第十話 なにもかもが、ケタ違い
物量は正義なので、妖精さんが増えても良いのだ。
そういうことにした。
しかし、今現在の湖畔リゾートの状態はと言うと……。
「わきゃ~、わきゃ~」
「きゃい~、きゃい~」
「わきゃわきゃわきゃ」
「きゃいきゃいきゃい~」
――すごい事になっていた。
「あや~、にぎやかです~」
「ドワーフさんたちに、妖精さんたちに……大勢ですね」
ハナちゃんとユキちゃんも、人口密集地を呆然と見つめている。
妖精さんは毎日増え続け、しっぽドワーフちゃんたちも毎日増え続け。
今や湖畔リゾートは大勢のドワーフちゃんたちが泳ぎ回り、まるで日本で良くある夏の海水浴場みたいな光景だ。
「ほとんどみつけたね! ほとんど!」
「あとちょっとだね! あとちょっと!」
「ほぼ、さがしました~」
そしてサクラちゃん、イトカワちゃんやアゲハちゃん。
この三人が中心になって、妖精さんたちを統率してくれているけど……。
「きゃい~」
「やわらかおだんご! ふわふわおだんご!」
「おいしいね! おいしいね!」
この、いたるところできゃいきゃいしている妖精さんたち、凄まじく数が増えた。
こんなに大勢の妖精さんたちを、あの三人はよく統率できているな……。
でも、何はともあれ捜索活動は大成功と言えるだろう。
灰化した湖からお隣の湖までの範囲は、ほぼ捜索し尽くした。
あとは取りこぼしが無いか、再度ローラー作戦をすれば……終了だ。
やはり物量は正義であった。はっはっは!
「ツリーハウスの集積も大体終わったから、あとは一気に運ぶだけだぜ」
「あのいえ、おもしろいよな~」
「じっくりしらべたいかも」
そして捜索活動を終えても、建築や輸送の仕事は残っている。
ここからは、俺たち地上組が踏ん張るところだね。
とくに、ツリーハウスの輸送は慎重にだ。沈没したら大変だからね。
この辺どうなのか、聞いてみよう。
「ツリーハウスの輸送や、現地での設置とか問題は出ていないかな?」
「イカダへの積み下ろしは気を使うが、それ以外は特にないな。あの家は軽くて頑丈だから、運ぶのは楽だ」
「そうなんだ」
「ウチの若い衆も、あの家には興味津々だな。ありゃ面白れえ」
どうやらリザードマンたちは、ドワーフちゃんツリーハウスに好奇心を持ったようだ。
たしかにあの家はおもしろい。
「おまけにな、引っ越し先で設置した家……もう樹木と同化してたぜ。およそ三日で安定する」
「なにそれ怖い」
三日で木と同化って……謎の技術すぎる。
でもまあ、家もろとも引っ越すのは、わりとイージーで良かった。
なかなかに計画が上手く行って、ほくほくだね。
そうして報告を聞いて、順調な状況に喜んでいると――。
「それで、捜索が終わって後は連れてくるだけとなったら……大志はイチ抜けして問題ないぜ」
――高橋さんが、こんな提案をしてくれた。
俺、イチ抜けして良いの?
みんなを巻き込んだ張本人だけど、任せちゃって良いのかな?
確認しないとね。
「良いの? 俺がみんなを巻き込んだから、悪い気がするけど……」
「大丈夫だよ、後は俺らで何とか出来る。つうかさ、大志はちっと働き過ぎだ」
「そうかな」
「そろそろ村の運営に戻って、田んぼとか作るのが良いと思うぜ」
「……確かに」
この村にとって、米作りは極めて重要だからね。
米作りはエルフたちが自給自足するための、要石でもある。
爺ちゃんたちに任せているとはいえ、俺も参加して苦楽を分かち合いたい。
ここはありがたく、イチ抜けさせてもらおう。
「……それじゃ、捜索が終わったら俺は村に戻るよ」
「ああ、後の事は任せてくれ」
「頼んだ。何か問題が起きたら、すぐに手伝いに戻るよ」
「そんときゃ報告するな」
「お願いね」
まだまだ完全には終わっていないけど、一つの区切りはつけられそうだ。
救助作戦も順調だから、なんとかなるだろう。
「ただ……物資の調達はやっといてくれよ」
「まあ、それはやっとくよ」
物資調達はお金がかかるからね。それはうちの仕事だ。
きっちりやっておこう。
そうして、引き継ぎ事項やら緊急時の連絡方法やらを話し合う。
ひととおり準備はしておき、捜索完了と共に俺は指揮を抜けることになった。
「これで一通り引き継ぎは終わったかな」
「そうだな。それじゃ俺は、そろそろ家を船に積む作業でもしてくるわ」
「自分も手伝おうか?」
「大丈夫だ。こっちにゃ力自慢が大勢いるからな」
そうだね。リザードマン部隊にかかれば、集落ひとつ分ならあっという間だ。
なんたって、彼らは建築のプロだからね。
家を取り外して運ぶくらいは、わけもなくやってのける。
わけもなく……。
……ん?
