第十五話 見守るお仕事
構成いじったの忘れて次話のやつが紛れてました
いじくる前のやつは削除しましたが、まあそういうことで
祭りも夕方になって、ゆったりとした雰囲気に。
沢山作った料理をつまみながら、花見酒を楽しむ。
「おはな、きれいだな~」
「はなびらがおちてきて、すてき」
「のんびりだわ~」
エルフたちもようやくお花見に突入して、桜の花びらが舞う光景を楽しんでいるね。
なかなか風流な一時だ。
「きれいです~」
「この村自慢の桜並木だからね。じっくりお花を堪能してね」
「あい~」
ハナちゃんものんびり、お茶とお団子を楽しみながら、花見中だ。
小惑星形状のお団子が混ざってるのは、ご愛敬だね。
(おそなえもの~)
「~」
神輿とわさわさちゃんは、相変わらずお料理を食べ続けている。
たくさんお食べ下さいだね。
ぴかぴかと料理が消えて、神輿がくるくる回っているけど、けっこうな食欲だね。
虹色に光ったり、白く光ったり。
光の色が違うけど、テンションの差なんだろうか?
……まあ、気にすることは無いか。
「今年の祭事も、無事終えられそうだな」
「こんなに大勢が参加した祭事って、初めてじゃない?」
一緒にお酒を飲んでいる親父もお袋が、周りを見渡しながら話している。
確かに、俺の記憶にもこんな賑やかな祭事は、無かったと思う。
「俺んときだって、ここまで賑やかなのは無かったな」
「こんなに大勢お客さんが来るなんて、初めてだものねえ」
「そうさねえ」
爺ちゃん婆ちゃんからも、賑やかのお墨付きだね。
加茂井さんちのお婆ちゃんですら、同意するくらいだ。
やっぱり、今回が初めてのようだ。
しかし、なんで俺の代だけこんなことが起きてるんだろう?
「なんで、こんなにお客さんが来るんだろう?」
「不思議よねえ」
「だよなあ」
ぽつりとこぼすと、お袋も親父も同意してくれた。
この辺、さっぱりわからないね。
でもまあ、大勢の人たちの力になれるのは、悪い気はしない。
無人だった村も賑やかになって、活性化してきて。
人がやってくるごとに、どんどん楽しくなる。
それで、良いんだろう。
俺は訪れた人たちを受け入れてあげれば、それで良いんだと思う。
「色々分からないことは多いけど、ぼちぼちやっていくよ」
「困ったことがあったら言えよ、手伝うから」
親父はいつも通り、手を貸してくれる気満々だね。
頼りになる身内がいて、心強い。
「まあ、あんた人使い荒いから大丈夫よね」
「違えねえ」
「それは間違いないわね」
いい話でまとめようとしたら、お袋が爆弾発言を。
爺ちゃん婆ちゃんも同意して、わははと笑う。
……まあ、だいたい合ってる。自覚はありますん。
…………。
とは言え話がまずい方向に行きそうだから、話題を逸らそう。
ちょうど良い事にユキちゃんがいるから、ちょっとお話をば。
ずっと気になっていた、あの謎の技術で作られた衣装について、訊いてみよう。
「そうそうユキちゃん、そのかっこいい衣装って、どうやって作ってるの?」
「ふふふ、かっこいい……」
衣装を褒めるとご機嫌になったユキちゃんだけど、耳としっぽが出てますよ。
ほら、後ろで加茂井さんのお婆ちゃん、怖い顔してるけど大丈夫?
それ、バレたらダメなやつっぽいよ?
「この衣装はですね、実は――プレス加工で作られているんです!」
「え? プレス加工……?」
なにそれ怖い。プレス加工で服を作るとか、聞いたこと無いよ。
……でもまあ、それなら縫い目ゼロは、可能かも。
何にせよ、渡来の神秘的な存在は、いろいろ技術を持っているようだ。
あんまり深入りしないでおこう。
「不思議だけど、やっぱりかっこいいね。よく似合っているよ」
「フ、フフフフ……」
おっと、しっぽが増えた。わりと位、高いな……。
でも、位の割に隙多すぎない?
