第十三話 田んぼを耕している間に……
お昼を楽しく食べ終えて、田んぼ作り午後の部開始だ。
俺はトラクターを使って、一気に耕すお仕事だね。
「爺ちゃん、あのトラクター空いたんだよね」
「ああ、あとはあの田んぼを耕せば終わりだ」
「順調だね」
それじゃあ、トラクターのカギを貰って作業を始めよう。
親父は……あれ? いない。
そういや、さっきも姿を見かけなかったな。
爺ちゃんに聞いてみよう。
「ねえ爺ちゃん、親父ってどこ行っちゃったの?」
「志郎か? あいつなら今日は役所に行ってるぞ?」
「え? 親父は来ていないの?」
あれ? おかしいな。それじゃあさっき、トラクターを動かしてたのは誰なんだ?
いまいるメンバーは、爺ちゃんに婆ちゃん、それと……シャムちゃん。
……あれ?
「……爺ちゃん、トラクターのカギって、誰が持ってる?」
「ああ、カギか。おーい! トラクターのカギ持って来てくれ」
「あ~にゃ!」
そしてなぜか、シャムちゃんがカギをもってきた。
まさか、まさか……。
「ね、ねえ。もしかしてさ……シャムちゃんがトラクター動かしてたの?」
「そうだが。この子、速攻で操作覚えたぞ」
「大したものよねえ」
「あにゃ!」
ネコちゃん族が、ちたま機械文明の権化である、乗り物を……。
おまけに、上手に耕せている。
なにこのネコちゃん、凄い!
「君、凄いね! これけっこう難しいのに!」
「あにゃあにゃ~。オテツダイ! オテツダイ!」
「お手伝いしてくれたんだ。偉い子だね~」
「あにゃ~」
頭を撫でてあげると、シャムちゃんにゃあにゃあと喜ぶ。
いやはや、この肉球でよくもまあ、トラクターの操作を……。
体もちっちゃいのに、大したものだ。
心底驚いたよ。
しかし、ネコちゃん族がトラクターを動かしているわけで。
この小さな子にだって出来るのなら、もしかして……。
――良い事考えた!
◇
「というわけで、突発的に企画を始めたいと思います」
「企画ですか?」
「ええ、挑戦してみよう企画ですね」
休憩していたエルフたちに集まってもらい、思いつき企画を開催する。
名付けて――エルフにトラクターを運転させてみよう! 企画だ。
ちいさなシャムちゃんが運転できちゃうのだから、エルフたちだっていけるだろうと。
トラクターが運転出来れば、畑仕事ももっと捗るだろうという目論見もある。
「ここに用意したのは、みなさんよくご存じの土を耕す乗り物です。トラクターですね」
「あっという間に耕せちゃう、凄いやつですね」
「かっこいい!」
こういうのが好きなヤナさんとメカ好きさん、好奇心旺盛な目でトラクターを眺めている。
爺ちゃんが使ってた、一番小さなトラクターだ。
十馬力でのんびり耕す、わりと扱いやすい機種だね。
今日はこの耕すマシンを、ヤナさんとメカ好きさんに動かしてもらおう!
「そこのお二方、このトラクターを――動かしてみたいと思いませんか?」
「え!? 出来るのですか!?」
『かっこいいいいい~!』
……ささやいただけで、メカ好きさんが完全離脱した。
クモちゃんバングル、切れてるよ……。
とりあえずぐるぐる巻きにしておこう。
「すいません、とりみだしました」
「ひさびさにみたな」
「すぽーん! てかんじで、でてきた」
「オバケです~!」
(みごとなりだつ~)
ちょっと騒ぎになったけど、まあいつものことで。
エルフのみんなは、慣れたものだね。
それを見た謎の声も、見事と言っている。確かに見事だ。
もはや幽体離脱芸と言って良い。
「わわ、わきゃ~――……」
――しかし、しっぽドワーフちゃんたちは慣れていなかった。
一人また一人と、気絶して倒れて行く……。
初めて見る人にとっては、衝撃的過ぎる出来事だったらしい。
……。
――――大変だー!!!!