そうだよな、家をあれこれするのは、お手の物なんだよな……。
――いいこと考えた!
「高橋さん、ちょっと待って」
「ん? どうした?」
「ひとつ、相談があってね……」
ちょっとした思い付きだけど、可能なはずだ。
多少の手間と時間はかかるけど、なんとかしよう。
◇
計画を始めてから、十日。
「みつからないね! みつからないね!」
「だれもいないよ! だ~れも!」
「みんな、さがしおわったかも! さがしおわったかも!」
とうとう、要救助者の探索が――終了の時を迎えた!
なんかもうすごいたくさん、の妖精さんたちのおかげだ。
やはり物量はジャスティスだね!
「ようやく、一つの段階は終了したってことか」
「多分な。念を入れて三回も探索して、それでも見つからないんだ。これで全員ってことだな」
残すは、見つけた集落の引っ越しだけだね。
これは、リザードマン部隊にお任せすることになっている。
彼らに引き継いで、俺はいったん村の運営に戻ろう。
さ~て、みんなと田んぼを耕す――。
「きゃい~」
「きゃい~きゃい~」
「きゃいきゃいきゃい~」
――ぞ?
あれ? そういえばこの大勢の妖精さんたち、どうしよう。
一通りお仕事は終わったから、あとは遊んでもらえばいいのだけど……。
「きゃい?」
「おうさま! おだんごたべる? おだんご!」
「たくさんあるよ! たくさん!」
……お団子貰っちゃった。みんな良い子だ。
この良い子ちゃんたちは一生懸命働いてくれたのだから、お礼はしたいね。
ただ、お礼をするといっても……大勢なわけで。
正確な人数を把握していないから、どれくらいの物量が必要か計算できない。
これは……ちょっと人数を数えてみる必要があるな。
妖精さんたちに声をかけて、湖畔リゾートに集まってもらおう。
そこなら広いから、のんびり数えられるよね。
それじゃあ、集めてみよう!
「ねえねえ、ちょっと良いかな?」
「きゃい?」
「みんながどれくらい村に来ているか調べたいから、ちょっと集まってもらいたいんだ」
「わかったよ! わかったよ!」
「みんなをよんでくるね! よんでくるね!」
そうして妖精さん達に湖畔リゾートへと集まってもらい、人数を数えることに。
整列してもらうと、想像以上に広い面積が必要だった。
……あれ? 思ってたより……多い?
嫌な予感を抱えつつも、百人ごとに固まってもらったブロックを加算していく。
すると――。
「きゃい~」
「きゃいきゃい~」
「きゃいきゃいきゃい~」
百人が並んだブロックが、二百ちょっと、あった……。
百かける二百は――に、二万!?
――妖精さんの数が、二万人を超える……だと……!?
「おうさま! おだんごあげる! おだんご!」
「じしんさくだよ! おいしいよ!」
「きゃい~」
みるみるうちに、お団子が積み上げられていく。
ぶ、物量は正義……。
……今この村には、二万人のようせいぱわーがみなぎっているわけか。
そりゃあ、あんなに早く捜索が終わるわけだよ。
延べ人数で言えば、恐らく十日で十万人超を動員した規模なんだから。
妖精さんによる絨毯爆撃、恐るべし。
この凄まじい物量にて、なんとかしてもらった感じだ。
しかし妖精さんが多いということは、お礼の品も沢山必要なわけで。
この二万人にも及ぶ妖精さんたちへのお礼、一体どうしたら……。
一人あたり、一キログラムのお菓子をあげると仮定してみると――単純計算で二十トン!
実際はこんな少ないお礼にはしないから、もっとたくさん必要になる。
本気でお礼をしようとしたら……百トンくらい用意しないとダメなのでは?
もう村の許容量限界がどうのというレベルではなく、いつの間にかようせいキングダムが出来ていた……?
これ……おおごとなんじゃない?
…………。
「きゃい~」
「きゃい~きゃい~」
――大変だー!!!!
