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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十六章 当たり前すぎて、気づかなかったこと
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第十五話 見守るお仕事

構成いじったの忘れて次話のやつが紛れてました

いじくる前のやつは削除しましたが、まあそういうことで


 祭りも夕方になって、ゆったりとした雰囲気に。

 沢山作った料理をつまみながら、花見酒を楽しむ。


「おはな、きれいだな~」

「はなびらがおちてきて、すてき」

「のんびりだわ~」


 エルフたちもようやくお花見に突入して、桜の花びらが舞う光景を楽しんでいるね。

 なかなか風流な一時だ。


「きれいです~」

「この村自慢の桜並木だからね。じっくりお花を堪能してね」

「あい~」


 ハナちゃんものんびり、お茶とお団子を楽しみながら、花見中だ。

 小惑星形状のお団子が混ざってるのは、ご愛敬だね。


(おそなえもの~)

「~」


 神輿とわさわさちゃんは、相変わらずお料理を食べ続けている。

 たくさんお食べ下さいだね。

 ぴかぴかと料理が消えて、神輿がくるくる回っているけど、けっこうな食欲だね。

 虹色に光ったり、白く光ったり。

 光の色が違うけど、テンションの差なんだろうか?


 ……まあ、気にすることは無いか。


「今年の祭事も、無事終えられそうだな」

「こんなに大勢が参加した祭事って、初めてじゃない?」


 一緒にお酒を飲んでいる親父もお袋が、周りを見渡しながら話している。

 確かに、俺の記憶にもこんな賑やかな祭事は、無かったと思う。


「俺んときだって、ここまで賑やかなのは無かったな」

「こんなに大勢お客さんが来るなんて、初めてだものねえ」

「そうさねえ」


 爺ちゃん婆ちゃんからも、賑やかのお墨付きだね。

 加茂井さんちのお婆ちゃんですら、同意するくらいだ。

 やっぱり、今回が初めてのようだ。

 しかし、なんで俺の代だけこんなことが起きてるんだろう?


「なんで、こんなにお客さんが来るんだろう?」

「不思議よねえ」

「だよなあ」


 ぽつりとこぼすと、お袋も親父も同意してくれた。

 この辺、さっぱりわからないね。

 でもまあ、大勢の人たちの力になれるのは、悪い気はしない。


 無人だった村も賑やかになって、活性化してきて。

 人がやってくるごとに、どんどん楽しくなる。

 それで、良いんだろう。

 俺は訪れた人たちを受け入れてあげれば、それで良いんだと思う。


「色々分からないことは多いけど、ぼちぼちやっていくよ」

「困ったことがあったら言えよ、手伝うから」


 親父はいつも通り、手を貸してくれる気満々だね。

 頼りになる身内がいて、心強い。


「まあ、あんた人使い荒いから大丈夫よね」

「違えねえ」

「それは間違いないわね」


 いい話でまとめようとしたら、お袋が爆弾発言を。

 爺ちゃん婆ちゃんも同意して、わははと笑う。

 ……まあ、だいたい合ってる。自覚はありますん。


 …………。


 とは言え話がまずい方向に行きそうだから、話題を逸らそう。

 ちょうど良い事にユキちゃんがいるから、ちょっとお話をば。

 ずっと気になっていた、あの謎の技術で作られた衣装について、訊いてみよう。


「そうそうユキちゃん、そのかっこいい衣装って、どうやって作ってるの?」

「ふふふ、かっこいい……」


 衣装を褒めるとご機嫌になったユキちゃんだけど、耳としっぽが出てますよ。

 ほら、後ろで加茂井さんのお婆ちゃん、怖い顔してるけど大丈夫?

 それ、バレたらダメなやつっぽいよ?


「この衣装はですね、実は――プレス加工で作られているんです!」

「え? プレス加工……?」


 なにそれ怖い。プレス加工で服を作るとか、聞いたこと無いよ。

 ……でもまあ、それなら縫い目ゼロは、可能かも。

 何にせよ、渡来の神秘的な存在は、いろいろ技術を持っているようだ。

 あんまり深入りしないでおこう。


「不思議だけど、やっぱりかっこいいね。よく似合っているよ」

「フ、フフフフ……」


 おっと、しっぽが増えた。わりと位、高いな……。

 でも、位の割に隙多すぎない?


