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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十七章 王の力
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第十一話 物資調達、色々大変


 村にようせいキングダムが出来ていた。

 まあ捜索活動の助っ人で来てくれた子たちなので、ずっと二万人が定住するわけでもないけど。

 しかし……この二万人にも及ぶ妖精さんたちに、お手伝いのお礼をしたいわけで。

 そのため、百トンほどの物資調達が必要だと判明したのが……この間の話だ。


 ――ということで。


 倉庫を二つ、十トントラックを三台、さらにフォークリフトを二台借りて、輸送大作戦を実施する。

 まずメーカーから物資を倉庫まで運んでもらい、そこから積み替えて村に運ぶ。

 どのみち村に大規模な倉庫は無いので、町の倉庫を物流拠点という緩衝地帯にしたわけだ。

 村からそこそこ近い所に、寂れた倉庫が見つかったのは幸運だったね。

 かなりお安くレンタルできちゃった。


 現在は大量の小麦粉を積み替えしている最中で、十トンものブツをひーこら運んでいる。

 これは高校時代の同級生であり、製麺業というか小麦粉問屋をやっている山本に発注かけた。

 注文するときに「小麦粉たくさんくれ。さしあたっては十トン」とか言ったら、「メーカーでも始めるのか?」とか聞かれた。

 まあ、お菓子メーカーになるかもしれない。作るのは妖精さんだけど。

 とまあ、それはそれとして。


 この桁違いの小麦粉やらお砂糖やらの物資を積み替えるのは、そらもう大変で。

 どうしても人手が必要だったので、フォークリフト資格持ちを条件にアルバイトを雇うほど。

 ぶ、物量は正義、正義にちがいない……。


 一応名義は親父の名前を借りていて、さらに仕事を手伝って貰ってはいるけど、運営主体は俺である。

 気合を入れて、倉庫業務をこなさないとね。

 ちなみに小麦粉十トンを運んでも、二万人で分けると一人五百グラムである。

 これでも全然足りませぬな。


 そうして膨大な物資を調達し、輸送するお仕事が始まった訳だけど……。

 大量の物資を積み下ろすときは――トラブルがつきものだ。


「すみません! 目測を誤ってしまって……」


 今目の前には、フォークリフトでぶっさされた、小麦粉が詰まった袋がある。

 バイトの子が、操作を誤ってさくっとやっちゃったのだ。

 倉庫業務ではたまにあるタイプの事故で、俺もバイトの時に一回ぶっさしてごめんなさいしたことがある。

 ちなみに高橋さんは三回やらかして、最終的に腕力で運ぶようになった。そしてそっちの方が早かった。

 フォークリフトの資格は取ったけど、結局リザードマンの腕力の方が効率的だったという面白事件だったね。

 なつかしいなあ。


 ただ、高橋さんがミスしたのは慣れないフォークリフト操作もあったけど、一番の原因は働き過ぎによる過労だった。

 結局この類のミスは、疲労による集中力の低下から来ることが多い。

 このバイトの子も、ちょっとシフト入れ過ぎな感がある。明らかに疲労しているよね。


 ――そしてこれは、サインだ。

 放置すると、より重大な事故につながる可能性がある。

 今のうちに、対処しなければならない。


「この分は弁償します。本当にすみません……」


 栗毛くせっ毛女子のバイトちゃんが、青い顔をしながらペコペコと頭をさげる。

 でもこれ、別にこの人は悪くはないな。

 俺が労務管理を、ちゃんとしていなかったのが問題だ。

 弁償なんてかわいそうだし、元々こういうのは事業者が責任を取りましょうというのが、判例にある。

 そこんところを伝えて、安心させてあげよう。


