第十四話 イトカワちゃんのお悩み
祭りも後半戦に突入し、お料理大会が始まった。
「ほくほくさ~!」
「このほくほくおりょうり、おいしいさ~」
「たくさんたべるさ~」
お料理大会では、しっぽドワーフちゃんたちが大好きなじゃがいも料理も作られた。
今はしっぽをぱたぱた振って、それらの料理を堪能している。
「即興で献立を増やしてみたけど、良い感じだね」
「好評で良かったです」
「あたらしいおりょうり、おぼえたです~」
ドワーフちゃんたちにお料理を配膳しているユキちゃんも、ほくほく顔だね。
ハナちゃんも一緒にお料理したので、レパートリーが増えてほくほく顔だ。
「こっちのおりょうりも、もうすぐできるわ~」
「たのしみにしててね」
「たくさんつくるの」
お料理自慢の奥様方も、楽しそうに料理をしている。
分厚いお肉を慎重に焼いていたり、揚げ物を揚げたり。
ガスを使っている腕グキさんとステキさんは、なんと中華料理。
火力に物を言わせて、チャーハンを鮮やかに炒めている。
「……いつの間に中華料理を」
「野沢菜チャーハンを教えたら、他のも知りたいと言われまして」
「おりょうりやさんのエビチリ、とってもおいしいです~」
どうやらユキちゃんが中華料理を教えたようだけど、野沢菜チャーハンが切っ掛けだったのね。
ハナちゃん情報によると、エビチリまで提供しているとな。
俺の知らないうちに、あのお料理屋さんがどんどん本格的になってきているようだ。
「おかあさん、ぎょうざもやけたよ」
「うまくできたわね~」
おおう、餃子まで。ぱりっぱりの羽根が付いていて、しっかり焼けている。
二人とも、どんどん料理のレパートリーを増やしているみたいだね。
「あの二人も、専門家になってきたんだね」
「そうですね。もう、お料理で身を立てていけると思います」
「ふたりとも、がんばってるです~」
母子家庭で、色々苦労していたあの二人。
今や、手に職をつけて身を立てていけるようになった。
しかもこれは、特に行政組織の支援無しにだ。
ハナちゃんの提案から始まった、村初めての専門店。
しっかりと、地に足をつけて成長しているね。
「あのときのハナちゃんの提案、ちゃあんと育ったね」
「うまくいったです~」
ハナちゃんもにこにこ笑顔で、腕グキさんとステキさんを見守っている。
自分の提案が実を結んで、嬉しそうだね。
「これからも、誰かが幸せになるような提案、考えていこうね」
「あい~!」
「私も協力します」
イキイキと料理をする腕グキさん親子を見て、一つの成果を確認できて。
これからも村の運営を頑張っていこうと、確認できた時間だった。
◇
「それでは、ハナもおりょうりするですよ~」
「がんばってね」
「あい~!」
さて、お次はハナちゃんのお料理だ。
「おれのじまんのどき、じゅんびしといた」
「ありがとうです~」
おっちゃんエルフ自慢の土器を借りて、土器煮込みだね。
エルフ郷土料理のスープカレーが、ハナちゃんのお料理になるわけだ。
「おやさい、にこむです~」
そしていつの間にか点火され、土器と中の水が加熱されている……。
ハナちゃんの火起こし技、点火の瞬間が分からないレベル。
熟練しすぎでしょ……。
「トマト、ナスにくんせい、にんじんじゃがいも、にこむです~」
あっけにとられているうちに、ハナちゃんどんどん具材を投入していく。
ぽいぽいと土器に投入されるお野菜は、下ごしらえ済みだ。
「あじつけは~、ちょっとからくするですよ~」
謎の歌を歌いながら、ハナちゃんご機嫌で色んな食材を煮込んでいく。
慈姑っぽい食感のトゲトゲの枝、蛍光色に光るじゃがいもみたいな実も投入された。
これらは具材というより、実はスパイスの役目を果たしているっぽいな……。
そして謎の葉っぱ、見たことも無いハーブをぽいぽいと、土器に放り込んでいくね。
「タイシ、もうすぐできるです~」
「楽しみだね」
「もうちょっとです~」