「まったく、この娘と来たら……」

「ふふふふ……」


 そんなユキちゃんの様子に、加茂井さんのお婆ちゃんもやれやれといった感じだ。

 まあ、長い目で見守ってあげてください。

 なんにせよ、ご機嫌なのは良いことだからね。


 とまあ、しばらくふわふわ揺れるしっぽを眺めて、お酒を楽しんだのだった。



 ◇



「おっと、つまみが切れた」

「料理も、だいぶ減ってきましたね」


 みんなで楽しくお酒を飲んでいたら、だんだん料理も減ってきた。

 これは、追加でおつまみを作る必要があるかな?


「ちょっくらおつまみ、作ってこよう」

「あ、それなら私が作りますよ」


 おつまみを作ろうとすると、ユキちゃんが名乗り出た。

 ……せっかくだから、お願いするか。


「それじゃあ、お願い出来るかな?」

「まかせて下さい。実家で良く作る、面白いおつまみがありますので」

「へえ、面白いおつまみか。楽しみだ」

「少々お待ちを」


 どうやら、面白いおつまみを作ってくれるらしい。

 いそいそと、調理場へ向かうユキちゃんだ。

 どんなおつまみが出てくるかな?


 そうして待つこと、十分くらい。


「お待たせしました。おつまみ出来ましたよ」


 ユキちゃんが、お皿を持ってやってきた。

 ……どうも、揚げ物っぽいな。


「これって何の揚げ物?」

「ふふふ、それは食べてからのお楽しみですよ」


 ユキちゃんわりと自信があるらしい。

 それじゃあ、一口食べてみよう。


「では、頂きます」

「どうぞ、お召し上がり下さい」


 一つの揚げ物を箸で摘まんで、食べてみる。

 すると、よく知ったなじみのある味が口に広がった。

 これは……。


「これ、さきいかを天ぷらにしたの?」

「あとは、えのき茸も混ぜてあります。これ、うちのお父さんが大好きなおつまみで、醤油をかけるともっと美味しくなりますよ」


 そう言って、さきいかとえのき茸の天ぷらに醤油をかけてくれる。

 じゃあこれも、頂きます。


 ――おお! さきいかの凝縮された旨味が、天ぷらの衣にしみこんでいる。

 その衣には醤油味が付いていて、でもくどいしょっぱさが無い。

 これは、油でからっと揚げてあるからなんだろうか?

 そしてしっかりしたさきいかの食感に、えのきの旨味も合わさって。

 きのことイカの旨味が、天ぷらとなって一体になっているね。


「これは美味しい。立派なごはんのおかずになるね」

「うちのお父さん、これをおつまみに出すといっつも飲み過ぎるんです」

「そりゃあ納得だね。これはビールにも日本酒にも合うから」


 俺も早速、さきいかとえのきの天ぷらをおつまみに、ビールを流し込んでみる。

 揚げ物とビールは相性抜群だけど、さらにさきいかの旨味も合わさっていくらでも飲めちゃうね。


「あや、たしかにこれ、ごはんがすすむです~」

「わきゃ~、これもおいしいさ~」

(ふしぎなおりょうり~)

「~」


 いつの間にか、ハナちゃんやしっぽドワーフちゃん、そして神輿とわさわさちゃんも天ぷらを食べている。

 結構みんなに好評だね。

 しっぽドワーフちゃんはとくに気に入ったようで、次から次へと口に放り込んでいる。

 身長三十センチのちいさな子だから、お酒は飲んでいないようだけど。

 ハナちゃんや神輿と一緒に、わきゃわきゃと食べているね。

 いつの間にか、仲良しさんになっているようだ。

 良きかな良きかな。


「あそうそう、口直しに野沢菜漬けもありますので、どうぞ」

「ありがと、やっぱりこれだよね」


 ユキちゃん気が利いている。

 俺の大好きな、野沢菜漬けもちゃんと用意してあるね。

 さっそく野沢菜漬けも摘まんで、さわやかな漬け物の味を楽しむ。


「……どうも最近、効きが弱いような……?」

「ん? 何のこと?」

「ああいえ。こちらの話です」


 野沢菜漬けを食べる俺を見て、妙に可愛いユキちゃんがなにやら考え込み始めた。

 ぶつぶつと「もう少し濃度を……」とか言っている。

 確かに、塩気はもうちょっと濃くても良いかもね。


「わきゃ~……ぜんぶたべちゃったさ~」

「ごはん、ちょっとあまったです?」

(おそなえもの~……)

「~……」


 おっと、そんなことを言っているうちに、天ぷらが品切れになったようだ。

 子供しっぽちゃんと神輿が、しょんぼりながら空っぽのお皿を眺めている。

 ハナちゃんもごはんのおかずが先に無くなってしまい、おろおろしている。

 わさわさちゃんは……正直、良くわからない。謎の踊り?

