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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十七章 王の力
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第一話 まどろむ存在たち


 大志可愛い。

 ……しかし、見守るお仕事もしなければ。


 ――というわけで。


 ここはとある世界の、とある集落。

 ツリーハウスが立ち並ぶ、しっぽドワーフちゃんたちの暮らす場所。

 月明かりが照らす中、沢山のおうちがありました。

 この沢山のおうちの中にある、ひとつを覗いてみましょう。


「……」

「…………」


 お家の中では、しっぽドワーフちゃん親子が、まどろんでおりました。

 うとうと、うとうと。

 寝ているようで寝ていない、起きているようで起きていない。

 そんなまどろみ状態ですね。


 こうしてまどろんで過ごすのが、しっぽドワーフちゃんたちの夜の過ごし方のようです。

 代謝を極限まで抑えて、意識レベルも抑えておりますね。

 このままゆっくり、昼の時期を待つようです。


 ……しかし、今回はそれがアダとなりそうです。

 月明かりに照らされる集落は、平和そのもの。

 でも、周囲の木々は――灰色。


 みんなが冬眠しているうちに、灰色になってしまったのです。

 昼の時期に活動を始めても、周囲は灰色。

 食べ物も、道具を作る材料も、もうありません。


「……」

「…………」


 周囲がそんな状態になっていることも気づかず、うとうと、うとうと……まどろむ人々。

 そしてそんな集落は、沢山。広い範囲に、沢山あります。


 広範囲に散らばる沢山の集落に、沢山の人々。

 そんな沢山の人々に対して、刻一刻と――終わりの日が、近づいているのでした。



 ◇



 洞窟の「門」が閉じない。この現象について考えてみた所、一つの結論を得た。

 すなわち――しっぽドワーフちゃんたちの避難はまだ終わっていない、という結論だ。

 これは祝詞にあった「いったん閉じて」という記述が参考になった。


 そう、洞窟の「門」が閉じない現象は――あたりまえの事だったのだ。

 避難が済んでいないのだから、「門」を閉じられるはずがない。


 洞窟の「門」は、ずっとずっと――伝えていたんだ。

 そして祝詞が教えてくれたんだ。


 まだ――終わっていないよ、と。


「避難が終わっていないって……それは、まずくないですか?」

「やばいです~!」


 ユキちゃんもハナちゃんも、俺の考えを聞いて真っ青だ。

 これもあたりまえだ。すっかり終わっていたと思っていたことが、終っていなかったのだから。

 まだ助けを必要としている人たちが――居るという事なのだから。


 これは、すぐに行動しなければならない。

 そして、しっぽドワーフちゃんたちに、確認しなければならない。


 どんな要救助者がいるかという、情報を。


 そして、しっぽドワーフちゃんに「要救助者がまだ残されている」旨を伝えると――。


「わきゃ~! たいへんさ~!」

「こころあたり、けっこうあるさ~!」

「どうするさ~!」


 みんな、大慌てであわあわしている。

 ……心当たりもあるようだから、一つ一つ確認していこう。


「ねえ、心当たりってどんなの?」

「わ、わきゃ~……はいいろになるまえに、とうみんしちゃってるところ、あるかもさ~」

「冬眠? そういえば、君たちは夜の時期は冬眠するって話はしてたね」

「じっさいはねむらないけど、にたようなものさ~」


 実際は眠らない? それはどういう事だろう?


