第三話 思ったより多かった
ドワーフちゃん世界での救助作戦展開において重要な、要救助者の発見。
よく知らない世界での、どこにいるかもわからない人々の捜索はきわめて難しい。
しかし、もしかしたらいい感じかもしれない助っ人が、名乗り出てくれた。
キラキラ粒子を振りまく、妖精さんたちである。
高速かつ広範囲に飛ぶことができ、さらに夜間でも問題なく移動可能。
あと光る粒子も振りまいて、雰囲気だけではなく物理的に周囲を明るくしちゃう。
おまけにだ、見た感じすっごい大勢、村にいらっさる。
これもう、お手伝いしてもらうっきゃないよね。
――というわけで、まずは妖精さんにお手伝いの意思確認をすることにした。
したのだけど……。
「きゃい~」
「きゃい~きゃい~」
「きゃいきゃいきゃい~」
広場に集まってほしいと声をかけたら、すっごい集まった。
それはもう、大勢だ。広場の一角を埋め尽くさんばかりの人数が、いらっさる……。
「た、大志さん……これ、数千人はいませんか……?」
「……いるね、確実にいる」
「あや~、にぎやかです~」
「かわいいさ~」
十人くらいの集団を目安に、目算で数えてみると……三千人強、いらっさる感じ。
いつの間に、こんなに遊びに来たのだ……。
「おもったより、おおぜいだった」
「ようせいさんたくさんとか、すてき」
「というか、まいにちふえてるのだ」
エルフたちも、ちょっとびっくり顔で妖精さんの集団を見つめる。
みんなもこんなに来ているとは、予想外だったようだ。
……おっちゃんエルフは、妖精さんハウスの製作があるから、ある程度は把握していたっぽいけど。
でも、毎日増えているっぽいね。
…………気にしないことにしよう。
あれだ、可愛い妖精さんがたくさん遊びに来てくれて、楽しいね!
脆化病を克服したら、村に来なくなっちゃうかもって心配は……もう、しなくて良いみたいだ。
普通に、この村に遊びに来ている感じだよ。
これは、挨拶をしておかないとね。
「みんな、遊びに来てくれてありがとうね。甘い物で歓迎しちゃうから!」
「ありがと! ありがと!」
「ともだちもくるよ! おおぜいくるよ!」
「おだんご! おだんごめあてだよ!」
お花の服をまとった妖精さんたちは、もうきゃいっきゃいだね。
みなさんには、歓迎のウイスキーボンボンを贈呈しちゃいましょう!
……あれ? 三千人分のウィスキーボンボンを用意するとなると、いくらかかるんだろう?
……一つ十二グラムとして、三千個調達したとすると……三十六キログラム。
こないだ調達した業務用のが、七百グラムで二千五百円だったから……約十三万円か。
これだけなら、まあ大したことは無い。
しかし、一人一個はちょっとさみしい。十個くらいは、あげたいよね。
そうすると……百三十万円くらい、お菓子の調達にかかることになる。
今いる子だけで、これだ。
おまけに、これからさらに増えそうな雰囲気。
もっともっと増えちゃったら……凄い事になりそう。
ただお金のほうは、ダイヤをちょこっとこねてもらえば、すぐにできるから問題はないのだけど。
業者さんが、はたしてこの物量を受注してくれるのだろうか……。
きゃいきゃいと大はしゃぎの、その辺にいた妖精さんグループを、ぷるぷるとしながら見つめる。
「きゃい?」
「おだんごたべる? おだんご!」
「おうさま、おうさま、おだんごどうぞ~」
……お団子もらっちゃった。
甘くて優しい味のする、美味しいお団子だね。
「お団子ありがとね、とっても美味しいよ。みんな、お団子作るの上手だね」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
「どしどしおたべ~」
「た~んとおたべ~」
またお団子もらっちゃった。
美味しいおやつ、ありがとうだ。みんな、良い子だね。
……まあ、妖精さんへのお土産どうしよう案件については、また考えよう。
ひとまずは、お菓子の材料を一トンくらい買っておけばいいか。
たぶんそれで、なんとかなるはず。なるよね。なったら良いな。
――さて、では次に、冬眠しっぽドワーフちゃん捜索について相談しよう。