「弁償はしなくて良いですよ。雇用者に特別な瑕疵かしが無い場合は、褒賞責任の原則ってやつで、事業主が責任を負う事になってます」

「しかし……」


 厳密にはもうちょっと複雑だけど、このケースじゃ彼女に責任はない。

 よく働いてくれるからと甘えて、シフトを言われるがまま入れた俺に責任がある。


「まあ次は失敗せずに、ちゃんと休憩とってください。多分シフト入れ過ぎた結果の、疲労が原因ですよこれ」

「あ~、ちょっと自覚はあります……」

「こちらも、そのあたりの管理がなっていませんでした。申し訳ないです」


 バイトちゃんにも自覚があるようだし、俺も自覚した。これから改善していこう。

 まず彼女には休憩してもらって、疲れが取れたらお仕事を頑張ってもらうとするか。

 それがさらなるミスや、より大きな事故を防ぐことにもつながる。


「ちょうど良い時間ですので、昼休憩にしましょう。出前を奢りますので、栄養補給してしっかり休んでください」

「あ、ありがとうございます!」


 人を雇用するって難しいけど、他人に頼らないとどうにもならないからね。

 きっちりやっていこう。

 それじゃ、出前のメニューを聞こうかな。


「それで、出前は何が良いですか? 私はカツ丼にしようかと思ってますが」


 近くの定食屋さん、カツ丼が評判なんだよね。昼時は混むから、出前してもらうのが一番だ。

 そう思ってバイトちゃんに提案すると――。


「か、カツ丼! ごちそうですね! それでお願いします!」

「そ、そうですか……」


 カツ丼がご馳走……。バイトちゃん、目がギラギラしている。

 ま、まあそれで良いなら、それにしよう。


「あ、あとですね……その……」


 おや? バイトちゃんがもじもじしながら、何か言いたげな様子だ。

 一体どうしたのだろう?


「どうしました? 意見や要望があれば、教えて欲しいです」

「え~とですね……。この、さしちゃった小麦粉……どうなります?」


 ふむ。このやらかした小麦粉をどうするか、か……。

 洗浄してもいない鉄のアームがぐっさり刺さっているわけで、これを提供するのはダメだよね。

 もったいないけど、これを妖精さんたちには渡せない。廃棄になるね。


「これは……廃棄ですね。衛生的にちょっと……ですので」


 まあしょうがない。粉物だから、問題の部分を取り除くのも難しいからね。

 どう廃棄するかは、あとで考えよう――。


「ではでは、これ……頂いちゃってかまいませんか?」


 ――ん? このバイトちゃん、何を言っているのだろう……。


「え? これ欲しいのですか? 再利用はちょっと厳しいですよ?」

「そこは大丈夫です! あれこれして、なんとか出来ますので!」

「さ、さようですか」


 ……まあ、廃棄するくらだから……良いか。

 ただ捨てるだけだったものを有効利用してくれるなら、そっちのほうがマシだよね。


「では、お譲りします。……扱いは気を付けてくださいね」

「ありがとうございます! ご迷惑はお掛けしませんので!」


 大喜びのバイトちゃん、じゅるりとした感じでぶっさし小麦粉袋を見ている……。

 これ、食べる気だな。

 ……かなり心配だけど、もうあげるって言っちゃったしなあ。


 ……考えないことにしよう。


 では、小麦粉ぶっさし事故の話はこれで終わり。

 さ~て、昼食を食べるとするか。


「それでは、この話はお終いにして、昼食にしましょう」

「カツ丼! めったに食べられないご馳走! ありがとうございます!」


 昼食の話に戻したら、バイトちゃんが再び目をギラギラさせた。

 ……特盛、頼んであげないといけないな、これは。


 しかし気のせいかな。このバイトちゃん、以前にどこかで出会ったような気がするんだよね。

 どこだったかな……。思い出せないから、やっぱり気のせいなのかな?



