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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十七章 王の力
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第七話 夜でもお仕事、なんでだろ?


 もしかしたらファーストコンタクトかもしれないので、ちょびっと情報を集めよう。


「こちら大志、水上の未確認物体について詳細求む。どうぞ」

『こちら高橋、対象の詳細不明。確認方法は目視となる。どうぞ』


 どうやら詳細はわからないらしい。

 水中で行うエコーロケーションでは、水上の物体はわからないか。

 しょうがない、近づいてみるしかないね。


「わきゃ? どうしたさ~」

「タイシ~、なにかあったです?」


 俺と高橋さんのやりとりを聞いて、ハナちゃんとお母さんドワーフも心配顔だ。

 現状がどうなっているか、教えておこう。


「えっとね、どうやらあっちの水上に、何かがあるらしい」

「あえ? なにかです?」

「そうらしい。ただ、水上の物は海竜たちでも詳しくわかんないみたい」

「そうですか~。ちょっと、たしかめてみるです~」


 ハナちゃんお耳をぴこっと立てて、音を確認し始めたね。

 エルフの耳の良さは、かなりのものだ。何か分かるかも。


「……あえ? はなしごえがきこえるです?」

「え? 話し声?」


 ……話し声ということは、人が居る?

 地元民かな?


「はなしごえ……うちが、かくにんしてみるさ~」


 ハナちゃんの報告を訊いたお母さんドワーフが、確認してみると言っている。

 なにを確認するのだろう? と、思っていると――。


「いくさ~! ――! ――! ――!」

「あや! なんかふしぎなおと、きこえたです~!」


 ――お母さんドワーフが、何かをした。

 俺の耳では聞こえないが、ハナちゃんには聴こえたようだ。

 不思議な音が、聴こえたと言った。


「わきゃ~? どうも、フネがうかんでるっぽいさ~」


 そしてお母さんドワーフは、船が浮かんでいると言う。

 これって……まさか、エコーロケーションか?


「ねえ、今もしかして、音を出して遠くのものを視たの?」

「わきゃ? そうだけど、これがどうかしたさ~?」


 確認してみると、こともなげに答えるお母さんドワーフだ。

 やっぱり、そうなのか!

 しっぽドワーフちゃんたちは、海竜と同じく――エコーロケーションが使えるんだ!


 海竜とは違って、陸上でも使えるみたいだけど。まあ、水陸両用の生態なのだから当然かもね。

 水中ではイルカちゃん、水上ではコウモリちゃんのように、反響定位を使いこなす。

 この水が多くて夜が長い世界で生きるには、ぴったりの力だ。


「あ~、確かに超音波が聴こえましたね。結構な音量でしたよ」

「あえ? ユキもきこえたです?」

「私も耳が良いから、こういうの聴けるの」

「あや~、ユキも、みみがいいですか~」


 俺とお母さんドワーフの話を聞いていたユキちゃんが、色々補足してくれた。

 やっぱりエコーロケーションだよね。

 ハナちゃんが聴いたのは、超音波だったというわけだ。


 ……あと、ユキちゃん耳が視えちゃってるよ。

 白くてふっさふさな、ケモミミが。素晴らしい毛並みのやつ。

 それくらい実体化させちゃうと、ある程度修行を積んだ神職の人なら視えちゃうきわどさだよ。

 ケモミミはしまっておきましょうね。

 と、ユキちゃんの正体モロバレ事件を見ていたら……。


「……! ……! ……!」

「わきゃ! へんじがきたさ~!」


 お母さんドワーフが、わきゃわきゃし始めた。

 返事が来た? どういう事?


「こっちに、きてくれるみたいさ~」


 俺には何も聴こえなかったけど、もしかして超音波で会話をしている?

