第七話 夜でもお仕事、なんでだろ?
もしかしたらファーストコンタクトかもしれないので、ちょびっと情報を集めよう。
「こちら大志、水上の未確認物体について詳細求む。どうぞ」
『こちら高橋、対象の詳細不明。確認方法は目視となる。どうぞ』
どうやら詳細はわからないらしい。
水中で行うエコーロケーションでは、水上の物体はわからないか。
しょうがない、近づいてみるしかないね。
「わきゃ? どうしたさ~」
「タイシ~、なにかあったです?」
俺と高橋さんのやりとりを聞いて、ハナちゃんとお母さんドワーフも心配顔だ。
現状がどうなっているか、教えておこう。
「えっとね、どうやらあっちの水上に、何かがあるらしい」
「あえ? なにかです?」
「そうらしい。ただ、水上の物は海竜たちでも詳しくわかんないみたい」
「そうですか~。ちょっと、たしかめてみるです~」
ハナちゃんお耳をぴこっと立てて、音を確認し始めたね。
エルフの耳の良さは、かなりのものだ。何か分かるかも。
「……あえ? はなしごえがきこえるです?」
「え? 話し声?」
……話し声ということは、人が居る?
地元民かな?
「はなしごえ……うちが、かくにんしてみるさ~」
ハナちゃんの報告を訊いたお母さんドワーフが、確認してみると言っている。
なにを確認するのだろう? と、思っていると――。
「いくさ~! ――! ――! ――!」
「あや! なんかふしぎなおと、きこえたです~!」
――お母さんドワーフが、何かをした。
俺の耳では聞こえないが、ハナちゃんには聴こえたようだ。
不思議な音が、聴こえたと言った。
「わきゃ~? どうも、フネがうかんでるっぽいさ~」
そしてお母さんドワーフは、船が浮かんでいると言う。
これって……まさか、エコーロケーションか?
「ねえ、今もしかして、音を出して遠くのものを視たの?」
「わきゃ? そうだけど、これがどうかしたさ~?」
確認してみると、こともなげに答えるお母さんドワーフだ。
やっぱり、そうなのか!
しっぽドワーフちゃんたちは、海竜と同じく――エコーロケーションが使えるんだ!
海竜とは違って、陸上でも使えるみたいだけど。まあ、水陸両用の生態なのだから当然かもね。
水中ではイルカちゃん、水上ではコウモリちゃんのように、反響定位を使いこなす。
この水が多くて夜が長い世界で生きるには、ぴったりの力だ。
「あ~、確かに超音波が聴こえましたね。結構な音量でしたよ」
「あえ? ユキもきこえたです?」
「私も耳が良いから、こういうの聴けるの」
「あや~、ユキも、みみがいいですか~」
俺とお母さんドワーフの話を聞いていたユキちゃんが、色々補足してくれた。
やっぱりエコーロケーションだよね。
ハナちゃんが聴いたのは、超音波だったというわけだ。
……あと、ユキちゃん耳が視えちゃってるよ。
白くてふっさふさな、ケモミミが。素晴らしい毛並みのやつ。
それくらい実体化させちゃうと、ある程度修行を積んだ神職の人なら視えちゃうきわどさだよ。
ケモミミはしまっておきましょうね。
と、ユキちゃんの正体モロバレ事件を見ていたら……。
「……! ……! ……!」
「わきゃ! へんじがきたさ~!」
お母さんドワーフが、わきゃわきゃし始めた。
返事が来た? どういう事?
「こっちに、きてくれるみたいさ~」
俺には何も聴こえなかったけど、もしかして超音波で会話をしている?
