第十一話 物資調達、色々大変
村にようせいキングダムが出来ていた。
まあ捜索活動の助っ人で来てくれた子たちなので、ずっと二万人が定住するわけでもないけど。
しかし……この二万人にも及ぶ妖精さんたちに、お手伝いのお礼をしたいわけで。
そのため、百トンほどの物資調達が必要だと判明したのが……この間の話だ。
――ということで。
倉庫を二つ、十トントラックを三台、さらにフォークリフトを二台借りて、輸送大作戦を実施する。
まずメーカーから物資を倉庫まで運んでもらい、そこから積み替えて村に運ぶ。
どのみち村に大規模な倉庫は無いので、町の倉庫を物流拠点という緩衝地帯にしたわけだ。
村からそこそこ近い所に、寂れた倉庫が見つかったのは幸運だったね。
かなりお安くレンタルできちゃった。
現在は大量の小麦粉を積み替えしている最中で、十トンものブツをひーこら運んでいる。
これは高校時代の同級生であり、製麺業というか小麦粉問屋をやっている山本に発注かけた。
注文するときに「小麦粉たくさんくれ。さしあたっては十トン」とか言ったら、「メーカーでも始めるのか?」とか聞かれた。
まあ、お菓子メーカーになるかもしれない。作るのは妖精さんだけど。
とまあ、それはそれとして。
この桁違いの小麦粉やらお砂糖やらの物資を積み替えるのは、そらもう大変で。
どうしても人手が必要だったので、フォークリフト資格持ちを条件にアルバイトを雇うほど。
ぶ、物量は正義、正義にちがいない……。
一応名義は親父の名前を借りていて、さらに仕事を手伝って貰ってはいるけど、運営主体は俺である。
気合を入れて、倉庫業務をこなさないとね。
ちなみに小麦粉十トンを運んでも、二万人で分けると一人五百グラムである。
これでも全然足りませぬな。
そうして膨大な物資を調達し、輸送するお仕事が始まった訳だけど……。
大量の物資を積み下ろすときは――トラブルがつきものだ。
「すみません! 目測を誤ってしまって……」
今目の前には、フォークリフトでぶっさされた、小麦粉が詰まった袋がある。
バイトの子が、操作を誤ってさくっとやっちゃったのだ。
倉庫業務ではたまにあるタイプの事故で、俺もバイトの時に一回ぶっさしてごめんなさいしたことがある。
ちなみに高橋さんは三回やらかして、最終的に腕力で運ぶようになった。そしてそっちの方が早かった。
フォークリフトの資格は取ったけど、結局リザードマンの腕力の方が効率的だったという面白事件だったね。
なつかしいなあ。
ただ、高橋さんがミスしたのは慣れないフォークリフト操作もあったけど、一番の原因は働き過ぎによる過労だった。
結局この類のミスは、疲労による集中力の低下から来ることが多い。
このバイトの子も、ちょっとシフト入れ過ぎな感がある。明らかに疲労しているよね。
――そしてこれは、サインだ。
放置すると、より重大な事故につながる可能性がある。
今のうちに、対処しなければならない。
「この分は弁償します。本当にすみません……」
栗毛くせっ毛女子のバイトちゃんが、青い顔をしながらペコペコと頭をさげる。
でもこれ、別にこの人は悪くはないな。
俺が労務管理を、ちゃんとしていなかったのが問題だ。
弁償なんてかわいそうだし、元々こういうのは事業者が責任を取りましょうというのが、判例にある。
そこんところを伝えて、安心させてあげよう。
「弁償はしなくて良いですよ。雇用者に特別な瑕疵が無い場合は、褒賞責任の原則ってやつで、事業主が責任を負う事になってます」
「しかし……」
厳密にはもうちょっと複雑だけど、このケースじゃ彼女に責任はない。
よく働いてくれるからと甘えて、シフトを言われるがまま入れた俺に責任がある。
「まあ次は失敗せずに、ちゃんと休憩とってください。多分シフト入れ過ぎた結果の、疲労が原因ですよこれ」
「あ~、ちょっと自覚はあります……」
「こちらも、そのあたりの管理がなっていませんでした。申し訳ないです」
バイトちゃんにも自覚があるようだし、俺も自覚した。これから改善していこう。
まず彼女には休憩してもらって、疲れが取れたらお仕事を頑張ってもらうとするか。
それがさらなるミスや、より大きな事故を防ぐことにもつながる。
「ちょうど良い時間ですので、昼休憩にしましょう。出前を奢りますので、栄養補給してしっかり休んでください」
「あ、ありがとうございます!」
人を雇用するって難しいけど、他人に頼らないとどうにもならないからね。
きっちりやっていこう。
それじゃ、出前のメニューを聞こうかな。
「それで、出前は何が良いですか? 私はカツ丼にしようかと思ってますが」
近くの定食屋さん、カツ丼が評判なんだよね。昼時は混むから、出前してもらうのが一番だ。
そう思ってバイトちゃんに提案すると――。
「か、カツ丼! ごちそうですね! それでお願いします!」
「そ、そうですか……」
カツ丼がご馳走……。バイトちゃん、目がギラギラしている。
ま、まあそれで良いなら、それにしよう。
「あ、あとですね……その……」
おや? バイトちゃんがもじもじしながら、何か言いたげな様子だ。
一体どうしたのだろう?