うふうふと、ハナちゃんが進捗を教えてくれる。
だいたいの食材は下ごしらえ済みなので、そうそう長時間煮込むわけじゃないみたいだ。
だんだんとスープが琥珀色になってきて、良い感じだね。
「あとは、いいかおりをつけるです~」
仕上げに入ってきたのか、クミンとコリアンダーが投入された。
カレーのあの香りをつける、欠かせないスパイスだね。
ちたまの食材とエルフ食材を組み合わせた、二つの世界の架け橋となる料理。
ハナちゃんカレーは、そんな不思議な料理だ。
「いいかおりです~」
「美味しそうだね」
「あい~!」
そんなこんなで、ハナちゃんの土器煮込みは着々と完成に近づき。
固唾を飲んで見守る中、ハナちゃんがお玉でずずずっと味見をする。
「――できたです~!」
にぱっと笑顔で、完成の宣言が出ました。
出ちゃいました。
「タイシタイシ~、どうぞです~」
「ハナちゃんありがと」
「ユキもどうぞです~」
「ありがとね」
ハナちゃんうっきうきで、器によそってくれる。
お野菜たっぷり、良い香りのする琥珀色のスープ。
香りはまさにカレーで、ぐっと食欲をかき立てるね。
「それじゃあ、一緒に食べようか」
「あい~!」
「では、頂きます」
ハナちゃんきたいのまなざしで、俺が食べるのをまちわびる。
それじゃあ――頂きます!
野菜の旨味に、トマトの酸味。スープの辛みに、エルフ燻製の甘み。
複雑に絡み合ったこれらの旨味が、刺激的なスパイスの味によって統一される。
ただ辛いだけでは無い。甘みも辛みも、酸味も苦みも全て受け入れた、深みのあるスープ。
とろみはなくサラサラで、でも口の中に濃厚なコクが残る。
そんな濃厚なスープをたっぷり吸った、じゃがいもやナス、そしてにんじんが様々な食感を与えてくれて、噛むごとに色んな味がしみ出す。
特にエルフ燻製が、燻製独特のスモーキーな香りと共に舌の上でとろけて、絶品だ。
二口目はご飯と一緒に食べてみる。
スプーンにご飯をのせて、この濃厚なカレースープに浸す。
たちまちご飯がスプーンの上でほどけて、たっぷりスープが絡んで。
スープでひたひたになったご飯を口に入れると――ご飯の淡白な甘みが、辛めのスープにより深みを与えてくれる。
濃厚なスープがご飯の淡白さを包み込み、カレーの味が一気に広がる。
これは美味しいね。以前のハナちゃんスープカレーより、深みがずっと増している。
「ハナちゃん、また美味しくなったね。深みがあるよ」
「うふ~」
「あ、本当ですね。お野菜の出汁がとっても良く出ています」
「ぐふふ~」
ハナちゃんも一口食べて、出来映えにご満悦だ。
スプーンをくわえたまま、あっという間にぐにゃっている。
「美味しそうな匂いだね。ハナ、僕も食べて良いかな」
「わたしもたべるわ」
「あい~!」
ヤナさんとカナさんも参加して、ハナちゃんスープカレーのお食事会だ。
「わきゃ~、いいにおいさ~」
「これも、たべていいさ~」
「どうぞです~!」
カレーの香りに誘われて、しっぽちゃんたちもやってきた。
ハナちゃんご機嫌で、カレーを配っているね。
「わきゃ! ふしぎなあじがするさ~!」
「おいしいさ~」
「こんなおりょうり、はじめてさ~!」
しっぽちゃんたちはカレーの味が初めてらしく、わきゃわきゃと大はしゃぎだね。
お代わりを貰っている所を見ると、美味しかったようだけど。
「あら、それおいしそうね~」
「ひとくちいいかしら」
「おいしそうだね! おいしそうだね!」
「どうぞです~!」
やがて他の方々もハナちゃんカレーを貰いに来て、大人気メニューになった。
たくさん作ってあったカレーが、見る間に減っていく。
「ハナちゃんのカレー、大人気だね」
「ぐふふ~、ぐふふ~」
「ご飯が進みますね」
自分のカレーが大人気で、ハナちゃんご機嫌だ。
ぐんにゃり度も拍車がかかって、自立不可能状態だね。
「ハナちゃん、お料理どんどん上手になってるね」
