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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十七章 王の力
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第四話 捜索開始!


 救助基本計画が作成され、いよいよ実働開始となった。

 まずは最小の運用として、妖精さん捜索隊と海竜夫婦に乗ったリザードマン隊を動かすことにする。


「がんばるね! がんばるね!」

「おてつだいだよ! おてつだい!」

「おまかせ~!」


 最初に捜索活動をする妖精さんは、百名とした。

 いきなり大勢投入しても、指令所がパンクするからね。

 まずは様子見運用で、慎重に行く。


「おっし、こっちも準備できたぞ」

「いつでもいけます!」

「がうがう」

「が~う」


 海竜夫婦とリザードマン隊も、準備万端のようだ。

 それじゃあ、捜索を開始しよう。


 と、その前に。

 使えるかどうかは分からないけど、念のためにステキ道具を用意してある。

 これもお試しだけど、ひとまず運用してみよう。

 まずは妖精さんにお渡しだ。


「ねえ、だれでも良いから、これを抱えて行ってくれないかな?」

「これなに? これなに?」

「これはね、どんなふうに移動したかを記録する道具なんだ」


 用意したのは、五センチ程度の、黒い正方形の道具。

 これは、自作の慣性航法装置だ。

 MEMS(メムス)技術により驚異の小型化と高精度を両立した、ジャイロセンサーおよび加速度計を組み込んである。


「あとね、何か見つけたら……このでっぱりを一回押してね。そうすると、ここが赤く光るから」

「わかったよ! わかったよ!」


 独自機能として、タグを打って位置を記録できるようにしてある。

 これをたどって、目標の近くまで来た事をLEDの点滅間隔で知ることが可能。

 まあつまり、慣性航法装置により移動経路や目標地点を記録する試みだ。

 ジャイロだから長時間使うと誤差がでるけど、無いよりマシと思う。


「大志さん、それって……手作りっぽいですけど」

「そうだよ。自作したんだ。小型でシンプルなやつ、市販されてなかったからね」


 ユキちゃんがお手製慣性航法装置を覗きこんできたけど、興味深々みたいだ。

 急いで作った奴だから、見た感じはちょっと雑ではある。


「こういうのって、簡単に作れる物ですか?」

「ワンボードマイコンがあるから、わりと簡単かな。ソフトは自作だけど」


 というか、本当に簡単に作ってある。

 防水は内部でダクトテープ巻いてあるとか、結構雑だ。

 ソフトも必要最低限の機能しか、実装していない。

 CPUの処理能力が、ギリギリだからね。


「さすが工学部出だな。ちなみに精度は?」


 話を聞いていた高橋さんも、興味が出たようだ。

 精度の方は念のため検証してあるから、そこん所説明しよう。


「センサー自体は高精度の奴だから、アラン分散見ても問題は無かったよ」

「すまん、専門的な話は分からん」


 おっと高橋さんギブアップ。まあ、そこんとこは俺が確認してあるから、問題ないだろう。

 ただ、まだ出来ていない物がいくつかある。


「実は……このログを表示するソフトウェアは、まだ作っていない」

「ん? 市販のソフトじゃダメなのか?」

「ここ、ちたまじゃないからね。重力は補正したけど、自転と公転速度の違いは定数を特定できていないんだ」

「あ~そうなのか」


 このしっぽドワーフちゃん衛星は、ちたまと色々な定数が異なっている。

 特に自転と公転速度が違うのが、ジャイロ運用で大きな問題だ。

 超高精度ジャイロはこの動きも拾ってしまうので、定数を特定して除去しないといけない。

 ちょっとそこまで、時間が取れなかった。


「まあ、そこは急いで開発するよ」

「頑張ってくれ。俺はその辺さっぱりだからな」

「それと、この衛星は地磁気があるからコンパスは使えるよ」

「お、それは助かる」


 まあ、気休めだけどないよりずっとマシだよね。

 それに、この衛星だけで運用するなら、これらの定数違いはある程度無視できる。

 というわけで、機材を用意して準備完了だ。


 いよいよ、救助活動を始める時が来た。

 それでは――しっぽドワーフちゃん世界へ、乗り込もう!



