよう。


「それでは、各部の説明や操作方法を教えます。これがハンドルと言って――」


 二人に、エンジンの始動方法や操縦方法を教える。

 自動車と基本は同じだけど、トラクターはブレーキペダルが二つあったりとか、独特な面も。

 他には斜面を登るときは直角に進入して、絶対に斜めに登ってはいけないなどなど。

 運用に気を付ける点も一緒に、一つ一つ説明していく。


「あとみなさん、運転席に人がいる時は、絶対に近づかないでください」

「人がいるって気づかずに、動かしてしまうこともあるので」

「わかったです~」

「じどうしゃと、おんなじだべな」

「きをつけます」


 周りのみなさんにも、注意事項は説明しておく。

 ユキちゃんもフォローしてくれて、守ってほしい点を伝える。

 運転手だけではなく、歩行者や周囲の協力もあって、初めて交通の安全は保たれるのだ。

 まあ俺が車で来るときも同じことは伝えてあって、みんな守ってくれている。

 改めて、認識してもらう感じだね。


「ふむふむ」

「かっこいい」


 そんな色々な講義を、ヤナさんとメカ好きさんは真剣に聞いている。

 おまけに、なんだかノートを取ってらっしゃる。

 ちらりとのぞいてみると、ヤナさんはもうかな漢字を書けていて、メカ好きさんも、ひらがなはマスターしている……。

 いつの間に、日本語をそこまで憶えたのだ……。


 とまあ、俺の方がびっくりすることもあったけど、なんとか説明を終えて。

 いよいよ、実習の始まりだ!


 まずはヤナさんが、一人で運転だね。

 それでは、安全確認!


「では、安全確認をお願いします」

「はい! 周囲良し! 駐車ブレーキ良し! エンジン停止良し!」


 所定の停止状態になっていることを確認し、最初のチェックはオーケーだ。

 指さし確認をしっかりして、そろりそろりと乗り込む。

 お次はエンジン始動だね。


「では、エンジンをかけるための確認をしてください」

「はい! シートベルト良し! ブレーキ連結良し! 駐車ブレーキ下げ良し!」


 始動前状態を指さし確認し、安全を確かめる。

 次はギアの位置だね。このトラクターはオートマチックだから、二つのギアを見れば良い。


「ギア確認」

「グライドシフトレバー中立良し! ぴーてぃーおー中立良し!」

「はいキーを入れる」

「キー入れました!」


 連結されたブレーキを踏みこみ、キーを「入」の位置へと回す。


「いーじーちぇっかランプ良し!」

「油圧レバー下げて」

「レバー下げ良し!」


 そうして、電子ポンパを確認したりアクセルレバーを確認したり、エンジンを予熱したり。

 細かい手順を一つ一つ、指さし確認していく。

 慣れると数秒でできる確認だけど、指を指して確認するのはとっても大事だ。

 ヤナさんはきっちり、一つ一つをこなした。

 すべて問題なしだ。エンジン始動オーケーだね。


「はい、問題なし。エンジン始動してください」

「――エンジン始動します!」


 俺の確認オーケーをもらったヤナさん、キーを「始動」の位置へ。

 すると――エンジンが唸りをあげて、始動した!