 まあなんにせよ、みんなずいぶんと気に入ったみたいだ。

 ちょっと食べ足りないって感じだね。


「また作るから、ちょっとまっててね」

「わきゃ~! ありがたいさ~!」

「ユキ、ありがとです~」

(おそなえもの~!)

「~~」


 その様子を見たユキちゃん、追加で揚げてくれるようだ。

 子供しっぽちゃんと神輿、あとわさわさちゃんも大喜びだね。

 ハナちゃんもごはんを片手に、キャッキャしている。

 謎の声も心底嬉しそうだから、もうちょっとお待ち下さいだ。


「では、ちょっと揚げてきますね」

「行ってらっしゃい」


 たすきをかけて、気合いを入れた妙に可愛いユキちゃん。

 いそいそと調理場へと向かっていった。

 天ぷらが出来るまでちょっと時間があるから、箸休めで野沢菜漬けでも食べて貰おう。


「みんな、天ぷらが出来るまでこれをつまんでね」

「おつけものです~」

「わきゃ? おやさいさ~?」

(ひかるおそなえもの~)

「~?」


 野沢菜漬けのお皿を差し出すと、ハナちゃんとわさわさちゃん、キャッキャと食べ始める。

 子供しっぽちゃんも、初めて見る謎の葉っぱ漬けをおそるおそる口に入れて。

 神輿はくるくる回りながら、ぴかぴかとあぶだくしょんだ。

 ……そして謎の声は光るお供え物と言っているけど、光ってはいないよね?

 また虹色の光と白い光がきらめいたけど、神様結構な量持ってったな……。

 気に入ったのかな?


 そして、一通り野沢菜漬けが行き渡ったのだけど……。


「……あや~?」

「わきゃ~?」

(およ~?)

「……?」


 なんだか、みんなの様子がおかしい。

 ん? 俺を取り囲んだぞ?


 ――そして十分後。


「大志さん、天ぷらが出来ました……て、何これ?」


 妙に可愛いユキちゃんが、出来立て熱々の天ぷらを持ってきてくれた。

 だけど、俺の様子を見て首を傾げている。


「みょうにかわいいです~」

「わきゃ~、かわいいさ~」

(すてき~)


 ハナちゃんが足にしがみつき、子供しっぽちゃんが腕にしがみつき、神輿は頭にしがみつき。

 わさわさちゃんも、服にしっかりひっついて。

 みんな離れない。


「……良くわからないけど、お祭りの気分に当てられたのかな?」

「はあ……」


 妙に可愛いユキちゃん、訳が分からなそうだ。そして俺も分からない。

 まあ、好きにさせておこう。

 子供たちに懐かれるのは、俺も悪い気はしないからね。

 ……神輿とわさわさちゃんは子供の分類に入れて良いのか、よく分からないけど。


「うふ~」

「わきゃ~」

(やすらぐ~)

「~」


 そうしてしばらくの間、みんなをひっつけたまま過ごしたのであった。



 ◇



 夕方も過ぎて、辺りも暗くなってきて。

 夜の部の始まりだ。もう少し騒いだら、お祭りも終わりだね。

 締めくくりは、みんなでのんびり映画でも見て過ごそうかと思う。

 というわけで、ミニプロジェクターを設置だ。

 スクリーンに映像を映して、のんびり眺めよう。

 

「あにめ! あにめのじかんよ~!」


 設置している間は、あにめさんがめっちゃ大はしゃぎだ。

 彼女は今までじっと、このときを待っていたのだ。

 まあ、ずっとキュア的なコスプレしたまんまだから、めっちゃ目立ってたけど。


「おれもさいきん、あにめってやつハマりはじめたわ」

「わたしも」

「やきものに、あにめのえってかいたらだめなのかな?」

「こんどやってみましょうよ」


 そして平原の焼き物研修生のみなさんも、あにめさんに影響され始めている。

 休憩時間に、一緒にテレビをみていたんだろうな。

 ……大丈夫かな、この人たち。

 ちたまにっぽんの趣味でも、わりとディープな領域に足を踏み入れてないかな?