◇
「わわ、わきゃ~、すごいのみちゃったさ~」
「オバケ、はじめてみたさ~」
「びっくりしたさ~」
ぷるぷるとふるえるしっぽドワーフちゃんたちだけど、お騒がせしました。
でもこれ、村じゃわりと普通なことなんですよ。
そのうち慣れます。
「おさわがせしました」
ペコリと謝るメカ好きさんだけど、もう芸だからね。
しょうがない。
とりあえず、クモさん糸を強化して対応するよ。
多分強度的な問題だったからね。
とまあちょっとした事故は起きたけど、気を取り直して企画を再開しよう。
「それでは、各部の説明や操作方法を教えます。これがハンドルと言って――」
二人に、エンジンの始動方法や操縦方法を教える。
自動車と基本は同じだけど、トラクターはブレーキペダルが二つあったりとか、独特な面も。
他には斜面を登るときは直角に進入して、絶対に斜めに登ってはいけないなどなど。
運用に気を付ける点も一緒に、一つ一つ説明していく。
「あとみなさん、運転席に人がいる時は、絶対に近づかないでください」
「人がいるって気づかずに、動かしてしまうこともあるので」
「わかったです~」
「じどうしゃと、おんなじだべな」
「きをつけます」
周りのみなさんにも、注意事項は説明しておく。
ユキちゃんもフォローしてくれて、守ってほしい点を伝える。
運転手だけではなく、歩行者や周囲の協力もあって、初めて交通の安全は保たれるのだ。
まあ俺が車で来るときも同じことは伝えてあって、みんな守ってくれている。
改めて、認識してもらう感じだね。
「ふむふむ」
「かっこいい」
そんな色々な講義を、ヤナさんとメカ好きさんは真剣に聞いている。
おまけに、なんだかノートを取ってらっしゃる。
ちらりとのぞいてみると、ヤナさんはもうかな漢字を書けていて、メカ好きさんも、ひらがなはマスターしている……。
いつの間に、日本語をそこまで憶えたのだ……。
とまあ、俺の方がびっくりすることもあったけど、なんとか説明を終えて。
いよいよ、実習の始まりだ!
まずはヤナさんが、一人で運転だね。
それでは、安全確認!
「では、安全確認をお願いします」
「はい! 周囲良し! 駐車ブレーキ良し! エンジン停止良し!」
所定の停止状態になっていることを確認し、最初のチェックはオーケーだ。
指さし確認をしっかりして、そろりそろりと乗り込む。
お次はエンジン始動だね。
「では、エンジンをかけるための確認をしてください」
「はい! シートベルト良し! ブレーキ連結良し! 駐車ブレーキ下げ良し!」
始動前状態を指さし確認し、安全を確かめる。
次はギアの位置だね。このトラクターはオートマチックだから、二つのギアを見れば良い。
「ギア確認」
「グライドシフトレバー中立良し! ぴーてぃーおー中立良し!」
「はいキーを入れる」
「キー入れました!」
連結されたブレーキを踏みこみ、キーを「入」の位置へと回す。
「いーじーちぇっかランプ良し!」
「油圧レバー下げて」
「レバー下げ良し!」
そうして、電子ポンパを確認したりアクセルレバーを確認したり、エンジンを予熱したり。
細かい手順を一つ一つ、指さし確認していく。
慣れると数秒でできる確認だけど、指を指して確認するのはとっても大事だ。
ヤナさんはきっちり、一つ一つをこなした。
すべて問題なしだ。エンジン始動オーケーだね。
「はい、問題なし。エンジン始動してください」
「――エンジン始動します!」
俺の確認オーケーをもらったヤナさん、キーを「始動」の位置へ。
すると――エンジンが唸りをあげて、始動した!