「やった! かかった!」

「おとうさん、かっこいいです~」

「かっこいい!」

「ヤナさん、やったー!」


 エルフ史上初の、トラクター始動に成功だ。

 まわりのみんなも、キャッキャとはしゃいで喜んでいる。


「くるまってどうぐ、すごいおとがするさ~」

「タイシさんがのってくるやつは、しずかだったさ~?」

「いろいろしゅるいが、あるみたいさ~」


 しっぽドワーフちゃんたちも、わきゃわきゃと眺めている。

 車自体は俺が村に乗ってきているのを見ているから、知っているよね。

 そのおかげか、間近でエンジンが唸りをあげても、怖がる様子はない。

 好奇心が先に来ている感じだ。


「お、おおおお……!」


 そんなみんなの反応をよそに、ヤナさんはガッチガチだ。

 生まれて初めて、いちおう自動車を動かすからね。緊張するよね。


「あ~、私も教習所で初めて車を動かすとき、こんな感じでしたね」

「俺も高校の時通ったけど、最初はやっぱり緊張したよ」


 ユキちゃんも気持ちが分かるのか、しみじみとしている。

 ちなみに村の手伝いで教習所にあんまり通えないから、いまだに卒業できていない。

 あとちょっとなのだけど、ほんとすまぬ、すまぬ……。


 とまあ、それはそれとして。

 いよいよヤナさんに、トラクターを動かしてもらいましょう!

 一周してここまで帰ってくるだけの、簡単なお仕事だ。


「それではヤナさん、動かしてしてみましょう!」

「は、はい!」


 またまた指さし確認だ。

 クラッチペダルは踏み込んだか、副変速レバーはどうか。

 アクセルレバーの位置は? などなどを確認する。


「はい問題なし。駐車ブレーキ解除」

「駐車ブレーキ解除良し!」


 駐車ブレーキを解除したら、あとは発進するだけだ。

 それでは――動かして貰いましょう!


「はいグライドシフトレバー、ゆっくり動かして」

「いきます!」


 ヤナさん、そろーりとシフトを動かす。

 するとトラクターが、じわじわと前進し始める。


 ついに――自動車を動かすエルフが誕生だ!

 ……まあ、トラクターだけど。


「う、動いた! 動きましたよ!」

「やったー!」

「ヤナさん、すげええええ!」

「かっこいいいいいい!」


 ノークラッチ無段変速のグライドシフト車なので、ガクガクすることもなく。

 じんわりと、ヤナさんの乗ったトラクターは動き出す。

 それを目の当たりにしたギャラリーのみなさん、大騒ぎだね。


「では一周してみてください」

「わかりました!」

「おとうさん、がんばるです~!」

「うおおお! うごいてる~!」


 みんなの歓声を背に、ヤナさんはゆるりゆるりと動かしていく。

 そのままゆるゆると一周して、ゆっくりとこっちに戻ってきた。


「はい停止操作」

「ギア良し! 駐車ブレーキ良し!」


 エンジン停止までは、気を抜けない。

 またもや指さし確認をして、きっちりとエンジンを停める。


「タイシさんどうですか! うまく動かせていましたか!」

「ええ、大丈夫だと思います。あとは、運転の注意事項に気を付けて頂ければと」

「がんばります!」


 無事停止操作を完了して降りてきたヤナさんん、めっちゃ興奮しているな。

 トラクターとは言え自動車を動かしたのだから、達成感は凄いだろう。

 よく頑張りました! ヤナさんえらい!


「おとうさん、かっこよかったです~」

「ヤナ、やるじゃない!」

「あれをうごかすなんて、すげえな」

「あらあら」

「ふがふが」

「ふっふっふ」


 ハナちゃんやカナさん、それにご家族のみんなに讃えられて、ヤナさんでれでれのえびす顔だ。

 一家の大黒柱として、威厳は保てたね。良かった良かった。


「か、かかかかかっこいいいい!」


 そんなヤナさんを見て、もう興奮を抑えられない方が一名いらっしゃいますな。


 では次に――メカ好きさんだ!

 ヤナさんと同じように、動かしてもらおう!


 ……運転してる最中に、離脱したりしないよね?