「まったく、この娘と来たら……」
「ふふふふ……」
そんなユキちゃんの様子に、加茂井さんのお婆ちゃんもやれやれといった感じだ。
まあ、長い目で見守ってあげてください。
なんにせよ、ご機嫌なのは良いことだからね。
とまあ、しばらくふわふわ揺れるしっぽを眺めて、お酒を楽しんだのだった。
◇
「おっと、つまみが切れた」
「料理も、だいぶ減ってきましたね」
みんなで楽しくお酒を飲んでいたら、だんだん料理も減ってきた。
これは、追加でおつまみを作る必要があるかな?
「ちょっくらおつまみ、作ってこよう」
「あ、それなら私が作りますよ」
おつまみを作ろうとすると、ユキちゃんが名乗り出た。
……せっかくだから、お願いするか。
「それじゃあ、お願い出来るかな?」
「まかせて下さい。実家で良く作る、面白いおつまみがありますので」
「へえ、面白いおつまみか。楽しみだ」
「少々お待ちを」
どうやら、面白いおつまみを作ってくれるらしい。
いそいそと、調理場へ向かうユキちゃんだ。
どんなおつまみが出てくるかな?
そうして待つこと、十分くらい。
「お待たせしました。おつまみ出来ましたよ」
ユキちゃんが、お皿を持ってやってきた。
……どうも、揚げ物っぽいな。
「これって何の揚げ物?」
「ふふふ、それは食べてからのお楽しみですよ」
ユキちゃんわりと自信があるらしい。
それじゃあ、一口食べてみよう。
「では、頂きます」
「どうぞ、お召し上がり下さい」
一つの揚げ物を箸で摘まんで、食べてみる。
すると、よく知ったなじみのある味が口に広がった。
これは……。
「これ、さきいかを天ぷらにしたの?」
「あとは、えのき茸も混ぜてあります。これ、うちのお父さんが大好きなおつまみで、醤油をかけるともっと美味しくなりますよ」
そう言って、さきいかとえのき茸の天ぷらに醤油をかけてくれる。
じゃあこれも、頂きます。
――おお! さきいかの凝縮された旨味が、天ぷらの衣にしみこんでいる。
その衣には醤油味が付いていて、でもくどいしょっぱさが無い。
これは、油でからっと揚げてあるからなんだろうか?
そしてしっかりしたさきいかの食感に、えのきの旨味も合わさって。
きのことイカの旨味が、天ぷらとなって一体になっているね。
「これは美味しい。立派なごはんのおかずになるね」
「うちのお父さん、これをおつまみに出すといっつも飲み過ぎるんです」
「そりゃあ納得だね。これはビールにも日本酒にも合うから」
俺も早速、さきいかとえのきの天ぷらをおつまみに、ビールを流し込んでみる。
揚げ物とビールは相性抜群だけど、さらにさきいかの旨味も合わさっていくらでも飲めちゃうね。
「あや、たしかにこれ、ごはんがすすむです~」
「わきゃ~、これもおいしいさ~」
(ふしぎなおりょうり~)
「~」
いつの間にか、ハナちゃんやしっぽドワーフちゃん、そして神輿とわさわさちゃんも天ぷらを食べている。
結構みんなに好評だね。
しっぽドワーフちゃんはとくに気に入ったようで、次から次へと口に放り込んでいる。
身長三十センチのちいさな子だから、お酒は飲んでいないようだけど。
ハナちゃんや神輿と一緒に、わきゃわきゃと食べているね。
いつの間にか、仲良しさんになっているようだ。
良きかな良きかな。
「あそうそう、口直しに野沢菜漬けもありますので、どうぞ」
「ありがと、やっぱりこれだよね」
ユキちゃん気が利いている。
俺の大好きな、野沢菜漬けもちゃんと用意してあるね。
さっそく野沢菜漬けも摘まんで、さわやかな漬け物の味を楽しむ。
「……どうも最近、効きが弱いような……?」
「ん? 何のこと?」
「ああいえ。こちらの話です」
野沢菜漬けを食べる俺を見て、妙に可愛いユキちゃんがなにやら考え込み始めた。
ぶつぶつと「もう少し濃度を……」とか言っている。
確かに、塩気はもうちょっと濃くても良いかもね。
「わきゃ~……ぜんぶたべちゃったさ~」
「ごはん、ちょっとあまったです?」
(おそなえもの~……)
「~……」
おっと、そんなことを言っているうちに、天ぷらが品切れになったようだ。
子供しっぽちゃんと神輿が、しょんぼりながら空っぽのお皿を眺めている。
ハナちゃんもごはんのおかずが先に無くなってしまい、おろおろしている。
わさわさちゃんは……正直、良くわからない。謎の踊り?