「やった! かかった!」
「おとうさん、かっこいいです~」
「かっこいい!」
「ヤナさん、やったー!」
エルフ史上初の、トラクター始動に成功だ。
まわりのみんなも、キャッキャとはしゃいで喜んでいる。
「くるまってどうぐ、すごいおとがするさ~」
「タイシさんがのってくるやつは、しずかだったさ~?」
「いろいろしゅるいが、あるみたいさ~」
しっぽドワーフちゃんたちも、わきゃわきゃと眺めている。
車自体は俺が村に乗ってきているのを見ているから、知っているよね。
そのおかげか、間近でエンジンが唸りをあげても、怖がる様子はない。
好奇心が先に来ている感じだ。
「お、おおおお……!」
そんなみんなの反応をよそに、ヤナさんはガッチガチだ。
生まれて初めて、いちおう自動車を動かすからね。緊張するよね。
「あ~、私も教習所で初めて車を動かすとき、こんな感じでしたね」
「俺も高校の時通ったけど、最初はやっぱり緊張したよ」
ユキちゃんも気持ちが分かるのか、しみじみとしている。
ちなみに村の手伝いで教習所にあんまり通えないから、いまだに卒業できていない。
あとちょっとなのだけど、ほんとすまぬ、すまぬ……。
とまあ、それはそれとして。
いよいよヤナさんに、トラクターを動かしてもらいましょう!
一周してここまで帰ってくるだけの、簡単なお仕事だ。
「それではヤナさん、動かしてしてみましょう!」
「は、はい!」
またまた指さし確認だ。
クラッチペダルは踏み込んだか、副変速レバーはどうか。
アクセルレバーの位置は? などなどを確認する。
「はい問題なし。駐車ブレーキ解除」
「駐車ブレーキ解除良し!」
駐車ブレーキを解除したら、あとは発進するだけだ。
それでは――動かして貰いましょう!
「はいグライドシフトレバー、ゆっくり動かして」
「いきます!」
ヤナさん、そろーりとシフトを動かす。
するとトラクターが、じわじわと前進し始める。
ついに――自動車を動かすエルフが誕生だ!
……まあ、トラクターだけど。
「う、動いた! 動きましたよ!」
「やったー!」
「ヤナさん、すげええええ!」
「かっこいいいいいい!」
ノークラッチ無段変速のグライドシフト車なので、ガクガクすることもなく。
じんわりと、ヤナさんの乗ったトラクターは動き出す。
それを目の当たりにしたギャラリーのみなさん、大騒ぎだね。
「では一周してみてください」
「わかりました!」
「おとうさん、がんばるです~!」
「うおおお! うごいてる~!」
みんなの歓声を背に、ヤナさんはゆるりゆるりと動かしていく。
そのままゆるゆると一周して、ゆっくりとこっちに戻ってきた。
「はい停止操作」
「ギア良し! 駐車ブレーキ良し!」
エンジン停止までは、気を抜けない。
またもや指さし確認をして、きっちりとエンジンを停める。
「タイシさんどうですか! うまく動かせていましたか!」
「ええ、大丈夫だと思います。あとは、運転の注意事項に気を付けて頂ければと」
「がんばります!」
無事停止操作を完了して降りてきたヤナさんん、めっちゃ興奮しているな。
トラクターとは言え自動車を動かしたのだから、達成感は凄いだろう。
よく頑張りました! ヤナさんえらい!
「おとうさん、かっこよかったです~」
「ヤナ、やるじゃない!」
「あれをうごかすなんて、すげえな」
「あらあら」
「ふがふが」
「ふっふっふ」
ハナちゃんやカナさん、それにご家族のみんなに讃えられて、ヤナさんでれでれのえびす顔だ。
一家の大黒柱として、威厳は保てたね。良かった良かった。
「か、かかかかかっこいいいい!」
そんなヤナさんを見て、もう興奮を抑えられない方が一名いらっしゃいますな。
では次に――メカ好きさんだ!
ヤナさんと同じように、動かしてもらおう!
……運転してる最中に、離脱したりしないよね?