「ぐふ~」
もうぐふぐふとしか言わなくなっているハナちゃんけど、ご機嫌でなによりだ。
お祭り後半戦、出だしは快調だね。
この調子で、のんびりお祭りを進めていこう。
「じゃあハナちゃん、もう少ししたら他のお料理も食べて回ろうね」
「ぐふ~」
……ハナちゃんが復活するまで、しばらく時間がかかりそうだ。
◇
「それじゃあ次は、お魚食べてみようか」
「あい~!」
「ドワーフさんたちの所で、焼いているみたいですね」
三十分くらいでようやくハナちゃんが復活したので、巡回がてらお料理を食べに回ることにした。
まずは、ドワーフちゃんたちの所でお魚料理を食べてみよう。
ということで、わきゃわきゃと賑やかな一角へと足を運ぶ。
「ごうかな、やきざかなさ~!」
「おさかな! おさかなさ~!」
果たしてそこでは、ドワーフちゃんたちがお魚の味噌漬けをしっぽふりふりで食べていた。
楽しみにしていた料理だけに、テンションMAXだね。
「みんな、お魚の味噌漬けは気に入ったかな?」
「さいこうさ~!」
「あじがこくて、おいしいさ~!」
「おさけ、すすむさ~!」
話しかけてみると、ドワーフちゃんたちはわっきゃわきゃで答えてくれた。
……スピリタスを飲みながら、川魚の味噌漬け焼きをおつまみにしているね。
納豆も人気のおつまみのようで、みんなご機嫌だ。
「これだけでも、おさけがすすむさ~」
「おみそ、しょっぱくていいさ~」
「いくらでも、のめちゃうさ~」
さらに、味噌だけをおつまみにしている子も。
香りの強いおつまみを、スピリタスでさっぱりさせる。
そんな飲み方なんだろうか?
まあ、美味しく飲めているならそれで良いか。
それじゃ、俺たちもお魚を頂こう。
「自分たちも、お魚を食べて良いかな?」
「もちろんさ~。いま、おいしくやくさ~」
「ちょっとまっててほしいさ~」
どうやら焼きたてを食べさせてくれるらしく、いそいそと七輪で焼き始めた。
……あれ? 七輪の使い方教えて無いんだけど。
「みんな、その道具の使い方、良くわかったね」
「キバのあるひとから、おそわってたさ~」
「みずうみにひっこしたとき、いろいろおしえてくれたさ~」
「ありがたいさ~」
……キバのある人? ああ、リザードマンか。
どうやら、湖に仮設住宅を設置した後、なにくれとなく面倒を見てくれていたらしい。
あとでリザードマンたちには、お礼をしておかないとね。
「あの人たちも水が得意だから、色々気が合うかもね」
「おさかながたくさんとれるところ、あんないしてくれたさ~」
「なかよしさ~」
聞くところによると、ドワーフちゃんたちとリザードマンたち、けっこう交流が盛んぽいね。
水棲で暮らしている同士、気が合うんだろう。
この調子で、仲良く過ごして貰えるとありがたい。
そして俺も、ドワーフちゃんたちの生活をきっちりサポートしてあげないとね。
「何か困ったことや必要な物があったら、遠慮無く言ってね」
「ありがたいさ~」
「たすかるさ~」
ぱたぱたとしっぽを振って、感謝の意を伝えてくるドワーフちゃんたちだ。
もうすっかり、こちらを信頼してくれているね。
この信頼を裏切らないよう、しっかりやっていこう。
◇
「おさかな、おいしかったです~」
「良い焼き加減だったね」
「ドワーフさんたち、ずいぶんくだけて来て良かったです」
しっぽドワーフちゃんたちから、お魚をご馳走になって。
ほくほく顔でお腹もいっぱいだ。
それじゃあ次は、デザートとしゃれ込もう。
「次は甘い物とかどう?」
「いいかもです~」
「では、妖精さんたちのところですね」
甘い物と言えば、妖精さん。
というわけで、桜がたくさん咲いている一角へと足を運ぶ。
すると、そこでは……。
「おだんごおいしいね! おいしいね!」
「どんどんおたべ~」
「すごいしょくよくだね! すごいね!」
アゲハちゃんが、相変わらずお団子を高速で消費していた。