 ◇



 物資輸送のかたわら、子猫亭にも顔を出すことにした。

 光っちゃうエルフのアレな果実酒を、なんとかして売れるものにしようという目論見だ。

 あとは、ちょっとした頼み事も。


 ということで、ユキちゃんを伴って犠牲者――おっと子猫亭の元へと赴く。


「ま~た変なの持ってきたよ」

「……これ、何かの化学薬品ですか?」

「光ってるわね……」


 さっそくエルフ果実酒を見せると、子猫亭の面々はドン引き。……ですよね。

 でもこれ、簡単に量産できるリキッドなので、売れるようになったら助かるわけで。

 なんとかしてもらいたいのですな。


「これは新たに開発した果実酒なのですが、とっても美味しいんですよ」

「これ……酒なのか?」

「お酒ってこんなんなりましたっけ?」

「なるらしいです」


 大将と息子さんが聞いてきたけど、俺もどうしてこうなるかは知らない。

 大自然の恵み的なアレがソレして、ああなった結果こうなったとしか。

 つまり何もわからない。


 でも、美味しければそれで良いよね。

 もとの素材からすると、体に悪いって事はないはず。

 そう、何も問題はないのだ。


「まあこれは長野県のとある農村で開発しまして、アルコール以外はすべて長野県産の素材で出来ています」

「うそだあ」

「明らかにケミカルな品だろ、これ」


 息子さんと大将は疑っているけど、間違いなく長野県産ですよ。

 長野の土地に生えていたやつから採取したのだから、長野県で生み出された品に嘘は無い。

 ただ、本当の事も言っていないけど……。


「農村の名前を明らかにしない時点で、怪しすぎるわ」


 ……奥さんのつっこみは鋭い。都合の悪い事はスルーしよう。


「とりあえず、この長野県産エル――果実酒を味見してみてください」

「私も飲みましたけど、とっても美味しかったですよ」


 ゴリ押しでお勧め攻撃だ。

 ユキちゃんもフォローしてくれる中、シャイニングリキッドをみんなに配る。

 ノリと勢いで飲ませてしまおう。


「ささ、どうぞ。どうぞどうぞ!」

「飲めってか」

「まあ、味見はしますか」

「勇気がいるわね……」


 三人はとりあえず腹をくくってくれたのか、ちびびちとグラスに口をつけた。

 すると――。


「うっそだろ、うめえぞ! ……見た目以外は」

「様々な果物の香りや味がして、素晴らしいお酒ですね……見た目以外は」

「飲みやすくて良いわ……見た目以外は」


 見た目の評価――散々。しかし味は大ウケだ。

 これで、エルフサイケデリック液体の実力は分かってもらえたと思う。


「味は分かって頂けたかと思いますので、これを売り物にできたらな……と」

「まあ、自家製果実酒のカクテル、という提供方法が一番楽だな」

「料理酒とかにも使えるか、試してみましょうよ」

「ちっと忙しいから、試作はもう少し余裕を見よう」


 扱う事を決めたら、話の早いみなさんだ。

 ステキな利用方法、見つけてくれればうれしい。

 料理人だからね。美味しい食材を目の前にしたら、止まらないはず。

 あとは、販売方法についても相談しておこう。


「上手く行ったら、このお店で果実酒を製造して当局から許可を貰えば良いかと。ぶどう類が入っていないことは確認済みです」


 自家製果実酒を店舗内での提供に留めるなら、許可を得れば可能。

 であるならば、必要な分量でブレンドされた果物は村で製造して、これを買ってもらう。

 子猫亭では、その果実酒の元を甲類で二十五パーセントの焼酎に漬け込むだけ。

 こうすれば沢山ある果物を、付加価値を付けてお金に変えることができる。

 酒税法もクリアできて、合法的にエルフ光っちゃう酒を販売できるという算段だ。

 国も鬼ではなかったのか、若干の融通が効くよう法律を定めてくれているね。


「酒税法、めんどくせえからなあ」

「まあ、特例措置があるだけマシですね」

「だなあ」


 村の外でお酒類を扱うことのめんどくささを、これでもかと実感だね。

 ただまあ、ここはきっちりやっておかないと。


「ちょっと迂遠ですけど、こちらの方がお店にとっても負担は少ないかと」

「大志の方でも、年間六キロリットルも酒を作れねえしな」

