第四話 捜索開始!
救助基本計画が作成され、いよいよ実働開始となった。
まずは最小の運用として、妖精さん捜索隊と海竜夫婦に乗ったリザードマン隊を動かすことにする。
「がんばるね! がんばるね!」
「おてつだいだよ! おてつだい!」
「おまかせ~!」
最初に捜索活動をする妖精さんは、百名とした。
いきなり大勢投入しても、指令所がパンクするからね。
まずは様子見運用で、慎重に行く。
「おっし、こっちも準備できたぞ」
「いつでもいけます!」
「がうがう」
「が~う」
海竜夫婦とリザードマン隊も、準備万端のようだ。
それじゃあ、捜索を開始しよう。
と、その前に。
使えるかどうかは分からないけど、念のためにステキ道具を用意してある。
これもお試しだけど、ひとまず運用してみよう。
まずは妖精さんにお渡しだ。
「ねえ、だれでも良いから、これを抱えて行ってくれないかな?」
「これなに? これなに?」
「これはね、どんなふうに移動したかを記録する道具なんだ」
用意したのは、五センチ程度の、黒い正方形の道具。
これは、自作の慣性航法装置だ。
MEMS技術により驚異の小型化と高精度を両立した、ジャイロセンサーおよび加速度計を組み込んである。
「あとね、何か見つけたら……このでっぱりを一回押してね。そうすると、ここが赤く光るから」
「わかったよ! わかったよ!」
独自機能として、タグを打って位置を記録できるようにしてある。
これをたどって、目標の近くまで来た事をLEDの点滅間隔で知ることが可能。
まあつまり、慣性航法装置により移動経路や目標地点を記録する試みだ。
ジャイロだから長時間使うと誤差がでるけど、無いよりマシと思う。
「大志さん、それって……手作りっぽいですけど」
「そうだよ。自作したんだ。小型でシンプルなやつ、市販されてなかったからね」
ユキちゃんがお手製慣性航法装置を覗きこんできたけど、興味深々みたいだ。
急いで作った奴だから、見た感じはちょっと雑ではある。
「こういうのって、簡単に作れる物ですか?」
「ワンボードマイコンがあるから、わりと簡単かな。ソフトは自作だけど」
というか、本当に簡単に作ってある。
防水は内部でダクトテープ巻いてあるとか、結構雑だ。
ソフトも必要最低限の機能しか、実装していない。
CPUの処理能力が、ギリギリだからね。
「さすが工学部出だな。ちなみに精度は?」
話を聞いていた高橋さんも、興味が出たようだ。
精度の方は念のため検証してあるから、そこん所説明しよう。
「センサー自体は高精度の奴だから、アラン分散見ても問題は無かったよ」
「すまん、専門的な話は分からん」
おっと高橋さんギブアップ。まあ、そこんとこは俺が確認してあるから、問題ないだろう。
ただ、まだ出来ていない物がいくつかある。
「実は……このログを表示するソフトウェアは、まだ作っていない」
「ん? 市販のソフトじゃダメなのか?」
「ここ、ちたまじゃないからね。重力は補正したけど、自転と公転速度の違いは定数を特定できていないんだ」
「あ~そうなのか」
このしっぽドワーフちゃん衛星は、ちたまと色々な定数が異なっている。
特に自転と公転速度が違うのが、ジャイロ運用で大きな問題だ。
超高精度ジャイロはこの動きも拾ってしまうので、定数を特定して除去しないといけない。
ちょっとそこまで、時間が取れなかった。
「まあ、そこは急いで開発するよ」
「頑張ってくれ。俺はその辺さっぱりだからな」
「それと、この衛星は地磁気があるからコンパスは使えるよ」
「お、それは助かる」
まあ、気休めだけどないよりずっとマシだよね。
それに、この衛星だけで運用するなら、これらの定数違いはある程度無視できる。
というわけで、機材を用意して準備完了だ。
いよいよ、救助活動を始める時が来た。
それでは――しっぽドワーフちゃん世界へ、乗り込もう!