どうやら、しっぽドワーフちゃんたちには……まだまだ知らない能力がありそうだ。
というわけで、こっちに来てくれるらしい。
高橋さんに無線連絡を入れて、現状を報告しておこう。
「こちら大志、未確認だった対象を確認。船であるとのこと。また、先方と連絡を取ったところ、こちらに向かうとの応答あり。どうぞ」
確認した方法などは後で伝えれば良いから、今はこれで。
『こちら高橋、了解した。次の行動を指示してくれ。どうぞ』
いろいろつっこみたいところはあるだろうが、高橋さんはそこにとらわれず次の行動を聞いてくる。
話が早くて助かるね。ひとまず、待機する旨を伝えよう。
「こちら大志、先方と接触するため待機する。どうぞ」
『こちら高橋、了解した。待機する。通信終了』
長い付き合いだから、阿吽の呼吸で連携できる。
通信は簡潔に終え、じっと待つとしましょうか。
――そして、待つ事五分ほど。
「わきゃ! みえたさ~! あっちからくるさ~!」
お母さんドワーフが、わきゃわきゃと河の上流を指さす。
その方向に目を凝らすと、遠くだけど……船に乗って手を振る人々が見えた。
あれは――しっぽドワーフちゃんたちだ!
現地の人たちかな?
「あや! ひとがいるです~」
「こっちに向かって、手を振っていますね」
ハナちゃんやユキちゃんも気づいたようだ。
この月明かりしかない暗い状態であれを確認出来るとは、二人とも目が良いね。
なにはともあれ、ファーストコンタクトだ。
現地民が目視できたことを、無線で報告しよう。
「こちら大志、先方を目視確認。現地民であると思われる。どうぞ」
『こちら高橋、了解した。ただ、現地民は現在冬眠中であるはず。何故活動しているのか、疑問がある。どうぞ』
……確かにそうだ。今、しっぽドワーフちゃんたちは冬眠中のはず。
しかし実際に活動中の子たちが存在していて、こちらに近づいてくる。
なぜ、あの子達は冬眠していないのだろう?
◇
六人乗りボート、くらいの木製の船が、接近してくる。
それも一隻だけではない。三隻存在していた。
そこに乗っていた人たちはと言うと――。
「わきゃ~! おっきないきものさ~!」
「みたこともない、いきものがいるさ~!」
「おっきなひとたちも、いるさ~?」
三隻に合計八人の緑しっぽちゃんたちが乗っていたけど、みなさん俺たちをみて大騒ぎだ。
とくに海竜の大きさにおどろいている。
そんなみなさんを見て、お母さんドワーフが声をかけた。
「みんな! ひさしぶりさ~!」
接近してきた船に対して、手を振りながらアピールだ。
……知り合いなのかな?
「わきゃ! ぶじだったさ~!?」
「しんぱいしてたさ~!」
「よかったさ~!」
「ずっと、まってたさ~!」
船に乗っている人たちから、再会を喜ぶ声が沸き上がる。
やっぱり、知り合いだったみたいだ。
「そっちは、おひっこしがうまくいったみたいで、よかったさ~」
お母さんドワーフがそう言ったけど、それじゃあこの子たちは……引っ越しが成功した避難民、てことなのかな?
ちょっと聞いてみよう。
「ねえ、君たちは……灰色になった湖から、避難してきた人たちかな?」
「わきゃ? どうしてそれを、しっているさ~?」
「たしかにそうさ~」
「ふねで、にげてきたさ~」
俺から話しかけられてきょとんとしているけど、返答はしてくれた。
みんな肯定しているから、確定だね。
この子たちは――船で引っ越しした子たち、いわゆる避難民だ。
「わきゃ? そういえば、ほかのひとたちは、どうしたさ~?」
「すがたが、みあたらないさ~?」
「あとから、くるさ~?」
やがて、引っ越し成功組の子たちは……仲間の数が、妙に少ない事に気づく。
そう、今こちらにいるのは三人だけ。しかも、知り合いは一人だけ。
「……わきゃ?」
「のこりのみんなは、どうしたさ~?」
「なんで、いっしょにいないさ~?」
八人の緑しっぽドワーフちゃんたちは、きょろきょろと周囲を探し始める。
その顔には……不安でいっぱいだった。
これはたぶん、最悪の結果も想像しているんだろうな。
あれだけいた仲間の姿が、今は一人しか見当たらない。
そして厳しい状況が明らかだった、イカダでの引っ越し。
そこから想像される結果は……まあ、そういう事だ。
実際に、海竜夫婦と遭遇していなかったら……その想像通りになっていただろう。
でも――大丈夫でございます!