 どうやら、しっぽドワーフちゃんたちには……まだまだ知らない能力がありそうだ。


 というわけで、こっちに来てくれるらしい。

 高橋さんに無線連絡を入れて、現状を報告しておこう。


「こちら大志、未確認だった対象を確認。船であるとのこと。また、先方と連絡を取ったところ、こちらに向かうとの応答あり。どうぞ」


 確認した方法などは後で伝えれば良いから、今はこれで。


『こちら高橋、了解した。次の行動を指示してくれ。どうぞ』


 いろいろつっこみたいところはあるだろうが、高橋さんはそこにとらわれず次の行動を聞いてくる。

 話が早くて助かるね。ひとまず、待機する旨を伝えよう。


「こちら大志、先方と接触するため待機する。どうぞ」

『こちら高橋、了解した。待機する。通信終了』


 長い付き合いだから、阿吽あうんの呼吸で連携できる。

 通信は簡潔に終え、じっと待つとしましょうか。


 ――そして、待つ事五分ほど。


「わきゃ! みえたさ~! あっちからくるさ~!」


 お母さんドワーフが、わきゃわきゃと河の上流を指さす。

 その方向に目を凝らすと、遠くだけど……船に乗って手を振る人々が見えた。


 あれは――しっぽドワーフちゃんたちだ!

 現地の人たちかな?


「あや! ひとがいるです~」

「こっちに向かって、手を振っていますね」


 ハナちゃんやユキちゃんも気づいたようだ。

 この月明かりしかない暗い状態であれを確認出来るとは、二人とも目が良いね。


 なにはともあれ、ファーストコンタクトだ。

 現地民が目視できたことを、無線で報告しよう。


「こちら大志、先方を目視確認。現地民であると思われる。どうぞ」

『こちら高橋、了解した。ただ、現地民は現在冬眠中であるはず。何故活動しているのか、疑問がある。どうぞ』


 ……確かにそうだ。今、しっぽドワーフちゃんたちは冬眠中のはず。

 しかし実際に活動中の子たちが存在していて、こちらに近づいてくる。

 なぜ、あの子達は冬眠していないのだろう?



 ◇



 六人乗りボート、くらいの木製の船が、接近してくる。

 それも一隻だけではない。三隻存在していた。

 そこに乗っていた人たちはと言うと――。


「わきゃ~! おっきないきものさ~!」

「みたこともない、いきものがいるさ~!」

「おっきなひとたちも、いるさ~?」


 三隻に合計八人の緑しっぽちゃんたちが乗っていたけど、みなさん俺たちをみて大騒ぎだ。

 とくに海竜の大きさにおどろいている。

 そんなみなさんを見て、お母さんドワーフが声をかけた。


「みんな! ひさしぶりさ~!」


 接近してきた船に対して、手を振りながらアピールだ。

 ……知り合いなのかな?


「わきゃ! ぶじだったさ~!?」

「しんぱいしてたさ~!」

「よかったさ~!」

「ずっと、まってたさ~!」


 船に乗っている人たちから、再会を喜ぶ声が沸き上がる。

 やっぱり、知り合いだったみたいだ。


「そっちは、おひっこしがうまくいったみたいで、よかったさ~」


 お母さんドワーフがそう言ったけど、それじゃあこの子たちは……引っ越しが成功した避難民、てことなのかな?

 ちょっと聞いてみよう。


「ねえ、君たちは……灰色になった湖から、避難してきた人たちかな?」

「わきゃ? どうしてそれを、しっているさ~?」

「たしかにそうさ~」

「ふねで、にげてきたさ~」


 俺から話しかけられてきょとんとしているけど、返答はしてくれた。

 みんな肯定しているから、確定だね。

 この子たちは――船で引っ越しした子たち、いわゆる避難民だ。


「わきゃ? そういえば、ほかのひとたちは、どうしたさ~?」

「すがたが、みあたらないさ~?」

「あとから、くるさ~?」


 やがて、引っ越し成功組の子たちは……仲間の数が、妙に少ない事に気づく。

 そう、今こちらにいるのは三人だけ。しかも、知り合いは一人だけ。


「……わきゃ?」

「のこりのみんなは、どうしたさ~?」

「なんで、いっしょにいないさ~?」


 八人の緑しっぽドワーフちゃんたちは、きょろきょろと周囲を探し始める。

 その顔には……不安でいっぱいだった。

 これはたぶん、最悪の結果も想像しているんだろうな。


 あれだけいた仲間の姿が、今は一人しか見当たらない。

 そして厳しい状況が明らかだった、イカダでの引っ越し。

 そこから想像される結果は……まあ、そういう事だ。

 実際に、海竜夫婦と遭遇していなかったら……その想像通りになっていただろう。


 でも――大丈夫でございます!

