第二話 肩の力を、抜きましょう
ここはとあるちたまの、とある村。
大志が悪だくみしているのと同時期、集会場では、平原の焼き物五人衆が放置されておりました。
「なあ、俺ら忘れられてね?」
「今日、さどに帰る予定だったわよね」
「なんだか、タイシさんたち大変らしいよ?」
「それじゃ、しかたあんめえ」
四人はお茶を飲みながら、のんびり過ごしておりますね。
車で送ってもらわないとどうしようもないので、のんびり過ごすしかないのですけれど。
「あ、あにめ~。あにめの時間が~」
しかし一人、あわあわと慌てている方がおりますね。
アニメ大好き、あにめさんです。
集会場の時計を見ながら、テレビをお探し中。
――でも残念、テレビは設置してありません。
電源や地デジチューナーとプロジェクター、そしてスクリーンを設置しないと見られませんよ?
「あにめが~!」
大好きなアニメ放映まで、残り時間はあと十数分。
あにめさん大ぴんち!
このままでは、見逃してしまいます!
そうして、あにめさんがおよよっとなっていると……。
「お姉さん、どしたです?」
駄菓子屋でおやつを買っていたハナちゃん、ぽてぽてとやってきました。
こてっと首を傾げて、様子をうかがっておりますね。
「あにめ~、あにめが見られないの~」
「あにめ? タイシがたまに、見せてくれるやつです?」
「そうそうそれ! てれびが見られなくて~……」
魔法を打つ仕草で、しきりにアピールするあにめさんです。
それを見たハナちゃんは――。
「あや~、道具はここにあるですけど、使い方がわからないです~」
「ですよね」
ハナちゃんはするすると押入れを開けて、しまってあった機材を指さしました。
だけど、どう使うのかは誰も分かりません。
あくまでこれはイベント用で、ちょっと大がかりなのですね。
「あや! そういえば、こういうの得意そうな人、いたです~!」
おや? ハナちゃんがぽててっと走って、集会場から出て行っちゃいましたね。
こういうのが得意そうな人、といえば……。
――そしてハナちゃん、三分後くらい経過の後、一人のエルフを連れてきました。
「得意そうな人、連れて来たです~」
「テレビが見たいんだって?」
「そうです~」
ハナちゃん、メカ好きさんを連れてきました。
こういうのが得意な人といったら、やっぱりこの方ですね。
「ほんじゃ、ちょっと待っててね」
さっそく機材を取り出したメカ好きさん、てきぱきと設置や配線を始めます。
……いつの間に覚えたんでしょうか?
「あや~、わけがわからないです~」
「わかっちゃうと、そんなに難しくもないよ。ほら、間違えて挿さらないようになってるんだ」
「はえ~」
メカ好きさんはてきぱきと配線する様子を、ハナちゃんお目々ぐるぐる、あにめさんあぜんとしながら見つめます。
あれですね。孫がパソコンのセットアップをする様子を眺める、お爺ちゃんな感じかな?
わかっていれば簡単だけど、分かっていないと意味不明。
謎の技術を目の当たりにする、ハナちゃんとあにめさんなのでした。
「はい、用意出来たよ」
「キャー!」
「あや! 映ったです~!」
ぽけっと設置風景を眺めていた二人に、作業完了のお知らせ。
スクリーンに映し出された映像を見て、メカ分からない組は大はしゃぎですね。
教わってもいないのに、この手際とは……恐るべしメカ好きさん。
「電気は一時間くらい持つはずだから。最後まで見られると思う」
「キャー!」
「ありがとです~」
……電池残量と時間も、理解していますね。
いつの間に覚えたのでしょう……。
「お、君すごいじゃん」
「やるわね」
「すげえな。この謎の道具、使えるんだ」
「よくこんなの、憶えられるわね~」
ほかの平原の人たちも、ぱちぱちと拍手してメカ好きさんを讃えます。
「照れるなあ」
みんなに褒められたメカ好きさん、てれってれですね。
とまあ色々ありましたが、無事アニメ放送に間に合いました。
思う存分、キュア的なやつを鑑賞しましょう!
「キャー! 今日はまじょっ子、押されてるわ~!」
「あや~、大変そうです~」
あにめさんとハナちゃん、かぶりつきでアニメ鑑賞です。
のんびりと、楽しんでね。
…………。
やがて今日の放映は終了し、魔女っ子アニメは、良い所で次回へ続くとなりました。
「気になる~」
「ああああああ」
「どうなっちゃうの……」
「やっぱ、てれび面白いな~」
あにめさん以外の焼き物研修性たちも、キュア的なやつを堪能したようですね。
次回が気になりすぎて、もだえている方もおりますが……。
「それじゃ、元に戻すね」
「手伝うです~」
「私も手伝います~」
後ろでもだえている方は気にしないことにして、お片づけですね。
メカ好きさんはケーブルを引っこ抜いてまとめ、ハナちゃんは機材を箱に入れ、あにめさんはスクリーンをしまいます。
三人ともてきぱきと作業を進めて、あっという間に撤収完了。
みなさん良く出来ました!