匂いをたどって探せるという話しだけど、お手伝いしてもらえるか聞かないとね。
「ねえみんな、実はお願いしたいことがあって」
「おねがい? おねがい?」
「なんだろ? なんだろ?」
「おこまり? おこまり?」
妖精さんに話しかけると、きゃいきゃいと集まってくる。
好奇心旺盛な顔をしながら、俺の周りをひらひら飛んでいるね。
それじゃあ、相談してみよう。
「えっとね、実は今……人探しをしようとしているんだ」
「ひとさがし? ひとさがし?」
「だれかな? だれかな?」
「おだんごあげる! おだんご!」
またまたお団子もらっちゃった。
甘いお菓子を食べながらだけど、続きを説明しよう。
「この子たちの仲間を見つけて、お引越しさせてあげたいなって思っているんだ」
「うちらのなかま、おおぜいさがすひつよう、あるさ~」
リーダー格のしっぽドワーフお母さんに前に出てもらって、事情を説明する。
赤しっぽのお母さんも、自分の口から状況を話してくれた。
俺たちのこのお願いを聞いた、妖精さんたちはと言うと――。
「そうなんだ! そうなんだ!」
「おてつだい、しましょ~」
「さがしちゃうよ! さがしちゃう!」
――今度はしっぽドワーフちゃんを取り囲んで、ひらひら飛び始めた。
手伝いするとか探しちゃうとか言っているから、どうやら協力してくれるみたいだね。
「ちょっと大変かと思うけど、みんなお願いできるかな?」
「いいよ! いいよ!」
「おうさまのおねがいだからね! おうさまのおねがい!」
「みんなで、さがしましょ~」
「きゃい~」
みなさん元気に、お手伝いを了承してくれた。良かった。
これで、空からの捜索が出来るうえ、すっごい物量も期待できる。
ほんとに何とか、なりそうだ。
あそうそう、お礼のお話もしておかないとね。
「協力してくれるみんなには、あま~いお菓子を沢山あげちゃうよ」
「あまいおかし! あまいおかし!」
「たのしみ! たのしみ!」
「きゃい~!」
お菓子と聞いた妖精さんたち、きゃいっきゃいで光る粒子を出しながら、周囲を飛び回る。
……色付き粒子の子も混ざっているから、脆化病治療をしておかないとね。
あとでメカ好きさんと協力して、診断をしよう。
「大志さん、私たちはどうします?」
「ハナたちも、なにかおてつだいするです~」
話が一通りまとまったのを見て、ユキちゃんとハナちゃんは次の行動を訪ねてきた。
そうだな、二人には……妖精さんぱわーの源となる、お菓子作りをお願いしよう!
「二人には、妖精さんたちが喜ぶあま~いお菓子を、沢山作ってもらいたい」
「あえ? ハナ、おかしづくり、あんまりやったことないです?」
「大丈夫よ、私が教えるから。一緒に、美味しいお菓子を作ろうね」
「わかったです~」
ただ、妖精さん達は三千人ほどの大所帯だ。
お料理自慢の方々も、助っ人に加わってもらおう。
カナさんとナノさんなら、手が空いているはずだ。
「お手伝いも頼んでいいから、大勢で楽しくお菓子作りをしてね」
「あい~」
「あと、つまみ食いしてもいいよ」
「わーい!」
お菓子つまみ食いOKと聞いて、ハナちゃんキャッキャと大はしゃぎだ。
楽しくお仕事してね。
「それじゃ自分は、具体的な捜索計画を作るよ。集会場にいるから、何かあったら声をかけてね」
「わかりました」
「タイシ、がんばってです~」
よし、これでユキちゃんとハナちゃんには、お仕事を割り振れた。
あとは、妖精さんたちだね。
まだ計画がないから、実働はちょっと待ってもらおう。
今日はひとまず、力を付ける為にお菓子を沢山たべて過ごしてくれればいいかな。
それじゃ、妖精さんたちに伝えておこう。
「みんな、あっちでお菓子作りが始まるから、遠慮なく参加して力をつけてね」
「おかし! おかし!」
「たくさんたべましょ~」
「たのしみ! たのしみ!」
きゃいっきゃいで喜ぶ妖精さんたち、光る粒子がキラッキラだね。
存分に、ちたまお菓子をご堪能くださいだ。
「これからお菓子をつくるから、みんな一緒に行こうね」
「こっちです~」
「きゃい~」
「きゃい~きゃい~」
そしてユキちゃんとハナちゃんが先導して、妖精さんたちを連れて行った。
さてさて、それじゃあ俺は、高橋さんたちと具体的な作戦を練ろう。