「ですね。おそらくこれが、どちらも儲かる方法かと思います」


 とまあなんとかエルフの謎酒については、話がまとまった。

 良かった良かった。村の産品が、また一つ増えた。

 それじゃあ、次の話に移ろう。


「では、次のお願いなのですが――」


 そうしていくつかのお願いを聞いてもらい、報酬の取り決めをして話をまとめていった。



 ◇



「では、よろしくお願い致します」

「分かった。まかせとけ。一つ一つ片づけていくぞ」


 二時間ほどの会議で方針が固まり、子猫亭でのお仕事は終了となった。

 もう夕方近いので、そろそろお暇しよう。


「それでは話もまとまったので、私たちはそろそろお暇しますね」


 子猫亭もディナーの部が始まるので、お仕事の邪魔をしたらいけないからね。

 そうして帰宅の準備を始めたところで――。


「あ、ちょっと待った」


 大将に呼び止められた。

 まだなにか、話足りないことがあったかな?

 そう思っていると。


「なあ大志、バイトできる人材のアテとか……無いか?」


 という相談を受けた。

 そういや、以前からずっと子猫亭は……パンク寸前だな。

 バイトが見つからなかったのかな?


「アルバイトできる人材ですか……」

「ああ。何名か雇ってみたんだが、受験やら引っ越しやらで長続きしなくてな」

「雇うたびに仕事を教えるのも、また大変でして……」

「平日昼時は戦場なのだけど、学生さんだとシフト入れるのが難しいこともあるわ」


 大将と息子さんの話では、雇うことは雇ったらしい。

 ただ、定着はしてくれなかったみたいだ。

 そうして細切れで雇っても、三人で回している料理屋だから教育も大変だよね。

 長く働いてくれるアルバイトは、それだけでありがたいというものか。

 平日に入ってくれるアルバイトもまた、貴重か。


 ……そうだ、一人適任がいるな。

 うちの倉庫でアルバイトしてくれている、あの子だ。

 妖精さんお礼物資運搬大作戦が終われば、倉庫業務のバイトも終わる。

 そうしたら、子猫亭のアルバイトを紹介するのも良いかも。

 料理屋の仕事だから、まかないも付いてきて腹ペコバイトちゃんも満足だよね。

 しかも、子猫亭のまかないは激ウマだ。おすすめのお仕事だと思う。


「一人心当たりがありますので、打診はしてみます」

「おお! 頼んだぞ!」

「よろしくお願いします!」

「結果は連絡しますので、数日お待ちください」

「助かるわ!」


 さてさて、上手くいくかはバイトちゃん次第だけど、請け負ってくれると良いな。


 ――そして話は終わり、帰宅の途へ。

 ユキちゃんを家まで送るため、車を走らせる。


「子猫亭のアルバイト、その心当たりの人が受けてくれると良いですね」

「俺もそう思うよ。良く働く真面目な人だから、ぜひともだね」


 ぼちぼちと飯綱権げ……ユキちゃんち領域へと向かいながら、車内で雑談だ。


「あそうそう、アルバイトと言えば……魔女さんも良いアルバイトが見つかったみたいですよ」

「そうなんだ」

「大ポカやらかしても、責任を押し付けない良い職場だって言ってました」

「そりゃ良いね。うちもそうなるよう、見習いたい」


 正直人を雇って事業をするって経験、俺は浅い。

 どこかで間違ったことをしていないか、不安がある。

 高橋さんとアルバイトをしていて、嫌だなって思ったことは、雇った人にしないよう気を付けてはいるけど。

 ちゃんと出来ているかは、正直わからない。


「そのアルバイトの報酬が手に入ったら、またダイヤが欲しいそうですよ」

「わかった、それじゃあ妖精さんにこねてもらおう。……ちょっとサービスしちゃおうか」

「それは魔女さん、喜ぶと思いますよ」

「世の中、持ちつもたれつってね」


 神秘を扱う界隈かいわいは、お互い支え合う必要がある。

 なにせ、公的機関の助けを借りられないからね。

 世の中的には、神秘は無いことになっている。


 そんな世の中の荒波と意味不明な神秘に付き合うためには、業界間の協力も不可欠。

 俺は俺で、独自のツテを増やしていければと思う。

 コツコツやっていこう。



 ◇



「おだんごあげる! おだんご!」

「こっちもどうぞ! どうぞ!」

(おそなえもの~)