まわりの妖精さんがお団子を量産し、アゲハちゃんが消費しまくる。
この子、どんだけ大食らいなの……。
「あの体のどこに、あんなに食べ物が入るのでしょうか……」
「すごくたべてるです~」
ユキちゃん、アゲハちゃんを見て首を傾げる。
明らかに体の大きさから想定される容量を、かなり上回る量食べているからね。
でもまあ、このからくりは、俺ならわかっちゃったりする。
アゲハちゃんの羽根を見ると、妖精パワーの流れに特徴があるからだ。
この辺ちょっと、説明しておこう。
「あの子、食べたそばから妖精パワーに変換しているんだ。だから、理論上はいくらでも食べられるかもね」
アゲハちゃんの羽根をよく見ると、食べているとき常に妖精パワーを循環させている。
食事によって得たエネルギーを即座に謎パワーに変換し、エネルギーとして貯蔵しているぽい。
だからこそ、衛星フェアリンを一周するくらいの力があるのかなと思う。
たくさん食べて、力をたくさん蓄えられる。そんな特技をもった子なんだろう。
「わあ……いくらでも食べられるなんて、夢のような話ですね……」
「あや~、たいへんそうです~」
俺の話を聞いて、ユキちゃんとハナちゃんはそれぞれの反応を示した。
基本はちたまの存在であるユキちゃんは、別腹というものは無いわけだ。
お太りあそばされる懸念が常にあるだけに、いくらでも食べられるというのはあこがれなんだろう。
そしてハナちゃんは、大変そうという感想を述べた。
食料が限られている生活をしてきただけに、ユキちゃんとは正反対の反応だね。
いくらでも食べられるというのは、常に飢えと背中合わせでもある。
実際去年の今頃は、お腹を空かせて灰色の森をさまよっていたわけだ。
色々思うところは、あるんだろうな。
……そんなハナちゃんの意見を聞いて、俺もちょっと気づいたことがある。
なぜアゲハちゃんが、お団子を求めて衛星フェアリンを飛び回っているのか。
これはもしかして……大食らいだから、一カ所に留まれないのでは無いだろうか。
大自然の恵みは、採取すると回復を待つ必要がある。
しかしアゲハちゃんの消費量では……その回復まで、待つことが難しいのでは?
だからこそ、フェアリンを飛び回って、食べ物があるところを転々とする必要がある。
大きな力を維持するには、それだけたくさんの何かが必要で。
力強くて陽気なアゲハちゃんだけど、色々大変なのかもしれないな。
「……たくさん食べて、お腹いっぱいにしてね」
「ありがと! ありがと!」
「た~んとおたべ~」
「しっぱいしたやつ~……」
サクラちゃんもイトカワちゃんも、そんなアゲハちゃんの状況を分かっているのかもしれない。
次々にお団子をあげて、食べさせている。
……イトカワちゃんのは、小惑星形状のやつしかないんだけど。
イトカワちゃんの成功作、そういや見たこと無いな……。
「――!? たまにだよ! たま~にしっぱいするだけ~!」
小惑星お団子を微妙な表情で見ていると、イトカワちゃんに感づかれた。
しきりに「たまに失敗するだけ」アピールを開始する。
さよかさよか。
「いっつもこれだよね? これだよね?」
「まるいやつ、みたことない? みたことない?」
「きゃ、きゃい~……」
そんなイトカワちゃんに、アゲハちゃんとサクラちゃんがとどめをさす。
……やっぱり、いっつもこれなんだ。
イトカワちゃん、秘密? を暴露されてガックシ。
妖精さんのプライド的に、譲れない物があったらしいけど……。
「ま、まあ、曲げる事に関しては一番だからね。そこを誇りにしていこう」
「きゃい~! そうだよね! そうだよね!」
フォローすると、速攻機嫌を取り戻すイトカワちゃんだ。
わりとチョロい、チョロフェアリーである。
でも、ご機嫌な所悪いけど、また小惑星作ってるね……。
丸くこねるのは、やっぱり苦手なようで。
…………。
いや、まてよ? お団子にこだわる必要、無いんじゃないか?
