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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十六章 当たり前すぎて、気づかなかったこと
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第十四話 イトカワちゃんのお悩み


 祭りも後半戦に突入し、お料理大会が始まった。


「ほくほくさ~!」

「このほくほくおりょうり、おいしいさ~」

「たくさんたべるさ~」


 お料理大会では、しっぽドワーフちゃんたちが大好きなじゃがいも料理も作られた。

 今はしっぽをぱたぱた振って、それらの料理を堪能している。


「即興で献立を増やしてみたけど、良い感じだね」

「好評で良かったです」

「あたらしいおりょうり、おぼえたです~」


 ドワーフちゃんたちにお料理を配膳しているユキちゃんも、ほくほく顔だね。

 ハナちゃんも一緒にお料理したので、レパートリーが増えてほくほく顔だ。


「こっちのおりょうりも、もうすぐできるわ~」

「たのしみにしててね」

「たくさんつくるの」


 お料理自慢の奥様方も、楽しそうに料理をしている。

 分厚いお肉を慎重に焼いていたり、揚げ物を揚げたり。

 ガスを使っている腕グキさんとステキさんは、なんと中華料理。

 火力に物を言わせて、チャーハンを鮮やかに炒めている。


「……いつの間に中華料理を」

「野沢菜チャーハンを教えたら、他のも知りたいと言われまして」

「おりょうりやさんのエビチリ、とってもおいしいです~」


 どうやらユキちゃんが中華料理を教えたようだけど、野沢菜チャーハンが切っ掛けだったのね。

 ハナちゃん情報によると、エビチリまで提供しているとな。

 俺の知らないうちに、あのお料理屋さんがどんどん本格的になってきているようだ。


「おかあさん、ぎょうざもやけたよ」

「うまくできたわね~」


 おおう、餃子まで。ぱりっぱりの羽根が付いていて、しっかり焼けている。

 二人とも、どんどん料理のレパートリーを増やしているみたいだね。


「あの二人も、専門家になってきたんだね」

「そうですね。もう、お料理で身を立てていけると思います」

「ふたりとも、がんばってるです~」


 母子家庭で、色々苦労していたあの二人。

 今や、手に職をつけて身を立てていけるようになった。

 しかもこれは、特に行政組織の支援無しにだ。

 ハナちゃんの提案から始まった、村初めての専門店。

 しっかりと、地に足をつけて成長しているね。


「あのときのハナちゃんの提案、ちゃあんと育ったね」

「うまくいったです~」


 ハナちゃんもにこにこ笑顔で、腕グキさんとステキさんを見守っている。

 自分の提案が実を結んで、嬉しそうだね。


「これからも、誰かが幸せになるような提案、考えていこうね」

「あい~!」