 みんな無事だからね!


 心配顔の緑しっぽちゃんたちに、なぜ俺たちがやってきたのか……その顛末を話そう。


「えっとね、実はこんなことがあって――」


 そうして、お母さんドワーフと一緒に、俺たちがここに来た理由を説明したのだった。



 ◇



 緑しっぽドワーフちゃんたちに、今までの出来事を説明した。

 引っ越し途中で力尽きたけど、なんとかうちの村にたどり着いたこと。

 それからのんびりすごしていたけど、実はまだ取り残された人たちがいることに気づいたこと。

 いまはその人たちを見つけて、ここに送り届ける計画をしていること。


「わ、わわわわきゃ~……そんなことに、なってたさ~」

「でも、みんなぶじでよかったさ~」

「ありがたいさ~」


 経緯を理解した緑しっぽちゃんたち、ぷるぷるしたり、安心したりと様々な反応を見せる。

 まあ、話の流れは奇想天外だからね。

 それでも、頭から疑われたり、俺たちを怖がられるよりずっと良い。

 警戒心が無いのは心配だけど、こういう時は助かる。


 ――さて、それじゃあ経緯は理解して貰ったところで。

 こちらの地元民の方々に、挨拶をしたい旨伝えよう。


「そんなわけで、ここに人を沢山送るからよろしくって、地元の人に挨拶したいんだ」

「そういうことだったさ~」

「あいさつ、たいせつさ~」


 ようやく俺たちが来た目的まで話ができて、めでたしめでたしだ。

 ちょうど知り合いもいる事だし、仲介をお願いしてみようかな?


「それでね、この辺の顔役か首長さんにご挨拶をしたいんだけど……紹介とか、出来たりする?」

「わきゃ~……できないことは、ないさ~?」

「いえのばしょは、しってるさ~」


 ……あれ? なんだか微妙な返事だぞ?

 出来なくも無い、家の場所は知っている。でも、なんとも歯切れが悪い。

 なにかあるのだろうか?


「どうしたの? なにか問題でも?」

「みんなとうみんしていて、おきてこないさ~」

「いまおこすのは、かわいそうさ~」

「おなか、すかせちゃうさ~」


 ……なるほど、偉い人も冬眠中だからか。緑しっぽちゃんたちは、気を使っているんだね。

 それと、ちょっとやそっとじゃ起きないのもあるかな。


 ――でもこれも大丈夫! 俺たちには爆釣を可能とするやつがあるからね!

 冬眠しっぽドワーフちゃんも飛び起きる、美味しいやつを用意してあるのですよ。

 みそラーメンは危険だから、今は封印中だけど。


「大丈夫だよ。ご馳走の匂いで起きてもらうから、挨拶はできるね」

「起こした分に対する手当として、食べ物もちゃんとわたしますから」

「だいじょぶです~」


 俺の説明に続いて、ユキちゃんとハナちゃんもフォローしてくれた。

 対策はバッチリなんですよこれが。


「わきゃ~、それならだいじょうぶさ~」

「ごちそうってのに、きょうみがわいたさ~」

「おなか、へったさ~……」


 緑しっぽちゃんたちも、大丈夫だと判断してくれたみたいだね。

 それじゃあ早速案内を……と、その前に。

 ちょっと気になるフレーズが聞こえた。


 ――お腹が減った、という言葉が……凄く気になった。

 何故、お腹を空かせているのだろうか。

 ここまで来れたのだから、食料は採取できるはずではないのか?

 もしかして、冬眠しないで船を出しているのも……何か関係している?