「どうしました? 意見や要望があれば、教えて欲しいです」
「え~とですね……。この、さしちゃった小麦粉……どうなります?」
ふむ。このやらかした小麦粉をどうするか、か……。
洗浄してもいない鉄のアームがぐっさり刺さっているわけで、これを提供するのはダメだよね。
もったいないけど、これを妖精さんたちには渡せない。廃棄になるね。
「これは……廃棄ですね。衛生的にちょっと……ですので」
まあしょうがない。粉物だから、問題の部分を取り除くのも難しいからね。
どう廃棄するかは、あとで考えよう――。
「ではでは、これ……頂いちゃってかまいませんか?」
――ん? このバイトちゃん、何を言っているのだろう……。
「え? これ欲しいのですか? 再利用はちょっと厳しいですよ?」
「そこは大丈夫です! あれこれして、なんとか出来ますので!」
「さ、さようですか」
……まあ、廃棄するくらだから……良いか。
ただ捨てるだけだったものを有効利用してくれるなら、そっちのほうがマシだよね。
「では、お譲りします。……扱いは気を付けてくださいね」
「ありがとうございます! ご迷惑はお掛けしませんので!」
大喜びのバイトちゃん、じゅるりとした感じでぶっさし小麦粉袋を見ている……。
これ、食べる気だな。
……かなり心配だけど、もうあげるって言っちゃったしなあ。
……考えないことにしよう。
では、小麦粉ぶっさし事故の話はこれで終わり。
さ~て、昼食を食べるとするか。
「それでは、この話はお終いにして、昼食にしましょう」
「カツ丼! めったに食べられないご馳走! ありがとうございます!」
昼食の話に戻したら、バイトちゃんが再び目をギラギラさせた。
……特盛、頼んであげないといけないな、これは。
しかし気のせいかな。このバイトちゃん、以前にどこかで出会ったような気がするんだよね。
どこだったかな……。思い出せないから、やっぱり気のせいなのかな?
◇
物資輸送のかたわら、子猫亭にも顔を出すことにした。
光っちゃうエルフのアレな果実酒を、なんとかして売れるものにしようという目論見だ。
あとは、ちょっとした頼み事も。
ということで、ユキちゃんを伴って犠牲者――おっと子猫亭の元へと赴く。
「ま~た変なの持ってきたよ」
「……これ、何かの化学薬品ですか?」
「光ってるわね……」
さっそくエルフ果実酒を見せると、子猫亭の面々はドン引き。……ですよね。
でもこれ、簡単に量産できるリキッドなので、売れるようになったら助かるわけで。
なんとかしてもらいたいのですな。
「これは新たに開発した果実酒なのですが、とっても美味しいんですよ」
「これ……酒なのか?」
「お酒ってこんなんなりましたっけ?」
「なるらしいです」
大将と息子さんが聞いてきたけど、俺もどうしてこうなるかは知らない。
大自然の恵み的なアレがソレして、ああなった結果こうなったとしか。
つまり何もわからない。
でも、美味しければそれで良いよね。
もとの素材からすると、体に悪いって事はないはず。
そう、何も問題はないのだ。
「まあこれは長野県のとある農村で開発しまして、アルコール以外はすべて長野県産の素材で出来ています」
「うそだあ」
「明らかにケミカルな品だろ、これ」
息子さんと大将は疑っているけど、間違いなく長野県産ですよ。
長野の土地に生えていたやつから採取したのだから、長野県で生み出された品に嘘は無い。
ただ、本当の事も言っていないけど……。
「農村の名前を明らかにしない時点で、怪しすぎるわ」
……奥さんのつっこみは鋭い。都合の悪い事はスルーしよう。