 ……まあ、気にしないことにしよう。

 佐渡島が、アニメコスプレのダークエルフ活動場所になっても、気にしないでおこう。

 気にしたらいけないんだ。そうだ、何も問題は起きていないんだ。


「おっし、上映始めるぜ」

「まってましたああああああ!」


 そうこうしているうちに準備が終わり、あにめさん待望のキュア的なやつが上映される。

 そしてここでサプライズでございます。

 本日上映するのは、なんと劇場版。

 去年上映された、オールスターズのやつでございます。


「……あれ? なんだかいつものあにめと、ちがう?」


 劇場版ですから。


「まじょっこ、たくさん?」


 オールスターズですから。


「ちなみにこれ、一時間くらいある映画版ってやつで、見応えバッチリです」

「キャー!」


 劇場版であることを教えると、あにめさん飛び上がって喜ぶ。

 でもまあ、鼻血を出すほど興奮しなくても……。


「すいません、とりみだしました」

「いえいえ、ゆっくり鑑賞してください」

「はい……」


 いまさら取り繕っても無駄だけど、あにめさん大興奮なのはよくわかった。

 このまま、ゆるりとご鑑賞下さいだね。


 というわけで、アニメ鑑賞会が始まる。


「キャー! そこでまほうよー!」

「わりとはくりょくある」

「おもしろいな~」


 劇場版とは言え子供向けアニメ映画だから、そう長い放映時間でもない。

 あにめさんはテンションMAXだけど、ギリギリ完走可能かな?

 そして他のみなさんも、のんびりとアニメ映画を鑑賞中だ。


「わ、わきゃ~! これはなにさ~!?」

「ひとが、うらっかわにいるさ~?」

「うらっかわに、なにもないさ~!?」


 しかししっぽドワーフちゃんたちは、ちょっとパニック。

 わきゃきゃっと走り回って、スクリーンの裏を覗いたり慌てたりと忙しい。

 ……そういえば、この子たちに映写機とか説明してないな。


「あ~これはね、こういうかんじのきかいなの」

「わきゃ? これ、なにさ~?」

「パラパラマンガっていってね、こうしてこう……」

「わきゃ~! えが! えがうごいたさ~!」


 あ、カナさんがアニメの原理を説明してくれた。

 パラパラ漫画を見せて、あれこれ教えているね。

 ……あれたぶん、自分の絵を見せたかったんじゃないか?

 カナさんも、この瞬間を虎視眈々と狙っていたぽいぞ?


「わ、わきゃ~、すごいもよおしさ~」

「わけがわからないさ~」

「ここは、ふしぎなところさ~」


 そしてしばらくして、しっぽドワーフちゃんたちも落ち着いて。

 キラキラした目で、アニメ映画を見始める。

 そうそう、深いことは考えずに、お楽しみ下さいだ。


 ……あとで、写真とかも教えておこう。

 しっぽドワーフちゃんたちも、楽しい思い出をたくさん写真に残すことが出来れば。

 きっと、これからの生活にもっと彩りが生まれるだろう。

 楽しい思い出、たくさん写真に残してあげられれば、良いな。


「わきゃ~! そらをとんださ~」

「なぞのひとさ~!」

「おもしろいさ~!」

「まほう、かっこいいわ~!」


 だんだんとアニメを楽しみ始めた、しっぽドワーフちゃんたちだ。

 しっぽをぱたぱた振って、あにめさんと一緒に応援を始めている。

 賑やかで良いね。祭りの趣旨とも合っている。

 この調子で、どんどん村に溶け込んで貰いたい。


「わきゃ~! わきゃ~!」


 そうしてアニメ鑑賞中は、しっぽドワーフちゃんたち、はしゃぎっぱなしだった。

 楽しい思い出、出来たかな?


 まあ一番はしゃいでいたのは、あにめさんだけどね。

 はしゃぎすぎて、また鼻血を出していた。

 大丈夫なのかな?



 ◇



「まんぞくしました~」


 そしてアニメの上映が終わり、おおはしゃぎのアニメさんが鼻血を拭いて。

 ゆったりとした雰囲気の中、そろそろお祭りは終わりかなって雰囲気になってきた。

 ちょうど良いから、ぼちぼち帰る準備でもしようかな?