「みこしのあめざいくだよ! うまくできたやつだよ!」

(たべるの、もったいないできぐあい~)


 妖精さんたちが神輿にお供えするのを眺めながら、集会場で会議の準備をする。

 お菓子作りを教えるにあたって、色々と相談することがあるからだ。

 さしあたっては「妖精さんは火を使って料理するのか」が議題だね。


 さてさて、そうこうしているうちに準備が整ったので、会議を始めよう。


「では、みんなのお菓子作り準備会議を始めるよ。ちょっとこちらに集まってね」

「はなしあい! はなしあい!」

「がんばりましょ~」

「おかしづくりだからね! きあいはいるね!」


 ちこちこと歩いてきて、テーブルの上でちこっと座る妖精さんたち。

 みなさんお菓子が議題とあって、お目々がキラッキラだね。

 それでは、さっそく質問してみよう。


「君たちは、料理を作るときに火を扱ったりする?」


 妖精さんたちは見た感じ、加熱調理をしていない。

 ちたまのお菓子を作るには火気が必要になる場合もあるので、この辺を何とかする必要がある。


「おだんごをやくときにつかうよ! おいしいよ!」

「でも、めんどいからあんまりやってないね!」


 サクラちゃんとイトカワちゃんが、元気に回答をくれた。

 どうやらまったく火を扱わないわけではなく、たまには使うようだ。

 お団子焼きとか、美味しそうではある。

 しかし火起こしが面倒なのか、あまりやらないようだ。


「あや~、あんまりひをつかって、おりょうりしないです?」

「おまつりで、やるくらい~」

「それはそれで、たのしそうです~」

「たのしいよ! おまつりたのしいよ!」


 どうも火を使うのは、お祭りの時くらいみたいだね。

 お祭りと聞いてハナちゃんキャッキャしているけど、そのうちお菓子作り大会やるから、楽しみにしていてね。

 でも火を使うなら、火事にならないよう気を付ける必要はあるよね。

 妖精さんたちには、防災組織ってあるのかな?


「ねえ、みんなのところには消防団とかって、ある?」

「あるよ! あるよ!」

「もちまわりだよ! もちまわり!」

「おみずをかけるおしごと~」

「しょうぼうだん、だいじなおしごとです~」


 妖精さんたちが運営する消防団も、ちゃんとあるんだ。

 防災組織を運営する的な考えは、やっぱり持っているみたい。

 これは当たり前か。災害は誰だって嫌だもんね。

 対処しようとする組織ができるのは、ごくごく自然なことだ。

 もしかするとだけど、捜索活動であれほど連携できていたのは……消防団経験があったから?

 普段は風任せな妖精さんだけど、団体行動もきっちり学んでいるってことかもね。


 でもまあ、これなら妖精さんたちに火気を扱ってもらうのは、問題ない。

 焼きお団子作ることが出来るのだから、ちたまの焼き菓子だっていけるはずだ。


「それならさ、火を使ってお菓子を作るのも……大丈夫だよね?」

「まるやきでいいなら! まるやきおだんご!」

「ひかげん、てきとうだよ! てきとう!」

「おおざっぱ~」

「あや~、ふおんなことばが、たくさんです~」


 丸焼き? 適当? おおざっぱ?

 ハナちゃんが言うように、不穏な言葉だらけだ。なんというか、ふわっとしている。

 そしてサクラちゃんが掲げているのは、ダイヤで作った棒みたいなやつ。

 ……まさかその棒にお団子をぶっさして、火であぶるだけ?