みんな無事だからね!
心配顔の緑しっぽちゃんたちに、なぜ俺たちがやってきたのか……その顛末を話そう。
「えっとね、実はこんなことがあって――」
そうして、お母さんドワーフと一緒に、俺たちがここに来た理由を説明したのだった。
◇
緑しっぽドワーフちゃんたちに、今までの出来事を説明した。
引っ越し途中で力尽きたけど、なんとかうちの村にたどり着いたこと。
それからのんびりすごしていたけど、実はまだ取り残された人たちがいることに気づいたこと。
いまはその人たちを見つけて、ここに送り届ける計画をしていること。
「わ、わわわわきゃ~……そんなことに、なってたさ~」
「でも、みんなぶじでよかったさ~」
「ありがたいさ~」
経緯を理解した緑しっぽちゃんたち、ぷるぷるしたり、安心したりと様々な反応を見せる。
まあ、話の流れは奇想天外だからね。
それでも、頭から疑われたり、俺たちを怖がられるよりずっと良い。
警戒心が無いのは心配だけど、こういう時は助かる。
――さて、それじゃあ経緯は理解して貰ったところで。
こちらの地元民の方々に、挨拶をしたい旨伝えよう。
「そんなわけで、ここに人を沢山送るからよろしくって、地元の人に挨拶したいんだ」
「そういうことだったさ~」
「あいさつ、たいせつさ~」
ようやく俺たちが来た目的まで話ができて、めでたしめでたしだ。
ちょうど知り合いもいる事だし、仲介をお願いしてみようかな?
「それでね、この辺の顔役か首長さんにご挨拶をしたいんだけど……紹介とか、出来たりする?」
「わきゃ~……できないことは、ないさ~?」
「いえのばしょは、しってるさ~」
……あれ? なんだか微妙な返事だぞ?
出来なくも無い、家の場所は知っている。でも、なんとも歯切れが悪い。
なにかあるのだろうか?
「どうしたの? なにか問題でも?」
「みんなとうみんしていて、おきてこないさ~」
「いまおこすのは、かわいそうさ~」
「おなか、すかせちゃうさ~」
……なるほど、偉い人も冬眠中だからか。緑しっぽちゃんたちは、気を使っているんだね。
それと、ちょっとやそっとじゃ起きないのもあるかな。
――でもこれも大丈夫! 俺たちには爆釣を可能とするやつがあるからね!
冬眠しっぽドワーフちゃんも飛び起きる、美味しいやつを用意してあるのですよ。
みそラーメンは危険だから、今は封印中だけど。
「大丈夫だよ。ご馳走の匂いで起きてもらうから、挨拶はできるね」
「起こした分に対する手当として、食べ物もちゃんとわたしますから」
「だいじょぶです~」
俺の説明に続いて、ユキちゃんとハナちゃんもフォローしてくれた。
対策はバッチリなんですよこれが。
「わきゃ~、それならだいじょうぶさ~」
「ごちそうってのに、きょうみがわいたさ~」
「おなか、へったさ~……」
緑しっぽちゃんたちも、大丈夫だと判断してくれたみたいだね。
それじゃあ早速案内を……と、その前に。
ちょっと気になるフレーズが聞こえた。
――お腹が減った、という言葉が……凄く気になった。
何故、お腹を空かせているのだろうか。
ここまで来れたのだから、食料は採取できるはずではないのか?
もしかして、冬眠しないで船を出しているのも……何か関係している?