イトカワちゃんは、こねるのは苦手だけど、曲げるのは得意で。
それなら、曲げを活かしたお菓子作りをすれば、良いのでは?
そして曲げを活かすお菓子となれば、一つよさげな物があるな……。
「あえ? タイシなにかおもいついたです?」
「楽しそうな顔になってますね」
ぐふぐふとプランを練っていると、ハナちゃんとユキちゃんも興味がわいたようだ。
ニコニコとこちらを見上げている。
二人にも相談して、イトカワちゃんの新たな可能性を、探してみよう。
「ちょっと、おもしろい菓子作りを試してみようと思ってね」
「あえ? おもしろいおかしです?」
「それ、興味がありますね」
おもしろいお菓子作りと言うと、ハナちゃんもユキちゃんも興味津々だ。
これはすぐ出来るやつだから、結果もすぐに分かるだろう。
ふふふ、イトカワちゃん。
君の新しい可能性、見せて貰おうじゃ無いか。
◇
「どんどんまげるね! まげちゃうよ!」
「きれいなかたちだね! きれいだね!」
「おもしろいね! ちょうちょさんだね!」
今、イトカワちゃんの周りには、たくさんの――飴細工があった。
イトカワちゃんは、ご機嫌で様々な造形の飴細工を作っている。
妖精さんは、色んな物をこねられる。
飴を加熱せずにこねることも可能で、固いキャンディーをぐにぐにこねてしまうことが可能だった。
であるならば、飴細工とかイトカワちゃんにぴったりだと思ったわけだ。
「わあ、これはフクロイヌですね」
「じょうずにできてるです~」
果たして目論見は当たり、イトカワちゃんはご機嫌で飴をこね、飴を曲げて。
そして、様々な飴細工を生み出し始めた。
「お団子にこだわらなくても、こねて曲げられるのであれば……固い飴でも別に良いよね」
「もんだいないよ! たのしいよ!」
「いがいなとくぎだね! いがいだね!」
「いいかんじ~」
楽しそうに、様々な造形の飴細工を作って並べるイトカワちゃん。
ご機嫌なのか、白い粒子がキラッキラだね。
飴細工がその光を反射して、これがまた綺麗で。
「おもしろいね! おいしそうだね!」
「いろんなどうぶつ! たのしいね!」
「あたらしいおかしだね! あたらしいね!」
そんなイトカワちゃんの飴細工を見に、妖精さんたちが集まってくる。
今やこのテーブルは、飴細工展示場となっているね。
「お、これはすげえじゃん」
「あめでかたちをつくるとか、すてき」
「おれのじまんのねんどざいくは、ただのつちのかたまりだったのだ……」
その評判を聞きつけたのか、エルフたちや他の方々も集まってきて。
珍しそうな目で、イトカワちゃんの飴細工を眺めている。
あとおっちゃんエルフが、対抗心からか粘土細工の展示を始めたけど。
その粘土細工、夜中に動き出しそうですよ。モチーフは邪神?