◇
ここは、しっぽドワーフちゃん衛星。
二つのお月様が周囲を照らす、現在は夜の世界である。
「いってくるね! いってくるね!」
「おさがし! おさがし!」
「みつけましょ~」
打ち合わせの後、救助活動を開始。さっそく妖精さんたちが飛び立っていく。
ひとまずは、この近辺を一周してほしいというお願いをしてある。
「さて、あとは妖精さんたちを信頼してお任せするけど、こっちはこっちでキャンプを作ろう」
「おう、ささっと済ませちまおうぜ」
いちおう洞窟周辺を拠点とするので、指令所やら休憩所やら物資保管場所やらを設営する。
あと俺たちは妖精さんと違って自発光できないので、照明や発電機も必要だ。
これらの設備や装置を準備して、基地を即席でこさえる。
ちなみに洞窟のあるあたりは、小高い丘のような場所。
ここなら見晴らしも良くて、妖精さんたちの飛行も観測できる。
いい感じのロケーションだね。なにより、川が増水しても水没し無さそうなところが、特に良い。
「ハナも、おてつだいするです~」
「わきゃ~、うちもさ~」
「大志さん、指示をお願いします」
今回はハナちゃんとリーダー格のお母さんドワーフ、そしてユキちゃんもお手伝いだ。
このうち、お母さんドワーフは救助メンバーにも加わる。
現地を知る、貴重な案内人の役割だね。
「出来れば、電波塔も建てたいところだけど」
「ちっと様子見だな。風が強いとも聞くし、なにより電気が足りねえ」
「ひとまず、ネコちゃん便に頑張ってもらうしかないか」
「そうだな」
「ミュン」
まあ、ネコちゃん便があるおかげで、連絡に関する不安はそれほどない。
これは、非常に助かるね。
こんな感じで、作業途中にいろいろ必要な設備が思いついたけど、電気関連については……やや頭の痛い所だ。
発電機も燃料が必要で、常に使えるわけでもない。
しばらく夜だから、ソーラーパネルも運用不可能。
実は一つ、確実な方法もあるのだけど……納期が問題だった。
「マイクロ水力発電は、納期が年単位なんだよね……」
「受注生産だから、仕方ねえさ」
「ひとまず、フェアリンにソーラーパネルを設置して、そこで充電する運用も考えよう。バッテリーを運ぶ面倒はあるけど、確実だ」
「それが一番かもな」
「でんきのおやつです~」
とまあ、設置しながら今後の運営をどうするか話し合う。
色々と制限は多いけど、どの中でどうやるかを考えるのも、仕事の一つだからね。
ハナちゃんは電気イコールおやつ、という発想みたいだけど。
でも、確かに今のフェアリンなら無限におやつが食べられるな……。
あとで、エルフ電気おやつ用のパネルも、設置してあげると喜ぶかもしれない。
UHFアンテナを構えてもぐもぐするより、別腹は膨れるよね。
余裕があったら、一緒にやっておこう。
そうして雑談や会議をしている間にも、遠くの空で煌めく存在が見える。
あの光は――捜索隊妖精さんの輝きだ。
「あっという間に、結構遠くまで行ってんな」
「すでに五キロメートル以上は、離れている感じはするね」
「とんでもねえ飛行能力だな……」
「きれいです~」
俺たちが作業している間にも、妖精さんたちはどんどん捜索範囲を広げている。
結構速い速度で、綺麗に高度を保ちながら飛行しているのがここからでも分かる。
みんな、なかなかの実力じゃあないか。
「これ、行けるかもしれないね」
「ああ、もしかしたら、もしかするかもな。正直ここまでとは、思ってなかったぜ」
妖精さんたちの飛び方は、適度な密度を保ったまま……美しい編隊飛行を見せている。
ブルーインパルスの展示飛行みたいに、きっちりとしている感じだ。
意外や意外、なんというか……統率がとれている。
「あや~、なんだか、すごいです~」
「きれいに、とんでるさ~」
「元気に飛んでいるみたいで、まだまだ大丈夫ですね」
ほかのみんなも、遠くに位置する、整った編隊飛行をする光を見つめている。
妖精さんたちの実力が垣間見られた、瞬間だった。
◇
捜索を始めて、二時間くらい経った頃。
たくさんの光が、ある場所でとどまったのが見えた。
そのまま、くるくる、くるくると……同じ場所で旋回を始める。
「……大志、あれは」
「もうちょっと様子を見てみよう」
やがて、旋回していた光は――。
「わきゃ? こっちにもどってくるさ~?」
「それっぽいです~」
一直線に、こちらへと向かって飛んで来た。
これは……まさか……。
――見つけたか!