 ◇



 ここは、しっぽドワーフちゃん衛星。

 二つのお月様が周囲を照らす、現在は夜の世界である。


「いってくるね! いってくるね!」

「おさがし! おさがし!」

「みつけましょ~」


 打ち合わせの後、救助活動を開始。さっそく妖精さんたちが飛び立っていく。

 ひとまずは、この近辺を一周してほしいというお願いをしてある。


「さて、あとは妖精さんたちを信頼してお任せするけど、こっちはこっちでキャンプを作ろう」

「おう、ささっと済ませちまおうぜ」


 いちおう洞窟周辺を拠点とするので、指令所やら休憩所やら物資保管場所やらを設営する。

 あと俺たちは妖精さんと違って自発光できないので、照明や発電機も必要だ。

 これらの設備や装置を準備して、基地を即席でこさえる。


 ちなみに洞窟のあるあたりは、小高い丘のような場所。

 ここなら見晴らしも良くて、妖精さんたちの飛行も観測できる。

 いい感じのロケーションだね。なにより、川が増水しても水没し無さそうなところが、特に良い。


「ハナも、おてつだいするです~」

「わきゃ~、うちもさ~」

「大志さん、指示をお願いします」


 今回はハナちゃんとリーダー格のお母さんドワーフ、そしてユキちゃんもお手伝いだ。

 このうち、お母さんドワーフは救助メンバーにも加わる。

 現地を知る、貴重な案内人の役割だね。


「出来れば、電波塔も建てたいところだけど」

「ちっと様子見だな。風が強いとも聞くし、なにより電気が足りねえ」

「ひとまず、ネコちゃん便に頑張ってもらうしかないか」

「そうだな」

「ミュン」


 まあ、ネコちゃん便があるおかげで、連絡に関する不安はそれほどない。

 これは、非常に助かるね。


 こんな感じで、作業途中にいろいろ必要な設備が思いついたけど、電気関連については……やや頭の痛い所だ。

 発電機も燃料が必要で、常に使えるわけでもない。

 しばらく夜だから、ソーラーパネルも運用不可能。

 実は一つ、確実な方法もあるのだけど……納期が問題だった。


「マイクロ水力発電は、納期が年単位なんだよね……」

「受注生産だから、仕方ねえさ」

「ひとまず、フェアリンにソーラーパネルを設置して、そこで充電する運用も考えよう。バッテリーを運ぶ面倒はあるけど、確実だ」

「それが一番かもな」

「でんきのおやつです~」


 とまあ、設置しながら今後の運営をどうするか話し合う。

 色々と制限は多いけど、どの中でどうやるかを考えるのも、仕事の一つだからね。

 ハナちゃんは電気イコールおやつ、という発想みたいだけど。

 でも、確かに今のフェアリンなら無限におやつが食べられるな……。


 あとで、エルフ電気おやつ用のパネルも、設置してあげると喜ぶかもしれない。

 UHFアンテナを構えてもぐもぐするより、別腹は膨れるよね。

 余裕があったら、一緒にやっておこう。


 そうして雑談や会議をしている間にも、遠くの空で煌めく存在が見える。

 あの光は――捜索隊妖精さんの輝きだ。


「あっという間に、結構遠くまで行ってんな」

「すでに五キロメートル以上は、離れている感じはするね」

「とんでもねえ飛行能力だな……」

「きれいです~」


 俺たちが作業している間にも、妖精さんたちはどんどん捜索範囲を広げている。

 結構速い速度で、綺麗に高度を保ちながら飛行しているのがここからでも分かる。

 みんな、なかなかの実力じゃあないか。


「これ、行けるかもしれないね」

「ああ、もしかしたら、もしかするかもな。正直ここまでとは、思ってなかったぜ」


 妖精さんたちの飛び方は、適度な密度を保ったまま……美しい編隊飛行を見せている。

 ブルーインパルスの展示飛行みたいに、きっちりとしている感じだ。

 意外や意外、なんというか……統率がとれている。


「あや~、なんだか、すごいです~」

「きれいに、とんでるさ~」

「元気に飛んでいるみたいで、まだまだ大丈夫ですね」


 ほかのみんなも、遠くに位置する、整った編隊飛行をする光を見つめている。

 妖精さんたちの実力が垣間見られた、瞬間だった。



 ◇



 捜索を始めて、二時間くらい経った頃。

 たくさんの光が、ある場所でとどまったのが見えた。

 そのまま、くるくる、くるくると……同じ場所で旋回を始める。


「……大志、あれは」

「もうちょっと様子を見てみよう」


 やがて、旋回していた光は――。


「わきゃ? こっちにもどってくるさ~?」

「それっぽいです~」


 一直線に、こちらへと向かって飛んで来た。

 これは……まさか……。


 ――見つけたか!