 と、考えていたところ――。


「――タイシさん、タイシさん」


 一人のしっぽドワーフちゃんが、俺を見上げて名前を呼んできた。

 リーダー格である、あのお母さんドワーフだね。

 どうしたのかな?


「どうしたの? 何かあった?」

「うちらも、なにかだしものして、いいさ~?」

「出し物?」

「おれいに、うちらもなにかしたいさ~」


 ……どうやら、お礼に何か出し物をしたいらしい。

 そう思えると言うことは、お祭りを楽しんでくれたって事かな?

 せっかくだから、みんなの出し物を見せて貰おうか。

 祭りの締めくくりにもちょうど良さそうだし、お願いしてみよう。


「それじゃあ祭りの締めくくりに、みんなの出し物を見せて欲しいな」

「わきゃ~! それじゃあ、みんなでやるさ~!」


 出し物にオーケーを出すと、お母さんドワーフは仲間の所へと走って行った。

 そして、わきゃわきゃと打ち合わせを始める。


「……大志さん、あの子たちが集まってますけど、どうしたのですか?」


 ユキちゃんも気になったのか、状況を訊いてきた。

 これからしっぽドワーフちゃんたちの出し物が始まることを、教えておこう。


「ああいや、出し物をしたいって言って来たから、オーケー出したところ」

「へえ、出し物ですか」

「お祭りの締めくくりには、良いイベントかなって思ってさ」

「それは良いですね。最後に盛り上げるイベント、楽しそうです」


 ユキちゃんも興味を持ったのか、しっぽドワーフちゃんたちをニコニコとみている。


「あや、なんだかたのしいこと、はじまりそうです~」


 ハナちゃんも雰囲気に釣られてか、キャッキャしているね。

 さてさて、どんなイベントになるか、楽しみに待ちましょう。


 ということで、しばらくの間しっぽドワーフちゃんたちの準備を見守る。

 着々と準備を整えているようで、なにやら銀色の金属棒を取り出しているね。

 あと、同じく銀色のトンカチみたいなのも。

 あれで何をするんだろう? ちょっと訊いてみるか。


「ねえ、それって何かな?」

「これは、がっきさ~」

「楽器? もしかして、その金属棒を叩いて音を出すの?」

「そうさ~。うちらも、おまつりでよくやるさ~」


 訊いてみると、どうやら楽器のようだ。

 わきゃわきゃと鉄の棒を並べて、だんだん構成が分かってくる。

 確かに、金属棒はそれぞれ長さが違う。

 音階があることは見れば分かるね。


 ただ、その金属棒の並びには……若干の違和感がある。

 並べられる金属棒が、なんだか不揃いなのだ。

 歯の抜けた鉄琴のように、音階が抜けているような印象が……。

 これ、何でだろう?