「眠らないのに、冬眠なの?」

「うとうとして、たまにもとにもどって……ねむったり、しょくじをするさ~」

「……そうなんだ。結構合理的な仕組みだね」

「そうなのさ~?」

「こっちにも、同じ仕組みで冬眠する生き物、いるんだよ」


 たとえばリスだ。彼らは、冬眠ではあるが「睡眠」ではない。

 睡眠は、実際にはエネルギーをかなり消費する。冬の睡眠は、かなりの危険を伴う。

 だから、実は「ほとんど眠らない」。

 代謝を極端に落として活動を停止するが、時たま覚醒して食事をしたり、睡眠するときは代謝を元に戻して眠る。

 それと同じで、しっぽドワーフちゃんたちの冬眠も、似たようなメカニズムかと思われる。

 なかなか凄いシステムを備えた、耐候性のある種族じゃないか。


 しかしこの素晴らしいシステムは、今回タイミングが悪く……アダとなった、かもしれない。

 しっぽドワーフちゃん世界で灰化が起きたのは、夜の時期が訪れる少し前。

 夜になった後灰化が起きた地域は、事態の悪化も知らずに冬眠してしまっているかも、ということか。


「ほかにも、こんなこともあるかもさ~!」


 ――そうして、しっぽドワーフちゃんたちが色々な考えを教えてくれた。

 おおまかにまとめるとこうだ。


 まずは、灰化を知らずに冬眠した集落が存在する可能性だ。

 先行の泳ぎ組と船組が移動経路途中の集落に、灰化を教えて回った形跡はあるが、完全ではない。

 先行組が通らなかった経路にある集落は、取りこぼしている可能性が高いという話だ。


 次に、引っ越しを途中で断念して、どこかの空き集落で冬眠に入ってしまった集団が存在する可能性。

 これは、今いるしっぽドワーフちゃんたちも、行き詰まったときに……ちらっとは考えたらしい。

 そうしている集団も、あるかもしれないとのこと。


 今いるしっぽドワーフちゃんたちは、自力での避難が出来なかった子たちだ。

 それでも、いち早く灰化に気づいて行動をとれただけ、マシだった。

 実際問題、第二陣の子たちは、気づくのが遅れて避難も遅れた。

 その結果、救助に行く必要があった。

 ただ、第二陣の子たちも、それでもマシなケースだ。

 行動を起こせただけ、ずっとマシ。

 灰化に気づくことさえできなければ、完全に――詰む。


 起きてから事態を知っても、もう何も出来ないのだ。

 引っ越しに耐えられるだけの食糧集めや、船やイカダを作る素材集めすら、できなくなる。

 冬眠中にも食料は消費するので、蓄えに余裕もない。

 最初の一歩を踏み出すための資源が……もう、存在しないのだ。


「あやややや! すっごくヤバいです~!」

「冬眠から覚めて、家から出てみたら……灰化している。これは……詰みますね」


 話を聞けば聞くほど、マズい状況だ。

 ユキちゃんとハナちゃんも、状況のマズさにあわあわしている。

 だけど、まだまだマズい事がある。


 それは――時間制限だ。


「この状況で、昼の時期が訪れたら……」

「みんないっせいに、おひっこしをはじめるさ~……」

「だいこんらんが、おきるさ~……」


 冬眠から覚めて、灰化の状況に気づいたとき。

 まちがいなく、なにか行動を起こすだろう。

 となりの湖に引っ越そうとするのは、かなりの多数派だろうね。

 とにかくなにか、行動を起こすはずだ。


 そして、昼になる時期に一気に事態は進行する。

 時差があるほど大きな地域ではないから、昼の時期も一斉に訪れる。

 つまり――避難民が、一斉に行動を起こすのだ。

 それも、物資の余裕も無い状態で……。


「どれほどの数になるかはわからないけど、ちょっとまずいな……」

「私たちが対処できる限界を超えたら……」

「あえ? おおぜいきちゃうと、まずいです?」


 ユキちゃんはなんとなく、まずさをわかっているみたいだね。

 この辺は、大災害が頻発する、この日本で暮らしているなら……身に付く感覚だと思う。

 高速道路が寸断されただけで対処能力の限界を超えた例を、いくつも見ているから……。

 でも、ハナちゃんは……いまいち理解できていないぽい。

 この辺は、住んできた環境が違うからね。


 あとは、今までは何とか……うちの村でも対処できた範囲だった。

 だから、大勢来ても大丈夫と思っているのだと思う。

 この辺の認識相違は、説明しておこう。