「私も協力します」


 イキイキと料理をする腕グキさん親子を見て、一つの成果を確認できて。

 これからも村の運営を頑張っていこうと、確認できた時間だった。



 ◇



「それでは、ハナもおりょうりするですよ~」

「がんばってね」

「あい~!」


 さて、お次はハナちゃんのお料理だ。


「おれのじまんのどき、じゅんびしといた」

「ありがとうです~」


 おっちゃんエルフ自慢の土器を借りて、土器煮込みだね。

 エルフ郷土料理のスープカレーが、ハナちゃんのお料理になるわけだ。


「おやさい、にこむです~」


 そしていつの間にか点火され、土器と中の水が加熱されている……。

 ハナちゃんの火起こし技、点火の瞬間が分からないレベル。

 熟練しすぎでしょ……。


「トマト、ナスにくんせい、にんじんじゃがいも、にこむです~」


 あっけにとられているうちに、ハナちゃんどんどん具材を投入していく。

 ぽいぽいと土器に投入されるお野菜は、下ごしらえ済みだ。


「あじつけは~、ちょっとからくするですよ~」


 謎の歌を歌いながら、ハナちゃんご機嫌で色んな食材を煮込んでいく。

 慈姑(くわい)っぽい食感のトゲトゲの枝、蛍光色に光るじゃがいもみたいな実も投入された。

 これらは具材というより、実はスパイスの役目を果たしているっぽいな……。

 そして謎の葉っぱ、見たことも無いハーブをぽいぽいと、土器に放り込んでいくね。


「タイシ、もうすぐできるです~」

「楽しみだね」

「もうちょっとです~」


 うふうふと、ハナちゃんが進捗を教えてくれる。

 だいたいの食材は下ごしらえ済みなので、そうそう長時間煮込むわけじゃないみたいだ。

 だんだんとスープが琥珀色になってきて、良い感じだね。


「あとは、いいかおりをつけるです~」


 仕上げに入ってきたのか、クミンとコリアンダーが投入された。

 カレーのあの香りをつける、欠かせないスパイスだね。

 ちたまの食材とエルフ食材を組み合わせた、二つの世界の架け橋となる料理。

 ハナちゃんカレーは、そんな不思議な料理だ。


「いいかおりです~」

「美味しそうだね」

「あい~!」


 そんなこんなで、ハナちゃんの土器煮込みは着々と完成に近づき。

 固唾を飲んで見守る中、ハナちゃんがお玉でずずずっと味見をする。


「――できたです~!」


 にぱっと笑顔で、完成の宣言が出ました。

 出ちゃいました。


「タイシタイシ~、どうぞです~」

「ハナちゃんありがと」

「ユキもどうぞです~」

「ありがとね」


 ハナちゃんうっきうきで、器によそってくれる。

 お野菜たっぷり、良い香りのする琥珀色のスープ。

 香りはまさにカレーで、ぐっと食欲をかき立てるね。


「それじゃあ、一緒に食べようか」

「あい~!」

「では、頂きます」


 ハナちゃんきたいのまなざしで、俺が食べるのをまちわびる。

 それじゃあ――頂きます!