「……あえ? この紐は片づけなくて良いです?」
「ああこれ、これは屋根にある骨っぽいやつと繋がっていて、取れないんだ」
「繋がってるです?」
あら、ハナちゃんは、アンテナから伸びた線を不思議そうに見ています。
年末にテレビを見るときにとりあえず設置したやつなので、壁に埋め込んでいないのですよ。
メカ好きさんはその辺も理解しているようで、いじくるものと触らないものを、ちゃんと分けて扱っていますね。
「この骨っぽい奴が、テレビ見るときに必要なんだって。同じのが、屋根にもついてるよね?」
「あや! これが必要です?」
「タイシさんはそう言ってた」
深くは理解していないものの、メカ好きさんが野外で使う用のアンテナを引っ張り出しました。
見た感じ、かなり高性能なやつですね。
「あや~、不思議です~」
「だよね。これが何なのか良くわからないけど、とっても大事らしいよ」
そうしてUHFのやつをこねくりする二人、好奇心で目がキラッキラです。
ちたまの謎道具、興味が尽きません。
「……あえ? ここんところ……なんかピリっとしたです?」
「え? どこどこ? ……何もピリっとしないけど」
「こうです、こっちのほうに向けるです~」
……ん? 二人が何か始めました。
アンテナを動かして、繋がっているケーブルを掴んでいますね。
嫌な予感が……。
「――あや! これです~! こうすると食べられるです~」
「まじで! ……あ、美味しい!」
あ、ああああ。
何か変な物、おやつにしてませんかね……。
「わーい! このおやつ、食べても食べても減らないです~」
「なんだか薄いけど、それでいて複雑な味がするね」
二人はストロー代わりの木の棒をくわえて、ケーブルの端っこをちゅーちゅーしています。
ハナちゃんはおやつを単純に喜んでいますが、メカ好きさんはグルメリポートですか。
……大志、早く村に来た方が良いですよ。
エルフたちを放置した結果、電波をおやつにし始めました……。
というか、要救助者のしっぽドワーフちゃんたちは、うとうとまどろんでいて。
エルフたちは、ほのぼの過ごしていているわけです。
めっちゃくちゃ慌てているのって、ちたま側の人たちだけじゃないですかね……。
◇
ざっくりとした救助方針を話し合うため、村に来てみたのだのだけど。
「たべほうだいです~」
「いくらでも、おやつが出て来ますね、このホネホネからは」
「ふくざつなあじ、するわ」
……なんでみなさん、UHFアンテナの周りに集まっているのか。
木製ストローを使って、ケーブルをチューチューしているけど。
今はハナちゃん一家が、食べ放題らしきおやつをもぐもぐしているね。
「……大志さん、これってまさか」
「嫌な予感がかなりする」
もう大体わかっているけど、ユキちゃんも同様な感じだ。
でもね、一応確認はしておこう。
「……ハナちゃん、それは何をしているのかな?」
「おやつです~! ピリピリおやつ、いくらでもたべられるです~」
ピリピリおやつ。……この人たち、電波を食べているね。
厳密に言うと、電波を電気信号に変換したものを食べているけど。
UHF――すなわち極超短波から得られた電気信号も、食べられちゃうんだ……。
「ずっと食べ続けると、けっこう別腹が膨れますね」
ヤナさんがほくほく顔で教えてくれたけど、まあそんなに強い電波じゃないからね。
……しかし、このエルフたちはほっておくと面白い事をする。
油断ならないとも言う。
「ハナちゃんが、これたべられるって、はっけんしました」
「ぐうぜんです~」
メカ好きさんが教えてくれたけど、ハナちゃんが見つけたみたいだね。
彼女の食いしん坊アンテナは、相当な感度なのかな?