「とりあえず、この長野県産エル――果実酒を味見してみてください」
「私も飲みましたけど、とっても美味しかったですよ」
ゴリ押しでお勧め攻撃だ。
ユキちゃんもフォローしてくれる中、シャイニングリキッドをみんなに配る。
ノリと勢いで飲ませてしまおう。
「ささ、どうぞ。どうぞどうぞ!」
「飲めってか」
「まあ、味見はしますか」
「勇気がいるわね……」
三人はとりあえず腹をくくってくれたのか、ちびびちとグラスに口をつけた。
すると――。
「うっそだろ、うめえぞ! ……見た目以外は」
「様々な果物の香りや味がして、素晴らしいお酒ですね……見た目以外は」
「飲みやすくて良いわ……見た目以外は」
見た目の評価――散々。しかし味は大ウケだ。
これで、エルフサイケデリック液体の実力は分かってもらえたと思う。
「味は分かって頂けたかと思いますので、これを売り物にできたらな……と」
「まあ、自家製果実酒のカクテル、という提供方法が一番楽だな」
「料理酒とかにも使えるか、試してみましょうよ」
「ちっと忙しいから、試作はもう少し余裕を見よう」
扱う事を決めたら、話の早いみなさんだ。
ステキな利用方法、見つけてくれればうれしい。
料理人だからね。美味しい食材を目の前にしたら、止まらないはず。
あとは、販売方法についても相談しておこう。
「上手く行ったら、このお店で果実酒を製造して当局から許可を貰えば良いかと。ぶどう類が入っていないことは確認済みです」
自家製果実酒を店舗内での提供に留めるなら、許可を得れば可能。
であるならば、必要な分量でブレンドされた果物は村で製造して、これを買ってもらう。
子猫亭では、その果実酒の元を甲類で二十五パーセントの焼酎に漬け込むだけ。
こうすれば沢山ある果物を、付加価値を付けてお金に変えることができる。
酒税法もクリアできて、合法的にエルフ光っちゃう酒を販売できるという算段だ。
国も鬼ではなかったのか、若干の融通が効くよう法律を定めてくれているね。
「酒税法、めんどくせえからなあ」
「まあ、特例措置があるだけマシですね」
「だなあ」
村の外でお酒類を扱うことのめんどくささを、これでもかと実感だね。
ただまあ、ここはきっちりやっておかないと。
「ちょっと迂遠ですけど、こちらの方がお店にとっても負担は少ないかと」
「大志の方でも、年間六キロリットルも酒を作れねえしな」
「ですね。おそらくこれが、どちらも儲かる方法かと思います」
とまあなんとかエルフの謎酒については、話がまとまった。
良かった良かった。村の産品が、また一つ増えた。
それじゃあ、次の話に移ろう。
「では、次のお願いなのですが――」
そうしていくつかのお願いを聞いてもらい、報酬の取り決めをして話をまとめていった。
◇
「では、よろしくお願い致します」
「分かった。まかせとけ。一つ一つ片づけていくぞ」
二時間ほどの会議で方針が固まり、子猫亭でのお仕事は終了となった。
もう夕方近いので、そろそろお暇しよう。
「それでは話もまとまったので、私たちはそろそろお暇しますね」
子猫亭もディナーの部が始まるので、お仕事の邪魔をしたらいけないからね。
そうして帰宅の準備を始めたところで――。
「あ、ちょっと待った」
大将に呼び止められた。
まだなにか、話足りないことがあったかな?
そう思っていると。
「なあ大志、バイトできる人材のアテとか……無いか?」
という相談を受けた。
そういや、以前からずっと子猫亭は……パンク寸前だな。
バイトが見つからなかったのかな?