これは、聞いておかないといけないな。
「……もしかして、お腹が空いているの? 食糧とか、大丈夫?」
「わきゃ~……、とうみんするまえのたくわえ、つくらないといけないさ~」
「たくわえがないから、とうみんできないさ~」
「じゅんびできるまで、たべものをへらすしか、ないさ~」
……どうやら、引っ越しが成功した子たちも、色々問題を抱えているようだ。
もうちょっと詳しく聞いてみよう。
「ちょっと、事情を聞かせて欲しい」
「わかったさ~」
そんなわけで、緑しっぽちゃんたちの置かれた状況について、ヒアリングを開始。
みんなは身振り手振りを交えて、一生懸命に話してくれた。
その内容からは、あまりよろしくない状況に置かれていることががわかってくる。
「こんなかんじで、ちょっとこまっているさ~」
「よゆうが、ないさ~」
「おうちも、ないさ~……」
話の内容をまとめると、こうだ。
食糧に余裕が無いため、冬眠に入れない。これは、引っ越しで蓄えを使い果たしてしまったから。
この期間はなるべく家から出ないで、貯蔵食料をちまちま食べて過ごしたい。
そのため今から、食べ物を集めているとのこと。
蓄えに回すのが優先なので、普段の食事を減らして対応している。
これが、お腹を空かせていた理由だ。
そして、もう一つ問題があった。家がない世帯があるようだ。
そういう人たちは現状、葉っぱを使った家っぽいガワをこさえて凌いでいる。
しかし雨漏りはするし、なにより風通しが良すぎて寒い。
安心して冬眠できる環境が無くて、とっても困っている。
この二つの問題のどちらか、もしくは両方が原因で……冬眠に入れないらしい。
だから、夜の時期でもお仕事をしていた、というわけだ。
ようするに、このしっぽドワーフちゃんたち、引っ越しは成功したが――冬眠は失敗したわけだ。
……これは、なんとかしてあげたい。
さしあたって今の俺たちに出来る事は……食料の提供かな?
受け入れてもらえるかは分からないけど、提案はしてみよう。
「食べ物に関しては、こちらで用意できるよ。た~くさん」
「わきゃ? それ、ほんとさ~?」
「ほんとほんと。ほら、このイカダに沢山積んであるのは殆どが食べ物だよ」
「わきゃ!? これのほとんどが、たべものさ~!?」
「そうだよ」
ラーメンやら缶詰やらアルファ化米やらやら、保存食てんこ盛りだ。
甘いお菓子や、ポテチも用意してある。
軽自動車一台分くらい、という重量の食料があるんだな。
正直、持って来すぎた感があったけど……役に立ちそうだ。
「おなかすかせているの? おだんごあげるね! おだんご!」
「たくさんあるよ! た~くさん!」
「じしんさく~」
話を聞いた妖精さんたちが、お団子を渡している。
きゃいっきゃいで、自慢の作品を手渡しだね。
「わきゃ! もらっちゃっても、いいさ~?」
「ありがとうさ~」
「たすかるさ~」
ひとまずは、この妖精さんお団子で腹ごなしをしてもらうとして。
持ってきたたくさんの食料は、あとで渡そう。まずは顔役か首長に、挨拶しないとね。
その時に食べ物を緑しっぽちゃんたちにも見せて、どんなものか説明すれば説明は一回で済む。
「こっちの食べ物については、あとで渡すね。ひとまず、偉い人にご挨拶したい」
「わかったさ~、あんないするさ~」
「おしごと、おしごとするさ~」
「こっちさ~」
妖精さんお団子でちょっと腹ごなしができたからか、緑しっぽちゃんたちがなんだか元気になった。
わきゃわきゃとオールをこいで、案内を開始する。
「それじゃ、後に続こう」
「がう」
「いくです~!」
そうして移動すること、十数分くらい。
ツリーハウスがだんだんと増え始めるのが、見て取れた。
この辺が居住区っぽい感じだね。湖のそばに、沢山の家が軒を連ねている。
「あのおうちが、そうさ~」
「このへんで、いちばんえらいひとさ~」
やがて緑しっぽちゃんたちは……わりと大きめの、ツリーハウスを指さした。
偉い人の家って雰囲気はあるね。
四軒が連なっているけど、これが全部そうなのだろうか。
「ここがそうなんだ」
「そうさ~、こっちのおうちで、ねているはずさ~」
案内役しっぽちゃんが指さしたのは、はしっこの小さな家だった。
……一番大きなやつじゃないんだ。なんでだろう?