◇
「かっこいい~!」
その後、耕し方の操作も教えて。
今はメカ好きさんが、田んぼをトラクターで耕している。
あのトラクターには水平モンローがあるから、慣れていなくても結構耕せてしまう。
良い感じに耕作面積を広げているね。
この調子なら……予定よりもうちょっと、エルフ田んぼを広げられそうな感じだ。
「まさか、私たちがトラクターを使わせてもらえるとは……」
同じくトラクターで耕せるようになったヤナさん、感動でぷるぷるしている。
これがあれば、本格的な畑を作れる。
沢山耕して、食べ物いっぱい作ってくださいだ。
あとは、安全確認を怠らなければ大丈夫だろう。
「運用する際に気を付けることは、守ってくださいね」
「そこはもう、きっちりやります」
気合みなぎるヤナさんだけど、ルールは守る人だからね。
お任せしても、大丈夫だと思う。
「教習はちょくちょくやりますので、予定を合わせておきましょうか」
「はい! よろしくお願いします!」
あとは今日教えておしまい、ではなく。
これからもトラクター教習は続けて行く予定だ。
上手に動かせて損はない機械なので、是非ともマスターして頂きたい。
……しかしこれで、田んぼを耕すのもなんとかなりそうだ。ほっと一安心だね。
水入れすればしばらくは時間が空くから、その間に妖精さんお菓子作りを進めよう。
それが一段落つけば、実家の田植えを一気に進めちゃおう。
あ、倉庫業務もあるな……。さらに妖精さんの脆化病診断に、他にもいろいろなお仕事が。
お仕事が……。
……あれ? 俺休む暇なくない?
お仕事のスケジュール、ギッチギチな感じがするけど……。
なぜなんだ。
◇
田んぼを耕し終わり、一息ついたころ。
しっぽドワーフちゃんたちの所へ顔を出して、調理器具製作の様子を見たのだけど……。
「たくさんつくったさ~」
「ようせいさんのいけんも、とりいれたさ~」
「いっしょにつくったよ! つくったよ!」
――もうなんか、大量の調理器具が出来ていた。
たった数日で、めっちゃ作っとりますがな。
丸投げした結果、恐ろしいほどの量産体制が構築されていたでござるよ……。
「もう、できちゃってるです~!」
一緒に来てくれたハナちゃんも、あっけにとられているね。
まさかここまで、生産速度が速いとは思っていなかったよ。
「かるくていいね! いいね!」
「ぴっかぴかだね! ぴっかぴか!」
「きれいなどうぐ~」
というか、すでに妖精さんたちへの配布が終わっている。
みなさんぴかぴかのフライパンやらを掲げて、きゃいっきゃいだ。
でも二万人だよ、二万人。
ちいさな器具とはいえ、なんちゅう生産力だ……。
「……なんというか、みんな作るのが速いね」
「おおぜいにてつだってもらったから、はやかったさ~」
「ひとがせんにんもいるから、これくらいはよゆうさ~」
……そうだ、今湖畔リゾートで待機している子は、一千人ほどいらっさる。
この人数で協力したら……そりゃ沢山作れちゃうよね。
やはり物量は正義だったのだ。
「みんな、すごいです~」
「おやくにたてて、なによりさ~」
「がんばったさ~」
ハナちゃんがキャッキャと讃えると、しっぽドワーフちゃんたちもまんざらではない様子。
というかしっぽがぱたぱた振られているので、褒められて喜んでいるのが丸わかりだ。
……けっこうな仕事を成し遂げたのだから、達成感あるんだろうな。
でもこれで、道具はそろった。
しっぽドワーフちゃん特製の、アダマンタイトという謎金属製調理器具だ。
これであとは、物資を運び込めばお菓子作りが始められる。
そろそろ第一弾のメニューを、何にするか考えておこう。
「ハナちゃん、近いうちにお菓子作り始められるよ。一緒にどんなお菓子を作ったら良いか、考えようね」
「あい~! おかしづくり、たのしみです~」
「たのしみだね! たのしみ!」
「ちたまのおかし、つくっちゃうよ! つくっちゃう!」
そろそろお菓子作りが開催できると伝えると、ハナちゃん大はしゃぎだ。
妖精さんたちも、もらったばかりの調理器具を抱えてきゃいっきゃいだね。
「……あや~」
「すてきなどうぐだね! ぴっかぴかだね!」
あれ? さっきまではしゃいでいたハナちゃん、もじもじし始めたぞ。
どうしたんだろう?