まあなんにせよ、みんなずいぶんと気に入ったみたいだ。
ちょっと食べ足りないって感じだね。
「また作るから、ちょっとまっててね」
「わきゃ~! ありがたいさ~!」
「ユキ、ありがとです~」
(おそなえもの~!)
「~~」
その様子を見たユキちゃん、追加で揚げてくれるようだ。
子供しっぽちゃんと神輿、あとわさわさちゃんも大喜びだね。
ハナちゃんもごはんを片手に、キャッキャしている。
謎の声も心底嬉しそうだから、もうちょっとお待ち下さいだ。
「では、ちょっと揚げてきますね」
「行ってらっしゃい」
たすきをかけて、気合いを入れた妙に可愛いユキちゃん。
いそいそと調理場へと向かっていった。
天ぷらが出来るまでちょっと時間があるから、箸休めで野沢菜漬けでも食べて貰おう。
「みんな、天ぷらが出来るまでこれをつまんでね」
「おつけものです~」
「わきゃ? おやさいさ~?」
(ひかるおそなえもの~)
「~?」
野沢菜漬けのお皿を差し出すと、ハナちゃんとわさわさちゃん、キャッキャと食べ始める。
子供しっぽちゃんも、初めて見る謎の葉っぱ漬けをおそるおそる口に入れて。
神輿はくるくる回りながら、ぴかぴかとあぶだくしょんだ。
……そして謎の声は光るお供え物と言っているけど、光ってはいないよね?
また虹色の光と白い光がきらめいたけど、神様結構な量持ってったな……。
気に入ったのかな?
そして、一通り野沢菜漬けが行き渡ったのだけど……。
「……あや~?」
「わきゃ~?」
(およ~?)
「……?」
なんだか、みんなの様子がおかしい。
ん? 俺を取り囲んだぞ?
――そして十分後。
「大志さん、天ぷらが出来ました……て、何これ?」
妙に可愛いユキちゃんが、出来立て熱々の天ぷらを持ってきてくれた。
だけど、俺の様子を見て首を傾げている。
「みょうにかわいいです~」
「わきゃ~、かわいいさ~」
(すてき~)
ハナちゃんが足にしがみつき、子供しっぽちゃんが腕にしがみつき、神輿は頭にしがみつき。
わさわさちゃんも、服にしっかりひっついて。
みんな離れない。
「……良くわからないけど、お祭りの気分に当てられたのかな?」
「はあ……」
妙に可愛いユキちゃん、訳が分からなそうだ。そして俺も分からない。
まあ、好きにさせておこう。
子供たちに懐かれるのは、俺も悪い気はしないからね。
……神輿とわさわさちゃんは子供の分類に入れて良いのか、よく分からないけど。
「うふ~」
「わきゃ~」
(やすらぐ~)
「~」
そうしてしばらくの間、みんなをひっつけたまま過ごしたのであった。
◇
夕方も過ぎて、辺りも暗くなってきて。
夜の部の始まりだ。もう少し騒いだら、お祭りも終わりだね。
締めくくりは、みんなでのんびり映画でも見て過ごそうかと思う。
というわけで、ミニプロジェクターを設置だ。
スクリーンに映像を映して、のんびり眺めよう。
「あにめ! あにめのじかんよ~!」
設置している間は、あにめさんがめっちゃ大はしゃぎだ。
彼女は今までじっと、このときを待っていたのだ。
まあ、ずっとキュア的なコスプレしたまんまだから、めっちゃ目立ってたけど。
「おれもさいきん、あにめってやつハマりはじめたわ」
「わたしも」
「やきものに、あにめのえってかいたらだめなのかな?」
「こんどやってみましょうよ」
そして平原の焼き物研修生のみなさんも、あにめさんに影響され始めている。
休憩時間に、一緒にテレビをみていたんだろうな。
……大丈夫かな、この人たち。
ちたまにっぽんの趣味でも、わりとディープな領域に足を踏み入れてないかな?