◇
集会場にて、しっぽドワーフちゃんを交えて、高橋さんや数名のリザードマンたちと計画を話し合う。
「捜索は妖精に任せるとして、見つけたらどうすんだ?」
さっそく高橋さんから、具体的な行動について質問がくる。
妖精さんたちの役割は捜索で、実際に救助を行うのは俺たちがやる想定だ。
この辺どうするか、説明しよう。
「妖精さんには場所を覚えてもらい、そのまま指令所まで報せに戻る想定でいる」
捜索隊妖精ちゃんが、要救助者を発見したとする。
そしたら、場所を覚えてもらいそのままとんぼ返りだ。指令所まで戻ってもらって、発見を報せてもらう。
「じゃあ俺らは、その報せを聞いて出動するわけだな」
「だね。高橋さんたちは、妖精さんの案内に従って移動し、要救助者を連れてくる役目になるかな」
「救助する規模とかも、妖精が調べるのか?」
「そうなるね」
基本はこの作戦で行くけど、同時に複数部隊を展開する作戦も考えておかないといけない。
ただこれは、妖精さんとリザードマンの連携が取れるようになってからでいいだろう。
まずは、シンプルな運用で様子を見る必要がある。
「わきゃ~……」
大体方針が固まったかな、と言う所で……リーダー格のお母さんドワーフが、ちょっと切なそうな顔をした。
……どうしたんだろう? 計画に問題があるのかな?
「どうしたの? 何か計画にまずい所があった?」
「わきゃ~……そういうわけじゃ、ないさ~」
計画に異議はないようだけど、やっぱり表情は優れない。
たぶんこれ、なにか言いたいことがあるはずだ。
遠慮せずに、忌憚のない意見や……要望を言ってもらおう。
「えっとね、遠慮しなくて良いんだよ。連れてくる人たちは何が必要かとか、これをしたらいけないとか、教えて欲しい」
「わきゃ~……、それじゃ、わがままいっても、いいさ~?」
「わがまま? もちろん良いよ。どしどし要望出して欲しいな。その中に、大事なこともあるはずだから」
やっぱり、なにがしかの要望はあるっぽいね。
それをわがままだと考えて、ぐっと抑えようとしていたみたいだけど。
でも、俺たちはしっぽドワーフちゃんたちに、悲しんでほしいわけじゃない。
苦労してほしいわけでもない。
俺たちはただただ、助けたいだけなんだ。
わがままでもなんでも、意見は言って欲しい。
かなえられるかどうかは別の話だけど、話は聞くだけ聞いておきたいわけだ。
「ほら、言うだけ言ってみて。出来るかどうかは、聞いてみない事にはどうにもできないから」
「わ、わかったさ~……」
そして、遠慮がちなお母さんドワーフが、ようやく話し始めてくれた。
「わ、わきゃ~……。むりかもしれないけど、できればおうちも、もっていってあげたいさ~……」
本当に申し訳なさそうに、そう言った。
……家を持って行ってあげたい、か。
たしかに、愛着のある自宅を捨てて、よそに引っ越すのは辛いだろう。
なんとか、してあげたいな。
「高橋さん、それって可能かな?」
「大きさにもよるが、出来なくもねえぜ。ほら、俺ら建築のプロだから」
「わきゃ~! できちゃうさ~!?」
「離島同士を橋で結ぶよりかは、全然楽だな」
お、出来そうだぞ。ただまあ、あくまで出来たらだね。
優先順位は、人の移動が一番上だ。その次くらいかな。
「まあ、要救助者を見つけたときにでも、検証してみよう」
「おう。念のため、運搬用のイカダでも用意しとくわ」
「頼んだ」
「わきゃ~! けんとうしてくれるだけでも、ありがたいさ~!」
お母さんドワーフ、笑顔になったね。
家ごと引っ越しはちょっと大変そうだけど、不可能じゃあない。
とりあえずやってみて、ダメならごめんなさいしよう。
でも、何もやらないよりはずっとマシなはずだ。
「あと大志、ゴムボートって大量に調達できるか?」
「ゴムボート? 百くらいなら出来ると思うよ」
「頼んでいいか? そいつに乗せて、人や物を運びたい。イカダは大物、ボートは人や多少の荷物って使い分けだ」
「わかった。発注かけとく」
確かに、あると便利だろうな。必要になったら膨らませて、不要なときはしまっておけばいい。
たくさんあっても、無駄にはならないだろう。