妖精さんたちの方を見ているけど……。
「ハナちゃん、どうしたの?」
「あや~……なんでもないです~」
「何でもないの?」
「あい~」
何でもないとは言うけれど、わりと分かりやすい。
ちらっちらっと、妖精さんたちが持っている調理器具を見ているわけで。
これたぶん、ハナちゃんも調理器具を欲しくなっちゃったんじゃないかな?
「あや~……」
ほら、すんごく欲しそうなまなざしだもの。エルフ耳も、へにょっとたれちゃっている。
欲しいのだけど、わがまま言いたくないってオーラがバンバン出ているね。
親のいう事を良く聞く良い子や、他人を気遣う優しい人は、こうしてガマンしてしまう。
おまけに周囲の人が気づいてあげないと、ずっとそのまま耐えちゃうのだ。
……これは、なんとかしてあげたいって思うよね。
というわけで。
――甘やかしちゃっても、良いよね!
「ねえ、追加でハナちゃん用の調理器具、作れないかな?」
「もんだいないさ~、すぐできるさ~」
お母さんドワーフにお願いすると、快く引き受けてくれた。
これくらいならお手の物みたいで、赤いしっぽをピンと立てて、任せてくれって感じの雰囲気。
貫禄あるなあ。
「あや!」
そしてハナちゃん、お耳がぴっこーんとなって驚いている。
もうその反応だけで、正解なのが分かるね。
「タイシ、ハナにもおりょうりどうぐ、つくってくれるです!?」
ぴとっと俺の脚にしがみついて、上目遣いのハナちゃんだ。
お目々キラキラ、期待に満ちたまなざしだね。
「それはもちろんだよ。ハナちゃんにお料理道具、贈っちゃうよ」
これでハナちゃんのお料理がもっともっと美味しくなるなら、良い事だ。
向上心のある子を、後押ししてあげたい気持ちもある。
「わーい! タイシありがとです~!」
それを聞いたハナちゃんは大喜びになって、俺の足をよじよじと登ってきた。
もうにっこにこ笑顔で、エルフ耳がぴこんと立っているね。
「うふふ~、うふふ~」
やがて肩車状態になったハナちゃん、ご機嫌でうふうふしている。
喜んでもらえて、何よりだ。
しかし実用品を欲しがるあたり、ハナちゃんらしいね。
「うふ~」
「ハナちゃん用の調理器具で、美味しいお料理沢山作ってね」
「あい~!」
そうして、二人でキャッキャしていると――。
「それじゃ、いまからつくるさ~」
「すぐにできるさ~」
……あれ? しっぽドワーフちゃんたちが集まって、なにやら準備を始めた。
今から造る?
え? そんなに簡単に始められるの?
「まずは、きりぬくさ~」
「かたをよういするさ~」
集まったしっぽドワーフちゃんたち、金属板の上に木で出来た型を置いて……なにやらキコキコと傷をつけ始めた。
やがて金属板には、綺麗に型どられた溝が掘られる。
「これでかたぬき、できるさ~」
「きれいにできたさ~」
お次はその金属板から、型を抜くらしい。
どうやるんだろう?
と、思っていると――。
「こっちのじゅんびは、いいさ~」
「わかったさ~。それじゃいくさ~! ――そーれっ!」
一人のしっぽドワーフちゃんが、なにやら両手を素材にかざして。
正面に居るもう一人が、おもむろにハンマーを掲げ……一気に金属板に向かって振り下ろす!