「えっとね、たとえばの話なんだけど――」


 そうして、ハナちゃんにたとえばの話をする。

 たとえば、うちの村で対処できる能力が百人とした場合。割と現実的な数字でもある。

 この場合、順番に百人が来てくれればなんとかなるが、一気に千人とかが来てしまった場合……。

 百人だけ助けられる、という事にはならない。


 対処能力限界を超えてしまうと――千人がまるごと全滅するにとどまらず、この村まで壊滅する。


 一つの対処法として、いったん村で保護をして、それからとなりの湖へと送る場合を考えてみる。

 うちの村で用意出来る食糧と輸送能力は、百人分と仮定。

 そこに千人が一気に押し寄せたら、どうなるか。


 まずは食料が圧倒的に不足する。百人にだけ、食料を分けますなんてことは出来ない。

 百人分の食料を、千人で分け合う事になる。

 さらに、輸送能力も問題だ。百人を輸送するのに、三日かかったとする。

 千人なら三十日だ。それも、トラブルなく全てを上手く運んで、これだ。

 つまりは十分の一の食糧で、十倍の期間を耐えなくてはならなくなる。


 ……こうなってしまうと、百人すら救えなくなる。

 さらには助けようとしたこの村の食料すら消え去り、共倒れとなる。

 対処能力の限界を超えるとは、こうしてすべてを破たんさせる、恐ろしい事態につながるわけだ……。


 とまあ、こんなたとえ話をハナちゃんに聞かせる。

 すると――。


「あや~! たいへんです~!」

「わきゃ~! たいへんさ~!」

「どうするさ~!」


 ハナちゃん大慌て、そして一緒に話を聞いていたしっぽドワーフちゃんたちも、大慌て。

 事態のまずさを、これでもかと認識したらしい。

 ……ちょっと、心配させすぎちゃったかな。


 でもまあ、この理屈なら、許容量を増やせば解決するとも言える。

 特に食料問題などは、この現代にっぽんであればなんとかできてしまう。

 この辺を教えて、安心させてあげよう。


「実は食べ物に関しては、それほど問題はないんだけどね」

「あえ? たべものよういするの、いちばんたいへんです?」

「そうさ~、たべもの、きちょうさ~?」


 ハナちゃんとしっぽドワーフちゃん、疑いのまなざしである。

 みなさんちたまにっぽんの量産技術と、それを支える輸送能力の真の実力を知らないからね。

 伊達に一億二千万強の人口を、この険しい地形なのに支えている国家ではないわけですよ。

 今のちたまにっぽんは、たくさんある食料を、たくさん輸送できちゃう実力があるわけで。


 というわけで。

 村に無いのなら、外から持って来れば良いじゃない。

 それが出来るのが、この村の――最大の強みである。

 ちたまにっぽんに寄り掛かりまくりの、この村ならではの力。

 いわば、お金と引き換えに、他人の力をこれでもかと借りることが出来るのだ。

 ……世知辛いね。お金は大事だね。


 でも、食べ物なら問題ないわけだ。


「ほら、ハナちゃんたちが最初に食べた、あのラーメンとかならすぐだよ」

「あや! そういえばタイシ、ラーメンたくさんくれたです~」

「千人を十日間食べさせられる量だと三万食になるけど、七日もあれば調達できちゃうね」

「あや~」


 ハナちゃんご納得の様子だ。

 まあほんと、ラーメンなら簡単なんだよね。

 複数業者に頼めば、十万食を六営業日で調達できちゃうかも。


 十日もラーメンじゃ飽きちゃうかもだけど、その辺は我慢してねだ。

 ……まあ、ひとまずは一万食用意して様子を見よう。

 一万食を用意するのにも、百万円くらいかかる。

 これから先どうなるか分からないので、お金は節約しておきたい。


「そんなわけで、食べ物は心配しなくて良いよ。よそからたくさん持ってくるから」

「あや~、ひとあんしんです~」

「すごいさ~」


 お金のことは胸の内にしまって、心配しなくても良い旨は伝える。

 すると、ハナちゃん一安心で、エルフ耳がへにょりんだ。

 しっぽドワーフちゃんも、まあなんとなくは安心してくれた。


 ほんと、食べ物は問題ないんだ。食べ物は。

 お金さえあれば、いくらでも持ってこられる。


 最大の問題は、その食べ物を――どうやって届けるか、だ。


 この村まで来ることが出来れば、それで良い。

 でも、たどり着けなかったら?