 野菜の旨味に、トマトの酸味。スープの辛みに、エルフ燻製の甘み。

 複雑に絡み合ったこれらの旨味が、刺激的なスパイスの味によって統一される。

 ただ辛いだけでは無い。甘みも辛みも、酸味も苦みも全て受け入れた、深みのあるスープ。

 とろみはなくサラサラで、でも口の中に濃厚なコクが残る。

 そんな濃厚なスープをたっぷり吸った、じゃがいもやナス、そしてにんじんが様々な食感を与えてくれて、噛むごとに色んな味がしみ出す。

 特にエルフ燻製が、燻製独特のスモーキーな香りと共に舌の上でとろけて、絶品だ。


 二口目はご飯と一緒に食べてみる。

 スプーンにご飯をのせて、この濃厚なカレースープに浸す。

 たちまちご飯がスプーンの上でほどけて、たっぷりスープが絡んで。

 スープでひたひたになったご飯を口に入れると――ご飯の淡白な甘みが、辛めのスープにより深みを与えてくれる。

 濃厚なスープがご飯の淡白さを包み込み、カレーの味が一気に広がる。

 これは美味しいね。以前のハナちゃんスープカレーより、深みがずっと増している。


「ハナちゃん、また美味しくなったね。深みがあるよ」

「うふ~」

「あ、本当ですね。お野菜の出汁がとっても良く出ています」

「ぐふふ~」


 ハナちゃんも一口食べて、出来映えにご満悦だ。

 スプーンをくわえたまま、あっという間にぐにゃっている。


「美味しそうな匂いだね。ハナ、僕も食べて良いかな」

「わたしもたべるわ」

「あい~!」


 ヤナさんとカナさんも参加して、ハナちゃんスープカレーのお食事会だ。


「わきゃ~、いいにおいさ~」

「これも、たべていいさ~」

「どうぞです~!」


 カレーの香りに誘われて、しっぽちゃんたちもやってきた。

 ハナちゃんご機嫌で、カレーを配っているね。


「わきゃ! ふしぎなあじがするさ~!」

「おいしいさ~」

「こんなおりょうり、はじめてさ~!」


 しっぽちゃんたちはカレーの味が初めてらしく、わきゃわきゃと大はしゃぎだね。

 お代わりを貰っている所を見ると、美味しかったようだけど。


「あら、それおいしそうね~」

「ひとくちいいかしら」

「おいしそうだね! おいしそうだね!」

「どうぞです~!」


 やがて他の方々もハナちゃんカレーを貰いに来て、大人気メニューになった。

 たくさん作ってあったカレーが、見る間に減っていく。


「ハナちゃんのカレー、大人気だね」

「ぐふふ~、ぐふふ~」

「ご飯が進みますね」


 自分のカレーが大人気で、ハナちゃんご機嫌だ。

 ぐんにゃり度も拍車がかかって、自立不可能状態だね。


「ハナちゃん、お料理どんどん上手になってるね」

「ぐふ~」


 もうぐふぐふとしか言わなくなっているハナちゃんけど、ご機嫌でなによりだ。

 お祭り後半戦、出だしは快調だね。

 この調子で、のんびりお祭りを進めていこう。


「じゃあハナちゃん、もう少ししたら他のお料理も食べて回ろうね」

「ぐふ~」


 ……ハナちゃんが復活するまで、しばらく時間がかかりそうだ。



 ◇



「それじゃあ次は、お魚食べてみようか」

「あい~!」

「ドワーフさんたちの所で、焼いているみたいですね」


 三十分くらいでようやくハナちゃんが復活したので、巡回がてらお料理を食べに回ることにした。

 まずは、ドワーフちゃんたちの所でお魚料理を食べてみよう。

 ということで、わきゃわきゃと賑やかな一角へと足を運ぶ。


「ごうかな、やきざかなさ~!」

「おさかな! おさかなさ~!」


 果たしてそこでは、ドワーフちゃんたちがお魚の味噌漬けをしっぽふりふりで食べていた。

 楽しみにしていた料理だけに、テンションMAXだね。


「みんな、お魚の味噌漬けは気に入ったかな?」

「さいこうさ~!」

「あじがこくて、おいしいさ~!」

「おさけ、すすむさ~!」


 話しかけてみると、ドワーフちゃんたちはわっきゃわきゃで答えてくれた。

 ……スピリタスを飲みながら、川魚の味噌漬け焼きをおつまみにしているね。

 納豆も人気のおつまみのようで、みんなご機嫌だ。


「これだけでも、おさけがすすむさ~」

「おみそ、しょっぱくていいさ~」

「いくらでも、のめちゃうさ~」


 さらに、味噌だけをおつまみにしている子も。

 香りの強いおつまみを、スピリタスでさっぱりさせる。

 そんな飲み方なんだろうか?