「こっちの一番大きい家じゃないの?」
「そっちは、かいぎするばしょさ~」
「なるほど、住宅じゃなくて施設って感じなのか」
「そうさ~」
そういう施設を提供できるからこそ、偉い人なのかもね。
なんにせよ、力のあるドワーフちゃんみたいだ。
ではでは、早速ご挨拶しよう。
「じゃあ、あの家の所まで登るね」
「あんないするさ~」
「うちも、いっしょにいくさ~」
そんなわけで、案内役のドワーフちゃん、お母さんドワーフ、そして俺の合計三人で木を登ることに。
「わたしたちもいくね! いくね!」
「せっかくだからね! せっかくだから!」
「ごあいさつ~」
あ、妖精さんたちもついてくるようだ。こういう時、飛べるのは便利だね。
せっかくだから、一緒にご挨拶しましょうだ。
「いってらっしゃいです~」
「お気をつけて」
「なにかあったら無線で連絡するから、よろしくね。あと、みんなはお昼にしていて良いよ」
「わかったです~」
そんなわけで、ハナちゃんとユキちゃんに見送られながら、するすると木登りを始める。
しっぽを使って上手に登る二人のドワーフちゃんを横目に、俺は握力頼りの力技で登っちゃう。
落っこちても平気な人以外は、危ないから真似しないでね。
そうして木を登り、目的の家に到着。
試しに扉をノックしてみるけど、無反応だね。
冬眠中だから、気づいていないのだろう。
「起きてこないね」
「とうみんちゅうは、こんなものさ~」
今度はお母さんドワーフと一緒に扉をノックして、冬眠中であることを確認。
さて、これから起きてもらわないといけないわけだけど……。
「これから、どうするさ~?」
そんな俺たちに対して、緑しっぽちゃんが問いかける。
ちょっとやそっとじゃ起きないわけだから、心配なんだろうね。
でもでも、対策はちゃんと用意してあるのですよこれが。
というわけで、秘密兵器を投入だ。
――じゃじゃーん! スピリタスー!
「わきゃ? それってもしかして、おさけさ~?」
「そうだよ、すっごい強いお酒。これなら起きるでしょ」
「まちがいないさ~! とびおきるさ~!」
秘密兵器の超強いお酒を見て、緑しっぽちゃんがじゅるりとしている。
……あとであげるからね。もうちょっと待っててね。
それじゃあ、冬眠覚ましちゃおう作戦、開始!
換気用の小窓があるので、瓶の蓋をとってお酒の匂いを流し込む。とはいえ、手で扇ぐだけだけど。
これはお母さんドワーフが考案した方法で、おそらく効果抜群とのこと。
みそラーメンのように広範囲に広がらず、狭い範囲に効果を及ぼすだけなのが良いね。
「わきゃ~、いいにおいさ~」
「たまらないさ~」
緑しっぽちゃんとお母さんドワーフが、若干漏れてきたお酒の匂いで二次被害に合っているけど……。
まあそれは気にしないことにして。
こうして偉い人にお酒の香りをお届けすること、一分。
家の中から――ドタバタと音が聴こえてきた。
これは……起きたな。
やがて、ダダダっと走る音がして――扉がバタン! と開く。
「わきゃ~! おさけのにおいがするさ~!」
飛び出してきたのは、身長百六十センチメートルくらいの大きなドワーフちゃんだ。
しっぽの色は……黄色だね。
かぼちゃパンツっぽいのと、キャミソールみたいなトップスを纏っている。
……寝間着姿かな?