「高橋さん、それと救助隊のみんな、念のため準備しよう!」
「わかったさ~!」
「大志、こっちは任せろ。うっしお前ら、準備始めるぞ!」
「「「おう!」」」
あの動きは、かなりそれっぽい。
おそらくだけど、何かを見つけたのではと思う。
救助隊のみんなに準備の指示を出し、備える。
リザードマン隊は高橋さんが統率してくれるので、ぶっちゃけ楽ちんだ。
そうして体制を整えながら、妖精さんたちの到着を待つこと……五分。
たくさんの光が、空を駆け抜けこちらにやってきた。
「みつけたよ! みつけたよ!」
「おうちたくさんだったよ! たくさんだったよ!」
「ひとがいたよ! いたよ!」
来た! 要救助者を――発見したんだ!
仮説は証明された。やっぱり、取り残された人たちは……存在する。
これは、早い所実際に確認しないといけないね。
「それじゃあ、案内してくれるかな」
「わかったよ! わかったよ!」
「あと、渡していた箱にあるこれ、押してくれた?」
「おしたよ! おしたよ! あかくひかったよ!」
よし、タグは打ってくれたようだね。
とりあえず、救助と並行してこの慣性航法による誘導が使えるかも実験しよう。
自転と公転の影響で多少のずれは出るはずだけど、お試しだからね。
失敗しても、今は問題ない。
「それじゃあ救助隊のみんな、行こうか!」
「「「おー!」」」
高橋さんを含めたリザードマン五人とお母さんドワーフ、あとは俺。
このメンバーで、イカダに乗り込む。
おとうさん海竜に引っ張ってもらって、現地まで移動だ。
妖精さんの誘導に従って、いっちょ集落へ向かおう!
「案内お願いね」
「まかせて! まかせて!」
「これは、お礼のお菓子だよ」
「ありがと! ありがと!」
妖精さん全員で案内する必要はないので、三人の妖精さんに案内役をお願いする。
このナビ妖精さんたちには申し訳ないけど、俺たちを誘導しながらおやつタイムにしてもらう。
残りの妖精さんは、休憩場でのんびりお茶会だ。
「ハナちゃんとユキちゃん、この子たちをお願いね」
「まかせるです~。みんな、いってらっしゃいです~」
「みなさん、お気を付けて」
後方の守りをハナちゃんとユキちゃんにお願いして、俺たちは行動開始としよう。
さあ、向かおうじゃないか。
「それでは、出発しよう!」
「こっちだよ! こっち!」
「がうが~う」
ひらひらと飛ぶ妖精さんたちを、おとうさん海竜が追いかけはじめる。
けっこう速度が出ているので、ちょびっとスリリング。
落水しないよう気を付けよう。
「大志、ジャイロはどうだ?」
「今の所、動いてはいる」
移動しながら、ジャイロの動作も確認だ。
タグを打った地点との距離が近くなればなるほど、点滅間隔が狭まる。
これで、目標地点に近づいたかが分かるはずだ。
ちなみに音を出す機能は……ソフトに組み込むのを忘れたので無い。
けっこう不便なので、あとでソフトを組み直そう。たぶんバグだらけだろうし。
あと問題は、誤差だけど……。
「誤差は出るだろうけど、この衛星の自転と公転は遅いはずだから、とんでもなく大きなズレは出ないと思う」
「ソフトが出来上がりゃ、かなり使えるようになるかもな」
「救助隊が単独で、現場に向かえるからね」
いちおうこれは、大規模に救助活動を展開するための布石だ。
うまく行けば、相当使えるはず。
そうなったら、捜索用と追跡用のハードを作ろうかな。
……と考えているうちに、点滅間隔がだんだん短くなってきた。
これは、近づいているって事なんだろうか。
「こっち! こっち!」
「がう」
空を飛べる妖精さんとは違って、こっちは分岐が沢山ある水路を進まなければいけない。
もうすでに、俺は方向が分からなくなっている。
しかしおとうさん海竜はすいすい進んでいるから、把握は出来ているんだろうな。
伊達に二年くらい、この地を泳ぎ回ったわけじゃないってことか。
「もうちょっとだよ! もうちょっと!」
「が~う~」
そうして、妖精さんナビゲーションにより、水路を移動していく。
だいたい三十分くらいした頃だろうか、ジャイロのランプが、ほぼ点灯しっぱなしになった。
この辺、なのかな?