「高橋さん、それと救助隊のみんな、念のため準備しよう!」

「わかったさ~!」

「大志、こっちは任せろ。うっしお前ら、準備始めるぞ!」

「「「おう!」」」


 あの動きは、かなりそれっぽい。

 おそらくだけど、何かを見つけたのではと思う。

 救助隊のみんなに準備の指示を出し、備える。

 リザードマン隊は高橋さんが統率してくれるので、ぶっちゃけ楽ちんだ。


 そうして体制を整えながら、妖精さんたちの到着を待つこと……五分。

 たくさんの光が、空を駆け抜けこちらにやってきた。


「みつけたよ! みつけたよ!」

「おうちたくさんだったよ! たくさんだったよ!」

「ひとがいたよ! いたよ!」


 来た! 要救助者を――発見したんだ!

 仮説は証明された。やっぱり、取り残された人たちは……存在する。

 これは、早い所実際に確認しないといけないね。


「それじゃあ、案内してくれるかな」

「わかったよ! わかったよ!」

「あと、渡していた箱にあるこれ、押してくれた?」

「おしたよ! おしたよ! あかくひかったよ!」


 よし、タグは打ってくれたようだね。

 とりあえず、救助と並行してこの慣性航法による誘導が使えるかも実験しよう。

 自転と公転の影響で多少のずれは出るはずだけど、お試しだからね。

 失敗しても、今は問題ない。


「それじゃあ救助隊のみんな、行こうか!」

「「「おー!」」」


 高橋さんを含めたリザードマン五人とお母さんドワーフ、あとは俺。

 このメンバーで、イカダに乗り込む。

 おとうさん海竜に引っ張ってもらって、現地まで移動だ。

 妖精さんの誘導に従って、いっちょ集落へ向かおう!


「案内お願いね」

「まかせて! まかせて!」

「これは、お礼のお菓子だよ」

「ありがと! ありがと!」


 妖精さん全員で案内する必要はないので、三人の妖精さんに案内役をお願いする。

 このナビ妖精さんたちには申し訳ないけど、俺たちを誘導しながらおやつタイムにしてもらう。

 残りの妖精さんは、休憩場でのんびりお茶会だ。


「ハナちゃんとユキちゃん、この子たちをお願いね」

「まかせるです~。みんな、いってらっしゃいです~」

「みなさん、お気を付けて」


 後方の守りをハナちゃんとユキちゃんにお願いして、俺たちは行動開始としよう。

 さあ、向かおうじゃないか。


「それでは、出発しよう!」

「こっちだよ! こっち!」

「がうが~う」


 ひらひらと飛ぶ妖精さんたちを、おとうさん海竜が追いかけはじめる。

 けっこう速度が出ているので、ちょびっとスリリング。

 落水しないよう気を付けよう。


「大志、ジャイロはどうだ?」

「今の所、動いてはいる」


 移動しながら、ジャイロの動作も確認だ。

 タグを打った地点との距離が近くなればなるほど、点滅間隔が狭まる。

 これで、目標地点に近づいたかが分かるはずだ。

 ちなみに音を出す機能は……ソフトに組み込むのを忘れたので無い。

 けっこう不便なので、あとでソフトを組み直そう。たぶんバグだらけだろうし。

 あと問題は、誤差だけど……。


「誤差は出るだろうけど、この衛星の自転と公転は遅いはずだから、とんでもなく大きなズレは出ないと思う」

「ソフトが出来上がりゃ、かなり使えるようになるかもな」

「救助隊が単独で、現場に向かえるからね」


 いちおうこれは、大規模に救助活動を展開するための布石だ。

 うまく行けば、相当使えるはず。

 そうなったら、捜索用と追跡用のハードを作ろうかな。


 ……と考えているうちに、点滅間隔がだんだん短くなってきた。

 これは、近づいているって事なんだろうか。


「こっち! こっち!」

「がう」


 空を飛べる妖精さんとは違って、こっちは分岐が沢山ある水路を進まなければいけない。

 もうすでに、俺は方向が分からなくなっている。

 しかしおとうさん海竜はすいすい進んでいるから、把握は出来ているんだろうな。

 伊達に二年くらい、この地を泳ぎ回ったわけじゃないってことか。


「もうちょっとだよ! もうちょっと!」

「が~う~」


 そうして、妖精さんナビゲーションにより、水路を移動していく。

 だいたい三十分くらいした頃だろうか、ジャイロのランプが、ほぼ点灯しっぱなしになった。

 この辺、なのかな?