それと寝癖もすごくて、髪の毛スーパー○イヤ人状態だ。
「……わきゃ?」
そして、俺たちに気づく大きなドワーフちゃんだ。
にっこり笑顔で、挨拶しないとね。
「初めまして、私は大志と申します。ちょっとお話がありまして、お伺いさせていただきました」
「そうだんごとが、あるさ~」
「おはなし、してもいいさ~?」
「はじめまして! はじめまして!」
「ごあいさつだよ! ごあいさつ!」
「こんちわ~」
みんなで畳み掛けるように、大きなドワーフちゃんにご挨拶する。
にっこり笑顔で、元気よく!
「……わきゃ?」
そんな俺たちを見て、あっけにとられる大きなドワーフちゃん。
訪問客である俺たちを見て、きょとん。
「……わきゃ? おきゃくさんさ~?」
「そうですね」
ぽかんとした顔の大きなドワーフちゃん、俺を見上げたり妖精さんたちを見たりで、目が点に。
しばらくそうして唖然としていた彼女だけど……。
「わ、わきゃ~……」
やがて思考が追いついてきたのか、自分の姿に目をやった。
わりとあられもない寝起き姿? である自分の恰好を見て――。
「ち、ちょっとまつさ~」
そのままそそくさと家の中に戻り、ぱたむと扉を閉めた。
……ドタバタと家の中から、音が聴こえてくるね。
どうしたんだろう?
「あの人、どうしちゃったの?」
「さすがにあのかっこうは、はずかしいさ~。ねまきすがたさ~」
「えらいひとは、みためもきをつかうさ~。いまごろ、おけしょうしているさ~」
……なるほど、そこら辺の配慮は無かった。というか、やっぱり寝間着姿だったんだ。
偉い人ドワーフちゃん、寝起きすっぴん姿を晒させてしまってごめんなさい……。
そうしてドタバタ音を聴きながら待つ事、二十分くらい。
ギギ~っと、扉が開いた。
「はあはあ……お、おまたせしたさ~」
そこには――先ほどとは見違える、ピシっとした姿に変貌した人がいた。
バッチリとお化粧をして、極彩色の羽根飾りをかぶり、さらに煌びやかなポンチョを纏っている。
あの凄かった寝癖も、今やサラサラストレートヘアだ。
ほほう、これはなかなか威厳がある。まさに偉い人って感じだ。
……お酒に釣られていたけど、まあそこは気にしない気にしない。
しかし、よくあの短時間でここまで準備できたな。
息を切らせているところを見ると、かなりお急ぎで準備してくれたようだけど。
「そこのおっきな……ひと? ちいさなひと? みんな、なにものさ~?」
バッチリ準備もして目が覚めたのか、俺と言う生粋のちたま人(当社比)に興味を持ったようだ。
あと、妖精さんたちにもちらちらと目をやっている。
この世界にはいない人種だからか、やや警戒気味だね。
ただ……思ったより警戒されていないね。普通に話しかけてはくれている。
これなら、ちゃんとした会議は可能かな?
それじゃあ、ちょっと会議を提案しよう。
――とその前に。
コンタクトに成功して、これから会議をする旨を無線で報告しておかないとね。
「こちら大志、接触成功。これより会議に入る。どうぞ」
『こちら高橋、了解した。健闘を祈る。どうぞ』
「こちら大志、結果は追って報告する。通信終了」
――さて、報告もしたところで。
それじゃあ、俺の正体も含めていろいろお話しと、会議をしよう。
この偉い人ドワーフちゃんが、俺たちのお願いを聞いてくれると助かるのだけど。