……しかしまあ、予想外の方面から予想外の面白出来事がやって来た。
これぞ、いつものエルフたちって感じだ。
そして、この面白電波おやつ事件を見て――ピリピリしていたものが、俺の中から消えて行った。
なんだか、肩の力が……すっと抜けた。
どうやら俺は、気を張りすぎていたらしい。気負いすぎ、だったかも。
そういった色々なものが……ふわっとなくなった。
「……ハナちゃんありがとね、なんだか気が楽になったよ」
「あえ? タイシどうしたです?」
軽くなった肩へ、替りにハナちゃんを肩車してあげる。
ありがとうと言われた意味が分からないからか、こてっと首を傾げて、俺を覗き込んだね。
まあ、和んだって事を伝えておこう。
「みんなの姿を見ていたら、和んじゃって」
「ハナたち、いつもどおりです?」
そうそう、いつも通りだ。エルフたちを放置すると、当たり前になにかやらかす。
これで良い、それが良い。自然体で、問題ないんだ。
気を張りっぱなしじゃ、疲れちゃうよね。
おかげで、心に余裕が出来た。
「まあ、色々参考になったよ。肩の力、抜いて行こうかなって思えた」
「それが、いちばんです~」
ハナちゃん、肩の上でキャッキャとお返事だ。
そうだね、それが一番だよね。
◇
エルフ電波おやつ事件を経て、肩の力が抜けて。
物事の考え方も、ふわっとやわらかく考えられるようになったかも。
起きてしまった出来事に対して、深刻に考える方向性を……見直そう、と思えるようになったんだ。
そして、よくよく考えてみると……。
しっぽドワーフちゃんたちが、冬眠によって取り残されたのは……アダではなく「幸運」だったことに気づく。
もし、昼の時期真っ最中に灰化が訪れていたら。
相当な規模の人数が、お引越ししようと同時に動き出したはずだ。
つまり、この村に千人規模の避難民がやってきていたかも知れない。
こちらの受け入れ体制が、まったく整っていない状態で、数千人が訪れていたかも。
そうなっていたら、かなりキツい事になっていただろう。
しかし、そうはならなかった。
上手い具合に日没と灰化が重なったおかげで、結果的に――避難民の総数が抑えられた。
おかげで、うちの村も避難民しっぽドワーフちゃんも、なんとかなったのだ。
同時に、時間的猶予も貰っていた。
夜明けまで冬眠を行い活動を停止していることにより、インターバルが得られた。
この一時の停滞を利用すれば……集落ごとに、順番に対処が可能になる。
見つけた集落の人たちを、逐次受け入れ、そして輸送するといった作戦が出来るのだ。
悪いことばかり、起きていたのでは無かった。
日没が重なったのは、不幸中の幸い……だった、と言える。
そんなことに、ようやく気づけた。
肩の力を抜いて、考えてみる。
とっても大事な機会を得られて、こういった考え方にたどり着けた。
やっぱりエルフたちは、面白い存在だね。
みんな、ありがとうだ。こう言った大切なひとときを、大事にしていきたいと思う。
――とまあ、新たな物事の捉え方を出来たところで。
みんなに救助計画を相談しようじゃあないか。
そんなわけで、みんなに集会場に集まって貰い、お話をしようとしたのだけど……。
なんだか他にも、面白い出来事が起きているようなのだ。
「おだんごたべる? おだんご!」
「おやつだよ! おやつ!」
「きゃい~」
妖精さんたちが、集まった方々に茶菓子を振る舞ってくれている。
おかげで、和やかな雰囲気だ。みんな、良い子達だね。
……でもなんか、数が前より増えているように思うわけだ。
倍とかそんなもんじゃないくらい、多い感じがする……。
もう集会場に入りきらなくて、縁側できゃいきゃいしている子が盛りだくさん。
妖精さんたち……めっちゃくちゃ増えてない?