「おこまり? おこまり?」
「おだんごたべて、おちつこ! おちつこ!」
「どしどしおたべ~」
あ、ありがとうございます……。
◇
妖精さん大勢いらっしゃい状態の我が村で、どのようにあの子たちをおもてなしするか。
一人で考えてもだめなので、ちょこっと相談してみることにした。
「あや~……、おだんご、すっごくたくさんです~」
「そりゃあ、二万人からお団子を貰えば、こうなりますよね……」
先ほど妖精さんたちから貰ったお団子も、お茶菓子として用意してある。
五十キログラム程ありますな。
「これ、うめえな~」
「おだんごたくさんとか、すてき」
「どうりで、ようせいさんのおうち、つくってもつくってもたりなかったのだ……」
「わきゃ~、あまいものがたくさんさ~」
ほかの村人も参加しているけど、みんなお団子に夢中だね。
丁度良いおやつタイムになっている。
「おだんごついかだよ! ついか!」
「たくさんたべてね! た~くさん!」
そしてお団子を消費するそばから、妖精さんが追加していく。
無限ループが出来上がっているのでは……。
今回妖精さん代表として、いつもの三人娘妖精さんに参加を願ったけど……。
サクラちゃんとアゲハちゃんは、どしどしお団子を量産しているね。
「しっぱいしたやつ~……」
……イトカワちゃんも負けじと、小惑星を追加している。
その形は、六月末にランデブーするやつかな? 面白い形の丘があるね。
というか飴細工マスターにはなったけど、お団子マスターもあきらめてはいないようだ。
その前向きな姿勢、見習いたい。
懲りない人、とも言う。
「しかし、まさかそんなに妖精さんたちが遊びに来ていたとは……」
「どうりで、かずがおおいとおもったわ」
そんな妖精さんたちを見て、ヤナさんとカナさんも納得顔だ。
村に来た子たちを全員集めることは無かったから、なかなか気づけなかった。
救助活動をしているときでも、次から次へと送り出す感じだったからいまいち把握しきれていなかったね。
妙に多いな……とは思っていたのだけど。とまあ、それはそれとして。
次は本題だ。救助活動に協力してくれた、二万人の妖精さんたち。
この偉い子たちに、どうやってお礼をするかってお話だね。
みんなに相談してみよう。
「というわけで、妖精さんたちへのお礼をどうしたら良いかなと考えて居まして」
「数が多いので、今までのようにお菓子を買ってきてあげる、というのは難しいですよね」
「これ以上は、流石に町のお菓子屋さんもパンクしちゃうな」
ユキちゃんは今までお菓子の調達を手伝ってくれていた。
それだけに、限界は良くわかっているね。
子猫亭のツテを使ってお菓子屋さんに電話をかけまくったけど、どのお店もひーひー言っている。
これ以上「お菓子たくさんください。あまいやつ」とか能天気な電話をしたら、着信拒否をされる可能性がある。
もうすでに、うちの名は悪名として広まっている可能性も……。
……考えないようにしよう。
さて、町のお菓子屋さんにこれ以上負担をかけるのはダメだとすると、材料を渡すしかないのだけど……。
それはちょっと、適当すぎるかなって思うわけで。
「個人的には、ただ材料をあげてはいお終い、というのもさびしいなって思うんだ。それはただ単に、楽をしているだけかなって」
「せっかく来てくれたのだから、こちらの世界のお菓子も楽しんでほしいですよね」
「そうなんだよ」
ユキちゃんも俺の気持ち、理解してくれているようだ。
妖精さんたちは、ちたまのお菓子をあげるとものすごい喜んでくれる。
とくにウィスキーボンボンが大好きなんだよね。
お礼の意味もあるんだから、なるべくなら材料をあげるだけって手抜きはしたくない。
救助計画が上手くいっているのは、ひとえにあの子たちのおかげなのだから。
しかしそうすると……二万人超という人数に、まったく対応できないことが見えてくる。
一体どうしたらいいのやら……。
「なかなかの、なんもん」
「にまんにんぶんのおかしとか、ふるえとまんない」
「おれのじまん……でもないずのうは、ただのあたまからっぽだったのだ……」
「ふとっちゃうわ~」
他のみなさんも、頭ぷしゅ~っとなっているね。
規模が規模だけに、買ってくるのはなかなか難しい。
あと腕グキさん、「太っちゃう」と言ってますが、それは自分で食べるのではなくて贈り物ですよ。
食べちゃダメです。
お土産に買ったお菓子を自分で全部食べてしまう悪癖がある、お袋と一緒ですよそれ。
とまあ、身内の悪癖はしょうがないとして。
「あんまりきをつかわなくても、いいよ! いいよ!」
「おうさまのおねがいだからね! おうさま!」
「おだんごがあれば、しあわせ~」
考える俺たちを見て、妖精さんたちは気を使ってくれる。
ほんといい子たちだね。
でも、一生懸命手伝ってくれたのだから、それなりのお礼はしたいわけなのだ。
――というわけで。
妖精さん遠慮飛行隊を、要撃しちゃいましょう!