 おそらく、そういう人が大量に出てくる。


 そういう人たちにこそ、食べ物が必要であって。

 でも、そういう人たちであるからこそ、食べ物が届かない。届けられない。

 村に到達できない人たちを、どう助ければいいのか。


 一番の問題は、そこなんだ……。

 さすがに、この話は……ここではできなかった。



 ◇



 翌日、自宅にて。

 主要メンバーを集めて、緊急会議を開催する。

 議題は、しっぽドワーフちゃん救出作戦についてだ。


「確かに、食料はどうにかなる。ただ、大志の言う通り輸送が問題だなあ……」


 一通り状況を説明すると、親父が渋い顔で言った。

 まったくその通りで、輸送の問題は今の所どうにもならない。


「どこにいるかもわからない、どれくらいいるかもわからない人たちの救助……これは難題ね」

「異世界に乗り出して大勢を救助、なんてことが……そもそも今までになかったことだ」

「それでも、やるしかないわね」


 お袋、爺ちゃん婆ちゃんも渋い顔。

 救助に乗り出すのは誰も異議は無いけど、どうやるのかでみんな頭を悩まる。

 ともあれ、現地民の協力は必須だ。意見を述べておこう。


「しっぽドワーフちゃんたちの協力は、不可欠だと思う」

「現地情報がなけりゃ、お手上げだからな」

「詳しく聞き取り調査をしましょう」

「私も手伝うわ」


 俺の意見には特に異議は無いようで、親父も賛成だ。

 ユキちゃんは聞き取り調査を提案してくれて、お袋も手伝うようだ。

 この辺は、二人に任せよう。


「大志、あっちは水の世界なんだよな? 俺らも力になれると思うぜ」


 そして高橋さんも、協力を申し出てくれた。

 確かにしっぽドワーフちゃんの星は、水の世界だ。湖と河の星だね。

 そういう環境なら、リザードマンは最強の助っ人となるだろう。

 是非ともお願いしたいけど、ボランティアという点は確認しておこう。


「かなりのボランティアになるけど、大丈夫?」

「問題ねえよ。大勢動員してやるぜ」

「ほんと助かる」


 高橋さんは、リザードマン世界に顔が効く。

 こっちに暮らしていなかったら、複数の島を束ねる族長になれていたくらいだ。

 一声かければ、大勢力を貸してくれるだろう。

 ほんとうに、ありがたい。


「あとな、大志にひとつ朗報がある」

「……朗報?」


 ありがたやありがたやと高橋さんを拝んでいたら、さらに追加で朗報が。

 いったいどんな朗報だろう?


「聞かせて欲しい」

「現地の地理……というか水路についてだが、海竜ならかなりの範囲を知ってるぜ」

「――え!? 海竜が?」


 なぜ、海竜が現地の地理を知っている?


「またなんで、海竜が……」

「あの夫婦海竜、異世界に流されてただろ?」

「あ! そう言えば」

「あいつら、かなりの範囲を泳いだそうだ。子供を探して泳ぎ回ったんだと」

「なるほど……、それなら、期待できそうだ」


 海竜親子には災難だっただろうけど、今の俺にとってはかなり助かる情報だ。

 問題だった輸送について、一つ手札が出来たな。


「しかし、輸送が解決しそうだとしても、要救助者の発見はどうする?」

「出来れば、昼の時期になる前に見つけないとまずいわよ?」


 親父とお袋から、要救助者についての指摘が来た。

 この辺は、いまのところこれと言った解決策はない。

 今出来る事と言ったら……。


「……しっぽドワーフちゃんたちと海竜夫婦に協力してもらって、集落のありそうなところをしらみつぶし、しかないかな」

「やっぱ、それしか無いか」

「何もしないよりはマシ、よね……」


 本当は、とにかく行動はしたい所である。

 でも、やみくもに行動しても……こちらが消耗するだけでもある。


「ただ、大規模に展開は出来ないかな。情報が揃っていないと、正直危ない」


 ミイラ取りがミイラになる、という状況は避けないといけない。

 救助隊が遭難しては、絶対にダメなのだ。


「だよなあ」

「そこは、苦しい所ね」


 親父もお袋も同意見のようで、難しい顔のままだ。

 ……まあ何にせよ、今は情報が必要だ。そして装備も必要だ。


「これから情報集めと並行して、必要な装備調達も始めたいと思う。気づいたことがあったら、どしどし教えて欲しい」

「おう、任せとけ」

「微力ながら、お手伝い致します」


 高橋さんとユキちゃんが、答えてくれた。


「俺も電源設備を作りながらだけど、協力するぜ」

「農業もやらんとな」

「村の事は、任せてね」


 親父と爺ちゃん婆ちゃんも、応じてくれた。

 村の運営も、ないがしろには出来ない。

 ただ、スポットでの手伝いはちょくちょく頼むだろうね。


「……ねえ大志、一つ問題が出たわ」


 みんなが応じてくれたかと思ったけど、お袋が困り顔になった。

 一つ問題? 何だろう?


「あの焼き物大好きな平原の人たち? どうする? 今、村に放置している状態だけど……」

「あ!」


 ――平原の五人衆、村に放置しっぱなしだった!

 どうしよう!?


 ……ん? まてよ?

 五人いるという事は……五人も人手が増えるという事だよな……。

 しかも、旅慣れた方々なわけで。


 …………。


 ふふふふふ。

 ――人材、ゲットだぜ!


悪魔大志

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