「アルバイトできる人材ですか……」
「ああ。何名か雇ってみたんだが、受験やら引っ越しやらで長続きしなくてな」
「雇うたびに仕事を教えるのも、また大変でして……」
「平日昼時は戦場なのだけど、学生さんだとシフト入れるのが難しいこともあるわ」
大将と息子さんの話では、雇うことは雇ったらしい。
ただ、定着はしてくれなかったみたいだ。
そうして細切れで雇っても、三人で回している料理屋だから教育も大変だよね。
長く働いてくれるアルバイトは、それだけでありがたいというものか。
平日に入ってくれるアルバイトもまた、貴重か。
……そうだ、一人適任がいるな。
うちの倉庫でアルバイトしてくれている、あの子だ。
妖精さんお礼物資運搬大作戦が終われば、倉庫業務のバイトも終わる。
そうしたら、子猫亭のアルバイトを紹介するのも良いかも。
料理屋の仕事だから、まかないも付いてきて腹ペコバイトちゃんも満足だよね。
しかも、子猫亭のまかないは激ウマだ。おすすめのお仕事だと思う。
「一人心当たりがありますので、打診はしてみます」
「おお! 頼んだぞ!」
「よろしくお願いします!」
「結果は連絡しますので、数日お待ちください」
「助かるわ!」
さてさて、上手くいくかはバイトちゃん次第だけど、請け負ってくれると良いな。
――そして話は終わり、帰宅の途へ。
ユキちゃんを家まで送るため、車を走らせる。
「子猫亭のアルバイト、その心当たりの人が受けてくれると良いですね」
「俺もそう思うよ。良く働く真面目な人だから、ぜひともだね」
ぼちぼちと飯綱権げ……ユキちゃんち領域へと向かいながら、車内で雑談だ。
「あそうそう、アルバイトと言えば……魔女さんも良いアルバイトが見つかったみたいですよ」
「そうなんだ」
「大ポカやらかしても、責任を押し付けない良い職場だって言ってました」
「そりゃ良いね。うちもそうなるよう、見習いたい」
正直人を雇って事業をするって経験、俺は浅い。
どこかで間違ったことをしていないか、不安がある。
高橋さんとアルバイトをしていて、嫌だなって思ったことは、雇った人にしないよう気を付けてはいるけど。
ちゃんと出来ているかは、正直わからない。
「そのアルバイトの報酬が手に入ったら、またダイヤが欲しいそうですよ」
「わかった、それじゃあ妖精さんにこねてもらおう。……ちょっとサービスしちゃおうか」
「それは魔女さん、喜ぶと思いますよ」
「世の中、持ちつもたれつってね」
神秘を扱う界隈は、お互い支え合う必要がある。
なにせ、公的機関の助けを借りられないからね。
世の中的には、神秘は無いことになっている。
そんな世の中の荒波と意味不明な神秘に付き合うためには、業界間の協力も不可欠。
俺は俺で、独自のツテを増やしていければと思う。
コツコツやっていこう。
◇
「おだんごあげる! おだんご!」
「こっちもどうぞ! どうぞ!」
(おそなえもの~)
「みこしのあめざいくだよ! うまくできたやつだよ!」
(たべるの、もったいないできぐあい~)
妖精さんたちが神輿にお供えするのを眺めながら、集会場で会議の準備をする。
お菓子作りを教えるにあたって、色々と相談することがあるからだ。
さしあたっては「妖精さんは火を使って料理するのか」が議題だね。
さてさて、そうこうしているうちに準備が整ったので、会議を始めよう。
「では、みんなのお菓子作り準備会議を始めるよ。ちょっとこちらに集まってね」
「はなしあい! はなしあい!」
「がんばりましょ~」
「おかしづくりだからね! きあいはいるね!」
ちこちこと歩いてきて、テーブルの上でちこっと座る妖精さんたち。
みなさんお菓子が議題とあって、お目々がキラッキラだね。
それでは、さっそく質問してみよう。
「君たちは、料理を作るときに火を扱ったりする?」
妖精さんたちは見た感じ、加熱調理をしていない。
ちたまのお菓子を作るには火気が必要になる場合もあるので、この辺を何とかする必要がある。
「おだんごをやくときにつかうよ! おいしいよ!」
「でも、めんどいからあんまりやってないね!」
サクラちゃんとイトカワちゃんが、元気に回答をくれた。
どうやらまったく火を扱わないわけではなく、たまには使うようだ。
お団子焼きとか、美味しそうではある。
しかし火起こしが面倒なのか、あまりやらないようだ。
「あや~、あんまりひをつかって、おりょうりしないです?」
「おまつりで、やるくらい~」
「それはそれで、たのしそうです~」
「たのしいよ! おまつりたのしいよ!」
どうも火を使うのは、お祭りの時くらいみたいだね。
お祭りと聞いてハナちゃんキャッキャしているけど、そのうちお菓子作り大会やるから、楽しみにしていてね。
でも火を使うなら、火事にならないよう気を付ける必要はあるよね。
妖精さんたちには、防災組織ってあるのかな?
「ねえ、みんなのところには消防団とかって、ある?」
「あるよ! あるよ!」
「もちまわりだよ! もちまわり!」
「おみずをかけるおしごと~」
「しょうぼうだん、だいじなおしごとです~」
妖精さんたちが運営する消防団も、ちゃんとあるんだ。
防災組織を運営する的な考えは、やっぱり持っているみたい。
これは当たり前か。災害は誰だって嫌だもんね。
対処しようとする組織ができるのは、ごくごく自然なことだ。
もしかするとだけど、捜索活動であれほど連携できていたのは……消防団経験があったから?