 ◇



「かっこいい~!」


 その後、耕し方の操作も教えて。

 今はメカ好きさんが、田んぼをトラクターで耕している。

 あのトラクターには水平モンローがあるから、慣れていなくても結構耕せてしまう。

 良い感じに耕作面積を広げているね。

 この調子なら……予定よりもうちょっと、エルフ田んぼを広げられそうな感じだ。


「まさか、私たちがトラクターを使わせてもらえるとは……」


 同じくトラクターで耕せるようになったヤナさん、感動でぷるぷるしている。

 これがあれば、本格的な畑を作れる。

 沢山耕して、食べ物いっぱい作ってくださいだ。

 あとは、安全確認を怠らなければ大丈夫だろう。


「運用する際に気を付けることは、守ってくださいね」

「そこはもう、きっちりやります」


 気合みなぎるヤナさんだけど、ルールは守る人だからね。

 お任せしても、大丈夫だと思う。


「教習はちょくちょくやりますので、予定を合わせておきましょうか」

「はい! よろしくお願いします!」


 あとは今日教えておしまい、ではなく。

 これからもトラクター教習は続けて行く予定だ。

 上手に動かせて損はない機械なので、是非ともマスターして頂きたい。


 ……しかしこれで、田んぼを耕すのもなんとかなりそうだ。ほっと一安心だね。

 水入れすればしばらくは時間が空くから、その間に妖精さんお菓子作りを進めよう。

 それが一段落つけば、実家の田植えを一気に進めちゃおう。

 あ、倉庫業務もあるな……。さらに妖精さんの脆化病診断に、他にもいろいろなお仕事が。

 お仕事が……。


 ……あれ? 俺休む暇なくない?

 お仕事のスケジュール、ギッチギチな感じがするけど……。


 なぜなんだ。



 ◇



 田んぼを耕し終わり、一息ついたころ。

 しっぽドワーフちゃんたちの所へ顔を出して、調理器具製作の様子を見たのだけど……。


「たくさんつくったさ~」

「ようせいさんのいけんも、とりいれたさ~」

「いっしょにつくったよ! つくったよ!」


 ――もうなんか、大量の調理器具が出来ていた。


 たった数日で、めっちゃ作っとりますがな。

 丸投げした結果、恐ろしいほどの量産体制が構築されていたでござるよ……。


「もう、できちゃってるです~!」


 一緒に来てくれたハナちゃんも、あっけにとられているね。

 まさかここまで、生産速度が速いとは思っていなかったよ。


「かるくていいね! いいね!」

「ぴっかぴかだね! ぴっかぴか!」

「きれいなどうぐ~」


 というか、すでに妖精さんたちへの配布が終わっている。

 みなさんぴかぴかのフライパンやらを掲げて、きゃいっきゃいだ。

 でも二万人だよ、二万人。

 ちいさな器具とはいえ、なんちゅう生産力だ……。


「……なんというか、みんな作るのが速いね」

「おおぜいにてつだってもらったから、はやかったさ~」

「ひとがせんにんもいるから、これくらいはよゆうさ~」


 ……そうだ、今湖畔リゾートで待機している子は、一千人ほどいらっさる。

 この人数で協力したら……そりゃ沢山作れちゃうよね。

 やはり物量は正義だったのだ。


「みんな、すごいです~」

「おやくにたてて、なによりさ~」

「がんばったさ~」


 ハナちゃんがキャッキャと讃えると、しっぽドワーフちゃんたちもまんざらではない様子。

 というかしっぽがぱたぱた振られているので、褒められて喜んでいるのが丸わかりだ。

 ……けっこうな仕事を成し遂げたのだから、達成感あるんだろうな。


 でもこれで、道具はそろった。

 しっぽドワーフちゃん特製の、アダマンタイトという謎金属製調理器具だ。

 これであとは、物資を運び込めばお菓子作りが始められる。

 そろそろ第一弾のメニューを、何にするか考えておこう。


「ハナちゃん、近いうちにお菓子作り始められるよ。一緒にどんなお菓子を作ったら良いか、考えようね」

「あい~! おかしづくり、たのしみです~」

「たのしみだね! たのしみ!」

「ちたまのおかし、つくっちゃうよ! つくっちゃう!」


 そろそろお菓子作りが開催できると伝えると、ハナちゃん大はしゃぎだ。

 妖精さんたちも、もらったばかりの調理器具を抱えてきゃいっきゃいだね。


「……あや~」

「すてきなどうぐだね! ぴっかぴかだね!」


 あれ? さっきまではしゃいでいたハナちゃん、もじもじし始めたぞ。

 どうしたんだろう?