 これは、聞いておかないといけないな。


「……もしかして、お腹が空いているの? 食糧とか、大丈夫?」

「わきゃ~……、とうみんするまえのたくわえ、つくらないといけないさ~」

「たくわえがないから、とうみんできないさ~」

「じゅんびできるまで、たべものをへらすしか、ないさ~」


 ……どうやら、引っ越しが成功した子たちも、色々問題を抱えているようだ。

 もうちょっと詳しく聞いてみよう。


「ちょっと、事情を聞かせて欲しい」

「わかったさ~」


 そんなわけで、緑しっぽちゃんたちの置かれた状況について、ヒアリングを開始。

 みんなは身振り手振りを交えて、一生懸命に話してくれた。

 その内容からは、あまりよろしくない状況に置かれていることががわかってくる。


「こんなかんじで、ちょっとこまっているさ~」

「よゆうが、ないさ~」

「おうちも、ないさ~……」


 話の内容をまとめると、こうだ。

 食糧に余裕が無いため、冬眠に入れない。これは、引っ越しで蓄えを使い果たしてしまったから。

 この期間はなるべく家から出ないで、貯蔵食料をちまちま食べて過ごしたい。

 そのため今から、食べ物を集めているとのこと。

 蓄えに回すのが優先なので、普段の食事を減らして対応している。

 これが、お腹を空かせていた理由だ。


 そして、もう一つ問題があった。家がない世帯があるようだ。

 そういう人たちは現状、葉っぱを使った家っぽいガワをこさえて凌いでいる。

 しかし雨漏りはするし、なにより風通しが良すぎて寒い。

 安心して冬眠できる環境が無くて、とっても困っている。


 この二つの問題のどちらか、もしくは両方が原因で……冬眠に入れないらしい。

 だから、夜の時期でもお仕事をしていた、というわけだ。


 ようするに、このしっぽドワーフちゃんたち、引っ越しは成功したが――冬眠は失敗したわけだ。

 ……これは、なんとかしてあげたい。

 さしあたって今の俺たちに出来る事は……食料の提供かな?

 受け入れてもらえるかは分からないけど、提案はしてみよう。


「食べ物に関しては、こちらで用意できるよ。た~くさん」

「わきゃ? それ、ほんとさ~?」

「ほんとほんと。ほら、このイカダに沢山積んであるのは殆どが食べ物だよ」

「わきゃ!? これのほとんどが、たべものさ~!?」

「そうだよ」


 ラーメンやら缶詰やらアルファ化米やらやら、保存食てんこ盛りだ。

 甘いお菓子や、ポテチも用意してある。

 軽自動車一台分くらい、という重量の食料があるんだな。

 正直、持って来すぎた感があったけど……役に立ちそうだ。


「おなかすかせているの? おだんごあげるね! おだんご!」

「たくさんあるよ! た~くさん!」

「じしんさく~」


 話を聞いた妖精さんたちが、お団子を渡している。

 きゃいっきゃいで、自慢の作品を手渡しだね。


「わきゃ! もらっちゃっても、いいさ~?」

「ありがとうさ~」

「たすかるさ~」


 ひとまずは、この妖精さんお団子で腹ごなしをしてもらうとして。

 持ってきたたくさんの食料は、あとで渡そう。まずは顔役か首長に、挨拶しないとね。

 その時に食べ物を緑しっぽちゃんたちにも見せて、どんなものか説明すれば説明は一回で済む。


「こっちの食べ物については、あとで渡すね。ひとまず、偉い人にご挨拶したい」

「わかったさ~、あんないするさ~」

「おしごと、おしごとするさ~」

「こっちさ~」


 妖精さんお団子でちょっと腹ごなしができたからか、緑しっぽちゃんたちがなんだか元気になった。

 わきゃわきゃとオールをこいで、案内を開始する。

 