……まあ、気にしないことにしよう。
佐渡島が、アニメコスプレのダークエルフ活動場所になっても、気にしないでおこう。
気にしたらいけないんだ。そうだ、何も問題は起きていないんだ。
「おっし、上映始めるぜ」
「まってましたああああああ!」
そうこうしているうちに準備が終わり、あにめさん待望のキュア的なやつが上映される。
そしてここでサプライズでございます。
本日上映するのは、なんと劇場版。
去年上映された、オールスターズのやつでございます。
「……あれ? なんだかいつものあにめと、ちがう?」
劇場版ですから。
「まじょっこ、たくさん?」
オールスターズですから。
「ちなみにこれ、一時間くらいある映画版ってやつで、見応えバッチリです」
「キャー!」
劇場版であることを教えると、あにめさん飛び上がって喜ぶ。
でもまあ、鼻血を出すほど興奮しなくても……。
「すいません、とりみだしました」
「いえいえ、ゆっくり鑑賞してください」
「はい……」
いまさら取り繕っても無駄だけど、あにめさん大興奮なのはよくわかった。
このまま、ゆるりとご鑑賞下さいだね。
というわけで、アニメ鑑賞会が始まる。
「キャー! そこでまほうよー!」
「わりとはくりょくある」
「おもしろいな~」
劇場版とは言え子供向けアニメ映画だから、そう長い放映時間でもない。
あにめさんはテンションMAXだけど、ギリギリ完走可能かな?
そして他のみなさんも、のんびりとアニメ映画を鑑賞中だ。
「わ、わきゃ~! これはなにさ~!?」
「ひとが、うらっかわにいるさ~?」
「うらっかわに、なにもないさ~!?」
しかししっぽドワーフちゃんたちは、ちょっとパニック。
わきゃきゃっと走り回って、スクリーンの裏を覗いたり慌てたりと忙しい。
……そういえば、この子たちに映写機とか説明してないな。
「あ~これはね、こういうかんじのきかいなの」
「わきゃ? これ、なにさ~?」
「パラパラマンガっていってね、こうしてこう……」
「わきゃ~! えが! えがうごいたさ~!」
あ、カナさんがアニメの原理を説明してくれた。
パラパラ漫画を見せて、あれこれ教えているね。
……あれたぶん、自分の絵を見せたかったんじゃないか?
カナさんも、この瞬間を虎視眈々と狙っていたぽいぞ?
「わ、わきゃ~、すごいもよおしさ~」
「わけがわからないさ~」
「ここは、ふしぎなところさ~」
そしてしばらくして、しっぽドワーフちゃんたちも落ち着いて。
キラキラした目で、アニメ映画を見始める。
そうそう、深いことは考えずに、お楽しみ下さいだ。
……あとで、写真とかも教えておこう。
しっぽドワーフちゃんたちも、楽しい思い出をたくさん写真に残すことが出来れば。
きっと、これからの生活にもっと彩りが生まれるだろう。
楽しい思い出、たくさん写真に残してあげられれば、良いな。
「わきゃ~! そらをとんださ~」
「なぞのひとさ~!」
「おもしろいさ~!」
「まほう、かっこいいわ~!」
だんだんとアニメを楽しみ始めた、しっぽドワーフちゃんたちだ。
しっぽをぱたぱた振って、あにめさんと一緒に応援を始めている。
賑やかで良いね。祭りの趣旨とも合っている。
この調子で、どんどん村に溶け込んで貰いたい。
「わきゃ~! わきゃ~!」
そうしてアニメ鑑賞中は、しっぽドワーフちゃんたち、はしゃぎっぱなしだった。
楽しい思い出、出来たかな?
まあ一番はしゃいでいたのは、あにめさんだけどね。
はしゃぎすぎて、また鼻血を出していた。
大丈夫なのかな?
◇
「まんぞくしました~」
そしてアニメの上映が終わり、おおはしゃぎのアニメさんが鼻血を拭いて。
ゆったりとした雰囲気の中、そろそろお祭りは終わりかなって雰囲気になってきた。
ちょうど良いから、ぼちぼち帰る準備でもしようかな?