「そこなかわいい妖精さんたち、ちょっとおいでませ」
「かわいいって! かわいいって!」
「きゃい~!」
「そうでしょ! そうでしょ!」
可愛いと言うと、ちこちこと歩いて集まってきちゃう妖精さんたちだ。
きゃいっきゃいで、白い粒子を出しているね。
そんな警戒心の無い子たちに、囁こうではないか。
――では、そそのかし攻撃始め!
「ねえねえ、あま~いふわふわな層が、いくつも重なった不思議なお菓子――見てみたくない?」
「きゃい?」
「ふわふわおかし? ふわふわ?」
「みてみたい! みてみたい!」
いわゆるバームクーヘンのことだけど。
妖精さんたち、知らないお菓子に興味深々だ。
そしてアゲハちゃんが、あっという間にインターセプトされた。
この子は食いしん坊ナンバーワンだから、要撃は楽ちんだ。
では次に行きましょう!
「キャラメルが中に入っているあま~いチョコレートを、サックサクのクッキーで挟んだお菓子――とろ~りとろけて美味しいんだ」
「きゃ、きゃい~……」
「たべたい! それたべたい!」
「たのしみだね! たのしみ!」
次はイトカワちゃんが堕ちた。ふふふ、東京駅で売ってたやつだよ。
キャラメルウィッチとか言ったかな? おすすめのお土産だ。
これには我慢強いサクラちゃんも、お菓子を想像して目が虚ろ。
ではとどめに行きましょう!
「みんなの大好きなウィスキーボンボンだけど、他にも違う種類の、甘いお酒を入れた物があるよ」
「きゃ、きゃい……あまいおさけ……」
ぎりぎりで耐えるサクラちゃんだけど、羽根から白い粒子がこぼれてますよ。
ほぼ、堕ちかけておりますなあ。
清貧も良いけど、食欲に負けて堕落するのも……良いものですよお。
「こっちにおいで! こっちにおいで!」
「おかし、もらっちゃお! もらっちゃお!」
ほら、すでに堕落したアゲハちゃんとイトカワちゃんも、虚ろな目でおいでおいでしてますよ。
仲間を求める、おかしぞんびちゃんが二人、そこにおりますな。
では! 早く楽にしてあげるために、とどめの一言をば。
「果物の芳醇な香りがする、あま~いお酒。これがチョコレートに包まれた時――至福の瞬間が」
「きゃい~! たべたい! たべたい!」
「おちたね! おちた!」
「なかま~」
――はいサクラちゃん攻略完了!
三人とも、虚ろな目でまだ見ぬお菓子を想像しておりまする。
全員おかしぞんびちゃん化、成功だ。
ははは! 人を堕落させるのは心地よいね!
「あや~、タイシまたわるいかおです~」
「大志さんは、いたいけな子をそそのかすの好きですよね」
おっと、ハナちゃんとユキちゃんがジト目で俺を見ている。
いや、これはあれだよ。ちたまのお菓子を紹介しただけであって。
俺は何も悪いことは考えていない……はずだ。
「おれらも、だいたいこれにやられる」
「あらがえない」
「ほんとそれ」
エルフたちからもジト目で見られたけど、違うんです。
あれなんですよ。
◇
ふと我に返ってみると。
妖精さん三人を堕落させたけど、事態は何も解決してはいなかった。
「きゃい~……」
「あまいおかし……ふわふわおかし……」
「サクサクおかし……まだみぬおだんご……」
煽るだけ煽って、虚ろな目をした妖精さんができあがっただけ。
三人のおかしぞんびちゃんは、お菓子を求めてうろうろ、ちこちこと机の上を歩き回る。
……さて、これからどうしよう?
「というわけで、話を続けよう」
「タイシ、あれだけあおって、なんもかんがえてないです?」
「そうとも言う」
「まさにガテン系……」
ハナちゃんからつっこまれ、ユキちゃんからガテン系認定され。
しかしその通りなので、なんも言い返せない。
無理矢理話を本筋に戻して、うやむやにしよう。
「それで、お菓子調達をどうするかというお話だけど」
「あや~……ハナがおかし、つくれたらよかったですけど……」
無理矢理話を戻したら、ハナちゃんがもじもじし始めた。
お菓子を作れたら良かった、と言っているね。
でもハナちゃん、お菓子もそれなりに作れたような?