「それじゃ、後に続こう」

「がう」

「いくです~!」


 そうして移動すること、十数分くらい。

 ツリーハウスがだんだんと増え始めるのが、見て取れた。

 この辺が居住区っぽい感じだね。湖のそばに、沢山の家が軒を連ねている。


「あのおうちが、そうさ~」

「このへんで、いちばんえらいひとさ~」


 やがて緑しっぽちゃんたちは……わりと大きめの、ツリーハウスを指さした。

 偉い人の家って雰囲気はあるね。

 四軒が連なっているけど、これが全部そうなのだろうか。


「ここがそうなんだ」

「そうさ~、こっちのおうちで、ねているはずさ~」


 案内役しっぽちゃんが指さしたのは、はしっこの小さな家だった。

 ……一番大きなやつじゃないんだ。なんでだろう?


「こっちの一番大きい家じゃないの?」

「そっちは、かいぎするばしょさ~」

「なるほど、住宅じゃなくて施設って感じなのか」

「そうさ~」


 そういう施設を提供できるからこそ、偉い人なのかもね。

 なんにせよ、力のあるドワーフちゃんみたいだ。

 ではでは、早速ご挨拶しよう。


「じゃあ、あの家の所まで登るね」

「あんないするさ~」

「うちも、いっしょにいくさ~」


 そんなわけで、案内役のドワーフちゃん、お母さんドワーフ、そして俺の合計三人で木を登ることに。


「わたしたちもいくね! いくね!」

「せっかくだからね! せっかくだから!」

「ごあいさつ~」


 あ、妖精さんたちもついてくるようだ。こういう時、飛べるのは便利だね。

 せっかくだから、一緒にご挨拶しましょうだ。


「いってらっしゃいです~」

「お気をつけて」

「なにかあったら無線で連絡するから、よろしくね。あと、みんなはお昼にしていて良いよ」

「わかったです~」


 そんなわけで、ハナちゃんとユキちゃんに見送られながら、するすると木登りを始める。

 しっぽを使って上手に登る二人のドワーフちゃんを横目に、俺は握力頼りの力技で登っちゃう。

 落っこちても平気な人以外は、危ないから真似しないでね。


 そうして木を登り、目的の家に到着。

 試しに扉をノックしてみるけど、無反応だね。

 冬眠中だから、気づいていないのだろう。


「起きてこないね」

「とうみんちゅうは、こんなものさ~」


 今度はお母さんドワーフと一緒に扉をノックして、冬眠中であることを確認。

 さて、これから起きてもらわないといけないわけだけど……。


「これから、どうするさ~?」


 そんな俺たちに対して、緑しっぽちゃんが問いかける。

 ちょっとやそっとじゃ起きないわけだから、心配なんだろうね。

 でもでも、対策はちゃんと用意してあるのですよこれが。

 というわけで、秘密兵器を投入だ。


 ――じゃじゃーん! スピリタスー!


「わきゃ? それってもしかして、おさけさ~?」

「そうだよ、すっごい強いお酒。これなら起きるでしょ」

「まちがいないさ~! とびおきるさ~!」


 秘密兵器の超強いお酒を見て、緑しっぽちゃんがじゅるりとしている。

 ……あとであげるからね。もうちょっと待っててね。


 それじゃあ、冬眠覚ましちゃおう作戦、開始!

 換気用の小窓があるので、瓶の蓋をとってお酒の匂いを流し込む。とはいえ、手で扇ぐだけだけど。

 これはお母さんドワーフが考案した方法で、おそらく効果抜群とのこと。

 みそラーメンのように広範囲に広がらず、狭い範囲に効果を及ぼすだけなのが良いね。


「わきゃ~、いいにおいさ~」

「たまらないさ~」


 緑しっぽちゃんとお母さんドワーフが、若干漏れてきたお酒の匂いで二次被害に合っているけど……。

 まあそれは気にしないことにして。


 こうして偉い人にお酒の香りをお届けすること、一分。

 家の中から――ドタバタと音が聴こえてきた。

 これは……起きたな。


 やがて、ダダダっと走る音がして――扉がバタン! と開く。


「わきゃ~! おさけのにおいがするさ~!」


 飛び出してきたのは、身長百六十センチメートルくらいの大きなドワーフちゃんだ。

 しっぽの色は……黄色だね。

 かぼちゃパンツっぽいのと、キャミソールみたいなトップスを纏っている。

 ……寝間着姿かな?