「タイシタイシ、おはなしってなんです?」
おっと、まずはそっちが先だね。
妖精さんたちすっごく増えているかも? 現象は面白そうだけど、まずはお話をしよう。
ハナちゃんは大体わかっているようだけど、みんなにも伝えないと。
では、まずは現状から説明だ。
「え~とですね、実はこんなことが判明しまして――」
というわけで、みんなに今までの経緯を説明する。ただし、言い方は変えて。
うまい具合に夜の時期と灰化か重なったおかげで、避難民は出そうだけど時間的猶予ができた、と。
そんな視点で、今の状態を説明していく。
「あ、そういう捉え方も、出来るんですね」
「よゆうができたです~」
「わきゃ~、そうかもさ~」
事態の深刻バージョンを聞かされていたユキちゃんやハナちゃん、そしてしっぽドワーフちゃんは……ほっとした顔になった。
そうそう、捉え方の問題なんだよね。
こうして捉えてしまえば、重苦しい雰囲気や空気はかなり和らぐ。
もちろんのんびりはしていられないのだけど、ピリピリしながら活動するより、ずっと良い。
余裕がないとミスを誘発しやすく、視野も狭くなる。
これくらいの捉え方が、ちょうどいい。
――さて、新たな視点での現状を伝えたところで。
お次は、どうやって知らない土地で、どこにいるかもわからない方々を発見するか話し合おう。
「とまあこんなわけで、手探り状態のなか行動しなくてはなりません」
「地図とかって、作れないのですか?」
ヤナさんがしゅぴっと手を挙げて、質問してきた。
確かに地図は欲しいのだけど、ドワーフちゃん世界は今、夜なのですよ……。
「本当は空撮で簡易地図でも作りたかったのですけど、あっちは夜でして。暗くて撮影が難しいのです」
「あ、暗いと確かに、遠くまでは写せませんね」
「そうなんですよ」
赤外線カメラもあるのだけど、ネコちゃんに搭載できる大きさだと、やっぱり赤外線の照射量が足りない。
地図作成の参考に出来る水準の画像は、夜間では厳しいのだ。
集落の検知用にサーマルカメラは用意するけど、ちょっと大きいし空撮用途に使うのは……やっぱり厳しい。
「というわけで、しらみつぶしに地域を探索する方法を考えています」
「俺らも手伝うから、ある程度はなんとかなるはずだ」
とりあえずの作戦を伝えると、高橋さんが名乗り出た。
水が得意なリザードマンと、水路を知っている海竜夫婦によるローラー作戦だね。
ただ、この作戦はいずれ限界が出ると思う。範囲が広がるにつれ、探索する負担も増えてくる。
そこは、いずれ解消法を考えないといけない。でも今はまず、お試しで動いてみることが大事だ。
「みなさんも、何か良い作戦があったら教えてください。どしどし採用しますので」
「分かりました」
「ハナも、かんがえてみるです~」
「なんかいいほうほう、あるかな~?」
「いろいろ、ためすべさ~」
エルフたちも協力的で、色々考えてくれるみたいだね。
こうして一緒に考えてくれる存在がいるだけでも、心強い。
よろしくお願いしますだ。
「タイシさん、消防団も協力しますよ」
「おお、それはありがたいです。是非ともお願いします」
「まかせるじゃん」
「がんばるぜ~」
ヤナさん率いる消防団も、協力してくれるようだ。マイスターもマッチョさんも、腕まくりでやる気を見せている。
確かに消防団は組織的活動が出来るので、大いに活躍出来ると思う。この戦力、活用できるよう作戦を練ろう。
そうして、みんなでわいわいと意見を出し合っていた時のこと。
「おさがしもの? おさがしもの?」
アゲハちゃんが、ちこちこと歩いてやってきた。
お団子を食べながら、首をかしげて問いかけだ。
確かに、冬眠中の方々を探し出したいってのが、今の目的だね。
そこんところ、説明しておこう。
「そうなんだよ。どこにいるかも分からない人たちを、今は探そうとしているんだ」
「わたしたち、さがしものとくいだよ! とくいだよ!」
「……捜し物、得意なの?」
「みつけられるよ! みつけられるよ!」
きゃいきゃいと答えてくれるアゲハちゃんだけど、捜し物が得意?
……詳しく聞いてみよう。
「なにか、見つけられる手立てがあるの?」
「においをたどるよ! におい!」
「匂いを辿る? ……君たち、もしかして鼻が良いのかな?」
「とおくのにおいもわかるよ! わかるよ!」
どうやら、そう言うことらしい。
ほんとかな?
「そんなに鼻が良いんだ」
「おだんごのにおいをたどって、ここにきたんだよ! きたんだよ!」
「みんな、そうしてきてるよ! きてるよ!」
「ひとっとび~」
アゲハちゃんが主張していると、サクラちゃんやイトカワちゃんも参加してきた。
そういえば、昔にそんな事を聞いた記憶がある。
サクラちゃんが花の蜜を判別するとき、匂いを嗅ぎ分けていた。
確かに、相当鼻が良い種族のようだ。
「みんなでてわけして、さがせるかも! さがせるかも!」
「おてつだいするよ! するよ!」
「おまかせ~」
きゃいっきゃいで、お手伝いを申し出る妖精さんたち。
……これは、試してみる価値があるな。
ちらりと、他の妖精さんたちも見てみる。
「おだんごつくりましょ~」
「あまいざいりょう、たくさんだね! たくさん!」
「つくりほうだい~」
集会場に収まりきらないほどの、大勢の妖精さんたちが、お団子を量産していた。
捜し物が得意な妖精さんたちが、ものっそい大勢。
もしかして、もしかする。
――光が、見えてきたかも!