すると――地面に置かれたアダマンの金属板が「ぱっかん」と型抜きされた。
え? そんなあっさり? その素材、加工がめんどいんじゃなかったっけ?
「つぎは、かたちをととのえるさ~」
「いくさ~!」
「そーれっ!」
型抜きされた金属板を渡された別のドワーフちゃんが、金型みたいな台の上に板を置いた。
そして円筒形のハンマーで、また「ぱっかん」とやる。
おや? フライパンの形っぽくなったね……。平底フライパンだ。
「おつぎは、もちてさ~」
「そーれ!」
事態について行く間も与えられず、お次はフライパンの持ち手部分が形成された。
ぱっかんぱっかんと叩かれた金属は、みるみる形が出来ていく。
色んな形状のハンマーで叩くだけ。でも、しっかり道具が出来上がっていくな……。
「さいごのしあげ、みがきをするさ~!」
「わきゃ~! これがいちばんたいへんさ~!」
「きれいに、しあげるさ~!」
あっけにとられている間に、謎の布を取り出したみなさんは……わきゃわきゃとフライパンを磨き始めた。
もともと金属板はピカピカだったけど、より一層滑らかな表面になっていく。
「……ハナちゃん、今の見た?」
「あや~、あっというまで、よくわからなかったです~……」
「だよね」
「です~」
あっけにとられる俺とハナちゃんだけど、金属加工ってこんなんだっけ?
ちたまじゃ、もちっと苦労してあれこれしてた気がするけど……。
それをまあ、ハンマーとかで、こんなにあっさり……。
「――できたさ~! うけとってほしいさ~」
「ほかのも、すぐにつくるさ~」
「もうちょっと、まつさ~」
そして、できたてほやほやのフライパンを手渡される。
まるで鏡のように周囲が写り込む、ピッカピカのフライパンだ。
これはお見事! 素敵な調理器具だね!
「これは良い物だね、良い仕事してる。みんな、ありがとう!」
良い仕事をしたのだから、当然褒めないと。
それが、次の良い仕事につながる。
「どういたしましてさ~」
「おてのものさ~」
「どしどし、つくるさ~」
褒めてあげたら、しっぽドワーフちゃんたちは黄色のしっぽをぱったぱたに振って、にこにこ笑顔だ。
仕事を褒められたら、やっぱり嬉しくなるよね。
この調子で、良い仕事をしてくださいだ。
さてさて、ではこの素敵なフライパンを、ハナちゃんに贈呈しよう。
もう目をキラッキラさせながら見ているから、待たせちゃかわいそうだ。
「ほらハナちゃん、みんなが造ってくれたフライパンだよ」
「うっきゃ~! きれいなフライパンです~! 」
ハナちゃんにフライパンを渡すと、裏を眺めたり表を眺めたりしながら、大はしゃぎになった。
自分専用の調理器具を手に、キャッキャしているね。
「うっきゃ~! タイシもみんなも、ありがとです~! だいじにするです~!」
そしてひしっとフライパンを抱えて、満面の笑顔。エルフ耳も、ぴっこぴこ。
喜んでいただけて、何よりだ。
これからも美味しいお料理、作ってね。
「うきゃ~! うきゃ~!」
「それじゃ、ほかのもつくるさ~!」
「そーれっ!」
湖畔リゾートに、ハナちゃんのうきゃうきゃという歓声が響き渡り、同時に金属加工の音も響く。
しっぽドワーフちゃんたちの掛け声とともに、どんどん道具も形が出来てきて。
賑やかで活気のある、良い昼下がりとなった。
「うきゃ~! このどうぐも、すてきです~!」
にこにこハナちゃんが抱えるしっぽドワーフちゃん特製調理器具は、どんな使い心地だろうか。
お菓子作りのその日が、楽しみだね!
それじゃあ俺もお仕事頑張って、早い所お菓子作りが出来るようにしよう。
お仕事、山ほどあるけどね……。