その蛇っぽい邪神像も、意外と観客ができている……。
とまあ、邪神像展覧会は置いといて。
イトカワちゃんに、飴細工は気に入ったか聞いてみよう。
「どうかな? 飴をこねこねまげまげするの、気に入った?」
「きにいったよ! あらたなかのうせい、みつけたよ!」
「それは良かった」
「ありがと! ありがと!」
きゃいきゃいと喜びながらも、飴細工を作る手は止まらない。
今まで小惑星しか作れなくて、コンプレックスを抱えていたイトカワちゃんだ。
それが観客が出来る作品を作れるようになって、心底嬉しいみたいだね。
「どんどんつくるね! たくさんつくるね!」
お次は大作に取りかかるのか、いくつもの飴をこね始めたね。
その調子で、どんどん飴細工を作って下さいだ。
――――。
「つくりすぎました~」
「おかしたくさんだね! おいしそうだね!」
「きゃい~」
調子こいたイトカワちゃん、おびただしい数の飴細工に囲まれ、満足そうな顔。
確かに、作りすぎである。
「あや~、すごいかず、あるです~」
「それだけ、楽しかったのでしょうね」
イトカワちゃんの作品には、村の動物や虫さんたちや、エルフたちや俺たちを模した飴細工も。
色々な存在を、みんな飴細工にしていた。
「だいすきなもの、みんなつくったよ! つくったよ!」
きゃいっきゃいでそうアピールする、イトカワちゃんだ。
大好きなもの、みんな作った。
なるほど、イトカワちゃん、みんな大好きなんだね。
「おかしだからね! たべて! たべて!」
そうして、飴細工を配り始めるイトカワちゃん。
集まった人たちに、自分の作品を食べて欲しいんだね。
「これは、食べるのが勿体ない感じだね」
「よくできてるです~」
「これは可愛いですね」
俺たちも飴細工を貰ったけど、可愛らしくて食べるのが勿体ない。
イトカワちゃんの才能が爆発した、素敵な飴細工だ。
「たべないの? たべないの?」
まじまじと飴細工を眺めていると、イトカワちゃんちょっと心配そうな顔になった。
これはいけないね。きっちり食べて、安心させてあげよう。
「いやね、あんまりに出来が良いから、ちょっと眺めたくなっちゃったんだ」
「またつくるからね! えんりょなくどうぞ! どうぞ!」
せっかく作ったお菓子だから、食べて欲しい気持ちは分かる。
ここはイトカワちゃんの言うとおり、遠慮無く食べましょう!
「じゃあ食べるね。頂きます」
一口食べると、色んな飴の味が合わさって。
甘くて酸っぱくて、さわやかな味がした。
いろんな飴の味を考慮して、美味しくなるように組み合わせに気を遣った、そんな優しい味だった。
「これは美味しいね。色んな飴の味がして、優しくて楽しいお菓子だね」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
素直な味の感想を伝えると、きゃいっきゃいで喜ぶイトカワちゃんだ。
そしてそんな俺とイトカワちゃんのやりとりを見て、ほかの人たちも飴を食べ始める。
「あや! これはおいしいです~」
「ちゃんと組み合わせに工夫がしてあって、良いですね」
「あまいわ~」
「あたらしいおやつとか、すてき」
どうやら好評のようで、みんな味わってイトカワちゃんの飴細工を楽しむ。
ちょうど良い、デザートになったみたいだね。
「これはおいしいね! おもしろいね!」
「はごたえばつぐんだね! あまいね!」
アゲハちゃんもサクラちゃんも、飴細工を頭からマルカジリしてバリバリ食べているね。
妖精さんたちは、飴は噛んじゃう派のようだ。
「きゃい~! きゃい~!」
みんなに飴細工を褒められたのが嬉しいのか、イトカワちゃんは大はしゃぎで空を飛び始めた。
白い粒子が降り注いで、なかなか美しい。
イトカワちゃん、新しい道が見つかって、良かったね。
――さて、デザートも美味しく頂いた所で。
祭りは終盤戦に突入だ。
あとはゆっくり、お酒でも飲みながら過ごしましょう!