 まあ、美味しく飲めているならそれで良いか。

 それじゃ、俺たちもお魚を頂こう。


「自分たちも、お魚を食べて良いかな?」

「もちろんさ~。いま、おいしくやくさ~」

「ちょっとまっててほしいさ~」


 どうやら焼きたてを食べさせてくれるらしく、いそいそと七輪で焼き始めた。

 ……あれ? 七輪の使い方教えて無いんだけど。


「みんな、その道具の使い方、良くわかったね」

「キバのあるひとから、おそわってたさ~」

「みずうみにひっこしたとき、いろいろおしえてくれたさ~」

「ありがたいさ~」


 ……キバのある人? ああ、リザードマンか。

 どうやら、湖に仮設住宅を設置した後、なにくれとなく面倒を見てくれていたらしい。

 あとでリザードマンたちには、お礼をしておかないとね。


「あの人たちも水が得意だから、色々気が合うかもね」

「おさかながたくさんとれるところ、あんないしてくれたさ~」

「なかよしさ~」


 聞くところによると、ドワーフちゃんたちとリザードマンたち、けっこう交流が盛んぽいね。

 水棲で暮らしている同士、気が合うんだろう。

 この調子で、仲良く過ごして貰えるとありがたい。

 そして俺も、ドワーフちゃんたちの生活をきっちりサポートしてあげないとね。


「何か困ったことや必要な物があったら、遠慮無く言ってね」

「ありがたいさ~」

「たすかるさ~」


 ぱたぱたとしっぽを振って、感謝の意を伝えてくるドワーフちゃんたちだ。

 もうすっかり、こちらを信頼してくれているね。

 この信頼を裏切らないよう、しっかりやっていこう。



 ◇



「おさかな、おいしかったです~」

「良い焼き加減だったね」

「ドワーフさんたち、ずいぶんくだけて来て良かったです」


 しっぽドワーフちゃんたちから、お魚をご馳走になって。

 ほくほく顔でお腹もいっぱいだ。

 それじゃあ次は、デザートとしゃれ込もう。


「次は甘い物とかどう?」

「いいかもです~」

「では、妖精さんたちのところですね」


 甘い物と言えば、妖精さん。

 というわけで、桜がたくさん咲いている一角へと足を運ぶ。

 すると、そこでは……。


「おだんごおいしいね! おいしいね!」

「どんどんおたべ~」

「すごいしょくよくだね! すごいね!」


 アゲハちゃんが、相変わらずお団子を高速で消費していた。

 まわりの妖精さんがお団子を量産し、アゲハちゃんが消費しまくる。

 この子、どんだけ大食らいなの……。


「あの体のどこに、あんなに食べ物が入るのでしょうか……」

「すごくたべてるです~」


 ユキちゃん、アゲハちゃんを見て首を傾げる。

 明らかに体の大きさから想定される容量を、かなり上回る量食べているからね。

 でもまあ、このからくりは、俺ならわかっちゃったりする。

 アゲハちゃんの羽根を見ると、妖精パワーの流れに特徴があるからだ。

 この辺ちょっと、説明しておこう。


「あの子、食べたそばから妖精パワーに変換しているんだ。だから、理論上はいくらでも食べられるかもね」


 アゲハちゃんの羽根をよく見ると、食べているとき常に妖精パワーを循環させている。

 食事によって得たエネルギーを即座に謎パワーに変換し、エネルギーとして貯蔵しているぽい。

 だからこそ、衛星フェアリンを一周するくらいの力があるのかなと思う。

 たくさん食べて、力をたくさん蓄えられる。そんな特技をもった子なんだろう。


「わあ……いくらでも食べられるなんて、夢のような話ですね……」

「あや~、たいへんそうです~」


 俺の話を聞いて、ユキちゃんとハナちゃんはそれぞれの反応を示した。

 基本はちたまの存在であるユキちゃんは、別腹というものは無いわけだ。

 お太りあそばされる懸念が常にあるだけに、いくらでも食べられるというのはあこがれなんだろう。


 そしてハナちゃんは、大変そうという感想を述べた。

 食料が限られている生活をしてきただけに、ユキちゃんとは正反対の反応だね。

 いくらでも食べられるというのは、常に飢えと背中合わせでもある。

 実際去年の今頃は、お腹を空かせて灰色の森をさまよっていたわけだ。

 色々思うところは、あるんだろうな。


 ……そんなハナちゃんの意見を聞いて、俺もちょっと気づいたことがある。

 なぜアゲハちゃんが、お団子を求めて衛星フェアリンを飛び回っているのか。

 これはもしかして……大食らいだから、一カ所に留まれないのでは無いだろうか。


 大自然の恵みは、採取すると回復を待つ必要がある。

 しかしアゲハちゃんの消費量では……その回復まで、待つことが難しいのでは?