「こっちだよ! こっち!」
「もうすぐ~」
……まだちょっと、移動するようだ。やっぱり、それなりに誤差は出ているね。
ただ、良い線は言っているかも。
機材とソフトを改良していけば、使えるようにできる可能性はあるね。
いちおう高橋さんに、報告しておこう。
「装置によるとこの辺だけど、やっぱり誤差は出ている感じ」
「なら、ここから現地までどれくらいずれているか、だな」
「そうだね。あとで検証しよう」
誤差の原因はいろいろあるから、ひとつひとつ解決していこう。
やがては、これが大きな力になるようコツコツと。
そうして検証を進めながら、また五分ほど移動する。
すると、妖精さんたちが旋回を始めた。
「ここだよ! ここだよ!」
「おうちたくさん! おうち!」
「うとうとしてる~」
妖精さんたちの光に照らされたそこには――ツリーハウスがあった。十数軒はあるだろうか。
ようやく、到着だ!
それでは、救助活動――始めよう。
まずは、冬眠しっぽドワーフちゃんを起こさないとね!
◇
……起きないでござる。
「……」
「…………」
木に登って、たくさんある家の内、一軒のちいさなツリーハウスを覗き込んでいる。
そこには四人家族がいたのだけど、うとうとしたまま起きてこない。
声をかけても、ライトで照らしても……ぼんやりした状態だ。
布にくるまって、四人で仲良くまどろんでいる。
「……ぜんぜん、目を覚まさないね」
「とうみんのまっさいちゅうだから、なかなかおきないさ~」
「そうなんだ」
「そうさ~」
完全に寝てはいないけど、意識も代謝も抑えられているんだろうな。
ちょっとやそっとじゃ、覚醒しないっぽい。
「……このまま連れてっちまうのは?」
「それは救助ではなく誘拐だから、ダメじゃない?」
「つってもなあ……」
高橋さんから大胆な案が出たけど、個人的にはアウトな感じ。
それほんとに誘拐だからね。俺たちは、救助しにきたわけで。
でもまあ、高橋さんの気持ちもわからなくはない。
このまま運んじゃえば、わりと楽ではあるのだ。
でもねえ、誘拐はちょっとねえ……。
何か、良い手はないだろうか?
お母さんドワーフに、相談してみよう。
「これ、どうしたら良いかな?」
「わきゃ~……、なにか、おいしいにおいをさせたら、おきるかもさ~」
「美味しい匂い? たとえば?」
「おなかがへってくるころだから、おみそのにおいとかしてきたら、とびおきるかもさ~」
「なるほど」
ようは、食べ物で釣ろうという作戦だね。
……面白そう。
いっちょ、やってみようか。
「それなら試しに、簡単に出来て美味しい、みそラーメンでも作ってみるかな」
「わきゃ? みそらーめんって、なにさ~?」
「味噌で味を調えた、人気のある汁物料理だね」
「わきゃ~、ちょっとたのしみさ~」
しっぽドワーフちゃんたちは、味噌がご馳走な種族だ。
この種族の為に、サッポロで一番的な、例のインスタントみそラーメンを用意してある。
ちたま人にも人気のやつだから、味は保障付だね。
では早速、作ってみようじゃないか。
「火事が怖いから、水辺でお料理しよう」
「それなら、このへんがいいさ~」
わきゃわきゃと良さげな場所を教えてくれながら、しっぽを振っているお母さんドワーフだ。
明らかに、ラーメンを楽しみにしているご様子。
でも、目的は冬眠ドワーフちゃんを起こすためだからね。
試食会じゃないからね。
……まあ、その辺は気にしないことにして。
カセットコンロとナベを取り出し、水を入れてお湯を沸かす。
念のため水はちたまから持って来てあるので、色々気にしないで沸かせるね。
ただ、川の水質もよさそうではあるので、水質検査用にサンプルでも持って帰ろう。
問題なければ、持っていく水の量はそれなりに減らせる。
「わきゃ~、これからどうするさ~?」
おっと、色々考えていたら、お湯が沸いたようだ。
お母さんドワーフ、待ちきれない様子で俺を見上げている。
でもね、これは試食会じゃないからね。冬眠目覚ましラーメンだからね。
……さて、ラーメンを作ろう。
封を開けて、麺を取り出して――お湯に投入!