 それと寝癖もすごくて、髪の毛スーパー○イヤ人状態だ。


「……わきゃ?」


 そして、俺たちに気づく大きなドワーフちゃんだ。

 にっこり笑顔で、挨拶しないとね。


「初めまして、私は大志と申します。ちょっとお話がありまして、お伺いさせていただきました」

「そうだんごとが、あるさ~」

「おはなし、してもいいさ~?」

「はじめまして! はじめまして!」

「ごあいさつだよ! ごあいさつ!」

「こんちわ~」


 みんなで畳み掛けるように、大きなドワーフちゃんにご挨拶する。

 にっこり笑顔で、元気よく!


「……わきゃ?」


 そんな俺たちを見て、あっけにとられる大きなドワーフちゃん。

 訪問客である俺たちを見て、きょとん。


「……わきゃ? おきゃくさんさ~?」

「そうですね」


 ぽかんとした顔の大きなドワーフちゃん、俺を見上げたり妖精さんたちを見たりで、目が点に。

 しばらくそうして唖然としていた彼女だけど……。


「わ、わきゃ~……」


 やがて思考が追いついてきたのか、自分の姿に目をやった。

 わりとあられもない寝起き姿? である自分の恰好を見て――。


「ち、ちょっとまつさ~」


 そのままそそくさと家の中に戻り、ぱたむと扉を閉めた。

 ……ドタバタと家の中から、音が聴こえてくるね。

 どうしたんだろう?


「あの人、どうしちゃったの?」

「さすがにあのかっこうは、はずかしいさ~。ねまきすがたさ~」

「えらいひとは、みためもきをつかうさ~。いまごろ、おけしょうしているさ~」


 ……なるほど、そこら辺の配慮は無かった。というか、やっぱり寝間着姿だったんだ。

 偉い人ドワーフちゃん、寝起きすっぴん姿を晒させてしまってごめんなさい……。


 そうしてドタバタ音を聴きながら待つ事、二十分くらい。

 ギギ~っと、扉が開いた。


「はあはあ……お、おまたせしたさ~」


 そこには――先ほどとは見違える、ピシっとした姿に変貌した人がいた。

 バッチリとお化粧をして、極彩色ごくさいしきの羽根飾りをかぶり、さらに煌びやかなポンチョを纏っている。

 あの凄かった寝癖も、今やサラサラストレートヘアだ。


 ほほう、これはなかなか威厳がある。まさに偉い人って感じだ。

 ……お酒に釣られていたけど、まあそこは気にしない気にしない。

 しかし、よくあの短時間でここまで準備できたな。

 息を切らせているところを見ると、かなりお急ぎで準備してくれたようだけど。


「そこのおっきな……ひと? ちいさなひと? みんな、なにものさ~?」


 バッチリ準備もして目が覚めたのか、俺と言う生粋のちたま人(当社比)に興味を持ったようだ。

 あと、妖精さんたちにもちらちらと目をやっている。

 この世界にはいない人種だからか、やや警戒気味だね。


 ただ……思ったより警戒されていないね。普通に話しかけてはくれている。

 これなら、ちゃんとした会議は可能かな?

 それじゃあ、ちょっと会議を提案しよう。


 ――とその前に。

 コンタクトに成功して、これから会議をする旨を無線で報告しておかないとね。


「こちら大志、接触成功。これより会議に入る。どうぞ」

『こちら高橋、了解した。健闘を祈る。どうぞ』

「こちら大志、結果は追って報告する。通信終了」


 ――さて、報告もしたところで。


 それじゃあ、俺の正体も含めていろいろお話しと、会議をしよう。

 この偉い人ドワーフちゃんが、俺たちのお願いを聞いてくれると助かるのだけど。

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