普段は風任せな妖精さんだけど、団体行動もきっちり学んでいるってことかもね。
でもまあ、これなら妖精さんたちに火気を扱ってもらうのは、問題ない。
焼きお団子作ることが出来るのだから、ちたまの焼き菓子だっていけるはずだ。
「それならさ、火を使ってお菓子を作るのも……大丈夫だよね?」
「まるやきでいいなら! まるやきおだんご!」
「ひかげん、てきとうだよ! てきとう!」
「おおざっぱ~」
「あや~、ふおんなことばが、たくさんです~」
丸焼き? 適当? おおざっぱ?
ハナちゃんが言うように、不穏な言葉だらけだ。なんというか、ふわっとしている。
そしてサクラちゃんが掲げているのは、ダイヤで作った棒みたいなやつ。
……まさかその棒にお団子をぶっさして、火であぶるだけ?
調理器具は他に無いの?
「ねえ、他に調理器具とかってないの?」
「これだけだよ! これだけ!」
「やくなら、これでじゅうぶん~」
「おおざっぱという、じかくはあるよ! あるよ!」
またサクラちゃんが、Dの棒を掲げてきゃいっきゃいしているけど……これしかないようだ。
火をおこすのが面倒だからか、あまりこだわってないのかな?
凝った調理器具は、どうも作っていないみたいだね。
アゲハちゃん的にはおおざっぱって自覚はあるみたいだけど、まあそれも文化か。
でもこれでわかった。妖精さんたちには、調理器具が必要だ。
それも、ちいさなちいさな存在が扱える、ミニチュアサイズの実用品が。
フライパンに計量カップに、泡立て器にボールにストレーナーに。量りも必要かもね。
お菓子作りのために必要な、ある程度の機材を用意してあげたい。
調理器具に関しては……ダイヤをこねて作ってもらっても良いけど、どうしよう。
ダイヤは燃えるとは言え、ちょっとやそっとじゃ燃焼はしない。お料理程度じゃ、大丈夫だ。
フライパンとか、作って貰おうかな?
……あ、そうだ。
湖畔リゾートでわきゃわきゃしている、あのしっぽのある方々。
そういや金属加工が得意と言っていたよね。
せっかくだから、妖精さん用調理器具が作れるかどうか、聞いてみるのも良いかもしれない。
もし作れたなら、報酬付きのお仕事として依頼しよう。
そうすれば、自立に向けた第一歩に出来るよね。
ドワーフちゃんたちの実力も分かるだろうし、政策として効果がでるかもだ。
「調理器具については、こちらで用意できるか試してみるね」
「たのしみ! たのしみ!」
「おせわになります~」
「おかしづくりって、たいへんだね! たいへん!」
上手く出来たらめっけものだけど、なんとかなりそうな気はする。
それじゃあ、あとで打診しに湖畔リゾートへ行ってみようか。
でもまあ、必要な物は大体見えてきたね。
あとは揃えてあげれば、お菓子作り大会を開催できるだろう。
「もうちょっと準備すれば、お菓子作りが出来そうだね」
「きゃい~!」
「おかしつくるよ! おかし!」
「ちたまのおかし、つくりましょ~」
お菓子作りが出来そうと伝えると、妖精さんたちきゃいっきゃいで喜ぶ。
もうちょっとお待ちくださいだね。
と、みんなで盛り上がっていたら――。
(おもしろそう~)
神輿が俺の周りを、ほよほよ飛び回り始めた。どうしたんだろう?
謎の声は、面白そうって言っているけど……。
「ハナちゃん、神様どうしたのかな?」
(おかし、つくってみたい~)
――え? 神様もお菓子作りしたいの?
「あえ? かみさまも、おかしつくるです?」
(つくる~)
「……神様も、参加したいの?」
(だめかな?)
「タイシ~、かみさまもさんかしたら、だめです?」
もじもじする神輿と、同じくもじもじするハナちゃん。
二人して、もじもじちゃんだね。
……まあ、ダメって事は無い。興味があるなら、是非とも参加して貰いたいかな。
「もちろん神様も、是非とも参加してくださいだね」
(いいの!)
「タイシ、いいです?」
「そりゃもう、どしどしお菓子作って貰おう」
(やたー!)
参加が認められて嬉しいのか、神輿がキャッキャと飛び回る。
神様自らお菓子作りとは、なかなか行動的だね。
(わーい! おかしつくる~)
「みこし、ぴっかぴかです~」
「いっしょにおかし、つくろうね! つくろうね!」
「きゃい~!」
予想外の参加者が加わったけど、楽しくなりそうだ。
それじゃあ準備を進めて、お菓子作り第一弾、近いうちに開催しよう!
さてさて、どんなお菓子を作ろうかな?