「この楽器、音がいくつか欠けてない? こことか、となりの長さがかなり違うよね?」

「これは……よそのおうちの、たんとうぶんだったさ~」

「よそのお家の担当分? てことは、各世帯で音に担当があったの?」

「そうさ~。そのひとたちは、ふねでおひっこししちゃったさ~」


 そう言って、ちょっと寂しそうな顔をする、お母さんドワーフちゃんだ。

 なるほど、この楽器は……各世帯が音階を担当するんだ。

 そして集落全体で音階を持ち寄って、一つの楽器として完成する。

 そこに暮らす人々全員が力を合わせて、初めて成り立つ音楽文化なんだな。

 団結力を養うために出来た、素敵な文化なのかもしれない。


 しかし、今はもう……それが叶わない。

 集落はバラバラになってしまって、音階は揃わない。

 この飛び飛びの長さの金属棒が示すのは、そう言うことだ。


「……なるほど、そう言うことなんだ。でも、これでも演奏は出来るんだよね?」

「もちろんできるさ~。いまいるみんなで、ちからをあわせるさ~」


 演奏が出来るか訊いてみると、お母さんドワーフは元気に答えてくれた。

 さっきの打ち合わせでは、その辺を話していたんだろうな。


 ……仲間は離ればなれになってしまったけど、それでも今いる仲間たちで力を合わせて。

 今ある音階を持ち寄って、一つの楽器を作り上げる。

 これは、しっぽドワーフちゃんたちの、ひとつの覚悟の証なんだ。


 今いる仲間たちと、協力していく。ここで暮らしていく。そんな、覚悟。

 俺たちに演奏を聴いて貰いたいというのは、そういう事なんだろう。

 たとえ音階が抜けていたって、前に進む。

 そんな覚悟が、伝わってきた。


「みんなで力を合わせた演奏、漏らさず聴くね。思いっきり演奏して、構わないから」

「わかったさ~! がんばって、えんそうするさ~!」


 にっこりと微笑む、お母さんドワーフだ。

 この辺は、母は強しって事なのかもね。


 そうして準備が整い、みんなも集まってきて。

 いよいよ、しっぽドワーフちゃんたちの、民族音楽演奏の始まりだ。


「じゅんび、できたさ~」

「えんそう、するさ~」

「では、いくさ~!」


 並べられた金属棒を前にして、しっぽドワーフちゃんたちが、小さなトンカチを構える。

 そして――演奏が始まった。


 不思議な音楽、不思議な音色。

 バリ島のガムランみたいな、揺らぎのある金属音。

 それが、元気よく奏でられた。


「ふしぎなおんがくです~」

「わあ……エキゾチックですね!」

「結構迫力あります」


 ハナちゃんは耳をぴこぴこさせて、音楽に聴き入る。

 ユキちゃんの言うとおり、エキゾチックなメロディーだね。

 ヤナさんはその金属音に圧倒されているのか、びっくり顔だ。

 ……確かに、ちいさくて可愛いしっぽちゃんたちだけど、出てくる音は大迫力だ。


「けっこうすげえ」

「キンキラしたおんがくとか、すてき」

「おれのじまんは、ふえだからさんかできないのだ……」


 聴いている他の方々も、その迫力にうっとりだね。

 おっちゃんエルフは、エルフオカリナっぽいやつを取り出してうずうずしているけど。

 でもそのオカリナ、穴が一つしか無いですけど。

 どうやって音階だすのそれ?


「……」

「――」


 そうしてギャラリーがキャッキャしている間も、しっぽドワーフちゃんたちは楽しそうに音楽を演奏していく。

 だんだん、乗ってきたようだ。リズムもノリが良くなってきて、聴いていて心地よい。

 たまに、明らかに音が抜けている所もあるけれど。

 それは、かつては他の世帯が担当していた箇所なんだろうな。

 そんな音が抜けてしまったしっぽドワーフちゃんたちだけど、それでも一生懸命演奏は続く。


 今しっぽドワーフちゃんたちが奏でられる音は、これが限界。

 大事な大事な仲間が抜け落ちてしまった、喪失の証。

 でも、それでもみんなは演奏を止めない。

 今いる仲間たちと、力を合わせて一生懸命、音を奏でる。


 いつか、この音階が全て揃うような。

 そんな未来を、この子たちがつかみ取れたら。

 きっと、もっと楽しい演奏になるだろう。


 そんな未来を目指して、俺も頑張っていこう。

 慌てず急がず無理をせず。でも、着実に。

 この新たな仲間となった、しっぽドワーフちゃんたちの力を、取り戻してあげたい。

 心から、そう思った。


 こうして、しっぽドワーフちゃんたちの演奏に聞き入って。

 楽しいお祭りは、幕を閉じた。



 ◇



 ここはエルフ世界の、湖畔リゾート近くにある仮設住宅ら辺。

 お祭り帰りのしっぽドワーフちゃんたちが、わきゃわきゃと過ごしておりました。


「かあちゃ、お祭り、楽しかったさ~」

「みんな、優しくしてくれたさ~」

「おなか、いっぱいさ~」


 しっぽドワーフちゃんたち、お祭りのお料理を貰って来たみたいですね。

 みんなでしっぽをぱたぱたさせながら、車座になってお料理を食べています。


「でも、音楽が完全じゃなかったのは……ちょっと残念さ~」

「音が足りないから、しかたないさ~?」

「半分も、音が無いさ~。どうにもならないさ~」


 おや、しっぽドワーフちゃんたち、反省会を始めましたね。

 楽しそうに演奏していたあの民族音楽、やっぱり完成度に不満があったようです。

 とはいえ、音階も足りなければ人数も足りないので、これはしょうがないですね。


「このへんは、コツコツと楽器を作っていくさ~」

「そうするさ~」

「ちょっとずつ、完成させていくさ~」


 しっぽドワーフ民族音楽が不完全な点については、まあコツコツやっていくようですね。

 みんな前向きで、良いのではないでしょうか。

 そうして前向きな意見が出るようになったのも、元気が出てきたって事なのかな?