「こっちだよ! こっち!」

「もうすぐ~」


 ……まだちょっと、移動するようだ。やっぱり、それなりに誤差は出ているね。

 ただ、良い線は言っているかも。

 機材とソフトを改良していけば、使えるようにできる可能性はあるね。

 いちおう高橋さんに、報告しておこう。


「装置によるとこの辺だけど、やっぱり誤差は出ている感じ」

「なら、ここから現地までどれくらいずれているか、だな」

「そうだね。あとで検証しよう」


 誤差の原因はいろいろあるから、ひとつひとつ解決していこう。

 やがては、これが大きな力になるようコツコツと。


 そうして検証を進めながら、また五分ほど移動する。

 すると、妖精さんたちが旋回を始めた。


「ここだよ! ここだよ!」

「おうちたくさん! おうち!」

「うとうとしてる~」


 妖精さんたちの光に照らされたそこには――ツリーハウスがあった。十数軒はあるだろうか。

 ようやく、到着だ!


 それでは、救助活動――始めよう。

 まずは、冬眠しっぽドワーフちゃんを起こさないとね!



 ◇



 ……起きないでござる。


「……」

「…………」


 木に登って、たくさんある家の内、一軒のちいさなツリーハウスを覗き込んでいる。

 そこには四人家族がいたのだけど、うとうとしたまま起きてこない。

 声をかけても、ライトで照らしても……ぼんやりした状態だ。

 布にくるまって、四人で仲良くまどろんでいる。


「……ぜんぜん、目を覚まさないね」

「とうみんのまっさいちゅうだから、なかなかおきないさ~」

「そうなんだ」

「そうさ~」


 完全に寝てはいないけど、意識も代謝も抑えられているんだろうな。

 ちょっとやそっとじゃ、覚醒しないっぽい。


「……このまま連れてっちまうのは?」

「それは救助ではなく誘拐だから、ダメじゃない?」

「つってもなあ……」


 高橋さんから大胆な案が出たけど、個人的にはアウトな感じ。

 それほんとに誘拐だからね。俺たちは、救助しにきたわけで。

 でもまあ、高橋さんの気持ちもわからなくはない。

 このまま運んじゃえば、わりと楽ではあるのだ。

 でもねえ、誘拐はちょっとねえ……。


 何か、良い手はないだろうか?