特に船を持っていない家にとっては、イカダを使うよりずっとましな選択肢になるはずだ。
「わきゃ? ごむぼーとって、なにさ~?」
おや、お母さんんドワーフが首をかしげている。
軽く説明しておこう。
「布に空気を吹き込んで膨らませて、水に浮かぶようにした便利な船があるんだ」
「わきゃ~、すごそうさ~」
「そのうち持ってくるから、使ってみて意見を聞かせてね」
「わかったさ~」
……もし、ゴムボートみたいな道具が、しっぽドワーフちゃん世界で実用化されていたなら。
この子たちは、引っ越しであんなに苦労しなかったかもな。
船が無いのが一番の問題だったぽいから、誰でも手軽に船を持てるようになれば……。
あっちの世界でも、なにか革命が起こせるかもだ。
まあ、それはいずれ考えよう。今は、夜明け前にみんなを救助しないといけない。
「それじゃ、他にも細かい所を話し合おう」
「じっくり計画立てようぜ」
「がんばるさ~」
そうして夜遅くまで、みんなで計画を話し合う事となった。
いきなり雨が降ってくるらしいから、雨具が必要だったり。
かなり寒くなった後はだいたい強い風が吹いてくるので、風に対する装備と寒さに耐える装備が必要とか。
お引越しを渋る世帯があった場合、強いお酒や味噌、あとは納豆で釣ると……ほいほいついてくるだろう、なんてのも。
かなりお母さんドワーフらもたらされる現地情報は、参考になったし面白かった。
特に、食べ物で釣るとほいほいついてくる、というのが良い。
お引越しの説得が必要となったら、お互い精神的に消耗してしまう。
その懸念が払しょくできそうで、一安心だ。
でも、食べ物簡単にフィッシュできちゃうのは、お父さん心配だよ……。
とまあ、それはそれとして。
基本的な計画は、まとまった。あとは細かい所を修正しながら、運用していこう。
そして救助用の装備を調達するには、二日か三日はかかる。
その間に、妖精さんたちに捜索してもらい、どれくらいの調査能力があるか確かめよう。
では、この計画を元に動き出すとするか!
妖精さんたちに話して、可能かどうか確認してみよう
◇
妖精さんたちに計画を話すため、お菓子祭り会場へと足を運ぶ。
ホットケーキの甘い匂いがただよってくる方向が、お祭り会場だね。
というわけで、香りがする方に足を運んでみたのだけど――。
「きゃい~」
「きゃいきゃいきゃい~」
「きゃいきゃいきゃいきゃいきゃい~」
――なんだか、また増えたような……。
「た、大志さん……増えました、増えましたよ……」
「あや~……おかしつくってたら、おおぜいとんできたです~」
「おいしいね! おいしいね!」
「ふわふわおかし~」
妖精さんたちは、ホットケーキをもむもむと食べながら、きゃいっきゃい。
ユキちゃんとハナちゃんは妖精さんたちに囲まれ、一生懸命お菓子を量産している。
「これもおいしいね! ふしぎなおだんごだね!」
「おしるこっていうんだって! あまいね!」
「ざんしんな、おだんご~」
「たくさんあるの」
「どんどんたべて、いいからね」
ナノさんとカナさんは、お汁粉を振る舞っている。
妖精さんにとっては汁物にお団子が入っているのが珍しいようで、こっちもきゃいっきゃいだ。
「タイシさんきた! このこたちはおとなりの、うえらへんのおともだちだよ!」
「ちょっとばかし、とおくからきてくれたの! きてくれたの!」
「おさそい~」
唖然として大勢の妖精さんたちを見ていると、サクラちゃんたちが飛んできて説明してくれた。
お隣の上ら辺のお友達?
イトカワちゃんが言うには、ちょっと遠くから来てくれたらしい。
おそらく、別のお花畑の住人なんだろうな。
アゲハちゃんが「お誘い」と言っているけど、こっちに来る前に声をかけていたのかもしれない。
「まだまだくるよ! たくさんくるよ!」
「おだんご! おだんごたべにくるよ!」
「にぎやかだね! にぎやか!」
そして、まだまだ来るとおっしゃる。
……これは、本当に賑やかになりそうだ。
――良いね! 助っ人がどんどん増えて、こっちも大助かりだ!
甘い物を沢山食べてもらって、しっぽドワーフちゃん救助作戦のための力をつけてもらおうじゃないか!