 調理器具は他に無いの?


「ねえ、他に調理器具とかってないの?」

「これだけだよ! これだけ!」

「やくなら、これでじゅうぶん~」

「おおざっぱという、じかくはあるよ! あるよ!」


 またサクラちゃんが、Dの棒を掲げてきゃいっきゃいしているけど……これしかないようだ。

 火をおこすのが面倒だからか、あまりこだわってないのかな?

 凝った調理器具は、どうも作っていないみたいだね。

 アゲハちゃん的にはおおざっぱって自覚はあるみたいだけど、まあそれも文化か。


 でもこれでわかった。妖精さんたちには、調理器具が必要だ。

 それも、ちいさなちいさな存在が扱える、ミニチュアサイズの実用品が。

 フライパンに計量カップに、泡立て器にボールにストレーナーに。量りも必要かもね。

 お菓子作りのために必要な、ある程度の機材を用意してあげたい。


 調理器具に関しては……ダイヤをこねて作ってもらっても良いけど、どうしよう。

 ダイヤは燃えるとは言え、ちょっとやそっとじゃ燃焼はしない。お料理程度じゃ、大丈夫だ。

 フライパンとか、作って貰おうかな?


 ……あ、そうだ。

 湖畔リゾートでわきゃわきゃしている、あのしっぽのある方々。

 そういや金属加工が得意と言っていたよね。

 せっかくだから、妖精さん用調理器具が作れるかどうか、聞いてみるのも良いかもしれない。


 もし作れたなら、報酬付きのお仕事として依頼しよう。

 そうすれば、自立に向けた第一歩に出来るよね。

 ドワーフちゃんたちの実力も分かるだろうし、政策として効果がでるかもだ。


「調理器具については、こちらで用意できるか試してみるね」

「たのしみ! たのしみ!」

「おせわになります~」

「おかしづくりって、たいへんだね! たいへん!」


 上手く出来たらめっけものだけど、なんとかなりそうな気はする。

 それじゃあ、あとで打診しに湖畔リゾートへ行ってみようか。


 でもまあ、必要な物は大体見えてきたね。

 あとは揃えてあげれば、お菓子作り大会を開催できるだろう。


「もうちょっと準備すれば、お菓子作りが出来そうだね」

「きゃい~!」

「おかしつくるよ! おかし!」

「ちたまのおかし、つくりましょ~」


 お菓子作りが出来そうと伝えると、妖精さんたちきゃいっきゃいで喜ぶ。

 もうちょっとお待ちくださいだね。


 と、みんなで盛り上がっていたら――。


(おもしろそう~)


 神輿が俺の周りを、ほよほよ飛び回り始めた。どうしたんだろう?

 謎の声は、面白そうって言っているけど……。


「ハナちゃん、神様どうしたのかな?」

(おかし、つくってみたい~)


 ――え? 神様もお菓子作りしたいの?


「あえ? かみさまも、おかしつくるです?」

(つくる~)

「……神様も、参加したいの?」

(だめかな?)

「タイシ~、かみさまもさんかしたら、だめです?」


 もじもじする神輿と、同じくもじもじするハナちゃん。

 二人して、もじもじちゃんだね。

 ……まあ、ダメって事は無い。興味があるなら、是非とも参加して貰いたいかな。


「もちろん神様も、是非とも参加してくださいだね」

(いいの!)

「タイシ、いいです?」

「そりゃもう、どしどしお菓子作って貰おう」

(やたー!)


 参加が認められて嬉しいのか、神輿がキャッキャと飛び回る。

 神様自らお菓子作りとは、なかなか行動的だね。


(わーい! おかしつくる~)

「みこし、ぴっかぴかです~」

「いっしょにおかし、つくろうね! つくろうね!」

「きゃい~!」


 予想外の参加者が加わったけど、楽しくなりそうだ。

 それじゃあ準備を進めて、お菓子作り第一弾、近いうちに開催しよう!

 さてさて、どんなお菓子を作ろうかな?


 

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