 だからこそ、フェアリンを飛び回って、食べ物があるところを転々とする必要がある。

 大きな力を維持するには、それだけたくさんの何かが必要で。

 力強くて陽気なアゲハちゃんだけど、色々大変なのかもしれないな。


「……たくさん食べて、お腹いっぱいにしてね」

「ありがと! ありがと!」

「た~んとおたべ~」

「しっぱいしたやつ~……」


 サクラちゃんもイトカワちゃんも、そんなアゲハちゃんの状況を分かっているのかもしれない。

 次々にお団子をあげて、食べさせている。

 ……イトカワちゃんのは、小惑星形状のやつしかないんだけど。

 イトカワちゃんの成功作、そういや見たこと無いな……。


「――!? たまにだよ! たま~にしっぱいするだけ~!」


 小惑星お団子を微妙な表情で見ていると、イトカワちゃんに感づかれた。

 しきりに「たまに失敗するだけ」アピールを開始する。

 さよかさよか。


「いっつもこれだよね? これだよね?」

「まるいやつ、みたことない? みたことない?」

「きゃ、きゃい~……」


 そんなイトカワちゃんに、アゲハちゃんとサクラちゃんがとどめをさす。

 ……やっぱり、いっつもこれなんだ。

 イトカワちゃん、秘密? を暴露されてガックシ。

 妖精さんのプライド的に、譲れない物があったらしいけど……。


「ま、まあ、曲げる事に関しては一番だからね。そこを誇りにしていこう」

「きゃい~! そうだよね! そうだよね!」


 フォローすると、速攻機嫌を取り戻すイトカワちゃんだ。

 わりとチョロい、チョロフェアリーである。

 でも、ご機嫌な所悪いけど、また小惑星作ってるね……。

 丸くこねるのは、やっぱり苦手なようで。


 …………。

 いや、まてよ? お団子にこだわる必要、無いんじゃないか?

 イトカワちゃんは、こねるのは苦手だけど、曲げるのは得意で。

 それなら、曲げを活かしたお菓子作りをすれば、良いのでは?


 そして曲げを活かすお菓子となれば、一つよさげな物があるな……。


「あえ? タイシなにかおもいついたです?」

「楽しそうな顔になってますね」


 ぐふぐふとプランを練っていると、ハナちゃんとユキちゃんも興味がわいたようだ。

 ニコニコとこちらを見上げている。

 二人にも相談して、イトカワちゃんの新たな可能性を、探してみよう。


「ちょっと、おもしろい菓子作りを試してみようと思ってね」

「あえ? おもしろいおかしです?」

「それ、興味がありますね」


 おもしろいお菓子作りと言うと、ハナちゃんもユキちゃんも興味津々だ。

 これはすぐ出来るやつだから、結果もすぐに分かるだろう。

 ふふふ、イトカワちゃん。

 君の新しい可能性、見せて貰おうじゃ無いか。



 ◇



「どんどんまげるね! まげちゃうよ!」

「きれいなかたちだね! きれいだね!」

「おもしろいね! ちょうちょさんだね!」


 今、イトカワちゃんの周りには、たくさんの――飴細工があった。

 イトカワちゃんは、ご機嫌で様々な造形の飴細工を作っている。


 妖精さんは、色んな物をこねられる。

 飴を加熱せずにこねることも可能で、固いキャンディーをぐにぐにこねてしまうことが可能だった。

 であるならば、飴細工とかイトカワちゃんにぴったりだと思ったわけだ。


「わあ、これはフクロイヌですね」

「じょうずにできてるです~」


 果たして目論見は当たり、イトカワちゃんはご機嫌で飴をこね、飴を曲げて。

 そして、様々な飴細工を生み出し始めた。


「お団子にこだわらなくても、こねて曲げられるのであれば……固い飴でも別に良いよね」

「もんだいないよ! たのしいよ!」

「いがいなとくぎだね! いがいだね!」

「いいかんじ~」


 楽しそうに、様々な造形の飴細工を作って並べるイトカワちゃん。

 ご機嫌なのか、白い粒子がキラッキラだね。

 飴細工がその光を反射して、これがまた綺麗で。


「おもしろいね! おいしそうだね!」

「いろんなどうぶつ! たのしいね!」

「あたらしいおかしだね! あたらしいね!」


 そんなイトカワちゃんの飴細工を見に、妖精さんたちが集まってくる。

 今やこのテーブルは、飴細工展示場となっているね。


「お、これはすげえじゃん」

「あめでかたちをつくるとか、すてき」

「おれのじまんのねんどざいくは、ただのつちのかたまりだったのだ……」


 その評判を聞きつけたのか、エルフたちや他の方々も集まってきて。

 珍しそうな目で、イトカワちゃんの飴細工を眺めている。

 あとおっちゃんエルフが、対抗心からか粘土細工の展示を始めたけど。

 その粘土細工、夜中に動き出しそうですよ。モチーフは邪神?