ぐつぐつと煮えて、ほぐれて行く。
「わきゃ~、わきゃ~」
その様子を見て、うずうずとするお母さんドワーフ。
赤いしっぽも、ぱたぱた振られている。
……もうちょっと待っててね。
そのまま頃合いを見て、粉末スープを投入!
味噌ラーメンのかぐわしい香りが、一気に広がる。
……とっても美味しそうだ。
最近これ食べてないから、なんだか腹減って来ちゃったよ。
「わきゃ~! わきゃ~!」
そしてお母さんドワーフは、大はしゃぎだ。
目をキラッキラに輝かせて、鍋の中の味噌ラーメンを見つめている。
しっぽもぱったぱたに振っておりますな。
……そうだね、美味しそうだよね。
まあ、せっかくだからお母さんドワーフに試食してもらおう。
もう試食会で、良いんじゃないかな。良いと思う。
というか、これほど楽しみそうな顔を見せられては、食べてもらわないわけにはいかないよね。
――では! 食べてもらいましょう!
「はい出来ました。今盛り付けるから、少々お待ちを」
「わきゃ~! わきゃ~!」
味噌ラーメンを盛り付けすると、お母さんドワーフは大はしゃぎになった。
わきゃきゃっと元気いっぱい、しっぽを振っている。
「はいどうぞ。この食器で、こうやって絡めて食べてね」
「わわわきゃ~!」
耐熱容器にラーメンをよそってあげて、フォークも渡すと、さらに大はしゃぎ。
もうなんか、わきゃわきゃとしか言わなくなったお母さんだ。
存分に、味噌ラーメンをご堪能下さいだね。
「いただきますさ~!」
そうして器用に麺を絡め、ラーメンをぱくり。
その瞬間、赤しっぽが――ピンと立った。
「わきゃ~! おいしいさ~! ごちそうさ~!」
そしてぴょんぴょんとする、お母さん。
かなりお気に召したようで、はふはふとラーメンを食べ続ける。
喜んでもらえて、何よりだね。
「わきゃ~! わきゃ~!」
そうして大喜びでラーメンを食べるお母さんを、ほのぼのと眺めていると……。
――ふと、何かの気配を感じた。
「きゅるるる」
「ぐきゅるる」
「きゅるきゅるきゅる」
「きゅる」
と同時に、どこかで聞いたような音も聞こえた。
音の方向には、一体――。
「おい大志、成功だぜ」
高橋さんが、俺の後ろを指さして言う。
すぐさま振り向くと、そこには――。
「わきゃ~……」
「いいにおいさ~」
「おなか、へったさ~」
「……」
まだぼんやりした感じだけど、四人家族のしっぽドワーフちゃんが……いた。
さっき覗いた家の、あの家族だ。
――フィーシュ!
大成功だ! お母さんドワーフの作戦、上手くいった!
「わきゃ~、ごちそうのにおいがするさ~」
「どこからさ~?」
「こっちからさ~」
「わきゃ、わきゃ~」
……あれ? ほかの家からも、続々と出てきたぞ?
「わきゃ~? たべもの、どこさ~?」
「こっちから、においがするさ~?」
「あっちに、なにかいるさ~?」
あ、あれ? 次から次に、起きて来たけど……。
木からスルスルと降りてきて、てこてことこっちに歩いてくる。凄い大勢、やってきた。
……恐らく集落の全員が、起きてしまったのだ。
――これ、効き過ぎたんじゃない?