 大志が無理して開催した祭事ですが、ちゃあんとしっぽドワーフちゃんたちに良い影響を与えたようです。


 そんな感じで、わきゃわきゃとお祭りの思い出を語り合っていたみなさんですが……。


「かあちゃ、かあちゃ」


 おもむろに、身長三十センチくらいのしっぽドワーフの子供が、手を挙げました。

 大志に良く懐いていて、一緒に見回りしたあの子ですね。


「かあちゃ、足りない音階……うちにもつくらせてほしいさ~」

「わきゃ? まだ鍛冶をするには、ちょっと早いさ~?」


 手を挙げたその子は、自分でも音階を作ってみたいようですね。

 お母さんドワーフには、まだ早いと言われてしまいましたが。


「かあちゃ、音階の作り方、うちに教えて欲しいさ~。うち、頑張って作るさ~」


 しかし子供ドワーフちゃん、めげずにお願いをしていますね。

 どうしても、自分の手で音階を作ってみたいようです。

 しっぽをピンと立てて、決意のほどがうかがえます。


「わ、わきゃ~……。子供が鍛冶をするのは、大変さ~?」

「うち、頑張るさ~! ……ちょっとは、手伝ってくれると嬉しいさ~?」


 どうやら、子供が鍛冶をするのは大変なようですね。お母さんは心配そうな顔です。

 でも、子供ドワーフちゃんはぐいぐいお願いします。

 お手伝いもちゃっかりお願いするあたり、甘え上手ですね。


「……でも、ちいさいうちに鍛冶を覚えるのは悪くないかもさ~?」

「鍛冶の練習には、音階を作るのが一番さ~」

「うちらも手伝うから、教えてあげたらどうさ~?」


 おや、子供ドワーフちゃんに援軍が出来たようです。

 まわりで話を聞いていたよそのお家のお母さんも、なんだか後押しをしてくれていますね。


「わ、わきゃ~……、そんなに、作りたいさ~?」

「もちろんさ~!」


 周りの後押しもあってか、お母さんも教える気になったようですね。

 子供ドワーフちゃんのやる気を、確認しています。

 当然子供ドワーフちゃんは、やる気十分でお返事しちゃいました。


「それじゃあ……、音階の作り方、イチから教えるさ~」


 やる気を確認できたからか、とうとうお母さんドワーフが折れましたね。

 ちいさな子供に、鍛冶を教える気になったようで。


「わきゃ~! かあちゃ、ありがとさ~!」


 それを聞いた子供ドワーフちゃん、大喜びでわっきゃわきゃですね。

 しっぽをぱたぱた振って、お母さんに抱き着きました。


「明日から始めるさ~。まずは、素材集めから教えるさ~」

「わかったさ~」

「あした、みんなで鉱石探しをするさ~」

「うちらも、いっしょに付き合うさ~」

「ちょうど、道具を作ろうと思ってたところさ~」


 どうやら明日から、音階作りの練習が始まるみたいですね。

 まずは素材集めから、みたいですけど。

 ほかのみなさんも手伝ってくれるようなので、心強いですね。


「わきゃ~! 明日が楽しみさ~」

「お寝坊しないように、今日は早くねるさ~?」

「わかったさ~」


 子供ドワーフちゃん、明日が楽しみでしょうがないみたいですね。

 さてさて、そのテンションで早寝が出来るかな?


 とまあ、そんなこんなで。

 この子達は大丈夫そうですね。しっかりと自活の一歩を踏み出し始めました。

 後は大志がなんとかするでしょうから、見守ってあげましょう。


 …………。


 さてさて。しっぽドワーフちゃんたちも、元気を取り戻して。

 お祭りを見守るお仕事は……これくらいでいいですかね?

 今年は例年より人が多くて、賑やかで大変良かったです。

 これは来年も楽しみですね。


 ――それでは、こっちはこっちで……のんびりしましょう!


 祭壇のお供え物やら、祭りの最中にいくつか貰ったお料理などなど。

 たくさんのご馳走を食べないとね!

 さ~て今年のお酒は、どんな銘酒があるかな~。

 面白そうな野沢菜漬けもちょっと貰ったことだし、これをおつまみにお酒を飲みましょうかね。


それ、大志以外が食べたらあかんやつですよ

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