 その蛇っぽい邪神像も、意外と観客ができている……。


 とまあ、邪神像展覧会は置いといて。

 イトカワちゃんに、飴細工は気に入ったか聞いてみよう。


「どうかな? 飴をこねこねまげまげするの、気に入った?」

「きにいったよ! あらたなかのうせい、みつけたよ!」

「それは良かった」

「ありがと! ありがと!」


 きゃいきゃいと喜びながらも、飴細工を作る手は止まらない。

 今まで小惑星しか作れなくて、コンプレックスを抱えていたイトカワちゃんだ。

 それが観客が出来る作品を作れるようになって、心底嬉しいみたいだね。


「どんどんつくるね! たくさんつくるね!」


 お次は大作に取りかかるのか、いくつもの飴をこね始めたね。

 その調子で、どんどん飴細工を作って下さいだ。


 ――――。


「つくりすぎました~」

「おかしたくさんだね! おいしそうだね!」

「きゃい~」


 調子こいたイトカワちゃん、おびただしい数の飴細工に囲まれ、満足そうな顔。

 確かに、作りすぎである。


「あや~、すごいかず、あるです~」

「それだけ、楽しかったのでしょうね」


 イトカワちゃんの作品には、村の動物や虫さんたちや、エルフたちや俺たちを模した飴細工も。

 色々な存在を、みんな飴細工にしていた。


「だいすきなもの、みんなつくったよ! つくったよ!」


 きゃいっきゃいでそうアピールする、イトカワちゃんだ。

 大好きなもの、みんな作った。

 なるほど、イトカワちゃん、みんな大好きなんだね。


「おかしだからね! たべて! たべて!」


 そうして、飴細工を配り始めるイトカワちゃん。

 集まった人たちに、自分の作品を食べて欲しいんだね。


「これは、食べるのが勿体ない感じだね」

「よくできてるです~」

「これは可愛いですね」


 俺たちも飴細工を貰ったけど、可愛らしくて食べるのが勿体ない。

 イトカワちゃんの才能が爆発した、素敵な飴細工だ。


「たべないの? たべないの?」


 まじまじと飴細工を眺めていると、イトカワちゃんちょっと心配そうな顔になった。

 これはいけないね。きっちり食べて、安心させてあげよう。


「いやね、あんまりに出来が良いから、ちょっと眺めたくなっちゃったんだ」

「またつくるからね! えんりょなくどうぞ! どうぞ!」


 せっかく作ったお菓子だから、食べて欲しい気持ちは分かる。

 ここはイトカワちゃんの言うとおり、遠慮無く食べましょう!


「じゃあ食べるね。頂きます」


 一口食べると、色んな飴の味が合わさって。

 甘くて酸っぱくて、さわやかな味がした。

 いろんな飴の味を考慮して、美味しくなるように組み合わせに気を遣った、そんな優しい味だった。


「これは美味しいね。色んな飴の味がして、優しくて楽しいお菓子だね」

「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」


 素直な味の感想を伝えると、きゃいっきゃいで喜ぶイトカワちゃんだ。

 そしてそんな俺とイトカワちゃんのやりとりを見て、ほかの人たちも飴を食べ始める。


「あや! これはおいしいです~」

「ちゃんと組み合わせに工夫がしてあって、良いですね」

「あまいわ~」

「あたらしいおやつとか、すてき」


 どうやら好評のようで、みんな味わってイトカワちゃんの飴細工を楽しむ。

 ちょうど良い、デザートになったみたいだね。


「これはおいしいね! おもしろいね!」

「はごたえばつぐんだね! あまいね!」


 アゲハちゃんもサクラちゃんも、飴細工を頭からマルカジリしてバリバリ食べているね。

 妖精さんたちは、飴は噛んじゃう派のようだ。


「きゃい~! きゃい~!」


 みんなに飴細工を褒められたのが嬉しいのか、イトカワちゃんは大はしゃぎで空を飛び始めた。

 白い粒子が降り注いで、なかなか美しい。

 イトカワちゃん、新しい道が見つかって、良かったね。


 ――さて、デザートも美味しく頂いた所で。

 祭りは終盤戦に突入だ。

 あとはゆっくり、お酒でも飲みながら過ごしましょう!

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