聞いてみようか。
「ハナちゃん、お菓子も作れたよね?」
「ちょびっとだけです~。そんなにたくさんのしゅるいは、つくりかたしらないです~」
「そういえばハナちゃんに教えたお菓子、ホットケーキしか無いですね」
「そうです~」
なるほど、ハナちゃんはお菓子作りのレパートリーがあまりないって事か。
それはそうだね。というか、この村で一番お菓子を作れるのは、妖精さんなわけで。
「わたしたちも、おだんごいがいは、あんまりしらないね! しらないね!」
「おだんご、だいすき! だいすき!」
「しっぱいしたやつ~……」
しかし妖精さんたちの言うとおり、この子たちだってレパートリーはお団子に偏っているね。
材料をあげると、ほぼ間違いなくお団子に変身する。
イトカワちゃんだけ、飴細工という別の技術があるくらいだ。
……もしかして、この村はお菓子文化があまり育っていない?
自作できるのは、ホットケーキかお団子、それと数種の和菓子くらいだね。
せっかくお菓子作りが得意な妖精さんたちがいるのに、偏っている。
これは、勿体ないのではないだろうか。
もし妖精さんたちが、もっと多種多様なお菓子をつくる事が出来たなら……。
それもひとつの、村の魅力となる。
なにか、出来ないかな……。
――あ! そうか!
妖精さんたちは、まだ見ぬ新しいお菓子を喜んでくれる。
それは、妖精さんたちはお団子以外のお菓子をあまり知らないから。
ちたまの不思議なお菓子が、大好きなんだ。
それであれば、材料と一緒に――レシピをあげれば良いのでは!
材料をあげただけでは、お団子か和菓子になるだけ。
でも、レシピも教えてあげれば。
ちたまの不思議なお菓子を――自ら作り出せるはず。
お菓子をあげて、はいおしまい。
材料をあげて、はいおしまい。
それより、レシピをあげたほうがずっと良いかも!
そう、妖精さんたちに、お菓子作りのレシピと言う――知的財産をあげれば良いんだ!
それが何よりの、お礼になるかもしれない。
「タイシ~、なんかおもいついたです?」
「楽しそうな雰囲気、してますよ」
ハナちゃんとユキちゃんも、俺の思いつきに気づいたのか、ずずいと寄ってきた。
では、提案してみよう。
「えっとね、妖精さんたちに色々なお菓子の作り方、教えてあげたらいいかもって思ったんだ」
「あや! それはたのしそうです~」
「一緒に、私たちも教わりたいですね」
ハナちゃんとユキちゃん、乗ってきた。
お菓子作りが片手落ちなのを自覚していただけに、興味があるみたいだね。
では次に、妖精さんたちに話してみよう。
「ねえ、お礼はお菓子の材料と、さっき話したお菓子とかの作り方を教える、でどうかな?」
「ふしぎなおかし、わたしたちでつくれる? つくれる?」
サクラちゃんは、あまりにも不思議なちたまのお菓子に対して、作れるかどうか不安なようだ。
でもそれは、問題ないと思う。
手順と計量さえしっかりすれば、出来るはず。
「たぶんね。難しい物もあると思うけど、君たちなら出来ると思うよ」
「いいかも! いいかも!」
「あたらしいおかし! じぶんでつくる! つくる!」
「おしえて! おしえて!」
三人の妖精さんは、すっかり乗り気になった。
ちたまのお菓子作りという、知的財産。
この贈り物で、ひとまず試してみよう。
きっと、フェアリンのお菓子文化が充実するはずだ。
それは妖精さんたちにとっても、嬉しい事だと思う。
「それじゃあ、お菓子作りの方法を教えるね。みんなで美味しいお菓子、作ってみよう!」
「おかし、つくるです~!」
「便乗して、私もレパートリー増やしますね」
「たのしみ! たのしみ!」
さてさて、これで妖精さんへのお礼は何とかなりそうだ。
材料を用意して、レシピを用意して。
妖精さんたちに、素敵な贈り物をしようじゃあないか。
さっそく準備をしよう!
準備を……あれ?
そういえば、材料は百トンくらい要るよね。
お金は魔女さんに素敵D物体を売ればおつりが来るので良いとして、桁がおかしい物資量を調達するのは……俺がやるわけだ。
……おかしいな、救助活動からイチ抜けしたのに、全然仕事が減らない。
なぜなんだ。
しっぽドワーフちゃん数千人分の物資調達もありますよ