 妖精さんたちの方を見ているけど……。


「ハナちゃん、どうしたの?」

「あや~……なんでもないです~」

「何でもないの?」

「あい~」


 何でもないとは言うけれど、わりと分かりやすい。

 ちらっちらっと、妖精さんたちが持っている調理器具を見ているわけで。

 これたぶん、ハナちゃんも調理器具を欲しくなっちゃったんじゃないかな?


「あや~……」


 ほら、すんごく欲しそうなまなざしだもの。エルフ耳も、へにょっとたれちゃっている。

 欲しいのだけど、わがまま言いたくないってオーラがバンバン出ているね。

 親のいう事を良く聞く良い子や、他人を気遣う優しい人は、こうしてガマンしてしまう。

 おまけに周囲の人が気づいてあげないと、ずっとそのまま耐えちゃうのだ。

 ……これは、なんとかしてあげたいって思うよね。

 というわけで。


 ――甘やかしちゃっても、良いよね!


「ねえ、追加でハナちゃん用の調理器具、作れないかな?」

「もんだいないさ~、すぐできるさ~」


 お母さんドワーフにお願いすると、快く引き受けてくれた。

 これくらいならお手の物みたいで、赤いしっぽをピンと立てて、任せてくれって感じの雰囲気。

 貫禄あるなあ。


「あや!」


 そしてハナちゃん、お耳がぴっこーんとなって驚いている。

 もうその反応だけで、正解なのが分かるね。


「タイシ、ハナにもおりょうりどうぐ、つくってくれるです!?」


 ぴとっと俺の脚にしがみついて、上目遣いのハナちゃんだ。

 お目々キラキラ、期待に満ちたまなざしだね。


「それはもちろんだよ。ハナちゃんにお料理道具、贈っちゃうよ」


 これでハナちゃんのお料理がもっともっと美味しくなるなら、良い事だ。

 向上心のある子を、後押ししてあげたい気持ちもある。


「わーい! タイシありがとです~!」


 それを聞いたハナちゃんは大喜びになって、俺の足をよじよじと登ってきた。

 もうにっこにこ笑顔で、エルフ耳がぴこんと立っているね。

 

「うふふ~、うふふ~」


 やがて肩車状態になったハナちゃん、ご機嫌でうふうふしている。

 喜んでもらえて、何よりだ。

 しかし実用品を欲しがるあたり、ハナちゃんらしいね。


「うふ~」

「ハナちゃん用の調理器具で、美味しいお料理沢山作ってね」

「あい~!」


 そうして、二人でキャッキャしていると――。


「それじゃ、いまからつくるさ~」

「すぐにできるさ~」


 ……あれ? しっぽドワーフちゃんたちが集まって、なにやら準備を始めた。

 今から造る?

 え? そんなに簡単に始められるの?


「まずは、きりぬくさ~」

「かたをよういするさ~」


 集まったしっぽドワーフちゃんたち、金属板の上に木で出来た型を置いて……なにやらキコキコと傷をつけ始めた。

 やがて金属板には、綺麗に型どられた溝が掘られる。


「これでかたぬき、できるさ~」

「きれいにできたさ~」


 お次はその金属板から、型を抜くらしい。

 どうやるんだろう?

 と、思っていると――。


「こっちのじゅんびは、いいさ~」

「わかったさ~。それじゃいくさ~! ――そーれっ!」


 一人のしっぽドワーフちゃんが、なにやら両手を素材にかざして。

 正面に居るもう一人が、おもむろにハンマーを掲げ……一気に金属板に向かって振り下ろす!

 すると――地面に置かれたアダマンの金属板が「ぱっかん」と型抜きされた。

 え? そんなあっさり? その素材、加工がめんどいんじゃなかったっけ?