と、考えていたところ――。
「――タイシさん、タイシさん」
一人のしっぽドワーフちゃんが、俺を見上げて名前を呼んできた。
リーダー格である、あのお母さんドワーフだね。
どうしたのかな?
「どうしたの? 何かあった?」
「うちらも、なにかだしものして、いいさ~?」
「出し物?」
「おれいに、うちらもなにかしたいさ~」
……どうやら、お礼に何か出し物をしたいらしい。
そう思えると言うことは、お祭りを楽しんでくれたって事かな?
せっかくだから、みんなの出し物を見せて貰おうか。
祭りの締めくくりにもちょうど良さそうだし、お願いしてみよう。
「それじゃあ祭りの締めくくりに、みんなの出し物を見せて欲しいな」
「わきゃ~! それじゃあ、みんなでやるさ~!」
出し物にオーケーを出すと、お母さんドワーフは仲間の所へと走って行った。
そして、わきゃわきゃと打ち合わせを始める。
「……大志さん、あの子たちが集まってますけど、どうしたのですか?」
ユキちゃんも気になったのか、状況を訊いてきた。
これからしっぽドワーフちゃんたちの出し物が始まることを、教えておこう。
「ああいや、出し物をしたいって言って来たから、オーケー出したところ」
「へえ、出し物ですか」
「お祭りの締めくくりには、良いイベントかなって思ってさ」
「それは良いですね。最後に盛り上げるイベント、楽しそうです」
ユキちゃんも興味を持ったのか、しっぽドワーフちゃんたちをニコニコとみている。
「あや、なんだかたのしいこと、はじまりそうです~」
ハナちゃんも雰囲気に釣られてか、キャッキャしているね。
さてさて、どんなイベントになるか、楽しみに待ちましょう。
ということで、しばらくの間しっぽドワーフちゃんたちの準備を見守る。
着々と準備を整えているようで、なにやら銀色の金属棒を取り出しているね。
あと、同じく銀色のトンカチみたいなのも。
あれで何をするんだろう? ちょっと訊いてみるか。
「ねえ、それって何かな?」
「これは、がっきさ~」
「楽器? もしかして、その金属棒を叩いて音を出すの?」
「そうさ~。うちらも、おまつりでよくやるさ~」
訊いてみると、どうやら楽器のようだ。
わきゃわきゃと鉄の棒を並べて、だんだん構成が分かってくる。
確かに、金属棒はそれぞれ長さが違う。
音階があることは見れば分かるね。
ただ、その金属棒の並びには……若干の違和感がある。
並べられる金属棒が、なんだか不揃いなのだ。
歯の抜けた鉄琴のように、音階が抜けているような印象が……。
これ、何でだろう?
「この楽器、音がいくつか欠けてない? こことか、となりの長さがかなり違うよね?」
「これは……よそのおうちの、たんとうぶんだったさ~」
「よそのお家の担当分? てことは、各世帯で音に担当があったの?」
「そうさ~。そのひとたちは、ふねでおひっこししちゃったさ~」
そう言って、ちょっと寂しそうな顔をする、お母さんドワーフちゃんだ。
なるほど、この楽器は……各世帯が音階を担当するんだ。
そして集落全体で音階を持ち寄って、一つの楽器として完成する。
そこに暮らす人々全員が力を合わせて、初めて成り立つ音楽文化なんだな。
団結力を養うために出来た、素敵な文化なのかもしれない。
しかし、今はもう……それが叶わない。
集落はバラバラになってしまって、音階は揃わない。
この飛び飛びの長さの金属棒が示すのは、そう言うことだ。
「……なるほど、そう言うことなんだ。でも、これでも演奏は出来るんだよね?」
「もちろんできるさ~。いまいるみんなで、ちからをあわせるさ~」
演奏が出来るか訊いてみると、お母さんドワーフは元気に答えてくれた。
さっきの打ち合わせでは、その辺を話していたんだろうな。
……仲間は離ればなれになってしまったけど、それでも今いる仲間たちで力を合わせて。
今ある音階を持ち寄って、一つの楽器を作り上げる。
これは、しっぽドワーフちゃんたちの、ひとつの覚悟の証なんだ。
今いる仲間たちと、協力していく。ここで暮らしていく。そんな、覚悟。