 お母さんドワーフに、相談してみよう。


「これ、どうしたら良いかな?」

「わきゃ~……、なにか、おいしいにおいをさせたら、おきるかもさ~」

「美味しい匂い? たとえば?」

「おなかがへってくるころだから、おみそのにおいとかしてきたら、とびおきるかもさ~」

「なるほど」


 ようは、食べ物で釣ろうという作戦だね。

 ……面白そう。

 いっちょ、やってみようか。


「それなら試しに、簡単に出来て美味しい、みそラーメンでも作ってみるかな」

「わきゃ? みそらーめんって、なにさ~?」

「味噌で味を調えた、人気のある汁物料理だね」

「わきゃ~、ちょっとたのしみさ~」


 しっぽドワーフちゃんたちは、味噌がご馳走な種族だ。

 この種族の為に、サッポロで一番的な、例のインスタントみそラーメンを用意してある。

 ちたま人にも人気のやつだから、味は保障付だね。

 では早速、作ってみようじゃないか。


「火事が怖いから、水辺でお料理しよう」

「それなら、このへんがいいさ~」


 わきゃわきゃと良さげな場所を教えてくれながら、しっぽを振っているお母さんドワーフだ。

 明らかに、ラーメンを楽しみにしているご様子。

 でも、目的は冬眠ドワーフちゃんを起こすためだからね。

 試食会じゃないからね。


 ……まあ、その辺は気にしないことにして。


 カセットコンロとナベを取り出し、水を入れてお湯を沸かす。

 念のため水はちたまから持って来てあるので、色々気にしないで沸かせるね。

 ただ、川の水質もよさそうではあるので、水質検査用にサンプルでも持って帰ろう。

 問題なければ、持っていく水の量はそれなりに減らせる。


「わきゃ~、これからどうするさ~?」


 おっと、色々考えていたら、お湯が沸いたようだ。

 お母さんドワーフ、待ちきれない様子で俺を見上げている。

 でもね、これは試食会じゃないからね。冬眠目覚ましラーメンだからね。


 ……さて、ラーメンを作ろう。

 封を開けて、麺を取り出して――お湯に投入!

 ぐつぐつと煮えて、ほぐれて行く。


「わきゃ~、わきゃ~」


 その様子を見て、うずうずとするお母さんドワーフ。

 赤いしっぽも、ぱたぱた振られている。

 ……もうちょっと待っててね。


 そのまま頃合いを見て、粉末スープを投入!

 味噌ラーメンのかぐわしい香りが、一気に広がる。

 ……とっても美味しそうだ。

 最近これ食べてないから、なんだか腹減って来ちゃったよ。


「わきゃ~! わきゃ~!」


 そしてお母さんドワーフは、大はしゃぎだ。

 目をキラッキラに輝かせて、鍋の中の味噌ラーメンを見つめている。

 しっぽもぱったぱたに振っておりますな。

 ……そうだね、美味しそうだよね。


 まあ、せっかくだからお母さんドワーフに試食してもらおう。

 もう試食会で、良いんじゃないかな。良いと思う。

 というか、これほど楽しみそうな顔を見せられては、食べてもらわないわけにはいかないよね。


 ――では! 食べてもらいましょう!


「はい出来ました。今盛り付けるから、少々お待ちを」

「わきゃ~! わきゃ~!」


 味噌ラーメンを盛り付けすると、お母さんドワーフは大はしゃぎになった。

 わきゃきゃっと元気いっぱい、しっぽを振っている。


「はいどうぞ。この食器で、こうやって絡めて食べてね」

「わわわきゃ~!」


 耐熱容器にラーメンをよそってあげて、フォークも渡すと、さらに大はしゃぎ。

 もうなんか、わきゃわきゃとしか言わなくなったお母さんだ。

 存分に、味噌ラーメンをご堪能下さいだね。


「いただきますさ~!」


 そうして器用に麺を絡め、ラーメンをぱくり。

 その瞬間、赤しっぽが――ピンと立った。


「わきゃ~! おいしいさ~! ごちそうさ~!」


 そしてぴょんぴょんとする、お母さん。

 かなりお気に召したようで、はふはふとラーメンを食べ続ける。

 喜んでもらえて、何よりだね。


「わきゃ~! わきゃ~!」


 そうして大喜びでラーメンを食べるお母さんを、ほのぼのと眺めていると……。

 ――ふと、何かの気配を感じた。


「きゅるるる」

「ぐきゅるる」

「きゅるきゅるきゅる」

「きゅる」


 と同時に、どこかで聞いたような音も聞こえた。

 音の方向には、一体――。


「おい大志、成功だぜ」


 高橋さんが、俺の後ろを指さして言う。

 すぐさま振り向くと、そこには――。


「わきゃ~……」

「いいにおいさ~」

「おなか、へったさ~」

「……」


 まだぼんやりした感じだけど、四人家族のしっぽドワーフちゃんが……いた。

 さっき覗いた家の、あの家族だ。


 ――フィーシュ!


 大成功だ! お母さんドワーフの作戦、上手くいった!


「わきゃ~、ごちそうのにおいがするさ~」

「どこからさ~?」

「こっちからさ~」

「わきゃ、わきゃ~」


 ……あれ? ほかの家からも、続々と出てきたぞ?


「わきゃ~? たべもの、どこさ~?」

「こっちから、においがするさ~?」

「あっちに、なにかいるさ~?」


 あ、あれ? 次から次に、起きて来たけど……。

 木からスルスルと降りてきて、てこてことこっちに歩いてくる。凄い大勢、やってきた。

 ……恐らく集落の全員が、起きてしまったのだ。


 ――これ、効き過ぎたんじゃない?


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