「つぎは、かたちをととのえるさ~」

「いくさ~!」

「そーれっ!」


 型抜きされた金属板を渡された別のドワーフちゃんが、金型みたいな台の上に板を置いた。

 そして円筒形のハンマーで、また「ぱっかん」とやる。

 おや? フライパンの形っぽくなったね……。平底フライパンだ。


「おつぎは、もちてさ~」

「そーれ!」


 事態について行く間も与えられず、お次はフライパンの持ち手部分が形成された。

 ぱっかんぱっかんと叩かれた金属は、みるみる形が出来ていく。

 色んな形状のハンマーで叩くだけ。でも、しっかり道具が出来上がっていくな……。


「さいごのしあげ、みがきをするさ~!」

「わきゃ~! これがいちばんたいへんさ~!」

「きれいに、しあげるさ~!」


 あっけにとられている間に、謎の布を取り出したみなさんは……わきゃわきゃとフライパンを磨き始めた。

 もともと金属板はピカピカだったけど、より一層滑らかな表面になっていく。


「……ハナちゃん、今の見た?」

「あや~、あっというまで、よくわからなかったです~……」

「だよね」

「です~」


 あっけにとられる俺とハナちゃんだけど、金属加工ってこんなんだっけ?

 ちたまじゃ、もちっと苦労してあれこれしてた気がするけど……。

 それをまあ、ハンマーとかで、こんなにあっさり……。


「――できたさ~! うけとってほしいさ~」

「ほかのも、すぐにつくるさ~」

「もうちょっと、まつさ~」


 そして、できたてほやほやのフライパンを手渡される。

 まるで鏡のように周囲が写り込む、ピッカピカのフライパンだ。

 これはお見事! 素敵な調理器具だね!


「これは良い物だね、良い仕事してる。みんな、ありがとう!」


 良い仕事をしたのだから、当然褒めないと。

 それが、次の良い仕事につながる。


「どういたしましてさ~」

「おてのものさ~」

「どしどし、つくるさ~」


 褒めてあげたら、しっぽドワーフちゃんたちは黄色のしっぽをぱったぱたに振って、にこにこ笑顔だ。

 仕事を褒められたら、やっぱり嬉しくなるよね。

 この調子で、良い仕事をしてくださいだ。


 さてさて、ではこの素敵なフライパンを、ハナちゃんに贈呈しよう。

 もう目をキラッキラさせながら見ているから、待たせちゃかわいそうだ。


「ほらハナちゃん、みんなが造ってくれたフライパンだよ」

「うっきゃ~! きれいなフライパンです~! 」


 ハナちゃんにフライパンを渡すと、裏を眺めたり表を眺めたりしながら、大はしゃぎになった。

 自分専用の調理器具を手に、キャッキャしているね。


「うっきゃ~! タイシもみんなも、ありがとです~! だいじにするです~!」


 そしてひしっとフライパンを抱えて、満面の笑顔。エルフ耳も、ぴっこぴこ。

 喜んでいただけて、何よりだ。

 これからも美味しいお料理、作ってね。


「うきゃ~! うきゃ~!」

「それじゃ、ほかのもつくるさ~!」

「そーれっ!」


 湖畔リゾートに、ハナちゃんのうきゃうきゃという歓声が響き渡り、同時に金属加工の音も響く。

 しっぽドワーフちゃんたちの掛け声とともに、どんどん道具も形が出来てきて。

 賑やかで活気のある、良い昼下がりとなった。


「うきゃ~! このどうぐも、すてきです~!」


 にこにこハナちゃんが抱えるしっぽドワーフちゃん特製調理器具は、どんな使い心地だろうか。

 お菓子作りのその日が、楽しみだね!


 それじゃあ俺もお仕事頑張って、早い所お菓子作りが出来るようにしよう。

 お仕事、山ほどあるけどね……。


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