俺たちに演奏を聴いて貰いたいというのは、そういう事なんだろう。
たとえ音階が抜けていたって、前に進む。
そんな覚悟が、伝わってきた。
「みんなで力を合わせた演奏、漏らさず聴くね。思いっきり演奏して、構わないから」
「わかったさ~! がんばって、えんそうするさ~!」
にっこりと微笑む、お母さんドワーフだ。
この辺は、母は強しって事なのかもね。
そうして準備が整い、みんなも集まってきて。
いよいよ、しっぽドワーフちゃんたちの、民族音楽演奏の始まりだ。
「じゅんび、できたさ~」
「えんそう、するさ~」
「では、いくさ~!」
並べられた金属棒を前にして、しっぽドワーフちゃんたちが、小さなトンカチを構える。
そして――演奏が始まった。
不思議な音楽、不思議な音色。
バリ島のガムランみたいな、揺らぎのある金属音。
それが、元気よく奏でられた。
「ふしぎなおんがくです~」
「わあ……エキゾチックですね!」
「結構迫力あります」
ハナちゃんは耳をぴこぴこさせて、音楽に聴き入る。
ユキちゃんの言うとおり、エキゾチックなメロディーだね。
ヤナさんはその金属音に圧倒されているのか、びっくり顔だ。
……確かに、ちいさくて可愛いしっぽちゃんたちだけど、出てくる音は大迫力だ。
「けっこうすげえ」
「キンキラしたおんがくとか、すてき」
「おれのじまんは、ふえだからさんかできないのだ……」
聴いている他の方々も、その迫力にうっとりだね。
おっちゃんエルフは、エルフオカリナっぽいやつを取り出してうずうずしているけど。
でもそのオカリナ、穴が一つしか無いですけど。
どうやって音階だすのそれ?
「……」
「――」
そうしてギャラリーがキャッキャしている間も、しっぽドワーフちゃんたちは楽しそうに音楽を演奏していく。
だんだん、乗ってきたようだ。リズムもノリが良くなってきて、聴いていて心地よい。
たまに、明らかに音が抜けている所もあるけれど。
それは、かつては他の世帯が担当していた箇所なんだろうな。
そんな音が抜けてしまったしっぽドワーフちゃんたちだけど、それでも一生懸命演奏は続く。
今しっぽドワーフちゃんたちが奏でられる音は、これが限界。
大事な大事な仲間が抜け落ちてしまった、喪失の証。
でも、それでもみんなは演奏を止めない。
今いる仲間たちと、力を合わせて一生懸命、音を奏でる。
いつか、この音階が全て揃うような。
そんな未来を、この子たちがつかみ取れたら。
きっと、もっと楽しい演奏になるだろう。
そんな未来を目指して、俺も頑張っていこう。
慌てず急がず無理をせず。でも、着実に。
この新たな仲間となった、しっぽドワーフちゃんたちの力を、取り戻してあげたい。
心から、そう思った。
こうして、しっぽドワーフちゃんたちの演奏に聞き入って。
楽しいお祭りは、幕を閉じた。
◇
ここはエルフ世界の、湖畔リゾート近くにある仮設住宅ら辺。
お祭り帰りのしっぽドワーフちゃんたちが、わきゃわきゃと過ごしておりました。
「かあちゃ、お祭り、楽しかったさ~」
「みんな、優しくしてくれたさ~」
「おなか、いっぱいさ~」
しっぽドワーフちゃんたち、お祭りのお料理を貰って来たみたいですね。
みんなでしっぽをぱたぱたさせながら、車座になってお料理を食べています。
「でも、音楽が完全じゃなかったのは……ちょっと残念さ~」
「音が足りないから、しかたないさ~?」
「半分も、音が無いさ~。どうにもならないさ~」
おや、しっぽドワーフちゃんたち、反省会を始めましたね。
楽しそうに演奏していたあの民族音楽、やっぱり完成度に不満があったようです。
とはいえ、音階も足りなければ人数も足りないので、これはしょうがないですね。
「このへんは、コツコツと楽器を作っていくさ~」
「そうするさ~」
「ちょっとずつ、完成させていくさ~」
しっぽドワーフ民族音楽が不完全な点については、まあコツコツやっていくようですね。
みんな前向きで、良いのではないでしょうか。
そうして前向きな意見が出るようになったのも、元気が出てきたって事なのかな?
大志が無理して開催した祭事ですが、ちゃあんとしっぽドワーフちゃんたちに良い影響を与えたようです。
そんな感じで、わきゃわきゃとお祭りの思い出を語り合っていたみなさんですが……。
「かあちゃ、かあちゃ」
おもむろに、身長三十センチくらいのしっぽドワーフの子供が、手を挙げました。
大志に良く懐いていて、一緒に見回りしたあの子ですね。
「かあちゃ、足りない音階……うちにもつくらせてほしいさ~」
「わきゃ? まだ鍛冶をするには、ちょっと早いさ~?」
手を挙げたその子は、自分でも音階を作ってみたいようですね。
お母さんドワーフには、まだ早いと言われてしまいましたが。
「かあちゃ、音階の作り方、うちに教えて欲しいさ~。うち、頑張って作るさ~」
しかし子供ドワーフちゃん、めげずにお願いをしていますね。
どうしても、自分の手で音階を作ってみたいようです。
しっぽをピンと立てて、決意のほどがうかがえます。
「わ、わきゃ~……。子供が鍛冶をするのは、大変さ~?」
「うち、頑張るさ~! ……ちょっとは、手伝ってくれると嬉しいさ~?」
どうやら、子供が鍛冶をするのは大変なようですね。お母さんは心配そうな顔です。
でも、子供ドワーフちゃんはぐいぐいお願いします。
お手伝いもちゃっかりお願いするあたり、甘え上手ですね。
「……でも、ちいさいうちに鍛冶を覚えるのは悪くないかもさ~?」
「鍛冶の練習には、音階を作るのが一番さ~」
「うちらも手伝うから、教えてあげたらどうさ~?」
おや、子供ドワーフちゃんに援軍が出来たようです。
まわりで話を聞いていたよそのお家のお母さんも、なんだか後押しをしてくれていますね。
「わ、わきゃ~……、そんなに、作りたいさ~?」
「もちろんさ~!」
周りの後押しもあってか、お母さんも教える気になったようですね。
子供ドワーフちゃんのやる気を、確認しています。
当然子供ドワーフちゃんは、やる気十分でお返事しちゃいました。
「それじゃあ……、音階の作り方、イチから教えるさ~」
やる気を確認できたからか、とうとうお母さんドワーフが折れましたね。
ちいさな子供に、鍛冶を教える気になったようで。
「わきゃ~! かあちゃ、ありがとさ~!」
それを聞いた子供ドワーフちゃん、大喜びでわっきゃわきゃですね。
しっぽをぱたぱた振って、お母さんに抱き着きました。
「明日から始めるさ~。まずは、素材集めから教えるさ~」
「わかったさ~」
「あした、みんなで鉱石探しをするさ~」
「うちらも、いっしょに付き合うさ~」
「ちょうど、道具を作ろうと思ってたところさ~」
どうやら明日から、音階作りの練習が始まるみたいですね。
まずは素材集めから、みたいですけど。
ほかのみなさんも手伝ってくれるようなので、心強いですね。
「わきゃ~! 明日が楽しみさ~」
「お寝坊しないように、今日は早くねるさ~?」
「わかったさ~」
子供ドワーフちゃん、明日が楽しみでしょうがないみたいですね。
さてさて、そのテンションで早寝が出来るかな?
とまあ、そんなこんなで。
この子達は大丈夫そうですね。しっかりと自活の一歩を踏み出し始めました。
後は大志がなんとかするでしょうから、見守ってあげましょう。
…………。
さてさて。しっぽドワーフちゃんたちも、元気を取り戻して。
お祭りを見守るお仕事は……これくらいでいいですかね?
今年は例年より人が多くて、賑やかで大変良かったです。
これは来年も楽しみですね。
――それでは、こっちはこっちで……のんびりしましょう!
祭壇のお供え物やら、祭りの最中にいくつか貰ったお料理などなど。
たくさんのご馳走を食べないとね!
さ~て今年のお酒は、どんな銘酒があるかな~。
面白そうな野沢菜漬けもちょっと貰ったことだし、これをおつまみにお酒を飲みましょうかね。
それ、大志以外が食べたらあかんやつですよ




